JP2004360647A - 火花点火式エンジンの制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】後続気筒におけるノッキングの発生を抑制しつつ、圧縮自己着火を適正に行わせる。
【解決手段】特殊運転モードでは、先行気筒2A,2Dから排出される既燃ガスが、気筒間ガス通路22を介して吸気行程にある後続気筒2B,2Cに導入される2気筒接続状態としつつ、この後続気筒2B,2Cでは先行気筒2A,2Dから導入された既燃ガスに燃料を供給して燃焼を行わせるようにした火花点火式エンジンの制御装置において、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域で、着火アシスト手段46により後続気筒の圧縮自己着火を促進するとともに、閉弁時期制御手段47により既燃ガス導入弁31bの閉弁時期を、上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁31aの閉止時期よりも遅く設定して下死点後の圧縮行程で上記既燃ガス導入弁31bを開放する。
【選択図】 図4
【解決手段】特殊運転モードでは、先行気筒2A,2Dから排出される既燃ガスが、気筒間ガス通路22を介して吸気行程にある後続気筒2B,2Cに導入される2気筒接続状態としつつ、この後続気筒2B,2Cでは先行気筒2A,2Dから導入された既燃ガスに燃料を供給して燃焼を行わせるようにした火花点火式エンジンの制御装置において、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域で、着火アシスト手段46により後続気筒の圧縮自己着火を促進するとともに、閉弁時期制御手段47により既燃ガス導入弁31bの閉弁時期を、上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁31aの閉止時期よりも遅く設定して下死点後の圧縮行程で上記既燃ガス導入弁31bを開放する。
【選択図】 図4
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、火花点火式エンジンの制御装置に関し、より詳しくは、多気筒のエンジンにおいて燃費改善およびエミッション向上のために各気筒の燃焼状態を制御するようにしたエンジンに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、火花点火式エンジンにおいて、各気筒内の混合気の空燃比を理論空燃比よりも大きいリーン空燃比とした状態で燃焼を行わせることにより燃費改善を図る技術が知られており、例えば特許文献1に示されるように、燃焼室内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備え、低速低負荷領域等では上記燃料噴射弁から圧縮行程で燃料を噴射して成層燃焼を行わせることにより、燃費効率のよい超リーン燃焼を実現するようにしたものが知られている。
【0003】
このようなエンジンにおいては、排気ガス浄化用の触媒として通常の三元触媒(HC,COおよびNOxに対して理論空燃比付近で浄化性能の高い触媒)だけではリーン運転時にNOxに対して充分な浄化性能が得られないため、上記公報にも示されるように、酸素過剰雰囲気でNOxを吸着するとともに、酸素濃度の低下雰囲気でNOxの離脱、還元を行うリーンNOx触媒を設けている。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−274085号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来のリーン運転を行うエンジンでは、リーン運転中にNOx浄化性能を確保するために上記リーンNOx触媒が必要となってコスト的に不利である。また、上記リーンNOx触媒の浄化性能を維持するためには、NOx吸着量の増大時に、NOxの離脱、還元を行うために空燃比を一時的にリッチ化する必要がある。さらに、使用燃料が硫黄分を多く含む場合には、上記リーンNOx触媒の硫黄被毒を解消するために触媒の加熱および還元材供給等のリジェネレーション処理が必要となり、これらによって燃費改善効果が低下するという問題があった。
【0006】
また、燃費改善のための別の手法として、圧縮自己着火が研究されており、この圧縮自己着火は、ディーゼルエンジンと同様に圧縮行程終期に燃焼室内を高温・高圧にして混合気を自己着火させるようにするものであり、空燃比が超リーンの状態や多量のEGRが導入されている状態でも、このような圧縮自己着火が行われれば燃焼室全体で一気に燃焼が行われるため、仕事に寄与しない遅い燃焼が避けられて燃費改善に有利となる。
【0007】
しかし、通常の火花点火式ガソリンエンジンでは、燃焼のために強制点火が必要であって、圧縮上死点付近での燃焼室内の温度、圧縮自己着火を生じさせる程度まで圧力を高めることが困難であり、圧縮自己着火を行わせるために燃焼室内の温度または圧力を大幅に高め得るようにする格別の工夫が必要であるという問題があった。
【0008】
そこで、本出願人は、各気筒の燃焼サイクルが所定の位相差をもって行われる多気筒4サイクルエンジンにおいて、エンジンの部分負荷領域で、排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間において排気行程にある先行気筒から排出される既燃ガスをそのまま吸気行程にある後続気筒に導入し、この後続気筒から排出されるガスを、三元触媒を備えた排気通路に導くようにするとともに、このような2気筒接続状態にあるときに、上記先行気筒において理論空燃比よりも所定量大きいリーン空燃比とした状態で燃焼を行わせ、後続気筒では先行気筒から導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料を供給して理論空燃比とした状態で圧縮自己着火による燃焼を行わせるように燃焼状態等を制御(特殊運転モードという)する一方、高速領域や高負荷領域では、通常通り、各気筒において理論空燃比で燃焼を行わせるように燃焼状態等を制御(通常運転モードという)することを考えた(特願2002−024548号)。
【0009】
上記のように構成した場合には、特殊運転モードとされているときに、先行気筒でのリーン燃焼、各気筒におけるポンピングロスの低減等および後続気筒での圧縮自己着火の実現により大幅な燃費改善効果が得られ、しかも後続気筒から排出される理論空燃比の既燃ガスのみが三元触媒を備えた排気通路に導かれるため、三元触媒だけで充分に排気浄化性能が確保される。
【0010】
ところで、上記の構成を有するエンジンでは、特殊運転モードとされているときに、先行気筒から排出される既燃ガスの温度が高くなった場合に、高温のガスがそのまま後続気筒に導入されると、この後続気筒でノッキング、つまり燃焼室内で火炎が伝播する前に混合気が自然着火することによる異常燃焼を生じ易く、マイナストルクが発生することによりエンジン出力が低下する傾向がある。また、後続気筒で上記ノッキングの発生を防止するために先行気筒から排出される既燃ガスの温度を低下させる等の対策を講じた場合には、後続気筒内の温度が低いことに起因して圧縮自己着火を行わせることが困難になるという問題がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑み、エンジンの部分負荷領域で上記特殊運転モードとすることにより燃費およびエミッションの改善を図るとともに、後続気筒におけるノッキングの発生を抑制しつつ、圧縮自己着火を適正に行わせることができる火花点火式エンジンを提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、複数の気筒を備えて、各気筒の燃焼サイクルが所定の位相差をもって行われるように構成するとともに、エンジンの部分負荷領域でエンジンの吸・排気および燃焼状態についての制御モードを特殊運転モードとし、この特殊運転モードでは、排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間において排気行程にある先行気筒から排出される既燃ガスが、気筒間ガス通路を介して吸気行程にある後続気筒に導入され、この後続気筒から排出されるガスが排気通路に導かれるような2気筒接続状態としつつ、上記先行気筒では空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン空燃比で燃焼を行わせ、上記後続気筒では先行気筒から導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料を供給して燃焼を行わせるようにした火花点火式エンジンの制御装置であって、後続気筒の圧縮自己着火を促進する着火アシスト手段と、後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁の閉弁時期を制御する閉弁時期制御手段とを備え、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域で、上記着火アシスト手段により後続気筒の圧縮自己着火を促進するとともに、上記閉弁時期制御手段により既燃ガス導入弁の閉弁時期を、上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定するものである。
【0013】
この構成によると、エンジンの部分負荷領域で上記特殊運転モードとされた場合に、先行気筒でのリーン燃焼による熱効率向上および各気筒でのポンピングロス低減等により燃費改善効果が得られる。そして、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域では、後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁の閉弁時期が上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定されて下死点後の圧縮行程で上記既燃ガス導入弁が閉止されることにより、後続気筒内の有効圧縮比が低減されて後続気筒におけるノッキングの発生が効果的に防止されるとともに、着火アシスト手段により後続気筒の圧縮自己着火を促進する制御が適正に実行されることになる。
【0014】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の火花点火式エンジンの制御装置において、着火アシスト手段は、圧縮上死点前の圧縮上死点近傍で後続気筒内の混合気を点火する火花点火制御手段からなるものである。
【0015】
上記構成によれば、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域における低速低負荷領域で、後続気筒の圧縮上死点前においてその上死点近傍で混合気を点火して気筒内圧力を瞬時に高める制御が実行されることにより、後続気筒が適正時期に圧縮自己着火することになる。
【0016】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の火花点火式エンジンの制御装置において、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域の高速高負荷領域で、上記閉弁時期制御手段により既燃ガス導入弁の閉弁時期を通常運転モードの燃焼時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定するとともに、上記着火アシスト手段により後続気筒の圧縮自己着火を促進する制御を実行するものである。
【0017】
上記構成によれば、特殊運転モードの燃焼が行われることにより、気筒間ガス通路を介して後続気筒に導入される既燃ガスの温度が高い部分負荷領域の高速高負荷領域では、上記閉弁時期制御手段により既燃ガス導入弁の閉弁時期が上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定されて後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁が下死点後の圧縮行程で閉止されることにより、後続気筒の有効圧縮比が低減されて後続気筒におけるノッキングの発生が効果的に防止されるとともに、着火アシスト手段により後続気筒の圧縮自己着火を促進する制御が適正に実行されることになる。
【0018】
請求項4に係る発明は、複数の気筒を備えて、各気筒の燃焼サイクルが所定の位相差をもって行われるように構成するとともに、エンジンの部分負荷領域でエンジンの吸・排気および燃焼状態についての制御モードを特殊運転モードとし、この特殊運転モードでは、排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間において排気行程にある先行気筒から排出される既燃ガスが、気筒間ガス通路を介して吸気行程にある後続気筒に導入され、この後続気筒から排出されるガスが排気通路に導かれるような2気筒接続状態としつつ、上記先行気筒では空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン空燃比で燃焼を行わせ、上記後続気筒では先行気筒から導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料を供給して燃焼を行わせるようにした火花点火式エンジンの制御装置であって、後続気筒の有効圧縮比を制御する有効圧縮比制御手段を備え、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域では、上記有効圧縮比制御手段により部分負荷領域の高速高負荷側ほど後続気筒の有効圧縮比を低い値に設定するものである。
【0019】
上記構成によれば、エンジンの部分負荷領域で上記特殊運転モードとされた場合に、先行気筒でのリーン燃焼による熱効率向上および各気筒でのポンピングロス低減等により燃費改善効果が得られる。そして、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域では、先行気筒から導入される既燃ガス温度が高くなる傾向がある高速高負荷側ほど、後続気筒の有効圧縮比を低い値に設定する制御が上記有効圧縮比制御手段において実行されることにより、後続気筒のノッキングが効果的に抑制されることになる。
【0020】
請求項5に係る発明は、上記請求項4に記載の火花点火式エンジンの制御装置において、有効圧縮比制御手段は、後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁の閉弁時期を低速低負荷側の領域に比べて遅らせることにより後続気筒の有効圧縮比を低減するものである。
【0021】
上記構成によれば、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域の高速高負荷領域では、その低速低負荷領域に比べ、後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁の閉弁時期を遅らせる制御が上記有効圧縮比制御手段において実行されることにより、上記高速高負荷領域における後続気筒の有効圧縮比が低減されてノッキングの発生が効果的に防止されることになる。
【0022】
請求項6に係る発明は、上記請求項1〜5の何れかに記載の火花点火式エンジンの制御装置において、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域では、後続気筒に対する燃料噴射を前期と後期とに分割して行うとともに、上記部分負荷領域の高速高負荷側ほど後期噴射量の割合を増大させるものである。
【0023】
上記構成によれば、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域では、その高速高負荷側ほど後続気筒内に分割して噴射される燃料の後期噴射量を増大させる制御が実行されることにより、圧縮行程で噴射された燃焼が気化するのに応じて筒内温度が低減するとともに、後続気筒内で生成された混合気の活性化が抑制されるため、後続気筒におけるノッキングの発生が効果的に防止されることになる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態によるエンジンの概略構成を示し、図2はエンジン本体1の一つの気筒とそれに対して設けられた吸・排気弁等の構造を概略的に示している。これらの図において、エンジン本体1は、シリンダヘッド1aおよびシリンダブロック1bで構成された複数の気筒を有し、図示の実施形態では4つの気筒2A〜2Dを有している。各気筒2A〜2Dにはピストン3が嵌挿され、ピストン3の上方に燃焼室4が形成されている。
【0025】
各気筒2の燃焼室4の頂部には点火プラグ7が装備され、そのプラグ先端が燃焼室4内に臨んでいる。この点火プラグ7には、電子制御による点火時期のコントロールが可能な点火回路8が接続されている。
【0026】
燃焼室4の側方部には、燃焼室4内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁9が設けられている。この燃料噴射弁9は、図略のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、後述のパルス信号が入力されることにより、そのパルス入力時期にパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を噴射するように構成されている。なお、この燃料噴射弁9には図外の燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給され、かつ、圧縮行程での燃焼室4内の圧力よりも高い燃料圧力を与え得るように燃料供給系統が構成されている。
【0027】
また、各気筒2A〜2Dの燃焼室4に対して吸気ポート11、11a,11bおよび排気ポート12、12a,12bが開口し、これらのポートに吸気通路15、排気通路20等が接続されるとともに、各ポートが吸気弁31、31a,31bおよび排気弁32、32a,32bにより開閉されるようになっている。
【0028】
そして、各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなるサイクルを行うように構成され、4気筒エンジンの場合において、気筒列方向一端側から1番気筒2A、2番気筒2B、3番気筒2C、4番気筒2Dと呼ぶと、図6に示すように、上記サイクルが1番気筒2A、3番気筒2C、4番気筒2D、2番気筒2Bの順にクランク角で180°ずつの位相差をもって行われるようになっている。なお、図6は4サイクル4気筒エンジンにおいて後に詳述するように特殊運転モードとされたときの各気筒の行程、燃料噴射時期、点火時期等を示すものであり、この図において、EXは排気行程、INは吸気行程、Fは燃料噴射、Sは火花点火を表し、図中の星マークは圧縮自己着火が行われることを表している。
【0029】
排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間には、排気行程と吸気行程が重なるときの排気行程側の気筒(当明細書ではこれを先行気筒と呼ぶ)から、吸気行程側の気筒(当明細書ではこれを後続気筒と呼ぶ)へ既燃ガスをそのまま導くことができるように、気筒間ガス通路22が設けられている。当実施形態の4サイクル4気筒エンジンでは、1番気筒2Aの排気行程(EX)と2番気筒2Bの吸気行程(IN)とが重なり、また4番気筒2Dの排気行程(EX)と3番気筒2Cの吸気行程(IN)が重なるので(図6参照)、1番気筒2Aと2番気筒2B、および、4番気筒2Dと3番気筒2Cがそれぞれ一対をなし、1番気筒2Aおよび4番気筒2Dが先行気筒となるとともに、2番気筒2Bおよび3番気筒2Cが後続気筒となる。
【0030】
各気筒の吸・排気ポートとこれに接続される吸気通路、排気通路および気筒間ガス通路は、具体的には次のように構成されている。先行気筒である1番気筒2Aおよび4番気筒2Dには、それぞれ新気を導入するための吸気ポート11と、既燃ガス(排気ガス)を排気通路20に送り出すための第1排気ポート12aと、既燃ガスを後続気筒に導出するための第2排気ポート12bとが配設されている。また、後続気筒である2番気筒2Bおよび3番気筒2Cには、それぞれ新気を導入するための第1吸気ポート11aと、先行気筒2A,2Dからの既燃ガスを導入するための第2吸気ポート11bと、既燃ガスを排気通路20に送り出すための排気ポート12とが配設されている。
【0031】
図1に示す例では、1番,4番気筒(先行気筒)2A,2Dにおける吸気ポート11および2番,3番気筒(後続気筒)2B,2Cにおける第1吸気ポート11aが、1気筒当り2個ずつ、燃焼室の左半部側に並列的に設けられる一方、先行気筒2A,2Dにおける第1排気ポート12aおよび第2排気ポート12bならびに後続気筒2B,2Cにおける第2吸気ポート11bおよび排気ポート12が、燃焼室の右半部側に並列的に設けられている。
【0032】
先行気筒2A,2Dにおける吸気ポート11および2番,3番気筒2B,2Cにおける第1吸気ポート11aには、吸気通路15における気筒別の分岐吸気通路16の下流端が接続されている。各分岐吸気通路16の下流端近傍には、共通の軸を介して互いに連動する多連スロットル弁17が設けられており、この多連スロットル弁17は制御信号に応じてアクチュエータ18により駆動され、吸入空気量を調節するようになっている。なお、吸気通路15における集合部より上流の共通吸気通路15aには、吸気流量を検出するエアフローセンサ19が設けられている。
【0033】
先行気筒2A,2Dにおける第1排気ポート12aおよび2番,3番気筒2B,2Cにおける排気ポート12には、排気通路20における気筒別の分岐排気通路21の上流端が接続されている。また、1番気筒2Aと2番気筒2Bとの間および3番気筒2Cと4番気筒2Dとの間に、それぞれ気筒間ガス通路22が設けられ、先行気筒である1番,4番気筒2A,2Dの第2排気ポート12bに気筒間ガス通路22の上流端が接続されるとともに、後続気筒である2番,3番気筒2B,2Cの第2吸気ポート11bに気筒間ガス通路22の下流端が接続されている。
【0034】
排気通路20における分岐排気通路21の下流の集合部には排気ガス中の酸素濃度を検出することにより空燃比を検出するO2センサ23が設けられている。さらにO2センサ23の下流の排気通路20には、排気浄化のために三元触媒24が設けられている。この三元触媒24は、一般に知られているように、排気ガスの空燃比が理論空燃比(つまり空気過剰率λがλ=1)付近にあるときにHC,COおよびNOxに対して高い浄化性能を示す触媒である。また、上記O2センサ23は、排気ガス中の酸素濃度を検出することにより空燃比を検出するもので、特に理論空燃比付近で出力が急変するλO2センサにより構成されている。
【0035】
上記気筒間ガス通路22には、排気ガス中における酸素濃度の変化(空燃比の変化)に対して出力がリニアに変化するリニアO2センサ25が設けられている。各気筒2A〜2Dの吸・排気ポートを開閉する吸・排気弁とこれらに対する動弁機構は、次のようになっている。
【0036】
先行気筒2A,2Dにおける吸気ポート11、第1排気ポート12aおよび第2排気ポート12bには、それぞれ吸気弁31、第1排気弁32aおよび第2排気弁32bが設けられ、また、後続気筒2B,2Cにおける第1吸気ポート11a、第2吸気ポート11bおよび排気ポート12には、それぞれ第1吸気弁31a、第2吸気弁31bおよび排気弁32が設けられている。そして、各気筒の吸気行程や排気行程が上述のような所定の位相差をもって行われるように、これら吸・排気弁がそれぞれカムシャフト34,34等からなる動弁機構により所定のタイミングで開閉するように駆動される。
【0037】
さらに、上記吸・排気弁のうちで第1吸気弁31a、第1排気弁32aおよび第2排気弁32bの動弁機構には、各弁を作動状態と停止状態とに切り換える第1切換手段35aが設けられている。また、上記吸・排気弁のうちで第2吸気弁31b、つまり先行気筒2A,2Dから導出された既燃ガスを後続気筒2B,2Cに導入させる既燃ガス導入弁の動弁機構には、上記第2吸気弁31bを作動状態と停止状態とに切り換えるとともに、その開弁期間を切り換える第2切換手段35bが設けられている。
【0038】
上記第1切換手段35aは、例えば図3に示すように、第1吸気弁31a、第1排気弁32aおよび第2排気弁32bの上方に配設されたカムシャフト34と、このカムシャフト34と上記各弁との間に配設されたロッカシャフト55と、このロッカシャフト55に支持された第1〜第3ロッカアーム56〜58とを有している。また、上記カムシャフト34には、円形の外周面を有する弁停止用の第1カム52と、弁駆動用の突部(カムノーズ)を有する第2,第3カム53,54とが一体に形成されている。この第2,第3カム53,54は、同一形状を有し、上記第1カム52を挟むようにその左右に配設されている。
【0039】
上記第1ロッカアーム56は、第1カム52に対応した位置に配設されるとともに、その先端部には第1吸気弁31a、第1排気弁32aまたは第2排気弁32bの弁軸上端に当接する当接部60が設けられている。一方、上記第2,第3ロッカアーム58,59は、第1ロッカアーム57を挟むようにその両側方に配設されるとともに、第1ロッカアーム57とは切り離された状態で、図外の付勢手段により、それぞれ上記第2,第3カム53,54に圧接されるように付勢されている。
【0040】
また、第2,第3ロッカアーム57,58は、上記第1ロッカアーム56と連結可能に構成されている。具体的には、上記第2,第3ロッカアーム57,58に設けられたプランジャー(図示せず)が、後述する第1,第2作動油給排通路36,38から供給された作動油により駆動され、その先端部が上記第1ロッカアーム56に形成された連結孔(図示せず)内に挿入される等により、上記第1ロッカアーム56と第2,第3ロッカアーム57,58とが一体に連結された状態で揺動変位するようになっている。
【0041】
すなわち、上記第1,第2作動油給排通路36,38に設けられた第1,第2コントロール弁37,39により上記第1,第2作動油給排通路36,38からの作動油の給排を制御して第1ロッカアーム56と第2,第3ロッカアーム57,58とを一体に連結することにより、上記第2,第3カム53,54により駆動される第1,第2ロッカアーム57,58の駆動力が第1ロッカアーム56に伝達されて上記第1吸気弁31a、第1排気弁32aまたは第2排気弁32bが開閉駆動されることになる。
【0042】
一方、第1ロッカアーム56と第2,第3ロッカアーム57,58との連結状態が解除されると、第2,第3ロッカアーム57,58から第1ロッカアーム56への駆動力の伝達が遮断され、カムシャフト34が回転しても第1ロッカアーム56が揺動変位することなく、上記第1吸気弁31a、第1排気弁32aまたは第2排気弁32bが閉弁状態に維持されるようになっている。
【0043】
また、第2吸気弁31bの動弁機構に設けられた第2切換手段35bは、上記第2カム53のカムノーズと、第3カム54のカムノーズとが異なる形状に形成されるとともに、上記第1ロッカアーム56が第2ロッカアーム57に連結された状態と、上記第1ロッカアーム56が第3ロッカアーム58に連結された状態とに選択的に切り換えられることにより、上記カムシャフト34に設けられた第2,第3カム53,54の何れか一方により駆動される第2吸気弁31bの開弁期間が切り換えられるように構成された点を除き、上記第1切換手段35aと同様に構成されている。上記のように第2吸気弁31bの開弁期間が切り換えられることにより、第2吸気弁31bの閉弁時期が、後述するように下死点の直後に設定された通常状態から、下死点よりも遅い圧縮行程の所定時期に設定された特定状態に切り換えられるようになっている。
【0044】
図4は、エンジンの駆動、制御系統の構成を示している。この図の中に示すように、上記第1排気弁32a用の第1切換手段35aと、第2吸気弁31a用の第1切換手段35aとに対する作動油給排用の通路36には、第1コントロール弁37が設けられ、また上記第2排気弁32b用の第1切換手段35aと、第2吸気弁31b用の第2切換手段35bとに対する作動油給排用の通路38には、第2コントロール弁39が設けられている。
【0045】
同図において、40はマイクロコンピュータ等からなるエンジン制御用のECU(エンジンコントロールユニット)であり、このECU40には、エアフローセンサ19、O2センサ23およびリニアO2センサ25からの信号が入力され、さらに運転状態を判別するためにエンジン回転数を検出する回転数センサ61およびアクセル開度(アクセルペダル踏込み量)を検出するアクセル開度センサ62等からの信号も入力されている。また、このECU40から、各点火プラグ8および燃料噴射弁9と、多連スロットル弁17のアクチュエータ18と、上記第1,第2のコントロール弁37,39とに対して制御信号が出力されている。
【0046】
上記ECU40は、運転状態判別手段41、モード設定手段42、切換機構制御手段43、吸入空気量制御手段44、燃料噴射制御手段45、着火アシスト手段46および閉弁時期制御手段47を備えている。
【0047】
上記運転状態判別手段41は、図5に示すように、エンジンの運転領域が低速低負荷側の領域A(部分負荷領域)と、高速側ないし高負荷側の領域(全負荷領域)Bとに区画された制御用マップを有し、低速低負荷側の部分負荷領域Aを特殊運転モード領域、高速側ないし高負荷側の全負荷領域Bを通常運転モード領域として設定し、上記回転数センサ61およびアクセル開度センサ62等からの信号により調べられるエンジンの運転状態(エンジン回転数およびエンジン負荷)が、上記領域A,Bのいずれにあるかを判別するようになっている。
【0048】
さらに、上記特殊運転モード領域となる部分負荷領域Aは、その中でもエンジンの回転速度および負荷が最も低い低速低負荷領域A1と、この低速低負荷領域A1よりもエンジン回転数および負荷が高い中速中負荷領域A2と、この中速中負荷領域A2よりもエンジン回転数および負荷がさらに高い高速高負荷領域A3とに区画されている。
【0049】
上記モード設定手段42は、運転状態判別手段41による判別に基づき、上記特殊運転モード領域Aでは、排気行程にある先行気筒2A,2Dから排出される既燃ガスをそのまま吸気行程にある後続気筒2B,2Cに導入して燃焼させる特殊運転モードを選択し、上記通常運転モード領域Bでは、各気筒をそれぞれ独立させ燃焼させる通常運転モードを選択するようになっている。
【0050】
上記切換機構制御手段43は、モード設定手段42による運転モードの設定に応じ、特殊運転モードでは気筒間ガス通路22を介して先行気筒2A,2Dの既燃ガスを後続気筒2B,2Dに導入させる2気筒接続状態とし、通常運転モードでは各気筒にそれぞれ新気を導入させる各気筒独立状態とするように吸・排気流通経路を変更すべく第1,第2切換手段35a,35bを制御するもので、具体的には運転状態が領域A,Bのいずれにあるかに応じ、上記各コントロール弁37,39を制御して第1,第2切換手段35a,35bを作動させることにより、上記吸・排気弁31a〜32bを次のように制御する。
【0051】
領域A:(特殊運転モード)
第1排気弁32aおよび第1吸気弁31aを停止状態
第2排気弁32bおよび第2吸気弁31bを作動状態
領域B:(通常運転モード)
第1排気弁32aおよび第1吸気弁31aを作動状態
第2排気弁32bおよび第2吸気弁31bを停止状態
上記吸入空気量制御手段44は、アクチュエータ18を制御することによりスロットル弁17の開度(スロットル開度)を制御するものであり、予め設定されたマップ等から運転状態に対応した目標吸入空気量を求め、その目標吸入空気量に応じてスロットル開度を制御する。この場合、特殊運転モードとされる運転領域Aでは、後続気筒2B,2Cにおいて分岐吸気通路16からの吸気導入が遮断された状態で先行気筒2A,2Dから導入されるガス中の過剰空気と新たに供給される燃料との比が理論空燃比とされつつ燃焼が行われるので、先行・後続の2気筒分の要求トルクに応じた燃料の燃焼に必要な量の空気(2気筒分の燃料の量に対して理論空燃比となる量の空気)が先行気筒2A,2Dに供給されるように、スロットル開度が調節される。
【0052】
上記燃料噴射制御手段45は、各気筒2A〜2Dに設けられた燃料噴射弁9からの燃料噴射量および噴射タイミングをエンジンの運転状態に応じて制御する。そして、特に上記モード設定手段42により設定される運転モードに応じ、燃料噴射量および噴射タイミングが変更される。
【0053】
すなわち、特殊運転モードが設定された場合、先行気筒2A,2Dに対しては、空燃比が理論空燃比よりも大幅にリーンな空燃比、例えば理論空燃比の略2倍もしくはそれ以上となるように燃料噴射量を制御するとともに、圧縮行程で燃料を噴射して混合気の成層化を行わせるように噴射時期を設定する。そして、圧縮上死点付近で点火が行われることにより成層燃焼が行われるようにする。
【0054】
一方、後続気筒2B,2Cに対しては、先行気筒2A,2Dから導入されたリーン空燃比の既燃ガスに対して燃料を供給し、後続気筒2B,2Cでの燃焼の際に実質的に理論空燃比となるように燃料噴射量を制御するとともに、既燃ガスが多い状況下で着火、燃焼が可能なように噴射タイミングを設定する。例えば、先行気筒2A,2Dから導入される既燃ガスの温度が充分に高く、後続気筒2B,2Cが圧縮行程で自己着火し得るような温度状態となる場合は、後続気筒2B,2Cの吸気行程で燃料を噴射することにより混合気を均一化するように噴射時期を設定する。
【0055】
また、通常運転モードが選択された場合には、各気筒2A〜2Dの空燃比を理論空燃比もしくはそれ以下とするように燃料噴射量を制御し、例えば通常運転モード領域Bのうち大部分の領域において理論空燃比とし、最大負荷領域およびその付近の運転領域で理論空燃比よりリッチとする。そして、この場合に、各気筒2A〜2Dに対して吸気行程で燃料を噴射して混合気を均一化するように噴射時期を設定する。
【0056】
上記着火アシスト手段46は、エンジンの運転領域が上記部分負荷領域Aの低速低負荷領域A1にあることが上記運転状態判別手段41において判別された場合に、後続気筒2B,2C内の混合気を、その圧縮上死点前における圧縮上死点の近傍で点火することにより、上記後続気筒2B,2Cで圧縮自己着火が行われるように促進する火花点火制御手段により構成されている。すなわち、後続気筒2B,2Cのピストン位置が圧縮上死点に近づいた時点で、点火プラグ7に点火指令信号を出力して混合気に点火することにより、点火プラグ7周りの圧力を急激に上昇させて混合気の圧縮自己着火を誘発するようになっている。
【0057】
また、エンジンの運転領域が上記部分負荷領域Aの高速高負荷領域A3にあることが上記運転状態判別手段41において判別された場合においても、後続気筒2B,2C内の混合気を、その圧縮上死点前における圧縮上死点の近傍で点火することにより、上記後続気筒2B,2Cで圧縮自己着火が行われるように促進する制御が上記着火アシスト手段46において実行されるようになっている。この着火アシスト手段46により上記高速高負荷領域A3で後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進する制御を実行する際には、後続気筒2B,2Cに設けられた既燃ガス導入弁(第2吸気弁31b)の閉弁時期を下死点後の圧縮行程に設定することにより、後続気筒2B,2Cのノッキングを抑制する制御が上記閉弁時期制御手段47において実行されるように構成されている。
【0058】
上記閉弁時期制御手段47は、上記特殊運転モードによる制御が行われる部分負荷領域Aの高速高負荷領域A3において、後続気筒2B,2Cのノッキングを抑制するために有効圧縮比を低減させる有効圧縮比制御手段としての機能を有するものである。
【0059】
具体的には、図3に示すように、カムシャフト34に設けられた複数個のカム53,54を選択的に切り換えることにより、気筒間ガス通路22を介して後続気筒2B,2Cに既燃ガスを導入させる既燃ガス導入弁(第2吸気弁31b)の閉弁時期Tを、低速低負荷領域A1を含む通常の領域では、図10の実線で示すように、上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁(第1吸気弁31a)の閉止時期と同時期である下死点B直後の時点T1に設定するとともに、高速高負荷領域A3では、図10の破線で示すように、上記新気導入弁の閉弁時期よりも遅い時期に設定して下死点後における圧縮行程の所定時期T2に既燃ガス導入弁を閉止させるようになっている。これにより、上記高速高負荷領域A3では、下死点Bを過ぎてピストンが上昇するのに応じて後続気筒2B,2C内の混合気が気筒間ガス通路22側に導出される結果、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比が低減されてノッキングの発生が効果的に防止されることになる。
【0060】
以上のような当実施形態の装置の作用を、図5〜図8を参照しつつ説明する。上記低速低負荷側の部分領域Aでは、特殊運転モードとされ、前述のように第1排気弁32aおよび第1吸気弁31aが停止状態、第2排気弁32bおよび第2吸気弁31bが作動状態とされることにより、実質的な新気およびガスの流通経路は図7に示すような2気筒接続状態とされ、先行気筒2A,2Dから排出される既燃ガスがそのまま気筒間ガス通路22を介して後続気筒2B,2Cに導入されるとともに、この後続気筒2B,2Cから排出される既燃ガスのみが排気通路20に導かれる。
【0061】
この状態において、先行気筒2A,2Dにそれぞれ吸気行程で吸気通路15から新気が導入され(図7中の矢印a)、先行気筒2A,2Dでは、空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン空燃比となるように燃料噴射量が制御されつつ、図6に示すように、圧縮行程で燃料噴射Fが実行され、かつ、所定時期に点火Sが行われることにより、先行気筒2A,2Dが成層燃焼となる。
【0062】
そして、先行気筒2A,2Dの吸気行程と後続気筒2B,2Cの排気行程とが重なる期間に、先行気筒2A,2Dから排出された既燃ガスが気筒間ガス通路22を通って後続気筒2B,2Cに導入されるとともに(図6中の白抜き矢印および図7中の矢印b)、後続気筒2B,2Cでは、先行気筒2A,2Dから導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料が供給されて理論空燃比となるように、O2センサ23の出力に基づいて燃料噴射量が制御されつつ、適当なタイミングで燃料が噴射されて燃焼が行われる。例えば、先行気筒2A,2Dから導入される既燃ガスの温度が充分に高い場合、後続気筒2B,2Cにおいて吸気行程で燃料が噴射され、この燃料が均一に分散した状態で、圧縮行程の上死点付近において自己着火が生じ、この圧縮自己着火による燃焼が行われる(図6参照)。そして、後続気筒2B,2Cでの燃焼後の既燃ガスは、三元触媒24を備えた排気通路20に排出される(図7中の矢印c)。
【0063】
このように、先行気筒2A,2Dではリーン空燃比での成層燃焼が行われることにより、熱効率が高められるとともにポンピングロスが低減され、これらの相乗効果で大幅に燃費が改善される。また、後続気筒2B,2Cでは、先行気筒から押出された既燃ガスが導入されるためポンピングロス低減効果が高められ、さらに、上記圧縮自己着火が行われる場合、略均一な混合気分布状態での同時多点自己着火により燃焼が急速に進行し、これによって熱効率が大幅に向上される。これらの作用で後続気筒2B,2Cにおいても大幅な燃費の改善効果が得られる。しかも、後続気筒2B,2Cから排気通路20に排出されるガスは理論空燃比であるため、従来のリーンバーンエンジンのようにリーンNOx触媒を排気通路20に設ける必要がなく、三元触媒24を設けるだけで充分に排気浄化性能が確保されることになる。
【0064】
また、先行気筒2A,2Dでは、その空燃比が理論空燃比の略2倍もしくはそれ以上のリーン空燃比とされることでNOx発生量が比較的少なく抑えられ、後続気筒2B,2Cでは、先行気筒2A,2Dからの既燃ガスが導入されることで多量のEGRが行われているのと同等の状態となることからNOxの発生が充分に抑制される。このような点からもエミッションの向上に有利となる。
【0065】
一方、高負荷側ないし高回転側の全負荷領域Bでは、通常運転モードとされ、前述のように第1排気弁32aおよび第1吸気弁31aが作動状態、第2排気弁32bおよび第2吸気弁31bが停止状態とされることにより、実質的な新気およびガスの流通経路は図8に示すような各気筒独立状態とされ、実質的に各気筒2A〜2Dの吸気ポート11,11aおよび排気ポート12a,12が独立し、吸気通路15から各気筒2A〜2Dの吸気ポート11,11aに新気が導入されるとともに、各気筒2A〜2Dの排気ポート12,12aから排気通路20に既燃ガスが排出される。そして、この場合には各気筒の空燃比が理論空燃比もしくはそれよりリッチとなるように吸入空気量および燃料噴射量が制御されることにより、エンジンの出力性能が確保される。
【0066】
このように、エンジンの運転領域によって上記特殊運転モードと通常運転モードとが選択され、低速低負荷側の部分負荷領域Aにおける燃費およびエミッションの改善効果が得られるとともに、高負荷側ないし高回転側の全負荷領域Bにおける出力性能の確保が図られることになる。
【0067】
そして、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aにおいて、上記着火アシスト手段46により後続気筒2A,2Dの圧縮自己着火を促進するとともに、上記開弁時期制御手段47により既燃ガス導入弁となる第2吸気弁31bの閉弁時期を、各気筒独立状態で燃焼が行われる上記通常運転モードの燃焼制御時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定することにより、上死点後の圧縮行程で上記第2吸気弁31bを閉止するように構成したため、後続気筒2B,2Cにおけるノッキングの発生を効果的に防止しつつ、後続気筒2B,2Cを適正に圧縮自己着火させることができる。
【0068】
すなわち、既燃ガス導入弁となる第2吸気弁31bの閉弁時期を上記時期に設定することにより、後続気筒2B,2Cのピストンが下死点を過ぎて上昇するのに応じ、後続気筒2B,2C内の混合が気筒間ガス通路22側に導出されるため、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比が低減されてノッキングの発生が効果的に防止されることになる。この反面、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低減した状態で、何らの手段も講じない場合には、圧縮自己着火を行わせることが困難な傾向があるが、上記のように着火アシスト手段46により後続気筒2B,2C内の混合気を圧縮上死点前に点火して点火プラグ7周りの圧力を急上昇させることにより、これに引き続く適正時期に圧縮自己着火させることができる。
【0069】
上記のように特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aで、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低減してノッキングの発生を抑制しつつ、着火アシストを実行することにより後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進し、後続気筒2B,2Cの燃焼室全体で混合気を急速に燃焼させた場合には、図9の実線aに示すように、気筒内の圧力を急上昇させることができる。これに対して上記特殊運転モードの燃焼を行うことなく、低温の新気もしくは排気通路20から少量の排気ガスをEGRガスとして吸気通路15に還流させた状態で火花点火により混合気を強制着火するようにした通常のエンジンでは図9の破線bに示すように、混合気が緩やかな燃焼が行われて仕事に寄与しないエネルギー成分が多くなることが避けられない。
【0070】
したがって、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aで、上記開弁時期制御手段47により既燃ガス導入弁となる第2吸気弁31bの閉弁時期を、新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定することにより、必要に応じて後続気筒2B,2Dのノッキングを抑制しつつ、上記着火アシスト制御手段46により着火アシストを行って後続気筒2B,2Cを適正に圧縮自己着火させることにより、効果的に燃費を改善することができるとともに、上記後続気筒2B,2C内における酸素と窒素との反応を可及的に回避してNOxの発生を充分に抑制することができる。
【0071】
特に、上記実施形態に示すように、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aで、火花点火制御手段からなる着火アシスト手段56により圧縮上死点前に後続気筒2B,2C内の混合気を点火して圧縮自己着火を促進するように構成した場合には、先行気筒2A,2Dから導出される既燃ガスの温度が低いために後続気筒2B,2Cで圧縮自己着火を行わせることが困難な低速低負荷領域A1においても、簡単な構成で後続気筒2B,2Cを適正時期に確実に圧縮自己着火させて効果的に燃費を改善することができるとともに、NOxの発生を充分に抑制できるという利点がある。上記先行気筒2A,2Dから導出される既燃ガスの温度が低い低速低負荷領域A1において、上記着火アシストにより後続気筒2B,2Cを確実に圧縮自己着火させ得るようにするためには、上記開弁時期制御手段47により既燃ガス導入弁となる第2吸気弁31bの閉弁時期を新気導入弁の閉止時期と同時期に設定することにより有効圧縮比の低下を防止することが好ましい。
【0072】
そして、上記のようにエンジンの部分負荷領域Aにおける中速中負荷領域A2よりも高速高負荷側の領域A3において、閉弁時期制御手段47により後続気筒2B,2Cに設けられた第2吸気弁31bからなる既燃ガス導入弁の閉弁時期を通常時よりも遅く設定し、上死点後の圧縮行程で上記既燃ガス導入弁を閉止することにより、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低減させるとともに、着火アシスト手段46により後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進するように構成した場合には、後続気筒2B,2Cにおけるノッキングの発生を抑制しつつ、後続気筒2B,2Cを圧縮自己着火させる領域を、エンジンの部分負荷領域Aにおける高速高負荷側A3の領域まで広げることにより、エンジンの燃費をさらに効果的に改善できるという利点がある。
【0073】
すなわち、エンジンの部分負荷領域Aにおける中速中負荷領域A2では、先行気筒2A,2Dから導出された適温の既燃ガスが後続気筒2B,2Cに導入されるため、上記着火アシスト手段46による圧縮自己着火の促進を行うことなく、圧縮上死点TDCの直後に混合気を圧縮自己着火させて筒内圧力を急上昇させることができる。これに対して上記部分負荷領域Aの高速高負荷領域A3では、後続気筒2B,2Cに導入される既燃ガスの温度が高すぎることに起因して、図9の一点鎖線cに示すように、後続気筒2B,2C内の混合気が圧縮上死点TDCの前に自然着火することによりノッキングが生じ易い傾向がある。このため、エンジンが部分負荷領域Aの高速高負荷領域A3にある場合には、上記既燃ガス導入弁の閉弁時期を、新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定することにより、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低減させる制御を閉弁時期制御手段47において実行することにより、後続気筒2B,2Cに導入される既燃ガスの温度が過度に高くなることに起因したノッキングの発生を効果的に防止しつつ、着火アシスト手段46において後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進する制御を実行することにより、図9の実線aで示すように、後続気筒2B,2C内の混合気を圧縮上死点TDCの近傍における適正時期に圧縮自己着火させることができる。
【0074】
また、上記のように特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aで後続気筒2B,2Cから排出されるガスが排気通路20に導かれるような2気筒接続状態としつつ、上記先行気筒2A,2Dでは空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン空燃比で燃焼を行わせ、上記後続気筒2B,2Cでは先行気筒2A,2Dから導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料を供給して燃焼を行わせるようにした火花点火式エンジンの制御装置において、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aでは、その高速高負荷側ほど、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低い値に設定する制御を上記閉弁時期制御手段47からなる有効圧縮比制御手段により実行するように構成してもよい。
【0075】
例えば上記第2吸気弁31b等を開閉駆動するソレノイドアクチュエータを備えた電磁動弁機構を設け、この電磁動弁機構の作動状態を、上記閉弁時期制御手段47において制御することにより、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aにおける第2吸気弁31bの閉弁時期Tをエンジン回転数および負荷に対応させて変化させ、エンジン回転数および負荷が高いほど、上記第2吸気弁31bの閉弁時期Tを遅く設定することにより、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低い値に設定する。このようにして上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aで、その高速高負荷側ほど後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低い値に設定することにより、上記部分負荷領域Aの高速高負荷領域におけるノッキングの発生を効果的に防止することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、特殊運転モードにおいて後続気筒2B,2Cの空燃比を略理論空燃比とし、この理論空燃比で燃焼した排気ガスのみを後続気筒2B,2Cから排気通路20に排出させるように構成したため、リーンNOx触媒を排気通路20に設けることなく、三元触媒24だけで充分に排気ガスの浄化性能を確保することができる。しかも、上記リーンNOx触媒を設ける必要がないことから、リーンNOx触媒のNOx吸蔵量増大時におけるNOxの放出、還元のための一時的なリッチ化を行う必要がなく、燃費改善効果の目減りを防止できるとともに、リーンNOx触媒が硫黄被毒するという問題が生じるのを防止できるという利点がある。
【0077】
さらに、上記実施形態に示すように、着火アシスト手段46により後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進する着火アシスト領域(部分負荷領域Aの低速低負荷領域A1)で、先行気筒2A,2Dを成層燃焼させるように構成した場合には、この先行気筒2A,2Dの空燃比を例えば理論空燃比の3倍以上の超リーン空燃比として燃焼を行わせることにより、顕著な燃費の改善効果を得ることができる。しかも、上記領域A1で先行気筒2A,2Dの空燃比を超リーン空燃比として後続気筒2B,2Cに導入される既燃ガスの温度が大きく低下した場合においても、後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進して適正時期に圧縮自己着火させる制御が着火アシスト手段46において実行されることにより、効果的に燃費を改善できるとともに、NOxの発生を充分に抑制できるという利点がある。
【0078】
なお、エンジンの温間時には、アイドル運転時から先行気筒2A,2Dの空燃比を理論空燃比の2倍以上としつつ、着火アシスト手段46により後続気筒の圧縮自己着火を促進するように構成してもよい。このようにエンジンの温間状態でアイドル運転時から上記特殊運転モードの制御を実行して先行気筒2A,Dでのリーン燃焼による熱効率向上および各気筒でのポンピングロス低減等により燃費改善効果が得られるようにしつつ、後続気筒2B,2Cに導入される既燃ガス温度を過度に高くなるのを防止して後続気筒2B,2Cにおけるノッキングの発生を効果的に防止するとともに、着火アシスト手段46により後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進する制御を適正に実行することができる。
【0079】
また、エンジンの運転領域が上記部分負荷領域Aにある場合に、後続気筒2B,2Cに対する燃料の噴射を、吸気行程と圧縮行程とに分割して行うとともに、エンジン回転数および負荷が増大するのに対応して、つまり上記部分負荷領域Aの高速高負荷領域A3側に移行するのに対応して上記圧縮行程における後期噴射量の割合を増大させるように構成してもよい(図10参照)。このように構成した場合には、後続気筒2B,2Cの圧縮行程の後期に噴射された燃料が気化するのに応じて筒内温度が低下するとともに、後続気筒2B,2C内で生成された混合気の活性化が抑制されるため、ノッキングの発生が効果的に防止されることになる。したがって、上記特殊運転モードの燃焼制御が実行される部分負荷領域Aを、その高速高負荷側に拡大することができるという利点がある。
【0080】
なお、上記実施形態では先行気筒2A,2D、後続気筒2B,2Cのいずれに対しても燃料噴射弁9は燃焼室に直接燃料を噴射する直噴タイプとしているが、後続気筒2B,2Cに対する燃料噴射弁は必ずしも直噴タイプに限定されず、例えば吸気ポートおよび気筒間ガス通路に燃料噴射弁を設け、通常運転モードでは吸気ポートの燃料噴射弁を駆動し、特殊運転モードでは気筒間ガス通路の燃料噴射弁を駆動するようにしてもよい。
【0081】
また、本発明の装置は、4気筒以外の多気筒エンジンにも適用可能である。そして、例えば6気筒等では1つの気筒の排気行程と別の気筒の吸気行程が完全に重なり合うことはないが、このような場合は、一方の気筒の排気行程が他方の気筒の吸気行程より先行するとともに、両行程が部分的に重なり合う2つの気筒を先行、後続の一対の気筒とすればよい。
【0082】
【発明の効果】
以上説明したようには、本発明は、複数の気筒を備えて、各気筒の燃焼サイクルが所定の位相差をもって行われるように構成するとともに、エンジンの部分負荷領域でエンジンの吸・排気および燃焼状態についての制御モードを特殊運転モードとし、この特殊運転モードでは、排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間において排気行程にある先行気筒から排出される既燃ガスが、気筒間ガス通路を介して吸気行程にある後続気筒に導入され、この後続気筒から排出されるガスが排気通路に導かれるような2気筒接続状態としつつ、上記先行気筒では空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン空燃比で燃焼を行わせ、上記後続気筒では先行気筒から導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料を供給して燃焼を行わせるようにした火花点火式エンジンの制御装置であって、後続気筒の圧縮自己着火を促進する着火アシスト手段と、後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁の閉弁時期を制御する閉弁時期制御手段とを備え、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域で、上記着火アシスト手段により後続気筒の圧縮自己着火を促進するとともに、上記閉弁時期制御手段により既燃ガス導入弁の閉弁時期を、上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定するように構成したため、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域で後続気筒の圧縮自己着火を促進し、後続気筒の燃焼室全体で混合気を急速に燃焼させて気筒内の圧力を急上昇させることにより、効果的に燃費を改善することができるとともに、上記後続気筒内における酸素と窒素との反応を可及的に回避してNOxの発生を充分に抑制することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る火花点火式エンジンの制御装置を備えたエンジン全体の概略平面図である。
【図2】エンジン本体等の概略断面図である。
【図3】動弁機構の切換手段の具体的構成を示す正面断面図である。
【図4】制御系統の具体的構成を示すブロック図である。
【図5】運転状態に応じた制御を行うための運転領域設定の一例を示す説明図である。
【図6】特殊運転モードにあるときの、各気筒の排気行程、吸気行程、燃料噴射時期および点火時期等を示す図である。
【図7】特殊運転モードにあるときの実質的な新気およびガスの流通経路を示す説明図である。
【図8】通常運転モードにあるときの実質的な新気およびガスの流通経路を示す説明図である。
【図9】エンジンのクランク角と筒内圧力との関係を示す説明図である。
【図10】後続気筒に対する既燃ガスの導入期間を変化させる場合の説明図である。
【符号の説明】
1 エンジン本体
2A〜2D 気筒
9 燃料噴射弁
22 気筒間ガス通路
31a 第1吸気弁(新気導入弁)
31b 第2吸気弁(既燃ガス導入弁)
40 ECU
46 着火アシスト手段
47 閉弁時期制御手段(有効圧縮比制御手段)
【発明の属する技術分野】
本発明は、火花点火式エンジンの制御装置に関し、より詳しくは、多気筒のエンジンにおいて燃費改善およびエミッション向上のために各気筒の燃焼状態を制御するようにしたエンジンに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、火花点火式エンジンにおいて、各気筒内の混合気の空燃比を理論空燃比よりも大きいリーン空燃比とした状態で燃焼を行わせることにより燃費改善を図る技術が知られており、例えば特許文献1に示されるように、燃焼室内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備え、低速低負荷領域等では上記燃料噴射弁から圧縮行程で燃料を噴射して成層燃焼を行わせることにより、燃費効率のよい超リーン燃焼を実現するようにしたものが知られている。
【0003】
このようなエンジンにおいては、排気ガス浄化用の触媒として通常の三元触媒(HC,COおよびNOxに対して理論空燃比付近で浄化性能の高い触媒)だけではリーン運転時にNOxに対して充分な浄化性能が得られないため、上記公報にも示されるように、酸素過剰雰囲気でNOxを吸着するとともに、酸素濃度の低下雰囲気でNOxの離脱、還元を行うリーンNOx触媒を設けている。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−274085号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来のリーン運転を行うエンジンでは、リーン運転中にNOx浄化性能を確保するために上記リーンNOx触媒が必要となってコスト的に不利である。また、上記リーンNOx触媒の浄化性能を維持するためには、NOx吸着量の増大時に、NOxの離脱、還元を行うために空燃比を一時的にリッチ化する必要がある。さらに、使用燃料が硫黄分を多く含む場合には、上記リーンNOx触媒の硫黄被毒を解消するために触媒の加熱および還元材供給等のリジェネレーション処理が必要となり、これらによって燃費改善効果が低下するという問題があった。
【0006】
また、燃費改善のための別の手法として、圧縮自己着火が研究されており、この圧縮自己着火は、ディーゼルエンジンと同様に圧縮行程終期に燃焼室内を高温・高圧にして混合気を自己着火させるようにするものであり、空燃比が超リーンの状態や多量のEGRが導入されている状態でも、このような圧縮自己着火が行われれば燃焼室全体で一気に燃焼が行われるため、仕事に寄与しない遅い燃焼が避けられて燃費改善に有利となる。
【0007】
しかし、通常の火花点火式ガソリンエンジンでは、燃焼のために強制点火が必要であって、圧縮上死点付近での燃焼室内の温度、圧縮自己着火を生じさせる程度まで圧力を高めることが困難であり、圧縮自己着火を行わせるために燃焼室内の温度または圧力を大幅に高め得るようにする格別の工夫が必要であるという問題があった。
【0008】
そこで、本出願人は、各気筒の燃焼サイクルが所定の位相差をもって行われる多気筒4サイクルエンジンにおいて、エンジンの部分負荷領域で、排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間において排気行程にある先行気筒から排出される既燃ガスをそのまま吸気行程にある後続気筒に導入し、この後続気筒から排出されるガスを、三元触媒を備えた排気通路に導くようにするとともに、このような2気筒接続状態にあるときに、上記先行気筒において理論空燃比よりも所定量大きいリーン空燃比とした状態で燃焼を行わせ、後続気筒では先行気筒から導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料を供給して理論空燃比とした状態で圧縮自己着火による燃焼を行わせるように燃焼状態等を制御(特殊運転モードという)する一方、高速領域や高負荷領域では、通常通り、各気筒において理論空燃比で燃焼を行わせるように燃焼状態等を制御(通常運転モードという)することを考えた(特願2002−024548号)。
【0009】
上記のように構成した場合には、特殊運転モードとされているときに、先行気筒でのリーン燃焼、各気筒におけるポンピングロスの低減等および後続気筒での圧縮自己着火の実現により大幅な燃費改善効果が得られ、しかも後続気筒から排出される理論空燃比の既燃ガスのみが三元触媒を備えた排気通路に導かれるため、三元触媒だけで充分に排気浄化性能が確保される。
【0010】
ところで、上記の構成を有するエンジンでは、特殊運転モードとされているときに、先行気筒から排出される既燃ガスの温度が高くなった場合に、高温のガスがそのまま後続気筒に導入されると、この後続気筒でノッキング、つまり燃焼室内で火炎が伝播する前に混合気が自然着火することによる異常燃焼を生じ易く、マイナストルクが発生することによりエンジン出力が低下する傾向がある。また、後続気筒で上記ノッキングの発生を防止するために先行気筒から排出される既燃ガスの温度を低下させる等の対策を講じた場合には、後続気筒内の温度が低いことに起因して圧縮自己着火を行わせることが困難になるという問題がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑み、エンジンの部分負荷領域で上記特殊運転モードとすることにより燃費およびエミッションの改善を図るとともに、後続気筒におけるノッキングの発生を抑制しつつ、圧縮自己着火を適正に行わせることができる火花点火式エンジンを提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、複数の気筒を備えて、各気筒の燃焼サイクルが所定の位相差をもって行われるように構成するとともに、エンジンの部分負荷領域でエンジンの吸・排気および燃焼状態についての制御モードを特殊運転モードとし、この特殊運転モードでは、排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間において排気行程にある先行気筒から排出される既燃ガスが、気筒間ガス通路を介して吸気行程にある後続気筒に導入され、この後続気筒から排出されるガスが排気通路に導かれるような2気筒接続状態としつつ、上記先行気筒では空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン空燃比で燃焼を行わせ、上記後続気筒では先行気筒から導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料を供給して燃焼を行わせるようにした火花点火式エンジンの制御装置であって、後続気筒の圧縮自己着火を促進する着火アシスト手段と、後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁の閉弁時期を制御する閉弁時期制御手段とを備え、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域で、上記着火アシスト手段により後続気筒の圧縮自己着火を促進するとともに、上記閉弁時期制御手段により既燃ガス導入弁の閉弁時期を、上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定するものである。
【0013】
この構成によると、エンジンの部分負荷領域で上記特殊運転モードとされた場合に、先行気筒でのリーン燃焼による熱効率向上および各気筒でのポンピングロス低減等により燃費改善効果が得られる。そして、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域では、後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁の閉弁時期が上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定されて下死点後の圧縮行程で上記既燃ガス導入弁が閉止されることにより、後続気筒内の有効圧縮比が低減されて後続気筒におけるノッキングの発生が効果的に防止されるとともに、着火アシスト手段により後続気筒の圧縮自己着火を促進する制御が適正に実行されることになる。
【0014】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の火花点火式エンジンの制御装置において、着火アシスト手段は、圧縮上死点前の圧縮上死点近傍で後続気筒内の混合気を点火する火花点火制御手段からなるものである。
【0015】
上記構成によれば、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域における低速低負荷領域で、後続気筒の圧縮上死点前においてその上死点近傍で混合気を点火して気筒内圧力を瞬時に高める制御が実行されることにより、後続気筒が適正時期に圧縮自己着火することになる。
【0016】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の火花点火式エンジンの制御装置において、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域の高速高負荷領域で、上記閉弁時期制御手段により既燃ガス導入弁の閉弁時期を通常運転モードの燃焼時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定するとともに、上記着火アシスト手段により後続気筒の圧縮自己着火を促進する制御を実行するものである。
【0017】
上記構成によれば、特殊運転モードの燃焼が行われることにより、気筒間ガス通路を介して後続気筒に導入される既燃ガスの温度が高い部分負荷領域の高速高負荷領域では、上記閉弁時期制御手段により既燃ガス導入弁の閉弁時期が上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定されて後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁が下死点後の圧縮行程で閉止されることにより、後続気筒の有効圧縮比が低減されて後続気筒におけるノッキングの発生が効果的に防止されるとともに、着火アシスト手段により後続気筒の圧縮自己着火を促進する制御が適正に実行されることになる。
【0018】
請求項4に係る発明は、複数の気筒を備えて、各気筒の燃焼サイクルが所定の位相差をもって行われるように構成するとともに、エンジンの部分負荷領域でエンジンの吸・排気および燃焼状態についての制御モードを特殊運転モードとし、この特殊運転モードでは、排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間において排気行程にある先行気筒から排出される既燃ガスが、気筒間ガス通路を介して吸気行程にある後続気筒に導入され、この後続気筒から排出されるガスが排気通路に導かれるような2気筒接続状態としつつ、上記先行気筒では空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン空燃比で燃焼を行わせ、上記後続気筒では先行気筒から導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料を供給して燃焼を行わせるようにした火花点火式エンジンの制御装置であって、後続気筒の有効圧縮比を制御する有効圧縮比制御手段を備え、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域では、上記有効圧縮比制御手段により部分負荷領域の高速高負荷側ほど後続気筒の有効圧縮比を低い値に設定するものである。
【0019】
上記構成によれば、エンジンの部分負荷領域で上記特殊運転モードとされた場合に、先行気筒でのリーン燃焼による熱効率向上および各気筒でのポンピングロス低減等により燃費改善効果が得られる。そして、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域では、先行気筒から導入される既燃ガス温度が高くなる傾向がある高速高負荷側ほど、後続気筒の有効圧縮比を低い値に設定する制御が上記有効圧縮比制御手段において実行されることにより、後続気筒のノッキングが効果的に抑制されることになる。
【0020】
請求項5に係る発明は、上記請求項4に記載の火花点火式エンジンの制御装置において、有効圧縮比制御手段は、後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁の閉弁時期を低速低負荷側の領域に比べて遅らせることにより後続気筒の有効圧縮比を低減するものである。
【0021】
上記構成によれば、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域の高速高負荷領域では、その低速低負荷領域に比べ、後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁の閉弁時期を遅らせる制御が上記有効圧縮比制御手段において実行されることにより、上記高速高負荷領域における後続気筒の有効圧縮比が低減されてノッキングの発生が効果的に防止されることになる。
【0022】
請求項6に係る発明は、上記請求項1〜5の何れかに記載の火花点火式エンジンの制御装置において、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域では、後続気筒に対する燃料噴射を前期と後期とに分割して行うとともに、上記部分負荷領域の高速高負荷側ほど後期噴射量の割合を増大させるものである。
【0023】
上記構成によれば、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域では、その高速高負荷側ほど後続気筒内に分割して噴射される燃料の後期噴射量を増大させる制御が実行されることにより、圧縮行程で噴射された燃焼が気化するのに応じて筒内温度が低減するとともに、後続気筒内で生成された混合気の活性化が抑制されるため、後続気筒におけるノッキングの発生が効果的に防止されることになる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態によるエンジンの概略構成を示し、図2はエンジン本体1の一つの気筒とそれに対して設けられた吸・排気弁等の構造を概略的に示している。これらの図において、エンジン本体1は、シリンダヘッド1aおよびシリンダブロック1bで構成された複数の気筒を有し、図示の実施形態では4つの気筒2A〜2Dを有している。各気筒2A〜2Dにはピストン3が嵌挿され、ピストン3の上方に燃焼室4が形成されている。
【0025】
各気筒2の燃焼室4の頂部には点火プラグ7が装備され、そのプラグ先端が燃焼室4内に臨んでいる。この点火プラグ7には、電子制御による点火時期のコントロールが可能な点火回路8が接続されている。
【0026】
燃焼室4の側方部には、燃焼室4内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁9が設けられている。この燃料噴射弁9は、図略のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、後述のパルス信号が入力されることにより、そのパルス入力時期にパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を噴射するように構成されている。なお、この燃料噴射弁9には図外の燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給され、かつ、圧縮行程での燃焼室4内の圧力よりも高い燃料圧力を与え得るように燃料供給系統が構成されている。
【0027】
また、各気筒2A〜2Dの燃焼室4に対して吸気ポート11、11a,11bおよび排気ポート12、12a,12bが開口し、これらのポートに吸気通路15、排気通路20等が接続されるとともに、各ポートが吸気弁31、31a,31bおよび排気弁32、32a,32bにより開閉されるようになっている。
【0028】
そして、各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなるサイクルを行うように構成され、4気筒エンジンの場合において、気筒列方向一端側から1番気筒2A、2番気筒2B、3番気筒2C、4番気筒2Dと呼ぶと、図6に示すように、上記サイクルが1番気筒2A、3番気筒2C、4番気筒2D、2番気筒2Bの順にクランク角で180°ずつの位相差をもって行われるようになっている。なお、図6は4サイクル4気筒エンジンにおいて後に詳述するように特殊運転モードとされたときの各気筒の行程、燃料噴射時期、点火時期等を示すものであり、この図において、EXは排気行程、INは吸気行程、Fは燃料噴射、Sは火花点火を表し、図中の星マークは圧縮自己着火が行われることを表している。
【0029】
排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間には、排気行程と吸気行程が重なるときの排気行程側の気筒(当明細書ではこれを先行気筒と呼ぶ)から、吸気行程側の気筒(当明細書ではこれを後続気筒と呼ぶ)へ既燃ガスをそのまま導くことができるように、気筒間ガス通路22が設けられている。当実施形態の4サイクル4気筒エンジンでは、1番気筒2Aの排気行程(EX)と2番気筒2Bの吸気行程(IN)とが重なり、また4番気筒2Dの排気行程(EX)と3番気筒2Cの吸気行程(IN)が重なるので(図6参照)、1番気筒2Aと2番気筒2B、および、4番気筒2Dと3番気筒2Cがそれぞれ一対をなし、1番気筒2Aおよび4番気筒2Dが先行気筒となるとともに、2番気筒2Bおよび3番気筒2Cが後続気筒となる。
【0030】
各気筒の吸・排気ポートとこれに接続される吸気通路、排気通路および気筒間ガス通路は、具体的には次のように構成されている。先行気筒である1番気筒2Aおよび4番気筒2Dには、それぞれ新気を導入するための吸気ポート11と、既燃ガス(排気ガス)を排気通路20に送り出すための第1排気ポート12aと、既燃ガスを後続気筒に導出するための第2排気ポート12bとが配設されている。また、後続気筒である2番気筒2Bおよび3番気筒2Cには、それぞれ新気を導入するための第1吸気ポート11aと、先行気筒2A,2Dからの既燃ガスを導入するための第2吸気ポート11bと、既燃ガスを排気通路20に送り出すための排気ポート12とが配設されている。
【0031】
図1に示す例では、1番,4番気筒(先行気筒)2A,2Dにおける吸気ポート11および2番,3番気筒(後続気筒)2B,2Cにおける第1吸気ポート11aが、1気筒当り2個ずつ、燃焼室の左半部側に並列的に設けられる一方、先行気筒2A,2Dにおける第1排気ポート12aおよび第2排気ポート12bならびに後続気筒2B,2Cにおける第2吸気ポート11bおよび排気ポート12が、燃焼室の右半部側に並列的に設けられている。
【0032】
先行気筒2A,2Dにおける吸気ポート11および2番,3番気筒2B,2Cにおける第1吸気ポート11aには、吸気通路15における気筒別の分岐吸気通路16の下流端が接続されている。各分岐吸気通路16の下流端近傍には、共通の軸を介して互いに連動する多連スロットル弁17が設けられており、この多連スロットル弁17は制御信号に応じてアクチュエータ18により駆動され、吸入空気量を調節するようになっている。なお、吸気通路15における集合部より上流の共通吸気通路15aには、吸気流量を検出するエアフローセンサ19が設けられている。
【0033】
先行気筒2A,2Dにおける第1排気ポート12aおよび2番,3番気筒2B,2Cにおける排気ポート12には、排気通路20における気筒別の分岐排気通路21の上流端が接続されている。また、1番気筒2Aと2番気筒2Bとの間および3番気筒2Cと4番気筒2Dとの間に、それぞれ気筒間ガス通路22が設けられ、先行気筒である1番,4番気筒2A,2Dの第2排気ポート12bに気筒間ガス通路22の上流端が接続されるとともに、後続気筒である2番,3番気筒2B,2Cの第2吸気ポート11bに気筒間ガス通路22の下流端が接続されている。
【0034】
排気通路20における分岐排気通路21の下流の集合部には排気ガス中の酸素濃度を検出することにより空燃比を検出するO2センサ23が設けられている。さらにO2センサ23の下流の排気通路20には、排気浄化のために三元触媒24が設けられている。この三元触媒24は、一般に知られているように、排気ガスの空燃比が理論空燃比(つまり空気過剰率λがλ=1)付近にあるときにHC,COおよびNOxに対して高い浄化性能を示す触媒である。また、上記O2センサ23は、排気ガス中の酸素濃度を検出することにより空燃比を検出するもので、特に理論空燃比付近で出力が急変するλO2センサにより構成されている。
【0035】
上記気筒間ガス通路22には、排気ガス中における酸素濃度の変化(空燃比の変化)に対して出力がリニアに変化するリニアO2センサ25が設けられている。各気筒2A〜2Dの吸・排気ポートを開閉する吸・排気弁とこれらに対する動弁機構は、次のようになっている。
【0036】
先行気筒2A,2Dにおける吸気ポート11、第1排気ポート12aおよび第2排気ポート12bには、それぞれ吸気弁31、第1排気弁32aおよび第2排気弁32bが設けられ、また、後続気筒2B,2Cにおける第1吸気ポート11a、第2吸気ポート11bおよび排気ポート12には、それぞれ第1吸気弁31a、第2吸気弁31bおよび排気弁32が設けられている。そして、各気筒の吸気行程や排気行程が上述のような所定の位相差をもって行われるように、これら吸・排気弁がそれぞれカムシャフト34,34等からなる動弁機構により所定のタイミングで開閉するように駆動される。
【0037】
さらに、上記吸・排気弁のうちで第1吸気弁31a、第1排気弁32aおよび第2排気弁32bの動弁機構には、各弁を作動状態と停止状態とに切り換える第1切換手段35aが設けられている。また、上記吸・排気弁のうちで第2吸気弁31b、つまり先行気筒2A,2Dから導出された既燃ガスを後続気筒2B,2Cに導入させる既燃ガス導入弁の動弁機構には、上記第2吸気弁31bを作動状態と停止状態とに切り換えるとともに、その開弁期間を切り換える第2切換手段35bが設けられている。
【0038】
上記第1切換手段35aは、例えば図3に示すように、第1吸気弁31a、第1排気弁32aおよび第2排気弁32bの上方に配設されたカムシャフト34と、このカムシャフト34と上記各弁との間に配設されたロッカシャフト55と、このロッカシャフト55に支持された第1〜第3ロッカアーム56〜58とを有している。また、上記カムシャフト34には、円形の外周面を有する弁停止用の第1カム52と、弁駆動用の突部(カムノーズ)を有する第2,第3カム53,54とが一体に形成されている。この第2,第3カム53,54は、同一形状を有し、上記第1カム52を挟むようにその左右に配設されている。
【0039】
上記第1ロッカアーム56は、第1カム52に対応した位置に配設されるとともに、その先端部には第1吸気弁31a、第1排気弁32aまたは第2排気弁32bの弁軸上端に当接する当接部60が設けられている。一方、上記第2,第3ロッカアーム58,59は、第1ロッカアーム57を挟むようにその両側方に配設されるとともに、第1ロッカアーム57とは切り離された状態で、図外の付勢手段により、それぞれ上記第2,第3カム53,54に圧接されるように付勢されている。
【0040】
また、第2,第3ロッカアーム57,58は、上記第1ロッカアーム56と連結可能に構成されている。具体的には、上記第2,第3ロッカアーム57,58に設けられたプランジャー(図示せず)が、後述する第1,第2作動油給排通路36,38から供給された作動油により駆動され、その先端部が上記第1ロッカアーム56に形成された連結孔(図示せず)内に挿入される等により、上記第1ロッカアーム56と第2,第3ロッカアーム57,58とが一体に連結された状態で揺動変位するようになっている。
【0041】
すなわち、上記第1,第2作動油給排通路36,38に設けられた第1,第2コントロール弁37,39により上記第1,第2作動油給排通路36,38からの作動油の給排を制御して第1ロッカアーム56と第2,第3ロッカアーム57,58とを一体に連結することにより、上記第2,第3カム53,54により駆動される第1,第2ロッカアーム57,58の駆動力が第1ロッカアーム56に伝達されて上記第1吸気弁31a、第1排気弁32aまたは第2排気弁32bが開閉駆動されることになる。
【0042】
一方、第1ロッカアーム56と第2,第3ロッカアーム57,58との連結状態が解除されると、第2,第3ロッカアーム57,58から第1ロッカアーム56への駆動力の伝達が遮断され、カムシャフト34が回転しても第1ロッカアーム56が揺動変位することなく、上記第1吸気弁31a、第1排気弁32aまたは第2排気弁32bが閉弁状態に維持されるようになっている。
【0043】
また、第2吸気弁31bの動弁機構に設けられた第2切換手段35bは、上記第2カム53のカムノーズと、第3カム54のカムノーズとが異なる形状に形成されるとともに、上記第1ロッカアーム56が第2ロッカアーム57に連結された状態と、上記第1ロッカアーム56が第3ロッカアーム58に連結された状態とに選択的に切り換えられることにより、上記カムシャフト34に設けられた第2,第3カム53,54の何れか一方により駆動される第2吸気弁31bの開弁期間が切り換えられるように構成された点を除き、上記第1切換手段35aと同様に構成されている。上記のように第2吸気弁31bの開弁期間が切り換えられることにより、第2吸気弁31bの閉弁時期が、後述するように下死点の直後に設定された通常状態から、下死点よりも遅い圧縮行程の所定時期に設定された特定状態に切り換えられるようになっている。
【0044】
図4は、エンジンの駆動、制御系統の構成を示している。この図の中に示すように、上記第1排気弁32a用の第1切換手段35aと、第2吸気弁31a用の第1切換手段35aとに対する作動油給排用の通路36には、第1コントロール弁37が設けられ、また上記第2排気弁32b用の第1切換手段35aと、第2吸気弁31b用の第2切換手段35bとに対する作動油給排用の通路38には、第2コントロール弁39が設けられている。
【0045】
同図において、40はマイクロコンピュータ等からなるエンジン制御用のECU(エンジンコントロールユニット)であり、このECU40には、エアフローセンサ19、O2センサ23およびリニアO2センサ25からの信号が入力され、さらに運転状態を判別するためにエンジン回転数を検出する回転数センサ61およびアクセル開度(アクセルペダル踏込み量)を検出するアクセル開度センサ62等からの信号も入力されている。また、このECU40から、各点火プラグ8および燃料噴射弁9と、多連スロットル弁17のアクチュエータ18と、上記第1,第2のコントロール弁37,39とに対して制御信号が出力されている。
【0046】
上記ECU40は、運転状態判別手段41、モード設定手段42、切換機構制御手段43、吸入空気量制御手段44、燃料噴射制御手段45、着火アシスト手段46および閉弁時期制御手段47を備えている。
【0047】
上記運転状態判別手段41は、図5に示すように、エンジンの運転領域が低速低負荷側の領域A(部分負荷領域)と、高速側ないし高負荷側の領域(全負荷領域)Bとに区画された制御用マップを有し、低速低負荷側の部分負荷領域Aを特殊運転モード領域、高速側ないし高負荷側の全負荷領域Bを通常運転モード領域として設定し、上記回転数センサ61およびアクセル開度センサ62等からの信号により調べられるエンジンの運転状態(エンジン回転数およびエンジン負荷)が、上記領域A,Bのいずれにあるかを判別するようになっている。
【0048】
さらに、上記特殊運転モード領域となる部分負荷領域Aは、その中でもエンジンの回転速度および負荷が最も低い低速低負荷領域A1と、この低速低負荷領域A1よりもエンジン回転数および負荷が高い中速中負荷領域A2と、この中速中負荷領域A2よりもエンジン回転数および負荷がさらに高い高速高負荷領域A3とに区画されている。
【0049】
上記モード設定手段42は、運転状態判別手段41による判別に基づき、上記特殊運転モード領域Aでは、排気行程にある先行気筒2A,2Dから排出される既燃ガスをそのまま吸気行程にある後続気筒2B,2Cに導入して燃焼させる特殊運転モードを選択し、上記通常運転モード領域Bでは、各気筒をそれぞれ独立させ燃焼させる通常運転モードを選択するようになっている。
【0050】
上記切換機構制御手段43は、モード設定手段42による運転モードの設定に応じ、特殊運転モードでは気筒間ガス通路22を介して先行気筒2A,2Dの既燃ガスを後続気筒2B,2Dに導入させる2気筒接続状態とし、通常運転モードでは各気筒にそれぞれ新気を導入させる各気筒独立状態とするように吸・排気流通経路を変更すべく第1,第2切換手段35a,35bを制御するもので、具体的には運転状態が領域A,Bのいずれにあるかに応じ、上記各コントロール弁37,39を制御して第1,第2切換手段35a,35bを作動させることにより、上記吸・排気弁31a〜32bを次のように制御する。
【0051】
領域A:(特殊運転モード)
第1排気弁32aおよび第1吸気弁31aを停止状態
第2排気弁32bおよび第2吸気弁31bを作動状態
領域B:(通常運転モード)
第1排気弁32aおよび第1吸気弁31aを作動状態
第2排気弁32bおよび第2吸気弁31bを停止状態
上記吸入空気量制御手段44は、アクチュエータ18を制御することによりスロットル弁17の開度(スロットル開度)を制御するものであり、予め設定されたマップ等から運転状態に対応した目標吸入空気量を求め、その目標吸入空気量に応じてスロットル開度を制御する。この場合、特殊運転モードとされる運転領域Aでは、後続気筒2B,2Cにおいて分岐吸気通路16からの吸気導入が遮断された状態で先行気筒2A,2Dから導入されるガス中の過剰空気と新たに供給される燃料との比が理論空燃比とされつつ燃焼が行われるので、先行・後続の2気筒分の要求トルクに応じた燃料の燃焼に必要な量の空気(2気筒分の燃料の量に対して理論空燃比となる量の空気)が先行気筒2A,2Dに供給されるように、スロットル開度が調節される。
【0052】
上記燃料噴射制御手段45は、各気筒2A〜2Dに設けられた燃料噴射弁9からの燃料噴射量および噴射タイミングをエンジンの運転状態に応じて制御する。そして、特に上記モード設定手段42により設定される運転モードに応じ、燃料噴射量および噴射タイミングが変更される。
【0053】
すなわち、特殊運転モードが設定された場合、先行気筒2A,2Dに対しては、空燃比が理論空燃比よりも大幅にリーンな空燃比、例えば理論空燃比の略2倍もしくはそれ以上となるように燃料噴射量を制御するとともに、圧縮行程で燃料を噴射して混合気の成層化を行わせるように噴射時期を設定する。そして、圧縮上死点付近で点火が行われることにより成層燃焼が行われるようにする。
【0054】
一方、後続気筒2B,2Cに対しては、先行気筒2A,2Dから導入されたリーン空燃比の既燃ガスに対して燃料を供給し、後続気筒2B,2Cでの燃焼の際に実質的に理論空燃比となるように燃料噴射量を制御するとともに、既燃ガスが多い状況下で着火、燃焼が可能なように噴射タイミングを設定する。例えば、先行気筒2A,2Dから導入される既燃ガスの温度が充分に高く、後続気筒2B,2Cが圧縮行程で自己着火し得るような温度状態となる場合は、後続気筒2B,2Cの吸気行程で燃料を噴射することにより混合気を均一化するように噴射時期を設定する。
【0055】
また、通常運転モードが選択された場合には、各気筒2A〜2Dの空燃比を理論空燃比もしくはそれ以下とするように燃料噴射量を制御し、例えば通常運転モード領域Bのうち大部分の領域において理論空燃比とし、最大負荷領域およびその付近の運転領域で理論空燃比よりリッチとする。そして、この場合に、各気筒2A〜2Dに対して吸気行程で燃料を噴射して混合気を均一化するように噴射時期を設定する。
【0056】
上記着火アシスト手段46は、エンジンの運転領域が上記部分負荷領域Aの低速低負荷領域A1にあることが上記運転状態判別手段41において判別された場合に、後続気筒2B,2C内の混合気を、その圧縮上死点前における圧縮上死点の近傍で点火することにより、上記後続気筒2B,2Cで圧縮自己着火が行われるように促進する火花点火制御手段により構成されている。すなわち、後続気筒2B,2Cのピストン位置が圧縮上死点に近づいた時点で、点火プラグ7に点火指令信号を出力して混合気に点火することにより、点火プラグ7周りの圧力を急激に上昇させて混合気の圧縮自己着火を誘発するようになっている。
【0057】
また、エンジンの運転領域が上記部分負荷領域Aの高速高負荷領域A3にあることが上記運転状態判別手段41において判別された場合においても、後続気筒2B,2C内の混合気を、その圧縮上死点前における圧縮上死点の近傍で点火することにより、上記後続気筒2B,2Cで圧縮自己着火が行われるように促進する制御が上記着火アシスト手段46において実行されるようになっている。この着火アシスト手段46により上記高速高負荷領域A3で後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進する制御を実行する際には、後続気筒2B,2Cに設けられた既燃ガス導入弁(第2吸気弁31b)の閉弁時期を下死点後の圧縮行程に設定することにより、後続気筒2B,2Cのノッキングを抑制する制御が上記閉弁時期制御手段47において実行されるように構成されている。
【0058】
上記閉弁時期制御手段47は、上記特殊運転モードによる制御が行われる部分負荷領域Aの高速高負荷領域A3において、後続気筒2B,2Cのノッキングを抑制するために有効圧縮比を低減させる有効圧縮比制御手段としての機能を有するものである。
【0059】
具体的には、図3に示すように、カムシャフト34に設けられた複数個のカム53,54を選択的に切り換えることにより、気筒間ガス通路22を介して後続気筒2B,2Cに既燃ガスを導入させる既燃ガス導入弁(第2吸気弁31b)の閉弁時期Tを、低速低負荷領域A1を含む通常の領域では、図10の実線で示すように、上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁(第1吸気弁31a)の閉止時期と同時期である下死点B直後の時点T1に設定するとともに、高速高負荷領域A3では、図10の破線で示すように、上記新気導入弁の閉弁時期よりも遅い時期に設定して下死点後における圧縮行程の所定時期T2に既燃ガス導入弁を閉止させるようになっている。これにより、上記高速高負荷領域A3では、下死点Bを過ぎてピストンが上昇するのに応じて後続気筒2B,2C内の混合気が気筒間ガス通路22側に導出される結果、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比が低減されてノッキングの発生が効果的に防止されることになる。
【0060】
以上のような当実施形態の装置の作用を、図5〜図8を参照しつつ説明する。上記低速低負荷側の部分領域Aでは、特殊運転モードとされ、前述のように第1排気弁32aおよび第1吸気弁31aが停止状態、第2排気弁32bおよび第2吸気弁31bが作動状態とされることにより、実質的な新気およびガスの流通経路は図7に示すような2気筒接続状態とされ、先行気筒2A,2Dから排出される既燃ガスがそのまま気筒間ガス通路22を介して後続気筒2B,2Cに導入されるとともに、この後続気筒2B,2Cから排出される既燃ガスのみが排気通路20に導かれる。
【0061】
この状態において、先行気筒2A,2Dにそれぞれ吸気行程で吸気通路15から新気が導入され(図7中の矢印a)、先行気筒2A,2Dでは、空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン空燃比となるように燃料噴射量が制御されつつ、図6に示すように、圧縮行程で燃料噴射Fが実行され、かつ、所定時期に点火Sが行われることにより、先行気筒2A,2Dが成層燃焼となる。
【0062】
そして、先行気筒2A,2Dの吸気行程と後続気筒2B,2Cの排気行程とが重なる期間に、先行気筒2A,2Dから排出された既燃ガスが気筒間ガス通路22を通って後続気筒2B,2Cに導入されるとともに(図6中の白抜き矢印および図7中の矢印b)、後続気筒2B,2Cでは、先行気筒2A,2Dから導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料が供給されて理論空燃比となるように、O2センサ23の出力に基づいて燃料噴射量が制御されつつ、適当なタイミングで燃料が噴射されて燃焼が行われる。例えば、先行気筒2A,2Dから導入される既燃ガスの温度が充分に高い場合、後続気筒2B,2Cにおいて吸気行程で燃料が噴射され、この燃料が均一に分散した状態で、圧縮行程の上死点付近において自己着火が生じ、この圧縮自己着火による燃焼が行われる(図6参照)。そして、後続気筒2B,2Cでの燃焼後の既燃ガスは、三元触媒24を備えた排気通路20に排出される(図7中の矢印c)。
【0063】
このように、先行気筒2A,2Dではリーン空燃比での成層燃焼が行われることにより、熱効率が高められるとともにポンピングロスが低減され、これらの相乗効果で大幅に燃費が改善される。また、後続気筒2B,2Cでは、先行気筒から押出された既燃ガスが導入されるためポンピングロス低減効果が高められ、さらに、上記圧縮自己着火が行われる場合、略均一な混合気分布状態での同時多点自己着火により燃焼が急速に進行し、これによって熱効率が大幅に向上される。これらの作用で後続気筒2B,2Cにおいても大幅な燃費の改善効果が得られる。しかも、後続気筒2B,2Cから排気通路20に排出されるガスは理論空燃比であるため、従来のリーンバーンエンジンのようにリーンNOx触媒を排気通路20に設ける必要がなく、三元触媒24を設けるだけで充分に排気浄化性能が確保されることになる。
【0064】
また、先行気筒2A,2Dでは、その空燃比が理論空燃比の略2倍もしくはそれ以上のリーン空燃比とされることでNOx発生量が比較的少なく抑えられ、後続気筒2B,2Cでは、先行気筒2A,2Dからの既燃ガスが導入されることで多量のEGRが行われているのと同等の状態となることからNOxの発生が充分に抑制される。このような点からもエミッションの向上に有利となる。
【0065】
一方、高負荷側ないし高回転側の全負荷領域Bでは、通常運転モードとされ、前述のように第1排気弁32aおよび第1吸気弁31aが作動状態、第2排気弁32bおよび第2吸気弁31bが停止状態とされることにより、実質的な新気およびガスの流通経路は図8に示すような各気筒独立状態とされ、実質的に各気筒2A〜2Dの吸気ポート11,11aおよび排気ポート12a,12が独立し、吸気通路15から各気筒2A〜2Dの吸気ポート11,11aに新気が導入されるとともに、各気筒2A〜2Dの排気ポート12,12aから排気通路20に既燃ガスが排出される。そして、この場合には各気筒の空燃比が理論空燃比もしくはそれよりリッチとなるように吸入空気量および燃料噴射量が制御されることにより、エンジンの出力性能が確保される。
【0066】
このように、エンジンの運転領域によって上記特殊運転モードと通常運転モードとが選択され、低速低負荷側の部分負荷領域Aにおける燃費およびエミッションの改善効果が得られるとともに、高負荷側ないし高回転側の全負荷領域Bにおける出力性能の確保が図られることになる。
【0067】
そして、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aにおいて、上記着火アシスト手段46により後続気筒2A,2Dの圧縮自己着火を促進するとともに、上記開弁時期制御手段47により既燃ガス導入弁となる第2吸気弁31bの閉弁時期を、各気筒独立状態で燃焼が行われる上記通常運転モードの燃焼制御時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定することにより、上死点後の圧縮行程で上記第2吸気弁31bを閉止するように構成したため、後続気筒2B,2Cにおけるノッキングの発生を効果的に防止しつつ、後続気筒2B,2Cを適正に圧縮自己着火させることができる。
【0068】
すなわち、既燃ガス導入弁となる第2吸気弁31bの閉弁時期を上記時期に設定することにより、後続気筒2B,2Cのピストンが下死点を過ぎて上昇するのに応じ、後続気筒2B,2C内の混合が気筒間ガス通路22側に導出されるため、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比が低減されてノッキングの発生が効果的に防止されることになる。この反面、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低減した状態で、何らの手段も講じない場合には、圧縮自己着火を行わせることが困難な傾向があるが、上記のように着火アシスト手段46により後続気筒2B,2C内の混合気を圧縮上死点前に点火して点火プラグ7周りの圧力を急上昇させることにより、これに引き続く適正時期に圧縮自己着火させることができる。
【0069】
上記のように特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aで、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低減してノッキングの発生を抑制しつつ、着火アシストを実行することにより後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進し、後続気筒2B,2Cの燃焼室全体で混合気を急速に燃焼させた場合には、図9の実線aに示すように、気筒内の圧力を急上昇させることができる。これに対して上記特殊運転モードの燃焼を行うことなく、低温の新気もしくは排気通路20から少量の排気ガスをEGRガスとして吸気通路15に還流させた状態で火花点火により混合気を強制着火するようにした通常のエンジンでは図9の破線bに示すように、混合気が緩やかな燃焼が行われて仕事に寄与しないエネルギー成分が多くなることが避けられない。
【0070】
したがって、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aで、上記開弁時期制御手段47により既燃ガス導入弁となる第2吸気弁31bの閉弁時期を、新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定することにより、必要に応じて後続気筒2B,2Dのノッキングを抑制しつつ、上記着火アシスト制御手段46により着火アシストを行って後続気筒2B,2Cを適正に圧縮自己着火させることにより、効果的に燃費を改善することができるとともに、上記後続気筒2B,2C内における酸素と窒素との反応を可及的に回避してNOxの発生を充分に抑制することができる。
【0071】
特に、上記実施形態に示すように、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aで、火花点火制御手段からなる着火アシスト手段56により圧縮上死点前に後続気筒2B,2C内の混合気を点火して圧縮自己着火を促進するように構成した場合には、先行気筒2A,2Dから導出される既燃ガスの温度が低いために後続気筒2B,2Cで圧縮自己着火を行わせることが困難な低速低負荷領域A1においても、簡単な構成で後続気筒2B,2Cを適正時期に確実に圧縮自己着火させて効果的に燃費を改善することができるとともに、NOxの発生を充分に抑制できるという利点がある。上記先行気筒2A,2Dから導出される既燃ガスの温度が低い低速低負荷領域A1において、上記着火アシストにより後続気筒2B,2Cを確実に圧縮自己着火させ得るようにするためには、上記開弁時期制御手段47により既燃ガス導入弁となる第2吸気弁31bの閉弁時期を新気導入弁の閉止時期と同時期に設定することにより有効圧縮比の低下を防止することが好ましい。
【0072】
そして、上記のようにエンジンの部分負荷領域Aにおける中速中負荷領域A2よりも高速高負荷側の領域A3において、閉弁時期制御手段47により後続気筒2B,2Cに設けられた第2吸気弁31bからなる既燃ガス導入弁の閉弁時期を通常時よりも遅く設定し、上死点後の圧縮行程で上記既燃ガス導入弁を閉止することにより、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低減させるとともに、着火アシスト手段46により後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進するように構成した場合には、後続気筒2B,2Cにおけるノッキングの発生を抑制しつつ、後続気筒2B,2Cを圧縮自己着火させる領域を、エンジンの部分負荷領域Aにおける高速高負荷側A3の領域まで広げることにより、エンジンの燃費をさらに効果的に改善できるという利点がある。
【0073】
すなわち、エンジンの部分負荷領域Aにおける中速中負荷領域A2では、先行気筒2A,2Dから導出された適温の既燃ガスが後続気筒2B,2Cに導入されるため、上記着火アシスト手段46による圧縮自己着火の促進を行うことなく、圧縮上死点TDCの直後に混合気を圧縮自己着火させて筒内圧力を急上昇させることができる。これに対して上記部分負荷領域Aの高速高負荷領域A3では、後続気筒2B,2Cに導入される既燃ガスの温度が高すぎることに起因して、図9の一点鎖線cに示すように、後続気筒2B,2C内の混合気が圧縮上死点TDCの前に自然着火することによりノッキングが生じ易い傾向がある。このため、エンジンが部分負荷領域Aの高速高負荷領域A3にある場合には、上記既燃ガス導入弁の閉弁時期を、新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定することにより、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低減させる制御を閉弁時期制御手段47において実行することにより、後続気筒2B,2Cに導入される既燃ガスの温度が過度に高くなることに起因したノッキングの発生を効果的に防止しつつ、着火アシスト手段46において後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進する制御を実行することにより、図9の実線aで示すように、後続気筒2B,2C内の混合気を圧縮上死点TDCの近傍における適正時期に圧縮自己着火させることができる。
【0074】
また、上記のように特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aで後続気筒2B,2Cから排出されるガスが排気通路20に導かれるような2気筒接続状態としつつ、上記先行気筒2A,2Dでは空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン空燃比で燃焼を行わせ、上記後続気筒2B,2Cでは先行気筒2A,2Dから導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料を供給して燃焼を行わせるようにした火花点火式エンジンの制御装置において、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aでは、その高速高負荷側ほど、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低い値に設定する制御を上記閉弁時期制御手段47からなる有効圧縮比制御手段により実行するように構成してもよい。
【0075】
例えば上記第2吸気弁31b等を開閉駆動するソレノイドアクチュエータを備えた電磁動弁機構を設け、この電磁動弁機構の作動状態を、上記閉弁時期制御手段47において制御することにより、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aにおける第2吸気弁31bの閉弁時期Tをエンジン回転数および負荷に対応させて変化させ、エンジン回転数および負荷が高いほど、上記第2吸気弁31bの閉弁時期Tを遅く設定することにより、後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低い値に設定する。このようにして上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域Aで、その高速高負荷側ほど後続気筒2B,2Cの有効圧縮比を低い値に設定することにより、上記部分負荷領域Aの高速高負荷領域におけるノッキングの発生を効果的に防止することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、特殊運転モードにおいて後続気筒2B,2Cの空燃比を略理論空燃比とし、この理論空燃比で燃焼した排気ガスのみを後続気筒2B,2Cから排気通路20に排出させるように構成したため、リーンNOx触媒を排気通路20に設けることなく、三元触媒24だけで充分に排気ガスの浄化性能を確保することができる。しかも、上記リーンNOx触媒を設ける必要がないことから、リーンNOx触媒のNOx吸蔵量増大時におけるNOxの放出、還元のための一時的なリッチ化を行う必要がなく、燃費改善効果の目減りを防止できるとともに、リーンNOx触媒が硫黄被毒するという問題が生じるのを防止できるという利点がある。
【0077】
さらに、上記実施形態に示すように、着火アシスト手段46により後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進する着火アシスト領域(部分負荷領域Aの低速低負荷領域A1)で、先行気筒2A,2Dを成層燃焼させるように構成した場合には、この先行気筒2A,2Dの空燃比を例えば理論空燃比の3倍以上の超リーン空燃比として燃焼を行わせることにより、顕著な燃費の改善効果を得ることができる。しかも、上記領域A1で先行気筒2A,2Dの空燃比を超リーン空燃比として後続気筒2B,2Cに導入される既燃ガスの温度が大きく低下した場合においても、後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進して適正時期に圧縮自己着火させる制御が着火アシスト手段46において実行されることにより、効果的に燃費を改善できるとともに、NOxの発生を充分に抑制できるという利点がある。
【0078】
なお、エンジンの温間時には、アイドル運転時から先行気筒2A,2Dの空燃比を理論空燃比の2倍以上としつつ、着火アシスト手段46により後続気筒の圧縮自己着火を促進するように構成してもよい。このようにエンジンの温間状態でアイドル運転時から上記特殊運転モードの制御を実行して先行気筒2A,Dでのリーン燃焼による熱効率向上および各気筒でのポンピングロス低減等により燃費改善効果が得られるようにしつつ、後続気筒2B,2Cに導入される既燃ガス温度を過度に高くなるのを防止して後続気筒2B,2Cにおけるノッキングの発生を効果的に防止するとともに、着火アシスト手段46により後続気筒2B,2Cの圧縮自己着火を促進する制御を適正に実行することができる。
【0079】
また、エンジンの運転領域が上記部分負荷領域Aにある場合に、後続気筒2B,2Cに対する燃料の噴射を、吸気行程と圧縮行程とに分割して行うとともに、エンジン回転数および負荷が増大するのに対応して、つまり上記部分負荷領域Aの高速高負荷領域A3側に移行するのに対応して上記圧縮行程における後期噴射量の割合を増大させるように構成してもよい(図10参照)。このように構成した場合には、後続気筒2B,2Cの圧縮行程の後期に噴射された燃料が気化するのに応じて筒内温度が低下するとともに、後続気筒2B,2C内で生成された混合気の活性化が抑制されるため、ノッキングの発生が効果的に防止されることになる。したがって、上記特殊運転モードの燃焼制御が実行される部分負荷領域Aを、その高速高負荷側に拡大することができるという利点がある。
【0080】
なお、上記実施形態では先行気筒2A,2D、後続気筒2B,2Cのいずれに対しても燃料噴射弁9は燃焼室に直接燃料を噴射する直噴タイプとしているが、後続気筒2B,2Cに対する燃料噴射弁は必ずしも直噴タイプに限定されず、例えば吸気ポートおよび気筒間ガス通路に燃料噴射弁を設け、通常運転モードでは吸気ポートの燃料噴射弁を駆動し、特殊運転モードでは気筒間ガス通路の燃料噴射弁を駆動するようにしてもよい。
【0081】
また、本発明の装置は、4気筒以外の多気筒エンジンにも適用可能である。そして、例えば6気筒等では1つの気筒の排気行程と別の気筒の吸気行程が完全に重なり合うことはないが、このような場合は、一方の気筒の排気行程が他方の気筒の吸気行程より先行するとともに、両行程が部分的に重なり合う2つの気筒を先行、後続の一対の気筒とすればよい。
【0082】
【発明の効果】
以上説明したようには、本発明は、複数の気筒を備えて、各気筒の燃焼サイクルが所定の位相差をもって行われるように構成するとともに、エンジンの部分負荷領域でエンジンの吸・排気および燃焼状態についての制御モードを特殊運転モードとし、この特殊運転モードでは、排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間において排気行程にある先行気筒から排出される既燃ガスが、気筒間ガス通路を介して吸気行程にある後続気筒に導入され、この後続気筒から排出されるガスが排気通路に導かれるような2気筒接続状態としつつ、上記先行気筒では空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン空燃比で燃焼を行わせ、上記後続気筒では先行気筒から導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料を供給して燃焼を行わせるようにした火花点火式エンジンの制御装置であって、後続気筒の圧縮自己着火を促進する着火アシスト手段と、後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁の閉弁時期を制御する閉弁時期制御手段とを備え、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域で、上記着火アシスト手段により後続気筒の圧縮自己着火を促進するとともに、上記閉弁時期制御手段により既燃ガス導入弁の閉弁時期を、上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定するように構成したため、特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域で後続気筒の圧縮自己着火を促進し、後続気筒の燃焼室全体で混合気を急速に燃焼させて気筒内の圧力を急上昇させることにより、効果的に燃費を改善することができるとともに、上記後続気筒内における酸素と窒素との反応を可及的に回避してNOxの発生を充分に抑制することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る火花点火式エンジンの制御装置を備えたエンジン全体の概略平面図である。
【図2】エンジン本体等の概略断面図である。
【図3】動弁機構の切換手段の具体的構成を示す正面断面図である。
【図4】制御系統の具体的構成を示すブロック図である。
【図5】運転状態に応じた制御を行うための運転領域設定の一例を示す説明図である。
【図6】特殊運転モードにあるときの、各気筒の排気行程、吸気行程、燃料噴射時期および点火時期等を示す図である。
【図7】特殊運転モードにあるときの実質的な新気およびガスの流通経路を示す説明図である。
【図8】通常運転モードにあるときの実質的な新気およびガスの流通経路を示す説明図である。
【図9】エンジンのクランク角と筒内圧力との関係を示す説明図である。
【図10】後続気筒に対する既燃ガスの導入期間を変化させる場合の説明図である。
【符号の説明】
1 エンジン本体
2A〜2D 気筒
9 燃料噴射弁
22 気筒間ガス通路
31a 第1吸気弁(新気導入弁)
31b 第2吸気弁(既燃ガス導入弁)
40 ECU
46 着火アシスト手段
47 閉弁時期制御手段(有効圧縮比制御手段)
Claims (6)
- 複数の気筒を備えて、各気筒の燃焼サイクルが所定の位相差をもって行われるように構成するとともに、エンジンの部分負荷領域でエンジンの吸・排気および燃焼状態についての制御モードを特殊運転モードとし、この特殊運転モードでは、排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間において排気行程にある先行気筒から排出される既燃ガスが、気筒間ガス通路を介して吸気行程にある後続気筒に導入され、この後続気筒から排出されるガスが排気通路に導かれるような2気筒接続状態としつつ、上記先行気筒では空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン空燃比で燃焼を行わせ、上記後続気筒では先行気筒から導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料を供給して燃焼を行わせるようにした火花点火式エンジンの制御装置であって、後続気筒の圧縮自己着火を促進する着火アシスト手段と、後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁の閉弁時期を制御する閉弁時期制御手段とを備え、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域で、上記着火アシスト手段により後続気筒の圧縮自己着火を促進するとともに、上記閉弁時期制御手段により既燃ガス導入弁の閉弁時期を、上記通常運転モードの燃焼時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定することを特徴とする火花点火式エンジンの制御装置。
- 着火アシスト手段は、圧縮上死点前の圧縮上死点近傍で後続気筒内の混合気を点火する火花点火制御手段からなることを特徴とする請求項1に記載の火花点火式エンジンの制御装置。
- 特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域の高速高負荷領域で、上記閉弁時期制御手段により既燃ガス導入弁の閉弁時期を通常運転モードの燃焼時における新気導入弁の閉止時期よりも遅く設定するとともに、上記着火アシスト手段により後続気筒の圧縮自己着火を促進する制御を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の火花点火式エンジンの制御装置。
- 複数の気筒を備えて、各気筒の燃焼サイクルが所定の位相差をもって行われるように構成するとともに、エンジンの部分負荷領域でエンジンの吸・排気および燃焼状態についての制御モードを特殊運転モードとし、この特殊運転モードでは、排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間において排気行程にある先行気筒から排出される既燃ガスが、気筒間ガス通路を介して吸気行程にある後続気筒に導入され、この後続気筒から排出されるガスが排気通路に導かれるような2気筒接続状態としつつ、上記先行気筒では空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン空燃比で燃焼を行わせ、上記後続気筒では先行気筒から導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料を供給して燃焼を行わせるようにした火花点火式エンジンの制御装置であって、後続気筒の有効圧縮比を制御する有効圧縮比制御手段を備え、上記特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域では、上記有効圧縮比制御手段により部分負荷領域の高速高負荷側ほど後続気筒の有効圧縮比を低い値に設定することを特徴とする火花点火式エンジンの制御装置。
- 有効圧縮比制御手段は、後続気筒に設けられた既燃ガス導入弁の閉弁時期を低速低負荷側の領域に比べて遅らせることにより後続気筒の有効圧縮比を低減することを特徴とする請求項4に記載の火花点火式エンジンの制御装置。
- 特殊運転モードの燃焼が行われる部分負荷領域では、後続気筒に対する燃料噴射を前期と後期とに分割して行うとともに、上記部分負荷領域の高速高負荷側ほど後期噴射量の割合を増大させることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の火花点火式7サイクルエンジン。
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Legal Events
Date | Code | Title | Description |
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A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20051111 |
|
A762 | Written abandonment of application |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A762 Effective date: 20070706 |