JP2004223743A - 衝撃吸収体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】炭素繊維、等の強化繊維に対する熱可塑性樹脂の含浸状態が異なる2種以上の糸条及び/又はシート状物を組合わせたものを該熱可塑性樹脂の溶融温度近傍まで加熱した後、冷却することで一体化する、或いは開繊された強化繊維及び/又は該強化繊維の布帛を連続的に引取り、溶融、或いは軟化した熱可塑性樹脂中に通過させ、該強化繊維の単糸表面を該樹脂で実質的に覆うと同時に引取方向及び/又は引取方向に対して垂直方向(横方向)に含浸状態が異なるようにして得た糸状及び/又はシート状物を最終成形品の形状にし、該熱可塑性樹脂の溶融温度近傍まで加熱した後、冷却することで一体化することを特徴とする上記第1記載衝撃吸収体の製造方法。
【選択図】図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般的な産業資材として好適な繊維強化熱可塑性樹脂複合材に関するものであり、特に、振動や衝撃を吸収するための構造材に適用することができる部材を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
繊維強化樹脂複合材(以下、FRPと称す)は炭素繊維やガラス繊維などの無機繊維やアラミド系繊維や高分子量ポリエチレン繊維などの有機繊維を強化材として、マトリックスと呼称される樹脂を強化したものである。このFRPはマトリックスに適用する樹脂にエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂などの熱硬化性樹脂を適用した繊維強化熱硬化性樹脂複合材料(以下、FRTSと称す)とポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのエステル系樹脂、それに、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィルドなどの熱可塑性樹脂を適用した繊維強化熱可塑性樹脂複合材(FRTPと称す)に大別が可能である。
従来、FRP製の衝撃吸収材としては、特開昭59−84667号公報、特開昭63−78734号公報、特開平04−15332号公報、特開平06−300068号公報などに見られるように自動車のバンパー部分に円筒状の衝撃吸収材をエネルギー吸収部材として取り付けたものが知られている。この部材は衝撃エネルギーを良好に吸収すること以外に、軽量、高剛性であることが要求されている。従って、FRP製のものは金属材料と比較して軽量であり、選択する強化繊維とその方向性を考慮することで剛性も遜色ないものが得られるので好適である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
衝撃吸収材が衝突時に効率よく衝撃吸収できるように強化繊維の方向性に変化を与える以外に様々な工夫が凝らされてきた。
衝撃エネルギーを受けた部材の破壊が一気に起こらず、逐次に破壊進展するように、特開平08−219215号公報などでは荷重の作用端側に破壊の開始点となるテーパ部を形成している。また、特開平08−170675号公報などではV字型の切り欠きを形成している。しかし、このような場合、一度、衝撃吸収材を成形した後、後加工を施したりする必要があり、汎用性に欠ける。
また、特開平01−104625号公報、特開平07−217689号公報などでは積層したFRP層間に別の樹脂層を設けたり、局所的に異物を混入して破壊進展が漸次、行なわれるようにしている。これらの方法は先ほどに比較すると後加工を施すことがなく、成形時に積層や混入などの対応が可能である。しかし、フィルムなどによる積層ではその層が厚くなりすぎて、基本的な剛性が低下し、また、その層が連続的に存在すると一気に破壊進展が進み、衝撃吸収の効率が低下する。また、局所的に異物を混入するにしても、混入させる方法が困難である。
上記以外に、特開平03−208623号公報、特開平04−152128号公報、特開平05−32144号公報、特開平05−32145号公報などのように衝撃吸収材の形状で凹凸を設けたり、肉厚を変化させることで多くの変形が行なわれるようにするものが挙げられるが、成形が煩雑になる。
以上のように、基本的な剛性を充足すると共に、エネルギー吸収を効率的に行ない、しかも、容易に成形できる衝撃吸収材は認められなかった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は更に鋭意検討を行なった結果、基本的な剛性を充足すると共に、エネルギー吸収を効率的に行ない、しかも、容易に成形できる衝撃吸収材を見出した。
即ち、本発明は下記の構成からなる。
1.強化繊維に対する熱可塑性樹脂の含浸状態が異なる2種以上の糸条及び/又はシート状物を組合わせたものを該熱可塑性樹脂の溶融温度近傍まで加熱した後、冷却することで一体化することを特徴とする衝撃吸収体の製造方法。
2.強化繊維が炭素繊維であることを特徴とする上記第1記載衝撃吸収体の製造方法。
3.開繊された強化繊維及び/又は該強化繊維の布帛を連続的に引取り、溶融或いは軟化した熱可塑性樹脂中に通過させ、該強化繊維の単糸表面を該樹脂で実質的に覆うと同時に、引取方向及び/又は引取方向に対して垂直方向(横方向)に含浸状態が異なるようにすることを特徴とする上記第1記載衝撃吸収体の製造方法。
4.開繊された強化繊維及び/又は該強化繊維の布帛を連続的に引取り、溶融、或いは軟化した熱可塑性樹脂中に通過させ、該強化繊維の単糸表面を該樹脂で実質的に覆うと同時に引取方向及び/又は引取方向に対して垂直方向(横方向)に含浸状態が異なるようにして得た糸状及び/又はシート状物を最終成形品の形状にし、該熱可塑性樹脂の溶融温度近傍まで加熱した後、冷却することで一体化することを特徴とする上記第1記載衝撃吸収体の製造方法。
【0005】
本発明に用いる強化繊維は金属繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、PEI繊維、PAI繊維などのスーパーエンプラを用いた有機繊維や高強度、高耐熱性、高弾性率の繊維として最近、知られるポリパラフェニレンテレフタルアミド(パラアラミド)繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール(PBT)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)等のポリベンザゾール(PBZ)繊維などの新規な有機繊維が挙げられる。また、ポリノボルネン、シクロペンテン、シクロブテンなどのシクロオレフィン系樹脂に見られる新規な樹脂から得られた繊維を適用することも可能である。更に、竹などの植物から得られる繊維など、衝撃吸収材の設計が許される範囲で天然繊維なども適用は可能である。但し、強度と弾性率、ならびに軽量の観点から高強度、高弾性率で密度の低い繊維の適用が良く、好ましくは炭素繊維が、更にはエンプラやスーパーエンプラよりなる有機繊維が組合わされたものが好適である。
【0006】
適用する強化繊維の力学特性は衝撃吸収材の設計にもよるが、基本的には高強度、高弾性率であることが望ましい。従って、強化繊維の体積含有率を考慮する必要があるが、少なくとも15cN/dtex以上、弾性率が500cN/dtexであり、更には20cN/dtex以上、弾性率が800cN/dtexである繊維を用いることが好ましい。なお、該強化繊維には必要に応じて、後述の熱可塑性樹脂の含浸状態と接着性を向上させるため、処理剤を付与したりコロナ処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理などの処理を施すことが望まれる。
【0007】
本発明に用いる熱可塑性樹脂は、一般に耐熱性が100℃以上あり、強度が49MPa以上、曲げ弾性率が2.4GPa以上あるエンジニアリングプラスチック(エンプラ)と呼称されるポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)などが挙げられるが、自動車などへの適用を考えると、150℃以上の高温で長期間使用可能な樹脂をスーパーエンプラと呼称されるものが望ましい。このスーパーエンプラはポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)などの非晶性のものやポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、ならびに、溶融時に液晶性を示す液晶ポリエステル(LCP)などの結晶性のものが挙げられる。しかし、先に記したように自動車などへの適用を考えると、密度の低いものが望ましく、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのオレフィン系樹脂が、更にはその中でも耐熱性のあるポリメチルペンテンやポリノルボルネン、シクロペンテン、シクロブテンなどのシクロオレフィン系樹脂が望ましい。
【0008】
更にはソフトセグメントとして分子量300〜5000のポリエ−テル系グリコ−ル、ポリエステル系グリコ−ル、ポリカ−ボネ−ト系グリコ−ル等をブロック共重合したポリエステル系熱可塑性弾性樹脂、ポリアミド系熱可塑性弾性樹脂、ポリウレタン系熱可塑性弾性樹脂なども適用することができ、これらの熱可塑性樹脂群の中から2種類以上混合して使用することも可能である。
【0009】
また、これらの熱可塑性樹脂についても強化繊維との接着性を向上させる処理剤などを付与することが望ましく、更に、熱劣化防止、酸化劣化防止、難燃性付与などのため、種々の添加剤も必要に応じて適用する。
【0010】
一般にFRPの理論的特性値Xc は、強化繊維とベースとなる樹脂の特性値(Xf とXm )と強化繊維とマトリックスの体積含有率(Vf とVm )から、次式で求められる。
Xc = Xf Vf + Xm Vm
また、強化繊維間で樹脂が未含浸であるボイド(空隙)率は次式によって求められる。
Vv=1−(Vf + Vm)
なお、一般に Xf >Xmであるので、これらの式から、Xc は繊維含有率Vf をできるだけ高めること、含浸状態を向上させてボイドを少なくすることが特性Xc向上に必要であることが分かる。従って、基本的には、強化繊維、及び/又は、強化繊維よりなる布帛は充分に開繊され、更に、該強化繊維の表面が熱可塑性樹脂により実質的に覆われる必要がある。そして、敢えて、局所的に含浸状態を調整することで破壊開始点と変形の制御を行なうことで、衝撃吸収を効率的に行なうことができる。
そのため、好ましくは、強化繊維をエア開繊や、バー開繊などの手法を用いて予め、及び/又は連続的に開繊した後、強化繊維にテンションを賦与しながら樹脂を吐出するスリットが適宜、配置された曲面ダイに接触させることが必要である。これにより曲面ダイに強化繊維が接触することで、該強化繊維がより、均一に開繊され、しかも、該スリットから吐出した樹脂が適宜、強化繊維に含浸できる。また、その直後に樹脂浴を設置し、該樹脂浴を通過させた後に樹脂が含浸した強化繊維をダイスから引き抜き、成形材料として糸状、及び/又は、シート状物を得ることが必要である。なお、ダイスの形状は丸断面や矩形断面、異形断面などの適用も考えらる。また、ここで該熱可塑性樹脂が溶融した状態で、連続的に巻取ることで円管や矩形管などの成形品を直接、得ることも可能である。
【0011】
また、上記のようにして得た糸条、あるいは、シート状物を最終成形品の形状に体積、または、積層し、該熱可塑性樹脂の溶融温度近傍まで加熱した後、冷却することで一体化することで衝撃吸収体が得られる。
【0012】
【実施例】
以下に本発明の実施例、ならびに、本文中、及び、実施例中の評価方法について記述する。
(1)複合材料の繊維含有率、密度、空洞率
JIS K 7075「炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験方法」、ならびに、JIS K 7052「ガラス繊維強化プラスチックの繊維含有率測定方法」に準拠して、繊維含有率、密度、空洞率を求めた。
(2)含浸状態
任意に選択した複合材の断面を光学顕微鏡で観察し、強化繊維周囲長の50%以上が樹脂と接触した状態の該強化繊維の含有量で示すものである。なお、ここでは70%以上を良、70%未満のものを不良とした。
(3)力学特性(引張試験物性)
JIS R 7601「炭素繊維試験方法」に準拠して、引張強度(破壊強さ)と引張弾性率を求めた。
(4)衝撃試験
幅5mm×厚5mm×長さ40mmの試料について、長さ方向を鉛直にして、平坦な場所に設置(下端の長さ方向10mmを治具で固定)し、上端に約200J(円柱状錘12kg)の衝撃エネルギーを与え、試料の破壊形態を観察した。
(実施例1)
市販の炭素繊維(強度6300MPa、弾性率295GPa)を開繊バーにて充分開繊した後、マレイン酸変性を行なったポリプロピレン樹脂が吐出するスリットの局所的にない曲面ダイ、ならびに、樹脂浴を通過させた後、ダイから引抜き、実施例1のテープ状物を得た。
(比較例1)
市販の炭素繊維(強度6300MPa、弾性率295GPa)を開繊バーにて充分開繊した後、マレイン酸変性を行なったポリプロピレン樹脂がスリット全面から吐出すること以外は実施例1と同様に曲面ダイ、ならびに、樹脂浴を通過させた後、ダイから引抜き、比較例1のテープ状物を得た。
なお、上記の実施例、ならびに、比較例に適用した工程の概略図を図1に、また、曲面ダイのスリット部の概略図を図2に示す。なお、スリットで局部的に樹脂が吐出されない部分は、本実施例では1ヶ所であるが、これに限定されるものではなく、必要に応じて、その数や寸法を設定することが可能である。また、材料の緒言と物性を表1に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
実施例1は本発明の衝撃吸収材に適用できるテープ状物であり、比較例1は一般に適用されるテープ状物である。
何れも、図1に例示される含浸方法により得たものであるが、強化繊維を充分に開繊させているので含浸状態が良好である。しかし、含浸状態を確認する際の断面写真に於いて、実施例1は比較例1に対して、特にテープ状物幅方向における中央部分で空間が多く認められ、その結果として空隙率も高く、また、密度も少し小さい。しかし、実施例1のテープ状物は比較例1に対して実質的には遜色なく、高い弾性率と強度を有している。
(実施例2)
実施例1のテープ状物を弛まないように一方向に並べたものをプレス成形機(成形温度235℃×圧力0.1MPa×1min)で圧縮成形し、幅20mm、厚さ5mmの一方向強化材を得た。
(比較例2)
テープ状物が比較例1で得たものであること以外、実施例2と同様にテープ状物を弛まないように一方向に並べたものをプレス成形機(成形温度235℃×圧力0.1MPa×1min)で圧縮成形し、幅20mm、厚さ5mmの一方向強化材を得た。
【0015】
実施例2、並びに、比較例2から長さ方向が強化繊維の方向になるよう幅5mm×厚5mm×長さ40mmの試料を切出し、衝撃試験を行なった。
その結果、実施例2は上端から10mm以上、完全に圧壊している部位があり、試料全般に強化繊維方向の亀裂進展が認められた。一方、比較例2は上端から約3mmに完全に圧壊している部位があり、強化繊維方向の亀裂進展はあまり認められなかった。
これは本発明に該当する実施例2の試料は曲面ダイのスリットで局部的に樹脂が吐出されない部分を有するテープ状物を用いているため、含浸状態が低い部分が点在し、衝撃を受けた際にその部位から亀裂進展があり、破壊エネルギーを効率的に吸収したためと考えた。
【0016】
以上のように強化繊維に対する熱可塑性樹脂の含浸状態が異なる2種以上の糸条、及び/又は、シート状物を組合わせたものを該熱可塑性樹脂の溶融温度近傍まで加熱した後、冷却することで一体化した衝撃吸収体は、基本的な力学物性を有し、更に、衝撃吸収を行なうと同時に、煩雑な工程なしに得られるものである。
このような複合材は一般的な産業資材として好適であり、特に、振動や衝撃を吸収するための構造材に適用することができる
【0017】
【発明の効果】
本発明によると、基本的な力学物性を有し、更に衝撃吸収を行なうと同時に、煩雑な工程なしに衝撃吸収体が得られることを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に適用する例の実施で適用する装置の概略図である。
【図2】(a)、(b)ともに本発明に適用する例の実施で適用する装置に おける曲面ダイのスリット部の概略図である。
【符号の説明】
1 予備開繊ローラー
2 曲面ダイ
2−a.スリット(局所停止)
2−b.スリット(全通)
3 直線ダイ
4 引取ローラー
5 樹脂の圧入方向
6 糸道
Claims (4)
- 強化繊維に対する熱可塑性樹脂の含浸状態が異なる2種以上の糸条及び/又はシート状物を組合わせたものを該熱可塑性樹脂の溶融温度近傍まで加熱した後、冷却することで一体化することを特徴とする衝撃吸収体の製造方法。
- 強化繊維が炭素繊維であることを特徴とする請求項1記載衝撃吸収体の製造方法。
- 開繊された強化繊維及び/又は該強化繊維の布帛を連続的に引取り、溶融或いは軟化した熱可塑性樹脂中に通過させ、該強化繊維の単糸表面を該樹脂で実質的に覆うと同時に、引取方向及び/又は引取方向に対して垂直方向(横方向)に含浸状態が異なるようにすることを特徴とする請求項1記載衝撃吸収体の製造方法。
- 開繊された強化繊維及び/又は該強化繊維の布帛を連続的に引取り、溶融、或いは軟化した熱可塑性樹脂中に通過させ、該強化繊維の単糸表面を該樹脂で実質的に覆うと同時に引取方向及び/又は引取方向に対して垂直方向(横方向)に含浸状態が異なるようにして得た糸状及び/又はシート状物を最終成形品の形状にし、該熱可塑性樹脂の溶融温度近傍まで加熱した後、冷却することで一体化することを特徴とする請求項1記載衝撃吸収体の製造方法。
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