JP2004214275A - 圧電素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】圧電素子作製の際、大きな変位を得られるように厚みを制御可能で、膜はがれを起こさず、かつ作製歩留まりのよい振動板を備えた圧電素子を提供する。
【解決手段】圧電性膜13と、この圧電性膜13の変位に依存して動作する振動板14とを備えた圧電素子であって、振動板14が、圧電性膜13を構成する全種類の元素を含み、かつ導電膜である。
【選択図】 図1
【解決手段】圧電性膜13と、この圧電性膜13の変位に依存して動作する振動板14とを備えた圧電素子であって、振動板14が、圧電性膜13を構成する全種類の元素を含み、かつ導電膜である。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクチュエーター、センサー、および記録装置の記録ヘッド等に用いられる圧電素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、強誘電体の圧電性、焦電性、および分極反転等の物性を利用した圧電素子、センサー、および不揮発メモリー等のデバイスの研究が盛んである。なかでも圧電素子は、インクジェット方式の記録装置(以下、インクジェットプリンターと称する)でインクを吐出させる技術に用いられ、高速高密度で高精細高画質の記録を可能とし、記録画像のカラー化や記録装置のコンパクト化にも適している。そのため、圧電素子は、記録装置となるプリンターはもとより、複写機、ファクシミリ、および電卓等にも適用され、近年急速な発展を成し遂げた。
【0003】
一方、圧電素子に対して、将来における更なる高品位・高精細な記録技術への要望が高まってきている。その実現のための一つの方法として、圧電性を有する膜(以下、圧電性膜と称する)を利用した圧電素子が挙げられ、次世代高品位・高精細記録技術への応用が期待されている。
【0004】
圧電性膜を用いた圧電素子の代表的な構造として、屈曲変位を生み出すバイモルフ構造やユニモルフ構造が挙げられる。特に、圧電性膜と振動板を貼り合わせたユニモルフ構造はその単純な構造と作製の簡便さからインクジェットプリンターなどに広く用いられている。
【0005】
圧電素子の変位にとって重要な圧電性膜の作製方法について、種々の検討がなされている。その一つとして、結晶配向の基準となる薄膜を形成し、その薄膜上に結晶成長を行って膜を形成することで、膜全体の結晶性を向上させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。同様に、結晶性の向上を目的として、ゾルゲル法の前駆体分解温度制御により、(100)面に配向したPZT(PbZrxTi1-xO3)を形成する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。また、膜厚方向に組成制御することで、内部電荷分布に対向する自発分極が発生することが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−290983号公報
【特許文献2】
特開平11−220185号公報
【特許文献3】
特開平8−186182号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
圧電性膜を用いたユニモルフ構造の圧電素子の場合、耐熱性および変形性に優れたガラス材料を薄片に研磨して圧電性膜と接着し、その薄片を振動板とする方法が一般的である。しかし、数μm程度の厚みの圧電性膜を用いる場合、振動板も数μm程度に薄片化する必要があるが、ガラス材料を研磨によって数μmに薄片化するのは非常に困難である。
【0008】
また、Crなどの剛性の高い金属を研磨の必要の無い薄片状態で振動板に用いる方法もあるが、後工程の熱処理等において、圧電性膜の熱膨張係数との違いにより膜はがれを起こしやすいという問題がある。電極を厚く成膜して振動板とする方法も考えられるが、一般に電極はPt等の貴金属であり、数μm厚に成膜するのはコストがかさみ過ぎるため非現実的である。さらに、圧電性膜とは密着性が弱く、膜はがれを起こすという問題もある。
【0009】
本発明は上記したような従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものであり、圧電素子作製の際、大きな変位を得られるように厚みを制御可能で、膜はがれを起こさず、かつ作製歩留まりのよい振動板を備えた圧電素子を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の圧電素子は、圧電性膜と、該圧電性膜の変位に依存して動作する振動板とを備えた圧電素子であって、
前記振動板が、前記圧電性膜を構成する全種類の元素を含み、かつ導電膜である。
【0011】
上記ように構成される本発明では、振動板が圧電性膜を構成する元素の全ての種類の元素を含んでいるため、圧電性膜と振動板の格子定数の整合性が高く、密着性が高まる。また、圧電性膜と振動板の熱膨張係数もほとんど変わらないため、両者の間で膜はがれを起こすことがない。さらに、振動板が導電膜であるため、振動板は、振動板に接触して形成される電極と同電位になり、電極に電圧が印加されると、圧電性膜を変化させる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の圧電素子は、圧電性膜から一部の酸素が欠損し、圧電性を失った半導体膜を振動板に用いることを特徴とする。
【0013】
(第1実施例)
本実施例の圧電素子の構成について説明する。
【0014】
図1は本実施例の圧電素子の一構成例を示す断面模式図である。
【0015】
図1に示すように、本実施例の圧電素子は、上部電極12、圧電性膜13、振動板14および下部電極15が順に形成された構成である。なお、図1は基板11上に圧電素子が形成された構成を示し、基板11を溶解等で除去することにより、ユニモルフ構造の圧電素子が作製される。
【0016】
次に、本実施例の圧電素子の製造方法について説明する。
【0017】
基板11となるMgO単結晶基板(以下、MgO基板と称する)上に、密着層となるTi、およびPtをRFスパッタリングにて順に成膜することで、Pt(111)/Ti/MgO基板の積層構造を形成する。なお、PtおよびTiとの積層膜であるPt(111)/Tiは上部電極12を構成する。
【0018】
図2はPt(111)/Ti/MgO基板の積層構造のX線回折パターンを示すグラフである。図2に示すように、(111)面に配向したPt膜が形成されていることがわかる。
【0019】
続いて、Pt膜上に、基板ヒーター熱電対温度=300℃、表示Arガス圧2.0Pa、酸素をArに対して流量で50%混合した雰囲気下で、RFスパッタリングにより、圧電性膜13となるZnO膜を3μm形成した。以下、圧電性膜13となるZnO膜を圧電性ZnO膜と称する。
【0020】
図3(a)は圧電性ZnO膜のX線回折パターンを示すグラフである。図3(a)のグラフに示すように、(100)面に配向しているZnOなどもあるが、(002)面にZnOが優先配向している。
【0021】
この圧電性ZnO膜と同じ成膜条件で形成した膜単体の抵抗を4端子で測定すると、測定限界を超えるほど抵抗値が高く、圧電性ZnO膜は完全な絶縁体であった。
【0022】
圧電性ZnO膜を成膜した後、プラズマ放電を安定させたまま圧電性ZnO膜の成膜条件から酸素導入をカットし、導入ガスを不活性ガスのArのみにして成膜することで、振動板14として圧電性ZnO膜から一部の酸素が欠損することで、半導体化したZnO膜を3μmで形成した。圧電性ZnO膜ではZnOxのxが1であるのに対して、この半導体化したZnO膜は、圧電性ZnO膜から一部の酸素が欠損している構造であるため、xが1より小さくなっている。以下、半導体化したZnO膜を半導体ZnO膜と称する。
【0023】
図3(b)は半導体ZnO膜のX線回折パターンを示すグラフである。
【0024】
図3(b)のグラフに示すように、(002)面に優先配向したZnO膜が形成されたことがわかる。この半導体ZnO膜と同じ成膜条件で電極上に形成した膜単体の抵抗を4端子で測定すると、抵抗値は十分に低く、下地電極と半導体ZnO膜表面が導通し、半導体ZnO膜は導電性を有していた。
【0025】
上記半導体ZnO膜を形成した後、半導体ZnO膜上に下部電極15を形成し、図1に示した圧電素子を作製した。
【0026】
本実施例では、上述のようにして、圧電性膜13の成膜後に、不活性雰囲気で成膜することにより、圧電性膜13から一部の酸素が欠損した膜となる振動板14を形成する。この際、振動板14の酸化物中の酸素が欠損することによって電子キャリアーが酸化物中に導入され、酸化物は絶縁性および圧電性を失って半導体化し、振動板14が導電性を有することになる。また、成膜中での酸素欠損であるため、結晶構造が大きく崩れることはない。そのため、振動板14が下部電極15と同電位になり、上部電極12と下部電極15の間に電圧が印加されると、圧電性膜13を変化させる。
【0027】
次に、上記圧電素子を用いた液滴吐出装置の一例であるインク吐出用ヘッド(以下、インクジェットヘッドと称する)の構成について説明する。
【0028】
図4はインクジェットヘッドの上部外観を示す模式図である。
【0029】
図4に示すように、インクジェットヘッドは、面方位(100)のシリコン基板(以下、Si基板と称する)18の表面に形成されたインク供給室20、連絡ノズル21、圧力室22および吐出ノズル23と、圧力室22の上に形成された圧電素子24とを有する構成である。インク供給室20、連絡ノズル21、圧力室22および吐出ノズル23は圧電素子24の下部電極15で覆われている。インク供給室20は、下部電極15に形成された貫通孔19に接続され、貫通孔19を介して図に示さないインクタンクからインクが供給される。圧力室22は、深さ約20μm、上部幅約30μm、長さ約3000μmであり、図の上下方向に1mmピッチで設けられている。
【0030】
上記構成により、インクタンク(不図示)から貫通孔19を介してインク供給室20に供給されたインクは、連絡ノズル21を経由して圧力室22に貯められる。
【0031】
図5は圧電素子部におけるインクジェットヘッドの断面構造を示す模式図である。
【0032】
図5に示すように、圧力室22となる溝が三角形の断面形状でSi基板18の表面に形成されている。圧電素子24の電極間に電圧を印加すると、圧電性膜13が変形して、振動板14が下部電極15を圧力室22の方向に押し、圧力室22に貯められたインクを吐出ノズル23から吐出させる。
【0033】
なお、アクチュエーターが、圧電素子24と、圧力室22とで構成される。このアクチュエーターは、圧電素子24の振動板14が変形することで、圧力室22の体積が変化する。
【0034】
次に、上記構成のインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
【0035】
厚さ400μmのSi基板18上に異方性エッチング技術を用いて、インク流路となる連絡ノズル21および吐出ノズル23、ならびにインク供給室20および圧力室22となる溝を形成した。溝が形成されたSi基板18面に上記圧電素子24の下部電極15の面を合わせて、Si基板18に圧電素子24をエポキシ系接着剤で接着した。
【0036】
続いて、熱リン酸で基板11となるMgO基板を完全に溶解し、ホトリソグラフィー工程でSi基板18に形成された圧力室22を覆うパターンに合わせたレジストパターンを上部電極12となるPt/Ti上に形成し、ドライエッチングにてPt/Tiの溝間部16を除去した。レジストパターンを除去した後、形成されたPt/Tiのパターンに沿って、塩酸により、圧電性ZnO膜および半導体ZnO膜をエッチングした。このようにして、図5に示した断面構造のインクジェットヘッドを作製した。
【0037】
次に、作製したインクジェットヘッドの電極間に一般的な矩形波を印加したときの振動板14の変位を測定したので、その結果について説明する。
【0038】
図6は圧電素子の電極間に印加した矩形波の波形を示す図である。
【0039】
図6に示すように、矩形波は、電圧Vp−p=30V、周波数1KHz、パルス幅10μsecである。図6に示す矩形波を圧電素子24の電極間に印加し、レーザードップラー変位計により圧力室22の中央部付近の変位を測定した。測定の結果、変位は約0.01μmであった。このことから、電極に電圧が印加されることで、圧電素子24の半導体ZnO膜が振動板14として動作したことがわかる。
【0040】
(第2実施例)
本実施例では、第1実施例に対して、圧電性ZnOおよび半導体ZnOの厚み、ならびに半導体ZnOの成膜条件を変更して圧電素子を作製した。特に、振動板となる半導体ZnO形成の際、第1実施例がArのみの雰囲気であったのに対して、本実施例は水素をArに対して流量で1%混合した雰囲気にしたものである。
【0041】
本実施例における圧電素子の断面構造は、図1と同様なため、圧電素子の構成についての説明を省略する。
【0042】
次に、本実施例における圧電素子の製造方法について説明する。なお、第1実施例と同様の工程については、その詳細な説明を省略する。
【0043】
まず、Pt(111)/Ti/MgO基板からなる積層構造の上に、第1実施例の圧電性膜13と同様の成膜条件で、(002)面に優先配向させた圧電性ZnO膜を10μm形成する。続いて、プラズマ放電を安定させたまま酸素導入をカットし、還元性ガスである水素をArに対して流量で1%混合した雰囲気下で、圧電性ZnO膜から一部の酸素が欠損した半導体ZnO膜を10μm形成した。
【0044】
第1実施例と同様に、圧電性ZnO膜および半導体ZnO膜の膜単体の抵抗を測定すると、圧電性ZnO膜が完全な絶縁体であるのに対し、半導体ZnO膜は抵抗が十分に低かった。半導体ZnO膜は、第1実施例と同様に下地の電極と膜表面が導通し、導電性を有していた。
【0045】
上記半導体ZnO膜を形成した後、半導体ZnO膜上に下部電極15を形成し、図1に示した圧電素子を作製した。
【0046】
本実施例では、上述のようにして、圧電性膜13の成膜後に、還元性雰囲気で成膜することにより、圧電性膜13から一部の酸素が欠損した膜となる振動板14を形成する。この際、振動板14の酸化物中の酸素が欠損することによって電子キャリアーが酸化物中に導入され、酸化物は絶縁性および圧電性を失って半導体化し、振動板14が導電性を有することになる。また、成膜中での酸素欠損であるため、結晶構造が大きく崩れることはない。そのため、第1実施例と同様に、振動板14が下部電極15と同電位になり、上部電極12と下部電極15の間に電圧が印加されると、圧電性膜13を変化させる。
【0047】
次に、第1実施例と同様に、上記圧電素子を用いたインクジェットヘッドを作製し、作製したインクジェットヘッドの電極間に矩形波を印加したときの振動板14の変位を測定したので、その結果について説明する。なお、本実施例におけるインクジェットヘッドの構成および製造方法は、第1実施例と同様なため、その詳細な説明を省略する。
【0048】
作製したインクジェットヘッドに図6に示した矩形波を電極間に印加し、レーザードップラー変位計により圧力室22の中央部付近の変位を測定した。測定の結果、変位は約0.02μmであった。このことから、第1実施例と同様に、圧電素子24の半導体ZnO膜が振動板14として動作したことがわかる。
【0049】
なお、本発明における圧電性膜13および振動板14の成膜にはあらゆる成膜方法を適用でき、成膜方法として、例えば、RFスパッタリング、イオンビームスパッタリング、イオンプレーティング、EB蒸着、プラズマCVD、MO−CVD、およびレーザーアブレーションがある。いずれの成膜方法も不活性雰囲気や還元性雰囲気の下で酸化物成膜中に一部の酸素を欠損させて成膜することが可能である。特に、ガス圧により組成制御の容易なRFスパッタリングが好ましい。
【0050】
また、本発明における圧電性膜13には、圧電性を有するあらゆる酸化物材料を用いることが可能であり、ZnOの他に、例えば、PZTがある。特に、ZnOは、圧電性に優れているため、材料として好ましいだけでなく、成膜の際に酸素を制御することで膜の性質を制御しやすい。
【0051】
さらに、振動板14は圧電性膜13と同様のヤング率であると考えられることから、圧電性膜13と振動板14は設計上ほぼ同じ厚さであることが好ましい。特に、ユニモルフ構造として変位量を十分に出すためには、圧電性膜13および振動板14の厚さは1μm以上であることが望ましい。
【0052】
本発明では、上述の第1実施例および第2実施例のように、圧電性膜13から一部の酸素が欠損し、半導体化した膜を振動板14として用いる。そのため、振動板14が圧電性膜13を構成する元素の全ての種類の元素を含み、圧電性膜13と振動板14の格子定数の整合性が高く、密着性が高まる。また、圧電性膜13と振動板14の熱膨張係数もほとんど変わらないため、製造プロセス中、圧電性膜13と振動板14との間で膜はがれを起こすことがない。
【0053】
また、圧電性膜13を成膜した後、大気に曝すことなく、成膜条件を変えて、振動板14を連続して形成している。そのため、圧電性膜13の露出面が大気中の酸素で酸化されることを防ぎ、圧電性膜13と振動板14との密着性がよくなる。
【0054】
また、振動板14を成膜によって形成するため、研磨する必要がなく、数μmの厚みでも問題なく作製できる。振動板14を設計する上で重要なヤング率も、圧電性膜13と振動板14でほとんど同じとして扱えるため、振動板14の最適設計をしやすくなる。
【0055】
さらに、振動板14の上に電極を形成する際には、振動板14と金属電極との間にショットキー障壁が形成されるが、酸素欠損によるキャリアー導入を十分に行って振動板14の抵抗を十分に下げることにより、ショットキー障壁は数V以下のレベルになる。この数Vの電圧降下は、20〜30Vの駆動電圧では微小で、問題にならないレベルである。
【0056】
(比較例)
本発明と従来技術とを比較するために、比較例として、従来の圧電素子について説明する。
【0057】
まず、従来の圧電素子の構成について説明する。
【0058】
図7は従来の圧電素子の一構成例を示す断面模式図である。
【0059】
図7に示すように、圧電素子は、上部電極12、圧電性膜13、下部電極15、および振動板24が順に形成された構成である。振動板25は、ガラスで形成され、下部電極15の上に陽極接合や樹脂系接着剤等で接着される。なお、図7は基板11上に圧電素子が形成された構成を示し、基板11を溶解等で除去することにより、ユニモルフ構造の圧電素子が作製される。
【0060】
次に、従来の圧電素子の製造方法について説明する。なお、第1実施例と同様の工程については、その詳細な説明を省略する。
【0061】
第1実施例と同様にして、Pt(111)/Ti/MgO基板の積層構造の上に、圧電性膜13となる圧電性ZnO膜を3μm形成した。
【0062】
続いて、圧電性ZnO膜の上に下部電極15を形成した後、下部電極15の上に、耐熱性および変形性の優れたガラスで形成された厚さ30μmの振動板25をエポキシ系樹脂で貼り付けた。そして、貼り付けられたガラスをラッピング研磨にて厚さ5μmまで研磨し、薄片化して、圧電素子を作製した。なお、ガラスを最適値の3μmまで研磨すると、振動板割れが発生し、製品歩留まりが低下した。
【0063】
次に、第1実施例と同様に、上記圧電素子を用いたインクジェットヘッドを作製し、作製したインクジェットヘッドの電極間に矩形波を印加したときの振動板25の変位を測定したので、その結果について説明する。なお、本実施例におけるインクジェットヘッドの構成および製造方法は、第1実施例と同様なため、その詳細な説明を省略する。
【0064】
作製したインクジェットヘッドに図6に示した矩形波を電極間に印加し、レーザードップラー変位計により圧力室22の中央部付近の変位を測定した。測定の結果、変位は約0.001μmであった。この変位量は、第1実施例の場合の1/10の値、第2実施例の場合の1/20の値であり、第1実施例および第2実施例のいずれと比較しても少ない値であった。これは、振動板25が最適値より厚くなり、振動板25の剛性を低減できなかったためと考えられる。
【0065】
本発明の実施態様の例を以下に列挙する。
【0066】
(実施態様1) 圧電性膜と、該圧電性膜の変位に依存して動作する振動板とを備えた圧電素子であって、
前記振動板が、前記圧電性膜を構成する全種類の元素を含み、かつ導電膜である圧電素子。
【0067】
上記実施態様1の構成では、振動板が圧電性膜を構成する元素の全ての種類の元素を含んでいるため、圧電性膜と振動板の格子定数の整合性が高く、密着性が高まる。また、圧電性膜と振動板の熱膨張係数もほとんど変わらないため、両者の間で膜はがれを起こすことがない。さらに、振動板が導電膜であるため、振動板は、振動板に接触して形成される電極と同電位になり、電極に電圧が印加されると、圧電性膜を変化させる。
【0068】
(実施態様2) 前記振動板と前記圧電性膜が連続して形成されている実施態様1記載の圧電素子。
【0069】
上記実施態様2の構成では、振動板が圧電性膜を構成する元素の全ての種類の元素を含んでいるため、振動板と圧電性膜が連続して形成されると、圧電性膜と振動板の格子定数の整合性が高く、密着性が高まる。
【0070】
(実施態様3) 前記圧電性膜として酸化物を用い、前記振動板として前記圧電性膜から一部の酸素が欠損している酸化物を用いる実施態様1または2記載の圧電素子。
【0071】
上記実施態様3の構成では、振動板は、圧電性膜から一部の酸素が欠損している構造であるため、酸素が欠損することによって電子キャリアーが酸化物中に導入され、酸化物は絶縁性および圧電性を失って半導体化し、導電性を有する。
【0072】
(実施態様4) 前記圧電性膜としてZnOを用いる実施態様3に記載の圧電素子。
【0073】
上記実施態様4の構成では、圧電性膜がZnOであれば、より優れた圧電性を有するとともに、一部の酸素が欠損したZnO膜が振動板として形成される。
【0074】
(実施態様5) 実施態様1乃至4のいずれか1に記載の圧電素子を用いたアクチュエーター。
【0075】
(実施態様6) 実施態様5記載のアクチュエーターを用いた液滴吐出装置。
【0076】
(実施態様7) 前記圧電性膜および前記振動板の成膜手段としてRFスパッタリングを用いる実施態様1乃至4のいずれか1に記載の圧電素子の製造方法。
【0077】
上記実施態様7の構成では、RFスパッタリングを成膜手段に用いることで、ガス圧による組成制御が容易になる。
【0078】
(実施態様8) 前記振動板を、前記圧電性膜の成膜条件を変えることにより連続して形成する実施態様7記載の圧電素子の製造方法。
【0079】
上記実施態様8の構成では、圧電性膜と振動板を連続して形成することで、圧電性膜の露出面が大気中の酸素により酸化されることがなく、圧電性膜と振動板との密着性がよくなる。
【0080】
(実施態様9) 前記振動板を、前記圧電性膜の成膜後に形成する実施態様8記載の圧電素子の製造方法。
【0081】
上記実施態様9の構成では、振動板が圧電性膜を構成する元素の全ての種類の元素を含んでいるため、圧電性膜と振動板の格子定数の整合性が高く、製造プロセス中での密着性が高まる。また、圧電性膜と振動板の熱膨張係数もほとんど変わらないため、製造プロセス中、両者の間で膜はがれを起こすことがない。
【0082】
【発明の効果】
本発明は以上説明したように構成されているので、以下に記載する効果を奏する。
【0083】
本発明によれば、圧電性膜から一部の酸素が欠損した、半導体化した膜を振動板として用いることにより、圧電性膜と振動板との膜はがれを防止できる。
【0084】
また、振動板と圧電性膜の物性値がほぼ等しく、理想的な設計が可能となるため、変位の非常に大きい、高品位な圧電素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例の圧電素子の一構成例を示す断面模式図である。
【図2】Pt(111)/Ti/MgO基板の積層構造のX線回折パターンを示すグラフである。
【図3】ZnO膜のX線回折パターンを示すグラフである。
【図4】インクジェットヘッドの上部外観を示す模式図である。
【図5】圧電素子部におけるインクジェットヘッドの断面構造を示す模式図である。
【図6】圧電素子の電極に印加する矩形波の波形を示す図である。
【図7】従来の圧電素子の一構成例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
11 基板
12 上部電極
13 圧電性膜
14、25 振動板
15 下部電極
16 溝間部
18 Si基板
19 貫通孔
20 インク供給室
21 連絡ノズル
22 圧力室
23 吐出ノズル
24 圧電素子
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクチュエーター、センサー、および記録装置の記録ヘッド等に用いられる圧電素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、強誘電体の圧電性、焦電性、および分極反転等の物性を利用した圧電素子、センサー、および不揮発メモリー等のデバイスの研究が盛んである。なかでも圧電素子は、インクジェット方式の記録装置(以下、インクジェットプリンターと称する)でインクを吐出させる技術に用いられ、高速高密度で高精細高画質の記録を可能とし、記録画像のカラー化や記録装置のコンパクト化にも適している。そのため、圧電素子は、記録装置となるプリンターはもとより、複写機、ファクシミリ、および電卓等にも適用され、近年急速な発展を成し遂げた。
【0003】
一方、圧電素子に対して、将来における更なる高品位・高精細な記録技術への要望が高まってきている。その実現のための一つの方法として、圧電性を有する膜(以下、圧電性膜と称する)を利用した圧電素子が挙げられ、次世代高品位・高精細記録技術への応用が期待されている。
【0004】
圧電性膜を用いた圧電素子の代表的な構造として、屈曲変位を生み出すバイモルフ構造やユニモルフ構造が挙げられる。特に、圧電性膜と振動板を貼り合わせたユニモルフ構造はその単純な構造と作製の簡便さからインクジェットプリンターなどに広く用いられている。
【0005】
圧電素子の変位にとって重要な圧電性膜の作製方法について、種々の検討がなされている。その一つとして、結晶配向の基準となる薄膜を形成し、その薄膜上に結晶成長を行って膜を形成することで、膜全体の結晶性を向上させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。同様に、結晶性の向上を目的として、ゾルゲル法の前駆体分解温度制御により、(100)面に配向したPZT(PbZrxTi1-xO3)を形成する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。また、膜厚方向に組成制御することで、内部電荷分布に対向する自発分極が発生することが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−290983号公報
【特許文献2】
特開平11−220185号公報
【特許文献3】
特開平8−186182号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
圧電性膜を用いたユニモルフ構造の圧電素子の場合、耐熱性および変形性に優れたガラス材料を薄片に研磨して圧電性膜と接着し、その薄片を振動板とする方法が一般的である。しかし、数μm程度の厚みの圧電性膜を用いる場合、振動板も数μm程度に薄片化する必要があるが、ガラス材料を研磨によって数μmに薄片化するのは非常に困難である。
【0008】
また、Crなどの剛性の高い金属を研磨の必要の無い薄片状態で振動板に用いる方法もあるが、後工程の熱処理等において、圧電性膜の熱膨張係数との違いにより膜はがれを起こしやすいという問題がある。電極を厚く成膜して振動板とする方法も考えられるが、一般に電極はPt等の貴金属であり、数μm厚に成膜するのはコストがかさみ過ぎるため非現実的である。さらに、圧電性膜とは密着性が弱く、膜はがれを起こすという問題もある。
【0009】
本発明は上記したような従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものであり、圧電素子作製の際、大きな変位を得られるように厚みを制御可能で、膜はがれを起こさず、かつ作製歩留まりのよい振動板を備えた圧電素子を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の圧電素子は、圧電性膜と、該圧電性膜の変位に依存して動作する振動板とを備えた圧電素子であって、
前記振動板が、前記圧電性膜を構成する全種類の元素を含み、かつ導電膜である。
【0011】
上記ように構成される本発明では、振動板が圧電性膜を構成する元素の全ての種類の元素を含んでいるため、圧電性膜と振動板の格子定数の整合性が高く、密着性が高まる。また、圧電性膜と振動板の熱膨張係数もほとんど変わらないため、両者の間で膜はがれを起こすことがない。さらに、振動板が導電膜であるため、振動板は、振動板に接触して形成される電極と同電位になり、電極に電圧が印加されると、圧電性膜を変化させる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の圧電素子は、圧電性膜から一部の酸素が欠損し、圧電性を失った半導体膜を振動板に用いることを特徴とする。
【0013】
(第1実施例)
本実施例の圧電素子の構成について説明する。
【0014】
図1は本実施例の圧電素子の一構成例を示す断面模式図である。
【0015】
図1に示すように、本実施例の圧電素子は、上部電極12、圧電性膜13、振動板14および下部電極15が順に形成された構成である。なお、図1は基板11上に圧電素子が形成された構成を示し、基板11を溶解等で除去することにより、ユニモルフ構造の圧電素子が作製される。
【0016】
次に、本実施例の圧電素子の製造方法について説明する。
【0017】
基板11となるMgO単結晶基板(以下、MgO基板と称する)上に、密着層となるTi、およびPtをRFスパッタリングにて順に成膜することで、Pt(111)/Ti/MgO基板の積層構造を形成する。なお、PtおよびTiとの積層膜であるPt(111)/Tiは上部電極12を構成する。
【0018】
図2はPt(111)/Ti/MgO基板の積層構造のX線回折パターンを示すグラフである。図2に示すように、(111)面に配向したPt膜が形成されていることがわかる。
【0019】
続いて、Pt膜上に、基板ヒーター熱電対温度=300℃、表示Arガス圧2.0Pa、酸素をArに対して流量で50%混合した雰囲気下で、RFスパッタリングにより、圧電性膜13となるZnO膜を3μm形成した。以下、圧電性膜13となるZnO膜を圧電性ZnO膜と称する。
【0020】
図3(a)は圧電性ZnO膜のX線回折パターンを示すグラフである。図3(a)のグラフに示すように、(100)面に配向しているZnOなどもあるが、(002)面にZnOが優先配向している。
【0021】
この圧電性ZnO膜と同じ成膜条件で形成した膜単体の抵抗を4端子で測定すると、測定限界を超えるほど抵抗値が高く、圧電性ZnO膜は完全な絶縁体であった。
【0022】
圧電性ZnO膜を成膜した後、プラズマ放電を安定させたまま圧電性ZnO膜の成膜条件から酸素導入をカットし、導入ガスを不活性ガスのArのみにして成膜することで、振動板14として圧電性ZnO膜から一部の酸素が欠損することで、半導体化したZnO膜を3μmで形成した。圧電性ZnO膜ではZnOxのxが1であるのに対して、この半導体化したZnO膜は、圧電性ZnO膜から一部の酸素が欠損している構造であるため、xが1より小さくなっている。以下、半導体化したZnO膜を半導体ZnO膜と称する。
【0023】
図3(b)は半導体ZnO膜のX線回折パターンを示すグラフである。
【0024】
図3(b)のグラフに示すように、(002)面に優先配向したZnO膜が形成されたことがわかる。この半導体ZnO膜と同じ成膜条件で電極上に形成した膜単体の抵抗を4端子で測定すると、抵抗値は十分に低く、下地電極と半導体ZnO膜表面が導通し、半導体ZnO膜は導電性を有していた。
【0025】
上記半導体ZnO膜を形成した後、半導体ZnO膜上に下部電極15を形成し、図1に示した圧電素子を作製した。
【0026】
本実施例では、上述のようにして、圧電性膜13の成膜後に、不活性雰囲気で成膜することにより、圧電性膜13から一部の酸素が欠損した膜となる振動板14を形成する。この際、振動板14の酸化物中の酸素が欠損することによって電子キャリアーが酸化物中に導入され、酸化物は絶縁性および圧電性を失って半導体化し、振動板14が導電性を有することになる。また、成膜中での酸素欠損であるため、結晶構造が大きく崩れることはない。そのため、振動板14が下部電極15と同電位になり、上部電極12と下部電極15の間に電圧が印加されると、圧電性膜13を変化させる。
【0027】
次に、上記圧電素子を用いた液滴吐出装置の一例であるインク吐出用ヘッド(以下、インクジェットヘッドと称する)の構成について説明する。
【0028】
図4はインクジェットヘッドの上部外観を示す模式図である。
【0029】
図4に示すように、インクジェットヘッドは、面方位(100)のシリコン基板(以下、Si基板と称する)18の表面に形成されたインク供給室20、連絡ノズル21、圧力室22および吐出ノズル23と、圧力室22の上に形成された圧電素子24とを有する構成である。インク供給室20、連絡ノズル21、圧力室22および吐出ノズル23は圧電素子24の下部電極15で覆われている。インク供給室20は、下部電極15に形成された貫通孔19に接続され、貫通孔19を介して図に示さないインクタンクからインクが供給される。圧力室22は、深さ約20μm、上部幅約30μm、長さ約3000μmであり、図の上下方向に1mmピッチで設けられている。
【0030】
上記構成により、インクタンク(不図示)から貫通孔19を介してインク供給室20に供給されたインクは、連絡ノズル21を経由して圧力室22に貯められる。
【0031】
図5は圧電素子部におけるインクジェットヘッドの断面構造を示す模式図である。
【0032】
図5に示すように、圧力室22となる溝が三角形の断面形状でSi基板18の表面に形成されている。圧電素子24の電極間に電圧を印加すると、圧電性膜13が変形して、振動板14が下部電極15を圧力室22の方向に押し、圧力室22に貯められたインクを吐出ノズル23から吐出させる。
【0033】
なお、アクチュエーターが、圧電素子24と、圧力室22とで構成される。このアクチュエーターは、圧電素子24の振動板14が変形することで、圧力室22の体積が変化する。
【0034】
次に、上記構成のインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
【0035】
厚さ400μmのSi基板18上に異方性エッチング技術を用いて、インク流路となる連絡ノズル21および吐出ノズル23、ならびにインク供給室20および圧力室22となる溝を形成した。溝が形成されたSi基板18面に上記圧電素子24の下部電極15の面を合わせて、Si基板18に圧電素子24をエポキシ系接着剤で接着した。
【0036】
続いて、熱リン酸で基板11となるMgO基板を完全に溶解し、ホトリソグラフィー工程でSi基板18に形成された圧力室22を覆うパターンに合わせたレジストパターンを上部電極12となるPt/Ti上に形成し、ドライエッチングにてPt/Tiの溝間部16を除去した。レジストパターンを除去した後、形成されたPt/Tiのパターンに沿って、塩酸により、圧電性ZnO膜および半導体ZnO膜をエッチングした。このようにして、図5に示した断面構造のインクジェットヘッドを作製した。
【0037】
次に、作製したインクジェットヘッドの電極間に一般的な矩形波を印加したときの振動板14の変位を測定したので、その結果について説明する。
【0038】
図6は圧電素子の電極間に印加した矩形波の波形を示す図である。
【0039】
図6に示すように、矩形波は、電圧Vp−p=30V、周波数1KHz、パルス幅10μsecである。図6に示す矩形波を圧電素子24の電極間に印加し、レーザードップラー変位計により圧力室22の中央部付近の変位を測定した。測定の結果、変位は約0.01μmであった。このことから、電極に電圧が印加されることで、圧電素子24の半導体ZnO膜が振動板14として動作したことがわかる。
【0040】
(第2実施例)
本実施例では、第1実施例に対して、圧電性ZnOおよび半導体ZnOの厚み、ならびに半導体ZnOの成膜条件を変更して圧電素子を作製した。特に、振動板となる半導体ZnO形成の際、第1実施例がArのみの雰囲気であったのに対して、本実施例は水素をArに対して流量で1%混合した雰囲気にしたものである。
【0041】
本実施例における圧電素子の断面構造は、図1と同様なため、圧電素子の構成についての説明を省略する。
【0042】
次に、本実施例における圧電素子の製造方法について説明する。なお、第1実施例と同様の工程については、その詳細な説明を省略する。
【0043】
まず、Pt(111)/Ti/MgO基板からなる積層構造の上に、第1実施例の圧電性膜13と同様の成膜条件で、(002)面に優先配向させた圧電性ZnO膜を10μm形成する。続いて、プラズマ放電を安定させたまま酸素導入をカットし、還元性ガスである水素をArに対して流量で1%混合した雰囲気下で、圧電性ZnO膜から一部の酸素が欠損した半導体ZnO膜を10μm形成した。
【0044】
第1実施例と同様に、圧電性ZnO膜および半導体ZnO膜の膜単体の抵抗を測定すると、圧電性ZnO膜が完全な絶縁体であるのに対し、半導体ZnO膜は抵抗が十分に低かった。半導体ZnO膜は、第1実施例と同様に下地の電極と膜表面が導通し、導電性を有していた。
【0045】
上記半導体ZnO膜を形成した後、半導体ZnO膜上に下部電極15を形成し、図1に示した圧電素子を作製した。
【0046】
本実施例では、上述のようにして、圧電性膜13の成膜後に、還元性雰囲気で成膜することにより、圧電性膜13から一部の酸素が欠損した膜となる振動板14を形成する。この際、振動板14の酸化物中の酸素が欠損することによって電子キャリアーが酸化物中に導入され、酸化物は絶縁性および圧電性を失って半導体化し、振動板14が導電性を有することになる。また、成膜中での酸素欠損であるため、結晶構造が大きく崩れることはない。そのため、第1実施例と同様に、振動板14が下部電極15と同電位になり、上部電極12と下部電極15の間に電圧が印加されると、圧電性膜13を変化させる。
【0047】
次に、第1実施例と同様に、上記圧電素子を用いたインクジェットヘッドを作製し、作製したインクジェットヘッドの電極間に矩形波を印加したときの振動板14の変位を測定したので、その結果について説明する。なお、本実施例におけるインクジェットヘッドの構成および製造方法は、第1実施例と同様なため、その詳細な説明を省略する。
【0048】
作製したインクジェットヘッドに図6に示した矩形波を電極間に印加し、レーザードップラー変位計により圧力室22の中央部付近の変位を測定した。測定の結果、変位は約0.02μmであった。このことから、第1実施例と同様に、圧電素子24の半導体ZnO膜が振動板14として動作したことがわかる。
【0049】
なお、本発明における圧電性膜13および振動板14の成膜にはあらゆる成膜方法を適用でき、成膜方法として、例えば、RFスパッタリング、イオンビームスパッタリング、イオンプレーティング、EB蒸着、プラズマCVD、MO−CVD、およびレーザーアブレーションがある。いずれの成膜方法も不活性雰囲気や還元性雰囲気の下で酸化物成膜中に一部の酸素を欠損させて成膜することが可能である。特に、ガス圧により組成制御の容易なRFスパッタリングが好ましい。
【0050】
また、本発明における圧電性膜13には、圧電性を有するあらゆる酸化物材料を用いることが可能であり、ZnOの他に、例えば、PZTがある。特に、ZnOは、圧電性に優れているため、材料として好ましいだけでなく、成膜の際に酸素を制御することで膜の性質を制御しやすい。
【0051】
さらに、振動板14は圧電性膜13と同様のヤング率であると考えられることから、圧電性膜13と振動板14は設計上ほぼ同じ厚さであることが好ましい。特に、ユニモルフ構造として変位量を十分に出すためには、圧電性膜13および振動板14の厚さは1μm以上であることが望ましい。
【0052】
本発明では、上述の第1実施例および第2実施例のように、圧電性膜13から一部の酸素が欠損し、半導体化した膜を振動板14として用いる。そのため、振動板14が圧電性膜13を構成する元素の全ての種類の元素を含み、圧電性膜13と振動板14の格子定数の整合性が高く、密着性が高まる。また、圧電性膜13と振動板14の熱膨張係数もほとんど変わらないため、製造プロセス中、圧電性膜13と振動板14との間で膜はがれを起こすことがない。
【0053】
また、圧電性膜13を成膜した後、大気に曝すことなく、成膜条件を変えて、振動板14を連続して形成している。そのため、圧電性膜13の露出面が大気中の酸素で酸化されることを防ぎ、圧電性膜13と振動板14との密着性がよくなる。
【0054】
また、振動板14を成膜によって形成するため、研磨する必要がなく、数μmの厚みでも問題なく作製できる。振動板14を設計する上で重要なヤング率も、圧電性膜13と振動板14でほとんど同じとして扱えるため、振動板14の最適設計をしやすくなる。
【0055】
さらに、振動板14の上に電極を形成する際には、振動板14と金属電極との間にショットキー障壁が形成されるが、酸素欠損によるキャリアー導入を十分に行って振動板14の抵抗を十分に下げることにより、ショットキー障壁は数V以下のレベルになる。この数Vの電圧降下は、20〜30Vの駆動電圧では微小で、問題にならないレベルである。
【0056】
(比較例)
本発明と従来技術とを比較するために、比較例として、従来の圧電素子について説明する。
【0057】
まず、従来の圧電素子の構成について説明する。
【0058】
図7は従来の圧電素子の一構成例を示す断面模式図である。
【0059】
図7に示すように、圧電素子は、上部電極12、圧電性膜13、下部電極15、および振動板24が順に形成された構成である。振動板25は、ガラスで形成され、下部電極15の上に陽極接合や樹脂系接着剤等で接着される。なお、図7は基板11上に圧電素子が形成された構成を示し、基板11を溶解等で除去することにより、ユニモルフ構造の圧電素子が作製される。
【0060】
次に、従来の圧電素子の製造方法について説明する。なお、第1実施例と同様の工程については、その詳細な説明を省略する。
【0061】
第1実施例と同様にして、Pt(111)/Ti/MgO基板の積層構造の上に、圧電性膜13となる圧電性ZnO膜を3μm形成した。
【0062】
続いて、圧電性ZnO膜の上に下部電極15を形成した後、下部電極15の上に、耐熱性および変形性の優れたガラスで形成された厚さ30μmの振動板25をエポキシ系樹脂で貼り付けた。そして、貼り付けられたガラスをラッピング研磨にて厚さ5μmまで研磨し、薄片化して、圧電素子を作製した。なお、ガラスを最適値の3μmまで研磨すると、振動板割れが発生し、製品歩留まりが低下した。
【0063】
次に、第1実施例と同様に、上記圧電素子を用いたインクジェットヘッドを作製し、作製したインクジェットヘッドの電極間に矩形波を印加したときの振動板25の変位を測定したので、その結果について説明する。なお、本実施例におけるインクジェットヘッドの構成および製造方法は、第1実施例と同様なため、その詳細な説明を省略する。
【0064】
作製したインクジェットヘッドに図6に示した矩形波を電極間に印加し、レーザードップラー変位計により圧力室22の中央部付近の変位を測定した。測定の結果、変位は約0.001μmであった。この変位量は、第1実施例の場合の1/10の値、第2実施例の場合の1/20の値であり、第1実施例および第2実施例のいずれと比較しても少ない値であった。これは、振動板25が最適値より厚くなり、振動板25の剛性を低減できなかったためと考えられる。
【0065】
本発明の実施態様の例を以下に列挙する。
【0066】
(実施態様1) 圧電性膜と、該圧電性膜の変位に依存して動作する振動板とを備えた圧電素子であって、
前記振動板が、前記圧電性膜を構成する全種類の元素を含み、かつ導電膜である圧電素子。
【0067】
上記実施態様1の構成では、振動板が圧電性膜を構成する元素の全ての種類の元素を含んでいるため、圧電性膜と振動板の格子定数の整合性が高く、密着性が高まる。また、圧電性膜と振動板の熱膨張係数もほとんど変わらないため、両者の間で膜はがれを起こすことがない。さらに、振動板が導電膜であるため、振動板は、振動板に接触して形成される電極と同電位になり、電極に電圧が印加されると、圧電性膜を変化させる。
【0068】
(実施態様2) 前記振動板と前記圧電性膜が連続して形成されている実施態様1記載の圧電素子。
【0069】
上記実施態様2の構成では、振動板が圧電性膜を構成する元素の全ての種類の元素を含んでいるため、振動板と圧電性膜が連続して形成されると、圧電性膜と振動板の格子定数の整合性が高く、密着性が高まる。
【0070】
(実施態様3) 前記圧電性膜として酸化物を用い、前記振動板として前記圧電性膜から一部の酸素が欠損している酸化物を用いる実施態様1または2記載の圧電素子。
【0071】
上記実施態様3の構成では、振動板は、圧電性膜から一部の酸素が欠損している構造であるため、酸素が欠損することによって電子キャリアーが酸化物中に導入され、酸化物は絶縁性および圧電性を失って半導体化し、導電性を有する。
【0072】
(実施態様4) 前記圧電性膜としてZnOを用いる実施態様3に記載の圧電素子。
【0073】
上記実施態様4の構成では、圧電性膜がZnOであれば、より優れた圧電性を有するとともに、一部の酸素が欠損したZnO膜が振動板として形成される。
【0074】
(実施態様5) 実施態様1乃至4のいずれか1に記載の圧電素子を用いたアクチュエーター。
【0075】
(実施態様6) 実施態様5記載のアクチュエーターを用いた液滴吐出装置。
【0076】
(実施態様7) 前記圧電性膜および前記振動板の成膜手段としてRFスパッタリングを用いる実施態様1乃至4のいずれか1に記載の圧電素子の製造方法。
【0077】
上記実施態様7の構成では、RFスパッタリングを成膜手段に用いることで、ガス圧による組成制御が容易になる。
【0078】
(実施態様8) 前記振動板を、前記圧電性膜の成膜条件を変えることにより連続して形成する実施態様7記載の圧電素子の製造方法。
【0079】
上記実施態様8の構成では、圧電性膜と振動板を連続して形成することで、圧電性膜の露出面が大気中の酸素により酸化されることがなく、圧電性膜と振動板との密着性がよくなる。
【0080】
(実施態様9) 前記振動板を、前記圧電性膜の成膜後に形成する実施態様8記載の圧電素子の製造方法。
【0081】
上記実施態様9の構成では、振動板が圧電性膜を構成する元素の全ての種類の元素を含んでいるため、圧電性膜と振動板の格子定数の整合性が高く、製造プロセス中での密着性が高まる。また、圧電性膜と振動板の熱膨張係数もほとんど変わらないため、製造プロセス中、両者の間で膜はがれを起こすことがない。
【0082】
【発明の効果】
本発明は以上説明したように構成されているので、以下に記載する効果を奏する。
【0083】
本発明によれば、圧電性膜から一部の酸素が欠損した、半導体化した膜を振動板として用いることにより、圧電性膜と振動板との膜はがれを防止できる。
【0084】
また、振動板と圧電性膜の物性値がほぼ等しく、理想的な設計が可能となるため、変位の非常に大きい、高品位な圧電素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例の圧電素子の一構成例を示す断面模式図である。
【図2】Pt(111)/Ti/MgO基板の積層構造のX線回折パターンを示すグラフである。
【図3】ZnO膜のX線回折パターンを示すグラフである。
【図4】インクジェットヘッドの上部外観を示す模式図である。
【図5】圧電素子部におけるインクジェットヘッドの断面構造を示す模式図である。
【図6】圧電素子の電極に印加する矩形波の波形を示す図である。
【図7】従来の圧電素子の一構成例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
11 基板
12 上部電極
13 圧電性膜
14、25 振動板
15 下部電極
16 溝間部
18 Si基板
19 貫通孔
20 インク供給室
21 連絡ノズル
22 圧力室
23 吐出ノズル
24 圧電素子
Claims (1)
- 圧電性膜と、該圧電性膜の変位に依存して動作する振動板とを備えた圧電素子であって、
前記振動板が、前記圧電性膜を構成する全種類の元素を含み、かつ導電膜である圧電素子。
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2002
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