JP2004296772A - 積層型圧電素子の電気的駆動方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】銀のマイグレーションを抑制する積層型圧電素子の電気的駆動方法を提供する。
【解決手段】積層型圧電素子10に間歇的に電圧を印加する場合に、印加される電圧がそれぞれの間歇駆動毎に正の極性の電圧および負の極性の電圧を含むようにする。このとき好ましくは積層型圧電素子10にそれぞれの間歇駆動毎に流入する電荷の総和を実質的にゼロとなるようにする。さらに好ましくは、正の極性の電圧または負の極性の電圧のうち絶対値の大きい極性の電圧を主電圧とし、主電圧と逆符号の極性の電圧を副電圧とするときに、副電圧の絶対値を主電圧の絶対値の1/4以下とする。
【選択図】 図2
【解決手段】積層型圧電素子10に間歇的に電圧を印加する場合に、印加される電圧がそれぞれの間歇駆動毎に正の極性の電圧および負の極性の電圧を含むようにする。このとき好ましくは積層型圧電素子10にそれぞれの間歇駆動毎に流入する電荷の総和を実質的にゼロとなるようにする。さらに好ましくは、正の極性の電圧または負の極性の電圧のうち絶対値の大きい極性の電圧を主電圧とし、主電圧と逆符号の極性の電圧を副電圧とするときに、副電圧の絶対値を主電圧の絶対値の1/4以下とする。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、積層型圧電素子の電気的駆動方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
圧電セラミック層と電極層(内部電極)とが交互に積層され、内部電極が一層おきに接続された構造を有する積層型圧電素子は、接着型と一体焼成型とに大別することができる。このうち、一体焼成型の積層型圧電素子は、圧電セラミック粉末を用いて作製された所定の形状を有するグリーンシートに電極ペーストを印刷し、これを所定枚数積層して一体化し、焼成することによって作製される。こうして作製される積層型圧電素子においては、圧電セラミック層の厚さは一般的に数十μm〜百数十μmである。また、内部電極としては、圧電セラミックスの焼成が可能な高温に耐える高融点金属の中で比較的安価な銀/パラジウム合金が一般的に用いられる。
【0003】
このように積層型圧電素子では内部電極に銀が含まれるために、銀のマイグレーションによる絶縁破壊を抑制することが信頼性を高める観点から重要である。周知の通り、銀のマイグレーションは、絶縁物を挟んで銀電極が形成されているデバイスに起こる。図4は銀のマイグレーションによる銀の堆積を模式的に示す説明図である。銀が酸素と結びついて酸化銀になり、絶縁物91中に水分(または水蒸気)が存在すると酸化銀がイオンとなり、ここに電界の傾斜があると正電極92a側から負電極92b側にイオンが引き寄せられて、樹枝状(デンドライト状)に銀の堆積が起こる。なお、図4において樹枝状に堆積(成長)した銀は符号93で示されている。
【0004】
前述したように、一体焼成型の積層型圧電素子においては、圧電セラミック層の厚みは100μm前後と薄いために、樹枝状に堆積した銀によって電極間の短絡が起こり易い。実用場面では、堆積した銀が対向する電極に達して電極間を短絡させる前に、堆積した銀によって耐電圧が低下するために、所定の電圧が内部電極間に印加された際に堆積した銀と対向する電極との間で放電が発生し、絶縁破壊が生ずる。
【0005】
このような銀のマイグレーションを抑制した積層型圧電素子として、例えば、特開平5−291641号公報(特許文献1)には、内部電極、外部電極、リード線およびハンダから銀系材料を取り除いた積層型圧電素子が開示されている。また、特開平5−160458号公報(特許文献2)には、アクリルとウレタンとを結合させたシリコン樹脂で表面がコーティングされた積層型圧電素子が開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−291641号公報(第6段落、第1図)
【特許文献2】
特開平5−160458号公報(第28〜31段落、第1図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平5−291641号公報に開示されている積層型圧電素子では、内部電極材料として高価な白金を用いるために、製造コスト(素子単価)が高くなるという問題がある。また、特開平5−160458号公報に開示された発明は、積層型圧電素子の表面に形成される樹脂被膜に塩素成分が含まれることを回避することによって、空気中の水分が素子に引き寄せられるのを防止する観点に立つものである。
【0008】
ところが、このような樹脂被膜が塩素成分を含まない場合であっても、樹脂被膜を水蒸気が通過する難易度は樹脂の架橋の多さに関連しており、さらにこの架橋の多さが樹脂の硬度と関係しているために、樹脂の水蒸気透過性を低く抑えようとすると樹脂の架橋を多くしなければならず、この場合には樹脂の硬度が高くなって、積層型圧電素子の変位を抑制するという新たな問題を生ずる。逆に積層型圧電素子の変位を妨げないように樹脂の硬度を小さくすると、水蒸気透過性を小さくすることができない。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、銀のマイグレーションを抑制する積層型圧電素子の電気的駆動方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、積層型圧電素子に間歇的に電圧を印加する電気的駆動方法において、
前記積層型圧電素子に間歇的に印加される電圧が、それぞれの間歇駆動毎に正の極性の電圧および負の極性の電圧を含むことを特徴とする積層型圧電素子の電気的駆動方法、が提供される。
【0011】
この本発明の積層型圧電素子の電気的駆動方法によれば、銀が樹脂状に成長するような電界が加えられた場合に、その電界と逆の電界が続けて印加されるために、銀のマイグレーションが抑制され、これによって絶縁特性を一定に保持することができる。
【0012】
このような積層型圧電素子の電気的駆動方法においては、積層型圧電素子に間歇的に印加される電圧がそれぞれの間歇駆動毎に正の極性の電圧および負の極性の電圧を含み、さらに積層型圧電素子にそれぞれの間歇駆動毎に流入する電荷の総和が実質的にゼロとなるようにすることが好ましい。これにより、間歇駆動を繰り返し行った場合に微小な銀のマイグレーションの累積によって絶縁特性が低下することを抑制することができる。
【0013】
また、本発明の積層型圧電素子の電気的駆動方法においては、積層型圧電素子に間歇的に印加される電圧がそれぞれの間歇駆動毎に正の極性の電圧および負の極性の電圧を含み、このときに正の極性の電圧または負の極性の電圧のうち絶対値の大きい極性の電圧を主電圧とし、この主電圧と逆符号の極性の電圧を副電圧とするときに、副電圧の絶対値は主電圧の絶対値の1/4以下とすることが好ましい。これにより、積層型圧電素子を構成する圧電体の分極状態が変化することを抑制することができ、積層型圧電素子の駆動特性を保持し、また、積層型圧電素子の破壊を抑制することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は積層型圧電素子の概略の構造を示す断面図である。この積層型圧電素子10は、圧電セラミック層11と内部電極12とが交互に積層され、対向する一対の側面(図1においてはX方向側面)において内部電極12が一層おきに絶縁体13によってその表面に露出しないようになっており、この絶縁体13が設けられているX方向側面に積層方向に延在する外部電極14が設けられることによって、内部電極12が一層おきに電気的に接続された構造を有している。
【0015】
このような、所謂、全面電極型の積層型圧電素子10は、例えば、まず最初に公知のセラミックグリーンシートを用いた一体焼成法(同時焼成法)によって積層コンデンサ型の積層型圧電素子を作製し、続いて帯電したガラス成分のコロイドを電気泳動法等によって内部電極12の露出部分に堆積させて、その後に積層型圧電素子を所定の温度で焼成することによってガラスからなる絶縁体13を形成し、隣接する電極どうしが重なり合っていない部分を切り落とし、さらに絶縁体13が形成された側面に外部電極14を塗布して焼き付けることによって、作製することができる。
【0016】
この積層型圧電素子10の一対の外部電極14に所定の駆動電圧を印加することにより内部電極12間に電界が発生し、この電界によって圧電セラミック層11には、分極の発生と圧電セラミックスの圧電効果(圧電定数d33による縦効果)によってZ方向での伸縮変位が生ずる。図5は積層型圧電素子10の変位量と駆動電圧との関係を模式的に示すグラフであり、所謂、バタフライカーブと呼ばれるものである。
【0017】
図5中の点Pは、外部電極14を焼き付けた後の状態(初期状態)を示している。この状態から積層型圧電素子10に電圧を印加し、その印加電圧を上げていくと、積層型圧電素子10の変位は増加する。電圧V1から徐々に印加電圧を下げると積層型圧電素子10の変位は減少し、印加電圧がゼロになった時点では積層型圧電素子10の変位はゼロには戻らずに点P´に戻る。これは残留分極の影響による。ここからさらに印加電圧を下げると積層型圧電素子10は収縮するが、印加電圧が−V2に達すると収縮していた変位が伸長する変位に逆転する分極反転が起こる。この電圧V2の絶対値は分極反転電圧と呼ばれ、このときに圧電セラミック層11に掛かる電界は抗電界と呼ばれる。電圧V2の値は、圧電セラミック材料の種類(組成)と、圧電セラミック層11の厚さによって定まる。
【0018】
その後さらにまた印加電圧を下げると積層型圧電素子10の変位は増加するが、電圧−V1に達した後に印加電圧の極性を逆転させて印加電圧を上げていくと、積層型圧電素子10の変位は減少して、印加電圧値がゼロになった時点で積層型圧電素子10の変位は点P´に戻る。さらに印加電圧を上げると積層型圧電素子10は収縮するが、印加電圧がV2に達すると収縮していた変位が伸長する変位に逆転する分極反転が起こり、その後さらに印加電圧を上げていくと積層型圧電素子10の変位は増加する。印加電圧が電圧V1に達した後に印加電圧を下げると、前述したように積層型圧電素子10の変位は点P´に向かって小さくなる。
【0019】
従来、積層型圧電素子10を間歇的に駆動する場合には、分極反転電圧V2よりも大きい電圧で分極処理を施した後に、図6に示すように、正の電圧(分極電圧の極性と同じ極性の電圧をいうものとする)のパルス電圧を印加している。しかしながら、このような方法では、積層型圧電素子10の内部に浸透した水分や積層型圧電素子10の表面に付着した水分によって内部電極12や外部電極14の成分である銀等から銀イオンが発生している場合に、常に同じ向きに電界が印加されるために銀のマイグレーションが発生、進行する。
【0020】
そこで図5に示す特性を利用して、積層型圧電素子10を間歇的に駆動する場合には、間歇駆動毎に圧電セラミック層11に正の電圧を印加してその後に負の電圧(正の電圧と極性が逆である電圧をいうものとする)を印加する。図2(a)は、このような間歇駆動を行う場合の、駆動電圧と時間との関係を示すグラフの一例である。また、図2(b)は図2(a)に示す駆動電圧によって積層型圧電素子10に発生する変位を示している。このような駆動方法により、銀のマイグレーションを抑制することができる。これは、銀イオンが発生している場合であっても、この銀イオンには交互に逆向きの電界が掛かるために圧電セラミック層11内での移動が抑制されるからである。
【0021】
積層型圧電素子10を間歇的に駆動する場合に、このように間歇駆動毎に正の電圧と負の電圧を加える場合には、正の電圧で目的とする変位を得る。このために、正の電圧の最大値Vmaxの絶対値を負の電圧の最小値Vmin(つまり最も低い電圧値)の絶対値よりも大きくする。また、分極反転が繰り返されることによる積層型圧電素子10の破壊を防止する観点から、図2(a)に示されるように、負の電圧の最小値Vminの絶対値は、分極反転電圧V2の絶対値よりも大きくならないようにすることが好ましい。
【0022】
また、積層型圧電素子10を間歇駆動毎に正の電圧と負の電圧が含まれるように駆動する場合には、積層型圧電素子10に間歇駆動毎に流入する電荷の総和が実質的にゼロとなるようにすることが好ましい。図2(a)では、正の電圧による電荷は面積S1で示され、負の電圧による電荷は面積S2で示されるから、この面積S1と面積S2が等しくなるようにする。これは、面積S1と面積S2が異なる場合には、間歇駆動を繰り返し行った場合に、面積の大きい方の駆動による微小な銀のマイグレーションの累積が起こり、これによって積層型圧電素子10の絶縁特性が低下することが起こるからである。
【0023】
上述したように、積層型圧電素子10を間歇駆動毎に正の電圧と負の電圧が含まれるように駆動する場合においては、正の電圧の最大値Vmaxの絶対値を負の電圧の最小値Vminの絶対値よりも大きくする。このとき、目的とする変位を得るための絶対値の大きい正の電圧を主電圧とし、銀のマイグレーションの抑制を主な目的とする絶対値の小さい負の電圧を副電圧とすると、副電圧の絶対値は主電圧の絶対値の1/4以下とすることが好ましい。図2(a)の場合には、Vminの絶対値をVmaxの絶対値の1/4以下とする。
【0024】
分極の向きと逆の向きに不要に大きな電圧を印加すると、その電圧値が分極反転電圧V2に達しなくとも圧電セラミック層11の分極特性が変化し、これによって、一定の正の電圧を印加したときの積層型圧電素子10の変位特性が変化してしまう。そこで、積層型圧電素子10の間歇駆動にこのような主電圧と副電圧の大きさの制限を設けることによって、積層型圧電素子10の駆動特性を一定に保持することができる。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。例えば、図1に示した積層型圧電素子10の側面には、周知の通りに、樹脂被膜を設けることが好ましい。このとき、樹脂被膜としては、積層型圧電素子10の変位を抑制しないような硬度のものを用いることができる。積層型圧電素子10は金属缶に封入された形態で用いられてもよい。
【0026】
また、図1に示した全面電極型の積層型圧電素子10は、一体焼成法によって作製される積層型圧電素子の一例に過ぎない。例えば、周知の図3(a)に示す積層コンデンサ型構造の積層型圧電素子10a、図3(b)に示す応力緩和型の積層型圧電素子10bにも、上述した本発明に係る駆動方法を適用することができることはいうまでもない。なお、図3(b)中の符号15はスリット(間隙)であり、図3のその他の符号は図1に示す符号と同等の部材を示す。
【0027】
さらに、本発明に係る駆動方法は、複数の圧電単板を接着剤で接着して積み重ねた積層型圧電素子や、複数の圧電単板をボルト締め等によって締め付けたランジュバン型圧電アクチュエータにも適用することができる。積層型圧電素子を間歇的に駆動する場合の電圧波形は図2(a)に示した矩形波に限定されるものではなく、三角波等であってもよい。
【0028】
【発明の効果】
上述の通り、本発明の積層型圧電素子の電気的駆動方法によれば、銀のマイグレーションが抑制される。これによって積層型圧電素子の絶縁特性が長く維持され、信頼性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【図1】積層型圧電素子の一実施形態を示す概略断面図。
【図2】積層型圧電素子の本発明に係る駆動方法と、積層型圧電素子の変位を示す説明図。
【図3】積層型圧電素子の別の形態を示す概略断面図。
【図4】銀のマイグレーションの進行を示す説明図。
【図5】積層型圧電素子の変位量と印加電圧との関係を示す説明図。
【図6】積層型圧電素子の従来の駆動方法と、積層型圧電素子の変位を示す説明図。
【符号の説明】
10;積層型圧電素子
11;圧電セラミック層
12;内部電極
13;絶縁体
14;外部電極
15;スリット
【発明の属する技術分野】
本発明は、積層型圧電素子の電気的駆動方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
圧電セラミック層と電極層(内部電極)とが交互に積層され、内部電極が一層おきに接続された構造を有する積層型圧電素子は、接着型と一体焼成型とに大別することができる。このうち、一体焼成型の積層型圧電素子は、圧電セラミック粉末を用いて作製された所定の形状を有するグリーンシートに電極ペーストを印刷し、これを所定枚数積層して一体化し、焼成することによって作製される。こうして作製される積層型圧電素子においては、圧電セラミック層の厚さは一般的に数十μm〜百数十μmである。また、内部電極としては、圧電セラミックスの焼成が可能な高温に耐える高融点金属の中で比較的安価な銀/パラジウム合金が一般的に用いられる。
【0003】
このように積層型圧電素子では内部電極に銀が含まれるために、銀のマイグレーションによる絶縁破壊を抑制することが信頼性を高める観点から重要である。周知の通り、銀のマイグレーションは、絶縁物を挟んで銀電極が形成されているデバイスに起こる。図4は銀のマイグレーションによる銀の堆積を模式的に示す説明図である。銀が酸素と結びついて酸化銀になり、絶縁物91中に水分(または水蒸気)が存在すると酸化銀がイオンとなり、ここに電界の傾斜があると正電極92a側から負電極92b側にイオンが引き寄せられて、樹枝状(デンドライト状)に銀の堆積が起こる。なお、図4において樹枝状に堆積(成長)した銀は符号93で示されている。
【0004】
前述したように、一体焼成型の積層型圧電素子においては、圧電セラミック層の厚みは100μm前後と薄いために、樹枝状に堆積した銀によって電極間の短絡が起こり易い。実用場面では、堆積した銀が対向する電極に達して電極間を短絡させる前に、堆積した銀によって耐電圧が低下するために、所定の電圧が内部電極間に印加された際に堆積した銀と対向する電極との間で放電が発生し、絶縁破壊が生ずる。
【0005】
このような銀のマイグレーションを抑制した積層型圧電素子として、例えば、特開平5−291641号公報(特許文献1)には、内部電極、外部電極、リード線およびハンダから銀系材料を取り除いた積層型圧電素子が開示されている。また、特開平5−160458号公報(特許文献2)には、アクリルとウレタンとを結合させたシリコン樹脂で表面がコーティングされた積層型圧電素子が開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−291641号公報(第6段落、第1図)
【特許文献2】
特開平5−160458号公報(第28〜31段落、第1図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平5−291641号公報に開示されている積層型圧電素子では、内部電極材料として高価な白金を用いるために、製造コスト(素子単価)が高くなるという問題がある。また、特開平5−160458号公報に開示された発明は、積層型圧電素子の表面に形成される樹脂被膜に塩素成分が含まれることを回避することによって、空気中の水分が素子に引き寄せられるのを防止する観点に立つものである。
【0008】
ところが、このような樹脂被膜が塩素成分を含まない場合であっても、樹脂被膜を水蒸気が通過する難易度は樹脂の架橋の多さに関連しており、さらにこの架橋の多さが樹脂の硬度と関係しているために、樹脂の水蒸気透過性を低く抑えようとすると樹脂の架橋を多くしなければならず、この場合には樹脂の硬度が高くなって、積層型圧電素子の変位を抑制するという新たな問題を生ずる。逆に積層型圧電素子の変位を妨げないように樹脂の硬度を小さくすると、水蒸気透過性を小さくすることができない。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、銀のマイグレーションを抑制する積層型圧電素子の電気的駆動方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、積層型圧電素子に間歇的に電圧を印加する電気的駆動方法において、
前記積層型圧電素子に間歇的に印加される電圧が、それぞれの間歇駆動毎に正の極性の電圧および負の極性の電圧を含むことを特徴とする積層型圧電素子の電気的駆動方法、が提供される。
【0011】
この本発明の積層型圧電素子の電気的駆動方法によれば、銀が樹脂状に成長するような電界が加えられた場合に、その電界と逆の電界が続けて印加されるために、銀のマイグレーションが抑制され、これによって絶縁特性を一定に保持することができる。
【0012】
このような積層型圧電素子の電気的駆動方法においては、積層型圧電素子に間歇的に印加される電圧がそれぞれの間歇駆動毎に正の極性の電圧および負の極性の電圧を含み、さらに積層型圧電素子にそれぞれの間歇駆動毎に流入する電荷の総和が実質的にゼロとなるようにすることが好ましい。これにより、間歇駆動を繰り返し行った場合に微小な銀のマイグレーションの累積によって絶縁特性が低下することを抑制することができる。
【0013】
また、本発明の積層型圧電素子の電気的駆動方法においては、積層型圧電素子に間歇的に印加される電圧がそれぞれの間歇駆動毎に正の極性の電圧および負の極性の電圧を含み、このときに正の極性の電圧または負の極性の電圧のうち絶対値の大きい極性の電圧を主電圧とし、この主電圧と逆符号の極性の電圧を副電圧とするときに、副電圧の絶対値は主電圧の絶対値の1/4以下とすることが好ましい。これにより、積層型圧電素子を構成する圧電体の分極状態が変化することを抑制することができ、積層型圧電素子の駆動特性を保持し、また、積層型圧電素子の破壊を抑制することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は積層型圧電素子の概略の構造を示す断面図である。この積層型圧電素子10は、圧電セラミック層11と内部電極12とが交互に積層され、対向する一対の側面(図1においてはX方向側面)において内部電極12が一層おきに絶縁体13によってその表面に露出しないようになっており、この絶縁体13が設けられているX方向側面に積層方向に延在する外部電極14が設けられることによって、内部電極12が一層おきに電気的に接続された構造を有している。
【0015】
このような、所謂、全面電極型の積層型圧電素子10は、例えば、まず最初に公知のセラミックグリーンシートを用いた一体焼成法(同時焼成法)によって積層コンデンサ型の積層型圧電素子を作製し、続いて帯電したガラス成分のコロイドを電気泳動法等によって内部電極12の露出部分に堆積させて、その後に積層型圧電素子を所定の温度で焼成することによってガラスからなる絶縁体13を形成し、隣接する電極どうしが重なり合っていない部分を切り落とし、さらに絶縁体13が形成された側面に外部電極14を塗布して焼き付けることによって、作製することができる。
【0016】
この積層型圧電素子10の一対の外部電極14に所定の駆動電圧を印加することにより内部電極12間に電界が発生し、この電界によって圧電セラミック層11には、分極の発生と圧電セラミックスの圧電効果(圧電定数d33による縦効果)によってZ方向での伸縮変位が生ずる。図5は積層型圧電素子10の変位量と駆動電圧との関係を模式的に示すグラフであり、所謂、バタフライカーブと呼ばれるものである。
【0017】
図5中の点Pは、外部電極14を焼き付けた後の状態(初期状態)を示している。この状態から積層型圧電素子10に電圧を印加し、その印加電圧を上げていくと、積層型圧電素子10の変位は増加する。電圧V1から徐々に印加電圧を下げると積層型圧電素子10の変位は減少し、印加電圧がゼロになった時点では積層型圧電素子10の変位はゼロには戻らずに点P´に戻る。これは残留分極の影響による。ここからさらに印加電圧を下げると積層型圧電素子10は収縮するが、印加電圧が−V2に達すると収縮していた変位が伸長する変位に逆転する分極反転が起こる。この電圧V2の絶対値は分極反転電圧と呼ばれ、このときに圧電セラミック層11に掛かる電界は抗電界と呼ばれる。電圧V2の値は、圧電セラミック材料の種類(組成)と、圧電セラミック層11の厚さによって定まる。
【0018】
その後さらにまた印加電圧を下げると積層型圧電素子10の変位は増加するが、電圧−V1に達した後に印加電圧の極性を逆転させて印加電圧を上げていくと、積層型圧電素子10の変位は減少して、印加電圧値がゼロになった時点で積層型圧電素子10の変位は点P´に戻る。さらに印加電圧を上げると積層型圧電素子10は収縮するが、印加電圧がV2に達すると収縮していた変位が伸長する変位に逆転する分極反転が起こり、その後さらに印加電圧を上げていくと積層型圧電素子10の変位は増加する。印加電圧が電圧V1に達した後に印加電圧を下げると、前述したように積層型圧電素子10の変位は点P´に向かって小さくなる。
【0019】
従来、積層型圧電素子10を間歇的に駆動する場合には、分極反転電圧V2よりも大きい電圧で分極処理を施した後に、図6に示すように、正の電圧(分極電圧の極性と同じ極性の電圧をいうものとする)のパルス電圧を印加している。しかしながら、このような方法では、積層型圧電素子10の内部に浸透した水分や積層型圧電素子10の表面に付着した水分によって内部電極12や外部電極14の成分である銀等から銀イオンが発生している場合に、常に同じ向きに電界が印加されるために銀のマイグレーションが発生、進行する。
【0020】
そこで図5に示す特性を利用して、積層型圧電素子10を間歇的に駆動する場合には、間歇駆動毎に圧電セラミック層11に正の電圧を印加してその後に負の電圧(正の電圧と極性が逆である電圧をいうものとする)を印加する。図2(a)は、このような間歇駆動を行う場合の、駆動電圧と時間との関係を示すグラフの一例である。また、図2(b)は図2(a)に示す駆動電圧によって積層型圧電素子10に発生する変位を示している。このような駆動方法により、銀のマイグレーションを抑制することができる。これは、銀イオンが発生している場合であっても、この銀イオンには交互に逆向きの電界が掛かるために圧電セラミック層11内での移動が抑制されるからである。
【0021】
積層型圧電素子10を間歇的に駆動する場合に、このように間歇駆動毎に正の電圧と負の電圧を加える場合には、正の電圧で目的とする変位を得る。このために、正の電圧の最大値Vmaxの絶対値を負の電圧の最小値Vmin(つまり最も低い電圧値)の絶対値よりも大きくする。また、分極反転が繰り返されることによる積層型圧電素子10の破壊を防止する観点から、図2(a)に示されるように、負の電圧の最小値Vminの絶対値は、分極反転電圧V2の絶対値よりも大きくならないようにすることが好ましい。
【0022】
また、積層型圧電素子10を間歇駆動毎に正の電圧と負の電圧が含まれるように駆動する場合には、積層型圧電素子10に間歇駆動毎に流入する電荷の総和が実質的にゼロとなるようにすることが好ましい。図2(a)では、正の電圧による電荷は面積S1で示され、負の電圧による電荷は面積S2で示されるから、この面積S1と面積S2が等しくなるようにする。これは、面積S1と面積S2が異なる場合には、間歇駆動を繰り返し行った場合に、面積の大きい方の駆動による微小な銀のマイグレーションの累積が起こり、これによって積層型圧電素子10の絶縁特性が低下することが起こるからである。
【0023】
上述したように、積層型圧電素子10を間歇駆動毎に正の電圧と負の電圧が含まれるように駆動する場合においては、正の電圧の最大値Vmaxの絶対値を負の電圧の最小値Vminの絶対値よりも大きくする。このとき、目的とする変位を得るための絶対値の大きい正の電圧を主電圧とし、銀のマイグレーションの抑制を主な目的とする絶対値の小さい負の電圧を副電圧とすると、副電圧の絶対値は主電圧の絶対値の1/4以下とすることが好ましい。図2(a)の場合には、Vminの絶対値をVmaxの絶対値の1/4以下とする。
【0024】
分極の向きと逆の向きに不要に大きな電圧を印加すると、その電圧値が分極反転電圧V2に達しなくとも圧電セラミック層11の分極特性が変化し、これによって、一定の正の電圧を印加したときの積層型圧電素子10の変位特性が変化してしまう。そこで、積層型圧電素子10の間歇駆動にこのような主電圧と副電圧の大きさの制限を設けることによって、積層型圧電素子10の駆動特性を一定に保持することができる。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。例えば、図1に示した積層型圧電素子10の側面には、周知の通りに、樹脂被膜を設けることが好ましい。このとき、樹脂被膜としては、積層型圧電素子10の変位を抑制しないような硬度のものを用いることができる。積層型圧電素子10は金属缶に封入された形態で用いられてもよい。
【0026】
また、図1に示した全面電極型の積層型圧電素子10は、一体焼成法によって作製される積層型圧電素子の一例に過ぎない。例えば、周知の図3(a)に示す積層コンデンサ型構造の積層型圧電素子10a、図3(b)に示す応力緩和型の積層型圧電素子10bにも、上述した本発明に係る駆動方法を適用することができることはいうまでもない。なお、図3(b)中の符号15はスリット(間隙)であり、図3のその他の符号は図1に示す符号と同等の部材を示す。
【0027】
さらに、本発明に係る駆動方法は、複数の圧電単板を接着剤で接着して積み重ねた積層型圧電素子や、複数の圧電単板をボルト締め等によって締め付けたランジュバン型圧電アクチュエータにも適用することができる。積層型圧電素子を間歇的に駆動する場合の電圧波形は図2(a)に示した矩形波に限定されるものではなく、三角波等であってもよい。
【0028】
【発明の効果】
上述の通り、本発明の積層型圧電素子の電気的駆動方法によれば、銀のマイグレーションが抑制される。これによって積層型圧電素子の絶縁特性が長く維持され、信頼性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【図1】積層型圧電素子の一実施形態を示す概略断面図。
【図2】積層型圧電素子の本発明に係る駆動方法と、積層型圧電素子の変位を示す説明図。
【図3】積層型圧電素子の別の形態を示す概略断面図。
【図4】銀のマイグレーションの進行を示す説明図。
【図5】積層型圧電素子の変位量と印加電圧との関係を示す説明図。
【図6】積層型圧電素子の従来の駆動方法と、積層型圧電素子の変位を示す説明図。
【符号の説明】
10;積層型圧電素子
11;圧電セラミック層
12;内部電極
13;絶縁体
14;外部電極
15;スリット
Claims (3)
- 積層型圧電素子に間歇的に電圧を印加する電気的駆動方法において、
前記積層型圧電素子に間歇的に印加される電圧が、それぞれの間歇駆動毎に正の極性の電圧および負の極性の電圧を含むことを特徴とする積層型圧電素子の電気的駆動方法。 - 前記積層型圧電素子に間歇的に印加される電圧がそれぞれの間歇駆動毎に正の極性の電圧および負の極性の電圧を含み、
前記積層型圧電素子にそれぞれの間歇駆動毎に流入する電荷の総和が実質的にゼロとなるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の積層型圧電素子の電気的駆動方法。 - 前記積層型圧電素子に間歇的に印加される電圧がそれぞれの間歇駆動毎に正の極性の電圧および負の極性の電圧を含み、
前記正の極性の電圧または前記負の極性の電圧のうち絶対値の大きい極性の電圧を主電圧とし、前記主電圧と逆符号の極性の電圧を副電圧とするときに、前記副電圧の絶対値は前記主電圧の絶対値の1/4以下であることを特徴とする請求項1および請求項2に記載の積層型圧電素子の電気的駆動方法。
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