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JP2004105075A - コーヒー由来カフェインシンターゼおよび該酵素をコードする遺伝子 - Google Patents

コーヒー由来カフェインシンターゼおよび該酵素をコードする遺伝子 Download PDF

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JP2004105075A JP2002271653A JP2002271653A JP2004105075A JP 2004105075 A JP2004105075 A JP 2004105075A JP 2002271653 A JP2002271653 A JP 2002271653A JP 2002271653 A JP2002271653 A JP 2002271653A JP 2004105075 A JP2004105075 A JP 2004105075A
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caffeine
cell
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Koichi Mizuno
水野 幸一
Misako Mizuno
水野 美砂子
Akira Okuda
奥田 彰
Tatsuto Fujimura
藤村 達人
Hiroshi Ashihara
芦原 坦
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Mitsui Chemicals Inc
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Mitsui Chemicals Inc
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Abstract

【課題】本発明は、カフェインシンターゼをコードするDNAの全部もしくは一部を微生物または植物細胞にセンスまたはアンチセンスの形で組み込むことにより、
▲1▼工業用、食品用または医療用酵素として利用できるカフェインシンターゼを効率よく生産する。▲2▼カフェイン産生植物、植物組織または植物細胞のカフェイン生合成代謝を改変してカフェイン代謝系の化合物を効率よく生産する。
▲3▼カフェイン産生植物、植物組織または植物細胞のカフェイン生合成代謝を改変してカフェイン代謝系の化合物群の生成比を改変する。等の課題を達成する。
【解決手段】配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、カフェインシンターゼの酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAまたはRNAを含むベクターで形質転換された微生物または植物体または培養細胞を用いてカフェインシンターゼを生産する、またはアンチセンスRNAによりカフェインシンターゼの発現量を抑制する。
【効果】本発明方法は、植物中のカフェイン含有量を変化させ得る。またカフェインシンターゼを生産できる。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カフェインシンターゼ、該酵素をコードするDNAまたはRNA、該DNAで形質転換された微生物および植物、ならびに該植物またはその培養細胞または組織を用いて、カフェイン及びカフェインまたはその前駆体を製造する方法、該RNAを含む核酸構造物によりカフェイン及びテオブロミンまたはその前駆体量を変化させる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
【0003】
【非特許文献1】Phytochemistry, 31, 2575−(1992)
【0004】
【非特許文献2】Biochem.J., 146, 87−(1975)
【0005】
【非特許文献3】Phytochemistry, 37, 1577−(1994)
【0006】
【非特許文献4】Physiol.Plant., 98, 629−(1996)
【0007】
【特許文献1】特願平11−146358号公報
【0008】
【特許文献2】特願2000−151718号公報
【0009】
【特許文献3】特願2000−275063)号公報
【0010】
【特許文献4】特願2001−209072公報
カフェインは、チャ(Camellia sinensis)などのツバキ科ツバキ属植物、コーヒー(Coffea arabica )等のアカネ科コーヒー属植物等に含まれるプリンアルカロイドであり、医薬品原料や食品添加物として使用されている。現在のところ、カフェインは前記植物種を始めとするカフェイン産生植物からの抽出、または有機合成によって製造されている。また、チャやコーヒーなどの嗜好品においては、それらの刺激性を緩和また又は増強するために、古典的な育種手法等を用いてカフェインおよびその中間体の含有量の低減または増加が試みられている。
【0011】
カフェインはキサントシンからテオブロミンを経て3段階のN−メチル化により生合成されることが14C−トレーサー実験により明らかにされている。 [Phytochemistry, 31, 2575−(1992)]。このメチル化を触媒する酵素活性は、1975年にチャ葉の粗抽出液を用いた研究で最初に報告された[Biochem.J., 146, 87−(1975)]。コーヒーでメチルトランスフェラーゼの精製が試みられているが[Phytochemistry, 37, 1577−(1994)]、精製倍率はきわめて低かった。チャでは、メチルトランスフェラーゼの部分精製の報告はあるが[Physiol.Plant., 98, 629−(1996)]、酵素タンパク質は単離されていなかった。このような中、カフェインシンターゼ、即ち、カフェイン生合成の最終反応である7−メチルキサンチン〜テオブロミン〜カフェインの2段階のメチル化反応を触媒するN−メチルトランスフェラーゼのアミノ酸配列及びそのアミノ酸配列をコードするDNAに関しては、チャ(Camellia sinensis)から加藤等が世界に先駆けて単離精製し、報告している(特願平11−146358、特願2000−151718、特願2000−275063)。
【0012】
また、コーヒーにおいては7−メチルキサンチン〜テオブロミンの一段階のみのメチル化を触媒する酵素の存在については、同グループが世界に先駆けて単離し報告している(特願2001−209072)。しかしながら、コーヒーにおいて、カフェイン生合成の最終反応である7−メチルキサンチン〜テオブロミン〜カフェインの2段階のメチル化反応を触媒するN−メチルトランスフェラーゼの存在は、これまでのところ全く知られていなかった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、カフェインシンターゼをコードするDNAまたはRNAの全部もしくは一部を微生物または植物細胞にセンスまたはアンチセンスの形で組み込むことにより、以下の目的を達成しようとするものである。
(1) 工業用、食品用または医療用酵素として利用できるカフェインシンターゼを効率よく生産する。
(2) カフェイン産生植物、植物組織または植物細胞のカフェイン生合成代謝を改変してカフェイン代謝系の化合物を効率よく生産する。
(3) カフェイン産生植物、植物組織または植物細胞のカフェイン生合成代謝を改変してカフェイン代謝系の化合物群の生成比を改変する。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、先に単離したチャ(Camellia sinensis)のカフェインシンターゼのDNA配列を基にDNAプローブを作成し、このプローブを用いてコーヒー(Coffea arabica)のcDNAライブラリーをスクリーニングした結果コーヒーから目的DNAを単離していたが、これらは7−メチルキサンチンのみを基質とするテオブロミンシンターゼであった。そこで本発明者らは、鋭意研究の結果、本発明者らがこれまでに単離したテオブロミンシンターゼの異なる保存配列に着目し、全く新たなホモログ遺伝子を単離した。このDNAをベクターに組み込んだ後大腸菌に導入し、当該DNAに由来するタンパク質を大量に発現させた。このタンパク質の酵素学的性質を調べたところ、7−メチルキサンチン以外に、1−メチルキサンチン、3−メチルキサンチン、パラキサンチン、テオブロミンを基質として認識することが示され、当該DNAがカフェイン生合成経路の主要なメチル化を触媒する新規なカフェインシンターゼをコードする遺伝子であることを確認した。本発明者らは以上の知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0015】
則ち本発明は以下のとおりである。
[1] 以下のヌクレオチド配列:
(a)配列表の配列番号:1のアミノ酸配列を有し、7−メチルキサンチンN3メチルトランスフェラーゼ、テオブロミンN1メチルトランスフェラーゼ及びパラキサンチンN3メチルトランスフェラーゼとしての酵素活性を有するポリペプチドであるN−メチルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列、
(b)前記ヌクレオチド配列(a)に、該ヌクレオチド配列(a)がコードするポリペプチドが前記酵素活性を維持し得る範囲内で、ヌクレオチドの置換、欠失または挿入を行って得られた変異ヌクレオチド配列
のいずれかを有することを特徴とするDNA分子。
[2] 前記ヌクレオチド配列(a)と前記変異ヌクレオチド配列(b)とがストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るものである請求項1に記載のDNA分子。
[3] 前記ヌクレオチド配列(a)が、配列表の配列番号:2のヌクレオチド配列からなる請求項1または2に記載のDNA分子。
[4] 以下のヌクレオチド配列:
(a)配列表の配列番号:1のアミノ酸配列を有し、7−メチルキサンチンN3メチルトランスフェラーゼ、テオブロミンN1メチルトランスフェラーゼ及びパラキサンチンN3メチルトランスフェラーゼとしての酵素活性を有するポリペプチドであるN−メチルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列、
(b)前記ヌクレオチド配列(a)に、該ヌクレオチド配列(a)がコードするポリペプチドが前記酵素活性を維持し得る範囲内で、ヌクレオチドの置換、欠失または挿入を行って得られた変異ヌクレオチド配列のいずれかを有することを特徴とするRNA分子。
[5] 前記ヌクレオチド配列(a)と、前記変異ヌクレオチド配列(b)がストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るものである請求項4に記載のRNA分子。
[6] 前記配列(a)が、配列表の配列番号:2のヌクレオチド配列からなる請求項4または5に記載のRNA分子。
[7] 上記[1]〜[3]のいずれかに記載のDNA分子と、該DNA分子によりコードされた前記N−メチルトランスフェラーゼを植物細胞中で発現させるための構成と、を有することを特徴とする発現用ベクター。
[8] 宿主細胞を上記[7]に記載の発現用ベクターで形質転換して得られたものであることを特徴とする形質転換細胞。
[9] 前記宿主細胞が微生物細胞である上記[8]に記載の形質転換細胞。
[10] 上記[8]または[9]に記載の形質転換細胞を培養して、前記酵素活性を有するN−メチルトランスフェラーゼの製造方法。
[11] 上記[1]〜[3]のいずれかに記載のDNA分子の有するヌクレオチド配列の全部又は一部に相補的なヌクレオチド配列であって、前記酵素活性を有する植物細胞に導入されて発現した場合に、該植物細胞の該酵素活性を阻害し得ることを特徴とするDNA分子。
[12] 上記[4]〜[6]のいずれかに記載のRNA分子の有するヌクレオチド配列の全部又は一部に相補的なヌクレオチド配列であって、前記酵素活性を有する植物細胞に導入されて発現した場合に、該植物細胞の該酵素活性を阻害し得ることを特徴とするRNA分子。
[13] 上記[1]〜[6]及び[11]〜[12]のいずれかに記載のDNA分子またはRNA分子を含むベクター。
[14] 微生物および植物の少なくとも一方の細胞内で、7−メチルキサンチンN3メチルトランスフェラーゼ、テオブロミンN1メチルトランスフェラーゼ及びパラキサンチンN3メチルトランスフェラーゼの酵素活性を有するN−メチルトランスフェラーゼを発現させることができるか、もしくは該N−メチルトランスフェラーゼの発現を阻害する機能を有する上記[13]に記載のベクター。
[15] 上記[13]または[14]に記載のベクターで形質転換された微生物。
[16] 上記[13]または[14]に記載のベクターで形質転換された植物細胞、植物組織または植物体。
[17] 上記[13]または[14]に記載のベクターが、感染により導入された上記[16]に記載の植物細胞、植物組織または植物体。
[18] 上記[16]または[17]に記載の植物細胞、植物組織または植物体を用いて植物二次代謝産物を製造する方法。
[19] 上記[16]または[17]に記載の植物細胞、植物組織または植物体を用いて植物二次代謝産物の組成を改変する方法。
[20] 上記[16]または[17]に記載の植物細胞または植物組織を培養するか、植物体を栽培して、植物二次代謝産物を製造する方法。
[21] 上記[16]または[17]に記載の植物細胞または植物組織を培養するか、植物体を栽培して、植物二次代謝産物の組成を改変する方法。
[22] 植物二次代謝産物が、キサントシン、7−メチルキサントシン、1−メチルキサンチン、3−メチルキサンチン、7−メチルキサンチン、テオブロミン、テオフィリン、パラキサンチン、カフェインからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物である上記[18]〜[21]のいずれかに記載の方法。
[23] 形質転換植物体が、ツバキ(Camellia)属植物、コーヒー(Coffea)属植物、コラノキ(Cola)属植物、モチノキ(Ilex)属植物、ネエア(Neea)属植物、アオギリ(Firmiana)属植物、ポーリニア(Paullinia)属植物又はカカオノキ(Theobroma)属植物体である上記[18]〜[21]のいずれかに記載の方法。
[24] 7−メチルキサンチンN3メチルトランスフェラーゼ、テオブロミンN1メチルトランスフェラーゼ及びパラキサンチンN3メチルトランスフェラーゼとしての酵素活性を有するN−メチルトランスフェラーゼであって、
(a)配列表の配列番号:1のアミノ酸配列、または
(b)配列表の配列番号:1のアミノ酸配列に、該アミノ酸配列に、前記酵素活性を損なわない範囲内でのアミノ酸の置換、挿入または欠失を行って得られた変異アミノ酸配列を有することを特徴とするN−メチルトランスフェラーゼ。
[25] 前記アミノ酸配列(a)をコードするヌクレオチド配列と、前記変異アミノ酸配列(b)をコードするヌクレオチド配列とがストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るものである上記[24]に記載のN−メチルトランスフェラーゼ。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明にかかるN−メチルトランスフェラーゼは、7−メチルキサンチンN3メチルトランスフェラーゼ、テオブロミンN1メチルトランスフェラーゼ及びパラキサンチンN3メチルトランスフェラーゼとしての酵素活性を同時に有するコーヒー由来のポリペプチドである。
【0017】
このN−メチルトランスフェラーゼとしては、配列番号:1に示したアミノ酸配列を有しているもの、配列番号:1のアミノ酸配列に、所望とするN−メチルトランスフェラーゼ活性を損なわない範囲で、アミノ酸の置換、挿入または欠失を行って得られた変異アミノ酸配列を有しているものを挙げることができる。すなわち、所望とする上記のN−メチルトランスフェラーゼ活性を有する配列番号:1のアミノ酸配列及びその変異配列を有するポリペプチドをN−メチルトランスフェラーゼと総称する。
【0018】
上記の変異アミノ酸配列を有するポリペプチドとしては、それ自身が実質的にコーヒーのN−メチルトランスフェラーゼと同等の機能を有し、且つ配列番号:1のアミノ酸配列と酵素活性にかかわる部位においてストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列によりコードされているポリペプチドを挙げることができる。
【0019】
本発明にかかるN−メチルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列、すなわちN−メチルトランスフェラーゼ遺伝子としては、配列番号:1のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を挙げることができ、その具体例としては、配列番号:1のDNA配列、配列番号:2のRNA配列を挙げることができる。これらのN−メチルトランスフェラーゼ遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、上記N−メチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列も、本発明におけるN−メチルトランスフェラーゼをコード遺伝子に含まれる。
【0020】
所望とするN−メチルトランスフェラーゼ活性を維持した変異アミノ酸配列としては、この変異アミノ酸配列をコードする変異ヌクレオチド配列と、配列番号:1のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列とがストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るものが実用上好適に利用し得る。
【0021】
また、変異N−メチルトランスフェラーゼ遺伝子としても、配列番号:1のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るものが実用上好適に利用し得る。その具体例としては、配列番号:1のヌクレオチド配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA分子及び配列番号:2のヌクレオチド配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るRNA分子を挙げることができる。
【0022】
このストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションは、例えば、Molecular Cloning: Cold Spring Harbor Laboratory Press, Current Protocols in Molecular Biology; Wiley Interscienceに記載の方法によって行うことができ、市販のシステムとしては、GeneImageシステム(アマシャム)を挙げることができる。具体的には以下の操作によってハイブリダイゼーションを行うことができる。
【0023】
試験すべきDNAまたはRNA分子を転写した膜を、製品プロトコールに従って、標識したプローブとプロトコール指定のハイブリダイゼーションバッファー中でハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションバッファーの組成は、0.1重量%SDS、5重量%デキストラン硫酸、1/20容のキット添付のブロッキング試薬及び2〜7×SSCからなる。ブロッキング試薬としては、例えば、100×Denhardt′s solution、2%(重量/容量)Bovine serum albumin 2%(重量/容量)FicllTM400、2%(重量/容量)ポリビニルピロリドンを5培濃度で調製したものを1/20に希釈して使用することができる。20×SSCは、3M塩化ナトリウム、0.3Mクエン酸溶液であり、SSCは、より好ましくは、3〜6×SSC、更に好ましくは、4〜5×SSCの濃度で使用する。
【0024】
ハイブリダイゼーションの温度は、40〜80℃、より好ましくは50〜70℃、更に好ましくは55〜65℃の範囲であり、数時間から一晩のインキュベーションを行った後、洗浄バッファーで洗浄する。洗浄の温度は、好ましくは室温、より好ましくはハイブリダイゼーション時の温度である。洗浄バッファーの組成は、6×SSC+0.1重量%SDS溶液、より好ましくは4×SSC+0.1重量%SDS溶液、更に好ましくは2×SSC+0.1重量%SDS溶液、更に好ましくは1×SSC+0.1重量%SDS溶液、最も好ましくは0.1×SSC+0.1重量%SDS溶液である。このような洗浄バッファーで膜を洗浄し、プローブがハイブリダイズしたDNA分子またはRNA分子を、プローブに用いた標識を利用して識別することができる。
【0025】
なお、変異は、自然界において生じたものでもよく、ヌクレオチド配列における部位突然変異により人工的に起こしたものでも良い。
【0026】
本発明のN−メチルトランスフェラーゼ遺伝子を有するDNA分子は、例えば、N−メチルトランスフェラーゼをコードするDNA分子に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCR技術(植物のPCR実験プロトコール(細胞工学別冊、植物細胞工学シリーズ2)秀潤社(1995))を利用して、本発明にかかるN−メチルトランスフェラーゼを生産する細胞から分離することができる。
【0027】
具体的には、mRNAから合成したcDNAにリンカーを結合させ、N−メチルトランスフェラーゼを構成するアミノ酸配列をコードするDNAとリンカー間でPCRを行うこと等により、目的cDNAの全長配列を単離することができる。
【0028】
このようなハイブリダイゼーション技術やPCR技術により得られるN−メチルトランスフェラーゼをコードするDNA分子は、少なくとも単離に使用する部位においては、配列番号:1に記載のN−メチルトランスフェラーゼ遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチドである。
【0029】
本発明にかかるN−メチルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列(遺伝子)を有するDNA分子またはRNA分子を単離するために用いる生物としては、カフェインまたはその前駆体を産生する生物であればすべて使用できるが、中でもチャなどのツバキ科ツバキ(Camellia)属植物、コーヒーなどのアカネ科コーヒー(Coffea)属植物、コラノキなどのアオギリ科コラノキ(Cola)属植物などを例示することができる。
【0030】
次にカフェインシンターゼを含む発現ベクターの構築方法ならびに形質転換植物の作製方法及びRNAi法によるカフェインシンターゼ酵素の発現抑制方法について説明する。
【0031】
本報告中のカフェインシンターゼ遺伝子もしくはそのアンチセンスRNAを植物細胞内で発現させるためには、(i)植物細胞内で転写可能なプロモーター、(ii)プロモーターの下流にセンス方向またはアンチセンス方向に連結したカフェインシンターゼ遺伝子DNAの全部または一部、(iii)必要に応じて該遺伝子DNAの下流に連結された転写産物の安定化に必要なポリアデニレーション部位を含むターミネーター配列、を含む発現カセットを植物細胞に導入する。
【0032】
ここでアンチセンスRNAの鋳型としては、N−メチルトランスフェラーゼ遺伝子を有するDNA分子の全部または一部またはそれらとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA分子をアンチセンス方向に連結したヌクレオチド配列、あるいはN−メチルトランスフェラーゼ遺伝子を有するRNA分子の全部または一部またはそれらとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするRNA分子をアンチセンス方向に連結したヌクレオチド配列であって、カフェインまたはその前駆体を産生する宿主細胞中において発現した際に宿主細胞におけるN−メチルトランスフェラーゼの発現を阻害する機能を有するものを挙げることができる。
【0033】
ここで、N−メチルトランスフェラーゼ遺伝子の一部とは、その部分に相補性を有する配列を基礎として得られる阻害用のmRNA、すなわちアンチセンスRNAが宿主細胞中で形成された際に、これが宿主細胞におけるN−メチルトランスフェラーゼを発現させるためのmRNAと結合して、宿主細胞におけるN−メチルトランスフェラーゼの発現が阻害される部分である。この部分としては、このようなアンチセンスmRNAの形成に必要となる部分であり、例えば少なくとも14塩基長の長さの部分を挙げることができる。
【0034】
アンチセンスmRNA形成用のDNA分子としては、例えば、配列番号:1のヌクレオチド配列の全部または一部と相補性を有しているDNA分子を挙げることができ、アンチセンスRNA分子としては、配列番号:2のヌクレオチド配列の全部または一部と相補性を有しているRNA分子を挙げることができる。これらのヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る変異配列の全部または一部と相補性を有しているDNA分子またはRNA分子もこのような目的に用いることができる。
【0035】
これらの阻害用のDNA分子またはRNA分子自体は、必ずしも本発明にかかるN−メチルトランスフェラーゼをコードするものでなくともよい。
【0036】
発現カセットは、挿入されているDNAを恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターを含有し得る。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター、イネのアクチンプロモーターなどが挙げられる。また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば糸状菌、細菌、ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、嫌気的条件、特定の化合物の散布等の外因によって発現することが知られているプロモーター等が挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、糸状菌、細菌、ウイルスの感染や侵入によって発現するイネのキチナーゼ遺伝子のプロモーターやタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター、低温によって誘導されるイネの「lip19」遺伝子のプロモーター、高温によって誘導されるシロイヌナズナの「HSP18.2」遺伝子のプロモーター、乾燥によって誘導されるイネの「rab」遺伝子のプロモーター、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター等が挙げられる。またイネのキチナーゼ遺伝子のプロモーターとタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸等の特定の化合物によって、イネの「rab」遺伝子プロモーターは植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。
【0037】
或いはまた、発現カセットに挿入されているDNAを発現させるためのプロモーターとしては、カフェインシンターゼ遺伝子のプロモーターを単離して利用する方法も挙げられる。具体的なプロモーターの単離方法の一例には、カフェインシンターゼ遺伝子、例えばカフェインシンターゼ遺伝子のDNAの全部又は一部をプローブとしたハイブリダイゼーション技術の利用により、ゲノムDNA断片を選択し、該遺伝子の上流部DNAを特定する方法を挙げることができる。
【0038】
組み換えDNA分子の植物への導入に備えるために、大腸菌の複製シグナル及び形質転換された細菌の細胞を選抜するためのマーカー遺伝子を含むクローニングベクターが数多く利用できる。このようなベクターの例には、pBR322、pUC系、M13mp系等がある。適当な制限酵素切断部位で、目的の配列をベクターに導入することができる。得られたプラスミドDNAの特徴を明らかにするため、制限酵素切断部位分析、ゲル電気泳動、及びその他の生化学的−分子生物学的方法が一般に用いられる。各々の操作を終えた後、プラスミドDNAを切断して、別のDNAに結合させることができる。各プラスミドDNAの配列を、同じプラスミド又は別のプラスミド中にクローニングすることができる。
【0039】
植物宿主細胞の中に発現カセットを導入するためには、さまざまな手法を用いることができる。これらの手法には、形質転換因子としてアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)または、アグロバクテリウム リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いたT−DNAによる植物細胞の形質転換、プロトプラストへの直接導入(インジェクション法、エレクトロポレーション法等)、パーティクルガン法等やその他の可能性が含まれる。
【0040】
プロトプラストへの直接導入では、特別に必要とされるベクターはない。例えば、pUC誘導体のような単純なプラスミドを用いることができる。目的の遺伝子を植物細胞に導入する方法によっては、他のDNA配列が必要になることもある。例えばTiまたはRiプラスミドを植物細胞の形質転換に用いる場合には、TiおよびRiプラスミドのT−DNA領域の少なくとも右端の配列、大抵は両端の配列を、導入されるべき遺伝子の隣接領域となるように接続しなければならない。
【0041】
アグロバクテリウム属菌を形質転換に用いる場合には、導入すべき発現カセットを、特別のプラスミド、すなわち中間ベクターまたはバイナリーベクター中にクローニングする必要がある。中間ベクターはアグロバクテリウム属菌の中では複製されない。中間ベクターは、ヘルパープラスミドあるいはエレクトロポレーションによってアグロバクテリウム属菌の中に移行される。中間ベクターは、T−DNAの配列と相同な領域をもつため、相同組換えによって、アグロバクテリウム属菌のTiまたはRiプラスミド中に取り込まれる。宿主として使われるアグロバクテリウム属菌には、vir領域が含まれている必要がある。通常TiまたはRiプラスミドにvir領域が含まれており、その働きにより、T−DNAを植物細胞に移行させることができる。
【0042】
一方、バイナリーベクターはアグロバクテリウム属菌の中で複製、維持され得るので、ヘルパープラスミドあるいはエレクトロポレーション法によってアグロバクテリウム属菌中に取り込まれると、宿主のvir領域の働きによって、バイナリーベクター上のT−DNAを植物細胞に移行させることができる。
【0043】
なお、このようにして得られた発現カセットを含む中間ベクターまたはバイナリーベクター、及びこれを含む大腸菌やアグロバクテリウム属菌等の微生物も本発明の対象である。
【0044】
形質転換された植物細胞は、再生過程を経ることにより植物体に変換することができる。再生の方法は植物細胞の種類により異なるが、例えばイネではFujimuraら[Plant Tissue Culture Lett., 2, 74−(1995)]の方法、トウモロコシでは、Shillitoら[Bio/Technology, 7,581−(1989)]の方法、シロイヌナズナではAkamaらの方法[Plant Cell Rep.,12,
7−(1992)]などが挙げられる。
【0045】
これらの方法により作出された植物体は、カフェイン及びカフェインまたはその前駆体を産生する野生型の植物体と比較して本発明のカフェインシンターゼタンパク質の発現量が変化し、ホスト植物の代謝の改変によるカフェイン及びテオブロミン代謝系化合物の生成量の変化や、ホスト植物の代謝の改変によるカフェイン及びテオブロミン代謝系化合物群の生成比の変化が起こる。このようにして得られたトランスジェニック植物は本発明の対象である。本発明において、「植物体」とは植物に分類される生物個体の全体もしくは一部の器官(例えば、葉、茎、根、花、果実、種子等)もしくは培養細胞を指す。
【0046】
前記のSAMをメチル基供与体としてカフェインを生成する植物としては、チャなどのツバキ科ツバキ(Camellia)属植物、コーヒーなどのアカネ科コーヒー(Coffea)属植物、カカオノキ(Theobroma)属植物、コラノキなどのアオギリ科コラノキ(Cola)属植物など、カフェイン産生植物を例示することができる。
【0047】
本発明にかかるカフェインシンターゼをコードするDNAを導入してカフェインシンターゼタンパク質を大量に発現させるための微生物としては、大腸菌や枯草菌等の細菌及びバキュロウイルス等のウイルスを例示することができる。
【0048】
また、ホスト細胞の代謝を改変して特定化合物の生産性向上や特定の化合物群の生成比改変を図ることを目的に、本発明にかかるカフェインシンターゼをコードするDNAをセンスまたはアンチセンスの形で組み込む植物としては、カフェインまたはその前駆体を産生する植物であればすべて使用できるが、中でもチャなどのツバキ科ツバキ(Camellia)属植物、コーヒーなどのアカネ科コーヒー(Coffea)属植物、カカオノキ(Theobroma)属植物、コラノキなどのアオギリ科コラノキ(Cola)属植物などを例示することができる。
【0049】
これらの方法により作出された植物体は、カフェインまたはその前駆体を産生する野生型の植物体と比較して本発明のN−メチルトランスフェラーゼの発現量が変化し、ホスト植物の代謝の改変によるカフェイン代謝系化合物の生成量の変化や、ホスト植物の代謝の改変によるカフェイン代謝系化合物群の生成比の変化が起こる。このようにして得られたトランスジェニック植物は本発明の対象である。
【0050】
また近年、植物のポストトランスレーショナルなジーンサイレンシングの研究から、ウイルス等の外来核酸に対して植物が本来備えている防御機項を利用して、目的遺伝子の発現を抑制することが可能なことがわかってきた(Cell,95,177−187(1998)、化学と生物、37、532−(1999)、蛋白質核酸酵素、44、1396−(1999))。これによれば、DNAウイルスやRNAウイルス等が植物に進入した場合、植物はこれらの鋳型からアベラントRNAを転写し、植物が本来持っている配列の転写産物と配列特異的に二本鎖RNAを形成する。この二本鎖RNAはRNaseにより分解されることにより、目的の遺伝子の発現を抑制することが可能となる(Cell,96, 303−(1999))。本方法の重要な特徴のひとつは、発現を抑制したい配列を目的植物に必ずしも形質転換させる必要がない点にある。また本方法のさらなる特徴は、植物の一部(下位葉等)に目的の核酸を感染等により導入すれば、その効果が植物体全体に広がることである。具体的な発現抑制方法は、N−メチルトランスフェラーゼ遺伝子またはN−メチルトランスフェラーゼ遺伝子の一部の配列またはそれとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列の全部または一部を含む二本鎖RNAや、二本鎖DNAを持つアグロバクテリウムを植物の下位葉に感染させる。ここで、N−メチルトランスフェラーゼ遺伝子の一部とは、その部分に相補性を有する配列を基礎として得られる阻害用のmRNA、すなわちアベラントなRNAが宿主細胞中で形成された際に、これが宿主細胞におけるN−メチルトランスフェラーゼを発現させるためのmRNAと結合して、宿主細胞におけるN−メチルトランスフェラーゼの発現が阻害される部分である。この部分としては、このようなアベラントなmRNAの形成に必要となる部分であり、例えば少なくとも14塩基長の長さの部分を挙げることができる。
【0051】
これらの方法を施された植物体は、カフェインまたはテオブロミンまたはその前駆体を産生する野生型の植物体と比較して本発明のN−メチルトランスフェラーゼタンパク質の発現量が変化し、ホスト植物の代謝の改変によるカフェイン代謝系化合物の生成量の変化や、ホスト植物の代謝の改変によるカフェイン代謝系化合物群の生成比の変化が起こる。このようにして得られた植物は本発明の対象である。本発明でいう植物には、葉、花、果実、種子などの植物の特定の組織または細胞も含まれる。
【0052】
上記の構成のベクターで形質転換されたもしくはベクターの感染された植物細胞または植物組織を培養して、あるいは同様に形質転換された植物体を栽培して、カフェイン及びテオブロミン合成系にかかる二次代謝産物の製造やこれらの形質転換体で生産される二次代謝産物の組成の改変を行うことができる。この二次代謝産物としては、例えば、7−メチルキサンチン、パラキサンチン、テオブロミン及びカフェインからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物を挙げることができる。
【0053】
形質転換に用いる植物細胞、植物組織または植物体の供給原としては、例えば、形質転換植物体が、ツバキ(Camellia)属植物、コーヒー(Coffea)属植物、コラノキ(Cola)属植物、モチノキ(Ilex)属植物、ネエア(Neea)属植物、アオギリ(Firmiana)属植物、ポーリニア(Paullinia)属植物又はカカオノキ(Theobroma)属植物を挙げることができる。中でもチャなどのツバキ科ツバキ(Camellia)属植物、コーヒーなどのアカネ科コーヒー(Coffea)属植物、コラノキなどのアオギリ科コラノキ(Cola)属植物などを好ましいものとして例示することができる。
【0054】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1] コーヒーからのRNAの調製
(1)total RNAの単離
筑波大学農林技術センターから入手した0.5gのコーヒー(Coffea arabica)の登熟種子胚乳を液体窒素存在下で乳棒、乳鉢を用いて破砕した。液体窒素の昇華後、5mlの2%CTAB、0.1M Tris(pH9.5)、20mM EDTA、1.4M NaCl、5%β−mercaptoethanolに溶かして65℃に10分放置する。等量のクロロホルム液を加えて撹拌し、総量で10ml程度にした。15,000rpm、10分間の遠心分離を行い、水層をとり、2.5mlの10M塩化リチウム液を加え、少なくとも2時間、−20℃に放置する。4℃、15,000rpm、10分間の遠心分離を行い、上清を除去し、沈殿を1mlのTEに溶解し、再度、遠心分離を行った。上清を回収し、1mlのTE飽和フェノール溶液を加えて転倒混和し、15,000rpm、10分間の遠心分離を行った。さらに上清にフェノール/クロロホルムを加えて撹拌し、15,000rpm、10分間の遠心分離を行った。水層を回収し、等量のクロロホルム液を加え、撹拌する。15,000rpm、10分間の遠心分離を行い、水層を回収し、1/4倍量の10M塩化リチウム液を加え、少なくとも2時間、−20℃に放置する。15,000rpm、10分間の遠心分離を行い、得られた沈殿に70% エタノールを加えて、再度、遠心分離を行った。沈殿を真空ポンプでドライアップした後、200μlの水に溶解しtotal RNAの画分とした。
【0055】
(2) mRNAの単離
上述の方法で得たtotal RNA(2mg)に65℃、5分間の熱処理を行った後、等量の2倍濃度A液(10 mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.5)、1mM Na2−EDTA、0.1% SDS、0.5M NaCl)と混合した。0.1gのoligo(dT)−Cellulose Type7(ファルマシア)を2mlのB液(10mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.5)、1mM Na2−EDTA、0.1% SDS、0.1M  NaCl)中で膨潤させ、その懸濁液を先端にガラスウールをつめたブルーチップに注ぎ、2.5 mlの0.1N NaOHで洗浄した後、5mlのA液を流して平衡化した。このカラムにtotal RNAをアプライし、3mlのA液、4mlのB液を流した後に、mRNAを3mlのC液(10mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.5)、1mM Na2−EDTA、0.05% SDS)で溶出した。溶出液をエタノール沈殿によって濃縮し、ドライアップした後水に溶解し−80℃で保存した。
【0056】
[実施例2] コーヒーからのカフェインシンターゼcDNAの単離
(1)3‘−RACE法による3’末端側の単離
これまでに本発明者等はコーヒーからN−メチルトランスフェラーゼを複数単離しているが、7−メチルキサンチンN3メチルトランスフェラーゼ、テオブロミンN1メチルトランスフェラーゼ及びパラキサンチンN3メチルトランスフェラーゼとしての酵素活性を有するポリペプチドであるN−メチルトランスフェラーゼはコーヒーからは単離できなかった。そこで、本発明者等がこれまでに単離したコーヒー由来N−メチルトランスフェラーゼであるCTS1(配列番号3)及びCTS2(配列番号4)を元に、新たに配列番号5〜6のプライマーを設計し、新規なカフェインシンターゼcDNA部分配列の単離を行なった。3’−RACEは3’−Full RACE CORE Set(TAKARA)を使用し、下記の反応液中で1st strand cDNAを合成した。
Figure 2004105075
反応条件は30℃10分、50℃40分、95℃5分後氷冷とした。
【0057】
得られた生成物を鋳型とし、以下の反応溶液中で、95℃/1分間反応させた後、94℃/1分間、55℃/1分間、72℃/1.5分間を30サイクルでPCRを行なった。Primer1には配列番号5の配列を用いた。
Figure 2004105075
【0058】
得られた生成物を鋳型とし、以下の反応液中で、94℃/1分間、55℃/1分間、72℃/40秒間を30サイクルでPCRを行ない、PCR増幅産物を得た。Primer1には配列番号6の配列を用いた。
Figure 2004105075
【0059】
得られた反応生成物を0.8% アガロースゲルを用いてTAE中で電気泳動し、得られた目的生成物のバンドを切り取り、GENE CLEAN(フナコシ)を用いてゲルからDNAを回収した。回収したDNAをpT7blueベクター(Novagen)にライゲーションした後、大腸菌DH5αにトランスフォーメーションした。X−galを用いてカラーセレクションを行った後に、アンピシリンを含むLB培地で液体培養を行い、アルカリ−SDS法によりプラスミドを抽出した。インサートの有無はアガロース電気泳動によって確認した。
【0060】
得られた生成物の塩基配列を決定するため、単離したプラスミドを用いて下記の反応液中でプライマーエクステンションを行った。反応条件は96℃/1分間反応させた後、96℃/0.2分間、50℃/0.1分間、60℃/4分間を25サイクル行った。反応液に対してエタノール沈殿を行い、得られたDNA をTemplate suppression reagentに溶解し、ABI−310ジェネティックアナライザーを用いて分析した。
【0061】
プライマーエクステンション反応液
プラスミドDNA (20ng) 2μl
Premix          4μl
Primer          1μl
H2O             3μl
【0062】
(2) 5’RACE法による5’上流域の単離
5’上流域の単離には、5’−Full RACE Core Set(TAKARA)を用いた。3’−RACE法で得られた配列を元に配列番号7〜9のプライマーを設計し、下記の反応液中で1st strand cDNAを合成した。反応中のPrimerには配列番号7の配列を用いた。
変性RNA(約15μg)              15μl
10×RTバッファー                 3μl
RNase inhibitor             1μl
Primer(CS10r)                 10μl
AMV RT enzyme               1μl
【0063】
得られた30μlのRNA−cDNAハイブリッドに、25μl  5×バッファー、45μl  H2O、2μl  RNaseHを加え、30℃ 1hrで反応させ、RNAを分解した。得られた1本鎖cDNAは、T7−RNA ligaseでセルフライゲーションまたはコンカテマー化した。これを鋳型にし、以下の反応溶液中で、94℃/1分間、62℃/1分間、72℃/1.5分間を30サイクルでPCRを行い反応生成物を得た。Primer1、2は、配列番号8、9の配列を用いた。アクリルアミド電気泳動により反応生成物のバンドを分離し、ゲルからDNAを回収し、pGEM−T Easyベクター(Promega)にサブクローニングした。
Figure 2004105075
サブクローニングした配列の塩基配列は上述の方法で決定した。得られた塩基配列を配列表の配列番号1に示す。
【0064】
[実施例3] カフェインシンターゼの大腸菌での発現と活性測定
単離した新規カフェインシンターゼ遺伝子を発現ベクターpET32a(Novagen)に組み込み、このプラスミドを大腸菌BL21(DE3)にトランスフォーメーションした。得られた大腸菌を37℃で2時間培養した後に、IPTGを最終濃度0.3mMになるように加え、25℃でさらに8時間培養を行った。培養終了後集菌し、200μlのTES−G buffer(50mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.5)、5mM DTT、50mM NaCl、2mM EDTA−Na2、20% glycerol)に懸濁し、−80℃で凍結後、1分間断続的に超音波破砕を行った。これを14,000rpm、10分間の遠心分離を行い、得られた上清を酵素液とした。
【0065】
カフェインシンターゼ活性測定のための反応液は、100mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.5)、0.2mM MgCl2、0.2mM 7−メチルキサンチン、4μM [メチル−14C]S−アデノシルメチオニン(0.9kBq)に酵素液10μlを加えた物とし、反応液の体積は100μlとした。27℃で10分間の反応を行い、得られた14C−カフェインを1mlのクロロホルムを加えて抽出し、クロロホルム層の放射活性を測定した。対照としては、反応液から7−メチルキサンチンを除いたものを用いた。活性測定の結果、カフェインが生成したことが判明した。
【0066】
組み換え酵素の基質特異性を表1に示す。7−メチルキサンチンに対する活性を100としたときの相対活性(%)で示した。比較のため、チャ(Camellia sinensis)葉由来カフェインシンターゼの基質特異性も記載した。
【0067】
【表1】
Figure 2004105075
【0068】
[実施例4]  アンチセンス法によるカフェイン生合成の抑制
アンチセンスN−メチルトランスフェラーゼ遺伝子を有する組換えベクターを以下の方法により構築した。
実施例2で得られたコーヒー由来新規カフェインシンターゼ遺伝子を、pBIベクター(clontech社製)にCaMV35Sプロモーターの下流に該遺伝子がアンチセンス方向に挿入される様に連結した。このようにして、アンチセンスN−メチルトランスフェラーゼ遺伝子が挿入された所望の組換えベクターを得た。そしてこれを以下の形質転換に用いた。
【0069】
コーヒーの組織培養によるカフェイン生合成の従来法については、これまでにもPlanta, 108, 339 (1972), Plant Cell Reports, 2, 109 (1983)などの多くの報告がある。これらの従来法に従ってコーヒーの茎頂ないし幼葉からカルスを誘導した。得られたカルスにパーティクルガン法で上記で構築された組換えベクターを導入した。もしくは、該カルスのプロトプラストを調製して、このプロトプラストにエレクトロポレーション法により組換えベクターを導入した。導入後、マーカー耐性を示す細胞を選抜した。選択された細胞は明条件下で培養し、形質転換細胞に対して実施例3に記載の方法により酵素活性を測定した。その結果、アンチセンスN−メチルトランスフェラーゼDNAを導入した細胞におけるカフェインの生産は、アンチセンスN−メチルトランスフェラーゼDNAを導入していない通常細胞と比較して有意に減少していることが判明した。
【0070】
さらに、形質転換したコーヒー培養細胞を再分化させ、幼植物体を得た。再分化の方法はZ.Pflanzenphysiol. Bd., 81, 395 (1977)、Plant Cell, Tissue andOrgan Culture, 8, 243 (1987)を含む文献に記載の従来法に従って行った。幼植物体の葉を用いて実施例3に記載の方法により酵素活性を測定した。その結果、アンチセンスN−メチルトランスフェラーゼDNAを導入した植物体のカフェイン生産は、アンチセンスN−メチルトランスフェラーゼDNAを導入していない植物体と比較して有意に減少していることが判明した。
【0071】
【発明の効果】
本発明によれば、工業用、食品用または医療用酵素として利用できるカフェインシンターゼを効率よく生産する事が可能になる。
本発明によれば、カフェイン産生植物、植物組織または植物細胞のカフェイン生合成代謝を改変してカフェイン代謝系の化合物を効率よく生産する事が可能になる。
本発明によれば、カフェイン産生植物、植物組織または植物細胞のカフェイン生合成代謝を改変してカフェイン代謝系の化合物群の生成比を改変することが可能になる。
【0072】
【配列表】
Figure 2004105075
Figure 2004105075
Figure 2004105075
Figure 2004105075
Figure 2004105075
Figure 2004105075
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Figure 2004105075
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Figure 2004105075
Figure 2004105075
Figure 2004105075
Figure 2004105075
Figure 2004105075

Claims (25)

  1. 以下のヌクレオチド配列:
    (a)配列表の配列番号:1のアミノ酸配列を有し、7−メチルキサンチンN3メチルトランスフェラーゼ、テオブロミンN1メチルトランスフェラーゼ及びパラキサンチンN3メチルトランスフェラーゼとしての酵素活性を有するポリペプチドであるN−メチルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列、
    (b)前記ヌクレオチド配列(a)に、該ヌクレオチド配列(a)がコードするポリペプチドが前記酵素活性を維持し得る範囲内で、ヌクレオチドの置換、欠失または挿入を行って得られた変異ヌクレオチド配列
    のいずれかを有することを特徴とするDNA分子。
  2. 前記ヌクレオチド配列(a)と前記変異ヌクレオチド配列(b)とがストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るものである請求項1に記載のDNA分子。
  3. 前記ヌクレオチド配列(a)が、配列表の配列番号:2のヌクレオチド配列からなる請求項1または2に記載のDNA分子。
  4. 以下のヌクレオチド配列:
    (a)配列表の配列番号:1のアミノ酸配列を有し、7−メチルキサンチンN3メチルトランスフェラーゼ、テオブロミンN1メチルトランスフェラーゼ及びパラキサンチンN3メチルトランスフェラーゼとしての酵素活性を有するポリペプチドであるN−メチルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列、
    (b)前記ヌクレオチド配列(a)に、該ヌクレオチド配列(a)がコードするポリペプチドが前記酵素活性を維持し得る範囲内で、ヌクレオチドの置換、欠失または挿入を行って得られた変異ヌクレオチド配列のいずれかを有することを特徴とするRNA分子。
  5. 前記ヌクレオチド配列(a)と、前記変異ヌクレオチド配列(b)がストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るものである請求項4に記載のRNA分子。
  6. 前記配列(a)が、配列表の配列番号:2のヌクレオチド配列からなる請求項4または5に記載のRNA分子。
  7. 請求項1〜3のいずれかに記載のDNA分子と、該DNA分子によりコードされた前記N−メチルトランスフェラーゼを植物細胞中で発現させるための構成と、を有することを特徴とする発現用ベクター。
  8. 宿主細胞を請求項7に記載の発現用ベクターで形質転換して得られたものであることを特徴とする形質転換細胞。
  9. 前記宿主細胞が微生物細胞である請求項8に記載の形質転換細胞。
  10. 請求項8または9に記載の形質転換細胞を培養して、前記酵素活性を有するN−メチルトランスフェラーゼの製造方法。
  11. 請求項1〜3のいずれかに記載のDNA分子の有するヌクレオチド配列の全部又は一部に相補的なヌクレオチド配列であって、前記酵素活性を有する植物細胞に導入されて発現した場合に、該植物細胞の該酵素活性を阻害し得ることを特徴とするDNA分子。
  12. 請求項4〜6のいずれかに記載のRNA分子の有するヌクレオチド配列の全部又は一部に相補的なヌクレオチド配列であって、前記酵素活性を有する植物細胞に導入されて発現した場合に、該植物細胞の該酵素活性を阻害し得ることを特徴とするRNA分子。
  13. 請求項1〜6及び11〜12のいずれかに記載のDNA分子またはRNA分子を含むベクター。
  14. 微生物および植物の少なくとも一方の細胞内で、7−メチルキサンチンN3メチルトランスフェラーゼ、テオブロミンN1メチルトランスフェラーゼ及びパラキサンチンN3メチルトランスフェラーゼの酵素活性を有するN−メチルトランスフェラーゼを発現させることができるか、もしくは該N−メチルトランスフェラーゼの発現を阻害する機能を有する請求項13に記載のベクター。
  15. 請求項13または14に記載のベクターで形質転換された微生物。
  16. 請求項13または14に記載のベクターで形質転換された植物細胞、植物組織または植物体。
  17. 請求項13または14に記載のベクターが、感染により導入された請求項16に記載の植物細胞、植物組織または植物体。
  18. 請求項16または17に記載の植物細胞、植物組織または植物体を用いて植物二次代謝産物を製造する方法。
  19. 請求項16または17に記載の植物細胞、植物組織または植物体を用いて植物二次代謝産物の組成を改変する方法。
  20. 請求項16または17に記載の植物細胞または植物組織を培養するか、植物体を栽培して、植物二次代謝産物を製造する方法。
  21. 請求項16または17に記載の植物細胞または植物組織を培養するか、植物体を栽培して、植物二次代謝産物の組成を改変する方法。
  22. 植物二次代謝産物が、キサントシン、7−メチルキサントシン、1−メチルキサンチン、3−メチルキサンチン、7−メチルキサンチン、テオブロミン、テオフィリン、パラキサンチン、カフェインからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物である請求項18〜21のいずれかに記載の方法。
  23. 形質転換植物体が、ツバキ(Camellia)属植物、コーヒー(Coffea)属植物、コラノキ(Cola)属植物、モチノキ(Ilex)属植物、ネエア(Neea)属植物、アオギリ(Firmiana)属植物、ポーリニア(Paullinia)属植物又はカカオノキ(Theobroma)属植物体である請求項18〜21のいずれかに記載の方法。
  24. 7−メチルキサンチンN3メチルトランスフェラーゼ、テオブロミンN1メチルトランスフェラーゼ及びパラキサンチンN3メチルトランスフェラーゼとしての酵素活性を有するN−メチルトランスフェラーゼであって、
    (a)配列表の配列番号:1のアミノ酸配列、または
    (b)配列表の配列番号:1のアミノ酸配列に、該アミノ酸配列に、前記酵素活性を損なわない範囲内でのアミノ酸の置換、挿入または欠失を行って得られた変異アミノ酸配列を有することを特徴とするN−メチルトランスフェラーゼ。
  25. 前記アミノ酸配列(a)をコードするヌクレオチド配列と、前記変異アミノ酸配列(b)をコードするヌクレオチド配列とがストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るものである請求項24に記載のN−メチルトランスフェラーゼ。
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