JP2005030853A - 被膜の特性を鑑別する方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】水溶性高分子を含む溶液または分散液を塗布することにより形成される膜の保水性などを鑑別する方法を提供すること。
【解決手段】水溶性高分子を含む溶液または分散液の第二ビリアル係数を指標として、前記溶液または分散液を塗布することにより形成される被膜の保水性などを鑑別する方法であって、特に、前記第二ビリアル係数を光散乱法によって算出する方法。
【選択図】 図1
【解決手段】水溶性高分子を含む溶液または分散液の第二ビリアル係数を指標として、前記溶液または分散液を塗布することにより形成される被膜の保水性などを鑑別する方法であって、特に、前記第二ビリアル係数を光散乱法によって算出する方法。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水溶性高分子を含む溶液または分散液(化粧料を含む)を被塗布面に塗布することにより形成される被膜の、保水性もしくは均一性、またはそれらの両方を鑑別する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
水溶性高分子は、化粧料の系を増粘させ、乳化系もしくは分散系を安定化させる目的で、また、水分の経皮的散逸を防ぐ保湿の目的などで、化粧料中に配合されている。すなわち、水溶性高分子を含む化粧料が皮膚などに塗布されると、皮膚などの表面に被膜(以下「化粧膜」ともいう)が形成され、該化粧膜が、吸収した外的環境中の水分を保持することにより、皮膚を保湿する作用を発揮する。
【0003】
しかしながら、水溶性高分子を含む化粧料は、同じ原料を使用しながら、異なった製造工程によって製造されると、保湿作用を含む特性が、まったく異なることがある。このように化粧料の特性が異なる一因として考えられるのは、化粧料に含まれる水溶性高分子の溶解状態が製造工程によって異なり、その結果、塗布することにより形成される化粧膜の保水性などが異なるためであることがあげられる。
【0004】
したがって、化粧料に含まれる水溶性高分子の溶解状態と、形成される化粧膜の保水性などとの関連性に関する知見を明らかにして、溶解状態を指標として化粧膜の保水性などを鑑別する方法を見出すことができれば、その鑑別方法は、保水性の高い化粧膜を形成することができる化粧料を製造する上で、重要な方法となり得る。
【0005】
一方、高分子の溶解状態を分析または評価する手段としては、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、高分子の共重合体の組成分布を測定する方法(例えば、特許文献1、特許文献2参照)などが知られている。しかし、これらの手段によって、化粧料のような、多種類の類似の水溶性高分子が混在する複雑系に含まれる高分子の溶解状態を分析または評価することは至難の業であるといえる。そのために、これらの手段によって、多数の同類の成分が混在する複雑系である化粧料に含まれる水溶性高分子の溶解状態を分析または評価しようとする試みはほとんど行われてこなかった。
【0006】
他方、高分子分散液に関するコロイド科学の分野で、分散液中の高分子の溶解状態と関連付けられる、「第二ビリアル係数」という概念が知られている。ここで第二ビリアル係数とは、溶質分子間の相互作用に関連付けられる数値であって、溶質の溶解状態を表す指標となる。該第二ビリアル係数を求める方法は、光散乱の測定から求める方法の他、沸点上昇、浸透圧、沈降平衡の濃度変化などの測定から求める方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
さらに、被膜を形成する、高分子を含む塗装液の第二ビリアル係数と、形成される被膜(塗装膜)の一定の特性との関連性が知られている(例えば特許文献3、特許文献4参照)。しかしながら、水溶性高分子を含む溶液の第二ビリアル係数と、該溶液を塗布することにより形成される被膜の保水性または均一性との関連性は知られていない。すなわち、水溶性高分子を含む化粧料の第二ビリアル係数の大きさと、塗布後に形成される化粧膜の保水性または均一性との関係もまったく知られていない。
【0008】
【特許文献1】
特開平9−196905号公報
【特許文献2】
特開平10−298247号公報
【特許文献3】
特開2003−39458号公報
【特許文献4】
特開平8−168718号公報
【非特許文献1】
「Introduction Polymers」(R.J.Yong&P.A.Lobell著、ロンドンChapman&Hall出版、1991年)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、化粧料のような、複雑系の溶液に存在する水溶性高分子の溶解状態の分析または評価に基づいて、該溶液の塗布により形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはその両方を鑑別する方法を提供する。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、化粧料のような、複雑系の溶液の塗布により形成される被膜の保水性などを鑑別することができる方法を求めて鋭意研究努力した結果、水溶性高分子を含む溶液または分散液の第二ビリアル係数の大きさと、該溶液の塗布により形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方とが、関連性を有することを見出した。本発明はそのような知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
(1) 水溶性高分子を含む溶液または分散液の第二ビリアル係数を指標として、該溶液または分散液を塗布することにより形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方を鑑別する方法。
(2) 前記第二ビリアル係数は、光散乱法により測定されることを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3) 前記溶液または分散液は、化粧料である、(1)または(2)に記載の方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明に係る、水溶性高分子を含む溶液または分散液を塗布することにより形成される被膜(以下「被膜」ともいう)の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方を鑑別する方法(以下「本発明に係る鑑別方法」ともいう)は、該水溶性高分子の溶解状態、具体的には、該溶液または分散液の第二ビリアル係数を指標とすることを特徴とする。ここで、第二ビリアル係数とは、溶液の浸透圧Πを重量濃度C(g・cm−3)のべき級数の形に表したときの展開式
【0013】
【数1】
Π/RT=(C/M)+A2C2+A3C3+・・・
(Tは絶対温度、Rは気体定数、Mはモル質量である)
【0014】
の第二項の係数A2を意味する。第二ビリアル係数は、溶液または分散液に含まれる高分子の物理的な状態の違いによって異なる値を示す数値であり、溶質分子間の相互作用、および高分子と溶媒分子との相互作用の大きさを表す指標である。
【0015】
本発明に係る鑑別方法において、指標となる第二ビリアル係数は、任意の方法によって算出することができる。第二ビリアル係数を算出する方法に関する詳細については、前記非特許文献1に記載されており、それに準じて算出することができる。本発明に係る鑑別方法において、第二ビリアル係数の好ましい算出方法は、光散乱の測定により算出する方法(光散乱法)である。さらに好ましい第二ビリアル係数の算出方法は、光散乱法のうち、多角度光散乱検出器を用いて異なる角度からの光散乱強度を測定し、それに基づいてジムプロットを作図して算出する方法である。かかる多角度光散乱検出器としては、市販されている、Wyatt社製のDAWN EOSを好ましく例示することができる。
【0016】
本発明に係る鑑別方法において、鑑別対象である被膜の保水性とは、被膜が吸収した水分を乾燥させることなく保持する性質を意味し、被膜の均一性とは、形成された被膜の表面の形状がムラのない平坦である程度を意味する。
【0017】
本発明において水溶性高分子とは、水に溶解性のある任意の高分子であれば、アニオン性、カチオン性、非イオン性、または両性の高分子でもよい。水溶性高分子の種類としては、天然系増粘多糖類、または合成系有機高分子が挙げられる。好ましくは化粧料に配合することができる水溶性高分子である。本発明において水溶性高分子は、1種または複数種の水溶性高分子を含む。
【0018】
本発明における、水溶性高分子を含む溶液または分散液を構成する溶媒は、水性媒体であることが好ましい。水性媒体としては、水を含む溶媒であれば任意の媒体でありうるが、リン酸緩衝液を含む緩衝液などが好ましく例示できる。
【0019】
本発明において、水溶性高分子を含む溶液または分散液は、水溶性高分子を含む化粧料でありうる。化粧料は、基礎化粧料、メークアップ化粧料、洗浄用化粧料、毛髪用の化粧料、爪用の化粧料、およびマッサージ化粧料を含む。
【0020】
本発明において「溶液または分散液を被塗布面に塗布する」とは、被膜が形成される限り、どのような方法でもよい。例えば、塗りつけること、噴霧すること、キャストすることなどが含まれる。
【0021】
本発明に係る鑑別方法は、水溶性高分子を含む溶液または分散液を塗布することにより形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方の鑑別に用いることができる。すなわち、該溶液または分散液の第二ビリアル係数を測定し、その数値が大きいほど、形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方が高いと鑑別することができる。
【0022】
好ましくは、本発明に係る鑑別方法は、水溶性高分子を含む化粧料の化粧膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方の鑑別に用いることができる。すなわち、該化粧料の第二ビリアル係数が大きいほど、形成される化粧膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方が高いと鑑別することができる。このことは、第二ビリアル係数が大きい化粧料ほど、その化粧料の保湿作用が優れていると評価することを含む。
【0023】
このように、第二ビリアル係数が大きいほど、形成される被膜の保水性が高くなる原因としては、第二ビリアル係数が高い状態では、水溶性高分子の極性基が外側に向いた状態になり、その結果、形成された被膜の表面に極性基が局在し、被膜と水との相互作用が強くなり、被膜の保水性が高まったためであると考えることもできるが、必ずしもその原因は明らかではない。いずれにしても、下記の実施例のデータから、水溶性高分子を含む溶液の第二ビリアル係数が高いと、被膜の保水性および均一性が向上することが示されている。
【0024】
本発明の鑑別方法を用いることにより、化粧膜の保水性または均一性を制御することができる。すなわち、第二ビリアル係数は、例えば、水溶性高分子の溶媒への配合手法、溶媒の種類、溶媒のpH、または化粧料に含まれる塩の種類もしくはその濃度などにより変化すると考えられ、これらの条件を適宜選択して、より高い第二ビリアル係数を示す化粧料を製造することで、より保水性もしくは均一性、またはそれらの両方の高い化粧膜を形成する化粧料を得ることができる。
【0025】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明が、かかる実施例にのみに限定されないことは言うまでもない。
【0026】
水溶性高分子として4種類の化粧料用の高分子(ヒアルロン酸ナトリウム、ポリグルコシルオキシエチルメタクリレート、ポリメタクリロイル−L−リジン、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)を用いた。各水溶性高分子の物性を下に記載した。
【0027】
ヒアルロン酸ナトリウム(HANa):
アニオン性高分子、平均分子量約140万
ポリグルコシルオキシエチルメタクリレート(GEMA):
非イオン性高分子、平均分子量約30万
ポリメタクリロイル−L−リジン(PML):
カチオン性高分子、平均分子量約20万
ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC):
両性高分子、平均分子量約17万
【0028】
各水溶性高分子について、リン酸緩衝液を用いて、pH=4,7,および9に調製された高分子溶液を調製した。いずれの溶液の高分子濃度も10mmol/Lとした。
【0029】
上記調製した各高分子溶液の光散乱を、多角度光散乱検出器により測定し、ジムプロットを作図することにより、各溶液の第二ビリアル係数(A2;mol・mL/g2)、及び各溶液中の水溶性高分子の分子サイズ(Rz;nm)を求めた。
【0030】
各溶液10mlをガラス板上にキャストし、湿度30%、40℃の恒湿恒温の条件下で24時間保存し、キャスト膜を形成させた。さらに、このキャスト膜を湿度80%、40℃の条件下で24時間保存した後、重量Aを測定した。しかる後、もう一度湿度30%、40℃の恒湿恒温の条件下で24時間保存して、重量Bを測定した。さらに、これを80℃で24時間保存し、水分含有量を極限にまで減らした状態で重量Cを測定した。
【0031】
本明細書中で「吸水率」と称される、高湿度条件下において、膜の自重に対して、膜が吸収した水分重量の割合を、下記式
吸水率 = 100×{(重量A−重量C)/重量C}
により求めた。
【0032】
また、本明細書中で「保水率」と称される、低湿度条件下において、膜の自重に対して、膜が保持した水分重量の割合を、下記式
保水率 = 100×{(重量B−重量C)/重量C}
により求めた。
【0033】
さらに、本明細書中で「保水性」と称される、膜が吸収した水分重量に対して、低湿度条件下において膜が保持した水分重量の割合を、下記式
保水性 = 100×保水率/吸水率
により求めた。
【0034】
さらに、ガラス板上に形成されたキャスト膜の膜表面の形状を、肉眼観察およびSEM観察して、その均一性(ムラがなく平坦であることを意味する)について評価をした。その観察結果を図面1〜4に示した。図1はヒアルロン酸ナトリウム、図2はポリグルコシルオキシエチルメタクリレート、図3はポリメタクリロイル−L−リジン、図4はポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンについての観察結果を、それぞれ示した。
【0035】
このようにして得られた、それぞれの高分子の溶液についての各pHにおける第二ビリアル係数(A2)、分子サイズ(Rz)、吸水率、保水率および保水性の値を、表1〜4に示した。表1はヒアルロン酸ナトリウム、表2はポリグルコシルオキシエチルメタクリレート、表3はポリメタクリロイル−L−リジン、表4はポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンについての結果を、それぞれ示した。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
表1〜4において、ビリアル係数、保水率および保水性のそれぞれについて、最も数値の高いものを○、中間の数値のものを△、最も数値の低いものを×として、表5〜8に示した(表5,表6,表7,表8は、それぞれ表1,表2,表3,表4に対応する)。また、膜形状について、最も均一性の高いものを○、中間のものを△、最も均一性の低いものを×として、表5〜8にあわせて示した。
【0041】
【表5】
【0042】
【表6】
【0043】
【表7】
【0044】
【表8】
【0045】
表5〜8は、第二ビリアル係数が高いと、膜の保水率および保水性の値が大きくなることを明らかにし、さらに、第二ビリアル係数が高くなると、膜の均一性が向上することを明らかにした。
【0046】
このように、水溶性高分子の溶液の第二ビリアル係数を指標として、該溶液を塗布することにより形成される被膜の保水性、および均一性を鑑別することができることが明らかになった。つまり、溶液の第二ビリアル係数が高いと、形成される被膜の保水性、および均一性が高いと鑑別することができることが明らかになった。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、水溶性高分子を含む溶液または分散液の第二ビリアル係数を指標として、被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方を鑑別する方法を提供することができる。特に、水溶性高分子を含む化粧料のような、複雑系の溶液または分散液を塗布することにより形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方を鑑別する方法を提供することができ、本方法を化粧料の製造に適用すれば、優れた保湿性を有する化粧料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】pH4、7、または9のヒアルロン酸ナトリウム(HANa)溶液の、それぞれのキャスト膜の膜表面の形状の肉眼観察およびSEM観察の写真である。
【図2】pH4、7、または9のポリグリコシルオキシエチルメタクリレート(GEMA)溶液の、それぞれのキャスト膜の膜表面の形状の肉眼観察およびSEM観察の写真である。
【図3】pH4、7、または9のポリメタクリロイル−L−リジン(PML)溶液の、それぞれのキャスト膜の膜表面の形状の肉眼観察およびSEM観察の写真である。
【図4】pH4、7、または9のポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)溶液の、それぞれのキャスト膜の膜表面の形状の肉眼観察およびSEM観察の写真である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、水溶性高分子を含む溶液または分散液(化粧料を含む)を被塗布面に塗布することにより形成される被膜の、保水性もしくは均一性、またはそれらの両方を鑑別する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
水溶性高分子は、化粧料の系を増粘させ、乳化系もしくは分散系を安定化させる目的で、また、水分の経皮的散逸を防ぐ保湿の目的などで、化粧料中に配合されている。すなわち、水溶性高分子を含む化粧料が皮膚などに塗布されると、皮膚などの表面に被膜(以下「化粧膜」ともいう)が形成され、該化粧膜が、吸収した外的環境中の水分を保持することにより、皮膚を保湿する作用を発揮する。
【0003】
しかしながら、水溶性高分子を含む化粧料は、同じ原料を使用しながら、異なった製造工程によって製造されると、保湿作用を含む特性が、まったく異なることがある。このように化粧料の特性が異なる一因として考えられるのは、化粧料に含まれる水溶性高分子の溶解状態が製造工程によって異なり、その結果、塗布することにより形成される化粧膜の保水性などが異なるためであることがあげられる。
【0004】
したがって、化粧料に含まれる水溶性高分子の溶解状態と、形成される化粧膜の保水性などとの関連性に関する知見を明らかにして、溶解状態を指標として化粧膜の保水性などを鑑別する方法を見出すことができれば、その鑑別方法は、保水性の高い化粧膜を形成することができる化粧料を製造する上で、重要な方法となり得る。
【0005】
一方、高分子の溶解状態を分析または評価する手段としては、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、高分子の共重合体の組成分布を測定する方法(例えば、特許文献1、特許文献2参照)などが知られている。しかし、これらの手段によって、化粧料のような、多種類の類似の水溶性高分子が混在する複雑系に含まれる高分子の溶解状態を分析または評価することは至難の業であるといえる。そのために、これらの手段によって、多数の同類の成分が混在する複雑系である化粧料に含まれる水溶性高分子の溶解状態を分析または評価しようとする試みはほとんど行われてこなかった。
【0006】
他方、高分子分散液に関するコロイド科学の分野で、分散液中の高分子の溶解状態と関連付けられる、「第二ビリアル係数」という概念が知られている。ここで第二ビリアル係数とは、溶質分子間の相互作用に関連付けられる数値であって、溶質の溶解状態を表す指標となる。該第二ビリアル係数を求める方法は、光散乱の測定から求める方法の他、沸点上昇、浸透圧、沈降平衡の濃度変化などの測定から求める方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
さらに、被膜を形成する、高分子を含む塗装液の第二ビリアル係数と、形成される被膜(塗装膜)の一定の特性との関連性が知られている(例えば特許文献3、特許文献4参照)。しかしながら、水溶性高分子を含む溶液の第二ビリアル係数と、該溶液を塗布することにより形成される被膜の保水性または均一性との関連性は知られていない。すなわち、水溶性高分子を含む化粧料の第二ビリアル係数の大きさと、塗布後に形成される化粧膜の保水性または均一性との関係もまったく知られていない。
【0008】
【特許文献1】
特開平9−196905号公報
【特許文献2】
特開平10−298247号公報
【特許文献3】
特開2003−39458号公報
【特許文献4】
特開平8−168718号公報
【非特許文献1】
「Introduction Polymers」(R.J.Yong&P.A.Lobell著、ロンドンChapman&Hall出版、1991年)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、化粧料のような、複雑系の溶液に存在する水溶性高分子の溶解状態の分析または評価に基づいて、該溶液の塗布により形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはその両方を鑑別する方法を提供する。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、化粧料のような、複雑系の溶液の塗布により形成される被膜の保水性などを鑑別することができる方法を求めて鋭意研究努力した結果、水溶性高分子を含む溶液または分散液の第二ビリアル係数の大きさと、該溶液の塗布により形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方とが、関連性を有することを見出した。本発明はそのような知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
(1) 水溶性高分子を含む溶液または分散液の第二ビリアル係数を指標として、該溶液または分散液を塗布することにより形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方を鑑別する方法。
(2) 前記第二ビリアル係数は、光散乱法により測定されることを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3) 前記溶液または分散液は、化粧料である、(1)または(2)に記載の方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明に係る、水溶性高分子を含む溶液または分散液を塗布することにより形成される被膜(以下「被膜」ともいう)の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方を鑑別する方法(以下「本発明に係る鑑別方法」ともいう)は、該水溶性高分子の溶解状態、具体的には、該溶液または分散液の第二ビリアル係数を指標とすることを特徴とする。ここで、第二ビリアル係数とは、溶液の浸透圧Πを重量濃度C(g・cm−3)のべき級数の形に表したときの展開式
【0013】
【数1】
Π/RT=(C/M)+A2C2+A3C3+・・・
(Tは絶対温度、Rは気体定数、Mはモル質量である)
【0014】
の第二項の係数A2を意味する。第二ビリアル係数は、溶液または分散液に含まれる高分子の物理的な状態の違いによって異なる値を示す数値であり、溶質分子間の相互作用、および高分子と溶媒分子との相互作用の大きさを表す指標である。
【0015】
本発明に係る鑑別方法において、指標となる第二ビリアル係数は、任意の方法によって算出することができる。第二ビリアル係数を算出する方法に関する詳細については、前記非特許文献1に記載されており、それに準じて算出することができる。本発明に係る鑑別方法において、第二ビリアル係数の好ましい算出方法は、光散乱の測定により算出する方法(光散乱法)である。さらに好ましい第二ビリアル係数の算出方法は、光散乱法のうち、多角度光散乱検出器を用いて異なる角度からの光散乱強度を測定し、それに基づいてジムプロットを作図して算出する方法である。かかる多角度光散乱検出器としては、市販されている、Wyatt社製のDAWN EOSを好ましく例示することができる。
【0016】
本発明に係る鑑別方法において、鑑別対象である被膜の保水性とは、被膜が吸収した水分を乾燥させることなく保持する性質を意味し、被膜の均一性とは、形成された被膜の表面の形状がムラのない平坦である程度を意味する。
【0017】
本発明において水溶性高分子とは、水に溶解性のある任意の高分子であれば、アニオン性、カチオン性、非イオン性、または両性の高分子でもよい。水溶性高分子の種類としては、天然系増粘多糖類、または合成系有機高分子が挙げられる。好ましくは化粧料に配合することができる水溶性高分子である。本発明において水溶性高分子は、1種または複数種の水溶性高分子を含む。
【0018】
本発明における、水溶性高分子を含む溶液または分散液を構成する溶媒は、水性媒体であることが好ましい。水性媒体としては、水を含む溶媒であれば任意の媒体でありうるが、リン酸緩衝液を含む緩衝液などが好ましく例示できる。
【0019】
本発明において、水溶性高分子を含む溶液または分散液は、水溶性高分子を含む化粧料でありうる。化粧料は、基礎化粧料、メークアップ化粧料、洗浄用化粧料、毛髪用の化粧料、爪用の化粧料、およびマッサージ化粧料を含む。
【0020】
本発明において「溶液または分散液を被塗布面に塗布する」とは、被膜が形成される限り、どのような方法でもよい。例えば、塗りつけること、噴霧すること、キャストすることなどが含まれる。
【0021】
本発明に係る鑑別方法は、水溶性高分子を含む溶液または分散液を塗布することにより形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方の鑑別に用いることができる。すなわち、該溶液または分散液の第二ビリアル係数を測定し、その数値が大きいほど、形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方が高いと鑑別することができる。
【0022】
好ましくは、本発明に係る鑑別方法は、水溶性高分子を含む化粧料の化粧膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方の鑑別に用いることができる。すなわち、該化粧料の第二ビリアル係数が大きいほど、形成される化粧膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方が高いと鑑別することができる。このことは、第二ビリアル係数が大きい化粧料ほど、その化粧料の保湿作用が優れていると評価することを含む。
【0023】
このように、第二ビリアル係数が大きいほど、形成される被膜の保水性が高くなる原因としては、第二ビリアル係数が高い状態では、水溶性高分子の極性基が外側に向いた状態になり、その結果、形成された被膜の表面に極性基が局在し、被膜と水との相互作用が強くなり、被膜の保水性が高まったためであると考えることもできるが、必ずしもその原因は明らかではない。いずれにしても、下記の実施例のデータから、水溶性高分子を含む溶液の第二ビリアル係数が高いと、被膜の保水性および均一性が向上することが示されている。
【0024】
本発明の鑑別方法を用いることにより、化粧膜の保水性または均一性を制御することができる。すなわち、第二ビリアル係数は、例えば、水溶性高分子の溶媒への配合手法、溶媒の種類、溶媒のpH、または化粧料に含まれる塩の種類もしくはその濃度などにより変化すると考えられ、これらの条件を適宜選択して、より高い第二ビリアル係数を示す化粧料を製造することで、より保水性もしくは均一性、またはそれらの両方の高い化粧膜を形成する化粧料を得ることができる。
【0025】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明が、かかる実施例にのみに限定されないことは言うまでもない。
【0026】
水溶性高分子として4種類の化粧料用の高分子(ヒアルロン酸ナトリウム、ポリグルコシルオキシエチルメタクリレート、ポリメタクリロイル−L−リジン、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)を用いた。各水溶性高分子の物性を下に記載した。
【0027】
ヒアルロン酸ナトリウム(HANa):
アニオン性高分子、平均分子量約140万
ポリグルコシルオキシエチルメタクリレート(GEMA):
非イオン性高分子、平均分子量約30万
ポリメタクリロイル−L−リジン(PML):
カチオン性高分子、平均分子量約20万
ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC):
両性高分子、平均分子量約17万
【0028】
各水溶性高分子について、リン酸緩衝液を用いて、pH=4,7,および9に調製された高分子溶液を調製した。いずれの溶液の高分子濃度も10mmol/Lとした。
【0029】
上記調製した各高分子溶液の光散乱を、多角度光散乱検出器により測定し、ジムプロットを作図することにより、各溶液の第二ビリアル係数(A2;mol・mL/g2)、及び各溶液中の水溶性高分子の分子サイズ(Rz;nm)を求めた。
【0030】
各溶液10mlをガラス板上にキャストし、湿度30%、40℃の恒湿恒温の条件下で24時間保存し、キャスト膜を形成させた。さらに、このキャスト膜を湿度80%、40℃の条件下で24時間保存した後、重量Aを測定した。しかる後、もう一度湿度30%、40℃の恒湿恒温の条件下で24時間保存して、重量Bを測定した。さらに、これを80℃で24時間保存し、水分含有量を極限にまで減らした状態で重量Cを測定した。
【0031】
本明細書中で「吸水率」と称される、高湿度条件下において、膜の自重に対して、膜が吸収した水分重量の割合を、下記式
吸水率 = 100×{(重量A−重量C)/重量C}
により求めた。
【0032】
また、本明細書中で「保水率」と称される、低湿度条件下において、膜の自重に対して、膜が保持した水分重量の割合を、下記式
保水率 = 100×{(重量B−重量C)/重量C}
により求めた。
【0033】
さらに、本明細書中で「保水性」と称される、膜が吸収した水分重量に対して、低湿度条件下において膜が保持した水分重量の割合を、下記式
保水性 = 100×保水率/吸水率
により求めた。
【0034】
さらに、ガラス板上に形成されたキャスト膜の膜表面の形状を、肉眼観察およびSEM観察して、その均一性(ムラがなく平坦であることを意味する)について評価をした。その観察結果を図面1〜4に示した。図1はヒアルロン酸ナトリウム、図2はポリグルコシルオキシエチルメタクリレート、図3はポリメタクリロイル−L−リジン、図4はポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンについての観察結果を、それぞれ示した。
【0035】
このようにして得られた、それぞれの高分子の溶液についての各pHにおける第二ビリアル係数(A2)、分子サイズ(Rz)、吸水率、保水率および保水性の値を、表1〜4に示した。表1はヒアルロン酸ナトリウム、表2はポリグルコシルオキシエチルメタクリレート、表3はポリメタクリロイル−L−リジン、表4はポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンについての結果を、それぞれ示した。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
表1〜4において、ビリアル係数、保水率および保水性のそれぞれについて、最も数値の高いものを○、中間の数値のものを△、最も数値の低いものを×として、表5〜8に示した(表5,表6,表7,表8は、それぞれ表1,表2,表3,表4に対応する)。また、膜形状について、最も均一性の高いものを○、中間のものを△、最も均一性の低いものを×として、表5〜8にあわせて示した。
【0041】
【表5】
【0042】
【表6】
【0043】
【表7】
【0044】
【表8】
【0045】
表5〜8は、第二ビリアル係数が高いと、膜の保水率および保水性の値が大きくなることを明らかにし、さらに、第二ビリアル係数が高くなると、膜の均一性が向上することを明らかにした。
【0046】
このように、水溶性高分子の溶液の第二ビリアル係数を指標として、該溶液を塗布することにより形成される被膜の保水性、および均一性を鑑別することができることが明らかになった。つまり、溶液の第二ビリアル係数が高いと、形成される被膜の保水性、および均一性が高いと鑑別することができることが明らかになった。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、水溶性高分子を含む溶液または分散液の第二ビリアル係数を指標として、被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方を鑑別する方法を提供することができる。特に、水溶性高分子を含む化粧料のような、複雑系の溶液または分散液を塗布することにより形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方を鑑別する方法を提供することができ、本方法を化粧料の製造に適用すれば、優れた保湿性を有する化粧料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】pH4、7、または9のヒアルロン酸ナトリウム(HANa)溶液の、それぞれのキャスト膜の膜表面の形状の肉眼観察およびSEM観察の写真である。
【図2】pH4、7、または9のポリグリコシルオキシエチルメタクリレート(GEMA)溶液の、それぞれのキャスト膜の膜表面の形状の肉眼観察およびSEM観察の写真である。
【図3】pH4、7、または9のポリメタクリロイル−L−リジン(PML)溶液の、それぞれのキャスト膜の膜表面の形状の肉眼観察およびSEM観察の写真である。
【図4】pH4、7、または9のポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)溶液の、それぞれのキャスト膜の膜表面の形状の肉眼観察およびSEM観察の写真である。
Claims (3)
- 水溶性高分子を含む溶液または分散液の第二ビリアル係数を指標として、該溶液または分散液を被塗布面に塗布することにより形成される被膜の保水性もしくは均一性、またはそれらの両方を鑑別する方法。
- 前記第二ビリアル係数は、光散乱法により測定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
- 前記溶液または分散液は、化粧料である、請求項1または2に記載の方法。
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JP2009210575A (ja) * | 2008-02-29 | 2009-09-17 | Wyatt Technol Corp | 溶媒中における分子の溶液の平均分子特性を決定する方法 |
-
2003
- 2003-07-10 JP JP2003195001A patent/JP2005030853A/ja active Pending
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