JP2004236653A - 植物の隔膜形成体の形成制御及び雄性不稔植物作出の方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】植物の細胞質分裂制御技術を提供する。また、遺伝的雄性不稔性を持つ植物は有用であり、効率よく且つ広範囲の植物に適用できる不稔性植物作成技術が求められている。
【解決手段】NACK1 遺伝子、NACK2 遺伝子あるいはその類似遺伝子、さらにはその関連遺伝子の発現の調節や、NACK1や NACK2のタンパク質を改変してドミナントネガティブ分子として用いて植物の隔膜形成体の形成および拡大を制御する技術、NACK1や NACK2関連遺伝子のプロモーターの花粉形成組織特異的な遺伝子発現調節に関する技術が提供できる。該隔膜形成体の形成および拡大の制御は細胞分裂の改変を可能にし、植物の発生分化を改変した植物の作出、正常な機能を示す花粉の形成を抑制し雄性不稔を示す植物の作出などを可能にして、育種や農作物の生産性向上などをもたらし、農業、園芸分野において有益である。
【選択図】 なし
【解決手段】NACK1 遺伝子、NACK2 遺伝子あるいはその類似遺伝子、さらにはその関連遺伝子の発現の調節や、NACK1や NACK2のタンパク質を改変してドミナントネガティブ分子として用いて植物の隔膜形成体の形成および拡大を制御する技術、NACK1や NACK2関連遺伝子のプロモーターの花粉形成組織特異的な遺伝子発現調節に関する技術が提供できる。該隔膜形成体の形成および拡大の制御は細胞分裂の改変を可能にし、植物の発生分化を改変した植物の作出、正常な機能を示す花粉の形成を抑制し雄性不稔を示す植物の作出などを可能にして、育種や農作物の生産性向上などをもたらし、農業、園芸分野において有益である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物の隔膜形成体の形成制御及び/又は発生分化制御、並びにそのために用いられる分子に関する。本発明は、植物などにおける細胞質分裂過程制御技術に関する。本発明は、また細胞分裂に関与する遺伝子を制御して作成された雄性不稔性植物並びにその利用技術に関する。さらに、本発明は、稔性が低下した植物を作出する方法、並びにそのために用いられる分子に関する。
【0002】
【従来の技術】
植物において隔膜形成体の形成を制御することは、農業分野において様々な重要な意義を有する。例えば、隔膜形成体の形成を制御することによって植物特異的な細胞質分裂過程を制御することができる。新たな産業上利用価値の高い形態を有する植物を作出することが可能となる。特に生殖細胞における減数分裂を抑制することにより稔性が低下した植物を作成することが可能であり、育種技術の向上に貢献する。
細胞分裂は生命の基本現象の一つであり、細胞は分裂を繰り返すことによって増殖する。細胞はG1期(ギャップ1)、S期(DNA合成期)、G2期(ギャップ2)、 M期(分裂期)の4つの時期からなる細胞周期と呼ばれている一連の過程を経て、2つの娘細胞に分裂する。体細胞の M期は有糸分裂期とも呼ばれ S期で複製された染色体が娘細胞に正確に分配される時期である。染色体の分配後に細胞質を二分する過程は細胞質分裂と呼ばれている。細胞質分裂の過程は動物細胞と植物細胞で大きく異なっている。動物細胞の細胞質分裂は染色体の分配後に主にアクチンとミオシンからなる収縮環とよばれる構造体が細胞膜の内側に出現し、この収縮環が収縮することによって細胞膜が内側に引き込まれる。中央体と呼ばれる分離した染色体の中間に存在する紡錘体領域まで収縮環による収縮が進行すると中央体が消失し、細胞質分裂が完了する。これに対して植物細胞では分配された染色体の間に微小管とアクチンを主成分とする隔膜形成体(フラグモプラスト)と呼ばれる構造体が形成される。隔膜形成体に小胞が輸送され、小胞が融合することによって、隔膜形成体の中央部分で細胞板と呼ばれる新しい細胞壁が形成されると考えられている。この細胞板が親細胞の細胞壁に向かって拡大し、親細胞の細胞壁と細胞板が融合することによって細胞質分裂が完了する。
【0003】
隔膜形成体への小胞の輸送に関しては、キネシン様タンパク質が関与していることが示唆されている。隔膜形成体にタンパク質の局在性を示す、植物の遺伝子として KatAp、TKRP125 、KCBP、AtPAKRP1が知られている。キネシン様タンパク質の構造、機能上の特徴としてはモータードメインと呼ばれるアミノ酸が保存された領域を介して微小管上を動くこと、モータードメイン以外の領域ではホモダイマーを形成することが報告されている(非特許文献1〜4) 。
生殖細胞の形成は減数分裂と呼ばれる分裂過程を経て形成される。減数分裂は2回の細胞分裂により構成されるがそのうちの1回はDNA 複製を伴わない。このため花粉形成においては1つの減数母細胞より4つの細胞が形成され、それぞれの核には相同染色体をもたない花粉四分子が形成される。花粉四分子より解離した小胞子はさらに2回の花粉有糸分裂を経て最終的に1つの栄養細胞に2つの精細胞を取り込んだ形の花粉が形成される。
生殖細胞、特に花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子として、例えば、トマトのlat 52遺伝子が報告されている。lat 52遺伝子のプロモーター領域には花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子のを転写調節配列として、AGAAA と TCCACCATAが見出されており、これら2種の配列の協力的な作用が遺伝子発現の特異性を決定していることが報告されている (非特許文献5) 。
【0004】
タバコのMitogen−activated protein kinase kinase kinase(MAPKKK)であるNPK1は様々な刺激に関するシグナル伝達に関与していることが示唆されている。例えばオーキシン誘導性遺伝子発現調節や酸化ストレス誘導性遺伝子発現調節に関するシグナル伝達に関与することが報告されている(非特許文献6及び7) 。さらに、隔膜形成体の拡大に関するシグナル伝達にも関与しており、NPK1のキナーゼ不活性型の形質転換タバコでは細胞質分裂のみが不完全となり、1つの細胞に複数個の核を持つ細胞となる (非特許文献8) 。しかし、前述のようにNPK1は様々なシグナルを伝達しているためキナーゼ不活性型形質転換タバコで認められる表現型は細胞質分裂の制御のみが改変された結果であるかは不明であり、細胞質分裂のみを特異的に制御する因子の報告はされていない。
NPK1は単独ではキナーゼ活性が不活性状態にある。このNPK1のキナーゼ活性を酵母において活性化する因子としてキネシン様タンパク質と類似の構造を示すNACK1 タンパク質、NACK2 タンパク質が知られている。NPK1タンパク質は酵母中ではNACK1 タンパク質または、NACK2 タンパク質と結合することによりキナーゼ活性を示すことが報告されている(非特許文献9)。NPK1タンパク質とNACK1 タンパク質の結合に必須なNACK1 タンパク質の領域はモータードメインより C末端側であり、この領域で形成されると予測されるコイルドコイル構造である(非特許文献10)。
【0005】
細胞分裂時の植物細胞中でNPK1タンパク質とNACK1 タンパク質は共に隔膜形成体に存在することが報告されている。このことより、キネシン様タンパク質と類似性を示すNACK1 タンパク質がNPK1タンパク質と結合し、微小管構造上を動くことによって隔膜形成体に存在することが示唆されているが、植物内においてNACK1 タンパク質の機能は未だ報告例はない(非特許文献11)。 NPK1タンパク質の細胞周期における蓄積パターンは S期、G2期、 M期であり、NACK1 タンパク質の細胞周期における蓄積パターンは M期に特異的である。このことより M期におけるNPK1の活性化因子はNACK1 であることが予想されている。しかし、NACK1 遺伝子、NACK2 遺伝子を構成する塩基配列、およびアミノ酸配列は報告されていない(非特許文献12)。
NACK1 遺伝子、NACK2 遺伝子の細胞周期の M期における特異的な遺伝子発現はそれらのプロモーター領域に存在するM−specific activator (MSA)と呼ばれる特定の制御配列によって制御されていることが報告されている。しかし、組織特異的発現をもたらす調節領域の存在は報告されていない (非特許文献13) 。
【0006】
これまでにArabidpsis thaliana の細胞質分裂が異常となった突然変異体解析より、細胞質分裂に重要な機能を示す遺伝子が知られている。例えば、KOLLE 遺伝子、KEULE 遺伝子を欠失した植物では細胞板形成が不完全であり、多核化した細胞が認められる。しかし、これらの遺伝子またはこれらの改変遺伝子を形質転換した植物で細胞質分裂を抑制した例は報告されていない (非特許文献14及び15) 。
これまでに薬剤を用いて細胞質分裂を制御する方法は知られている。例えばプロピザマイドを植物に処理することでチューブリンの重合が阻害され、細胞質分裂が阻害される。また、ゴルジ体を崩壊させるブレフェルディンA の処理でも隔膜形成体の拡大が阻害される。しかしこれらは何れも細胞質分裂に特異的な現象を阻害するものではなく、隔膜形成体の拡大のみを制御する技術は報告されていない (非特許文献16及び17) 。
【0007】
【非特許文献1】
Liu et al., Plant Cell, 8:119(1996)
【非特許文献2】
Asada et al., J. Cell Sci., 110:179(1997)
【非特許文献3】
Vos et al., Plant Cell, 12:979(2000)
【非特許文献4】
Lee et al., Curr. Biol., 10:797(2000)
【非特許文献5】
Rogers et al., Plant Mol. Biol., 45:577(1998)
【非特許文献6】
Kovtun et al., Nature, 395:716(1998)
【非特許文献7】
Kovtun et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 97:2940(2000)
【非特許文献8】
Nishihama et al., Genes Dev., 15:352(2000)
【非特許文献9】
西浜ら、酵母細胞におけるタバコキネシン様タンパク質 NAK1 によるNPK1キナーゼ(MAPKKK)の活性化、日本分子生物学会1995年度年会
【非特許文献10】
石川ら、NPK1プロテインキナーゼ (MAPKKK) とNAK1キネシン様タンパク質の相互作用、日本分子生物学会1996年度年会
【非特許文献11】
町田ら、NPK1 MAPKKKが関与しているMAP キナーゼカスケードと植物細胞の増殖、日本分子生物学会2000年度年会
【非特許文献12】
西浜ら、NPK1プロテインキナーゼとその活性化因子NAKsキネシン様タンパク質の細胞分裂への関与、日本分子生物学会1996年度年会
【非特許文献13】
Ito et al., Plant Cell, 10:331(1998)
【非特許文献14】
Lucowitz et al., Cell, 84:61(1996)
【非特許文献15】
Assaad et al., J. Cell. Biol., 152:531(2001)
【非特許文献16】
Kakimoto et al., Protoplasma(suppl), 2:95(1988)
【非特許文献17】
Yasuhara et al., Plant Cell Physiol., 41:300(2000)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
近年、多くの作物で雑種強勢(ヘテロシス)を利用した一代雑種(F1)品種の育成が進められている。このF1品種のメリットは、雑種強勢の発現により収量性、耐病性などの農業形質が優れたものとなること、単因子優性の農業形質の付与が容易なこと、均一性が高いこと、また、次世代で遺伝形質の分離が起こるため育成者の権利が守られることなどが挙げられる。
F1品種においては、雑種第1代目の種子を多量に確保する必要があり、そのための技術として、遺伝的雄性不稔性を持つものを母親に使用することが行われてきた。この他に自家不和合性を利用する方法、雄花を人為的に除去する方法、人為的に交配する方法、などがあるが、これらの方法は利用できる植物種が限られている。遺伝的雄性不稔性を利用する方法が、最も汎用性に富んでいるため、F1種子を確保するために広く用いられてきた。
花粉特異的に発現するプロモーターにRNaseT1 やbarnase などの細胞に対して毒性を示すタンパク質を連結して植物を形質転換することで生殖細胞、特に花粉形成を抑制する技術は報告されている。しかしこれらは、何れも動物細胞に対しても毒性を示す因子であり、動物に対して安全性が高く、植物細胞でのみ機能する因子を用いての生殖細胞の形成を抑制する技術は報告されていない。
【0009】
本発明は、植物の細胞質分裂制御技術を提供することを課題としている。本発明はNACK1遺伝子、その類似遺伝子、これらの遺伝子がコードするタンパク質、それらに対してドミナントネガティブに機能するタンパク質及びそれらをコードする遺伝子を提供することを課題とする。また本発明は、これらの遺伝子を利用して植物特有の細胞質分裂装置である隔膜形成体の形成を制御することや発生分化を制御することを課題としている。さらに本発明は、植物体、植物の組織、植物の器官又は植物培養細胞において、NACK1遺伝子、その類似遺伝子の発現状況を観測することにより、その植物体、植物の組織、植物の器官又は植物培養細胞の状態を評価する方法、又は、それらの検体が置かれた環境条件あるいは生育条件を評価する方法に関する。
また、本発明は、植物の生殖細胞の形成を制御する技術、稔性が低下した植物を効率よく作出する汎用性に富んだ技術を提供することを課題としている。また、本発明はNACK2 遺伝子がコードするタンパク質を提供することを課題とする。そして、本発明は、この遺伝子を利用して、効率的に稔性が低下した植物を作出する技術を提供することも課題とする。
本発明は、植物に広範囲に応用できる技術開発を課題としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行い、NACK関連遺伝子であるNACK1 cDNAおよびNACK2 cDNAの塩基配列、さらにはそれらのオルソログ遺伝子のcDNAの決定を行うことに成功し、NACK関連タンパク質であるNACK1 タンパク質およびNACK2 タンパク質、さらにはそれらのオルソログタンパク質がキネシン様タンパク質のモータードメインと類似したアミノ酸配列を示すことを見出すことに成功した。
本発明者は、これまでにNACK1 タンパク質、NACK2 タンパク質がNPK1タンパク質と結合しNPK1タンパク質のキナーゼ活性を活性化することを既に明らかにしていたが、新たに、これらNACKタンパク質の前記モータードメインを欠失した分子が植物の内在性のNACKタンパク質に対してドミナントネガティブに機能することを見出すことに成功した。
本発明者は、NACK1タンパク質の一部をコードする塩基配列を用いて形質転換植物を作出することにより、NACK遺伝子が植物の細胞分裂に重要な隔膜形成体の形成の制御因子であることを見出すことに成功し、加えてこれらの植物では細胞分裂の過程の内、細胞質分裂が抑制されていることを見出すことにも成功した。
さらに、単子葉植物であるイネのNACK(OsNACK)タンパク質の一部をコードする塩基配列を双子葉植物であるタバコ細胞に導入すると、驚くべきことに、NACK1タンパク質の場合と同様に、タバコ培養細胞の細胞質分裂を阻害すること、即ち、NACK関連遺伝子は双子葉植物、単子葉植物の種を越えて機能することを見出した。
以上の知見に基づき本発明は完成されたものである。
【0011】
本発明において隔膜形成体の形成とは、隔膜形成体の形成、隔膜形成体の拡大、細胞板の形成及び/又は細胞板の拡大を意味する。本発明において発生分化とは、組織の形態、組織の大きさ、器官の形態、器官の大きさ、植物体の形態、植物体の大きさ及び/又は植物体の生育速度を意味する。また本発明において稔性の低下とは花粉形成に係わる細胞、組織、器官の変化も含めた花粉形成の抑制を意味する。本発明において花粉形成に係わる細胞の変化として減数分裂を含めた細胞分裂の変化、細胞に含まれる核数、細胞の大きさ、細胞の数、花粉管発芽能力、受精能の変化などが挙げられる。本発明において花粉形成に係わる組織の変化としては葯の表皮、内被、中間層、タペート組織、胞原組織の変化などが挙げられる。本発明において花粉形成に係わる器官の変化としては葯や花糸の形態、機能の変化などが挙げられる。
即ち、本発明は、植物の細胞分裂も関わるNACK1遺伝子、NACK2遺伝子、それらの類似遺伝子およびこれら遺伝子がコードするタンパク質、並びにこれら遺伝子を標的とした植物における隔膜形成体の形成、拡大の制御、及び/又は発生分化の制御などに関し、さらには雄性不稔化技術になどに関する。
【0012】
以下の説明中、あるアミノ酸またはアミノ酸配列と「ポジティブである」とは、Pairwise BlastのBlast 2 Sequences (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を使用し、アミノ酸配列を解析した結果において、同一または類似なアミノ酸を指す。即ち二つのアミノ酸配列の比較において、ポジティブなアミノ酸の割合とは同一なアミノ酸及び類似なアミノ酸の割合を加えたものを示す。
更に、前記アミノ酸配列の比較は、対象となる二つのアミノ酸配列を最適な形で並べて行われる。以下の説明中、特に断わらない場合、二つのアミノ酸配列を最適な形で並べて行われたことを示す。
【0013】
より具体的には、本発明は、次なるものを提供するものである。
(1) 下記(a)から(i)のいずれかに記載のDNA:
(a) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b) 配列番号:1、3、5、21または50に記載の塩基配列からなるDNA、
(c) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、もしくは付加したアミノ酸配列を有し、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(d) 配列番号:1、3、5、21または50に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(e) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列と65%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(f) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインと70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(g) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質若しくはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(h) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインと70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有し、かつ、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質若しくはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(i) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列と65%以上のアミノ酸がポジティブであり、かつ、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインと70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有し、及び/ 又は、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質若しくはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
【0014】
(2) (1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA。
(3) (1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA。
(4) DNAであって、植物細胞における発現時に、共抑制効果により、(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAの発現を抑制させるRNAをコードし、かつ、(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAと90%以上の相同性を有するDNA。
(5)DNAであって、植物細胞における発現時に、RNA干渉効果(RNA interference:RNAi)により、(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAの発現を抑制させるRNAをコードし、かつ、(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAと20塩基以上の(あるいは25塩基以上又は場合により50塩基以上の)連続して同一であるDNA。
(6) DNAであって、植物細胞における内在性の(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質に対してドミナントネガティブ活性を示すタンパク質をコードするDNA。
(7) 植物の隔膜形成体の形成制御、および/または発生分化制御のために用いるものであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか一に記載のDNA。
(8) 植物の隔膜形成体の形成および/または拡大の制御による雄性不稔化技術のために用いるものであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか一に記載のDNA。
【0015】
(9) 下記の(i)から(iii)の構成要素を含む組換えDNA又はベクター:
(i) 細胞内で転写可能なプロモーター、
(ii)該プロモーター配列にセンス方向又はアンチセンス方向で結合した(1)〜(7)のいずれか一に記載のDNA、
(iii)RNA分子の転写終結およびポリアデニル化に関するシグナル。
(10) (1)〜(8)のいずれか一に記載のDNAまたは(9)に記載の組換えDNA又はベクターを保持する形質転換細胞。
(11) (1)に記載のDNAによりコードされるタンパク質又は部分ペプチド、あるいは植物細胞における内在性の(1)の(a)〜(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質に対してドミナントネガティブ活性を示すタンパク質又はその部分ペプチド。
(12) (1)に記載のDNA又は該DNAを含むベクターを保持する形質転換細胞を培養し、該形質転換細胞又はその培養上清から発現させたタンパク質を回収する工程を含む、(11)に記載のタンパク質の製造方法。
(13) (1)〜(8)のいずれか一に記載のDNAまたは(9)に記載の組換えDNA又はベクターを保持する形質転換植物細胞。
(14) (13)に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体。
(15) (14)に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
(16) 隔膜形成体の形成制御、および/または発生分化制御のために用いるものであることを特徴とする(14)または(15)に記載の形質転換植物体。
(17) 隔膜形成体の形成及び/又は拡大の制御が改変されている(14)または(15)に記載の形質転換植物体。
(18) 稔性の低下している、(14)または(15)に記載の形質転換植物体。
(19) (13)に記載の植物細胞又は(14)〜(18)のいずれかに記載の植物体より製造された食品及び/又は飼料組成物。
(20) (13)に記載の植物細胞又は(14)〜(18)のいずれかに記載の植物体より製造される化学品。
【0016】
(21) 下記の(i)から(vii) のいずれかに記載のDNA:
(i)配列番号:20で示した塩基配列を有するDNA、
(ii)配列番号:20で示した2801−4418番目の塩基配列を有するDNA、
(iii)配列番号:20で示した3401−4418番目の塩基配列を有するDNA、
(iv)配列番号:20で示した3844−4418番目の塩基配列を有するDNA、
(v)配列番号:20で示した4000−4418番目の塩基配列を有するDNA
(vi)下記(a)、(b)、(c)を少なくとも一ずつ含む配列を有するDNA:
(a)少なくとも塩基配列がAACGGである、又は塩基配列がCCGTTであるMSA配列、
(b)塩基配列がTTTCT、又は塩基配列がAGAAAである配列、及び
(c)塩基配列がTCCACCAT、又はATGGTGGAである配列。
(vii)少なくとも、下記(a)のいずれか一つの配列と下記(b)または(c)のいずれか一つとを含む配列を有するDNA:
(a)少なくとも塩基配列がAACGGである、又は塩基配列がCCGTTであるMSA配列、
(b)塩基配列がTTTCT、又は塩基配列がAGAAAである配列、及び
(c)塩基配列がTCCACCAT、又はATGGTGGAである配列。
【0017】
(22) (a)花粉形成に係わる器官を構成する細胞において特異的に隔膜形成体の形成及び/又は拡大を抑制することにより植物の稔性を低下させる、あるいは(b)花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモータとして使用することを特徴とする(21)のDNA。
(23) (21)又は(22)に記載のDNAを含むベクター。
(24) (21)又は(22)に記載のDNA、又は(23)に記載のDNAを含むベクターを保持する形質転換細胞。
(25) (21)又は(22)に記載のDNA、又は(23)に記載のDNAを含むベクターを保持する形質転換植物細胞。
(26) (25)に記載の形質転換植物細胞を含む、形質転換植物体。
(27) (26)に記載の形質転換植物体の子孫または、クローンである形質転換植物体。
(28) 形質転換した遺伝子が花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現を示す、(26)又は(27)に記載の形質転換植物体。
(29) 形質転換した遺伝子が花粉形成組織特異的発現を示す、(26)又は(27)に記載の形質転換植物体。
(30) (26)〜(29)のいずれか一に記載の植物体より製造された食品及び/又は飼料組成物。
(31) (26)〜(29)のいずれか一に記載の植物体より製造された化学品。
(32) (1)の(a)〜(i)のいずれかに記載のDNAの転写産物。
(33) (32)に記載の転写産物の量を測定する方法。
(34) 複数の検体中の(32)に記載の転写産物の量を相対的に比較する方法。
(35) (1)に記載のDNAにコードされるタンパク質の量を測定する方法。
(36) 複数の検体中の(1)に記載のDNAにコードされるタンパク質の量を相対的に比較する方法。
【0018】
本発明者はAtNACK2 遺伝子のプロモーターが花粉形成に係わる器官において強い発現が認められることを見出した。前述より、本発明者はNACK関連遺伝子やその類似遺伝子を用いることで花粉形成に係わる器官を構成する細胞において特異的に隔膜形成体の形成および拡大を抑制し植物の稔性を低下させることが可能であることを見出した。即ち、本発明は花粉形成組織特異的遺伝子発現制御の調節領域を含むAtNACK2 遺伝子のプロモーター領域に関するものである。
より具体的には、本発明は、
(37) 配列番号:20で示した塩基配列を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
さらに好ましくは、本発明は、
(38) 配列番号:20で示した2801−4418番目の塩基配列を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
さらに好ましくは、本発明は、
(39) 配列番号:20で示した3401−4418番目の塩基配列を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
さらに好ましくは、本発明は、
(40) 配列番号:20で示した3844−4418番目の塩基配列を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
(41) 配列番号:20で示した4000−4418 番目の塩基配列を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
(42) 下記(a)、(b)及び(c) を少なくとも1ずつ含む配列:
(a) 少なくとも塩基配列がAACGGである、または塩基配列がCCGTTであるMSA配列、
(b) 塩基配列がTTTCT、または塩基配列がAGAAAである配列、
(c) 塩基配列がTCCACCAT、またはATGGTGGAである配列
を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
(43) 少なくとも、下記(a)のいずれか一つの配列と(b)または(c)のいずれか一つとを含む配列:
(a) 少なくとも塩基配列がAACGGである、または塩基配列がCCGTTであるMSA配列、
(b) 塩基配列がTTTCT、または塩基配列がAGAAAである配列、
(c) 塩基配列がTCCACCAT、またはATGGTGGAである配列
を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
【0019】
本発明は、また、次なるものを提供する。
(44) 植物細胞における内在性の(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質の活性を抑制し、もって植物の隔膜形成体の形成制御、及び/又は発生分化制御する方法。
(45) (1)から(8)のいずれかに記載のDNAまたは(9)に記載のベクターにより宿主植物細胞を形質転換することを特徴とする形質転換植物の作成法。
(46) 植物細胞における内在性の(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質に対してドミナントネガティブ活性を示すタンパク質あるいはそれをコードするDNA を含有することを特徴とする植物の隔膜形成体の形成制御、及び/又は発生分化制御試薬。
(47) (11)に記載のタンパク質又はその部分ペプチドに対する抗体。
【0020】
より具体的には、次のものも提供される。
(48) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質又はそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAである(6)のDNA。
(49) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と60%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAである(6)のDNA。
(50) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質またはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を含み、かつ以下の(a)〜(c)のいずれかであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA である(6)のDNA:
(a) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と60%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列、
(b) キネシン様タンパク質のモータードメインの点変異により微小管への結合能を失ったアミノ酸配列、
(c) キネシン様タンパク質のモータードメインの点変異により微小管上での移動能を失ったアミノ酸配列。
(51) 植物の隔膜形成体の形成制御、及び/又は発生分化制御活性を有し、
かつ、
(a) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質またはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と60%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、及び
(c) (i) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質またはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列及び(ii)配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と60%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
から成る群から選ばれたものであるDNA。
(52) 隔膜形成体の形成、隔膜形成体の拡大、細胞板の形成及び/又は細胞板の拡大を抑制あるいは阻害する活性を有するものである(51)のDNA。
(53) 植物組織の形態、組織の大きさ、器官の形態、器官の大きさ、植物体の形態、植物体の大きさ及び/又は植物体の生育速度を制御する活性を有するものである(51)のDNA。
(54) 稔性の低下を起こす活性を有するものである(51)のDNA。
(55) (9)に記載の組換えDNA 又はベクター中、(i) のプロモーターにおいて植物細胞内で転写可能なプロモーターとして前記(21)、(22)及び(37)から(43)に記載の塩基配列又はDNA のいずれか一を用い、且つ(iii) のシグナルにおいて植物で機能するシグナルを用いる組換えDNA 又はベクター。
(56)(55)に記載の組換えDNA 又はベクターを保持する形質転換細胞。
(57)(55)に記載の組換えDNA 又はベクターを保持する形質転換植物細胞。
(58)(57)に記載の形質転換植物細胞を含む、形質転換植物体。
(59) (58)に記載の形質転換植物体の子孫または、クローンである形質転換植物体。
【0021】
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列とポジティブであるアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は65%以上あれば良く、望ましくは71%以上、より望ましくは77%以上、より望ましくは86%以上、さらに望ましくは90%以上である。
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸を含む割合により規定されることもできる。この場合、その割合は50%以上あれば良く、望ましくは56%以上、より望ましくは64%以上、より望ましくは76%以上、更に望ましくは90%以上である。
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインのアミノ酸配列とポジティブであるアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は70%以上あれば良く、望ましくは79%以上、より望ましくは83%以上、更に望ましくは93%以上である。
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインと同一のアミノ酸を含む割合により規定されることもできる。この場合、その割合は60%以上あれば良く、望ましくは68%以上、より望ましくは74%以上、より望ましくは87%以上、更に望ましくは90%以上である。
【0022】
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中の、NPK1タンパク質又はそのオルソログとの結合領域のアミノ酸配列とポジティブであるアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は70%以上あれば良く、望ましくは85%以上、より望ましくは89%以上、より望ましくは90%以上、更に望ましくは97%以上である。
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中の、NPK1タンパク質又はそのオルソログとの結合領域と同一のアミノ酸を含む割合により規定されることもできる。この場合、その割合は65%以上あれば良く、望ましくは72%以上、より望ましくは80%以上、更に望ましくは90%以上である。
【0023】
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列とポジティブであるアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は60%以上あれば良く、望ましくは65%以上、より望ましくは67%以上、より望ましくは71%以上、より望ましくは77%以上、更に望ましくは90%以上である。
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と同一のアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は40%以上あれば良く、望ましくは47%以上、より望ましくは51%以上、より望ましくは57%以上、より望ましくは60%以上、更に望ましくは90%以上である。
更に本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列に基づいて規定されるが、望ましくは配列番号:2、4または22に記載のアミノ酸配列に基づいて規定される。
本発明においては、2つDNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べるために、Pairwise BlastのBlast 2 Sequences (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を用いる。
【0024】
本発明において、前記(1)から(8)に記載のいずれかのDNA を植物細胞で転写するため又はNACK関連タンパク質のドミナントネガティブ分子を発現させるための植物細胞内で転写可能なプロモーターとしてはAtNACK2 プロモーターに限るものではなく、雄性生殖系の器官または細胞において高い遺伝子発現を示すプロモーターであるシロイヌナズナAVP1遺伝子プロモーター(Mitsuda et al., Plant Mol. Biol, 46:185(2001) )、シロイヌナズナ DAD 1遺伝子プロモーター(Ishiguro et al., Plant Cell, 13:2191(2001))、タバコTA20、TA29遺伝子プロモーター(Goldberg et al., Science, 240:1460(1988))、イネOsg6B 遺伝子プロモーター(Tuchiya et al., Plant Mol. Biol, 26:1737(1994))、トマトLat52 遺伝子プロモーター(Twellr et al., Development, 109:705(1990)) 、タバコg10 遺伝子プロモーター(Rogers et al., Plant Mol. Biol., 45:577(2001)) 、カリフラワーモザイクウイルス 35Sプロモーターに葯特異的遺伝子発現調節配列を挿入した人工的なプロモーター(Ingrid et al., Plant Cell, 4:253(1992))を用いることができる。
【0025】
本発明の技術により、外生の(exogenous)NACK関連タンパク質でドミナントネガティブ活性を有するNACKストーク(モータードメイン欠損分子)でもって不稔になった植物に対して、このドミナントネガティブの発現をmRNA段階で抑制することが可能であり、これを利用した稔性の回復技術が提供できる。該ドミナントネガティブの発現をmRNA段階で抑制する場合、内生のNACKタンパク質のmRNAに影響を与えることなく、選択的に外生のドミネガ分子のそれのみを抑制する技術を提供できる。さらに、本発明は、該不稔になった植物に対して、インタクトなNACK分子の過剰発現によっても同様の効果を得る技術をも提供する。
本発明では、次のものも提供される。
(60) (1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質に対して、ドミナントネガティブ活性を有するタンパク質であり、且つ外生のタンパク質であるタンパク質の発現により不稔となった植物から、稔性が回復した植物を作出する方法であって、ドミナントネガティブ活性を有するタンパク質の発現を抑制することを特徴とする方法。
(61) ドミナントネガティブ活性を有する外生のタンパク質が下記(i)〜(v)のいずれかである(60)に記載の方法。
(i) 配列番号:2の361〜959番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(NACK1ST)
(ii) 配列番号:4の360〜955番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(NACK2ST)
(iii) 配列番号:6の361〜974番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(AtNACK1ST)
(iv) 配列番号:22の362〜954番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(OsNACKST)
(v) 配列番号:51の356〜938番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(AtNACK2ST)。
(62) ドミナントネガティブ活性を有する外生のタンパク質が配列番号:4の360〜955番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(NACK2ST)である(60)に記載の方法。
(63) ドミナントネガティブ活性を有する外生のタンパク質の発現の抑制がRNA干渉によるものである(60)、(61)、または(62)のいずれかに記載の方法。
(64) ドミナントネガティブ活性を有する外生のタンパク質の発現により不稔となった植物と、該タンパク質の発現をRNA干渉により抑制するRNAをコードするDNAを有する植物とを交配する工程を含む(63)に記載の方法。
(65) RNA干渉を生じるRNAをコードするDNAが配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列の一部若しくは全てを含むDNAである(63)または(64)のいずれかに記載の方法。
(66) RNA干渉を生じるRNAをコードするDNAが、配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列の一部であって、少なくとも10塩基以上であり、好ましくは20塩基以上であり、より好ましくは50塩基以上であり、より好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは200塩基以上である(63)または(64)のいずれかに記載の方法。
(67) 配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列の一部であって、少なくとも10塩基以上であり、好ましくは20塩基以上であり、より好ましくは50塩基以上であり、さらに好ましくは200塩基以上であるDNAがスペーサー配列を挟んで逆位反復した一次構造を有するDNAが、RNA干渉を生じるRNAをコードするDNAである(63)または(64)のいずれかに記載の方法。
(68) スペーサー配列を挟んで配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列で表されるDNAが逆位反復した一次構造を有するDNAが、RNA干渉を生じるRNAをコードするDNAである(63)または(64)のいずれかに記載の方法。
【0026】
(69) ドミナントネガティブ活性を有する外生のタンパク質の発現の抑制がアンチセンス配列によるものである(60)、(61)、または(62)のいずれかに記載の方法。
(70) ドミナントネガティブ活性を有する外生のタンパク質の発現により不稔となった植物と、該タンパク質の発現をアンチセンス配列をコードするDNAを有する植物とを交配する工程を含む(69)に記載の方法。
(71) アンチセンス配列をコードするDNAが配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列の一部若しくは全てを含むDNAである(69)または(70)のいずれかに記載の方法。
(72) アンチセンス配列をコードするDNAが、配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列の一部であって、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、より好ましくは200塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である(69)または(70)のいずれかに記載の方法。
(73) アンチセンス配列をコードするDNAが、配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列で表されるDNAである(69)または(70)のいずれかに記載の方法。
(74) (1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質に対して、ドミナントネガティブ活性を有するタンパク質の発現により不稔となった植物から、稔性が回復した植物を作出する方法であって、該DNAがコードするタンパク質を過剰発現させることによりドミナントネガティブ活性を有するタンパク質の効果を低下させることを特徴とする方法。
(75) ドミナントネガティブ活性を有するタンパク質が下記(i)〜(v)のいずれかである(74)に記載の方法。
(i) 配列番号:2の361〜959番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(NACK1ST)
(ii) 配列番号:4の360〜955番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(NACK2ST)
(iii) 配列番号:6の361〜974番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(AtNACK1ST)
(iv) 配列番号:22の362〜954番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(OsNACKST)
(v) 配列番号:51の356〜938番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(AtNACK2ST)
(76) ドミナントネガティブ活性を有するタンパク質が配列番号:4の360〜955番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(NACK2ST)である(75)に記載の方法。
(77) 配列番号:4の360〜955番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質の発現により不稔となった植物と、配列番号:4のアミノ酸配列で表されるタンパク質を過剰発現する植物とを交配させることにより稔性が回復した植物を得る方法。
(78) (60)〜(77)のいずれかに記載の方法を施された植物細胞、該植物細胞を含む植物体、該植物体の子孫、またはクローンである植物体。
(79) (77)の交配において生じる植物細胞又は種子。
(80) (79)に記載の植物細胞又は種子から生じる植物体。
(81) (78)又は(80)に記載のいずれかの植物体の種子。
(82) (78)〜(81)に記載の植物細胞、種子又は植物体より製造された食品及び/又は飼料組成物、あるいは化学品。
(83) (78)〜(81)に記載の植物細胞、種子又は植物体を使用することを特徴とする生物活性を有する物質のスクリーニング法及び該スクリーニング法で同定された物質。
【0027】
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明では、「遺伝子組換え技術」を利用して所定の核酸を単離・配列決定したり、組換え体を作製したり、所定のペプチドを得ることができる。本明細書中使用できる遺伝子組換え技術としては、当該分野で知られたものが挙げられ、例えば J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, (2nd edition, 1989 & 3rd edition, 2001), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York; D. M. Glover et al. ed., ”DNA Cloning”, 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995);日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人 (1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA 技術)」、東京化学同人 (1992); ”Methods in Enzymology” シリーズ, Academic Press, New York、例えばR. Wu ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 68 (Recombinant DNA), Academic Press, New York (1980); R. Wu et al. ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 100 (Recombinant DNA, Part B) & 101 (Recombinant DNA, Part C), Academic Press, New York (1983); R. Wu et al. ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 153 (Recombinant DNA, Part D), 154 (Recombinant DNA, Part E) & 155 (Recombinant DNA, Part F), Academic Press, New York (1987); J. H. Miller ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 204, Academic Press, New York (1991); R. Wu ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 216 (Recombinant DNA, Part G), Academic Press, New York (1992); R. Wu ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 217 (Recombinant DNA, Part H) & 218 (Recombinant DNA, Part I), Academic Press, New York (1993); G. M. Attardi et al. ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 260 (Mitochondrial Biogenesis and Genetics, Part A), Academic Press, New York (1995); J. L. Campbell ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 262 (DNA Replication), Academic Press, New York (1995); G. M. Attardi et al. ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 264 (Mitochondrial Biogenesis and Genetics, Part B), Academic Press, New York (1996); P. M. Conn ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 302 (Green Fluorescent Protein), Academic Press, New York (1999); S. Weissman ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 303 (cDNA Preparation and Characterization), Academic Press, New York (1999); J. C. Glorioso et al. ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 306 (Expression of Recombinant Genes in Eukaryotic Systems), Academic Press, New York (1999); M. lan Phillips ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 313 (Antisense Technology, Part A: General Methods, Methods of Delivery and RNA Studies) & 314 (Antisense Technology, Part B: Applications), Academic Press, New York (1999); J. Thorner et al. ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 326 (Applications of Chimeric Genes and Hybrid Proteins, Part A: Gene Expression and Protein Purification), 327 (Applications of Chimeric Genes and Hybrid Proteins, Part B: Cell Biology and Physiology) & 328 (Applications of Chimeric Genes and Hybrid Proteins, Part C: Protein−Protein Interactions and Genomics), Academic Press, New York (2000) などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法あるいはそれらと実質的に同様な方法や改変法が挙げられる(それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる) 。
【0029】
本発明は、植物の隔膜形成体形成に関与するNACK1タンパク質及びNACK2タンパク質を提供する。酵母内で発現しているNPK1のキナーゼ活性を活性化することが明らかになっていたNACK1 cDNAの塩基配列及びNACK2 cDNAの塩基配列を明らかにした。NACK1 遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号:1に、この遺伝子がコードするNACK1 タンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示し、NACK2 遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号:3に、この遺伝子がコードするNACK2 タンパク質のアミノ酸配列を配列番号:4に示す。
本発明は、NACK1 タンパク質、またはNACK1 タンパク質と機能を同等とするタンパク質に対してドミナントネガティブに機能し、隔膜形成体の形成及び/又は拡大を制御するNACK関連タンパク質の一部分及びその使用方法を提供する。
本発明においてNACK関連タンパク質がドミナントネガティブ分子として機能するためには、
(a) 配列番号:2に示したNACK1タンパク質であれば 361〜959番目のアミノ酸配列を用いた分子、
(b) 配列番号:4に示したNACK2タンパク質であれば 360〜955番目のアミノ酸配列
を用いた分子、
(c) 配列番号:22に示したOsNACKタンパク質であれば 362〜954番目のアミノ酸配列を用いた分子、
(d) 配列番号:6に示したAtNACK1タンパク質であれば 361〜974番目のアミノ酸配列を用いた分子、
(e) 配列番号:51に示したAtNACK2タンパク質であれば 356〜938番目のアミノ酸配列を用いた分子、
(f) 上記(a)〜(e)の分子のいずれか一つと、アミノ酸配列を最適な形で並べて比較した時、60%のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有する分子、 (g) 上記(a)〜(e)の分子のいずれか一つと、アミノ酸配列を最適な形でならべて比較した時、40%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列を有する分子、
(h) NACK関連タンパク質のモータードメインのアミノ酸配列の一部を欠失した分子、
(i) NACK関連タンパク質のモータードメインのアミノ酸配列の一部を欠失することにより、微小管に結合する能力を欠失した分子、
(j) NACK関連タンパク質のモータードメインのアミノ酸配列においてアミノ酸置換を導入して微小管上の移動能力を欠失した、すなわちキネシン様タンパク質のモーター活性を示さない分子、
(k) NACK関連タンパク質のコイルドコイル構造が予測されるアミノ酸配列を含む分子が微小管上の移動能力を欠失した、または微小管への結合能力が欠失した、すなわちキネシン様タンパク質のモーター活性を示さない分子
(l) 上記(h)〜(k)においてNACK関連タンパク質がNACK1、NACK2、AtNACK1、AtNACK2又はOsNACKである分子
(m) 上記(h)〜(k)においてNACK関連タンパク質がNACK1、NACK2、又はOsNACKである分子
から成る群から選ばれたもののうちの少なくとも一つである分子である。
【0030】
本発明において提供されるドミナントネガティブとして機能する分子は、前記(f)の記載において、該分子のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、前記(a)から(e)に記載の分子のアミノ酸配列とポジティブであるアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は60%以上あれば良く、望ましくは65%以上、より望ましくは67%以上、より望ましくは71%以上、より望ましくは77%以上、更に望ましくは90%以上である。
本発明において提供されるドミナントネガティブとして機能する分子は、前記(g)の記載において、該分子のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、前記(a)〜(e)に記載の分子のアミノ酸配列と同一のアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は40%以上あれば良く、望ましくは47%以上、より望ましくは51%以上、より望ましくは57%以上、より望ましくは60%以上、更に望ましくは90%以上である。
【0031】
また、本発明においてNACK関連タンパク質がドミナントネガティブ分子として機能するためには,
(i) NACK関連タンパク質のコイルドコイル構造が予測されるアミノ酸配列を含み且つ微小管上の移動能力を持たない分子、
(ii) NACK 関連タンパク質が、NACK1、NACK2、AtNACK1、AtNACK2又はOsNACKである上記(i) の分子、
(iii) キネシン様モータードメインのアミノ酸配列の一部又は全部を欠失しているため微小管上に結合する能力を失ったNACK関連タンパク質、
(iv) NACK関連タンパク質が、NACK1、NACK2、AtNACK1、AtNACK2又はOsNACKである上記(iii)の分子、
(v) キネシン様モータードメインのアミノ酸配列においてアミノ酸置換を導入して微小管上を移動する能力を失ったNACK関連タンパク質、
(vi) NACK関連タンパク質が、NACK1、NACK2、AtNACK1、AtNACK2又はOsNACKである上記(v)の分子、
(vii) キネシン様モータードメインを欠失しているNACK関連タンパク質、
(viii) NACK関連タンパク質がNACK1、NACK2、AtNACK1、AtNACK2又はOsNACKである上記(vii)の分子。
から成る群から選ばれたもののうちの少なくとも一つである分子である。
より望ましくは上記(i)、(iii)、(v)または(vii)においてNACK関連タンパク質が、NACK1、NACK2、又はOsNACKである分子のうちの少なくとも一つの分子である。
従って、ドミナントネガティブ分子として機能するNACK関連タンパク質を細胞内で発現させるためには、上記(a)〜(m)または(i)〜(viii)のいずれかに記載の分子をコードするDNAを用いることができる。
【0032】
NACK関連タンパク質の一部分を用いた分子による形質転換植物では隔膜形成体の形成および拡大が不完全であったことは( 実施例14、実施例15及び実施例23) 、NACK1 タンパク質、NACK2 タンパク質が植物の隔膜形成体の形成及び/又は拡大を制御する因子であり、かつこれらのNACK関連タンパク質の一部分を用いた分子がNPK1タンパク質にドミナントネガティブに機能することを証明するものである。
【0033】
本発明は、花粉形成特異的な遺伝子発現の調節領域を含む「AtNACK2 」のプロモーター領域を提供する。この領域を含むゲノムDNA 配列を配列番号:20に示す。
実施例16に示すようにAtNACK2 のプロモーター領域には既に M期特異的遺伝子発現制御に必須であるMSA 配列近傍に多数の花粉、または花粉形成細胞特異的な遺伝子発現調節領域を見出した。この事実はAtNACK2 プロモーターが花粉形成に係わる器官において強く発現するなどの遺伝子発現調節を示すことを証明するものである。
【0034】
本発明はNACK1あるいはNACK2タンパク質と機能的に同等なタンパク質を提供する。本発明において「同等な機能を有する」または「機能的に同等」とは、タンパク質が植物の隔膜形成体の形成および/または拡大において機能することを指す。タンパク質が植物の隔膜形成体形成において機能するか否かは、変異株におけるタンパク質の発現による機能相補試験や、ドミナントネガティブ分子の形質転換植物における隔膜形成体の形成および拡大の変化(多核化した細胞)の検出及び/又はタンパク質の隔膜形成体の局在性により、決定することが可能である。
NACK関連タンパク質はアミノ酸配列からも識別し得る。すなわち、実施例5に示すようにNACK1 タンパク質の機能に必須である2つの領域のアミノ酸配列の相同性より明らかとなる。2つの領域とは微小管上における移動能力を示すために必須であるモータードメインとNPK1関連タンパク質との結合に必須な領域を指す。特にNPK1関連タンパク質との結合に必須な領域はコイルドコイル構造を形成することが予測されることが重要である。
【0035】
本発明で特徴付けたタンパク質を単離するための植物としては、特に制限はなく、広く栽培植物あるいは有用植物として知られたものの中から選択して利用でき、穀類、豆類、イモ類、種実類、野菜類、果実類として知られた植物、さらには園芸花木樹木なども挙げられる。該植物としては、例えば、ナス科、アブラナ科、イネ科、マメ科、ユリ科、セリ科、ウリ科などのものが挙げられ、好ましくはタバコ、シロイヌナズナ、ダイズ、アズキ、エンドウ、ソラマメ、ラッカセイ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ベントグラス、トウモロコシ、アブラナ、ジャガイモ、サツマイモ、タロイモ、コンニャク、キャッサバなどが挙げられる。これらは遺伝子源としても利用できる。
【0036】
上記したような機能的に同等なタンパク質を取得・単離する方法の一つの態様としては、タンパク質中のアミノ酸に変異を導入する方法が当業者によく知られている。即ち、当業者であれば、公知の方法により、天然型の「NACK1」タンパク質(例えば、配列番号:2に記載のタンパク質)あるいは天然型の「NACK2 」タンパク質(例えば、配列番号:4に記載のタンパク質)中のアミノ酸を適宜置換、欠失、付加などして、これと同等の機能を有する改変タンパク質を調製することが可能である。また、アミノ酸の変異は自然界において生じることもある。本発明のタンパク質には、このように天然型の「NACK1」タンパク質または天然型の「NACK2 」タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有し、天然型のタンパク質と同等の機能を有するタンパク質も含まれる。タンパク質におけるアミノ酸の改変は、通常、全アミノ酸の50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内であり、さらに好ましくは3アミノ酸以内である。アミノ酸の改変は、例えば、変異や置換であれば「Transformer Site−directed Mutagenesis Kit 」や「ExSite PCR−Based Site−directed Mutagenesis Kit」(Clontech社製)を用いて行うことが可能であり、また、欠失であれば「Quantum leap Nested Deletion Kit」(Clontech社製)などを用いて行うことが可能である。
【0037】
変異・変換・修飾法としては、日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法 II 」、p105(広瀬進)、東京化学同人(1986); 日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA 技術)」、p233(広瀬進)、東京化学同人(1992); R. Wu, L. Grossman, ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 154, p. 350 & p. 367, Academic Press, New York (1987); R. Wu, L. Grossman, ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 100, p. 457 & p. 468, Academic Press, New York (1983); J. A. Wells et al., Gene, 34: 315, 1985; T. Grundstroem et al., Nucleic Acids Res., 13: 3305, 1985; J. Taylor et al., Nucleic Acids Res., 13: 8765, 1985; R. Wu ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 155, p. 568, Academic Press, New York (1987); A. R. Oliphant et al., Gene, 44: 177, 1986 などに記載の方法が挙げられる。例えば合成オリゴヌクレオチドなどを利用する位置指定変異導入法(部位特異的変異導入法) (Zoller et al., Nucl. Acids Res., 10: 6487, 1987; Carter et al., Nucl. Acids Res., 13: 4331, 1986), カセット変異導入法 (cassette mutagenesis: Wells et al., Gene, 34: 315, 1985), 制限部位選択変異導入法 (restriction selection mutagenesis: Wells et al., Philos. Trans. R. Soc. London Ser A, 317: 415, 1986),アラニン・スキャンニング法 (Cunningham & Wells, Science, 244: 1081−1085, 1989), PCR 変異導入法, Kunkel法, dNTP[αS]法(Eckstein),亜硫酸や亜硝酸などを用いる領域指定変異導入法等の方法が挙げられる。
【0038】
アミノ酸の置換、欠失、あるいは挿入は、好ましい変化を与えるものであってよく、当該タンパク質を構成するポリペプチドの生理的な特性や化学的な特性に変化を生ぜしめるものであってよい。該置換、欠失、あるいは挿入を施されたポリペプチドは、そうした置換、欠失、あるいは挿入のされていないものと実質的に同一であるとされるものであることもできる。該アミノ酸配列中のアミノ酸の実質的に同一な置換体としては、そのアミノ酸が属するところのクラスのうちの他のアミノ酸類から選ぶことができうる。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、トリプトファン、メチオニンなどが挙げられ、極性(中性)としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンなどが挙げられ、陽電荷をもつアミノ酸(塩基性アミノ酸)としては、アルギニン、リジン、ヒスチジンなどが挙げられ、陰電荷をもつアミノ酸(酸性アミノ酸)としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。場合によっては、システインをセリンに、グリシンをアラニンやロイシンに、あるいはロイシンをアラニン、イソロイシン、バリンなどに置き換えてもよい。
本発明のタンパク質は、化学的な手法でその含有されるアミノ酸残基を修飾することもできるし、ペプチダーゼ、例えばペプシン、キモトリプシン、パパイン、ブロメライン、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼなどの酵素を用いて修飾したり、部分分解したりしてその誘導体などにすることができる。
【0039】
また遺伝子組換え法で製造する時に融合タンパク質として発現させ、生体内あるいは生体外で天然の所定の本発明のタンパク質と実質的に同等の生物学的活性を有しているものに変換・加工してもよい。遺伝子工学的に常用される融合産生法を用いることができるが、こうした融合タンパク質はその融合部を利用してアフィニティクロマトグラフィーなどで精製することも可能である。こうした融合タンパク質としては、ヒスチジンタグに融合せしめられたもの、あるいは、β−ガラクトシダーゼ(β−gal) 、マルトース結合タンパク (MBP), グルタチオン−S−トランスフェラーゼ (GST)、チオレドキシン (TRX)又は Cre Recombinaseのアミノ酸配列に融合せしめられたものなどが挙げられる。同様に、ポリペプチドは、ヘテロジーニアスなエピトープのタグを付加され、該エピトープに特異的に結合する抗体を用いてのイムノアフィニティ・クロマトグラフィーによる精製をなし得るようにすることもできる。より適した実施態様においては、該エピトープタグとしては、例えば AU5, c−Myc, CruzTag 09, CruzTag 22, CruzTag 41, Glu−Glu, HA, Ha.11, KT3, FLAG (registered trademark, Sigma−Aldrich), Omni−probe, S−probe, T7, Lex A, V5, VP16, GAL4, VSV−G などが挙げられる。(Field et al., Molecular and Cellular Biology, 8: pp.2159−2165 (1988); Evan et al., Molecular and Cellular Biology, 5: pp.3610−3616 (1985); Paborsky et al., Protein Engineering, 3(6): pp.547−553 (1990); Hopp et al., BioTechnology, 6: pp.1204−1210 (1988); Martin et al., Science, 255: pp.192−194 (1992); Skinner et al., J. Biol. Chem., 266: pp.15163−15166 (1991); Lutz−Freyermuth et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: pp.6393−6397 (1990)など) 。酵母を利用した two−hybrid 法も利用できる。
【0040】
さらに融合タンパク質としては、検出可能なタンパク質となるようなマーカーを付されたものであることもできる。より好適な実施態様においては、該検出可能なマーカーは、ビオチン/ストレプトアビジン系のBiotin Avi Tag、螢光を発する物質などであってよい。該螢光を発する物質としては、オワンクラゲ (Aequorea victorea)などの発光クラゲ由来の緑色螢光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)、それを改変した変異体(GFPバリアント) 、例えば、EGFP (Enhanced−humanized GFP), rsGFP (red−shift GFP), 黄色螢光タンパク質 (yellow fluorescent protein: YFP), 緑色螢光タンパク質 (green fluorescent protein: GFP),藍色螢光タンパク質 (cyan fluorescent protein: CFP), 青色螢光タンパク質 (blue fluorescent protein: BFP), ウミシイタケ (Renilla reniformis) 由来のGFP などが挙げられる(宮脇敦史編、実験医学別冊ポストゲノム時代の実験講座3−GFP とバイオイメージング、羊土社 (2000年))。また、上記融合タグを特異的に認識する抗体(モノクローナル抗体及びそのフラグメントを含む)を使用して検出を行うこともできる。
本発明のタンパク質及びその一部のペプチドの合成には、当該ペプチド合成分野で知られた方法、例えば液相合成法、固相合成法などの化学合成法を使用することができる。こうした方法では、例えばタンパク質あるいはペプチド合成用樹脂を用い、適当に保護したアミノ酸を、それ自体公知の各種縮合方法により所望のアミノ酸配列に順次該樹脂上で結合させていく。縮合反応には、好ましくはそれ自体公知の各種活性化試薬を用いるが、そうした試薬としては、例えばジシクロヘキシルカルボジイミドなどカルボジイミド類を好ましく使用できる。生成物が保護基を有する場合には、適宜保護基を除去することにより目的のものを得ることができる。
【0041】
本発明のタンパク質は、当業者に公知の方法により、天然のタンパク質としての他、遺伝子組換え技術を利用して調製した組換えタンパク質として調製することができる。天然のタンパク質は、例えば、下記の方法により調製された組換えタンパク質をウサギなどの小動物に免疫して得た抗体を適当な吸着体(CNBr活性化アガロースやトシル活性化アガロース)に結合させてカラムを作製し、得られたカラムを利用してイネの葉のタンパク質抽出液を精製することにより調製することが可能である。一方、組換えタンパク質は、常法、例えば、本発明のタンパク質をコードするDNA を適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な細胞に導入し、該形質転換細胞から精製することにより調製することが可能である。
【0042】
組換えタンパク質を生産するために用いられる細胞としては、例えば、植物細胞、大腸菌、酵母などの微生物細胞、動物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。また、細胞内で組換えタンパク質を発現させるためのベクターとしては、例えば、植物、酵母細胞用にはプラスミド「pBI121」や「pBI101」(Clontech社製)、大腸菌用にはプラスミド「pET Expression system 」(Stratagene社製)や「GST gene fusion Vectors 」(Pharmacia 社製)、ほ乳類細胞用にはプラスミド「pMAM」(Clontech社製)、昆虫細胞用にはプラスミド「pBacPAK8.9」(Clontech社製)などが挙げられる。ベクターへのDNA の挿入は、常法、例えば、Molecular Cloning (Maniatis et al., Cold Spring harbor Laboratry Press) に記載の方法により行うことができる。また、宿主細胞へのベクターの導入は、常法により宿主細胞に応じてエレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法などの方法で行うことが可能である。
得られた形質転換細胞からの本発明の組換えタンパク質の精製は、タンパク質の性質に応じ、塩析や有機溶媒による沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、免疫吸着体によるカラムクロマトグラフィー、ゲルろ過、SDS 電気泳動、等電点電気泳動などを適宜組み合わせて行うことが可能である。また、本発明の組換えタンパク質をグルタチオンS−トランスフェラーゼなどの標識との融合タンパク質として発現させた場合には、該標識に対するアフィニティークロマトグラフィーなどにより精製することも可能である。
【0043】
得られた形質転換細胞からの本発明の組換えタンパク質の精製は、タンパク質の性質に応じ、塩析や有機溶媒による沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、免疫吸着体によるカラムクロマトグラフィー、ゲルろ過、SDS 電気泳動、等電点電気泳動などを適宜組み合わせて行うことが可能である。また、本発明の組換えタンパク質をグルタチオンS−トランスフェラーゼなどの標識との融合タンパク質として発現させた場合には、該標識に対するアフィニティークロマトグラフィーなどにより精製することも可能である。
【0044】
また、本発明は、上記本発明のタンパク質をコードするDNA を提供する。本発明のDNA は、本発明のタンパク質をコードし得るものであれば特に制限はなく、ゲノムDNA 、cDNA、化学合成DNA などが含まれる。ゲノムDNA は、例えば、文献 (Rogers and Bendich, Plant Mol. Biol. 5:69 (1985)) 記載の方法に従って調製したゲノムDNA を鋳型として、本発明のDNA の塩基配列(例えば、配列番号:1または配列番号:3に記載の塩基配列)を基に作製したプライマーを用いてポリメラーゼ・チェイン・リアクション(polymerase chain reaction; PCR)を行うことにより調製することが可能である。また、cDNAであれば、常法 (Maniatis et al. Molecular Cloning Cold Spring harbor Laboratry Press) により植物からmRNAを調製し、逆転写反応を行い、上記と同様のプライマーを用いてPCR を行うことにより調製することが可能である。また、ゲノムDNA やcDNAは、常法によりゲノムDNA ライブラリーまたはcDNAライブラリーを作製し、このライブラリーに対し、例えば本発明のDNA の塩基配列(例えば、配列番号:1または3 に記載の塩基配列)を基に合成したプローブを用いてスクリーニングすることによっても調製することが可能である。
【0045】
また、機能的に同等なタンパク質を単離する方法の他の態様としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, J. Mol. Biol. 98:503(1975); Maniatis et al., ”Molecular Cloning”, Cold Spring harbor Laboratry Press) やPCR 技術(H.A.Erlich (ed.), ”PCR technology”, Stockton Press, New York (1989))が挙げられる。即ち、当業者にとっては、「NACK1」遺伝子の塩基配列(配列番号:1)もしくはその一部をプローブとして、「NACK1」遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の一部にハイブリダイズするオリゴ塩基をプライマーとして、これと高い相同性を有するDNAを単離して、該DNAから「NACK1」タンパク質と同等の機能を有するタンパク質を得ることは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離されたDNAがコードする「NACK1 」タンパク質と同等の機能を有するタンパク質もまた本発明のタンパク質に含まれる。同様なことは、NACK2 についても適用できる。
【0046】
本明細書中、PCR とは、一般的に、Saiki et al., Science, 239:487(1988); 米国特許第 4,683,195号明細書などに記載されたような方法を指し、例えば、所望のヌクレオチド配列をインビトロで酵素的に増幅するための方法を指している。一般に、PCR は、鋳型核酸と優先的にハイブリダイズすることのできる2個のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、プライマー伸長合成を行うようなサイクルを繰り返し行うことを含むものである。典型的には、PCR 法で用いられるプライマーは、鋳型内部の増幅されるべきヌクレオチド配列に対して相補的なプライマーを使用することができ、例えば、該増幅されるべきヌクレオチド配列とその両端において相補的であるか、あるいは該増幅されるべきヌクレオチド配列に隣接しているものを好ましく使用することができる。代表的な場合には、5’端側のプライマーとしては、少なくとも開始コドンを含有するか、あるいは該開始コドンを含めて増幅できるように選択し、また3’端側のプライマーとしては、少なくともストップコドンを含有するか、あるいは該ストップコドンを含めて増幅できるように選択することが好ましい。プライマーは、好ましくは 5個以上の塩基、さらに好ましくは10個以上の塩基からなるオリゴヌクレオチド、より好ましくは18〜35個の塩基からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0047】
PCR は、当該分野で公知の方法あるいはそれと実質的に同様な方法や改変法により行うことができるが、例えば 上記文献の他、R. Saiki, et al., Science, 230: 1350, 1985; H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989; D. M. Glover et al. ed., ”DNA Cloning”, 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); M. A. Innis et al. ed., ”PCR Protocols: a guide to methods and applications”, Academic Press, New York (1990)); M. J. McPherson, P. Quirke and G. R. Taylor (Ed.), PCR: a practical approach, IRL Press, Oxford (1991); M. A. Frohman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8998−9002 (1988) などに記載された方法あるいはそれを修飾したり、改変した方法に従って行うことができる。また、PCR は、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、キット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコルに従って実施することもできる。
【0048】
PCR は、代表的な場合には、例えば鋳型(例えば、mRNAを鋳型にして合成されたDNA; 1st strand DNA など) と該遺伝子に基づいてデザインされたプライマーとを、10×反応緩衝液 (Taq DNA ポリメラーゼに添付されている) 、dNTPs(デオキシヌクレオシド三リン酸dATP, dGTP, dCTP, dTTPの混合物)、Taq DNA ポリメラーゼ及び脱イオン蒸留水と混合する。混合物を、例えば、GeneAmp 2400 PCR system, Perkin−Elmer/Cetus などの自動サーマルサイクラーを用いて一般的なPCR サイクル条件下にそのサイクルを25〜60回繰り返すが、増幅のためのサイクル数は適宜目的に応じて適当な回数とすることができる。PCR サイクル条件としては、例えば、変性90〜95℃ 5〜100秒、アニーリング40〜68℃ 5〜150秒、伸長65〜75℃ 30〜900秒のサイクル、好ましくは変性 94 ℃ 15 秒、アニーリング 58℃ 15秒、伸長 72℃ 45秒のサイクルが挙げられるが、アニーリングの反応温度及び時間は適宜実験によって適当な値を選択できるし、変性反応及び伸長反応の時間も、予想されるPCR 産物の鎖長に応じて適当な値を選択できる。アニーリングの反応温度は、通常プライマーと鋳型DNA とのハイブリッドのTm値に応じて変えることが好ましい。伸長反応の時間は、通常1000bpの鎖長当たり1 分程度がおおよその目安であるが、より短い時間を選択することも場合により可能である。得られたDNA の塩基配列は、例えば「シークエンサーModel310」(ABI 社製)を利用することにより容易に決定することが可能である。本発明のDNA は、例えば、上記したように組換えタンパク質の調製に用いることができる。さらに、本発明のDNA を植物体内で発現させることにより、細胞壁成分の合成が促進された形質転換植物体や発生分化が促進された形質転換植物体を得ることも可能である。
【0049】
NACK1 と機能的に同等なタンパク質をコードする遺伝子を単離するためのハイブリダイゼーションは、55℃でハイブリダイゼーションさせた後、0.1% SDSを含む2XSSC(3M NaCl, 0.3M クエン酸ナトリウム)もしくは2XSSPE(3.6M NaCl, 0.2Mリン酸ナトリウム液(pH7.7), 0.02M Na2−EDTA) 中で、55℃で10分間の洗浄を合計3回行うという条件で行なうことができる。よりストリンジェントなハイブリダイゼーションにおいては、65℃でハイブリダイゼーションさせた後、0.1% SDSを含む2XSSCもしくは2XSSPE液中で、65℃で10分間洗浄を合計3回行えば良い。さらに、よりストリンジェントなハイブリダイゼーションにおいては、65℃でハイブリダイゼーションさせた後、0.1% SDSを含む2XSSCもしくは2XSSPE液中で、65℃で10分間洗浄し、次に0.1% SDSを含む1XSSCもしくは1XSSPE液中で、65℃で10分間の洗浄を2回行えばよい。ハイブリダイゼーション液は、「Molecular cloning (Maniatis T. et al. Cold Spring Harbor Laboratory Press)」に記載されているもの等を用いればよい。
【0050】
ハイブリダイズ技術やPCR技術により得られるDNAがコードするNACK関連タンパク質のアミノ酸配列の相同性は、Blast search (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/blast.cgi?Jform=1)やGene Works (Intelli Genetics, Inc.) 等による相同性検索により決定することができる。
NACK1 タンパク質と同等な機能を有するNACK関連タンパク質のアミノ酸配列はそのタンパク質のN末端側に見出されるキネシン様タンパク質のモータードメインと相同性が高い領域においてNACK1 タンパク質と60%以上のアミノ酸配列が同一であり、NACK1 タンパク質の 686〜759 番目のアミノ酸配列に相当する NPK1 タンパク質またはそのオルソログ結合領域が65%以上アミノ酸において同一であり、且つこの領域がコイルドコイル構造を予測するプログラム(COILS program, http://npsa−pbil.ibcp.fr/cgi−bin/npsa#automat.pl?page=npsa#lupas.html, Lupas et al. 1991) によってコイルドコイル構造が予測されることである。
【0051】
また、本発明は、植物体内で本発明のDNA の発現を抑制し得る分子を提供する。「本発明のDNA の発現の抑制」には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNA の発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
植物における特定の内在性遺伝子の発現を抑制する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者に最もよく利用されている。植物細胞におけるアンチセンス効果は、エッカーらが一時的遺伝子発現法を用いて、電気穿孔法で導入したアンチセンスRNA が植物においてアンチセンス効果を発揮することで初めて実証した (J.R.Ecker およびR.W.Davis, Proc. Natl. Acad. USA. 83:5372(1986))。その後、タバコやペチュニアにおいても、アンチセンスRNA の発現によって標的遺伝子の発現を低下させる例が報告されており (A.R.van der Krolら, Nature 333:866(1988))、現在では植物における遺伝子発現を抑制させる手段として確立している。
【0052】
アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNA ポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNA とのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A) 付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する。
【0053】
本発明で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、遺伝子のmRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であろう。しかし、コード領域もしくは3’側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNA も、本発明で利用されるアンチセンスDNA に含まれる。使用されるアンチセンスDNA は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製されたDNA は、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。アンチセンスDNA の配列は、形質転換する植物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNA は、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。配列の相補性は、上記した検索により決定することができる。
アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスDNA の長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100 塩基以上であり、より好ましくは200 塩基以上であり、さらに好ましくは500 塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNA の長さは5kb よりも短く、好ましくは2.5kb よりも短い。
【0054】
内在性遺伝子の発現の抑制は、また、リボザイムをコードするDNA を利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA 分子のことをいう。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、中でもRNA を切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNA の部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNA のように400 塩基以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40塩基程度の活性ドメインを有するものもある。
【0055】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15 のC15 の3’側を切断するが、活性にはU14 が9位のA と塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はC の他にA またはU でも切断されることが示されている (M.Koizumi ら,(1988) FEBS Lett. 228:225) 。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA 配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA 中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA 切断リボザイムを作出することが可能である (M.Koizumi ら,(1988) FEBS Lett. 239:285、M.Koizumi ら,(1989) Nucleic Acids Res. 17:7059) 。例えば、NACK2 遺伝子(配列番号:2)のコード領域中には標的となりうる部位が複数存在する。
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNA のマイナス鎖に見出される (J.M.Buzayan, Nature, 323:349, 1986) 。このリボザイムも、標的特異的なRNA 切断を起こすように設計できることが示されている (Y.Kikuchi およびN.Sasaki, Nucleic Acids Res., 19:6751(1992))。
【0056】
標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35S プロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。しかし、その際、転写されたRNA の5’末端や3’末端に余分な配列が付加されていると、リボザイムの活性が失われてしまうことがある。このようなとき、転写されたリボザイムを含むRNA からリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5’側や3’側に、トリミングを行うためのシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である (K.Taira et al., Protein Eng., 3:733(1990); A.M.Dzianott およびJ.J.Bujarski, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 86:4823(1989); C.A.Grosshans およびR.T.Cech, Nucleic Acids Res., 19:3875(1991); K.Taira et al., Nucleic Acids Res., 19:5125(1991)) 。また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにして、より効果を高めることもできる (N.Yuyama et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 186:1271, 1992)。このようなリボザイムを用いて本発明で標的となる遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0057】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するDNA の形質転換によってもたらされる共抑制によっても達成されうる。「共抑制」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一若しくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入すると、導入する外来遺伝子および標的内在性遺伝子の両方の発現が抑制される現象のことをいう。共抑制の機構の詳細は明らかではないが、植物においてはしばしば観察される (Curr. Biol., 7:R793, 1997; Curr. Biol., 6:810, 1996)。例えば、NACK2 遺伝子が共抑制された植物体を得るためには、NACK2 遺伝子若しくはこれと類似した配列を有するDNA を発現できるように作製したベクターDNA を目的の植物へ形質転換し、得られた植物体から多核化した細胞を有する植物を選択すればよい。共抑制に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上)の配列の同一性を有する。配列の同一性は、上記した検索を利用して決定することができる。
【0058】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を逆位反復に配置したDNA の形質転換によってもたらされるRNAiによっても達成されうる。「RNAi」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一若しくは類似した配列を逆位反復に配置したDNA を形質転換により導入すると、外来DNA に由来する二本鎖RNA が発現し、標的遺伝子の発現が抑制される現象のことをいう。RNA 干渉の機構としては、第一段階として標的遺伝子のmRNAと導入配列由来の二本鎖RNA が複合体を形成し会合した配列をプライマーとして相補的なRNA が合成され、第二段階として内在性RNase によってこの複合体が断片化され、第3段階として20−30 塩基対に断片化した二本鎖RNA が二次的なRNA 干渉のシグナルとして機能することによって再び、内在性の標的遺伝子のmRNAを分解すると考えられている。 (Curr. Biol., 7:R793, 1997; Curr. Biol., 6:810, 1996)。例えば、NACK1遺伝子あるいはNACK2 遺伝子がRNA 干渉によって抑制された植物体を得るためには、NACK1遺伝子あるいはNACK2 遺伝子若しくはこれと類似した配列を有するDNA を逆位反復に配置したDNA を発現できるように作製したベクターDNA を目的の植物へ形質転換し、得られた植物体から多核化した細胞を有する植物を選択すればよい。RNA 干渉に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも10塩基以上が連続して同一であり、好ましくは20塩基以上が連続して同一であり、より好ましくは50塩基以上が連続して同一であり、より好ましくは100 塩基以上が連続して同一であり、さらに好ましくは200 塩基以上が連続して同一である。配列の同一性は、上記した検索を利用して決定することができる。
また、RNAiは植物ウイルスの感染によっても実現可能である。ゲノムとして一本鎖RNAをもつ植物ウイルスは、その複製過程において二本鎖RNA形態をとる。そこで、植物ウイルスゲノム中に目的遺伝子配列を適当なプロモーターと共に挿入し、この組換えウイルスを植物に感染させた場合、該ウイルスの複製に伴い目的遺伝子配列の二本鎖RNAが生成されることになる。その結果、RNAiの効果を得ることができる(Angell et al., Plant J. 20, 357−362,(1999))。
【0059】
さらに、本発明における内在性遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子のドミナントネガティブの形質を有する遺伝子を植物へ形質転換することによっても達成することができる。本発明において「ドミナントネガティブの形質を有するタンパク質をコードする DNA」とは、該DNA を発現させることによって、植物体が本来持つ本発明の内在性遺伝子がコードするタンパク質の活性を消失もしくは低下させる機能を有するタンパク質をコードするDNA のことを指す。対象となるDNA が本発明の内在性遺伝子の活性を消失もしくは低下させる機能を有するか否かは、上述したように、対象となるDNA が、植物の隔膜形成体の形成および拡大の抑制による多核化した細胞が出現するか否かにより判定することができる。
ドミナントネガティブ分子よる内在性NACK関連タンパク質の機能低下は、NACK関連タンパク質を単離した植物種と異なる植物種に形質転換しても良い。
ドミナントネガティブの形質を示すタンパク質としてはNACK1 タンパク質の686 〜759番目のアミノ酸を含んでいること、あるいはNACK2 タンパク質の 686〜759 番目のアミノ酸を含んでいることが望ましく、且つ該タンパク質が微小管への結合能力を失っているか又はモーター活性が欠失していることが望ましい。モーター活性とはNACK1 タンパク質あるいはNACK2 タンパク質の微小管上を移動する活性のことであり、この活性を欠失させる方法としてはモータードメイン領域の少なくとも1部分のアミノ酸を欠失させることであり、またアミノ酸置換により変異を導入することである。
【0060】
また、本発明は、上記本発明のDNA や本発明のDNA の発現あるいは本発明のDNAにコードされるタンパク質の発現を抑制するDNA が挿入された組換えDNA 又はベクターを提供する。該組換えDNA 又はベクターとしては、組換えタンパク質の生産に用いる上記したベクターの他、形質転換植物体作製のために植物細胞内で本発明のDNA あるいは本発明のDNA の発現または本発明のDNAにコードされるタンパク質の発現を抑制するDNA を発現させるためのベクターも含まれる。このような組換えDNA 又はベクターとしては、植物細胞で転写可能なプロモーター配列と転写産物の安定化に必要なポリアデニレーション部位を含むターミネーター配列を含んでいれば特に制限されず、例えば、プラスミド「pBI121」、「pBI221」、「pBI101」(いずれもClontech社製)、「pTA7001 」、「pTA7002 」(Aoyama ら(1997) Plant J. 11:605) などが挙げられる。
本発明の前記組換えDNA 又はベクターは、本発明のタンパク質を恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターを含有しうる。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(Odell et al., Nature, 313:810(1985))、イネのアクチンプロモーター(Zhang et al., Plant Cell, 3:1155(1991)) 、トウモロコシのユビキチンプロモーター(Cornejo et al.,Plant Mol. Biol., 23:567(1993))などが挙げられる。
【0061】
また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーター(Xu et al., Plant Mol. Biol., 30:387(1996))やタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター(Ohshima et al., Plant Cell 2:95(1990)) 、低温によって誘導されるイネの「lip19」遺伝子のプロモーター(Aguan et al., Mol. Gen Genet., 240:1(1993)) 、高温によって誘導されるイネの「hsp80」遺伝子と「hsp72」遺伝子のプロモーター(Van Breusegem et al., Planta, 193:57(1994)) 、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター(Nundy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:1406(1990))、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター(Schulze−Lefert et al., EMBO J., 8:651(1989))、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター(Walker et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:6624(1987)) などが挙げられる。また、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーターとタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸などの特定の化合物によって、「rab16」は植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。またグルココルチコイドやエストロジェンの処理によって植物内で誘導的遺伝子発現が可能であるシステムを有するベクター系の使用も含有し得る。グルココルチコイド処理によって発現誘導可能なベクターとしてはpTA7001、pTA7002(Aoyama et al., Plant J., 11:605(1997)) や、エストロジェン処理によって発現誘導が可能なベクターとしてはpER10(Zuo et al., Plant J., 24:265(2000)) が挙げられる。
【0062】
また、花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子のプロモーターであるシロイヌナズナAtNACK2 遺伝子プロモーター、シロイヌナズナAVP1遺伝子プロモーター、シロイヌナズナDAD1遺伝子プロモーター、タバコTA20、TA29遺伝子プロモーター、イネOsg6B 遺伝子プロモーター、トマトLat52 遺伝子プロモーター、タバコg10 遺伝子プロモーター、カリフラワーモザイクウイルス 35Sプロモーターに葯特異的遺伝子発現調節配列を挿入した人工的なプロモーターなどが挙げられる。
【0063】
また、本発明は、本発明の前記組換えDNA 又はベクターが導入された形質転換細胞を提供する。本発明のベクターが導入される細胞には、組換えタンパク質の生産に用いる上記した細胞の他に、形質転換植物体作製のための植物細胞が含まれる。植物細胞としては特に制限はなく、知られた植物、例えば栽培植物、有用植物などから選んでそれに適用でき、穀類、豆類、イモ類、種実類、野菜類、果実類として知られた植物、さらには園芸花木樹木などに由来のものを挙げることができる。該植物細胞としては、例えば、ナス科、アブラナ科、イネ科、マメ科、ユリ科、セリ科、ウリ科などのものが挙げられ、好ましくはタバコ、シロイヌナズナ、アブラナ、ダイズ、アズキ、エンドウ、ソラマメ、ラッカセイ、ゴマ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、トウモロコシ、ジャガイモ、トマト、ピーマン、キャベツ、ブロッコリー、パセリ、ホウレンソウ、サツマイモ、タロイモ、コンニャク、キャッサバ、ブドウ、リンゴ、モモ、ナシ、カキ、イチゴ、ブルーベリー、プラム、メロン、キュウリ、サトウキビ、ミカン、レモン、オレンジ、オリーブ、綿花などの細胞が挙げられる。本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。また、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれる。植物細胞へのベクターの導入は、例えば、アグロバクテリウムを利用した導入方法 (Hood et al., Transgenic Res., 2:218(1993); Hiei et al., Plant J., 6:271(1994))、エレクトロポレーション法 (Tada et al., Theor. Appl. Genet, 80:475(1990) ) 、ポリエチレングリコール法 (Lazzeri et al., Theor. Appl. Genet, 81:437(1991)) 、パーティクルガン法 (Sanford et al., J. Part. Sci. tech., 5:27(1987))などの方法を用いることが可能であり、当該分野で知られた方法の中から適宜選択して利用することが出来る。
【0064】
形質転換された植物細胞は、再分化させることにより植物体を再生させることが可能である。再分化の方法は植物細胞の種類により異なるが、例えば、イネであればFujimuraら (Plant Tissue Culture Lett., 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら (Bio/Technology, 7:581 (1989)) の方法やGorden−Kamm ら (Plant Cell, 2:603 (1990)) が挙げられ、ジャガイモであればVisserら (Theor. Appl. Genet, 78:594 (1989))の方法が挙げられ、タバコであればNagataとTakebe (Planta, 99:12 (1971)) の方法が挙げられ、シロイヌナズナであればAkama ら (Plant Cell Reports, 12:7−11 (1992)) の方法が挙げられる。
一旦、ゲノム内に本発明のDNA あるいは本発明のDNA の発現を抑制するDNA が導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNA または本発明のDNA の発現を抑制するDNA が導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
【0065】
本発明の形質転換植物体は、本発明のDNA の発現の調節により、細胞分裂の変化や花粉形成が正常な個体と比較して変化しうる。「細胞分裂の変化」とは、例えば、隔膜形成体が拡大する変化、隔膜形成体の形成の変化、細胞板が拡大する変化、細胞板の形成の変化、細胞分裂回数の変化、細胞分裂速度の変化、細胞中に含まれる核数の変化、細胞分裂面の変化、細胞形態の変化を包含して指す。「発生分化の変化」とは、例えば、組織の形態変化、組織の大きさの変化、器官の形態変化、器官の大きさの変化、植物体の形態の変化、植物体の大きさの変化、植物体の生育速度の変化を包含して指す。「花粉形成の変化」とは、例えば、花粉形成の抑制、花粉細胞中での核数の変化、花粉細胞の大きさ、花粉管発芽の抑制、受精能力の低下の変化を包含して指す。
本明細書中で開示した関連したタンパク質、そのフラグメント、さらにはDNA を含めた核酸(mRNA やオリゴヌクレオチドを含む) は、それらを単独あるいは有機的に使用し、更にはアンチセンス技術、モノクローナル抗体を含めた抗体、トランスジェニク植物などとも適宜組合わせて、ゲノミックス及びプロテオミックス技術に応用できる。また、二本鎖RNA (dsRNA) を使用してのRNAi (RNA interference) 技術への応用の途もある。かくして、一塩基多型(SNP; single nucleotide polymorphisms)を中心とした遺伝子多型解析、核酸アレイ、タンパク質アレイを使用した遺伝子発現解析、遺伝子機能解析、タンパク質間相互作用解析、関連遺伝子解析、農薬解析をすることが可能となる。例えば、核酸アレイ技術では、cDNAライブラリーを使用したり、PCR 技術で得たDNA を基板上にスポッティング装置で高密度に配置して、ハイブリダイゼーションを利用して試料の解析が行われる。
RNAi技術を利用する場合、例えばsiRNA (short interfering RNA) をデザインしてそれを導入して行うことをしてもよい。siRNA をデザインする場合、代表的な場合、対象遺伝子のスタートコドンから約50〜100塩基下流、例えば75塩基以上下流の領域に存在するAAで開始する19塩基の領域を選択する。好ましくは5’− や3’−UTRやスタートコドン近傍はそれを避けるが、場合によってはUTR 領域を対象とすることもできよう。該選択領域のGC含量が約30〜70% 程度、例えば約45〜55% 程度の領域を選択することが好ましい。2塩基(AA)+19 塩基=21塩基の配列、例えばAA(N19)(N は任意のヌクレオチド) をDNA データベース、例えばNCBIなどで検索(例えば、BLAST サーチなど) してその特異性を確認する。選択した配列をもつ合成RNA にはその3’端にdTdT(あるいはUU) が付加されていてよい。センス配列の合成RNA とそれに対応するアンチセンス配列の合成RNA を用意し、該合成RNA は、dsRNA とされて、細胞などに導入される。dsRNA 作製で使用される典型的なアニーリングバッファとしては、例えば 100 mM KOAcと2 mM MgOAcを含有する30 mM HEPES−KOH, pH 7.4 液、50 mM NaClと1 mM EDTA を含有する10 mM Tris, pH 7.5〜8.0 液などが挙げられるが、これに限定されるものではない。アニーリングの代表的な条件は、95℃2〜3分間とした後45〜60分間かけて37〜25℃にまで徐々に冷却するという処理条件が挙げられるが、これに限定されるものではない。形成されたdsRNA は、例えばフェノール/クロロホルム抽出−エタノール沈殿で回収できる。siRNA を植物などの細胞に導入する方法としては当該分野で知られた方法あるいはそれと実質的に同様な方法で行うことができ、例えばリン酸カルシウム法(例えば、F. L. Graham et al., Virology, 52: 456, 1973など)、DEAE−デキストラン法(例えば、D. Warden et al., J. Gen. Virol., 3: 371, 1968など)、カチオン性脂質複合体形成法などのリボソーム法、エレクトロポレーション法(例えば、E. Neumann et al., EMBO J, 1: 841, 1982 など)、マイクロインジェクション法、biolistic 粒子導入法などが挙げられる。核酸導入法は、トランスフェクションにより効率的に行い得るような技術的改良が図られており、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、例えばInvitrogen社、QIAGEN社などのキット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコルに従って実施することもできる。siRNA 技術については、例えば、Elbashir et al., Nature, 411: 494−498 (2001); Elbashir et al., Genes Dev., 15: 188−200 (2001); 多比良和誠編、「実験医学別冊プロトコールシリーズ・遺伝子の機能阻害実験法」、羊土社、2001年などを参照することができる。
【0066】
該アレイ化は、針あるいはピンを使用して、あるいはインクジェトプリンティング技術などでもって、スライドガラス、シリコン板、プラスチックプレートなどの基板のそれぞれ固有の位置にDNA が付着せしめられることによりそれを実施することができる。該核酸アレイ上でのハイブリダイゼーションの結果得られるシグナルを観察してデータを取得する。該シグナルは、螢光色素などの標識(例えば、Cy3, Cy5, BODIPY, FITC, Alexa Fluor dyes(商品名), Texas red(商品名) など) より得られるものであってよい。検知にはレーザースキャナーなどを利用することもでき、得られたデータは適当なアルゴリズムに従ったプログラムを備えたコンピューターシステムで処理されてよい。また、タンパク質アレイ技術では、タグを付された組換え発現タンパク質産物を利用してよく、二次元電気泳動(2−DE)、酵素消化フラグメントを含めての質量分析 (MS)(これにはエレクトロスプレーイオン化法(electrospray ionization: ESI), マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(matrix−assisted laser desorption/ionization: MALDI)などの技術が含まれ、MALDI−TOF 分析計、ESI−3 連四重極分析計、ESI−イオントラップ分析計などを使用してよい) 、染色技術、同位体標識及び解析、画像処理技術などが利用されることができる。したがって、本発明には上記で得られるあるいは利用できるNACK1又はNACK2 など及びそれに対する抗体に関連したソフトウエア、データベースなども含まれてよい。同様なことはその他のNACK関連タンパク質(オルソログ)についても行なうことが可能である。
【0067】
本明細書中、「抗体」との用語は、広義の意味で使用されるものであってよく、所望のNACK1タンパク質またはNACK2タンパク質、その構成ポリペプチド及び関連ペプチド断片に対するモノクローナル抗体の単一のものや各種エピトープに対する特異性を持つ抗体組成物であってよく、また1価抗体または多価抗体並びにポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含むものであり、さらに天然型(intact)分子並びにそれらのフラグメント及び誘導体も表すものであり、F(ab’)2, Fab’ 及びFab といったフラグメントを包含し、さらに少なくとも二つの抗原又はエピトープ (epitope)結合部位を有するキメラ抗体若しくは雑種抗体、又は、例えば、クワドローム(quadrome), トリオーム(triome)などの二重特異性組換え抗体、種間雑種抗体、抗イディオタイプ抗体、さらには化学的に修飾あるいは加工などされてこれらの誘導体と考えられるもの、公知の細胞融合又はハイブリドーマ技術や抗体工学を適用したり、合成あるいは半合成技術を使用して得られた抗体、抗体生成の観点から公知である従来技術を適用したり、DNA 組換え技術を用いて調製される抗体、本明細書で記載し且つ定義する標的抗原物質あるいは標的エピトープに関して中和特性を有したりする抗体又は結合特性を有する抗体を包含していてよい。特に好ましい本発明の抗体は、配列番号:2や配列番号:4の1〜365番目の領域から選択されたポリペプチドを特異的に識別できるものが挙げられる。
【0068】
抗原物質に対して作製されるモノクローナル抗体は、培養中の一連のセルラインにより抗体分子の産生を提供することのできる任意の方法を用いて産生される。修飾語「モノクローナル」とは、実質上均質な抗体の集団から得られているというその抗体の性格を示すものであって、何らかの特定の方法によりその抗体が産生される必要があるとみなしてはならない。個々のモノクローナル抗体は、自然に生ずるかもしれない変異体が僅かな量だけ存在しているかもしれないという以外は、同一であるような抗体の集団を含んでいるものである。モノクローナル抗体は、高い特異性を持ち、それは単一の抗原性をもつサイトに対して向けられているものである。異なった抗原決定基(エピトープ) に対して向けられた種々の抗体を典型的には含んでいる通常の(ポリクローナル)抗体調製物と対比すると、それぞれのモノクローナル抗体は当該抗原上の単一の抗原決定基に対して向けられているものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養により合成され、他のイムノグロブリン類の夾雑がないあるいは少ない点でも優れている。モノクローナル抗体は、ハイブリッド抗体及びリコンビナント抗体を含むものである。それらは、所望の生物活性を示す限り、その由来やイムノグロブリンクラスやサブクラスの種別に関わりなく、可変領域ドメインを定常領域ドメインで置き換えたり、あるいは軽鎖を重鎖で置き換えたり、ある種の鎖を別の種の鎖でもって置き換えたり、あるいはヘテロジーニアスなタンパク質と融合せしめたりして得ることができる(例えば、米国特許第4816567 号; Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.79−97, Marcel Dekker, Inc., New York, 1987 など) 。
【0069】
モノクローナル抗体を製造する好適な方法の例には、ハイブリドーマ法 (G. Kohler and C. Milstein, Nature, 256, pp.495−497 (1975)); ヒトB細胞ハイブリドーマ法 (Kozbor et al., Immunology Today, 4, pp.72−79 (1983); Kozbor, J. Immunol., 133, pp.3001 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51−63, Marcel Dekker, Inc., New York (1987);トリオーマ法; EBV−ハイブリドーマ法 (Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp.77−96 (1985))(ヒトモノクローナル抗体を産生するための方法);米国特許第4946778 号 (単鎖抗体の産生のための技術) が挙げられる他、抗体に関して以下の文献が挙げられる: S. Biocca et al., EMBO J, 9, pp.101−108 (1990); R.E. Bird et al., Science, 242, pp.423−426 (1988); M.A. Boss et al., Nucl. Acids Res., 12, pp.3791−3806 (1984); J. Bukovsky et al., Hybridoma, 6, pp.219−228 (1987); M. DAINO et al., Anal. Biochem., 166, pp.223−229 (1987); J.S. Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, pp.5879−5883 (1988); P.T. Jones et al., Nature, 321, pp.522−525 (1986); J.J. Langone et al. (ed.), ”Methods in Enzymology”, Vol. 121 (Immunochemical Techniques, Part I: Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies), Academic Press, New York (1986); S. Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, pp.6851−6855 (1984); V.T. Oi et al., BioTechniques, 4, pp.214−221 (1986); L. Riechmann et al., Nature, 332, pp.323−327 (1988); A. Tramontano et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83, pp.6736−6740 (1986); C. Wood et al., Nature, 314, pp.446−449 (1985); Nature, 314, pp.452−454 (1985) あるいはそこで引用された文献(それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる) 。本発明の抗体は、当該遺伝子発現物の解析、検知などに利用できる他、様々な利用が可能である。
【0070】
本明細書中、「転写産物」とは、インビトロ、インビボ、細胞内、細胞外を含めて、遺伝子、ヌクレオチド配列などの転写の結果生成する生産物を包含し、例えばmRNAなどのRNA などが挙げられる。
本発明の技術を使用して、当該転写産物をはじめ、当該遺伝子発現物を測定(定性的測定及び定量的測定を含む)することにより、植物の有糸分裂の程度を評価して、植物の生育状態、活性力を判断する材料としたり、植物細胞の増殖性の評価、例えばカルスの増殖力を判定したり、植物が定常状態にあるのか、生育的に活性化しつつあるのかの判定、さらには植物細胞の培養条件などの評価などを行うこともできる。
【0071】
【実施例】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
なお、DNA の切断、連結、大腸菌の形質転換、遺伝子の塩基配列決定、ハイブリダイゼーション等一般の遺伝子組換えに必要な方法は、各操作に使用する市販の試薬、機械装置等に添付されている説明書や、実験書(例えば「Molecular cloning (Maniatis T. et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press) 」)に基本的に従った。全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【0072】
実施例1
酵母を用いたNACK1、NACK2 遺伝子のクローニング
各遺伝子のクローニングには出芽酵母の性フェロモンのシグナル伝達経路であるSte11(MAPKKK) 、Ste7(MAPKK) 、FUS3/KSS1(MAPK) の改変株を用いた。
出芽酵母のSte11(MAPKKK) 遺伝子破壊株にFUS1プロモーターで発現するHIS3レポーター遺伝子が染色体に挿入されたSY1984株 (MAT α leu2 ura3 trp1 his3Δura3 can1 FUS1::HIS3 ste11Δ::ura3) (Stevenson et al., Gene Dev., 6:1293(1992) )は、FUS3のMAPK活性をヒスチジン添加、無添加培地における生育でアッセイできる。このSY1984株のtrp1遺伝子座にCYC プロモーターで発現できるショウジョウバエのMAPKKKである Dsor1su1 を挿入して11Su1 株 (Irieら(1994)Sience 265:1716)が作出された。
11Su1 株の染色体上、leu2遺伝子座にGAL1プロモーターで発現できるNPK1 cDNA を挿入し、11Su1N株が作出された。11SuN 株はガラクトースの添加により、NPK1が発現できる。11Su1N株においてNPK1はSte11 の機能を相補可能であるが、全長NPK1は単独ではキナーゼ不活性型であるため、ガラクトース添加、ヒスチジン無添加培地では生育出来ない。
【0073】
11Su1N株においてNPK1のキナーゼ活性を活性化するタバコの因子をクローニングするために、増殖期にあるタバコ培養細胞BY−2のcDNAライブラリーを作成し、11SuN 株を形質転換した。
cDNAライブラリーは植え継ぎ後3日目のBY−2培養細胞より常法によりmRNAを精製し、逆転写反応を行って cDNA を合成し、pKT11 プラスミドのEcoRI とSalIサイトにBY−2 cDNA を挿入して作成した。
cDNAライブラリーを出芽酵母11Su1N株に形質転換し、独立した3 x 105 個の形質転換酵母を得た。
形質転換酵母をヒスチジン無添加、ガラクトース添加のSG(synthetic galactose) 培地(ウラシル、トリプトファン、ロイシン無添加) で生育させると、この培地上で生育するクローンが得られた。
このクローンよりプラスミドを回収し、cDNAの塩基配列を決定することによりNACK1 cDNA、NACK2 cDNAの塩基が明らかになった。
これらのプラスミドよりSalIとNotIによって cDNA を切り出し、pBluescript SK−(ストラタジーン) のSalI、NotIサイトに挿入し、p051SK (NACK1)、pNAK2SK (NACK2) を生成した。酵母で発現しているNPK1を活性化する因子としてクローニングされたNACK1 cDNA配列を配列番号:1に、またNACK2 cDNA配列を配列番号:3に示した。
【0074】
実施例2
NACK1 のアミノ酸配列を配列番号:2に、またNACK2 のアミノ酸配列を配列番号:4に示した
【0075】
実施例3
データベースの相同性探索により見出されたシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の配列を基に、配列番号:9、配列番号:10 で示した合成オリゴDNA をプライマーに用い、シロイヌナズナのcDNAよりPCR によって単離したAtNACK1 cDNAの塩基配列を配列番号:5で示した。
【0076】
実施例4
配列番号:5で示したAtNACK1 の cDNA にコードされるAtNACK1 タンパク質のアミノ酸配列を配列番号:6に示した。
【0077】
実施例5
データベースの相同性探索により、配列番号:2で示したNACK1 タンパク質と高い類似性を示すイネのタンパク質のアミノ酸配列を見出した。このタンパク質をOsNACKとし、アミノ酸配列を配列番号:7に示した。
【0078】
実施例6
配列番号:7で示したOsNACKタンパク質のアミノ酸配列をコードした領域を含むイネゲノムDNA の塩基配列を配列番号:8に示した。
【0079】
実施例7
配列番号:8を基に設計した合成オリゴDNA をプライマーに用い、イネのcDNAを鋳型に用いてPCR を行うことでOsNACk cDNA を単離することが出来る。
【0080】
実施例8
NACK関連タンパク質アミノ酸配列の類似性
NACK1、AtNACK1、OsNACKにつき、最適な形で並べたアミノ酸配列の比較を図1〜3に示した。同一アミノ酸の割合、類似アミノ酸の割合を表1〜3に示した。解析にはPairwise BlastのBlast 2 Sequences (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を使用した。使用時の主なパラメーター等の設定はMatrixがBLOSUM62、gap openが11、gap extensionが1、dropoffが50、expectが10.0であり、その他も初期設定の状態で使用した。二つのアミノ酸配列の類似性を示す出力結果で、ポジティブとは同一なアミノ酸に加え、類似なアミノ酸を加えた割合を示す。 NACK1とAtNACK1は76%のアミノ酸が同一であり、86%のアミノ酸がポジティブであった。また、NACK1とOsNACKでは65%のアミノ酸が同一であり、79%のアミノ酸がポジティブであった。キネシン様タンパク質のモータードメインはNACK1タンパク質のアミノ酸配列において27−364番目が相当し、AtNACK1タンパク質のアミノ酸では28−364番目が、OsNACKタンパク質のアミノ酸配列では31−362番目が相当する。この領域ではNACK1とAtNACK1では87%のアミノ酸が同一であり、93%のアミノ酸がポジティブであった。またNACK1とOsNACKでは76%のアミノ酸が同一であり、86%のアミノ酸がポジティブであった。NPK1タンパク質とNACK1タンパク質の結合に必須な領域であるNACK1タンパク質のアミノ酸配列は686−759番目であり、AtNACK1タンパク質のアミノ酸では699−773番目が、OsNACKタンパク質のアミノ酸配列では675−749番目が相当する。この領域においてはNACK1とAtNACK1では82%が同一であり、95%がポジティブであった。またNACK1とOsNACKでは80%が同一であり、90%がポジティブであった。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
実施例9
NACK関連タンパク質の構造的類似性
コイルドコイル構造を予測するプログラム(COILS program, http://npsa−pbil.ibcp.fr/cgi−bin/npsa automat.pl?page=npsa lupas.html, Lupas et al. 1991) によってNACK1 タンパク質、AtNACK1 タンパク質、OsNACKタンパク質のアミノ酸配列からコイルドコイル構造を予測した結果を図4に示す。NACK1 タンパク質がNPK1タンパク質と結合するために必須な領域と類似する領域でいずれのタンパク質においてもコイルドコイル構造を形成することが予測された。
実施例8、実施例9で示されたモータードメインを構成するアミノ酸配列の高い類似性、NPK1タンパク質と結合する領域での高い類似性、NPK1タンパク質と結合する領域で形成されるコイルドコイル構造からAtNACK1 タンパク質、OsNACKタンパク質ともにNACK1 タンパク質と同様の機能を示すことが示された。
【0085】
実施例10
NACK関連タンパク質の細胞内局在の確認
実施例8、実施例9によって示されるアミノ酸配列がNACK1 タンパク質と機能が同等であることは、次の実験によって示される。一つは目的タンパク質の C末端側にGreen Fluorescent Protein (GFP) を機能的に融合したタンパク質を作成し、このタンパク質が35S プロモーターの制御下で発現できるプラスミド、例えばpBI121のGUS 遺伝子領域と置換することによってアグロバクテリウム法でタバコ培養細胞BY−2に遺伝子導入可能なバイナリーベクターを構築する。このバイナリーベクターを保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404 株(Agorbacterium tumefacience LBA4404 strain) とBY−2細胞を25℃暗黒下で共培養し、培養2日後にBY−2細胞をLSD 培地で洗浄する。洗浄したBY−2細胞を蛍光顕微鏡を用いて観察する。隔膜形成体にGFP タンパク質が発する蛍光が局在しているBY−2細胞が観察されることと、以下の実施例11の結果を併せて目的タンパク質がNACK1 タンパク質と同様の機能を示すことを証明可能である。
【0086】
実施例11
NACK関連タンパク質の機能確認
実施例10に加え、次に、目的タンパク質においてモータードメインであると想定されるアミノ酸配列より N末端側の領域、実施例2であれば1−360 番目のアミノ酸配列を、実施例4であれば1−359 番目のアミノ酸配列を欠失したタンパク質をコードしているDNA 配列をpTA7001 バイナリーベクターに挿入する。このバイナリーベクターを保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404 株(Agorbacterium tumefacience LBA4404 strain) を用いてタバコ培養細胞BY−2を形質転換する。得られる形質転換BY−2細胞を0.1 μM デキサメタゾン(dexamethasone) 添加のLSD 液体培地 (Nagataら(1981) Mol. Gen. Genet. 184:161)で震盪培養を行い、培養3日目に培養後の細胞は3.7%フォルムアルデヒド(formaldehyde)、50mM sodium phosphate buffer(pH7.5) を添加して1時間静置して固定する。その後、0.005%カルコフロール(calcofluor)、1 μg/mlプロピディウムアイオダイド(propidium iodide)、10μg/ml RNaseA 、0.02% Tween20 を含むphosphate−bufferd saline(PBS) を用いて細胞壁および核を染色する。細胞は蛍光顕微鏡を用いて観察する。
実施例10において隔膜形成体にGFP タンパク質が発する蛍光が局在して、かつ実施例11において多核化したBY−2細胞が観察されることで、目的タンパク質がNACK1 タンパク質と同様の機能を示すことが証明可能である。
【0087】
実施例12
NACK1 およびNACK2 cDNAのクローニング
NACK1 およびNACK2 cDNAをクローニングするためには、実験書や、市販の各種試薬の説明書に基づいて行う。培養3日目のBY−2細胞より全RNA を抽出し、mRNAを精製する。このmRNAよりスーパースクリプトラムダシステム(インビトロジェン社)を用いてcDNAライブラリーを作成し、プラークハイブダイゼーションを行うことによってNACK1 cDNAを単離することができる。ハイブリダイゼーションに用いるプローブは配列番号:11、配列番号:12で示した合成オリゴDNA をプライマーに用いて前述のmRNAを鋳型にRT−PCRを行い、作成することが可能である。得られたクローンをSalIとNotIで切断し、DNA 断片をpBluescript SK−(ストラタジーン) のSalI、NotIの切断で生じた部位に挿入することによってp051SK(NACK1) 、pNAKSK(NACK2) を生成することができる。
【0088】
実施例13
pTA71−HA−NACK1:ST の構築
配列番号:13、配列番号:14、配列番号:15、配列番号:16、で示された合成オリゴDNA 配列を混合し、94℃に過熱後、徐冷することによって会合したDNA 断片をpBluescript SK− のEcoRI とBamHI の切断によって生じた部位に挿入することによってpSKHA2が生成される。
配列番号:19と配列番号:18で示された合成オリゴDNA をプライマーとして用い、配列番号:1で示されたcDNAの塩基配列の1197番目から3206番目までをPCR 反応を用いて増幅した。増幅されたDNA 断片をpBluescript SK− のSalIとNotI部位に挿入することによりpNACK1:STSKが生成される。
pNACK1:STSKのBamHI とNotIで切断し、配列番号:1で示された配列を含む断片をpSKHA2のBamHI とNotIサイトに挿入することにより pSKHA2NACK1:ST が生成される。このプラスミドにはHA−NACK1:ST をコードするDNA が含まれる。
pSKHA2NACK1:STをNotIで切断し、NotI生成端をDNA ポリメラーゼのクレノウ断片により平滑末端化し、さらにSalIで切断した。得られた配列4で示された配列を含む断片をpTA7001 のSpeIで切断し、さらにSpeI生成端をDNA ポリメラーゼのクレノウ断片により平滑末端化した後にXhoIで切断したサイトに挿入し、pTA71−HA−NACK1:ST が生成される。したがってpTA71−HA−NACK1:ST は、それを導入した植物に対するデキサメタゾンの処理によって、配列番号:17で示したタンデムのヘマグルチニンポリペプチドと配列番号:2で示したNACK1 タンパク質の361 番目から959 番目のアミノ酸が機能的に融合した融合タンパク質であるHA−NACK1:ST を、発現誘導可能な植物形質転換用のバイナリーベクターである。pTA71−HA−NACK1:ST 構築過程を図5に示した。
【0089】
実施例14
HA−NACK1:STによるBY−2の細胞質分裂阻害
細胞レベルでHA−NACK1:ST の機能を詳細に決定するために、pTA71−HA−NACK1:ST またはベクターコントロールとしてのpTA7001 を保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404 株(Agorbacterium tumefacience LBA4404 strain) を介してタバコ培養細胞BY−2の形質転換を行った。新しいLSD 液体培地に植え継いで3日目のタバコ培養細胞BY−2とpTA71−HA−NACK1:ST またはベクターコントロールとしてのpTA7001 を保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404 株をYEB 培地で二日間培養した培養物を混合し、25℃、暗黒下で共培養を行った。二日後にタバコ培養細胞BY−2をLSD 液体培地を用いて洗浄した後に、ハイグロマイシンB 50μg/mlとカルベニシリン300 μg/mLを含有するLSD−0.2%ゲルライト培地に細胞を播き25℃暗黒下で培養を行った。2−3 週間後に得られたハイグロマイシンB 耐性カルスを形質転換体としてLSD 液体培地に移し懸濁培養で形質転換細胞を維持した。
増殖が定常期にあるHA−NACK1:ST 形質転換培養細胞BY−2形質転換細胞をデキサメタゾン(dexamethasone)0.1μM およびハイグロマイシンB 50μg/mlを添加したLSD 液体培地または、ハイグロマイシンB 50μg/mlを添加したLSD 液体培地に植え継ぎ、培養開始後2−4 日に表現型の観察を行った。培養後の細胞は3.7%フォルムアルデヒド(formaldehyde)、50mM sodium phosphate buffer(pH7.5) 、を添加して1時間静置して固定した。その後、0.005%カルコフロール(calcofluor)、1 μg/mlプロピディウムアイオダイド(propidium iodide)、10μg/ml RNaseA 、0.02% Tween20 を含むphosphate−bufferd saline(PBS) を用いて細胞壁および核を染色した。細胞は蛍光顕微鏡を用いて観察した。
【0090】
デキサメタゾン(dexamethasone) を添加し、形質転換BY−2細胞でHA−NACK1:ST の発現を誘導した場合のみに一つの細胞に複数個の核を有する多核化細胞が多数認められた。多核化細胞の出現頻度は培養日数が長くなるほど高くなった。また、多核化した細胞の中には不完全な細胞壁が含まれていた。すなわちHA−NACK1:ST 形質転換BY−2細胞においては細胞周期の進行においてG1期、 S期、G2期までの進行は正常であり、 M期において隔膜形成体によって形成される細胞板の正常な形成のみが制御されていた。図6に多核化したBY−2細胞と正常なBY−2細胞の比較の写真を示した。−DEXとはHA−NACK1:ST 形質転換BY−2細胞をデキサメタゾン無添加で培養した場合であり、+DEXはHA−NACK1:ST 形質転換BY−2細胞をデキサメタゾンを添加して培養し、多核化した細胞を示した。N1、N2、N3、N4とは一つの細胞内に認められた複数の核を示し、矢印は不完全な細胞板を示した。
多核化した細胞の大きさを計測した結果を図7に示す。デキサメタゾン添加培地で培養したHA−NACK1:ST 細胞で多核化した細胞を13個(HA−NACK1:ST) 、野生型の表現型を示した細胞を12個(Wt)、それぞれ細胞の長さ、幅を計測した。多核化した細胞では細胞の長さにおいて約4倍有意に長くなっていた。
【0091】
実施例15
HA−NACK1:ST によるタバコ植物体の細胞質分裂阻害
トランスジェニックのタバコにおけるHA−NACK1:ST の機能を決定するために、pTA71−HA−NACK1:ST またはベクターコントロールとしてのpTA7001 を保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404 株(Agorbacterium tumefacience LBA4404 strain) を介してリーフディスク法によりニコチアナ タバカム 品種SR1(Nicotiana tabacum ver. SR1) の形質転換を行った。
得られたハイグロマイシンB 耐性個体より得られた種子より発生したT2植物を用いて表現型の観察を行った。デキサメタゾン(dexamethasone) を0.1 μM とハイグロマイシンB 50μg/mLを含有するMS−0.2% ゲルライト培地または、ハイグロマイシンB 50μg/mLを含有するMS−0.2% ゲルライト培地にエタノールと次亜塩素酸によって滅菌した種子を播種し、25℃16時間照明、8時間暗黒の条件下で植物の生育を行った。播種後11日目の幼苗を実体顕微鏡で観察した後に80% エタノール、20% 酢酸を用いて固定と脱色を行い、その後1%オルセインを含有する乳酸、プロピオン酸の等量混合物で核染色を行った。さらに80% エタノール、20% 酢酸を用いて洗浄を行い、子葉を微分干渉顕微鏡を用いて観察した。pTA7001 ベクターを用いて形質転換した植物においてはデキサメタゾン(dexamethasone) の植物への処理に依存してHA−NACK1:ST の遺伝子発現が誘導される。
デキサメタゾン(dexamethasone) 添加MS培地に播種したベクター形質転換タバコ、デキサメタゾンを添加していないMS培地に播種したベクター形質転換タバコ、HA−NACK1:ST 形質転換タバコでは全て正常に生育し、形態的、組織的、細胞的な表現型は認められなかった。しかし、デキサメタゾン(dexamethasone) 添加培地に播種したHA−NACK1:ST 形質転換タバコにおいては子葉の小型化が認められ、細胞を観察した結果では一つの細胞に複数個の核を有する多核化細胞が多数認められた。多核化細胞は子葉においては葉肉細胞、孔辺細胞、表皮細胞で認められた。HA−NACK1:ST 形質転換タバコは細胞周期の進行においてG1期、 S期、G2期までの進行は正常であり、 M期において隔膜形成体によって形成される細胞板の正常な形成のみが制御されていた。形質転換植物の写真を図8に示した。
【0092】
実施例16
AtNACK2 プロモーター
配列番号:20に示す塩基配列はシロイヌナズナのゲノムDNA 配列であり、AtNACK2 遺伝子のプロモーター領域が含まれている。AtNACK2 の構造遺伝子の翻訳開始コドンより、1720塩基上流付近には植物における転写終結をしめすポリアデニレーションの付加シグナルが多数見出され、この領域がAtNACK2 遺伝子と隣接する遺伝子の終端である。
843 塩基、734 塩基、552 塩基、513 塩基、444 塩基上流には細胞質分裂 M期に特異的な遺伝子発現をもたらすことで知られているMSA 配列が集合して認められることより、この近傍の配列がAtNACK2 の転写制御に重要であることが明らかになった。
MSA 配列の近傍には花粉特異的な遺伝子発現を誘導するPPLLEN1LELA52配列が9反復、また、PPLLEN1LELA52配列と協力的に機能するTCCACCAT配列と非常に類似したTCCACCA が認められることを見出した。これらより、AtNACK2 プロモーターは花粉形成に係わる器官において強い発現を示し、かつ M期に遺伝子の転写制御を行うことが明らかになった。これら調節配列の存在場所は図9に示した。
【0093】
実施例17
AtNACK2 プロモーターの遺伝子発現パターン
AtNACK2 のプロモーター領域として配列番号:20で示した塩基配列または、配列番号:20で示した2801−4418 番目の塩基配列または、3401−4418 番目の塩基配列をpBI−121 (クロンテック)の35S プロモーターと置換する。
これらのプラスミドは実施例15で示した方法により、よりニコチアナ タバカム 品種SR1(Nicotiana tabacum cv. SR1)を形質転換できる。またはシロイヌナズナであればエコタイプ コロンビア種をこれらのプラスミドを保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株(Agrobacterium tumefacience EHA101 strain)を介しFloral Dip法(Clough et al., Plant J., 16:735(1998)) によって形質転換することが可能である。
次いで、この形質転換植物においては花粉形成に係わる器官においてGUS 酵素活性が発現し、X−Gulc (5−bromo−4−chloro−3−indoril−beta−D−glucuronide)を基質とした染色を行うことで雄性生殖系の器官または細胞において強い染色が観察される。
【0094】
実施例18
AtNACK2 プロモーター:NACK2:ST形質転換植物の稔性低下
NACK2 タンパク質の360−955番目のアミノ酸配列をコードするDNAと実施例17により雄性生殖系の器官または細胞において最も強く、且つ特異性が認められたAtNACK2 遺伝子のプロモーター領域と、NACK2 タンパク質の360−955番目のアミノ酸配列をコードするDNA を機能的に融合し、pBI−121(クロンテック)の35S プロモーターとGUS 遺伝子とを置換する。生成されたプラスミドでもって実施例17の方法により、タバコ、シロイヌナズナを形質転換することができる。この形質転換植物においては雄性生殖系の器官または細胞において細胞質分裂を抑制し、稔性が低下した植物が作出される。
【0095】
実施例19
AVP1プロモーター:NACK2:ST形質転換植物の稔性低下
NACK2タンパク質の360−955番目のアミノ酸配列をコードするDNAとシロイヌナズナAVP1遺伝子の転写開始点近傍より上流の約400 塩基のDNA 配列を機能的に融合し、pBI−121(クロンテック)の35S プロモーターとGUS 遺伝子とを置換する。生成されたプラスミドでもって実施例17の方法により、タバコ、シロイヌナズナを形質転換することができる。この形質転換植物においては雄性生殖系の器官または細胞において細胞質分裂を抑制し、稔性が低下した植物が作出される。
【0096】
実施例20
TA29プロモーター:NACK2 :ST形質転換植物の稔性低下
NACK2 タンパク質の360−955番目のアミノ酸配列をコードするDNA とタバコTA29遺伝子の転写開始点近傍の約1500塩基のDNA 配列を機能的に融合し、pBI−121 (クロンテック)の35S プロモーターとGUS 遺伝子とを置換する。生成されたプラスミドでもって実施例17の方法により、タバコ、シロイヌナズナを形質転換することができる。この形質転換植物においては雄性生殖系の器官または細胞において細胞質分裂を抑制し、稔性が低下した植物が作出される。
【0097】
実施例21
イネのNACK遺伝子cDNAの単離と塩基配列の決定
イネ(品種 日本晴)種子より籾を取り除きアンチホルミンを用いて滅菌した後に、N6CI培地(N6無機塩、N6ビタミン(Chuら(1975), Sientia Sinica 18: 659) にsucrose,30g/l、2,4−D 2mg/l、gelrite 2g/lを添加。pH5.8)上で胚盤に由来するカルスを誘導した。
このカルス130mgよりRNeasy plant mini kit (QIAGEN社)を用いて総RNAを抽出した。抽出した総RNAの4.5μgを鋳型にしてSuperscript First−strand syntesis system for RT−PCR(Invitrogen社) を用いてcDNAを合成し、合成された50μlのうち2μlを使用してPCR反応を行った。PCR反応に用いたプライマーはプライマー1(5’− ATGGGTGTATCAAGACCTCCAAGCAC −3’; 配列番号:23)及びプライマー2(5’− TTACCAAAGTTGTGTCTTCTCCCTGATC −3’;配列番号:24)である。反応はEx taq(Takara社)を用い、Ex taqに付属する反応バッファー、各200μMのdATP、dTTP、dCTP、dGTP、プライマー1およびプライマー2を各1μM用いて、50μlの液量で行った。GeneAmp PCR system 9700(PE Applied Biosystems社)を用いて94℃を30秒、64℃を30秒、72℃を15分のステップを45サイクル繰り返した。反応終了後、アガロースゲルを用いて解析したところ、約3kbpの単一のDNAが増幅していることが確認されたため、このDNA断片をBluescript(SK−)(Stratagene社)のEcoRV切断部位に挿入しクローニングした。得られたプラスミドpBS−OsNACKの塩基配列を決定し、その塩基配列を配列番号:21 に、このcDNAにコードされるアミノ酸配列を配列番号:22 に示した。
【0098】
実施例22
NACK2ST を発現する形質転換植物における花粉形成の抑制
(1)形質転換のためのバイナリーベクターの生成
pBI121 (クロンテック)を鋳型としてプライマーRB−5(5’− gccagatctggggaaccctg −3’;配列番号:25)とプライマーRB−3(5’− agattgtcgtttcccgccttc −3’; 配列番号:26)を用いてPCR反応を行い、T−DNAのRight border(RB)を含む配列を増幅した。このDNA断片をpBluescriptをKpnIで切断し、Klenow 断片を用いて切断末端を平滑化したサイトに挿入しpRを生成した。pBI121 (クロンテック)を鋳型として、プライマーLB−5(5’− cagtacattaaaaacgtccgcaatg −3’; 配列番号:27)とプライマーLB−3(5’− cagatctggggtcgatcagccg −3’;配列番号:28)を用いてPCR反応を行い、T−DNAのLeft border(LB)を含む配列を増幅した。このDNA断片をpRをSacIで切断し、Klenow断片を用いて切断末端を平滑化したサイトに挿入しpRLを生成した。pRLをXhoIで切断し、Klenow 断片を用いて切断末端を平滑化したサイトにCaMV 35Sプロモーター:HPT:Nosターミネーターから構成されるハイグロマイシン耐性遺伝子を含む平滑末端のDNA断片を挿入し、pRHLを生成した。pRHLをBglIIで切断し、切り出されるRB、ハイグロマイシン耐性遺伝子、LBを含むDNA断片をpBI121 (クロンテック)をBglIIで切断して生成される断片と置換しpBI−RHLを生成した。pBI221 (クロンテック)由来のNosターミネーターをpBluescript(ストラタジーン)をXbaIで切断し、Klenow断片を用いて平滑化したサイトに挿入し、pTnosを生成した。
NACK2の全長cDNAを含むプラスミドを鋳型にして、プライマーNACK2−1078F(5’− tccccgcggactgcgcaagtaaacatgg −3’; 配列番号:29)、プライマーNACK2−R(5’− ctacaagtgtagtaagtttga −3’; 配列番号:30) を用いてPCR反応を行い、モーター領域を欠失したNACK2−STを増幅した。このDNA断片はNACK2の360〜955番目のアミノ酸をコードする。このDNA断片をSacIIで切断し、pTnosをNotI切断、Klenow断片による平滑化、SacII切断したサイトに挿入し、pNACK2ST−Tを生成した。
pNACK2ST−TをSacIIで切断、Klenow断片による平滑化、SpeIでの切断によって切り出されるNACK2STとNosターミネーターを含むDNA断片をpBI−RHLをBamHIで切断、Klenow断片による平滑化、SpeIで切断したサイトに挿入し、pBIHm−NACK2STを生成した。pBIHm−NACK2STをSmaIで切断したサイトにインビトロジェン社より市販されているReading Frame AのDNA断片を挿入し、pDBINACK2STを生成した。pDBINACK2STはインビトロジェン社のGatewayシステムを利用してNACK2ST発現用プロモーターを挿入できるアグロバクテリウム法による植物形質転換用プラスミドである。
【0099】
NACK2ST発現用プロモーターとしては葯で発現が高いと報告されているシロイヌナズナAVP1遺伝子のプロモーター領域、タバコTA29遺伝子のプロモーター領域、またシロイヌナズナAtNACK2遺伝子のプロモーター領域を用いた。
AVP1プロモーターはシロイヌナズナエコタイプCol−0より常法によりゲノムDNAを抽出し、プライマーAVP1+4A(5’− ccatcttctctcctccgtataagag −3’;配列番号:31)、プライマーAVP1−298s(5’− cgggatccaaattcggacaaatagagcgtagtcaac −3’; 配列番号:32)を用いてPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をインビトロジェン社のpENTR2BをBamHIとEcoRVで切断したサイトに挿入し、pENTRAVP1を生成した。
TA29プロモーターはタバコ品種SR1より常法に従ってゲノムDNAを抽出し、プライマーTA29+52A(5’− ctaagcttagcaaaatcataaaag −3’;配列番号:33)、プライマーTA29−1477s(5’− cgggatccggctatattaattgtttactttttctaac −3’; 配列番号:34)を用いてPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をインビトロジェン社のpENTR2BをBamHIとEcoRVで切断したサイトに挿入し、pENTRTA29を生成した。
AtNACK2プロモーターはシロイヌナズナエコタイプCol−0より常法によりゲノムDNAを抽出し、AtNACK2開始コドンより1618塩基上流までをプライマーNACK2+4(5’− acatcttctacacacaaaatcgaaacc −3’;配列番号:35)、プライマーNACK2−1618s(5’− cgggatcctaaacaaatttcaaaatacattagtaatataac −3’;配列番号:36)を用いてPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をインビトロジェン社のpENTR2BをBamHIとEcoRVで切断したサイトに挿入し、pENTR1.6を生成した。
AtNACK2開始コドンより1018塩基上流までをプライマーNACK2+4(5’− acatcttctacacacaaaatcgaaacc −3’;配列番号:35)、プライマーNACK2−1018s(5’− cgggatcctttagtatttatacacgagacgtg −3’; 配列番号:37)を用いてPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をインビトロジェン社のpENTR2BをBamHIとEcoRVで切断したサイトに挿入し、pENTR1.0を生成した。AtNACK2開始コドンより575塩基上流までをプライマーNACK2+4(5’− acatcttctacacacaaaatcgaaacc −3’;配列番号:35)、プライマーNACK2−575s(5’− cgggatccctcgttaagaacccttgcatc −3’; 配列番号:38)を用いてPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をインビトロジェン社のpENTR2BをBamHIとEcoRVで切断したサイトに挿入し、pENTR0.6を生成した。
AtNACK2開始コドンより419塩基上流までをプライマーNACK2+4(5’− acatcttctacacacaaaatcgaaacc −3’;配列番号:35)、プライマーNACK2−419s(5’− cgggatccgattttgcctctgcgaaaac −3’;配列番号:39)を用いてPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をインビトロジェン社のpENTR2BをBamHIとEcoRVで切断したサイトに挿入し、pENTR0.4を生成した。これまでのプラスミド構築時に行ったPCR反応はTakara社のPyrobestを用い酵素に添付された推奨条件で反応を行った。
【0100】
これらのプロモーター領域を含むプラスミドをそれぞれpDBINACK2STと混合し、インビトロジェン社のLR clonaseに添付のプロトコルに従い反応を行い、プロモーター配列をNACK2STの上流に挿入し、
▲1▼ AVP1 プロモーターによってNACK2STが発現するプラスミドpExpAVP1−ST、
▲2▼ TA29 プロモーターによってNACK2STが発現するプラスミドpExpTA29−ST、
▲3▼ AtNACK2プロモーター(1618bp)でNACK2STが発現するプラスミドpExpN1.6−ST、
▲4▼ AtNACK2プロモーター(1018bp)でNACK2STが発現するプラスミドpExpN1.0−ST、
▲5▼ AtNACK2プロモーター(575bp)でNACK2STが発現するプラスミドpExpN0.6−ST、
▲6▼ AtNACK2プロモーター(419bp)でNACK2STが発現するプラスミドpExpN0.4−STを生成した。
【0101】
(2)シロイヌナズナの形質転換
前記(1)で生成した▲1▼〜▲6▼のバイナリーベクターを用いてアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株(Agrobacterium tumefacience EHA101 strain)を形質転換し、これらのプラスミドを保持するアグロバクテリウムを用いてFloral dip法によりシロイヌナズナ エコタイプCol−0を形質転換した。アグロバクテリウムを感染させた花芽より得られた種子を次亜塩素酸と滅菌水を用いて滅菌し、ハイグロマイシン25μg/ml、カルベニシリン100μg/mlを含むMS倍地上に播種した。ハイグロマイシン添加培地上で生育可能な形質転換植物を選択し、これらを土に植え替え、20℃ 16時間明期、8時間暗黒の条件で栽培した。
【0102】
(3)形質転換植物の稔性低下
前記(1)の▲1▼、▲2▼、▲3▼、▲4▼、▲5▼又は▲6▼のバイナリーベクターを使用して、前記(2)で選ばれた形質転換植物の鞘中に形成される種子を観察したところ、複数のラインにおいて明らかに、野生型より種子の数が減少していた。
【0103】
実施例23
キネシン様モータードメインを欠失させたNACKによる細胞質分裂阻害
(1)形質転換のためのベクターの生成
pBI121(クロンテック)を鋳型としてプライマーRB−5(5’− gccagatctggggaaccctg −3’;配列番号:25)とプライマーRB−3(5’− agattgtcgtttcccgccttc −3’; 配列番号:26)を用いてPCR反応を行い、T−DNAのRight border(RB)を含む配列を増幅した。このDNA断片をpBluescriptをKpnIで切断し、Klenow 断片を用いて切断末端を平滑化したサイトに挿入しpRを生成した。pBI121 (クロンテック)を鋳型として、プライマーLB−5(5’− cagtacattaaaaacgtccgcaatg −3’; 配列番号:27)とプライマーLB−3(5’− cagatctggggtcgatcagccg −3’;配列番号:28)を用いてPCR反応を行い、T−DNAのLeft border(LB)を含む配列を増幅した。このDNA断片をpRをSacIで切断し、Klenow断片を用いて切断末端を平滑化したサイトに挿入しpRLを生成した。pRLをXhoIで切断し、Klenow断片を用いて切断末端を平滑化したサイトにCaMV 35Sプロモーター:HPT:Nosターミネーターから構成されるハイグロマイシン耐性遺伝子を含む平滑末端のDNA断片を挿入し、pRHLを生成した。pRHLをBglIIで切断し、切り出されるRB、ハイグロマイシン耐性遺伝子、LBを含むDNA断片をpBI121(クロンテック)をBglIIで切断して生成される断片と置換しpBI−RHLを生成した。pUC19(タカラ)をSmaIで切断したサイトにインビトロジェン社より市販されているReading Frame AのDNA断片を挿入し、pUC−RFAを生成した。pBI−RHLをBamHIとSpeIで切断したサイトにpUC−RFAをBamHIとSpeIで切断して切り出されるReading Frame Aを挿入し、pDESTBI−2を生成した。
インビトロジェン社より市販されているプラスミドpENTR2BのEheIサイトにpBI221(クロンテック)由来のCaMV 35Sプロモーターを、EcoRVサイトにpBI221(クロンテック)由来のNosターミネーターを挿入し、pENTR35ST−1を生成した。
【0104】
OsNACK cDNAがpBluescript(スタラタジーン)挿入されたプラスミドpBS−OsNACKを鋳型としてプライマーOsNACK−1071F(5’− ggggtacctgcaaaagttaatatggtggta −3’;配列番号:40)とプライマーT3(5’− aattaaccctcactaaaggg −3’;配列番号:41)を用いてPCR反応を行い、モータードメインを欠失したOsNACKSTのDNA断片を増幅した。このDNA断片はOsNACKの358〜954 番目のアミノ酸をコードし、362〜954番目のアミノ酸配列からなるタンパク質を発現可能である。このDNA断片をKpnIとNotIで切断後、pENTR35ST−1のKpnIとNotI切断によったサイトに挿入し、pENTR35SOsNACKSTを生成した。前記実施例13に記載のpSKHA2NACK1:STからSalIとNotIによって切り出されるHA2NACK1:STを含むDNA断片をpENTR35ST−1のSalIとNotIの切断によったサイトに挿入し、pENTRHA2NACK1STを生成した。
pBI221(クロンテック)を鋳型にしてプライマー221−25F(5’− ggggtaccagattagccttttcaatttcag−3’;配列番号:42)とプライマー221−899R(5’− acataagggactgaccaccc −3’;配列番号:43)を用いてPCR反応を行い、CaMV35Sプロモーター領域を増幅した。このDNA断片をKpnIで切断し、pENTR2B(インビトロジェン社製)をKpnI、EcoRVで切断したサイトに挿入してpENTR35Sを生成した。
sGFPを含むプラスミドpTH2(Chiuら,Curr Biol 1996 Mar 1;6(3):325−30 )よりSalIとNotIによる切断でsGFPをコードするDNA断片を切り出し、pENTR35ST−1をSalIとNotI切断により生じるサイトに挿入しpENTRGFPを生成した。
pDESTBI−2とpENTR35SOsNACKSTを混合し、Gateway LR Clonase mixを用いた部位特異的組み換え反応によりpDBIOsNACKSTを生成した。pDESTBI−2とpENTRHA2NACK1STを混合し、Gateway LR Clonase mixを用いた部位特異的組み換え反応によりpDBIHA2NACK1STを生成した。
前記実施例22に記載のpDBINACK2STとpENTR35Sを混合し、Gateway LR Clonase mixを用いた部位特異的組み換え反応によりpDBI35SNACK2STを生成した。pDESTBI−2とpENTRGFPを混合し、Gateway LR Clonase mixを用いた部位特異的組み換え反応によりpDBIGFPを生成した。Gateway LR Clonase mixを用いた部位特異的組み換え反応は付属のプロトコルに従って行った。
前記pDBIOsNACKST、pDBIHA2NACK1ST、pDBI35SNACK2ST及びpDBIGFPは、CaMV 35Sプロモーターによりそれぞれ、OsNACKST、HA2NACK1ST、NACK2ST、sGFPを発現するプラスミドベクターであり、アグロバクテリウム法で植物の形質転換が可能なバイナリーベクターである。
【0105】
(2)タバコ培養細胞の形質転換と細胞質分裂の抑制
前記(1)のバイナリーベクター、pDBIOsNACKST、pDBIHA2NACK1ST、pDBI35SNACK2ST及びpDBIGFPを用いてアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株(Agrobacterium tumefacience EHA101 strain)を形質転換した。これらのプラスミドを保持するアグロバクテリウムをYEB培地を用いて30℃、2日間振揺培養し、培養液を100μlとLSD液体培地で培養し植え継ぎ後3日目のBY−2細胞4mlを混合し、暗所、25℃で共培養した。共培養後のBY−2細胞を1%オルセインを含む乳酸、プロピオン酸の等量混合物で固定、核染色を行い、微分干渉顕微鏡下で細胞の観察を行った。その結果、OsNACKST、HA2NACK1ST、NACK2STをアグロバクテリウムを介して発現させたBY−2細胞ではGFPを発現させた細胞よりも高率に多核化した細胞が観察された。多核細胞の出現頻度を表4に示した。カッコ内の数値は 多核細胞数 / 観察細胞数を示す。単子葉植物であるイネのNACKST(OsNACKST)を双子葉植物であるタバコ細胞に導入すると、NACK2STやNACK1STと同様にタバコ培養細胞の細胞質分裂を阻害した。驚くべきことに、NACK関連遺伝子は双子葉植物、単子葉植物の種を越えて機能することが明らかに示された。
【0106】
【表4】
【0107】
実施例24
AtNACK2プロモーターの遺伝子発現パターン
(1)形質転換のためのベクターの生成
pBI121(クロンテック)を鋳型としてプライマーRB−5(5’− gccagatctggggaaccctg −3’;配列番号:25)とプライマーRB−3(5’− agattgtcgtttcccgccttc −3’; 配列番号:26)を用いてPCR反応を行い、T−DNAのRight border(RB)を含む配列を増幅した。このDNA断片をpBluescriptをKpnIで切断し、Klenow 断片を用いて切断末端を平滑化したサイトに挿入しpRを生成した。pBI121(クロンテック)を鋳型として、プライマーLB−5(5’− cagtacattaaaaacgtccgcaatg −3’; 配列番号:27)とプライマーLB−3(5’− cagatctggggtcgatcagccg −3’;配列番号:28)を用いてPCR反応を行い、T−DNAのLeft border(LB)を含む配列を増幅した。このDNA断片をpRをSacIで切断し、Klenow 断片を用いて切断末端を平滑化したサイトに挿入しpRLを生成した。pRLをXhoIで切断し、Klenow 断片を用いて切断末端を平滑化したサイトにCaMV 35Sプロモーター:HPT:Nosターミネーターから構成されるハイグロマイシン耐性遺伝子を含む平滑末端のDNA断片を挿入し、pRHLを生成した。pRHLをBglIIで切断し、切り出されるRB、ハイグロマイシン耐性遺伝子、LBを含むDNA断片をpBI121(クロンテック)をBglIIで切断して生成される断片と置換しpBI−RHLを生成した。PBI221を鋳型にしてプライマー(5’− tccccgcggatgttacgtcctgtagaaac −3’; 配列番号:44)とプライマー(5’− gtaaaacgacggccagt−3’;配列番号:45)を行いGUSとNosターミネーターを含んだDNA断片を増幅した。このDNA断片をpBluescript(スタラタジーン)をSmaIで切断したサイトに挿入しpGUS−Tを生成した。
pGUS−TをSacIIで切断、Klenow断片による平滑化、SpeI切断後にGUSとNosターミネーターを含んだDNA断片をpBI−RHLをBamHI切断、Klenow断片による平滑化、SpeI切断によって生じたサイトに挿入し、pBIHm−GUSを生成した。PBIHm−GUSをSmaIで切断後Reading Frame A(インビトロジェン)を挿入し、pDBI−GUSを生成した。
pDBI−GUSと前記実施例22で生成したプラスミドpENTRAVP1、pENTRTA29、pENTRN1.6、pENTRN1.0、pENTR0.6、pENTR0.4をそれぞれ混合し、インビトロジェン社のLR clonaseに添付のプロトコルに従い反応を行い、プロモーター配列をGUSの上流に挿入し、
▲1▼ AVP1 プロモーターによってGUSが発現するプラスミドpExpAVP1−GUS、
▲2▼ TA29 プロモーターによってGUSが発現するプラスミドpExpTA29−GUS、
▲3▼ AtNACK2プロモーター(1618bp)でGUSが発現するプラスミドpExpN1.6−GUS、
▲4▼ AtNACK2プロモーター(1018bp)でGUSが発現するプラスミドpExpN1.0−GUS、
▲5▼ AtNACK2プロモーター(575bp)でGUSが発現するプラスミドpExpN0.6−GUS、
▲6▼ AtNACK2プロモーター(419bp)でGUSが発現するプラスミドpExpN0.4−GUS
を生成した。
【0108】
(2)シロイヌナズナの形質転換とGUS発現パターンの観察
前記(1)の▲1▼〜▲6▼のプラスミドを用いてアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株(Agrobacterium tumefacience EHA101 strain)を形質転換し、これらのプラスミドを保持するアグロバクテリウムを用いてFloral dip法によりシロイヌナズナ エコタイプCol−0を形質転換する。アグロバクテリウムを感染させた花芽より得られた種子を次亜塩素酸と滅菌水を用いて滅菌し、ハイグロマイシン25μg/ml、カルベニシリン100μg/mlを含むMS倍地上に播種する。ハイグロマイシン添加培地上で生育可能な形質転換植物を選択し、これらを土に植え替え、20℃ 16時間明期、8時間暗黒の条件で栽培する。形質転換植物で開花した花をX−Gluc(5−bromo−4−chloro−3−indoril−beta−D−glucuronide)を基質とした染色を行うことで、雄性生殖系の器官または細胞において強いGUS染色が観察される。
【0109】
実施例25
シロイヌナズナNACK遺伝子のcDNAの単離と塩基配列の決定
(1) AtNACK1 のクローニング
シロイヌナズナ(エコタイプCol−0)の幼苗よりRNeasy plant mini kit (QIAGEN 社) を用いて総RNA を抽出した。抽出した総RNA の4.5 μgを鋳型にしてSuperscript First−strand syntesis system for RT−PCR(Invitrogen社) を用いてcDNAを合成し、合成された50μl のうち2μl を使用してPCR 反応を行った。PCR 反応に用いたプライマーは配列番号:9、配列番号:10 に示す。プライマーは配列番号:47 に示したゲノムDNA の塩基配列を元に設計した。反応はEx taq(Takara 社) を用い、Ex taqに付属する反応バッファー、各 200μM のdATP、dTTP、dCTP、dGTPおよびプライマーを各1μM 用いて、50μl の液量で行った。GeneAmp PCR system 9700(PE Applied Biosystems 社) を用いて94℃を30秒、64℃を30秒、72℃を15分のステップを45サイクル繰り返した。反応終了後、アガロースゲルを用いて解析したところ、約3kbp の単一のDNA が増幅していることが確認されたため、このDNA 断片をBluescript(SK−)(Stratagene社) のEcoRV 切断部位に挿入しクローニングした。得られたプラスミドpBS−AtNACK1 の塩基配列を決定し、その塩基配列を配列番号:5に、このcDNAにコードされるアミノ酸配列を配列番号:6に示した。
【0110】
(2) AtNACK2 のクローニング
シロイヌナズナ(エコタイプCol−0 )の花芽よりRNeasy plant mini kit (QIAGEN 社) を用いて総RNA を抽出した。抽出した総RNA の 4.5μgを鋳型にしてSuperscript First−strand syntesis system for RT−PCR(Invitrogen社) を用いてcDNAを合成し、合成された50μl のうち2μl を使用してPCR 反応を行った。PCR 反応に用いたプライマーは配列番号:48 、配列番号:49 に示す。プライマーは配列番号:47 に示したゲノムDNA の塩基配列を元に設計した。反応はEx taq(Takara 社) を用い、Ex taqに付属する反応バッファー、各 200μM のdATP、dTTP、dCTP、dGTPおよびプライマーを各1μM 用いて、50μl の液量で行った。GeneAmp PCR system 9700(PE Applied Biosystems 社) を用いて94℃を30秒、64℃を30秒、72℃を15分のステップを45サイクル繰り返した。反応終了後、アガロースゲルを用いて解析したところ、約2.8kbpの単一のDNA が増幅していることが確認されたため、このDNA 断片をBluescript(SK−)(Stratagene社) のEcoRV 切断部位に挿入しクローニングした。得られたプラスミドpBS−AtNACK2 の塩基配列を決定し、その塩基配列を配列番号:50 に、このcDNAにコードされるアミノ酸配列を配列番号:51 に示した。
【0111】
実施例26
キネシン様モータードメインを欠失させたAtNACKによる細胞質分裂阻害
(1) 形質転換のためのベクターの生成
AtNACK1 cDNAがpBluescript(スタラタジーン) 挿入されたプラスミドpBS−AtNACK1 を鋳型としてプライマー(5’− gggggtaccatggttgtctctgataagcaac −3’; 配列番号:52)とプライマーT3(5’− aattaaccctcactaaaggg −3’;配列番号:41)を用いてPCR 反応を行い、モーター領域を欠失したAtNACK1ST のDNA 断片を増幅する。AtNACK1ST DNA は配列番号:6に示したAtNACK1 のアミノ酸配列の361番目から974番目のアミノ酸をコードし、モータードメインを欠失している。このDNA 断片をKpnIとNotIで切断後、pENTR35ST−1 のKpnIとNotI切断によるサイトに挿入し、pENTR35SAtNACK1ST を生成する。
AtNACK2 cDNAがpBluescript(スタラタジーン) 挿入されたプラスミドpBS−AtNACK2 を鋳型としてプライマー(5’− gggggtaccatggttgtctcagaaaaaaag −3’;配列番号:53)とプライマーT3(5’− aattaaccctcactaaaggg −3’;配列番号:41)を用いてPCR 反応を行い、モーター領域を欠失したAtNACK2ST のDNA 断片を増幅する。AtNACK2ST DNA は配列番号:51 に示したAtNACK2 のアミノ酸配列の356番目から938番目のアミノ酸をコードし、モータードメインを欠失している。このDNA 断片をKpnIとNotIで切断後、pENTR35ST−1 のKpnIとNotI切断によるサイトに挿入し、pENTR35SAtNACK2ST を生成する。
pDESTBI−2 とpENTR35SAtNACK1ST を混合し、Gateway LR Clonase mix を用いた部位特異的組み換え反応によりpDBIAtNACK1ST を生成する。pDESTBI−2 とpENTR35SAtNACK2ST を混合し、Gateway LR Clonase mixを用いた部位特異的組み換え反応によりpDBIAtNACK2ST を生成する。Gateway LR Clonase mix を用いた部位特異的組み換え反応は付属のプロトコルに従って行う。pDBIAtNACK1ST 、pDBIAtNACK2ST はCaMV 35SプロモーターによりAtNACK1ST 、AtNACK2ST が発現するアグロバクテリウム法で植物の形質転換が可能なバイナリーベクターである。
【0112】
(2) タバコ培養細胞の形質転換と細胞質分裂の抑制
前記(1) のバイナリーベクター、pDBIAtNACK1ST 、pDBIAtNACK2ST およびpDBI35SGFPを用いてアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株(Agrobacterium tumefacience EHA101 strain)を形質転換する。これらのプラスミドを保持するアグロバクテリウムをYEB 培地で30℃、2日間振揺培養し、培養液を 100μl とLSD 液体培地で培養し植え継ぎ後3日目のBY−2細胞4ml を混合し、暗所、25℃で共培養する。共培養後のBY−2細胞を1%オルセインを含む乳酸、プロピオン酸の等量混合物で固定、核染色を行い、微分干渉顕微鏡下で細胞の観察を行う。その結果、AtNACK1ST 、AtNACK2ST をアグロバクテリウムを介して発現させるBY−2細胞ではGFP を発現させる細胞よりも高率に多核化した細胞が観察される。AtNACK1ST 、AtNACK2ST もNACK1ST と同様に細胞質分裂を阻害することが明らかに出来る。
【0113】
実施例27
稔性回復系統の作出
外生のNACK2ST(実施例22に記載)の発現により不稔性となったシロイヌナズナから、以下の(1)から(4)に記載の方法により、稔性が回復した系統を作出することができる。手短には、NACK2STを発現する親株より受け継がれるNACK2STの発現をRNA干渉によって抑制することで、稔性を回復させることが可能であり、また、NACK関連タンパク質として正常に機能するNACK2を過剰発現させ、内生のシロイヌナズナAtNACK2とともに、細胞分裂を阻害するNACK2STと競合させることで、NACK2STの効果が低下する結果、前記不稔性シロイヌナズナから、稔性を回復させることが可能である。
【0114】
(1)RNA干渉のためのプラスミドの構築
前記実施例22に記載のプラスミドpRHLをApaIで切断し、T4 DNA polymeraseを用いて突出末端を平滑化後にセルフライゲーションを行なうことによってpRHL2を構築した。pRHL2をXhoIで切断し、Klenow断片を用いて突出末端を平滑化後にセルフライゲーションを行なうことによってpRHL3を構築した。pRHL3をSpeIで切断し、Klenow断片を用いて突出末端を平滑化後にセルフライゲーションを行なうことによってpRHL4を構築した。
pENTR2B(Invitrogen社製)をEcoRIで切断して切り出されるccdBカセットを含むDNA断片を、Klenow断片を用いて突出末端を平滑化し、pDONR201(Invitrogen社製)をXmnIとBsaAIを用いて生成される部位に挿入してpDONR201ΔCm1を構築した。挿入されたDNA断片がpDONR201ΔCm1と逆向きであるプラスミドをpDONR201ΔCm3とした。pDONR201ΔCm1をApaIとSmaIで切断し、切り出されるDNA断片をpBluescriptII(Stratagene社製)をApaIとSmaIで切断して生成される部位に挿入しpBS−attPを構築した。
【0115】
pDHu1−1(名古屋大学理学研究科上野宜久助手より分譲された)をEcoRIで切断し、切り出されたDNAの突出末端をKlenow断片を用いて平滑化した後に、pRHL4をSmaIで切断して生成される部位に挿入しpRHGUSRiLを構築した。pDONR201ΔCm3をApaIとNruIで切断して切り出されるDNA断片をpRHGUSRiLをApaIとSmaIで切断して生成される部位に挿入してpRHGUSRiP1を構築した。pBS−attPをApaIで切断後、突出末端をT4 DNA polymeraseを用いて平滑化し、さらにSpeIで切断することによって切り出されるDNA断片をpRHGUSRiP1をXhoIで切断後、突出末端をKlenow断片を用いて平滑化し、さらにSpeIで切断することによって生成される部位に挿入し、pRHGUSRiP2を構築した。
pRHGUSRiP2をBglIIで切断し切り出されるDNA断片をpBI121をBglIIで切断し切り出されたDNA断片を取り除いて生成される部位に挿入してpBI−GUSRiP1を構築した。
実施例1にて記述したプラスミドpNAK2SKを鋳型にプライマーNACK2−1311F(5’− GAAAGAGCTCAAGGGTTCAG −3’;配列番号: 54) とプライマーNACK2−2071R(5’− TACAGTTATCGTCCTTACTT −3’;配列番号: 55)を用いてPCRを行ない、タバコNACK2遺伝子の部分配列を得た(配列番号3の1402から2162番目までの塩基配列で表されるDNA断片)。これをpBluescriptIISK+ベクター(Stratagene社)のSmaIサイトにクローニングし、pENACK2Riを構築した。
【0116】
pENACK2Riを鋳型にプライマーattB1’−SalI−HindIII(5’− AAAAAGCAGGCTCGACGGTATCGATAAGCTTG −3’; 配列番号: 56) 、プライマーattB2’−XbaI−BamHI(5’− AGAAAGCTGGGTCTAGAACTAGTGGATCCC −3’; 配列番号: 57)、プライマーattB1 adapter(5’− GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCT −3’;配列番号: 58) 、およびプライマーattB2 adapter(5’− GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGT −3’;配列番号: 59)を用いてInvitrogen社のGateway Technology Instruction Manualの通りにPCRを行ない、両末端にGateway system (Invitrogen社)のattB1、attB2配列が付加されたNACK2遺伝子の部分DNA断片(attB−NACK2Ri)を得た。このDNA断片(attB−NACK2Ri)とプラスミドpBI−GUSRiP1 (Invitrogen 社)を混合し、BP Clonase(Invitrogen社)を用いてBP反応を行い、NACK2の一部分を含む前記DNA断片をpBI−GUSRiP1 に逆位反復に位置するように挿入し、pBI−N2Riを構築した。
すなわち、pBI−N2Riは、NACK2の一部分をコードするRNAがCaMV 35Sプロモーターにより2本鎖形態で発現するアグロバクテリウム法で形質転換可能なバイナリーベクターであり、形質転換植物はハイグロマイシンで選抜可能である。このバイナリーベクターを用いて得られた形質転換植物では発現した2本鎖RNAが引き金となり、植物体中でNACK2遺伝子のmRNA量が低下した、すなわちRNA干渉(RNAi)の効果を得ることが可能である。
【0117】
(2)正常型NACK2過剰発現用プラスミドの構築
実施例22に記載のプラスミドpRHLのSmaIサイトにGateway Vector Conversion System(Invitrogen社)のReading Frame Cassette Aを挿入し、pRHRLを構築した。このプラスミドpRHRLをBglII処理して得られるGateway system (Invitrogen社)のattR1、attR2配列を含む断片と、バイナリベクターpBI121(Clontech社)をBglII処理して得られる複製起点を含むDNA断片とをライゲーションし、pDEST−BI1を構築した。
pTH−2(静岡県立大学の丹羽康夫助手より分譲。Chiu Wら、Current Biology 1996 Mar 1;6(3):325−30.)をEcoRI処理した後、Klenow断片を用いて突出末端を平滑化し、NotI処理して得られたDNA断片をInvitrogen社のpENTER2BをNotIおよびEcoRVを用いて生成される部位に挿入し、pENTERNOST1を構築した。実施例1にて記述したプラスミドpNAK2SKをEcoRIとNotIで処理し得られた断片を、pENTERNOST1をEcoRIとNotIを用いて生成される部位に挿入し、pENACK2を構築した。
実施例22に記載のプラスミドpENTRAVP1を鋳型にプライマーKpnI−AVP1−F(5’− GGGGTACCAAATTCGGACAAATAGAG −3’;配列番号: 60) 、プライマーAVP1P−EcoRI−R(5’− CGGAATTCTTCTCTCCTCCGTATAAG −3’;配列番号: 61)を用いたPCRによって得られたDNA断片をKpnIとEcoRIで処理した後、pENACK2をKpnIとEcoRIを用いて生成される部位に挿入してpEANACK2を構築した。
プラスミドpEANACK2とpDEST−BI1(Invitrogen 社)を混合し、LR Clonase(Invitrogen社)を用いてLR反応を行い、AVP1プロモーターによってNACK2遺伝子を発現させるDNA断片をハイグロマイシン耐性遺伝子を有するバイナリベクター上に挿入し、pBI−AN2を構築した。
すなわち、pBI−AN2は、NACK2遺伝子をコードするRNAがAVP1プロモーターにより発現するアグロバクテリウム法で形質転換可能なバイナリーベクターであり、形質転換植物はハイグロマイシンで選抜可能である。このバイナリーベクターを用いて得られた形質転換植物では、NACK2遺伝子が葯特異的に発現する。
【0118】
(3)プラスミド(pBI−N2Ri、pBI−AN2)によるシロイヌナズナの形質転換
前記(2)で構築したプラスミド(pBI−N2Ri、pBI−AN2)を用いてアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株(Agrobacterium tumefacience EHA101 strain)を形質転換し、これらのプラスミドを保持するアグロバクテリウムを用いてFloral dip法によりシロイヌナズナ エコタイプCol−0を形質転換した。アグロバクテリウムを感染させた花芽より得られた種子を次亜塩素酸と滅菌水を用いて滅菌し、ハイグロマイシン25μg/ml、カルベニシリン100μg/mlを含むMS倍地上に播種した。ハイグロマイシン添加培地上で生育可能な形質転換植物を選択した(pBI−N2Riで形質転換したシロイヌナズナをAtN2Ri、pBI−AN2で形質転換したシロイヌナズナをAtAN2と名付けた)。
【0119】
(4)回復系統を用いた稔性の回復したハイブリッド種子(F1種子)の生産
前記(3)で作出したシロイヌナズナAtN2Riの葯より生産される花粉を実施例22で作出したAVP1プロモーターによりNACK2STを発現する株(実施例22の▲1▼)の雌しべに受粉させることで得られる次世代の植物(F1)は、RNAi効果によってNACK2STを発現する親株より受け継がれるNACK2STのmRNAが減少し、結果的にNACK2STの発現が低下して稔性が回復する。すなわち、前記(3)で作出したシロイヌナズナAtN2Riを用いることで、稔性の回復したハイブリッド種子(F1種子)を得ることができる。
また、前記(3)で作出したシロイヌナズナAtAN2の葯より生産される花粉を実施例22で作出したAVP1プロモーターによりNACK2STを発現する株(実施例22の▲1▼)の雌しべに受粉させることで得られる次世代の植物(F1)は、正常な細胞分裂を阻害するNACK2STに対して細胞分裂を正常に進めるNACK2とシロイヌナズナAtNACK2が競合し、結果的にNACK2STの効果が低下して稔性が回復する。すなわち、前記(3)で作出したシロイヌナズナAtAN2を用いることで、稔性の回復したハイブリッド種子(F1種子)を得ることができる。
これらのF1種子より生まれた個体は、稔性が回復しており、自家受精による結実が可能となる。
【0120】
【発明の効果】
本発明により、NACK1 遺伝子あるいはNACK2 遺伝子並びにその類似遺伝子の発現の調節や、NACK1 やNACK2 タンパク質を改変してドミナントネガティブ分子として用いて植物の隔膜形成体の形成および拡大を制御する技術、NACK2 関連遺伝子のプロモーターの花粉形成組織特異的な遺伝子発現調節に関する技術が提供された。隔膜形成体の形成および拡大の制御は細胞分裂の改変を可能にし、植物の発生分化を改変した植物の作出などを可能にしたり、正常な機能を示す花粉の形成を抑制し、雄性不稔を示す植物の作出などを可能にすることより、育種や農作物の生産性向上などをもたらし、農業、園芸分野において有益である。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【0121】
<配列表フリーテキスト>
SEQ ID NO: 1, tobacco NACK1 cDNA
SEQ ID NO: 3, tobacco NACK2 cDNA
SEQ ID NO: 5, Arabidpsis thalliana Col−0 AtNACK1 cDNA
SEQ ID NO: 9, PCR primer for AtNACK1
SEQ ID NO: 10, PCR primer for AtNACK1
SEQ ID NO: 11, PCR primer for NACK1
SEQ ID NO: 12, PCR primer for NACK1
SEQ ID NO: 13, Oligo DNA for double HA epitope
SEQ ID NO: 14, Oligo DNA for double HA epitope
SEQ ID NO: 15, Oligo DNA for double HA epitope
SEQ ID NO: 16, Oligo DNA for double HA epitope
SEQ ID NO: 17, double hemagglutinin(HA) epitope tag, hemaggtinin epitope
SEQ ID NO: 18, PCR primer for NACK1:ST
SEQ ID NO: 19, PCR primer for NACK1:ST
SEQ ID NO: 23, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 24, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 25, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 26, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 27, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 28, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 29, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 30, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 31, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 32, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 33, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 34, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 35, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 36, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 37, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 38, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 39, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 40, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 41, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 42, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 43, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 44, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 45, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 48, PCR primer for AtNACK2
SEQ ID NO: 49, PCR primer for AtNACK2
SEQ ID NO: 50, Arabidopsis thaliana Col−0 AtNACK2 cDNA
SEQ ID NO: 52, PCR primer for AtNACK1−ST
SEQ ID NO: 53, PCR primer for AtNACK2−ST
SEQ ID NO: 54, PCR primer for
SEQ ID NO: 55, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 56, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 57, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 58, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 59, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 60, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 61, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
【0122】
【図面の簡単な説明】
【図1】NACK関連タンパク質である NACK1、AtNACK1 、OsNACKにつき、最適な形で並べたアミノ酸配列の比較を示す。配列は図2及び3に連続する。
【図2】NACK関連タンパク質である NACK1、AtNACK1 、OsNACKにつき、最適な形で並べたアミノ酸配列の比較を示す。配列は図1の続きで、図3に連続する。
【図3】NACK関連タンパク質である NACK1、AtNACK1 、OsNACKにつき、最適な形で並べたアミノ酸配列の比較を示す。配列は図1及び2からの続きである。
【図4】コイルドコイル構造を予測するプログラム(COILS program, http://npsa−pbil.ibcp.fr/cgi−bin/npsa automat.pl?page=npsa lupas.html, Lupas et al. 1991) によってNACK1 タンパク質、AtNACK1 タンパク質、OsNACKタンパク質のアミノ酸配列からコイルドコイル構造を予測した結果を示す。
【図5】ベクターpTA71−HA−NACK1:ST (図では、pT71−HA−NACK1ST と表示)の構築過程を示す。
【図6】多核化したBY−2細胞と正常なBY−2細胞とを比較して示す細胞の形態を示す写真である。
【図7】多核化したBY−2細胞の大きさを計測した結果を示す。wt: ワイルドタイプBY−2細胞
【図8】本発明に従った形質転換植物(多核化したタバコ個体)の外観及びその細胞の形態を示す写真である。
【図9】AtNACK2 遺伝子のプロモーター領域を含む制御配列の構造を示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物の隔膜形成体の形成制御及び/又は発生分化制御、並びにそのために用いられる分子に関する。本発明は、植物などにおける細胞質分裂過程制御技術に関する。本発明は、また細胞分裂に関与する遺伝子を制御して作成された雄性不稔性植物並びにその利用技術に関する。さらに、本発明は、稔性が低下した植物を作出する方法、並びにそのために用いられる分子に関する。
【0002】
【従来の技術】
植物において隔膜形成体の形成を制御することは、農業分野において様々な重要な意義を有する。例えば、隔膜形成体の形成を制御することによって植物特異的な細胞質分裂過程を制御することができる。新たな産業上利用価値の高い形態を有する植物を作出することが可能となる。特に生殖細胞における減数分裂を抑制することにより稔性が低下した植物を作成することが可能であり、育種技術の向上に貢献する。
細胞分裂は生命の基本現象の一つであり、細胞は分裂を繰り返すことによって増殖する。細胞はG1期(ギャップ1)、S期(DNA合成期)、G2期(ギャップ2)、 M期(分裂期)の4つの時期からなる細胞周期と呼ばれている一連の過程を経て、2つの娘細胞に分裂する。体細胞の M期は有糸分裂期とも呼ばれ S期で複製された染色体が娘細胞に正確に分配される時期である。染色体の分配後に細胞質を二分する過程は細胞質分裂と呼ばれている。細胞質分裂の過程は動物細胞と植物細胞で大きく異なっている。動物細胞の細胞質分裂は染色体の分配後に主にアクチンとミオシンからなる収縮環とよばれる構造体が細胞膜の内側に出現し、この収縮環が収縮することによって細胞膜が内側に引き込まれる。中央体と呼ばれる分離した染色体の中間に存在する紡錘体領域まで収縮環による収縮が進行すると中央体が消失し、細胞質分裂が完了する。これに対して植物細胞では分配された染色体の間に微小管とアクチンを主成分とする隔膜形成体(フラグモプラスト)と呼ばれる構造体が形成される。隔膜形成体に小胞が輸送され、小胞が融合することによって、隔膜形成体の中央部分で細胞板と呼ばれる新しい細胞壁が形成されると考えられている。この細胞板が親細胞の細胞壁に向かって拡大し、親細胞の細胞壁と細胞板が融合することによって細胞質分裂が完了する。
【0003】
隔膜形成体への小胞の輸送に関しては、キネシン様タンパク質が関与していることが示唆されている。隔膜形成体にタンパク質の局在性を示す、植物の遺伝子として KatAp、TKRP125 、KCBP、AtPAKRP1が知られている。キネシン様タンパク質の構造、機能上の特徴としてはモータードメインと呼ばれるアミノ酸が保存された領域を介して微小管上を動くこと、モータードメイン以外の領域ではホモダイマーを形成することが報告されている(非特許文献1〜4) 。
生殖細胞の形成は減数分裂と呼ばれる分裂過程を経て形成される。減数分裂は2回の細胞分裂により構成されるがそのうちの1回はDNA 複製を伴わない。このため花粉形成においては1つの減数母細胞より4つの細胞が形成され、それぞれの核には相同染色体をもたない花粉四分子が形成される。花粉四分子より解離した小胞子はさらに2回の花粉有糸分裂を経て最終的に1つの栄養細胞に2つの精細胞を取り込んだ形の花粉が形成される。
生殖細胞、特に花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子として、例えば、トマトのlat 52遺伝子が報告されている。lat 52遺伝子のプロモーター領域には花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子のを転写調節配列として、AGAAA と TCCACCATAが見出されており、これら2種の配列の協力的な作用が遺伝子発現の特異性を決定していることが報告されている (非特許文献5) 。
【0004】
タバコのMitogen−activated protein kinase kinase kinase(MAPKKK)であるNPK1は様々な刺激に関するシグナル伝達に関与していることが示唆されている。例えばオーキシン誘導性遺伝子発現調節や酸化ストレス誘導性遺伝子発現調節に関するシグナル伝達に関与することが報告されている(非特許文献6及び7) 。さらに、隔膜形成体の拡大に関するシグナル伝達にも関与しており、NPK1のキナーゼ不活性型の形質転換タバコでは細胞質分裂のみが不完全となり、1つの細胞に複数個の核を持つ細胞となる (非特許文献8) 。しかし、前述のようにNPK1は様々なシグナルを伝達しているためキナーゼ不活性型形質転換タバコで認められる表現型は細胞質分裂の制御のみが改変された結果であるかは不明であり、細胞質分裂のみを特異的に制御する因子の報告はされていない。
NPK1は単独ではキナーゼ活性が不活性状態にある。このNPK1のキナーゼ活性を酵母において活性化する因子としてキネシン様タンパク質と類似の構造を示すNACK1 タンパク質、NACK2 タンパク質が知られている。NPK1タンパク質は酵母中ではNACK1 タンパク質または、NACK2 タンパク質と結合することによりキナーゼ活性を示すことが報告されている(非特許文献9)。NPK1タンパク質とNACK1 タンパク質の結合に必須なNACK1 タンパク質の領域はモータードメインより C末端側であり、この領域で形成されると予測されるコイルドコイル構造である(非特許文献10)。
【0005】
細胞分裂時の植物細胞中でNPK1タンパク質とNACK1 タンパク質は共に隔膜形成体に存在することが報告されている。このことより、キネシン様タンパク質と類似性を示すNACK1 タンパク質がNPK1タンパク質と結合し、微小管構造上を動くことによって隔膜形成体に存在することが示唆されているが、植物内においてNACK1 タンパク質の機能は未だ報告例はない(非特許文献11)。 NPK1タンパク質の細胞周期における蓄積パターンは S期、G2期、 M期であり、NACK1 タンパク質の細胞周期における蓄積パターンは M期に特異的である。このことより M期におけるNPK1の活性化因子はNACK1 であることが予想されている。しかし、NACK1 遺伝子、NACK2 遺伝子を構成する塩基配列、およびアミノ酸配列は報告されていない(非特許文献12)。
NACK1 遺伝子、NACK2 遺伝子の細胞周期の M期における特異的な遺伝子発現はそれらのプロモーター領域に存在するM−specific activator (MSA)と呼ばれる特定の制御配列によって制御されていることが報告されている。しかし、組織特異的発現をもたらす調節領域の存在は報告されていない (非特許文献13) 。
【0006】
これまでにArabidpsis thaliana の細胞質分裂が異常となった突然変異体解析より、細胞質分裂に重要な機能を示す遺伝子が知られている。例えば、KOLLE 遺伝子、KEULE 遺伝子を欠失した植物では細胞板形成が不完全であり、多核化した細胞が認められる。しかし、これらの遺伝子またはこれらの改変遺伝子を形質転換した植物で細胞質分裂を抑制した例は報告されていない (非特許文献14及び15) 。
これまでに薬剤を用いて細胞質分裂を制御する方法は知られている。例えばプロピザマイドを植物に処理することでチューブリンの重合が阻害され、細胞質分裂が阻害される。また、ゴルジ体を崩壊させるブレフェルディンA の処理でも隔膜形成体の拡大が阻害される。しかしこれらは何れも細胞質分裂に特異的な現象を阻害するものではなく、隔膜形成体の拡大のみを制御する技術は報告されていない (非特許文献16及び17) 。
【0007】
【非特許文献1】
Liu et al., Plant Cell, 8:119(1996)
【非特許文献2】
Asada et al., J. Cell Sci., 110:179(1997)
【非特許文献3】
Vos et al., Plant Cell, 12:979(2000)
【非特許文献4】
Lee et al., Curr. Biol., 10:797(2000)
【非特許文献5】
Rogers et al., Plant Mol. Biol., 45:577(1998)
【非特許文献6】
Kovtun et al., Nature, 395:716(1998)
【非特許文献7】
Kovtun et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 97:2940(2000)
【非特許文献8】
Nishihama et al., Genes Dev., 15:352(2000)
【非特許文献9】
西浜ら、酵母細胞におけるタバコキネシン様タンパク質 NAK1 によるNPK1キナーゼ(MAPKKK)の活性化、日本分子生物学会1995年度年会
【非特許文献10】
石川ら、NPK1プロテインキナーゼ (MAPKKK) とNAK1キネシン様タンパク質の相互作用、日本分子生物学会1996年度年会
【非特許文献11】
町田ら、NPK1 MAPKKKが関与しているMAP キナーゼカスケードと植物細胞の増殖、日本分子生物学会2000年度年会
【非特許文献12】
西浜ら、NPK1プロテインキナーゼとその活性化因子NAKsキネシン様タンパク質の細胞分裂への関与、日本分子生物学会1996年度年会
【非特許文献13】
Ito et al., Plant Cell, 10:331(1998)
【非特許文献14】
Lucowitz et al., Cell, 84:61(1996)
【非特許文献15】
Assaad et al., J. Cell. Biol., 152:531(2001)
【非特許文献16】
Kakimoto et al., Protoplasma(suppl), 2:95(1988)
【非特許文献17】
Yasuhara et al., Plant Cell Physiol., 41:300(2000)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
近年、多くの作物で雑種強勢(ヘテロシス)を利用した一代雑種(F1)品種の育成が進められている。このF1品種のメリットは、雑種強勢の発現により収量性、耐病性などの農業形質が優れたものとなること、単因子優性の農業形質の付与が容易なこと、均一性が高いこと、また、次世代で遺伝形質の分離が起こるため育成者の権利が守られることなどが挙げられる。
F1品種においては、雑種第1代目の種子を多量に確保する必要があり、そのための技術として、遺伝的雄性不稔性を持つものを母親に使用することが行われてきた。この他に自家不和合性を利用する方法、雄花を人為的に除去する方法、人為的に交配する方法、などがあるが、これらの方法は利用できる植物種が限られている。遺伝的雄性不稔性を利用する方法が、最も汎用性に富んでいるため、F1種子を確保するために広く用いられてきた。
花粉特異的に発現するプロモーターにRNaseT1 やbarnase などの細胞に対して毒性を示すタンパク質を連結して植物を形質転換することで生殖細胞、特に花粉形成を抑制する技術は報告されている。しかしこれらは、何れも動物細胞に対しても毒性を示す因子であり、動物に対して安全性が高く、植物細胞でのみ機能する因子を用いての生殖細胞の形成を抑制する技術は報告されていない。
【0009】
本発明は、植物の細胞質分裂制御技術を提供することを課題としている。本発明はNACK1遺伝子、その類似遺伝子、これらの遺伝子がコードするタンパク質、それらに対してドミナントネガティブに機能するタンパク質及びそれらをコードする遺伝子を提供することを課題とする。また本発明は、これらの遺伝子を利用して植物特有の細胞質分裂装置である隔膜形成体の形成を制御することや発生分化を制御することを課題としている。さらに本発明は、植物体、植物の組織、植物の器官又は植物培養細胞において、NACK1遺伝子、その類似遺伝子の発現状況を観測することにより、その植物体、植物の組織、植物の器官又は植物培養細胞の状態を評価する方法、又は、それらの検体が置かれた環境条件あるいは生育条件を評価する方法に関する。
また、本発明は、植物の生殖細胞の形成を制御する技術、稔性が低下した植物を効率よく作出する汎用性に富んだ技術を提供することを課題としている。また、本発明はNACK2 遺伝子がコードするタンパク質を提供することを課題とする。そして、本発明は、この遺伝子を利用して、効率的に稔性が低下した植物を作出する技術を提供することも課題とする。
本発明は、植物に広範囲に応用できる技術開発を課題としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行い、NACK関連遺伝子であるNACK1 cDNAおよびNACK2 cDNAの塩基配列、さらにはそれらのオルソログ遺伝子のcDNAの決定を行うことに成功し、NACK関連タンパク質であるNACK1 タンパク質およびNACK2 タンパク質、さらにはそれらのオルソログタンパク質がキネシン様タンパク質のモータードメインと類似したアミノ酸配列を示すことを見出すことに成功した。
本発明者は、これまでにNACK1 タンパク質、NACK2 タンパク質がNPK1タンパク質と結合しNPK1タンパク質のキナーゼ活性を活性化することを既に明らかにしていたが、新たに、これらNACKタンパク質の前記モータードメインを欠失した分子が植物の内在性のNACKタンパク質に対してドミナントネガティブに機能することを見出すことに成功した。
本発明者は、NACK1タンパク質の一部をコードする塩基配列を用いて形質転換植物を作出することにより、NACK遺伝子が植物の細胞分裂に重要な隔膜形成体の形成の制御因子であることを見出すことに成功し、加えてこれらの植物では細胞分裂の過程の内、細胞質分裂が抑制されていることを見出すことにも成功した。
さらに、単子葉植物であるイネのNACK(OsNACK)タンパク質の一部をコードする塩基配列を双子葉植物であるタバコ細胞に導入すると、驚くべきことに、NACK1タンパク質の場合と同様に、タバコ培養細胞の細胞質分裂を阻害すること、即ち、NACK関連遺伝子は双子葉植物、単子葉植物の種を越えて機能することを見出した。
以上の知見に基づき本発明は完成されたものである。
【0011】
本発明において隔膜形成体の形成とは、隔膜形成体の形成、隔膜形成体の拡大、細胞板の形成及び/又は細胞板の拡大を意味する。本発明において発生分化とは、組織の形態、組織の大きさ、器官の形態、器官の大きさ、植物体の形態、植物体の大きさ及び/又は植物体の生育速度を意味する。また本発明において稔性の低下とは花粉形成に係わる細胞、組織、器官の変化も含めた花粉形成の抑制を意味する。本発明において花粉形成に係わる細胞の変化として減数分裂を含めた細胞分裂の変化、細胞に含まれる核数、細胞の大きさ、細胞の数、花粉管発芽能力、受精能の変化などが挙げられる。本発明において花粉形成に係わる組織の変化としては葯の表皮、内被、中間層、タペート組織、胞原組織の変化などが挙げられる。本発明において花粉形成に係わる器官の変化としては葯や花糸の形態、機能の変化などが挙げられる。
即ち、本発明は、植物の細胞分裂も関わるNACK1遺伝子、NACK2遺伝子、それらの類似遺伝子およびこれら遺伝子がコードするタンパク質、並びにこれら遺伝子を標的とした植物における隔膜形成体の形成、拡大の制御、及び/又は発生分化の制御などに関し、さらには雄性不稔化技術になどに関する。
【0012】
以下の説明中、あるアミノ酸またはアミノ酸配列と「ポジティブである」とは、Pairwise BlastのBlast 2 Sequences (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を使用し、アミノ酸配列を解析した結果において、同一または類似なアミノ酸を指す。即ち二つのアミノ酸配列の比較において、ポジティブなアミノ酸の割合とは同一なアミノ酸及び類似なアミノ酸の割合を加えたものを示す。
更に、前記アミノ酸配列の比較は、対象となる二つのアミノ酸配列を最適な形で並べて行われる。以下の説明中、特に断わらない場合、二つのアミノ酸配列を最適な形で並べて行われたことを示す。
【0013】
より具体的には、本発明は、次なるものを提供するものである。
(1) 下記(a)から(i)のいずれかに記載のDNA:
(a) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b) 配列番号:1、3、5、21または50に記載の塩基配列からなるDNA、
(c) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、もしくは付加したアミノ酸配列を有し、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(d) 配列番号:1、3、5、21または50に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(e) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列と65%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(f) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインと70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(g) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質若しくはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(h) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインと70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有し、かつ、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質若しくはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(i) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列と65%以上のアミノ酸がポジティブであり、かつ、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインと70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有し、及び/ 又は、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質若しくはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
【0014】
(2) (1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA。
(3) (1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA。
(4) DNAであって、植物細胞における発現時に、共抑制効果により、(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAの発現を抑制させるRNAをコードし、かつ、(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAと90%以上の相同性を有するDNA。
(5)DNAであって、植物細胞における発現時に、RNA干渉効果(RNA interference:RNAi)により、(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAの発現を抑制させるRNAをコードし、かつ、(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAと20塩基以上の(あるいは25塩基以上又は場合により50塩基以上の)連続して同一であるDNA。
(6) DNAであって、植物細胞における内在性の(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質に対してドミナントネガティブ活性を示すタンパク質をコードするDNA。
(7) 植物の隔膜形成体の形成制御、および/または発生分化制御のために用いるものであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか一に記載のDNA。
(8) 植物の隔膜形成体の形成および/または拡大の制御による雄性不稔化技術のために用いるものであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか一に記載のDNA。
【0015】
(9) 下記の(i)から(iii)の構成要素を含む組換えDNA又はベクター:
(i) 細胞内で転写可能なプロモーター、
(ii)該プロモーター配列にセンス方向又はアンチセンス方向で結合した(1)〜(7)のいずれか一に記載のDNA、
(iii)RNA分子の転写終結およびポリアデニル化に関するシグナル。
(10) (1)〜(8)のいずれか一に記載のDNAまたは(9)に記載の組換えDNA又はベクターを保持する形質転換細胞。
(11) (1)に記載のDNAによりコードされるタンパク質又は部分ペプチド、あるいは植物細胞における内在性の(1)の(a)〜(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質に対してドミナントネガティブ活性を示すタンパク質又はその部分ペプチド。
(12) (1)に記載のDNA又は該DNAを含むベクターを保持する形質転換細胞を培養し、該形質転換細胞又はその培養上清から発現させたタンパク質を回収する工程を含む、(11)に記載のタンパク質の製造方法。
(13) (1)〜(8)のいずれか一に記載のDNAまたは(9)に記載の組換えDNA又はベクターを保持する形質転換植物細胞。
(14) (13)に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体。
(15) (14)に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
(16) 隔膜形成体の形成制御、および/または発生分化制御のために用いるものであることを特徴とする(14)または(15)に記載の形質転換植物体。
(17) 隔膜形成体の形成及び/又は拡大の制御が改変されている(14)または(15)に記載の形質転換植物体。
(18) 稔性の低下している、(14)または(15)に記載の形質転換植物体。
(19) (13)に記載の植物細胞又は(14)〜(18)のいずれかに記載の植物体より製造された食品及び/又は飼料組成物。
(20) (13)に記載の植物細胞又は(14)〜(18)のいずれかに記載の植物体より製造される化学品。
【0016】
(21) 下記の(i)から(vii) のいずれかに記載のDNA:
(i)配列番号:20で示した塩基配列を有するDNA、
(ii)配列番号:20で示した2801−4418番目の塩基配列を有するDNA、
(iii)配列番号:20で示した3401−4418番目の塩基配列を有するDNA、
(iv)配列番号:20で示した3844−4418番目の塩基配列を有するDNA、
(v)配列番号:20で示した4000−4418番目の塩基配列を有するDNA
(vi)下記(a)、(b)、(c)を少なくとも一ずつ含む配列を有するDNA:
(a)少なくとも塩基配列がAACGGである、又は塩基配列がCCGTTであるMSA配列、
(b)塩基配列がTTTCT、又は塩基配列がAGAAAである配列、及び
(c)塩基配列がTCCACCAT、又はATGGTGGAである配列。
(vii)少なくとも、下記(a)のいずれか一つの配列と下記(b)または(c)のいずれか一つとを含む配列を有するDNA:
(a)少なくとも塩基配列がAACGGである、又は塩基配列がCCGTTであるMSA配列、
(b)塩基配列がTTTCT、又は塩基配列がAGAAAである配列、及び
(c)塩基配列がTCCACCAT、又はATGGTGGAである配列。
【0017】
(22) (a)花粉形成に係わる器官を構成する細胞において特異的に隔膜形成体の形成及び/又は拡大を抑制することにより植物の稔性を低下させる、あるいは(b)花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモータとして使用することを特徴とする(21)のDNA。
(23) (21)又は(22)に記載のDNAを含むベクター。
(24) (21)又は(22)に記載のDNA、又は(23)に記載のDNAを含むベクターを保持する形質転換細胞。
(25) (21)又は(22)に記載のDNA、又は(23)に記載のDNAを含むベクターを保持する形質転換植物細胞。
(26) (25)に記載の形質転換植物細胞を含む、形質転換植物体。
(27) (26)に記載の形質転換植物体の子孫または、クローンである形質転換植物体。
(28) 形質転換した遺伝子が花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現を示す、(26)又は(27)に記載の形質転換植物体。
(29) 形質転換した遺伝子が花粉形成組織特異的発現を示す、(26)又は(27)に記載の形質転換植物体。
(30) (26)〜(29)のいずれか一に記載の植物体より製造された食品及び/又は飼料組成物。
(31) (26)〜(29)のいずれか一に記載の植物体より製造された化学品。
(32) (1)の(a)〜(i)のいずれかに記載のDNAの転写産物。
(33) (32)に記載の転写産物の量を測定する方法。
(34) 複数の検体中の(32)に記載の転写産物の量を相対的に比較する方法。
(35) (1)に記載のDNAにコードされるタンパク質の量を測定する方法。
(36) 複数の検体中の(1)に記載のDNAにコードされるタンパク質の量を相対的に比較する方法。
【0018】
本発明者はAtNACK2 遺伝子のプロモーターが花粉形成に係わる器官において強い発現が認められることを見出した。前述より、本発明者はNACK関連遺伝子やその類似遺伝子を用いることで花粉形成に係わる器官を構成する細胞において特異的に隔膜形成体の形成および拡大を抑制し植物の稔性を低下させることが可能であることを見出した。即ち、本発明は花粉形成組織特異的遺伝子発現制御の調節領域を含むAtNACK2 遺伝子のプロモーター領域に関するものである。
より具体的には、本発明は、
(37) 配列番号:20で示した塩基配列を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
さらに好ましくは、本発明は、
(38) 配列番号:20で示した2801−4418番目の塩基配列を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
さらに好ましくは、本発明は、
(39) 配列番号:20で示した3401−4418番目の塩基配列を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
さらに好ましくは、本発明は、
(40) 配列番号:20で示した3844−4418番目の塩基配列を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
(41) 配列番号:20で示した4000−4418 番目の塩基配列を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
(42) 下記(a)、(b)及び(c) を少なくとも1ずつ含む配列:
(a) 少なくとも塩基配列がAACGGである、または塩基配列がCCGTTであるMSA配列、
(b) 塩基配列がTTTCT、または塩基配列がAGAAAである配列、
(c) 塩基配列がTCCACCAT、またはATGGTGGAである配列
を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
(43) 少なくとも、下記(a)のいずれか一つの配列と(b)または(c)のいずれか一つとを含む配列:
(a) 少なくとも塩基配列がAACGGである、または塩基配列がCCGTTであるMSA配列、
(b) 塩基配列がTTTCT、または塩基配列がAGAAAである配列、
(c) 塩基配列がTCCACCAT、またはATGGTGGAである配列
を花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモーターに用いることである。
【0019】
本発明は、また、次なるものを提供する。
(44) 植物細胞における内在性の(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質の活性を抑制し、もって植物の隔膜形成体の形成制御、及び/又は発生分化制御する方法。
(45) (1)から(8)のいずれかに記載のDNAまたは(9)に記載のベクターにより宿主植物細胞を形質転換することを特徴とする形質転換植物の作成法。
(46) 植物細胞における内在性の(1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質に対してドミナントネガティブ活性を示すタンパク質あるいはそれをコードするDNA を含有することを特徴とする植物の隔膜形成体の形成制御、及び/又は発生分化制御試薬。
(47) (11)に記載のタンパク質又はその部分ペプチドに対する抗体。
【0020】
より具体的には、次のものも提供される。
(48) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質又はそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAである(6)のDNA。
(49) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と60%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAである(6)のDNA。
(50) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質またはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を含み、かつ以下の(a)〜(c)のいずれかであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA である(6)のDNA:
(a) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と60%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列、
(b) キネシン様タンパク質のモータードメインの点変異により微小管への結合能を失ったアミノ酸配列、
(c) キネシン様タンパク質のモータードメインの点変異により微小管上での移動能を失ったアミノ酸配列。
(51) 植物の隔膜形成体の形成制御、及び/又は発生分化制御活性を有し、
かつ、
(a) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質またはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と60%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、及び
(c) (i) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質またはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列及び(ii)配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と60%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
から成る群から選ばれたものであるDNA。
(52) 隔膜形成体の形成、隔膜形成体の拡大、細胞板の形成及び/又は細胞板の拡大を抑制あるいは阻害する活性を有するものである(51)のDNA。
(53) 植物組織の形態、組織の大きさ、器官の形態、器官の大きさ、植物体の形態、植物体の大きさ及び/又は植物体の生育速度を制御する活性を有するものである(51)のDNA。
(54) 稔性の低下を起こす活性を有するものである(51)のDNA。
(55) (9)に記載の組換えDNA 又はベクター中、(i) のプロモーターにおいて植物細胞内で転写可能なプロモーターとして前記(21)、(22)及び(37)から(43)に記載の塩基配列又はDNA のいずれか一を用い、且つ(iii) のシグナルにおいて植物で機能するシグナルを用いる組換えDNA 又はベクター。
(56)(55)に記載の組換えDNA 又はベクターを保持する形質転換細胞。
(57)(55)に記載の組換えDNA 又はベクターを保持する形質転換植物細胞。
(58)(57)に記載の形質転換植物細胞を含む、形質転換植物体。
(59) (58)に記載の形質転換植物体の子孫または、クローンである形質転換植物体。
【0021】
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列とポジティブであるアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は65%以上あれば良く、望ましくは71%以上、より望ましくは77%以上、より望ましくは86%以上、さらに望ましくは90%以上である。
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸を含む割合により規定されることもできる。この場合、その割合は50%以上あれば良く、望ましくは56%以上、より望ましくは64%以上、より望ましくは76%以上、更に望ましくは90%以上である。
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインのアミノ酸配列とポジティブであるアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は70%以上あれば良く、望ましくは79%以上、より望ましくは83%以上、更に望ましくは93%以上である。
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインと同一のアミノ酸を含む割合により規定されることもできる。この場合、その割合は60%以上あれば良く、望ましくは68%以上、より望ましくは74%以上、より望ましくは87%以上、更に望ましくは90%以上である。
【0022】
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中の、NPK1タンパク質又はそのオルソログとの結合領域のアミノ酸配列とポジティブであるアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は70%以上あれば良く、望ましくは85%以上、より望ましくは89%以上、より望ましくは90%以上、更に望ましくは97%以上である。
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中の、NPK1タンパク質又はそのオルソログとの結合領域と同一のアミノ酸を含む割合により規定されることもできる。この場合、その割合は65%以上あれば良く、望ましくは72%以上、より望ましくは80%以上、更に望ましくは90%以上である。
【0023】
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列とポジティブであるアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は60%以上あれば良く、望ましくは65%以上、より望ましくは67%以上、より望ましくは71%以上、より望ましくは77%以上、更に望ましくは90%以上である。
本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と同一のアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は40%以上あれば良く、望ましくは47%以上、より望ましくは51%以上、より望ましくは57%以上、より望ましくは60%以上、更に望ましくは90%以上である。
更に本発明により提供されるDNAは、前記(1)及び(48)から(51)の記載において、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列に基づいて規定されるが、望ましくは配列番号:2、4または22に記載のアミノ酸配列に基づいて規定される。
本発明においては、2つDNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を最適な形で並べるために、Pairwise BlastのBlast 2 Sequences (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を用いる。
【0024】
本発明において、前記(1)から(8)に記載のいずれかのDNA を植物細胞で転写するため又はNACK関連タンパク質のドミナントネガティブ分子を発現させるための植物細胞内で転写可能なプロモーターとしてはAtNACK2 プロモーターに限るものではなく、雄性生殖系の器官または細胞において高い遺伝子発現を示すプロモーターであるシロイヌナズナAVP1遺伝子プロモーター(Mitsuda et al., Plant Mol. Biol, 46:185(2001) )、シロイヌナズナ DAD 1遺伝子プロモーター(Ishiguro et al., Plant Cell, 13:2191(2001))、タバコTA20、TA29遺伝子プロモーター(Goldberg et al., Science, 240:1460(1988))、イネOsg6B 遺伝子プロモーター(Tuchiya et al., Plant Mol. Biol, 26:1737(1994))、トマトLat52 遺伝子プロモーター(Twellr et al., Development, 109:705(1990)) 、タバコg10 遺伝子プロモーター(Rogers et al., Plant Mol. Biol., 45:577(2001)) 、カリフラワーモザイクウイルス 35Sプロモーターに葯特異的遺伝子発現調節配列を挿入した人工的なプロモーター(Ingrid et al., Plant Cell, 4:253(1992))を用いることができる。
【0025】
本発明の技術により、外生の(exogenous)NACK関連タンパク質でドミナントネガティブ活性を有するNACKストーク(モータードメイン欠損分子)でもって不稔になった植物に対して、このドミナントネガティブの発現をmRNA段階で抑制することが可能であり、これを利用した稔性の回復技術が提供できる。該ドミナントネガティブの発現をmRNA段階で抑制する場合、内生のNACKタンパク質のmRNAに影響を与えることなく、選択的に外生のドミネガ分子のそれのみを抑制する技術を提供できる。さらに、本発明は、該不稔になった植物に対して、インタクトなNACK分子の過剰発現によっても同様の効果を得る技術をも提供する。
本発明では、次のものも提供される。
(60) (1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質に対して、ドミナントネガティブ活性を有するタンパク質であり、且つ外生のタンパク質であるタンパク質の発現により不稔となった植物から、稔性が回復した植物を作出する方法であって、ドミナントネガティブ活性を有するタンパク質の発現を抑制することを特徴とする方法。
(61) ドミナントネガティブ活性を有する外生のタンパク質が下記(i)〜(v)のいずれかである(60)に記載の方法。
(i) 配列番号:2の361〜959番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(NACK1ST)
(ii) 配列番号:4の360〜955番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(NACK2ST)
(iii) 配列番号:6の361〜974番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(AtNACK1ST)
(iv) 配列番号:22の362〜954番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(OsNACKST)
(v) 配列番号:51の356〜938番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(AtNACK2ST)。
(62) ドミナントネガティブ活性を有する外生のタンパク質が配列番号:4の360〜955番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(NACK2ST)である(60)に記載の方法。
(63) ドミナントネガティブ活性を有する外生のタンパク質の発現の抑制がRNA干渉によるものである(60)、(61)、または(62)のいずれかに記載の方法。
(64) ドミナントネガティブ活性を有する外生のタンパク質の発現により不稔となった植物と、該タンパク質の発現をRNA干渉により抑制するRNAをコードするDNAを有する植物とを交配する工程を含む(63)に記載の方法。
(65) RNA干渉を生じるRNAをコードするDNAが配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列の一部若しくは全てを含むDNAである(63)または(64)のいずれかに記載の方法。
(66) RNA干渉を生じるRNAをコードするDNAが、配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列の一部であって、少なくとも10塩基以上であり、好ましくは20塩基以上であり、より好ましくは50塩基以上であり、より好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは200塩基以上である(63)または(64)のいずれかに記載の方法。
(67) 配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列の一部であって、少なくとも10塩基以上であり、好ましくは20塩基以上であり、より好ましくは50塩基以上であり、さらに好ましくは200塩基以上であるDNAがスペーサー配列を挟んで逆位反復した一次構造を有するDNAが、RNA干渉を生じるRNAをコードするDNAである(63)または(64)のいずれかに記載の方法。
(68) スペーサー配列を挟んで配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列で表されるDNAが逆位反復した一次構造を有するDNAが、RNA干渉を生じるRNAをコードするDNAである(63)または(64)のいずれかに記載の方法。
【0026】
(69) ドミナントネガティブ活性を有する外生のタンパク質の発現の抑制がアンチセンス配列によるものである(60)、(61)、または(62)のいずれかに記載の方法。
(70) ドミナントネガティブ活性を有する外生のタンパク質の発現により不稔となった植物と、該タンパク質の発現をアンチセンス配列をコードするDNAを有する植物とを交配する工程を含む(69)に記載の方法。
(71) アンチセンス配列をコードするDNAが配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列の一部若しくは全てを含むDNAである(69)または(70)のいずれかに記載の方法。
(72) アンチセンス配列をコードするDNAが、配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列の一部であって、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、より好ましくは200塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である(69)または(70)のいずれかに記載の方法。
(73) アンチセンス配列をコードするDNAが、配列番号:3の1402から2162番目までの塩基配列で表されるDNAである(69)または(70)のいずれかに記載の方法。
(74) (1)の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質に対して、ドミナントネガティブ活性を有するタンパク質の発現により不稔となった植物から、稔性が回復した植物を作出する方法であって、該DNAがコードするタンパク質を過剰発現させることによりドミナントネガティブ活性を有するタンパク質の効果を低下させることを特徴とする方法。
(75) ドミナントネガティブ活性を有するタンパク質が下記(i)〜(v)のいずれかである(74)に記載の方法。
(i) 配列番号:2の361〜959番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(NACK1ST)
(ii) 配列番号:4の360〜955番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(NACK2ST)
(iii) 配列番号:6の361〜974番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(AtNACK1ST)
(iv) 配列番号:22の362〜954番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(OsNACKST)
(v) 配列番号:51の356〜938番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(AtNACK2ST)
(76) ドミナントネガティブ活性を有するタンパク質が配列番号:4の360〜955番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質(NACK2ST)である(75)に記載の方法。
(77) 配列番号:4の360〜955番目のアミノ酸配列で表されるタンパク質の発現により不稔となった植物と、配列番号:4のアミノ酸配列で表されるタンパク質を過剰発現する植物とを交配させることにより稔性が回復した植物を得る方法。
(78) (60)〜(77)のいずれかに記載の方法を施された植物細胞、該植物細胞を含む植物体、該植物体の子孫、またはクローンである植物体。
(79) (77)の交配において生じる植物細胞又は種子。
(80) (79)に記載の植物細胞又は種子から生じる植物体。
(81) (78)又は(80)に記載のいずれかの植物体の種子。
(82) (78)〜(81)に記載の植物細胞、種子又は植物体より製造された食品及び/又は飼料組成物、あるいは化学品。
(83) (78)〜(81)に記載の植物細胞、種子又は植物体を使用することを特徴とする生物活性を有する物質のスクリーニング法及び該スクリーニング法で同定された物質。
【0027】
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明では、「遺伝子組換え技術」を利用して所定の核酸を単離・配列決定したり、組換え体を作製したり、所定のペプチドを得ることができる。本明細書中使用できる遺伝子組換え技術としては、当該分野で知られたものが挙げられ、例えば J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, (2nd edition, 1989 & 3rd edition, 2001), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York; D. M. Glover et al. ed., ”DNA Cloning”, 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995);日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人 (1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA 技術)」、東京化学同人 (1992); ”Methods in Enzymology” シリーズ, Academic Press, New York、例えばR. Wu ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 68 (Recombinant DNA), Academic Press, New York (1980); R. Wu et al. ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 100 (Recombinant DNA, Part B) & 101 (Recombinant DNA, Part C), Academic Press, New York (1983); R. Wu et al. ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 153 (Recombinant DNA, Part D), 154 (Recombinant DNA, Part E) & 155 (Recombinant DNA, Part F), Academic Press, New York (1987); J. H. Miller ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 204, Academic Press, New York (1991); R. Wu ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 216 (Recombinant DNA, Part G), Academic Press, New York (1992); R. Wu ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 217 (Recombinant DNA, Part H) & 218 (Recombinant DNA, Part I), Academic Press, New York (1993); G. M. Attardi et al. ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 260 (Mitochondrial Biogenesis and Genetics, Part A), Academic Press, New York (1995); J. L. Campbell ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 262 (DNA Replication), Academic Press, New York (1995); G. M. Attardi et al. ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 264 (Mitochondrial Biogenesis and Genetics, Part B), Academic Press, New York (1996); P. M. Conn ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 302 (Green Fluorescent Protein), Academic Press, New York (1999); S. Weissman ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 303 (cDNA Preparation and Characterization), Academic Press, New York (1999); J. C. Glorioso et al. ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 306 (Expression of Recombinant Genes in Eukaryotic Systems), Academic Press, New York (1999); M. lan Phillips ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 313 (Antisense Technology, Part A: General Methods, Methods of Delivery and RNA Studies) & 314 (Antisense Technology, Part B: Applications), Academic Press, New York (1999); J. Thorner et al. ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 326 (Applications of Chimeric Genes and Hybrid Proteins, Part A: Gene Expression and Protein Purification), 327 (Applications of Chimeric Genes and Hybrid Proteins, Part B: Cell Biology and Physiology) & 328 (Applications of Chimeric Genes and Hybrid Proteins, Part C: Protein−Protein Interactions and Genomics), Academic Press, New York (2000) などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法あるいはそれらと実質的に同様な方法や改変法が挙げられる(それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる) 。
【0029】
本発明は、植物の隔膜形成体形成に関与するNACK1タンパク質及びNACK2タンパク質を提供する。酵母内で発現しているNPK1のキナーゼ活性を活性化することが明らかになっていたNACK1 cDNAの塩基配列及びNACK2 cDNAの塩基配列を明らかにした。NACK1 遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号:1に、この遺伝子がコードするNACK1 タンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示し、NACK2 遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号:3に、この遺伝子がコードするNACK2 タンパク質のアミノ酸配列を配列番号:4に示す。
本発明は、NACK1 タンパク質、またはNACK1 タンパク質と機能を同等とするタンパク質に対してドミナントネガティブに機能し、隔膜形成体の形成及び/又は拡大を制御するNACK関連タンパク質の一部分及びその使用方法を提供する。
本発明においてNACK関連タンパク質がドミナントネガティブ分子として機能するためには、
(a) 配列番号:2に示したNACK1タンパク質であれば 361〜959番目のアミノ酸配列を用いた分子、
(b) 配列番号:4に示したNACK2タンパク質であれば 360〜955番目のアミノ酸配列
を用いた分子、
(c) 配列番号:22に示したOsNACKタンパク質であれば 362〜954番目のアミノ酸配列を用いた分子、
(d) 配列番号:6に示したAtNACK1タンパク質であれば 361〜974番目のアミノ酸配列を用いた分子、
(e) 配列番号:51に示したAtNACK2タンパク質であれば 356〜938番目のアミノ酸配列を用いた分子、
(f) 上記(a)〜(e)の分子のいずれか一つと、アミノ酸配列を最適な形で並べて比較した時、60%のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有する分子、 (g) 上記(a)〜(e)の分子のいずれか一つと、アミノ酸配列を最適な形でならべて比較した時、40%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列を有する分子、
(h) NACK関連タンパク質のモータードメインのアミノ酸配列の一部を欠失した分子、
(i) NACK関連タンパク質のモータードメインのアミノ酸配列の一部を欠失することにより、微小管に結合する能力を欠失した分子、
(j) NACK関連タンパク質のモータードメインのアミノ酸配列においてアミノ酸置換を導入して微小管上の移動能力を欠失した、すなわちキネシン様タンパク質のモーター活性を示さない分子、
(k) NACK関連タンパク質のコイルドコイル構造が予測されるアミノ酸配列を含む分子が微小管上の移動能力を欠失した、または微小管への結合能力が欠失した、すなわちキネシン様タンパク質のモーター活性を示さない分子
(l) 上記(h)〜(k)においてNACK関連タンパク質がNACK1、NACK2、AtNACK1、AtNACK2又はOsNACKである分子
(m) 上記(h)〜(k)においてNACK関連タンパク質がNACK1、NACK2、又はOsNACKである分子
から成る群から選ばれたもののうちの少なくとも一つである分子である。
【0030】
本発明において提供されるドミナントネガティブとして機能する分子は、前記(f)の記載において、該分子のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、前記(a)から(e)に記載の分子のアミノ酸配列とポジティブであるアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は60%以上あれば良く、望ましくは65%以上、より望ましくは67%以上、より望ましくは71%以上、より望ましくは77%以上、更に望ましくは90%以上である。
本発明において提供されるドミナントネガティブとして機能する分子は、前記(g)の記載において、該分子のアミノ酸配列を最適な形で並べた時に、前記(a)〜(e)に記載の分子のアミノ酸配列と同一のアミノ酸を含む割合により規定されるが、その割合は40%以上あれば良く、望ましくは47%以上、より望ましくは51%以上、より望ましくは57%以上、より望ましくは60%以上、更に望ましくは90%以上である。
【0031】
また、本発明においてNACK関連タンパク質がドミナントネガティブ分子として機能するためには,
(i) NACK関連タンパク質のコイルドコイル構造が予測されるアミノ酸配列を含み且つ微小管上の移動能力を持たない分子、
(ii) NACK 関連タンパク質が、NACK1、NACK2、AtNACK1、AtNACK2又はOsNACKである上記(i) の分子、
(iii) キネシン様モータードメインのアミノ酸配列の一部又は全部を欠失しているため微小管上に結合する能力を失ったNACK関連タンパク質、
(iv) NACK関連タンパク質が、NACK1、NACK2、AtNACK1、AtNACK2又はOsNACKである上記(iii)の分子、
(v) キネシン様モータードメインのアミノ酸配列においてアミノ酸置換を導入して微小管上を移動する能力を失ったNACK関連タンパク質、
(vi) NACK関連タンパク質が、NACK1、NACK2、AtNACK1、AtNACK2又はOsNACKである上記(v)の分子、
(vii) キネシン様モータードメインを欠失しているNACK関連タンパク質、
(viii) NACK関連タンパク質がNACK1、NACK2、AtNACK1、AtNACK2又はOsNACKである上記(vii)の分子。
から成る群から選ばれたもののうちの少なくとも一つである分子である。
より望ましくは上記(i)、(iii)、(v)または(vii)においてNACK関連タンパク質が、NACK1、NACK2、又はOsNACKである分子のうちの少なくとも一つの分子である。
従って、ドミナントネガティブ分子として機能するNACK関連タンパク質を細胞内で発現させるためには、上記(a)〜(m)または(i)〜(viii)のいずれかに記載の分子をコードするDNAを用いることができる。
【0032】
NACK関連タンパク質の一部分を用いた分子による形質転換植物では隔膜形成体の形成および拡大が不完全であったことは( 実施例14、実施例15及び実施例23) 、NACK1 タンパク質、NACK2 タンパク質が植物の隔膜形成体の形成及び/又は拡大を制御する因子であり、かつこれらのNACK関連タンパク質の一部分を用いた分子がNPK1タンパク質にドミナントネガティブに機能することを証明するものである。
【0033】
本発明は、花粉形成特異的な遺伝子発現の調節領域を含む「AtNACK2 」のプロモーター領域を提供する。この領域を含むゲノムDNA 配列を配列番号:20に示す。
実施例16に示すようにAtNACK2 のプロモーター領域には既に M期特異的遺伝子発現制御に必須であるMSA 配列近傍に多数の花粉、または花粉形成細胞特異的な遺伝子発現調節領域を見出した。この事実はAtNACK2 プロモーターが花粉形成に係わる器官において強く発現するなどの遺伝子発現調節を示すことを証明するものである。
【0034】
本発明はNACK1あるいはNACK2タンパク質と機能的に同等なタンパク質を提供する。本発明において「同等な機能を有する」または「機能的に同等」とは、タンパク質が植物の隔膜形成体の形成および/または拡大において機能することを指す。タンパク質が植物の隔膜形成体形成において機能するか否かは、変異株におけるタンパク質の発現による機能相補試験や、ドミナントネガティブ分子の形質転換植物における隔膜形成体の形成および拡大の変化(多核化した細胞)の検出及び/又はタンパク質の隔膜形成体の局在性により、決定することが可能である。
NACK関連タンパク質はアミノ酸配列からも識別し得る。すなわち、実施例5に示すようにNACK1 タンパク質の機能に必須である2つの領域のアミノ酸配列の相同性より明らかとなる。2つの領域とは微小管上における移動能力を示すために必須であるモータードメインとNPK1関連タンパク質との結合に必須な領域を指す。特にNPK1関連タンパク質との結合に必須な領域はコイルドコイル構造を形成することが予測されることが重要である。
【0035】
本発明で特徴付けたタンパク質を単離するための植物としては、特に制限はなく、広く栽培植物あるいは有用植物として知られたものの中から選択して利用でき、穀類、豆類、イモ類、種実類、野菜類、果実類として知られた植物、さらには園芸花木樹木なども挙げられる。該植物としては、例えば、ナス科、アブラナ科、イネ科、マメ科、ユリ科、セリ科、ウリ科などのものが挙げられ、好ましくはタバコ、シロイヌナズナ、ダイズ、アズキ、エンドウ、ソラマメ、ラッカセイ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ベントグラス、トウモロコシ、アブラナ、ジャガイモ、サツマイモ、タロイモ、コンニャク、キャッサバなどが挙げられる。これらは遺伝子源としても利用できる。
【0036】
上記したような機能的に同等なタンパク質を取得・単離する方法の一つの態様としては、タンパク質中のアミノ酸に変異を導入する方法が当業者によく知られている。即ち、当業者であれば、公知の方法により、天然型の「NACK1」タンパク質(例えば、配列番号:2に記載のタンパク質)あるいは天然型の「NACK2 」タンパク質(例えば、配列番号:4に記載のタンパク質)中のアミノ酸を適宜置換、欠失、付加などして、これと同等の機能を有する改変タンパク質を調製することが可能である。また、アミノ酸の変異は自然界において生じることもある。本発明のタンパク質には、このように天然型の「NACK1」タンパク質または天然型の「NACK2 」タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有し、天然型のタンパク質と同等の機能を有するタンパク質も含まれる。タンパク質におけるアミノ酸の改変は、通常、全アミノ酸の50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内であり、さらに好ましくは3アミノ酸以内である。アミノ酸の改変は、例えば、変異や置換であれば「Transformer Site−directed Mutagenesis Kit 」や「ExSite PCR−Based Site−directed Mutagenesis Kit」(Clontech社製)を用いて行うことが可能であり、また、欠失であれば「Quantum leap Nested Deletion Kit」(Clontech社製)などを用いて行うことが可能である。
【0037】
変異・変換・修飾法としては、日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法 II 」、p105(広瀬進)、東京化学同人(1986); 日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA 技術)」、p233(広瀬進)、東京化学同人(1992); R. Wu, L. Grossman, ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 154, p. 350 & p. 367, Academic Press, New York (1987); R. Wu, L. Grossman, ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 100, p. 457 & p. 468, Academic Press, New York (1983); J. A. Wells et al., Gene, 34: 315, 1985; T. Grundstroem et al., Nucleic Acids Res., 13: 3305, 1985; J. Taylor et al., Nucleic Acids Res., 13: 8765, 1985; R. Wu ed., ”Methods in Enzymology”, Vol. 155, p. 568, Academic Press, New York (1987); A. R. Oliphant et al., Gene, 44: 177, 1986 などに記載の方法が挙げられる。例えば合成オリゴヌクレオチドなどを利用する位置指定変異導入法(部位特異的変異導入法) (Zoller et al., Nucl. Acids Res., 10: 6487, 1987; Carter et al., Nucl. Acids Res., 13: 4331, 1986), カセット変異導入法 (cassette mutagenesis: Wells et al., Gene, 34: 315, 1985), 制限部位選択変異導入法 (restriction selection mutagenesis: Wells et al., Philos. Trans. R. Soc. London Ser A, 317: 415, 1986),アラニン・スキャンニング法 (Cunningham & Wells, Science, 244: 1081−1085, 1989), PCR 変異導入法, Kunkel法, dNTP[αS]法(Eckstein),亜硫酸や亜硝酸などを用いる領域指定変異導入法等の方法が挙げられる。
【0038】
アミノ酸の置換、欠失、あるいは挿入は、好ましい変化を与えるものであってよく、当該タンパク質を構成するポリペプチドの生理的な特性や化学的な特性に変化を生ぜしめるものであってよい。該置換、欠失、あるいは挿入を施されたポリペプチドは、そうした置換、欠失、あるいは挿入のされていないものと実質的に同一であるとされるものであることもできる。該アミノ酸配列中のアミノ酸の実質的に同一な置換体としては、そのアミノ酸が属するところのクラスのうちの他のアミノ酸類から選ぶことができうる。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、トリプトファン、メチオニンなどが挙げられ、極性(中性)としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンなどが挙げられ、陽電荷をもつアミノ酸(塩基性アミノ酸)としては、アルギニン、リジン、ヒスチジンなどが挙げられ、陰電荷をもつアミノ酸(酸性アミノ酸)としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。場合によっては、システインをセリンに、グリシンをアラニンやロイシンに、あるいはロイシンをアラニン、イソロイシン、バリンなどに置き換えてもよい。
本発明のタンパク質は、化学的な手法でその含有されるアミノ酸残基を修飾することもできるし、ペプチダーゼ、例えばペプシン、キモトリプシン、パパイン、ブロメライン、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼなどの酵素を用いて修飾したり、部分分解したりしてその誘導体などにすることができる。
【0039】
また遺伝子組換え法で製造する時に融合タンパク質として発現させ、生体内あるいは生体外で天然の所定の本発明のタンパク質と実質的に同等の生物学的活性を有しているものに変換・加工してもよい。遺伝子工学的に常用される融合産生法を用いることができるが、こうした融合タンパク質はその融合部を利用してアフィニティクロマトグラフィーなどで精製することも可能である。こうした融合タンパク質としては、ヒスチジンタグに融合せしめられたもの、あるいは、β−ガラクトシダーゼ(β−gal) 、マルトース結合タンパク (MBP), グルタチオン−S−トランスフェラーゼ (GST)、チオレドキシン (TRX)又は Cre Recombinaseのアミノ酸配列に融合せしめられたものなどが挙げられる。同様に、ポリペプチドは、ヘテロジーニアスなエピトープのタグを付加され、該エピトープに特異的に結合する抗体を用いてのイムノアフィニティ・クロマトグラフィーによる精製をなし得るようにすることもできる。より適した実施態様においては、該エピトープタグとしては、例えば AU5, c−Myc, CruzTag 09, CruzTag 22, CruzTag 41, Glu−Glu, HA, Ha.11, KT3, FLAG (registered trademark, Sigma−Aldrich), Omni−probe, S−probe, T7, Lex A, V5, VP16, GAL4, VSV−G などが挙げられる。(Field et al., Molecular and Cellular Biology, 8: pp.2159−2165 (1988); Evan et al., Molecular and Cellular Biology, 5: pp.3610−3616 (1985); Paborsky et al., Protein Engineering, 3(6): pp.547−553 (1990); Hopp et al., BioTechnology, 6: pp.1204−1210 (1988); Martin et al., Science, 255: pp.192−194 (1992); Skinner et al., J. Biol. Chem., 266: pp.15163−15166 (1991); Lutz−Freyermuth et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: pp.6393−6397 (1990)など) 。酵母を利用した two−hybrid 法も利用できる。
【0040】
さらに融合タンパク質としては、検出可能なタンパク質となるようなマーカーを付されたものであることもできる。より好適な実施態様においては、該検出可能なマーカーは、ビオチン/ストレプトアビジン系のBiotin Avi Tag、螢光を発する物質などであってよい。該螢光を発する物質としては、オワンクラゲ (Aequorea victorea)などの発光クラゲ由来の緑色螢光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)、それを改変した変異体(GFPバリアント) 、例えば、EGFP (Enhanced−humanized GFP), rsGFP (red−shift GFP), 黄色螢光タンパク質 (yellow fluorescent protein: YFP), 緑色螢光タンパク質 (green fluorescent protein: GFP),藍色螢光タンパク質 (cyan fluorescent protein: CFP), 青色螢光タンパク質 (blue fluorescent protein: BFP), ウミシイタケ (Renilla reniformis) 由来のGFP などが挙げられる(宮脇敦史編、実験医学別冊ポストゲノム時代の実験講座3−GFP とバイオイメージング、羊土社 (2000年))。また、上記融合タグを特異的に認識する抗体(モノクローナル抗体及びそのフラグメントを含む)を使用して検出を行うこともできる。
本発明のタンパク質及びその一部のペプチドの合成には、当該ペプチド合成分野で知られた方法、例えば液相合成法、固相合成法などの化学合成法を使用することができる。こうした方法では、例えばタンパク質あるいはペプチド合成用樹脂を用い、適当に保護したアミノ酸を、それ自体公知の各種縮合方法により所望のアミノ酸配列に順次該樹脂上で結合させていく。縮合反応には、好ましくはそれ自体公知の各種活性化試薬を用いるが、そうした試薬としては、例えばジシクロヘキシルカルボジイミドなどカルボジイミド類を好ましく使用できる。生成物が保護基を有する場合には、適宜保護基を除去することにより目的のものを得ることができる。
【0041】
本発明のタンパク質は、当業者に公知の方法により、天然のタンパク質としての他、遺伝子組換え技術を利用して調製した組換えタンパク質として調製することができる。天然のタンパク質は、例えば、下記の方法により調製された組換えタンパク質をウサギなどの小動物に免疫して得た抗体を適当な吸着体(CNBr活性化アガロースやトシル活性化アガロース)に結合させてカラムを作製し、得られたカラムを利用してイネの葉のタンパク質抽出液を精製することにより調製することが可能である。一方、組換えタンパク質は、常法、例えば、本発明のタンパク質をコードするDNA を適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な細胞に導入し、該形質転換細胞から精製することにより調製することが可能である。
【0042】
組換えタンパク質を生産するために用いられる細胞としては、例えば、植物細胞、大腸菌、酵母などの微生物細胞、動物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。また、細胞内で組換えタンパク質を発現させるためのベクターとしては、例えば、植物、酵母細胞用にはプラスミド「pBI121」や「pBI101」(Clontech社製)、大腸菌用にはプラスミド「pET Expression system 」(Stratagene社製)や「GST gene fusion Vectors 」(Pharmacia 社製)、ほ乳類細胞用にはプラスミド「pMAM」(Clontech社製)、昆虫細胞用にはプラスミド「pBacPAK8.9」(Clontech社製)などが挙げられる。ベクターへのDNA の挿入は、常法、例えば、Molecular Cloning (Maniatis et al., Cold Spring harbor Laboratry Press) に記載の方法により行うことができる。また、宿主細胞へのベクターの導入は、常法により宿主細胞に応じてエレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法などの方法で行うことが可能である。
得られた形質転換細胞からの本発明の組換えタンパク質の精製は、タンパク質の性質に応じ、塩析や有機溶媒による沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、免疫吸着体によるカラムクロマトグラフィー、ゲルろ過、SDS 電気泳動、等電点電気泳動などを適宜組み合わせて行うことが可能である。また、本発明の組換えタンパク質をグルタチオンS−トランスフェラーゼなどの標識との融合タンパク質として発現させた場合には、該標識に対するアフィニティークロマトグラフィーなどにより精製することも可能である。
【0043】
得られた形質転換細胞からの本発明の組換えタンパク質の精製は、タンパク質の性質に応じ、塩析や有機溶媒による沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、免疫吸着体によるカラムクロマトグラフィー、ゲルろ過、SDS 電気泳動、等電点電気泳動などを適宜組み合わせて行うことが可能である。また、本発明の組換えタンパク質をグルタチオンS−トランスフェラーゼなどの標識との融合タンパク質として発現させた場合には、該標識に対するアフィニティークロマトグラフィーなどにより精製することも可能である。
【0044】
また、本発明は、上記本発明のタンパク質をコードするDNA を提供する。本発明のDNA は、本発明のタンパク質をコードし得るものであれば特に制限はなく、ゲノムDNA 、cDNA、化学合成DNA などが含まれる。ゲノムDNA は、例えば、文献 (Rogers and Bendich, Plant Mol. Biol. 5:69 (1985)) 記載の方法に従って調製したゲノムDNA を鋳型として、本発明のDNA の塩基配列(例えば、配列番号:1または配列番号:3に記載の塩基配列)を基に作製したプライマーを用いてポリメラーゼ・チェイン・リアクション(polymerase chain reaction; PCR)を行うことにより調製することが可能である。また、cDNAであれば、常法 (Maniatis et al. Molecular Cloning Cold Spring harbor Laboratry Press) により植物からmRNAを調製し、逆転写反応を行い、上記と同様のプライマーを用いてPCR を行うことにより調製することが可能である。また、ゲノムDNA やcDNAは、常法によりゲノムDNA ライブラリーまたはcDNAライブラリーを作製し、このライブラリーに対し、例えば本発明のDNA の塩基配列(例えば、配列番号:1または3 に記載の塩基配列)を基に合成したプローブを用いてスクリーニングすることによっても調製することが可能である。
【0045】
また、機能的に同等なタンパク質を単離する方法の他の態様としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, J. Mol. Biol. 98:503(1975); Maniatis et al., ”Molecular Cloning”, Cold Spring harbor Laboratry Press) やPCR 技術(H.A.Erlich (ed.), ”PCR technology”, Stockton Press, New York (1989))が挙げられる。即ち、当業者にとっては、「NACK1」遺伝子の塩基配列(配列番号:1)もしくはその一部をプローブとして、「NACK1」遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の一部にハイブリダイズするオリゴ塩基をプライマーとして、これと高い相同性を有するDNAを単離して、該DNAから「NACK1」タンパク質と同等の機能を有するタンパク質を得ることは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離されたDNAがコードする「NACK1 」タンパク質と同等の機能を有するタンパク質もまた本発明のタンパク質に含まれる。同様なことは、NACK2 についても適用できる。
【0046】
本明細書中、PCR とは、一般的に、Saiki et al., Science, 239:487(1988); 米国特許第 4,683,195号明細書などに記載されたような方法を指し、例えば、所望のヌクレオチド配列をインビトロで酵素的に増幅するための方法を指している。一般に、PCR は、鋳型核酸と優先的にハイブリダイズすることのできる2個のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、プライマー伸長合成を行うようなサイクルを繰り返し行うことを含むものである。典型的には、PCR 法で用いられるプライマーは、鋳型内部の増幅されるべきヌクレオチド配列に対して相補的なプライマーを使用することができ、例えば、該増幅されるべきヌクレオチド配列とその両端において相補的であるか、あるいは該増幅されるべきヌクレオチド配列に隣接しているものを好ましく使用することができる。代表的な場合には、5’端側のプライマーとしては、少なくとも開始コドンを含有するか、あるいは該開始コドンを含めて増幅できるように選択し、また3’端側のプライマーとしては、少なくともストップコドンを含有するか、あるいは該ストップコドンを含めて増幅できるように選択することが好ましい。プライマーは、好ましくは 5個以上の塩基、さらに好ましくは10個以上の塩基からなるオリゴヌクレオチド、より好ましくは18〜35個の塩基からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0047】
PCR は、当該分野で公知の方法あるいはそれと実質的に同様な方法や改変法により行うことができるが、例えば 上記文献の他、R. Saiki, et al., Science, 230: 1350, 1985; H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989; D. M. Glover et al. ed., ”DNA Cloning”, 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); M. A. Innis et al. ed., ”PCR Protocols: a guide to methods and applications”, Academic Press, New York (1990)); M. J. McPherson, P. Quirke and G. R. Taylor (Ed.), PCR: a practical approach, IRL Press, Oxford (1991); M. A. Frohman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8998−9002 (1988) などに記載された方法あるいはそれを修飾したり、改変した方法に従って行うことができる。また、PCR は、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、キット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコルに従って実施することもできる。
【0048】
PCR は、代表的な場合には、例えば鋳型(例えば、mRNAを鋳型にして合成されたDNA; 1st strand DNA など) と該遺伝子に基づいてデザインされたプライマーとを、10×反応緩衝液 (Taq DNA ポリメラーゼに添付されている) 、dNTPs(デオキシヌクレオシド三リン酸dATP, dGTP, dCTP, dTTPの混合物)、Taq DNA ポリメラーゼ及び脱イオン蒸留水と混合する。混合物を、例えば、GeneAmp 2400 PCR system, Perkin−Elmer/Cetus などの自動サーマルサイクラーを用いて一般的なPCR サイクル条件下にそのサイクルを25〜60回繰り返すが、増幅のためのサイクル数は適宜目的に応じて適当な回数とすることができる。PCR サイクル条件としては、例えば、変性90〜95℃ 5〜100秒、アニーリング40〜68℃ 5〜150秒、伸長65〜75℃ 30〜900秒のサイクル、好ましくは変性 94 ℃ 15 秒、アニーリング 58℃ 15秒、伸長 72℃ 45秒のサイクルが挙げられるが、アニーリングの反応温度及び時間は適宜実験によって適当な値を選択できるし、変性反応及び伸長反応の時間も、予想されるPCR 産物の鎖長に応じて適当な値を選択できる。アニーリングの反応温度は、通常プライマーと鋳型DNA とのハイブリッドのTm値に応じて変えることが好ましい。伸長反応の時間は、通常1000bpの鎖長当たり1 分程度がおおよその目安であるが、より短い時間を選択することも場合により可能である。得られたDNA の塩基配列は、例えば「シークエンサーModel310」(ABI 社製)を利用することにより容易に決定することが可能である。本発明のDNA は、例えば、上記したように組換えタンパク質の調製に用いることができる。さらに、本発明のDNA を植物体内で発現させることにより、細胞壁成分の合成が促進された形質転換植物体や発生分化が促進された形質転換植物体を得ることも可能である。
【0049】
NACK1 と機能的に同等なタンパク質をコードする遺伝子を単離するためのハイブリダイゼーションは、55℃でハイブリダイゼーションさせた後、0.1% SDSを含む2XSSC(3M NaCl, 0.3M クエン酸ナトリウム)もしくは2XSSPE(3.6M NaCl, 0.2Mリン酸ナトリウム液(pH7.7), 0.02M Na2−EDTA) 中で、55℃で10分間の洗浄を合計3回行うという条件で行なうことができる。よりストリンジェントなハイブリダイゼーションにおいては、65℃でハイブリダイゼーションさせた後、0.1% SDSを含む2XSSCもしくは2XSSPE液中で、65℃で10分間洗浄を合計3回行えば良い。さらに、よりストリンジェントなハイブリダイゼーションにおいては、65℃でハイブリダイゼーションさせた後、0.1% SDSを含む2XSSCもしくは2XSSPE液中で、65℃で10分間洗浄し、次に0.1% SDSを含む1XSSCもしくは1XSSPE液中で、65℃で10分間の洗浄を2回行えばよい。ハイブリダイゼーション液は、「Molecular cloning (Maniatis T. et al. Cold Spring Harbor Laboratory Press)」に記載されているもの等を用いればよい。
【0050】
ハイブリダイズ技術やPCR技術により得られるDNAがコードするNACK関連タンパク質のアミノ酸配列の相同性は、Blast search (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/blast.cgi?Jform=1)やGene Works (Intelli Genetics, Inc.) 等による相同性検索により決定することができる。
NACK1 タンパク質と同等な機能を有するNACK関連タンパク質のアミノ酸配列はそのタンパク質のN末端側に見出されるキネシン様タンパク質のモータードメインと相同性が高い領域においてNACK1 タンパク質と60%以上のアミノ酸配列が同一であり、NACK1 タンパク質の 686〜759 番目のアミノ酸配列に相当する NPK1 タンパク質またはそのオルソログ結合領域が65%以上アミノ酸において同一であり、且つこの領域がコイルドコイル構造を予測するプログラム(COILS program, http://npsa−pbil.ibcp.fr/cgi−bin/npsa#automat.pl?page=npsa#lupas.html, Lupas et al. 1991) によってコイルドコイル構造が予測されることである。
【0051】
また、本発明は、植物体内で本発明のDNA の発現を抑制し得る分子を提供する。「本発明のDNA の発現の抑制」には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNA の発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
植物における特定の内在性遺伝子の発現を抑制する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者に最もよく利用されている。植物細胞におけるアンチセンス効果は、エッカーらが一時的遺伝子発現法を用いて、電気穿孔法で導入したアンチセンスRNA が植物においてアンチセンス効果を発揮することで初めて実証した (J.R.Ecker およびR.W.Davis, Proc. Natl. Acad. USA. 83:5372(1986))。その後、タバコやペチュニアにおいても、アンチセンスRNA の発現によって標的遺伝子の発現を低下させる例が報告されており (A.R.van der Krolら, Nature 333:866(1988))、現在では植物における遺伝子発現を抑制させる手段として確立している。
【0052】
アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNA ポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNA とのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A) 付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する。
【0053】
本発明で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、遺伝子のmRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であろう。しかし、コード領域もしくは3’側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNA も、本発明で利用されるアンチセンスDNA に含まれる。使用されるアンチセンスDNA は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製されたDNA は、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。アンチセンスDNA の配列は、形質転換する植物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNA は、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。配列の相補性は、上記した検索により決定することができる。
アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスDNA の長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100 塩基以上であり、より好ましくは200 塩基以上であり、さらに好ましくは500 塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNA の長さは5kb よりも短く、好ましくは2.5kb よりも短い。
【0054】
内在性遺伝子の発現の抑制は、また、リボザイムをコードするDNA を利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA 分子のことをいう。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、中でもRNA を切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNA の部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNA のように400 塩基以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40塩基程度の活性ドメインを有するものもある。
【0055】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15 のC15 の3’側を切断するが、活性にはU14 が9位のA と塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はC の他にA またはU でも切断されることが示されている (M.Koizumi ら,(1988) FEBS Lett. 228:225) 。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA 配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA 中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA 切断リボザイムを作出することが可能である (M.Koizumi ら,(1988) FEBS Lett. 239:285、M.Koizumi ら,(1989) Nucleic Acids Res. 17:7059) 。例えば、NACK2 遺伝子(配列番号:2)のコード領域中には標的となりうる部位が複数存在する。
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNA のマイナス鎖に見出される (J.M.Buzayan, Nature, 323:349, 1986) 。このリボザイムも、標的特異的なRNA 切断を起こすように設計できることが示されている (Y.Kikuchi およびN.Sasaki, Nucleic Acids Res., 19:6751(1992))。
【0056】
標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35S プロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。しかし、その際、転写されたRNA の5’末端や3’末端に余分な配列が付加されていると、リボザイムの活性が失われてしまうことがある。このようなとき、転写されたリボザイムを含むRNA からリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5’側や3’側に、トリミングを行うためのシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である (K.Taira et al., Protein Eng., 3:733(1990); A.M.Dzianott およびJ.J.Bujarski, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 86:4823(1989); C.A.Grosshans およびR.T.Cech, Nucleic Acids Res., 19:3875(1991); K.Taira et al., Nucleic Acids Res., 19:5125(1991)) 。また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにして、より効果を高めることもできる (N.Yuyama et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 186:1271, 1992)。このようなリボザイムを用いて本発明で標的となる遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0057】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するDNA の形質転換によってもたらされる共抑制によっても達成されうる。「共抑制」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一若しくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入すると、導入する外来遺伝子および標的内在性遺伝子の両方の発現が抑制される現象のことをいう。共抑制の機構の詳細は明らかではないが、植物においてはしばしば観察される (Curr. Biol., 7:R793, 1997; Curr. Biol., 6:810, 1996)。例えば、NACK2 遺伝子が共抑制された植物体を得るためには、NACK2 遺伝子若しくはこれと類似した配列を有するDNA を発現できるように作製したベクターDNA を目的の植物へ形質転換し、得られた植物体から多核化した細胞を有する植物を選択すればよい。共抑制に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上)の配列の同一性を有する。配列の同一性は、上記した検索を利用して決定することができる。
【0058】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を逆位反復に配置したDNA の形質転換によってもたらされるRNAiによっても達成されうる。「RNAi」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一若しくは類似した配列を逆位反復に配置したDNA を形質転換により導入すると、外来DNA に由来する二本鎖RNA が発現し、標的遺伝子の発現が抑制される現象のことをいう。RNA 干渉の機構としては、第一段階として標的遺伝子のmRNAと導入配列由来の二本鎖RNA が複合体を形成し会合した配列をプライマーとして相補的なRNA が合成され、第二段階として内在性RNase によってこの複合体が断片化され、第3段階として20−30 塩基対に断片化した二本鎖RNA が二次的なRNA 干渉のシグナルとして機能することによって再び、内在性の標的遺伝子のmRNAを分解すると考えられている。 (Curr. Biol., 7:R793, 1997; Curr. Biol., 6:810, 1996)。例えば、NACK1遺伝子あるいはNACK2 遺伝子がRNA 干渉によって抑制された植物体を得るためには、NACK1遺伝子あるいはNACK2 遺伝子若しくはこれと類似した配列を有するDNA を逆位反復に配置したDNA を発現できるように作製したベクターDNA を目的の植物へ形質転換し、得られた植物体から多核化した細胞を有する植物を選択すればよい。RNA 干渉に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも10塩基以上が連続して同一であり、好ましくは20塩基以上が連続して同一であり、より好ましくは50塩基以上が連続して同一であり、より好ましくは100 塩基以上が連続して同一であり、さらに好ましくは200 塩基以上が連続して同一である。配列の同一性は、上記した検索を利用して決定することができる。
また、RNAiは植物ウイルスの感染によっても実現可能である。ゲノムとして一本鎖RNAをもつ植物ウイルスは、その複製過程において二本鎖RNA形態をとる。そこで、植物ウイルスゲノム中に目的遺伝子配列を適当なプロモーターと共に挿入し、この組換えウイルスを植物に感染させた場合、該ウイルスの複製に伴い目的遺伝子配列の二本鎖RNAが生成されることになる。その結果、RNAiの効果を得ることができる(Angell et al., Plant J. 20, 357−362,(1999))。
【0059】
さらに、本発明における内在性遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子のドミナントネガティブの形質を有する遺伝子を植物へ形質転換することによっても達成することができる。本発明において「ドミナントネガティブの形質を有するタンパク質をコードする DNA」とは、該DNA を発現させることによって、植物体が本来持つ本発明の内在性遺伝子がコードするタンパク質の活性を消失もしくは低下させる機能を有するタンパク質をコードするDNA のことを指す。対象となるDNA が本発明の内在性遺伝子の活性を消失もしくは低下させる機能を有するか否かは、上述したように、対象となるDNA が、植物の隔膜形成体の形成および拡大の抑制による多核化した細胞が出現するか否かにより判定することができる。
ドミナントネガティブ分子よる内在性NACK関連タンパク質の機能低下は、NACK関連タンパク質を単離した植物種と異なる植物種に形質転換しても良い。
ドミナントネガティブの形質を示すタンパク質としてはNACK1 タンパク質の686 〜759番目のアミノ酸を含んでいること、あるいはNACK2 タンパク質の 686〜759 番目のアミノ酸を含んでいることが望ましく、且つ該タンパク質が微小管への結合能力を失っているか又はモーター活性が欠失していることが望ましい。モーター活性とはNACK1 タンパク質あるいはNACK2 タンパク質の微小管上を移動する活性のことであり、この活性を欠失させる方法としてはモータードメイン領域の少なくとも1部分のアミノ酸を欠失させることであり、またアミノ酸置換により変異を導入することである。
【0060】
また、本発明は、上記本発明のDNA や本発明のDNA の発現あるいは本発明のDNAにコードされるタンパク質の発現を抑制するDNA が挿入された組換えDNA 又はベクターを提供する。該組換えDNA 又はベクターとしては、組換えタンパク質の生産に用いる上記したベクターの他、形質転換植物体作製のために植物細胞内で本発明のDNA あるいは本発明のDNA の発現または本発明のDNAにコードされるタンパク質の発現を抑制するDNA を発現させるためのベクターも含まれる。このような組換えDNA 又はベクターとしては、植物細胞で転写可能なプロモーター配列と転写産物の安定化に必要なポリアデニレーション部位を含むターミネーター配列を含んでいれば特に制限されず、例えば、プラスミド「pBI121」、「pBI221」、「pBI101」(いずれもClontech社製)、「pTA7001 」、「pTA7002 」(Aoyama ら(1997) Plant J. 11:605) などが挙げられる。
本発明の前記組換えDNA 又はベクターは、本発明のタンパク質を恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターを含有しうる。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(Odell et al., Nature, 313:810(1985))、イネのアクチンプロモーター(Zhang et al., Plant Cell, 3:1155(1991)) 、トウモロコシのユビキチンプロモーター(Cornejo et al.,Plant Mol. Biol., 23:567(1993))などが挙げられる。
【0061】
また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーター(Xu et al., Plant Mol. Biol., 30:387(1996))やタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター(Ohshima et al., Plant Cell 2:95(1990)) 、低温によって誘導されるイネの「lip19」遺伝子のプロモーター(Aguan et al., Mol. Gen Genet., 240:1(1993)) 、高温によって誘導されるイネの「hsp80」遺伝子と「hsp72」遺伝子のプロモーター(Van Breusegem et al., Planta, 193:57(1994)) 、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター(Nundy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:1406(1990))、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター(Schulze−Lefert et al., EMBO J., 8:651(1989))、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター(Walker et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:6624(1987)) などが挙げられる。また、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーターとタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸などの特定の化合物によって、「rab16」は植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。またグルココルチコイドやエストロジェンの処理によって植物内で誘導的遺伝子発現が可能であるシステムを有するベクター系の使用も含有し得る。グルココルチコイド処理によって発現誘導可能なベクターとしてはpTA7001、pTA7002(Aoyama et al., Plant J., 11:605(1997)) や、エストロジェン処理によって発現誘導が可能なベクターとしてはpER10(Zuo et al., Plant J., 24:265(2000)) が挙げられる。
【0062】
また、花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子のプロモーターであるシロイヌナズナAtNACK2 遺伝子プロモーター、シロイヌナズナAVP1遺伝子プロモーター、シロイヌナズナDAD1遺伝子プロモーター、タバコTA20、TA29遺伝子プロモーター、イネOsg6B 遺伝子プロモーター、トマトLat52 遺伝子プロモーター、タバコg10 遺伝子プロモーター、カリフラワーモザイクウイルス 35Sプロモーターに葯特異的遺伝子発現調節配列を挿入した人工的なプロモーターなどが挙げられる。
【0063】
また、本発明は、本発明の前記組換えDNA 又はベクターが導入された形質転換細胞を提供する。本発明のベクターが導入される細胞には、組換えタンパク質の生産に用いる上記した細胞の他に、形質転換植物体作製のための植物細胞が含まれる。植物細胞としては特に制限はなく、知られた植物、例えば栽培植物、有用植物などから選んでそれに適用でき、穀類、豆類、イモ類、種実類、野菜類、果実類として知られた植物、さらには園芸花木樹木などに由来のものを挙げることができる。該植物細胞としては、例えば、ナス科、アブラナ科、イネ科、マメ科、ユリ科、セリ科、ウリ科などのものが挙げられ、好ましくはタバコ、シロイヌナズナ、アブラナ、ダイズ、アズキ、エンドウ、ソラマメ、ラッカセイ、ゴマ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、トウモロコシ、ジャガイモ、トマト、ピーマン、キャベツ、ブロッコリー、パセリ、ホウレンソウ、サツマイモ、タロイモ、コンニャク、キャッサバ、ブドウ、リンゴ、モモ、ナシ、カキ、イチゴ、ブルーベリー、プラム、メロン、キュウリ、サトウキビ、ミカン、レモン、オレンジ、オリーブ、綿花などの細胞が挙げられる。本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。また、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれる。植物細胞へのベクターの導入は、例えば、アグロバクテリウムを利用した導入方法 (Hood et al., Transgenic Res., 2:218(1993); Hiei et al., Plant J., 6:271(1994))、エレクトロポレーション法 (Tada et al., Theor. Appl. Genet, 80:475(1990) ) 、ポリエチレングリコール法 (Lazzeri et al., Theor. Appl. Genet, 81:437(1991)) 、パーティクルガン法 (Sanford et al., J. Part. Sci. tech., 5:27(1987))などの方法を用いることが可能であり、当該分野で知られた方法の中から適宜選択して利用することが出来る。
【0064】
形質転換された植物細胞は、再分化させることにより植物体を再生させることが可能である。再分化の方法は植物細胞の種類により異なるが、例えば、イネであればFujimuraら (Plant Tissue Culture Lett., 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら (Bio/Technology, 7:581 (1989)) の方法やGorden−Kamm ら (Plant Cell, 2:603 (1990)) が挙げられ、ジャガイモであればVisserら (Theor. Appl. Genet, 78:594 (1989))の方法が挙げられ、タバコであればNagataとTakebe (Planta, 99:12 (1971)) の方法が挙げられ、シロイヌナズナであればAkama ら (Plant Cell Reports, 12:7−11 (1992)) の方法が挙げられる。
一旦、ゲノム内に本発明のDNA あるいは本発明のDNA の発現を抑制するDNA が導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNA または本発明のDNA の発現を抑制するDNA が導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
【0065】
本発明の形質転換植物体は、本発明のDNA の発現の調節により、細胞分裂の変化や花粉形成が正常な個体と比較して変化しうる。「細胞分裂の変化」とは、例えば、隔膜形成体が拡大する変化、隔膜形成体の形成の変化、細胞板が拡大する変化、細胞板の形成の変化、細胞分裂回数の変化、細胞分裂速度の変化、細胞中に含まれる核数の変化、細胞分裂面の変化、細胞形態の変化を包含して指す。「発生分化の変化」とは、例えば、組織の形態変化、組織の大きさの変化、器官の形態変化、器官の大きさの変化、植物体の形態の変化、植物体の大きさの変化、植物体の生育速度の変化を包含して指す。「花粉形成の変化」とは、例えば、花粉形成の抑制、花粉細胞中での核数の変化、花粉細胞の大きさ、花粉管発芽の抑制、受精能力の低下の変化を包含して指す。
本明細書中で開示した関連したタンパク質、そのフラグメント、さらにはDNA を含めた核酸(mRNA やオリゴヌクレオチドを含む) は、それらを単独あるいは有機的に使用し、更にはアンチセンス技術、モノクローナル抗体を含めた抗体、トランスジェニク植物などとも適宜組合わせて、ゲノミックス及びプロテオミックス技術に応用できる。また、二本鎖RNA (dsRNA) を使用してのRNAi (RNA interference) 技術への応用の途もある。かくして、一塩基多型(SNP; single nucleotide polymorphisms)を中心とした遺伝子多型解析、核酸アレイ、タンパク質アレイを使用した遺伝子発現解析、遺伝子機能解析、タンパク質間相互作用解析、関連遺伝子解析、農薬解析をすることが可能となる。例えば、核酸アレイ技術では、cDNAライブラリーを使用したり、PCR 技術で得たDNA を基板上にスポッティング装置で高密度に配置して、ハイブリダイゼーションを利用して試料の解析が行われる。
RNAi技術を利用する場合、例えばsiRNA (short interfering RNA) をデザインしてそれを導入して行うことをしてもよい。siRNA をデザインする場合、代表的な場合、対象遺伝子のスタートコドンから約50〜100塩基下流、例えば75塩基以上下流の領域に存在するAAで開始する19塩基の領域を選択する。好ましくは5’− や3’−UTRやスタートコドン近傍はそれを避けるが、場合によってはUTR 領域を対象とすることもできよう。該選択領域のGC含量が約30〜70% 程度、例えば約45〜55% 程度の領域を選択することが好ましい。2塩基(AA)+19 塩基=21塩基の配列、例えばAA(N19)(N は任意のヌクレオチド) をDNA データベース、例えばNCBIなどで検索(例えば、BLAST サーチなど) してその特異性を確認する。選択した配列をもつ合成RNA にはその3’端にdTdT(あるいはUU) が付加されていてよい。センス配列の合成RNA とそれに対応するアンチセンス配列の合成RNA を用意し、該合成RNA は、dsRNA とされて、細胞などに導入される。dsRNA 作製で使用される典型的なアニーリングバッファとしては、例えば 100 mM KOAcと2 mM MgOAcを含有する30 mM HEPES−KOH, pH 7.4 液、50 mM NaClと1 mM EDTA を含有する10 mM Tris, pH 7.5〜8.0 液などが挙げられるが、これに限定されるものではない。アニーリングの代表的な条件は、95℃2〜3分間とした後45〜60分間かけて37〜25℃にまで徐々に冷却するという処理条件が挙げられるが、これに限定されるものではない。形成されたdsRNA は、例えばフェノール/クロロホルム抽出−エタノール沈殿で回収できる。siRNA を植物などの細胞に導入する方法としては当該分野で知られた方法あるいはそれと実質的に同様な方法で行うことができ、例えばリン酸カルシウム法(例えば、F. L. Graham et al., Virology, 52: 456, 1973など)、DEAE−デキストラン法(例えば、D. Warden et al., J. Gen. Virol., 3: 371, 1968など)、カチオン性脂質複合体形成法などのリボソーム法、エレクトロポレーション法(例えば、E. Neumann et al., EMBO J, 1: 841, 1982 など)、マイクロインジェクション法、biolistic 粒子導入法などが挙げられる。核酸導入法は、トランスフェクションにより効率的に行い得るような技術的改良が図られており、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、例えばInvitrogen社、QIAGEN社などのキット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコルに従って実施することもできる。siRNA 技術については、例えば、Elbashir et al., Nature, 411: 494−498 (2001); Elbashir et al., Genes Dev., 15: 188−200 (2001); 多比良和誠編、「実験医学別冊プロトコールシリーズ・遺伝子の機能阻害実験法」、羊土社、2001年などを参照することができる。
【0066】
該アレイ化は、針あるいはピンを使用して、あるいはインクジェトプリンティング技術などでもって、スライドガラス、シリコン板、プラスチックプレートなどの基板のそれぞれ固有の位置にDNA が付着せしめられることによりそれを実施することができる。該核酸アレイ上でのハイブリダイゼーションの結果得られるシグナルを観察してデータを取得する。該シグナルは、螢光色素などの標識(例えば、Cy3, Cy5, BODIPY, FITC, Alexa Fluor dyes(商品名), Texas red(商品名) など) より得られるものであってよい。検知にはレーザースキャナーなどを利用することもでき、得られたデータは適当なアルゴリズムに従ったプログラムを備えたコンピューターシステムで処理されてよい。また、タンパク質アレイ技術では、タグを付された組換え発現タンパク質産物を利用してよく、二次元電気泳動(2−DE)、酵素消化フラグメントを含めての質量分析 (MS)(これにはエレクトロスプレーイオン化法(electrospray ionization: ESI), マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(matrix−assisted laser desorption/ionization: MALDI)などの技術が含まれ、MALDI−TOF 分析計、ESI−3 連四重極分析計、ESI−イオントラップ分析計などを使用してよい) 、染色技術、同位体標識及び解析、画像処理技術などが利用されることができる。したがって、本発明には上記で得られるあるいは利用できるNACK1又はNACK2 など及びそれに対する抗体に関連したソフトウエア、データベースなども含まれてよい。同様なことはその他のNACK関連タンパク質(オルソログ)についても行なうことが可能である。
【0067】
本明細書中、「抗体」との用語は、広義の意味で使用されるものであってよく、所望のNACK1タンパク質またはNACK2タンパク質、その構成ポリペプチド及び関連ペプチド断片に対するモノクローナル抗体の単一のものや各種エピトープに対する特異性を持つ抗体組成物であってよく、また1価抗体または多価抗体並びにポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含むものであり、さらに天然型(intact)分子並びにそれらのフラグメント及び誘導体も表すものであり、F(ab’)2, Fab’ 及びFab といったフラグメントを包含し、さらに少なくとも二つの抗原又はエピトープ (epitope)結合部位を有するキメラ抗体若しくは雑種抗体、又は、例えば、クワドローム(quadrome), トリオーム(triome)などの二重特異性組換え抗体、種間雑種抗体、抗イディオタイプ抗体、さらには化学的に修飾あるいは加工などされてこれらの誘導体と考えられるもの、公知の細胞融合又はハイブリドーマ技術や抗体工学を適用したり、合成あるいは半合成技術を使用して得られた抗体、抗体生成の観点から公知である従来技術を適用したり、DNA 組換え技術を用いて調製される抗体、本明細書で記載し且つ定義する標的抗原物質あるいは標的エピトープに関して中和特性を有したりする抗体又は結合特性を有する抗体を包含していてよい。特に好ましい本発明の抗体は、配列番号:2や配列番号:4の1〜365番目の領域から選択されたポリペプチドを特異的に識別できるものが挙げられる。
【0068】
抗原物質に対して作製されるモノクローナル抗体は、培養中の一連のセルラインにより抗体分子の産生を提供することのできる任意の方法を用いて産生される。修飾語「モノクローナル」とは、実質上均質な抗体の集団から得られているというその抗体の性格を示すものであって、何らかの特定の方法によりその抗体が産生される必要があるとみなしてはならない。個々のモノクローナル抗体は、自然に生ずるかもしれない変異体が僅かな量だけ存在しているかもしれないという以外は、同一であるような抗体の集団を含んでいるものである。モノクローナル抗体は、高い特異性を持ち、それは単一の抗原性をもつサイトに対して向けられているものである。異なった抗原決定基(エピトープ) に対して向けられた種々の抗体を典型的には含んでいる通常の(ポリクローナル)抗体調製物と対比すると、それぞれのモノクローナル抗体は当該抗原上の単一の抗原決定基に対して向けられているものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養により合成され、他のイムノグロブリン類の夾雑がないあるいは少ない点でも優れている。モノクローナル抗体は、ハイブリッド抗体及びリコンビナント抗体を含むものである。それらは、所望の生物活性を示す限り、その由来やイムノグロブリンクラスやサブクラスの種別に関わりなく、可変領域ドメインを定常領域ドメインで置き換えたり、あるいは軽鎖を重鎖で置き換えたり、ある種の鎖を別の種の鎖でもって置き換えたり、あるいはヘテロジーニアスなタンパク質と融合せしめたりして得ることができる(例えば、米国特許第4816567 号; Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.79−97, Marcel Dekker, Inc., New York, 1987 など) 。
【0069】
モノクローナル抗体を製造する好適な方法の例には、ハイブリドーマ法 (G. Kohler and C. Milstein, Nature, 256, pp.495−497 (1975)); ヒトB細胞ハイブリドーマ法 (Kozbor et al., Immunology Today, 4, pp.72−79 (1983); Kozbor, J. Immunol., 133, pp.3001 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51−63, Marcel Dekker, Inc., New York (1987);トリオーマ法; EBV−ハイブリドーマ法 (Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp.77−96 (1985))(ヒトモノクローナル抗体を産生するための方法);米国特許第4946778 号 (単鎖抗体の産生のための技術) が挙げられる他、抗体に関して以下の文献が挙げられる: S. Biocca et al., EMBO J, 9, pp.101−108 (1990); R.E. Bird et al., Science, 242, pp.423−426 (1988); M.A. Boss et al., Nucl. Acids Res., 12, pp.3791−3806 (1984); J. Bukovsky et al., Hybridoma, 6, pp.219−228 (1987); M. DAINO et al., Anal. Biochem., 166, pp.223−229 (1987); J.S. Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, pp.5879−5883 (1988); P.T. Jones et al., Nature, 321, pp.522−525 (1986); J.J. Langone et al. (ed.), ”Methods in Enzymology”, Vol. 121 (Immunochemical Techniques, Part I: Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies), Academic Press, New York (1986); S. Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, pp.6851−6855 (1984); V.T. Oi et al., BioTechniques, 4, pp.214−221 (1986); L. Riechmann et al., Nature, 332, pp.323−327 (1988); A. Tramontano et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83, pp.6736−6740 (1986); C. Wood et al., Nature, 314, pp.446−449 (1985); Nature, 314, pp.452−454 (1985) あるいはそこで引用された文献(それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる) 。本発明の抗体は、当該遺伝子発現物の解析、検知などに利用できる他、様々な利用が可能である。
【0070】
本明細書中、「転写産物」とは、インビトロ、インビボ、細胞内、細胞外を含めて、遺伝子、ヌクレオチド配列などの転写の結果生成する生産物を包含し、例えばmRNAなどのRNA などが挙げられる。
本発明の技術を使用して、当該転写産物をはじめ、当該遺伝子発現物を測定(定性的測定及び定量的測定を含む)することにより、植物の有糸分裂の程度を評価して、植物の生育状態、活性力を判断する材料としたり、植物細胞の増殖性の評価、例えばカルスの増殖力を判定したり、植物が定常状態にあるのか、生育的に活性化しつつあるのかの判定、さらには植物細胞の培養条件などの評価などを行うこともできる。
【0071】
【実施例】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
なお、DNA の切断、連結、大腸菌の形質転換、遺伝子の塩基配列決定、ハイブリダイゼーション等一般の遺伝子組換えに必要な方法は、各操作に使用する市販の試薬、機械装置等に添付されている説明書や、実験書(例えば「Molecular cloning (Maniatis T. et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press) 」)に基本的に従った。全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【0072】
実施例1
酵母を用いたNACK1、NACK2 遺伝子のクローニング
各遺伝子のクローニングには出芽酵母の性フェロモンのシグナル伝達経路であるSte11(MAPKKK) 、Ste7(MAPKK) 、FUS3/KSS1(MAPK) の改変株を用いた。
出芽酵母のSte11(MAPKKK) 遺伝子破壊株にFUS1プロモーターで発現するHIS3レポーター遺伝子が染色体に挿入されたSY1984株 (MAT α leu2 ura3 trp1 his3Δura3 can1 FUS1::HIS3 ste11Δ::ura3) (Stevenson et al., Gene Dev., 6:1293(1992) )は、FUS3のMAPK活性をヒスチジン添加、無添加培地における生育でアッセイできる。このSY1984株のtrp1遺伝子座にCYC プロモーターで発現できるショウジョウバエのMAPKKKである Dsor1su1 を挿入して11Su1 株 (Irieら(1994)Sience 265:1716)が作出された。
11Su1 株の染色体上、leu2遺伝子座にGAL1プロモーターで発現できるNPK1 cDNA を挿入し、11Su1N株が作出された。11SuN 株はガラクトースの添加により、NPK1が発現できる。11Su1N株においてNPK1はSte11 の機能を相補可能であるが、全長NPK1は単独ではキナーゼ不活性型であるため、ガラクトース添加、ヒスチジン無添加培地では生育出来ない。
【0073】
11Su1N株においてNPK1のキナーゼ活性を活性化するタバコの因子をクローニングするために、増殖期にあるタバコ培養細胞BY−2のcDNAライブラリーを作成し、11SuN 株を形質転換した。
cDNAライブラリーは植え継ぎ後3日目のBY−2培養細胞より常法によりmRNAを精製し、逆転写反応を行って cDNA を合成し、pKT11 プラスミドのEcoRI とSalIサイトにBY−2 cDNA を挿入して作成した。
cDNAライブラリーを出芽酵母11Su1N株に形質転換し、独立した3 x 105 個の形質転換酵母を得た。
形質転換酵母をヒスチジン無添加、ガラクトース添加のSG(synthetic galactose) 培地(ウラシル、トリプトファン、ロイシン無添加) で生育させると、この培地上で生育するクローンが得られた。
このクローンよりプラスミドを回収し、cDNAの塩基配列を決定することによりNACK1 cDNA、NACK2 cDNAの塩基が明らかになった。
これらのプラスミドよりSalIとNotIによって cDNA を切り出し、pBluescript SK−(ストラタジーン) のSalI、NotIサイトに挿入し、p051SK (NACK1)、pNAK2SK (NACK2) を生成した。酵母で発現しているNPK1を活性化する因子としてクローニングされたNACK1 cDNA配列を配列番号:1に、またNACK2 cDNA配列を配列番号:3に示した。
【0074】
実施例2
NACK1 のアミノ酸配列を配列番号:2に、またNACK2 のアミノ酸配列を配列番号:4に示した
【0075】
実施例3
データベースの相同性探索により見出されたシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の配列を基に、配列番号:9、配列番号:10 で示した合成オリゴDNA をプライマーに用い、シロイヌナズナのcDNAよりPCR によって単離したAtNACK1 cDNAの塩基配列を配列番号:5で示した。
【0076】
実施例4
配列番号:5で示したAtNACK1 の cDNA にコードされるAtNACK1 タンパク質のアミノ酸配列を配列番号:6に示した。
【0077】
実施例5
データベースの相同性探索により、配列番号:2で示したNACK1 タンパク質と高い類似性を示すイネのタンパク質のアミノ酸配列を見出した。このタンパク質をOsNACKとし、アミノ酸配列を配列番号:7に示した。
【0078】
実施例6
配列番号:7で示したOsNACKタンパク質のアミノ酸配列をコードした領域を含むイネゲノムDNA の塩基配列を配列番号:8に示した。
【0079】
実施例7
配列番号:8を基に設計した合成オリゴDNA をプライマーに用い、イネのcDNAを鋳型に用いてPCR を行うことでOsNACk cDNA を単離することが出来る。
【0080】
実施例8
NACK関連タンパク質アミノ酸配列の類似性
NACK1、AtNACK1、OsNACKにつき、最適な形で並べたアミノ酸配列の比較を図1〜3に示した。同一アミノ酸の割合、類似アミノ酸の割合を表1〜3に示した。解析にはPairwise BlastのBlast 2 Sequences (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を使用した。使用時の主なパラメーター等の設定はMatrixがBLOSUM62、gap openが11、gap extensionが1、dropoffが50、expectが10.0であり、その他も初期設定の状態で使用した。二つのアミノ酸配列の類似性を示す出力結果で、ポジティブとは同一なアミノ酸に加え、類似なアミノ酸を加えた割合を示す。 NACK1とAtNACK1は76%のアミノ酸が同一であり、86%のアミノ酸がポジティブであった。また、NACK1とOsNACKでは65%のアミノ酸が同一であり、79%のアミノ酸がポジティブであった。キネシン様タンパク質のモータードメインはNACK1タンパク質のアミノ酸配列において27−364番目が相当し、AtNACK1タンパク質のアミノ酸では28−364番目が、OsNACKタンパク質のアミノ酸配列では31−362番目が相当する。この領域ではNACK1とAtNACK1では87%のアミノ酸が同一であり、93%のアミノ酸がポジティブであった。またNACK1とOsNACKでは76%のアミノ酸が同一であり、86%のアミノ酸がポジティブであった。NPK1タンパク質とNACK1タンパク質の結合に必須な領域であるNACK1タンパク質のアミノ酸配列は686−759番目であり、AtNACK1タンパク質のアミノ酸では699−773番目が、OsNACKタンパク質のアミノ酸配列では675−749番目が相当する。この領域においてはNACK1とAtNACK1では82%が同一であり、95%がポジティブであった。またNACK1とOsNACKでは80%が同一であり、90%がポジティブであった。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
実施例9
NACK関連タンパク質の構造的類似性
コイルドコイル構造を予測するプログラム(COILS program, http://npsa−pbil.ibcp.fr/cgi−bin/npsa automat.pl?page=npsa lupas.html, Lupas et al. 1991) によってNACK1 タンパク質、AtNACK1 タンパク質、OsNACKタンパク質のアミノ酸配列からコイルドコイル構造を予測した結果を図4に示す。NACK1 タンパク質がNPK1タンパク質と結合するために必須な領域と類似する領域でいずれのタンパク質においてもコイルドコイル構造を形成することが予測された。
実施例8、実施例9で示されたモータードメインを構成するアミノ酸配列の高い類似性、NPK1タンパク質と結合する領域での高い類似性、NPK1タンパク質と結合する領域で形成されるコイルドコイル構造からAtNACK1 タンパク質、OsNACKタンパク質ともにNACK1 タンパク質と同様の機能を示すことが示された。
【0085】
実施例10
NACK関連タンパク質の細胞内局在の確認
実施例8、実施例9によって示されるアミノ酸配列がNACK1 タンパク質と機能が同等であることは、次の実験によって示される。一つは目的タンパク質の C末端側にGreen Fluorescent Protein (GFP) を機能的に融合したタンパク質を作成し、このタンパク質が35S プロモーターの制御下で発現できるプラスミド、例えばpBI121のGUS 遺伝子領域と置換することによってアグロバクテリウム法でタバコ培養細胞BY−2に遺伝子導入可能なバイナリーベクターを構築する。このバイナリーベクターを保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404 株(Agorbacterium tumefacience LBA4404 strain) とBY−2細胞を25℃暗黒下で共培養し、培養2日後にBY−2細胞をLSD 培地で洗浄する。洗浄したBY−2細胞を蛍光顕微鏡を用いて観察する。隔膜形成体にGFP タンパク質が発する蛍光が局在しているBY−2細胞が観察されることと、以下の実施例11の結果を併せて目的タンパク質がNACK1 タンパク質と同様の機能を示すことを証明可能である。
【0086】
実施例11
NACK関連タンパク質の機能確認
実施例10に加え、次に、目的タンパク質においてモータードメインであると想定されるアミノ酸配列より N末端側の領域、実施例2であれば1−360 番目のアミノ酸配列を、実施例4であれば1−359 番目のアミノ酸配列を欠失したタンパク質をコードしているDNA 配列をpTA7001 バイナリーベクターに挿入する。このバイナリーベクターを保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404 株(Agorbacterium tumefacience LBA4404 strain) を用いてタバコ培養細胞BY−2を形質転換する。得られる形質転換BY−2細胞を0.1 μM デキサメタゾン(dexamethasone) 添加のLSD 液体培地 (Nagataら(1981) Mol. Gen. Genet. 184:161)で震盪培養を行い、培養3日目に培養後の細胞は3.7%フォルムアルデヒド(formaldehyde)、50mM sodium phosphate buffer(pH7.5) を添加して1時間静置して固定する。その後、0.005%カルコフロール(calcofluor)、1 μg/mlプロピディウムアイオダイド(propidium iodide)、10μg/ml RNaseA 、0.02% Tween20 を含むphosphate−bufferd saline(PBS) を用いて細胞壁および核を染色する。細胞は蛍光顕微鏡を用いて観察する。
実施例10において隔膜形成体にGFP タンパク質が発する蛍光が局在して、かつ実施例11において多核化したBY−2細胞が観察されることで、目的タンパク質がNACK1 タンパク質と同様の機能を示すことが証明可能である。
【0087】
実施例12
NACK1 およびNACK2 cDNAのクローニング
NACK1 およびNACK2 cDNAをクローニングするためには、実験書や、市販の各種試薬の説明書に基づいて行う。培養3日目のBY−2細胞より全RNA を抽出し、mRNAを精製する。このmRNAよりスーパースクリプトラムダシステム(インビトロジェン社)を用いてcDNAライブラリーを作成し、プラークハイブダイゼーションを行うことによってNACK1 cDNAを単離することができる。ハイブリダイゼーションに用いるプローブは配列番号:11、配列番号:12で示した合成オリゴDNA をプライマーに用いて前述のmRNAを鋳型にRT−PCRを行い、作成することが可能である。得られたクローンをSalIとNotIで切断し、DNA 断片をpBluescript SK−(ストラタジーン) のSalI、NotIの切断で生じた部位に挿入することによってp051SK(NACK1) 、pNAKSK(NACK2) を生成することができる。
【0088】
実施例13
pTA71−HA−NACK1:ST の構築
配列番号:13、配列番号:14、配列番号:15、配列番号:16、で示された合成オリゴDNA 配列を混合し、94℃に過熱後、徐冷することによって会合したDNA 断片をpBluescript SK− のEcoRI とBamHI の切断によって生じた部位に挿入することによってpSKHA2が生成される。
配列番号:19と配列番号:18で示された合成オリゴDNA をプライマーとして用い、配列番号:1で示されたcDNAの塩基配列の1197番目から3206番目までをPCR 反応を用いて増幅した。増幅されたDNA 断片をpBluescript SK− のSalIとNotI部位に挿入することによりpNACK1:STSKが生成される。
pNACK1:STSKのBamHI とNotIで切断し、配列番号:1で示された配列を含む断片をpSKHA2のBamHI とNotIサイトに挿入することにより pSKHA2NACK1:ST が生成される。このプラスミドにはHA−NACK1:ST をコードするDNA が含まれる。
pSKHA2NACK1:STをNotIで切断し、NotI生成端をDNA ポリメラーゼのクレノウ断片により平滑末端化し、さらにSalIで切断した。得られた配列4で示された配列を含む断片をpTA7001 のSpeIで切断し、さらにSpeI生成端をDNA ポリメラーゼのクレノウ断片により平滑末端化した後にXhoIで切断したサイトに挿入し、pTA71−HA−NACK1:ST が生成される。したがってpTA71−HA−NACK1:ST は、それを導入した植物に対するデキサメタゾンの処理によって、配列番号:17で示したタンデムのヘマグルチニンポリペプチドと配列番号:2で示したNACK1 タンパク質の361 番目から959 番目のアミノ酸が機能的に融合した融合タンパク質であるHA−NACK1:ST を、発現誘導可能な植物形質転換用のバイナリーベクターである。pTA71−HA−NACK1:ST 構築過程を図5に示した。
【0089】
実施例14
HA−NACK1:STによるBY−2の細胞質分裂阻害
細胞レベルでHA−NACK1:ST の機能を詳細に決定するために、pTA71−HA−NACK1:ST またはベクターコントロールとしてのpTA7001 を保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404 株(Agorbacterium tumefacience LBA4404 strain) を介してタバコ培養細胞BY−2の形質転換を行った。新しいLSD 液体培地に植え継いで3日目のタバコ培養細胞BY−2とpTA71−HA−NACK1:ST またはベクターコントロールとしてのpTA7001 を保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404 株をYEB 培地で二日間培養した培養物を混合し、25℃、暗黒下で共培養を行った。二日後にタバコ培養細胞BY−2をLSD 液体培地を用いて洗浄した後に、ハイグロマイシンB 50μg/mlとカルベニシリン300 μg/mLを含有するLSD−0.2%ゲルライト培地に細胞を播き25℃暗黒下で培養を行った。2−3 週間後に得られたハイグロマイシンB 耐性カルスを形質転換体としてLSD 液体培地に移し懸濁培養で形質転換細胞を維持した。
増殖が定常期にあるHA−NACK1:ST 形質転換培養細胞BY−2形質転換細胞をデキサメタゾン(dexamethasone)0.1μM およびハイグロマイシンB 50μg/mlを添加したLSD 液体培地または、ハイグロマイシンB 50μg/mlを添加したLSD 液体培地に植え継ぎ、培養開始後2−4 日に表現型の観察を行った。培養後の細胞は3.7%フォルムアルデヒド(formaldehyde)、50mM sodium phosphate buffer(pH7.5) 、を添加して1時間静置して固定した。その後、0.005%カルコフロール(calcofluor)、1 μg/mlプロピディウムアイオダイド(propidium iodide)、10μg/ml RNaseA 、0.02% Tween20 を含むphosphate−bufferd saline(PBS) を用いて細胞壁および核を染色した。細胞は蛍光顕微鏡を用いて観察した。
【0090】
デキサメタゾン(dexamethasone) を添加し、形質転換BY−2細胞でHA−NACK1:ST の発現を誘導した場合のみに一つの細胞に複数個の核を有する多核化細胞が多数認められた。多核化細胞の出現頻度は培養日数が長くなるほど高くなった。また、多核化した細胞の中には不完全な細胞壁が含まれていた。すなわちHA−NACK1:ST 形質転換BY−2細胞においては細胞周期の進行においてG1期、 S期、G2期までの進行は正常であり、 M期において隔膜形成体によって形成される細胞板の正常な形成のみが制御されていた。図6に多核化したBY−2細胞と正常なBY−2細胞の比較の写真を示した。−DEXとはHA−NACK1:ST 形質転換BY−2細胞をデキサメタゾン無添加で培養した場合であり、+DEXはHA−NACK1:ST 形質転換BY−2細胞をデキサメタゾンを添加して培養し、多核化した細胞を示した。N1、N2、N3、N4とは一つの細胞内に認められた複数の核を示し、矢印は不完全な細胞板を示した。
多核化した細胞の大きさを計測した結果を図7に示す。デキサメタゾン添加培地で培養したHA−NACK1:ST 細胞で多核化した細胞を13個(HA−NACK1:ST) 、野生型の表現型を示した細胞を12個(Wt)、それぞれ細胞の長さ、幅を計測した。多核化した細胞では細胞の長さにおいて約4倍有意に長くなっていた。
【0091】
実施例15
HA−NACK1:ST によるタバコ植物体の細胞質分裂阻害
トランスジェニックのタバコにおけるHA−NACK1:ST の機能を決定するために、pTA71−HA−NACK1:ST またはベクターコントロールとしてのpTA7001 を保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404 株(Agorbacterium tumefacience LBA4404 strain) を介してリーフディスク法によりニコチアナ タバカム 品種SR1(Nicotiana tabacum ver. SR1) の形質転換を行った。
得られたハイグロマイシンB 耐性個体より得られた種子より発生したT2植物を用いて表現型の観察を行った。デキサメタゾン(dexamethasone) を0.1 μM とハイグロマイシンB 50μg/mLを含有するMS−0.2% ゲルライト培地または、ハイグロマイシンB 50μg/mLを含有するMS−0.2% ゲルライト培地にエタノールと次亜塩素酸によって滅菌した種子を播種し、25℃16時間照明、8時間暗黒の条件下で植物の生育を行った。播種後11日目の幼苗を実体顕微鏡で観察した後に80% エタノール、20% 酢酸を用いて固定と脱色を行い、その後1%オルセインを含有する乳酸、プロピオン酸の等量混合物で核染色を行った。さらに80% エタノール、20% 酢酸を用いて洗浄を行い、子葉を微分干渉顕微鏡を用いて観察した。pTA7001 ベクターを用いて形質転換した植物においてはデキサメタゾン(dexamethasone) の植物への処理に依存してHA−NACK1:ST の遺伝子発現が誘導される。
デキサメタゾン(dexamethasone) 添加MS培地に播種したベクター形質転換タバコ、デキサメタゾンを添加していないMS培地に播種したベクター形質転換タバコ、HA−NACK1:ST 形質転換タバコでは全て正常に生育し、形態的、組織的、細胞的な表現型は認められなかった。しかし、デキサメタゾン(dexamethasone) 添加培地に播種したHA−NACK1:ST 形質転換タバコにおいては子葉の小型化が認められ、細胞を観察した結果では一つの細胞に複数個の核を有する多核化細胞が多数認められた。多核化細胞は子葉においては葉肉細胞、孔辺細胞、表皮細胞で認められた。HA−NACK1:ST 形質転換タバコは細胞周期の進行においてG1期、 S期、G2期までの進行は正常であり、 M期において隔膜形成体によって形成される細胞板の正常な形成のみが制御されていた。形質転換植物の写真を図8に示した。
【0092】
実施例16
AtNACK2 プロモーター
配列番号:20に示す塩基配列はシロイヌナズナのゲノムDNA 配列であり、AtNACK2 遺伝子のプロモーター領域が含まれている。AtNACK2 の構造遺伝子の翻訳開始コドンより、1720塩基上流付近には植物における転写終結をしめすポリアデニレーションの付加シグナルが多数見出され、この領域がAtNACK2 遺伝子と隣接する遺伝子の終端である。
843 塩基、734 塩基、552 塩基、513 塩基、444 塩基上流には細胞質分裂 M期に特異的な遺伝子発現をもたらすことで知られているMSA 配列が集合して認められることより、この近傍の配列がAtNACK2 の転写制御に重要であることが明らかになった。
MSA 配列の近傍には花粉特異的な遺伝子発現を誘導するPPLLEN1LELA52配列が9反復、また、PPLLEN1LELA52配列と協力的に機能するTCCACCAT配列と非常に類似したTCCACCA が認められることを見出した。これらより、AtNACK2 プロモーターは花粉形成に係わる器官において強い発現を示し、かつ M期に遺伝子の転写制御を行うことが明らかになった。これら調節配列の存在場所は図9に示した。
【0093】
実施例17
AtNACK2 プロモーターの遺伝子発現パターン
AtNACK2 のプロモーター領域として配列番号:20で示した塩基配列または、配列番号:20で示した2801−4418 番目の塩基配列または、3401−4418 番目の塩基配列をpBI−121 (クロンテック)の35S プロモーターと置換する。
これらのプラスミドは実施例15で示した方法により、よりニコチアナ タバカム 品種SR1(Nicotiana tabacum cv. SR1)を形質転換できる。またはシロイヌナズナであればエコタイプ コロンビア種をこれらのプラスミドを保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株(Agrobacterium tumefacience EHA101 strain)を介しFloral Dip法(Clough et al., Plant J., 16:735(1998)) によって形質転換することが可能である。
次いで、この形質転換植物においては花粉形成に係わる器官においてGUS 酵素活性が発現し、X−Gulc (5−bromo−4−chloro−3−indoril−beta−D−glucuronide)を基質とした染色を行うことで雄性生殖系の器官または細胞において強い染色が観察される。
【0094】
実施例18
AtNACK2 プロモーター:NACK2:ST形質転換植物の稔性低下
NACK2 タンパク質の360−955番目のアミノ酸配列をコードするDNAと実施例17により雄性生殖系の器官または細胞において最も強く、且つ特異性が認められたAtNACK2 遺伝子のプロモーター領域と、NACK2 タンパク質の360−955番目のアミノ酸配列をコードするDNA を機能的に融合し、pBI−121(クロンテック)の35S プロモーターとGUS 遺伝子とを置換する。生成されたプラスミドでもって実施例17の方法により、タバコ、シロイヌナズナを形質転換することができる。この形質転換植物においては雄性生殖系の器官または細胞において細胞質分裂を抑制し、稔性が低下した植物が作出される。
【0095】
実施例19
AVP1プロモーター:NACK2:ST形質転換植物の稔性低下
NACK2タンパク質の360−955番目のアミノ酸配列をコードするDNAとシロイヌナズナAVP1遺伝子の転写開始点近傍より上流の約400 塩基のDNA 配列を機能的に融合し、pBI−121(クロンテック)の35S プロモーターとGUS 遺伝子とを置換する。生成されたプラスミドでもって実施例17の方法により、タバコ、シロイヌナズナを形質転換することができる。この形質転換植物においては雄性生殖系の器官または細胞において細胞質分裂を抑制し、稔性が低下した植物が作出される。
【0096】
実施例20
TA29プロモーター:NACK2 :ST形質転換植物の稔性低下
NACK2 タンパク質の360−955番目のアミノ酸配列をコードするDNA とタバコTA29遺伝子の転写開始点近傍の約1500塩基のDNA 配列を機能的に融合し、pBI−121 (クロンテック)の35S プロモーターとGUS 遺伝子とを置換する。生成されたプラスミドでもって実施例17の方法により、タバコ、シロイヌナズナを形質転換することができる。この形質転換植物においては雄性生殖系の器官または細胞において細胞質分裂を抑制し、稔性が低下した植物が作出される。
【0097】
実施例21
イネのNACK遺伝子cDNAの単離と塩基配列の決定
イネ(品種 日本晴)種子より籾を取り除きアンチホルミンを用いて滅菌した後に、N6CI培地(N6無機塩、N6ビタミン(Chuら(1975), Sientia Sinica 18: 659) にsucrose,30g/l、2,4−D 2mg/l、gelrite 2g/lを添加。pH5.8)上で胚盤に由来するカルスを誘導した。
このカルス130mgよりRNeasy plant mini kit (QIAGEN社)を用いて総RNAを抽出した。抽出した総RNAの4.5μgを鋳型にしてSuperscript First−strand syntesis system for RT−PCR(Invitrogen社) を用いてcDNAを合成し、合成された50μlのうち2μlを使用してPCR反応を行った。PCR反応に用いたプライマーはプライマー1(5’− ATGGGTGTATCAAGACCTCCAAGCAC −3’; 配列番号:23)及びプライマー2(5’− TTACCAAAGTTGTGTCTTCTCCCTGATC −3’;配列番号:24)である。反応はEx taq(Takara社)を用い、Ex taqに付属する反応バッファー、各200μMのdATP、dTTP、dCTP、dGTP、プライマー1およびプライマー2を各1μM用いて、50μlの液量で行った。GeneAmp PCR system 9700(PE Applied Biosystems社)を用いて94℃を30秒、64℃を30秒、72℃を15分のステップを45サイクル繰り返した。反応終了後、アガロースゲルを用いて解析したところ、約3kbpの単一のDNAが増幅していることが確認されたため、このDNA断片をBluescript(SK−)(Stratagene社)のEcoRV切断部位に挿入しクローニングした。得られたプラスミドpBS−OsNACKの塩基配列を決定し、その塩基配列を配列番号:21 に、このcDNAにコードされるアミノ酸配列を配列番号:22 に示した。
【0098】
実施例22
NACK2ST を発現する形質転換植物における花粉形成の抑制
(1)形質転換のためのバイナリーベクターの生成
pBI121 (クロンテック)を鋳型としてプライマーRB−5(5’− gccagatctggggaaccctg −3’;配列番号:25)とプライマーRB−3(5’− agattgtcgtttcccgccttc −3’; 配列番号:26)を用いてPCR反応を行い、T−DNAのRight border(RB)を含む配列を増幅した。このDNA断片をpBluescriptをKpnIで切断し、Klenow 断片を用いて切断末端を平滑化したサイトに挿入しpRを生成した。pBI121 (クロンテック)を鋳型として、プライマーLB−5(5’− cagtacattaaaaacgtccgcaatg −3’; 配列番号:27)とプライマーLB−3(5’− cagatctggggtcgatcagccg −3’;配列番号:28)を用いてPCR反応を行い、T−DNAのLeft border(LB)を含む配列を増幅した。このDNA断片をpRをSacIで切断し、Klenow断片を用いて切断末端を平滑化したサイトに挿入しpRLを生成した。pRLをXhoIで切断し、Klenow 断片を用いて切断末端を平滑化したサイトにCaMV 35Sプロモーター:HPT:Nosターミネーターから構成されるハイグロマイシン耐性遺伝子を含む平滑末端のDNA断片を挿入し、pRHLを生成した。pRHLをBglIIで切断し、切り出されるRB、ハイグロマイシン耐性遺伝子、LBを含むDNA断片をpBI121 (クロンテック)をBglIIで切断して生成される断片と置換しpBI−RHLを生成した。pBI221 (クロンテック)由来のNosターミネーターをpBluescript(ストラタジーン)をXbaIで切断し、Klenow断片を用いて平滑化したサイトに挿入し、pTnosを生成した。
NACK2の全長cDNAを含むプラスミドを鋳型にして、プライマーNACK2−1078F(5’− tccccgcggactgcgcaagtaaacatgg −3’; 配列番号:29)、プライマーNACK2−R(5’− ctacaagtgtagtaagtttga −3’; 配列番号:30) を用いてPCR反応を行い、モーター領域を欠失したNACK2−STを増幅した。このDNA断片はNACK2の360〜955番目のアミノ酸をコードする。このDNA断片をSacIIで切断し、pTnosをNotI切断、Klenow断片による平滑化、SacII切断したサイトに挿入し、pNACK2ST−Tを生成した。
pNACK2ST−TをSacIIで切断、Klenow断片による平滑化、SpeIでの切断によって切り出されるNACK2STとNosターミネーターを含むDNA断片をpBI−RHLをBamHIで切断、Klenow断片による平滑化、SpeIで切断したサイトに挿入し、pBIHm−NACK2STを生成した。pBIHm−NACK2STをSmaIで切断したサイトにインビトロジェン社より市販されているReading Frame AのDNA断片を挿入し、pDBINACK2STを生成した。pDBINACK2STはインビトロジェン社のGatewayシステムを利用してNACK2ST発現用プロモーターを挿入できるアグロバクテリウム法による植物形質転換用プラスミドである。
【0099】
NACK2ST発現用プロモーターとしては葯で発現が高いと報告されているシロイヌナズナAVP1遺伝子のプロモーター領域、タバコTA29遺伝子のプロモーター領域、またシロイヌナズナAtNACK2遺伝子のプロモーター領域を用いた。
AVP1プロモーターはシロイヌナズナエコタイプCol−0より常法によりゲノムDNAを抽出し、プライマーAVP1+4A(5’− ccatcttctctcctccgtataagag −3’;配列番号:31)、プライマーAVP1−298s(5’− cgggatccaaattcggacaaatagagcgtagtcaac −3’; 配列番号:32)を用いてPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をインビトロジェン社のpENTR2BをBamHIとEcoRVで切断したサイトに挿入し、pENTRAVP1を生成した。
TA29プロモーターはタバコ品種SR1より常法に従ってゲノムDNAを抽出し、プライマーTA29+52A(5’− ctaagcttagcaaaatcataaaag −3’;配列番号:33)、プライマーTA29−1477s(5’− cgggatccggctatattaattgtttactttttctaac −3’; 配列番号:34)を用いてPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をインビトロジェン社のpENTR2BをBamHIとEcoRVで切断したサイトに挿入し、pENTRTA29を生成した。
AtNACK2プロモーターはシロイヌナズナエコタイプCol−0より常法によりゲノムDNAを抽出し、AtNACK2開始コドンより1618塩基上流までをプライマーNACK2+4(5’− acatcttctacacacaaaatcgaaacc −3’;配列番号:35)、プライマーNACK2−1618s(5’− cgggatcctaaacaaatttcaaaatacattagtaatataac −3’;配列番号:36)を用いてPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をインビトロジェン社のpENTR2BをBamHIとEcoRVで切断したサイトに挿入し、pENTR1.6を生成した。
AtNACK2開始コドンより1018塩基上流までをプライマーNACK2+4(5’− acatcttctacacacaaaatcgaaacc −3’;配列番号:35)、プライマーNACK2−1018s(5’− cgggatcctttagtatttatacacgagacgtg −3’; 配列番号:37)を用いてPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をインビトロジェン社のpENTR2BをBamHIとEcoRVで切断したサイトに挿入し、pENTR1.0を生成した。AtNACK2開始コドンより575塩基上流までをプライマーNACK2+4(5’− acatcttctacacacaaaatcgaaacc −3’;配列番号:35)、プライマーNACK2−575s(5’− cgggatccctcgttaagaacccttgcatc −3’; 配列番号:38)を用いてPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をインビトロジェン社のpENTR2BをBamHIとEcoRVで切断したサイトに挿入し、pENTR0.6を生成した。
AtNACK2開始コドンより419塩基上流までをプライマーNACK2+4(5’− acatcttctacacacaaaatcgaaacc −3’;配列番号:35)、プライマーNACK2−419s(5’− cgggatccgattttgcctctgcgaaaac −3’;配列番号:39)を用いてPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をインビトロジェン社のpENTR2BをBamHIとEcoRVで切断したサイトに挿入し、pENTR0.4を生成した。これまでのプラスミド構築時に行ったPCR反応はTakara社のPyrobestを用い酵素に添付された推奨条件で反応を行った。
【0100】
これらのプロモーター領域を含むプラスミドをそれぞれpDBINACK2STと混合し、インビトロジェン社のLR clonaseに添付のプロトコルに従い反応を行い、プロモーター配列をNACK2STの上流に挿入し、
▲1▼ AVP1 プロモーターによってNACK2STが発現するプラスミドpExpAVP1−ST、
▲2▼ TA29 プロモーターによってNACK2STが発現するプラスミドpExpTA29−ST、
▲3▼ AtNACK2プロモーター(1618bp)でNACK2STが発現するプラスミドpExpN1.6−ST、
▲4▼ AtNACK2プロモーター(1018bp)でNACK2STが発現するプラスミドpExpN1.0−ST、
▲5▼ AtNACK2プロモーター(575bp)でNACK2STが発現するプラスミドpExpN0.6−ST、
▲6▼ AtNACK2プロモーター(419bp)でNACK2STが発現するプラスミドpExpN0.4−STを生成した。
【0101】
(2)シロイヌナズナの形質転換
前記(1)で生成した▲1▼〜▲6▼のバイナリーベクターを用いてアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株(Agrobacterium tumefacience EHA101 strain)を形質転換し、これらのプラスミドを保持するアグロバクテリウムを用いてFloral dip法によりシロイヌナズナ エコタイプCol−0を形質転換した。アグロバクテリウムを感染させた花芽より得られた種子を次亜塩素酸と滅菌水を用いて滅菌し、ハイグロマイシン25μg/ml、カルベニシリン100μg/mlを含むMS倍地上に播種した。ハイグロマイシン添加培地上で生育可能な形質転換植物を選択し、これらを土に植え替え、20℃ 16時間明期、8時間暗黒の条件で栽培した。
【0102】
(3)形質転換植物の稔性低下
前記(1)の▲1▼、▲2▼、▲3▼、▲4▼、▲5▼又は▲6▼のバイナリーベクターを使用して、前記(2)で選ばれた形質転換植物の鞘中に形成される種子を観察したところ、複数のラインにおいて明らかに、野生型より種子の数が減少していた。
【0103】
実施例23
キネシン様モータードメインを欠失させたNACKによる細胞質分裂阻害
(1)形質転換のためのベクターの生成
pBI121(クロンテック)を鋳型としてプライマーRB−5(5’− gccagatctggggaaccctg −3’;配列番号:25)とプライマーRB−3(5’− agattgtcgtttcccgccttc −3’; 配列番号:26)を用いてPCR反応を行い、T−DNAのRight border(RB)を含む配列を増幅した。このDNA断片をpBluescriptをKpnIで切断し、Klenow 断片を用いて切断末端を平滑化したサイトに挿入しpRを生成した。pBI121 (クロンテック)を鋳型として、プライマーLB−5(5’− cagtacattaaaaacgtccgcaatg −3’; 配列番号:27)とプライマーLB−3(5’− cagatctggggtcgatcagccg −3’;配列番号:28)を用いてPCR反応を行い、T−DNAのLeft border(LB)を含む配列を増幅した。このDNA断片をpRをSacIで切断し、Klenow断片を用いて切断末端を平滑化したサイトに挿入しpRLを生成した。pRLをXhoIで切断し、Klenow断片を用いて切断末端を平滑化したサイトにCaMV 35Sプロモーター:HPT:Nosターミネーターから構成されるハイグロマイシン耐性遺伝子を含む平滑末端のDNA断片を挿入し、pRHLを生成した。pRHLをBglIIで切断し、切り出されるRB、ハイグロマイシン耐性遺伝子、LBを含むDNA断片をpBI121(クロンテック)をBglIIで切断して生成される断片と置換しpBI−RHLを生成した。pUC19(タカラ)をSmaIで切断したサイトにインビトロジェン社より市販されているReading Frame AのDNA断片を挿入し、pUC−RFAを生成した。pBI−RHLをBamHIとSpeIで切断したサイトにpUC−RFAをBamHIとSpeIで切断して切り出されるReading Frame Aを挿入し、pDESTBI−2を生成した。
インビトロジェン社より市販されているプラスミドpENTR2BのEheIサイトにpBI221(クロンテック)由来のCaMV 35Sプロモーターを、EcoRVサイトにpBI221(クロンテック)由来のNosターミネーターを挿入し、pENTR35ST−1を生成した。
【0104】
OsNACK cDNAがpBluescript(スタラタジーン)挿入されたプラスミドpBS−OsNACKを鋳型としてプライマーOsNACK−1071F(5’− ggggtacctgcaaaagttaatatggtggta −3’;配列番号:40)とプライマーT3(5’− aattaaccctcactaaaggg −3’;配列番号:41)を用いてPCR反応を行い、モータードメインを欠失したOsNACKSTのDNA断片を増幅した。このDNA断片はOsNACKの358〜954 番目のアミノ酸をコードし、362〜954番目のアミノ酸配列からなるタンパク質を発現可能である。このDNA断片をKpnIとNotIで切断後、pENTR35ST−1のKpnIとNotI切断によったサイトに挿入し、pENTR35SOsNACKSTを生成した。前記実施例13に記載のpSKHA2NACK1:STからSalIとNotIによって切り出されるHA2NACK1:STを含むDNA断片をpENTR35ST−1のSalIとNotIの切断によったサイトに挿入し、pENTRHA2NACK1STを生成した。
pBI221(クロンテック)を鋳型にしてプライマー221−25F(5’− ggggtaccagattagccttttcaatttcag−3’;配列番号:42)とプライマー221−899R(5’− acataagggactgaccaccc −3’;配列番号:43)を用いてPCR反応を行い、CaMV35Sプロモーター領域を増幅した。このDNA断片をKpnIで切断し、pENTR2B(インビトロジェン社製)をKpnI、EcoRVで切断したサイトに挿入してpENTR35Sを生成した。
sGFPを含むプラスミドpTH2(Chiuら,Curr Biol 1996 Mar 1;6(3):325−30 )よりSalIとNotIによる切断でsGFPをコードするDNA断片を切り出し、pENTR35ST−1をSalIとNotI切断により生じるサイトに挿入しpENTRGFPを生成した。
pDESTBI−2とpENTR35SOsNACKSTを混合し、Gateway LR Clonase mixを用いた部位特異的組み換え反応によりpDBIOsNACKSTを生成した。pDESTBI−2とpENTRHA2NACK1STを混合し、Gateway LR Clonase mixを用いた部位特異的組み換え反応によりpDBIHA2NACK1STを生成した。
前記実施例22に記載のpDBINACK2STとpENTR35Sを混合し、Gateway LR Clonase mixを用いた部位特異的組み換え反応によりpDBI35SNACK2STを生成した。pDESTBI−2とpENTRGFPを混合し、Gateway LR Clonase mixを用いた部位特異的組み換え反応によりpDBIGFPを生成した。Gateway LR Clonase mixを用いた部位特異的組み換え反応は付属のプロトコルに従って行った。
前記pDBIOsNACKST、pDBIHA2NACK1ST、pDBI35SNACK2ST及びpDBIGFPは、CaMV 35Sプロモーターによりそれぞれ、OsNACKST、HA2NACK1ST、NACK2ST、sGFPを発現するプラスミドベクターであり、アグロバクテリウム法で植物の形質転換が可能なバイナリーベクターである。
【0105】
(2)タバコ培養細胞の形質転換と細胞質分裂の抑制
前記(1)のバイナリーベクター、pDBIOsNACKST、pDBIHA2NACK1ST、pDBI35SNACK2ST及びpDBIGFPを用いてアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株(Agrobacterium tumefacience EHA101 strain)を形質転換した。これらのプラスミドを保持するアグロバクテリウムをYEB培地を用いて30℃、2日間振揺培養し、培養液を100μlとLSD液体培地で培養し植え継ぎ後3日目のBY−2細胞4mlを混合し、暗所、25℃で共培養した。共培養後のBY−2細胞を1%オルセインを含む乳酸、プロピオン酸の等量混合物で固定、核染色を行い、微分干渉顕微鏡下で細胞の観察を行った。その結果、OsNACKST、HA2NACK1ST、NACK2STをアグロバクテリウムを介して発現させたBY−2細胞ではGFPを発現させた細胞よりも高率に多核化した細胞が観察された。多核細胞の出現頻度を表4に示した。カッコ内の数値は 多核細胞数 / 観察細胞数を示す。単子葉植物であるイネのNACKST(OsNACKST)を双子葉植物であるタバコ細胞に導入すると、NACK2STやNACK1STと同様にタバコ培養細胞の細胞質分裂を阻害した。驚くべきことに、NACK関連遺伝子は双子葉植物、単子葉植物の種を越えて機能することが明らかに示された。
【0106】
【表4】
【0107】
実施例24
AtNACK2プロモーターの遺伝子発現パターン
(1)形質転換のためのベクターの生成
pBI121(クロンテック)を鋳型としてプライマーRB−5(5’− gccagatctggggaaccctg −3’;配列番号:25)とプライマーRB−3(5’− agattgtcgtttcccgccttc −3’; 配列番号:26)を用いてPCR反応を行い、T−DNAのRight border(RB)を含む配列を増幅した。このDNA断片をpBluescriptをKpnIで切断し、Klenow 断片を用いて切断末端を平滑化したサイトに挿入しpRを生成した。pBI121(クロンテック)を鋳型として、プライマーLB−5(5’− cagtacattaaaaacgtccgcaatg −3’; 配列番号:27)とプライマーLB−3(5’− cagatctggggtcgatcagccg −3’;配列番号:28)を用いてPCR反応を行い、T−DNAのLeft border(LB)を含む配列を増幅した。このDNA断片をpRをSacIで切断し、Klenow 断片を用いて切断末端を平滑化したサイトに挿入しpRLを生成した。pRLをXhoIで切断し、Klenow 断片を用いて切断末端を平滑化したサイトにCaMV 35Sプロモーター:HPT:Nosターミネーターから構成されるハイグロマイシン耐性遺伝子を含む平滑末端のDNA断片を挿入し、pRHLを生成した。pRHLをBglIIで切断し、切り出されるRB、ハイグロマイシン耐性遺伝子、LBを含むDNA断片をpBI121(クロンテック)をBglIIで切断して生成される断片と置換しpBI−RHLを生成した。PBI221を鋳型にしてプライマー(5’− tccccgcggatgttacgtcctgtagaaac −3’; 配列番号:44)とプライマー(5’− gtaaaacgacggccagt−3’;配列番号:45)を行いGUSとNosターミネーターを含んだDNA断片を増幅した。このDNA断片をpBluescript(スタラタジーン)をSmaIで切断したサイトに挿入しpGUS−Tを生成した。
pGUS−TをSacIIで切断、Klenow断片による平滑化、SpeI切断後にGUSとNosターミネーターを含んだDNA断片をpBI−RHLをBamHI切断、Klenow断片による平滑化、SpeI切断によって生じたサイトに挿入し、pBIHm−GUSを生成した。PBIHm−GUSをSmaIで切断後Reading Frame A(インビトロジェン)を挿入し、pDBI−GUSを生成した。
pDBI−GUSと前記実施例22で生成したプラスミドpENTRAVP1、pENTRTA29、pENTRN1.6、pENTRN1.0、pENTR0.6、pENTR0.4をそれぞれ混合し、インビトロジェン社のLR clonaseに添付のプロトコルに従い反応を行い、プロモーター配列をGUSの上流に挿入し、
▲1▼ AVP1 プロモーターによってGUSが発現するプラスミドpExpAVP1−GUS、
▲2▼ TA29 プロモーターによってGUSが発現するプラスミドpExpTA29−GUS、
▲3▼ AtNACK2プロモーター(1618bp)でGUSが発現するプラスミドpExpN1.6−GUS、
▲4▼ AtNACK2プロモーター(1018bp)でGUSが発現するプラスミドpExpN1.0−GUS、
▲5▼ AtNACK2プロモーター(575bp)でGUSが発現するプラスミドpExpN0.6−GUS、
▲6▼ AtNACK2プロモーター(419bp)でGUSが発現するプラスミドpExpN0.4−GUS
を生成した。
【0108】
(2)シロイヌナズナの形質転換とGUS発現パターンの観察
前記(1)の▲1▼〜▲6▼のプラスミドを用いてアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株(Agrobacterium tumefacience EHA101 strain)を形質転換し、これらのプラスミドを保持するアグロバクテリウムを用いてFloral dip法によりシロイヌナズナ エコタイプCol−0を形質転換する。アグロバクテリウムを感染させた花芽より得られた種子を次亜塩素酸と滅菌水を用いて滅菌し、ハイグロマイシン25μg/ml、カルベニシリン100μg/mlを含むMS倍地上に播種する。ハイグロマイシン添加培地上で生育可能な形質転換植物を選択し、これらを土に植え替え、20℃ 16時間明期、8時間暗黒の条件で栽培する。形質転換植物で開花した花をX−Gluc(5−bromo−4−chloro−3−indoril−beta−D−glucuronide)を基質とした染色を行うことで、雄性生殖系の器官または細胞において強いGUS染色が観察される。
【0109】
実施例25
シロイヌナズナNACK遺伝子のcDNAの単離と塩基配列の決定
(1) AtNACK1 のクローニング
シロイヌナズナ(エコタイプCol−0)の幼苗よりRNeasy plant mini kit (QIAGEN 社) を用いて総RNA を抽出した。抽出した総RNA の4.5 μgを鋳型にしてSuperscript First−strand syntesis system for RT−PCR(Invitrogen社) を用いてcDNAを合成し、合成された50μl のうち2μl を使用してPCR 反応を行った。PCR 反応に用いたプライマーは配列番号:9、配列番号:10 に示す。プライマーは配列番号:47 に示したゲノムDNA の塩基配列を元に設計した。反応はEx taq(Takara 社) を用い、Ex taqに付属する反応バッファー、各 200μM のdATP、dTTP、dCTP、dGTPおよびプライマーを各1μM 用いて、50μl の液量で行った。GeneAmp PCR system 9700(PE Applied Biosystems 社) を用いて94℃を30秒、64℃を30秒、72℃を15分のステップを45サイクル繰り返した。反応終了後、アガロースゲルを用いて解析したところ、約3kbp の単一のDNA が増幅していることが確認されたため、このDNA 断片をBluescript(SK−)(Stratagene社) のEcoRV 切断部位に挿入しクローニングした。得られたプラスミドpBS−AtNACK1 の塩基配列を決定し、その塩基配列を配列番号:5に、このcDNAにコードされるアミノ酸配列を配列番号:6に示した。
【0110】
(2) AtNACK2 のクローニング
シロイヌナズナ(エコタイプCol−0 )の花芽よりRNeasy plant mini kit (QIAGEN 社) を用いて総RNA を抽出した。抽出した総RNA の 4.5μgを鋳型にしてSuperscript First−strand syntesis system for RT−PCR(Invitrogen社) を用いてcDNAを合成し、合成された50μl のうち2μl を使用してPCR 反応を行った。PCR 反応に用いたプライマーは配列番号:48 、配列番号:49 に示す。プライマーは配列番号:47 に示したゲノムDNA の塩基配列を元に設計した。反応はEx taq(Takara 社) を用い、Ex taqに付属する反応バッファー、各 200μM のdATP、dTTP、dCTP、dGTPおよびプライマーを各1μM 用いて、50μl の液量で行った。GeneAmp PCR system 9700(PE Applied Biosystems 社) を用いて94℃を30秒、64℃を30秒、72℃を15分のステップを45サイクル繰り返した。反応終了後、アガロースゲルを用いて解析したところ、約2.8kbpの単一のDNA が増幅していることが確認されたため、このDNA 断片をBluescript(SK−)(Stratagene社) のEcoRV 切断部位に挿入しクローニングした。得られたプラスミドpBS−AtNACK2 の塩基配列を決定し、その塩基配列を配列番号:50 に、このcDNAにコードされるアミノ酸配列を配列番号:51 に示した。
【0111】
実施例26
キネシン様モータードメインを欠失させたAtNACKによる細胞質分裂阻害
(1) 形質転換のためのベクターの生成
AtNACK1 cDNAがpBluescript(スタラタジーン) 挿入されたプラスミドpBS−AtNACK1 を鋳型としてプライマー(5’− gggggtaccatggttgtctctgataagcaac −3’; 配列番号:52)とプライマーT3(5’− aattaaccctcactaaaggg −3’;配列番号:41)を用いてPCR 反応を行い、モーター領域を欠失したAtNACK1ST のDNA 断片を増幅する。AtNACK1ST DNA は配列番号:6に示したAtNACK1 のアミノ酸配列の361番目から974番目のアミノ酸をコードし、モータードメインを欠失している。このDNA 断片をKpnIとNotIで切断後、pENTR35ST−1 のKpnIとNotI切断によるサイトに挿入し、pENTR35SAtNACK1ST を生成する。
AtNACK2 cDNAがpBluescript(スタラタジーン) 挿入されたプラスミドpBS−AtNACK2 を鋳型としてプライマー(5’− gggggtaccatggttgtctcagaaaaaaag −3’;配列番号:53)とプライマーT3(5’− aattaaccctcactaaaggg −3’;配列番号:41)を用いてPCR 反応を行い、モーター領域を欠失したAtNACK2ST のDNA 断片を増幅する。AtNACK2ST DNA は配列番号:51 に示したAtNACK2 のアミノ酸配列の356番目から938番目のアミノ酸をコードし、モータードメインを欠失している。このDNA 断片をKpnIとNotIで切断後、pENTR35ST−1 のKpnIとNotI切断によるサイトに挿入し、pENTR35SAtNACK2ST を生成する。
pDESTBI−2 とpENTR35SAtNACK1ST を混合し、Gateway LR Clonase mix を用いた部位特異的組み換え反応によりpDBIAtNACK1ST を生成する。pDESTBI−2 とpENTR35SAtNACK2ST を混合し、Gateway LR Clonase mixを用いた部位特異的組み換え反応によりpDBIAtNACK2ST を生成する。Gateway LR Clonase mix を用いた部位特異的組み換え反応は付属のプロトコルに従って行う。pDBIAtNACK1ST 、pDBIAtNACK2ST はCaMV 35SプロモーターによりAtNACK1ST 、AtNACK2ST が発現するアグロバクテリウム法で植物の形質転換が可能なバイナリーベクターである。
【0112】
(2) タバコ培養細胞の形質転換と細胞質分裂の抑制
前記(1) のバイナリーベクター、pDBIAtNACK1ST 、pDBIAtNACK2ST およびpDBI35SGFPを用いてアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株(Agrobacterium tumefacience EHA101 strain)を形質転換する。これらのプラスミドを保持するアグロバクテリウムをYEB 培地で30℃、2日間振揺培養し、培養液を 100μl とLSD 液体培地で培養し植え継ぎ後3日目のBY−2細胞4ml を混合し、暗所、25℃で共培養する。共培養後のBY−2細胞を1%オルセインを含む乳酸、プロピオン酸の等量混合物で固定、核染色を行い、微分干渉顕微鏡下で細胞の観察を行う。その結果、AtNACK1ST 、AtNACK2ST をアグロバクテリウムを介して発現させるBY−2細胞ではGFP を発現させる細胞よりも高率に多核化した細胞が観察される。AtNACK1ST 、AtNACK2ST もNACK1ST と同様に細胞質分裂を阻害することが明らかに出来る。
【0113】
実施例27
稔性回復系統の作出
外生のNACK2ST(実施例22に記載)の発現により不稔性となったシロイヌナズナから、以下の(1)から(4)に記載の方法により、稔性が回復した系統を作出することができる。手短には、NACK2STを発現する親株より受け継がれるNACK2STの発現をRNA干渉によって抑制することで、稔性を回復させることが可能であり、また、NACK関連タンパク質として正常に機能するNACK2を過剰発現させ、内生のシロイヌナズナAtNACK2とともに、細胞分裂を阻害するNACK2STと競合させることで、NACK2STの効果が低下する結果、前記不稔性シロイヌナズナから、稔性を回復させることが可能である。
【0114】
(1)RNA干渉のためのプラスミドの構築
前記実施例22に記載のプラスミドpRHLをApaIで切断し、T4 DNA polymeraseを用いて突出末端を平滑化後にセルフライゲーションを行なうことによってpRHL2を構築した。pRHL2をXhoIで切断し、Klenow断片を用いて突出末端を平滑化後にセルフライゲーションを行なうことによってpRHL3を構築した。pRHL3をSpeIで切断し、Klenow断片を用いて突出末端を平滑化後にセルフライゲーションを行なうことによってpRHL4を構築した。
pENTR2B(Invitrogen社製)をEcoRIで切断して切り出されるccdBカセットを含むDNA断片を、Klenow断片を用いて突出末端を平滑化し、pDONR201(Invitrogen社製)をXmnIとBsaAIを用いて生成される部位に挿入してpDONR201ΔCm1を構築した。挿入されたDNA断片がpDONR201ΔCm1と逆向きであるプラスミドをpDONR201ΔCm3とした。pDONR201ΔCm1をApaIとSmaIで切断し、切り出されるDNA断片をpBluescriptII(Stratagene社製)をApaIとSmaIで切断して生成される部位に挿入しpBS−attPを構築した。
【0115】
pDHu1−1(名古屋大学理学研究科上野宜久助手より分譲された)をEcoRIで切断し、切り出されたDNAの突出末端をKlenow断片を用いて平滑化した後に、pRHL4をSmaIで切断して生成される部位に挿入しpRHGUSRiLを構築した。pDONR201ΔCm3をApaIとNruIで切断して切り出されるDNA断片をpRHGUSRiLをApaIとSmaIで切断して生成される部位に挿入してpRHGUSRiP1を構築した。pBS−attPをApaIで切断後、突出末端をT4 DNA polymeraseを用いて平滑化し、さらにSpeIで切断することによって切り出されるDNA断片をpRHGUSRiP1をXhoIで切断後、突出末端をKlenow断片を用いて平滑化し、さらにSpeIで切断することによって生成される部位に挿入し、pRHGUSRiP2を構築した。
pRHGUSRiP2をBglIIで切断し切り出されるDNA断片をpBI121をBglIIで切断し切り出されたDNA断片を取り除いて生成される部位に挿入してpBI−GUSRiP1を構築した。
実施例1にて記述したプラスミドpNAK2SKを鋳型にプライマーNACK2−1311F(5’− GAAAGAGCTCAAGGGTTCAG −3’;配列番号: 54) とプライマーNACK2−2071R(5’− TACAGTTATCGTCCTTACTT −3’;配列番号: 55)を用いてPCRを行ない、タバコNACK2遺伝子の部分配列を得た(配列番号3の1402から2162番目までの塩基配列で表されるDNA断片)。これをpBluescriptIISK+ベクター(Stratagene社)のSmaIサイトにクローニングし、pENACK2Riを構築した。
【0116】
pENACK2Riを鋳型にプライマーattB1’−SalI−HindIII(5’− AAAAAGCAGGCTCGACGGTATCGATAAGCTTG −3’; 配列番号: 56) 、プライマーattB2’−XbaI−BamHI(5’− AGAAAGCTGGGTCTAGAACTAGTGGATCCC −3’; 配列番号: 57)、プライマーattB1 adapter(5’− GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCT −3’;配列番号: 58) 、およびプライマーattB2 adapter(5’− GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGT −3’;配列番号: 59)を用いてInvitrogen社のGateway Technology Instruction Manualの通りにPCRを行ない、両末端にGateway system (Invitrogen社)のattB1、attB2配列が付加されたNACK2遺伝子の部分DNA断片(attB−NACK2Ri)を得た。このDNA断片(attB−NACK2Ri)とプラスミドpBI−GUSRiP1 (Invitrogen 社)を混合し、BP Clonase(Invitrogen社)を用いてBP反応を行い、NACK2の一部分を含む前記DNA断片をpBI−GUSRiP1 に逆位反復に位置するように挿入し、pBI−N2Riを構築した。
すなわち、pBI−N2Riは、NACK2の一部分をコードするRNAがCaMV 35Sプロモーターにより2本鎖形態で発現するアグロバクテリウム法で形質転換可能なバイナリーベクターであり、形質転換植物はハイグロマイシンで選抜可能である。このバイナリーベクターを用いて得られた形質転換植物では発現した2本鎖RNAが引き金となり、植物体中でNACK2遺伝子のmRNA量が低下した、すなわちRNA干渉(RNAi)の効果を得ることが可能である。
【0117】
(2)正常型NACK2過剰発現用プラスミドの構築
実施例22に記載のプラスミドpRHLのSmaIサイトにGateway Vector Conversion System(Invitrogen社)のReading Frame Cassette Aを挿入し、pRHRLを構築した。このプラスミドpRHRLをBglII処理して得られるGateway system (Invitrogen社)のattR1、attR2配列を含む断片と、バイナリベクターpBI121(Clontech社)をBglII処理して得られる複製起点を含むDNA断片とをライゲーションし、pDEST−BI1を構築した。
pTH−2(静岡県立大学の丹羽康夫助手より分譲。Chiu Wら、Current Biology 1996 Mar 1;6(3):325−30.)をEcoRI処理した後、Klenow断片を用いて突出末端を平滑化し、NotI処理して得られたDNA断片をInvitrogen社のpENTER2BをNotIおよびEcoRVを用いて生成される部位に挿入し、pENTERNOST1を構築した。実施例1にて記述したプラスミドpNAK2SKをEcoRIとNotIで処理し得られた断片を、pENTERNOST1をEcoRIとNotIを用いて生成される部位に挿入し、pENACK2を構築した。
実施例22に記載のプラスミドpENTRAVP1を鋳型にプライマーKpnI−AVP1−F(5’− GGGGTACCAAATTCGGACAAATAGAG −3’;配列番号: 60) 、プライマーAVP1P−EcoRI−R(5’− CGGAATTCTTCTCTCCTCCGTATAAG −3’;配列番号: 61)を用いたPCRによって得られたDNA断片をKpnIとEcoRIで処理した後、pENACK2をKpnIとEcoRIを用いて生成される部位に挿入してpEANACK2を構築した。
プラスミドpEANACK2とpDEST−BI1(Invitrogen 社)を混合し、LR Clonase(Invitrogen社)を用いてLR反応を行い、AVP1プロモーターによってNACK2遺伝子を発現させるDNA断片をハイグロマイシン耐性遺伝子を有するバイナリベクター上に挿入し、pBI−AN2を構築した。
すなわち、pBI−AN2は、NACK2遺伝子をコードするRNAがAVP1プロモーターにより発現するアグロバクテリウム法で形質転換可能なバイナリーベクターであり、形質転換植物はハイグロマイシンで選抜可能である。このバイナリーベクターを用いて得られた形質転換植物では、NACK2遺伝子が葯特異的に発現する。
【0118】
(3)プラスミド(pBI−N2Ri、pBI−AN2)によるシロイヌナズナの形質転換
前記(2)で構築したプラスミド(pBI−N2Ri、pBI−AN2)を用いてアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株(Agrobacterium tumefacience EHA101 strain)を形質転換し、これらのプラスミドを保持するアグロバクテリウムを用いてFloral dip法によりシロイヌナズナ エコタイプCol−0を形質転換した。アグロバクテリウムを感染させた花芽より得られた種子を次亜塩素酸と滅菌水を用いて滅菌し、ハイグロマイシン25μg/ml、カルベニシリン100μg/mlを含むMS倍地上に播種した。ハイグロマイシン添加培地上で生育可能な形質転換植物を選択した(pBI−N2Riで形質転換したシロイヌナズナをAtN2Ri、pBI−AN2で形質転換したシロイヌナズナをAtAN2と名付けた)。
【0119】
(4)回復系統を用いた稔性の回復したハイブリッド種子(F1種子)の生産
前記(3)で作出したシロイヌナズナAtN2Riの葯より生産される花粉を実施例22で作出したAVP1プロモーターによりNACK2STを発現する株(実施例22の▲1▼)の雌しべに受粉させることで得られる次世代の植物(F1)は、RNAi効果によってNACK2STを発現する親株より受け継がれるNACK2STのmRNAが減少し、結果的にNACK2STの発現が低下して稔性が回復する。すなわち、前記(3)で作出したシロイヌナズナAtN2Riを用いることで、稔性の回復したハイブリッド種子(F1種子)を得ることができる。
また、前記(3)で作出したシロイヌナズナAtAN2の葯より生産される花粉を実施例22で作出したAVP1プロモーターによりNACK2STを発現する株(実施例22の▲1▼)の雌しべに受粉させることで得られる次世代の植物(F1)は、正常な細胞分裂を阻害するNACK2STに対して細胞分裂を正常に進めるNACK2とシロイヌナズナAtNACK2が競合し、結果的にNACK2STの効果が低下して稔性が回復する。すなわち、前記(3)で作出したシロイヌナズナAtAN2を用いることで、稔性の回復したハイブリッド種子(F1種子)を得ることができる。
これらのF1種子より生まれた個体は、稔性が回復しており、自家受精による結実が可能となる。
【0120】
【発明の効果】
本発明により、NACK1 遺伝子あるいはNACK2 遺伝子並びにその類似遺伝子の発現の調節や、NACK1 やNACK2 タンパク質を改変してドミナントネガティブ分子として用いて植物の隔膜形成体の形成および拡大を制御する技術、NACK2 関連遺伝子のプロモーターの花粉形成組織特異的な遺伝子発現調節に関する技術が提供された。隔膜形成体の形成および拡大の制御は細胞分裂の改変を可能にし、植物の発生分化を改変した植物の作出などを可能にしたり、正常な機能を示す花粉の形成を抑制し、雄性不稔を示す植物の作出などを可能にすることより、育種や農作物の生産性向上などをもたらし、農業、園芸分野において有益である。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【0121】
<配列表フリーテキスト>
SEQ ID NO: 1, tobacco NACK1 cDNA
SEQ ID NO: 3, tobacco NACK2 cDNA
SEQ ID NO: 5, Arabidpsis thalliana Col−0 AtNACK1 cDNA
SEQ ID NO: 9, PCR primer for AtNACK1
SEQ ID NO: 10, PCR primer for AtNACK1
SEQ ID NO: 11, PCR primer for NACK1
SEQ ID NO: 12, PCR primer for NACK1
SEQ ID NO: 13, Oligo DNA for double HA epitope
SEQ ID NO: 14, Oligo DNA for double HA epitope
SEQ ID NO: 15, Oligo DNA for double HA epitope
SEQ ID NO: 16, Oligo DNA for double HA epitope
SEQ ID NO: 17, double hemagglutinin(HA) epitope tag, hemaggtinin epitope
SEQ ID NO: 18, PCR primer for NACK1:ST
SEQ ID NO: 19, PCR primer for NACK1:ST
SEQ ID NO: 23, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 24, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 25, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 26, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 27, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 28, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 29, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 30, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 31, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 32, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 33, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 34, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 35, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 36, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 37, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 38, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 39, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 40, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 41, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 42, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 43, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 44, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 45, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 48, PCR primer for AtNACK2
SEQ ID NO: 49, PCR primer for AtNACK2
SEQ ID NO: 50, Arabidopsis thaliana Col−0 AtNACK2 cDNA
SEQ ID NO: 52, PCR primer for AtNACK1−ST
SEQ ID NO: 53, PCR primer for AtNACK2−ST
SEQ ID NO: 54, PCR primer for
SEQ ID NO: 55, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 56, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 57, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 58, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 59, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 60, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 61, Oligonucleotide to act as a primer for PCR
【0122】
【図面の簡単な説明】
【図1】NACK関連タンパク質である NACK1、AtNACK1 、OsNACKにつき、最適な形で並べたアミノ酸配列の比較を示す。配列は図2及び3に連続する。
【図2】NACK関連タンパク質である NACK1、AtNACK1 、OsNACKにつき、最適な形で並べたアミノ酸配列の比較を示す。配列は図1の続きで、図3に連続する。
【図3】NACK関連タンパク質である NACK1、AtNACK1 、OsNACKにつき、最適な形で並べたアミノ酸配列の比較を示す。配列は図1及び2からの続きである。
【図4】コイルドコイル構造を予測するプログラム(COILS program, http://npsa−pbil.ibcp.fr/cgi−bin/npsa automat.pl?page=npsa lupas.html, Lupas et al. 1991) によってNACK1 タンパク質、AtNACK1 タンパク質、OsNACKタンパク質のアミノ酸配列からコイルドコイル構造を予測した結果を示す。
【図5】ベクターpTA71−HA−NACK1:ST (図では、pT71−HA−NACK1ST と表示)の構築過程を示す。
【図6】多核化したBY−2細胞と正常なBY−2細胞とを比較して示す細胞の形態を示す写真である。
【図7】多核化したBY−2細胞の大きさを計測した結果を示す。wt: ワイルドタイプBY−2細胞
【図8】本発明に従った形質転換植物(多核化したタバコ個体)の外観及びその細胞の形態を示す写真である。
【図9】AtNACK2 遺伝子のプロモーター領域を含む制御配列の構造を示す。
Claims (49)
- 下記(a)から(i)のいずれかに記載のDNA:
(a) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b) 配列番号:1、3、5、21または50に記載の塩基配列からなるDNA、
(c) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、もしくは付加したアミノ酸配列を有し、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(d) 配列番号:1、3、5、21または50に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(e) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列と65%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(f) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインと70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(g) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質又はそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(h) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインと70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有し、かつ、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質又はそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(i) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列と65%以上のアミノ酸がポジティブであり、かつ、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインと70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有し、及び/ 又は、配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質又はそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであって、それぞれ配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA 。 - 請求項1の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA。
- 請求項1の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA。
- DNAであって、植物細胞における発現時に、共抑制効果により、請求項1の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAの発現を抑制させるRNAをコードし、かつ、請求項1の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAと90%以上の相同性を有するDNA。
- DNAであって、植物細胞における発現時に、RNA干渉効果により、請求項1の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAの発現を抑制させるRNAをコードし、かつ、請求項1の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAと20塩基以上の連続して同一であるDNA。
- DNAであって、植物細胞における内在性の請求項1の(a)から(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質に対してドミナントネガティブ活性を示すタンパク質をコードするDNA。
- 植物の隔膜形成体の形成制御、および/または発生分化制御のために用いるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一に記載のDNA。
- 植物の隔膜形成体の形成および/または拡大の制御による雄性不稔化技術のために用いるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一に記載のDNA。
- 下記の(i)から(iii)の構成要素を含む組換えDNA又はベクター:
(i) 細胞内で転写可能なプロモーター、
(ii) 該プロモーター配列にセンス方向又はアンチセンス方向で結合した請求項1〜7のいずれか一に記載のDNA、
(iii) RNA 分子の転写終結およびポリアデニル化に関するシグナル。 - 請求項1〜8のいずれか一に記載のDNAまたは請求項9に記載の組換えDNA又はベクターを保持する形質転換細胞。
- 請求項1に記載のDNAによりコードされるタンパク質又は部分ペプチド、あるいは植物細胞における内在性の、請求項1の(a)〜(i)のいずれかに記載のDNAがコードするタンパク質に対してドミナントネガティブ活性を示すタンパク質又はその部分ペプチド。
- 請求項1に記載のDNA又は該DNAを含むベクターを保持する形質転換細胞を培養し、該形質転換細胞又はその培養上清から発現させたタンパク質を回収する工程を含む、請求項11に記載のタンパク質の製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか一に記載のDNAまたは請求項9に記載の組換えDNA又はベクターを保持する形質転換植物細胞。
- 請求項13に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体。
- 請求項14に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
- 隔膜形成体の形成制御、および/または発生分化制御のために用いるものであることを特徴とする請求項14または15に記載の形質転換植物体。
- 隔膜形成体の形成及び/又は拡大の制御が改変されている請求項14または15に記載の形質転換植物体。
- 稔性の低下している、請求項14または15に記載の形質転換植物体。
- 請求項13に記載の植物細胞又は請求項14〜18のいずれかに記載の植物体より製造された食品及び/又は飼料組成物。
- 請求項13に記載の植物細胞又は請求項14〜18のいずれかに記載の植物体より製造される化学品。
- 請求項13に記載の植物細胞又は請求項14〜18のいずれかに記載の植物体を用いて化学品を製造する方法。
- 下記の(i)から(vii) のいずれかに記載のDNA:
(i)配列番号:20で示した塩基配列を有するDNA、
(ii)配列番号:20で示した2801−4418番目の塩基配列を有するDNA、
(iii)配列番号:20で示した3401−4418番目の塩基配列を有するDNA、
(iv)配列番号:20で示した3844−4418番目の塩基配列を有するDNA、
(v)配列番号:20で示した4000−4418番目の塩基配列を有するDNA
(vi)下記(a)、(b)、(c)を少なくとも一ずつ含む配列を有するDNA:
(a)少なくとも塩基配列がAACGGである、又は塩基配列がCCGTTであるMSA配列、
(b)塩基配列がTTTCT、又は塩基配列がAGAAAである配列、及び
(c)塩基配列がTCCACCAT、又はATGGTGGAである配列。
(vii)少なくとも、下記(a)のいずれか一の配列と下記(b)または(c)のいずれか一とを含む配列を有するDNA:
(a)少なくとも塩基配列がAACGGである、又は塩基配列がCCGTTであるMSA配列、
(b)塩基配列がTTTCT、又は塩基配列がAGAAAである配列、及び
(c)塩基配列がTCCACCAT、又はATGGTGGAである配列。 - (a)花粉形成に係わる器官を構成する細胞において特異的に隔膜形成体の形成及び/又は拡大を抑制することにより植物の稔性を低下させる、あるいは(b)花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現のプロモータとして使用することを特徴とする請求項22のDNA。
- 請求項22又は23に記載のDNAを含むベクター。
- 請求項22又は23に記載のDNA、又は請求項24に記載のDNAを含むベクターを保持する形質転換細胞。
- 請求項22又は23に記載のDNA、又は請求項24に記載のDNAを含むベクターを保持する形質転換植物細胞。
- 請求項26に記載の形質転換植物細胞を含む、形質転換植物体。
- 請求項27に記載の形質転換植物体の子孫または、クローンである形質転換植物体。
- 形質転換した遺伝子が花粉形成に係わる器官において強く発現する遺伝子発現を示す、請求項27又は28に記載の形質転換植物体。
- 形質転換した遺伝子が花粉形成組織特異的発現を示す、請求項27又は28に記載の形質転換植物体。
- 請求項27〜30のいずれか一に記載の植物体より製造された食品及び/又は飼料組成物。
- 請求項27〜30のいずれか一に記載の植物体より製造された化学品。
- 請求項1の(a)〜(i)のいずれかに記載のDNAの転写産物。
- 請求項33に記載の転写産物の量を測定する方法。
- 複数の検体中の請求項33に記載の転写産物の量を相対的に比較する方法。
- 請求項1に記載のDNAにコードされるタンパク質の量を測定する方法。
- 複数の検体中の請求項1に記載のDNAにコードされるタンパク質の量を相対的に比較する方法。
- 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質又はそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAである請求項6のDNA。
- 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と60%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAである請求項6のDNA。
- 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質またはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を含み、かつ以下の(a)〜(c)のいずれかであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA である請求項6のDNA:
(a) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と60%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列、
(b) キネシン様タンパク質のモータードメインの点変異により微小管への結合能を失ったアミノ酸配列、
(c) キネシン様タンパク質のモータードメインの点変異により微小管上での移動能を失ったアミノ酸配列。 - 植物の隔膜形成体の形成制御、及び/又は発生分化制御活性を有し、かつ、
(a) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質またはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と60%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、及び
(c) (i) 配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列中のNPK1タンパク質またはそのオルソログとの結合領域と70%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列及び(ii)配列番号:2、4、6、22または51に記載のアミノ酸配列からそれぞれの配列中のキネシン様タンパク質のモータードメインを欠失させたアミノ酸配列と60%以上のアミノ酸がポジティブであるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
から成る群から選ばれたものであるDNA。 - 隔膜形成体の形成、隔膜形成体の拡大、細胞板の形成及び/又は細胞板の拡大を抑制あるいは阻害する活性を有するものである請求項41のDNA。
- 植物組織の形態、組織の大きさ、器官の形態、器官の大きさ、植物体の形態、植物体の大きさ及び/又は植物体の生育速度を制御する活性を有するものである請求項41のDNA。
- 稔性の低下を起こす活性を有するものである請求項41のDNA。
- 請求項9に記載の組換えDNA 又はベクター中、(i) のプロモーターにおいて植物細胞内で転写可能なプロモーターとして請求項22又は23に記載の塩基配列又はDNA のいずれか一を用い、且つ(iii) のシグナルにおいて植物で機能するシグナルを用いる組換えDNA 又はベクター。
- 請求項45に記載の組換えDNA 又はベクターを保持する形質転換細胞。
- 請求項45に記載の組換えDNA 又はベクターを保持する形質転換植物細胞。
- 請求項47に記載の形質転換植物細胞を含む、形質転換植物体。
- 請求項48に記載の形質転換植物体の子孫または、クローンである形質転換植物体。
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Cited By (2)
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WO2023202727A1 (zh) * | 2022-04-19 | 2023-10-26 | 中国科学院植物研究所 | 一种制备水稻雄性不育材料的方法及相关基因 |
CN118006830A (zh) * | 2024-03-04 | 2024-05-10 | 河北省农林科学院粮油作物研究所 | 与芝麻种皮颜色相关的snp位点及其应用 |
-
2003
- 2003-05-23 JP JP2003145976A patent/JP2004236653A/ja active Pending
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