JP2004148347A - オーステナイト系ステンレス鋼を溶接するための溶接材料およびこの溶接材料を使用した溶接方法 - Google Patents
オーステナイト系ステンレス鋼を溶接するための溶接材料およびこの溶接材料を使用した溶接方法 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】重量%で、C:0.05%以下、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.05〜0.8%、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Ni:30.0〜45.0%、Cr:20.0〜28.0%、Mo:5.5〜10.5%、N:0.18〜0.30%、Al:0.1%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、海洋構造物や化学プラント等の塩素イオンが多く存在する環境下で使用されるオーステナイト系ステンレス鋼を溶接するための溶接材料とその溶接方法に係り、特に、耐食性に優れるとともに非常に安価であり、かつ溶接部健全性および組織安定性に優れた溶接材料の開発技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼は、その優れた耐食性と加工性とから様々な分野で利用されており、その使用範囲は台所用品等の一般耐久消費材から化学プラント等の工業材料に至るまで広範囲に及んでいる。これに伴い、使用環境の多様化やコスト低減といった市場の需要が増大し、これに応えるべく鋼種の多様化や用途拡大が進んでいる。特に、工業製品においては、塩化物を高濃度に含む環境下での使用が多く、SUS304やSUS316等の汎用ステンレス鋼では腐食が発生するため、より優れた耐食性を有する材料が指向される。具体的には、CrやMoの含有量を増加させ、またはNを添加することにより、耐食性を向上させた各種ステンレス鋼が開発、適用されている。中でも、SUS836LやASTM−A240−UNS31254に代表される高耐食性オーステナイト系ステンレス鋼は、各種化学プラントや海洋構造物等の耐海水用途として、その適用が増加している。
【0003】
これらの材料を構造物または配管として使用する場合には、その多くは溶接によって施工される。かかる溶接方法としては、TIG溶接、プラズマ溶接および被覆アーク溶接等のアーク溶接法が多く用いられている。これらの溶接方法を実施する際には、溶接部の耐食性を確保するために、溶接材料に高耐食性のNi基合金を使用するのが一般的である。具体的には、JISZ3344に規定されているYNiCrMo−3やYNiCrMo−4等の溶接材料が用いられている。しかしながら、いずれの溶接材料もNi基合金であるために非常に高価であること、また湯流れが悪く作業性に劣る等の問題があった。かかる溶接材料のコスト削減や作業性の改善は、近年における構造物の大型化、適用領域の拡大に伴い、ますます重要な問題となっている。
【0004】
上記したNi基合金としては、Niを重量%で15〜19%含有させて耐隙間耐食性を向上させたワイヤが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、Niを55〜75%含有させて溶接金属の耐食性、機械特性および溶接作業性を向上させた被覆アーク溶接棒も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開2000−288780号公報(第2頁)
【特許文献2】
特開平8−252692号公報(第2〜6頁)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に記載されたワイヤは、Ni量が15〜19重量%と低いためにσ相などの金属間化合物が析出することから、優れた組織安定性を実現することができない。また特許文献2に記載された被覆アーク溶接棒は、Ni量が55〜75%と高いために、コストが割高となる。また、これらのNi基合金はいずれもフラックス入りの溶接材料であるため、食品プラント等の溶接部健全性が求められる構造物に使用することは望ましくない。そこで、今日においては、溶接部の耐食性がSUS836Lに代表される高耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼の母材と同等以上であることを前提とし、安価であって、かつ溶接部健全性および組織安定性に優れた溶接材料およびその溶接方法の技術開発が要請されていた。
【0007】
本発明は、このような要請に鑑みてなされたものであり、溶接部の耐食性がSUS836Lを代表とする高耐食性オーステナイト系ステンレス鋼の母材と同等以上であり、上記した特許文献1,2に記載したNi基合金溶接材料に比べて安価であり、かつ溶接部健全性および組織安定性に優れた溶接材料およびその溶接方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、耐食性に優れ、安価であり、かつ溶接部健全性および組織安定性に優れる高耐食性オーステナイト系ステンレス鋼を溶接するための溶接材料を開発すべく、鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得た。すなわち、溶接金属に関し、優れた耐食性を実現するためには、Cr,Mo,Nの含有量を一定量以上とすることが必要であるが、優れた組織安定性を実現すべく溶接中への金属間化合物の析出を抑制するためには一定量以下とすることが肝要である。さらに、Ni,Si,Mn,Cの含有量を適正化することにより、上記Ni基合金溶接材料に比べて非常に安価であり、かつ溶接部健全性および組織安定性に優れた溶接材料を得ることができる。
【0009】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼を溶接するための溶接材料は、以上の知見に基づいてなされたものであり、重量%で、C:0.05%以下、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.05〜0.8%、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Ni:30.0〜45.0%、Cr:20.0〜28.0%、Mo:5.5〜10.5%、N:0.18〜0.30%、Al:0.1%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼を溶接するための溶接材料は、Cr,Mo,Nの含有量の適正化により、SUS836Lを代表とする高耐食性オーステナイト系ステンレス鋼の母材と同等以上の溶接部の耐食性と組織安定性とを実現することができる。また、Ni,Si,Mn,Cの含有量の適正化により、上記Ni基合金溶接材料に比べて非常に安価であり、かつ溶接部健全性および組織安定性に優れた溶接材料を得ることができる。
【0011】
このようなオーステナイト系ステンレス鋼を溶接するための溶接材料においては、重量%で、前記残部成分の一部にかわり、Nb:0.50%以下、Cu:0.01〜1.5%、B:0.0001〜0.0050%のうち、いずれか1種以上をさらに含有することが望ましい。かかる場合には、Nbによるクリープ強度の改善と、Cuによる耐食性の向上と、Bによる熱間加工性の向上とを別途実現することができる。
【0012】
また、本発明の溶接方法は、上述した本発明に係る溶接材料を使用して好適に溶接を実施する方法であって、希釈率Dを以下の式で定義した場合に、希釈率Dが20〜70%となるように溶接することを特徴とするものである。
【0013】
【数2】
希釈率D(%)=((母材溶融部断面積) / (溶接金属断面積)) × 100
【0014】
ここで希釈率を定義する母材溶融部断面積と溶接金属断面積とについて述べる。図1(a)は、溶接前の母材1,2を示す側面図である。これに対し、図1(b)は、溶接後の母材1,2と溶接金属3との関係を示す図である。上記母材溶融部断面積とは、溶接後に断面のマクロ組織をエッチングにより現出し、観察されるビード断面形状と溶接前の開先形状(図1(a))との比較により算出される面積であり、図1(b)における「1a+2a」が該当する。また、溶接金属断面積とは、観察されるビード断面形状そのものであり、図1(b)における紙面内の点線で囲まれた部分3aをいう。ここで、希釈率は、図1(b)における(1a+2a)/3aとして算出される。
【0015】
本発明の溶接方法では、このような母材溶融部断面積および溶接金属断面積で定義される希釈率Dの適正化により、溶接部の耐食性を母材と同等以上に確保することができるとともに、優れた接合部強度を得て、好適な組織安定性を実現することができる。すなわち、希釈率を20%以上とすることで、母材溶融量が極小となることを防止して十分な接合部強度を得ることができる。一方、希釈率Dを70%以下とすることで、溶接材料の添加量に比べ母材溶融量が過多となることを防止して、当該溶接材料による優れた耐食性確保の効果を十分に得ることができる。
【0016】
以下に、溶接材料中の各含有元素の含有量の限定理由について述べる。なお、各元素の含有量はすべて重量%表示である。
C:0.05%以下
Cは溶接時に炭化物として析出すると粒界腐食や孔食の発生を招き、耐食性を劣化させる。したがって、Cの含有量はできるだけ少量とすることが好ましいことから、0.05%以下に限定した。
【0017】
Si:0.05〜1.0%
Siは溶製時に脱酸元素として添加され、溶融金属の湯流れを向上させる効果を有することから、Siの含有量の下限値は0.05%とした。しかしながら、多量に含有すると溶接熱サイクル中にσ相やχ相といった金属化合物の析出を促進し、溶接金属の耐食性および靭性を損なうため、含有量の上限値は1.0%とした。
【0018】
Mn:0.05〜0.8%
Mnは脱酸元素であると同時にオーステナイト相の安定度とNの溶解度とを高めるため、0.05%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が0.8%を超えると金属間化合物の析出を助長するため、優れた耐食性および靭性の実現の観点から好ましくない。したがって、Mnの含有量は0.05〜0.8%に限定した。
【0019】
P:0.04%以下
Pは不純物として不可避的に混入される元素であり、溶接時の高温割れ防止や溶接金属の優れた耐食性確保の観点から、その含有量は少量とすることが好ましい。しかしながら、Pの含有量を極端に低減させることは製造コストの増加を招くため、許容できる範囲として、その含有量は0.04%以下に限定した。
【0020】
S:0.003%以下
Sも前記Pと同様に原料から不可避的に混入される不純物元素であり、その含有量が0.003%を超えると高温割れ感受性を著しく高める。したがって、Sの含有量はできるだけ少ない方が望ましいことから、0.003%以下に限定した。
【0021】
Ni:30.0〜45.0%
Niはオーステナイト安定化元素であると共に、溶接時におけるσ相やχ相などの金属間化合物の析出を抑制する上で有効な元素であるため、少なくとも30.0%含有させる必要がある。しかしながら、過剰なNiの添加は、溶接材料の価格上昇を招き、上記特許文献2に記載されたNi基溶接材料との価格差が少なくなる。一方、45.0%を超えて添加しても上記金属間化合物の析出抑制効果が頭打ちとなる。そこで、Niの含有量は30.0%〜45.0%に限定した。
【0022】
Cr:20.0〜28.0%
Crは溶接金属に耐食性を付与する主要元素であり、溶接部の耐食性を母材同等以上に確保するためには、20.0%以上の含有が必要である。一方、含有量が28.0%を超えると、溶接時にσ相などの金属間化合物の析出を促進させ、耐食性および靭性を著しく損なうため、含有量の上限値は28.0%とした。
【0023】
Mo:5.5〜10.5%
Moも上記Crと同様に、溶接金属に耐食性を付与する元素であり、塩化物環境下での耐孔食性、耐隙間腐食性を向上させるためには5.5%以上の含有量が必要である。しかしながら、その含有量が10.5%を超えると、溶接時にσ相などの金属間化合物の析出を促進させ、耐食性および靭性を著しく損なため、含有量の上限値は10.5%とした。
【0024】
N:0.18〜0.30%
Nはマトリックスに固溶した状態で、耐食性および強度を高めると共に、金属間化合物の析出を抑制するのに有効な元素である。それらの効果を十分得るためには、Nの含有量を0.18%以上とすることが必要である。一方、Nの過剰な含有は、溶接時にブローホールなどの溶接欠陥を生じ易くなり、溶接金属の溶接部健全性を損なうと共に、窒化物の析出により溶接金属の耐食性が劣化するので、含有量の上限値は0.30%とした。
【0025】
Al:0.1%以下
Alは脱酸元素として添加されるが、0.1%を超えて含有すると、金属間化合物および窒化物の析出を促進して耐食性を劣化させるので、含有量の上限値は0.1%とした。
【0026】
次に、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼を溶接するための溶接材料において、必須元素ではないが、適宜含有させることにより、溶接材料のクリープ強度の改善、耐食性の向上、または熱間加工性の向上等が実現される各元素の含有量の限定理由を述べる。
Nb:0.50%以下
Nbは0.5%以下の添加により、溶接金属の強度の上昇およびクリープ強度の改善を図ることができる。一方、0.5%を越えて含有させると製造性の悪化を招くと共に、窒化物の析出を促進させ、靭性ならびに耐食性を劣化させるので、含有量の上限値は0.5%とするのが好ましい。
【0027】
Cu:0.01〜1.5%
Cuは、耐食性、特に硫酸などの酸に対する耐食性を向上させる元素であり、かかる効果は、Cuの含有量が0.01%以上の場合に得ることができる。一方、その含有量が1.5%を超えた場合には、溶接金属の靭性を低下させるので、含有させる場合でも当該含有量は1.5%以下とすることが好ましい。
【0028】
B:0.0001〜0.0050%
Bは熱間加工性の向上にきわめて有効な元素であり、0.0001%以上の含有によって製造時の歩留りの向上に寄与する。しかしながら、0.0050%を超えて含有させると、溶接時の高温割れ感受性を著しく高めるため、当該含有量の上限値は0.0050%とすることが好ましい。
【0029】
【実施例】
次に、本発明の実施例について詳細に説明する。母材として用いた高耐食性オーステナイト系ステンレス鋼の含有元素の成分組成を表1に示す。これは、JISG4305で規定するところのSUS836Lに相当する。この材料を板厚6mmとした後、開先角度60゜、ルートギャップ3〜4mm、ルートフェイス0.5mmのV開先を設け、TIG溶接により片面3パスの溶接を実施した。一方、溶接材料については、実験室的に溶製し、鍛造、熱間圧延、伸線工程(適宜焼鈍)を経て、表2に示す含有元素の成分組成を有するφ2.0mmのTIG溶接棒を作製した。なお、表1および表2に示したように、母材についてはすべて同じ材料を用意し、溶接材料については、各実施例および各比較例として示す異なる成分組成を有する15種類の材料を用意した。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
溶接条件は、初層を80A、2〜3パス目を140Aとし、溶接速度はいずれのパスにおいても70〜100mm/minとした。なお、シールドガスは100%Arを使用し、流量は12L/minとした。この際の希釈率Dは、いずれのパスにおいても、35〜50%であった。
【0033】
作製した溶接継手においては、耐食性、組織安定性、溶接部健全性および溶接棒の製造コストをそれぞれ調査した。また、溶接中の溶接作業性についても評価を加えた。これらの評価については、以下に示す方法によるものとした。
【0034】
・耐食性
本発明の主たる目的である優れた耐食性の実現について調査した。かかる耐食性については、JISG0577に準拠した孔食電位測定により評価した。試験溶液には、20重量%NaCl溶液 (Ar脱気) を使用し、溶液温度は70〜80℃とした。
【0035】
・組織安定性
組織安定性については、種々の機械的特性を調査することにより評価した。これは、上記した特許文献1に記載されたワイヤのように、組織安定の低いNi基合金については、金属間化合物が析出して、特に優れた延性等が実現されないからである。かかる溶接継手の機械的特性は、溶接継手の引張り試験、溶接金属のシャルピー衝撃試験および溶接継手の表・裏曲げ試験により評価した。溶接継手引張り試験は、JIS1号試験片を作製して引張り強度を測定した。溶接金属のシャルピー衝撃試験は、溶接方向垂直方向からサブサイズ(5×10×55mm)のVノッチシャルピー試験片を作製し、20℃における吸収エネルギーを測定した。また、曲げ試験は、余盛りを除去した後曲げ半径R=12mm (R=2t、tは板厚) にて曲げを付加し、その際の割れの有無を調査した。
【0036】
・溶接部健全性
溶接健全性については、溶接割れ感受性とブローホールの発生とについて評価した。溶接割れ感受性については、各パス溶接後カラーチェックにより割れの有無を確認して評価した。中でも、最も割れが発生しやすいとされる溶接終端部のクレータ割れの有無により、その感受性を評価した。また、ブローホールについては、溶接ビードの任意の断面を5箇所観察し、1箇所でもブローホールが認めらたものに対して、ブローホールの発生を「有」とした。
【0037】
・製造コスト
製造コストについては、YNiCrMo−3、通称インコネル625といわれるTIG用溶接棒を使用して実施した場合のコストとの相対的な比較により評価した。すなわち、溶接に関する製造コストがインコネル625TIG用溶接棒を使用した場合の2/3以下となる場合を「○」、2/3を超える場合を「×」とした。
【0038】
・溶接作業性
優れた溶接作業性の実現は、本発明の直接の目的ではないが、従来から操業上非常に重要な特性であることから、ここでは、副次的特性として調査した。かかる溶接作業性は、湯流れ、スラグの発生頻度から総合的に評価した。具体的な評価基準は、YNiCrMo−4、通称ハステロイ276といわれる溶接材料を使用して実施した場合の溶接作業性との相対的な比較により評価した。すなわち、ハステロイ276を使用した場合よりも優れていたるものを「〇」、同等もしくはそれ以下のものを「×」とした。以上に示した耐食性、組織安定性、溶接部健全性、製造コストおよび溶接作業性についての結果を表3に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
表3から明らかなように、実施例1〜7は、上記したすべての要求特性を同時に満足することが判明した。すなわち、各実施例は、いずれも母材と同等以上の耐食性を有するのみならず、組織安定性や溶接作業性にも優れており、かつ従来のNi基溶接材料よりも非常に安価に製造可能である。これに対し、比較例1は、Niの含有量が高すぎるため、製造コストが割高となり、かつ溶接作業性が若干劣る。比較例2および4は、それぞれ耐食性を確保するのに有効なCr、Nの含有量が少ないために、孔食が発生し、優れた耐食性が実現できない。また、比較例3は、Moの含有量が多すぎるために溶接中に金属間化合物が析出し、優れた靭性および耐食性を実現することができない。比較例5は、N含有量が多すぎるためにブローホールが発生しため、優れた溶接部健全性が実現されない。さらに、比較例6および7に関しては、それぞれNbおよびCuの含有量が多すぎるために靭性が低下し、比較例6は裏曲げについても割れが発生しており、組織安定性に劣る。比較例8は、Bの含有量が多すぎるために、凝固割れ感受性が増大し、これによりクレータ割れが観察されたことから、溶接部健全性に劣る。
【0041】
次に、表1に示す母材と表2に示す実施例1の溶接材料とを使用するとともに、上記した溶接方法を採用することを前提に、希釈率Dを18〜100%に変化させた場合の実施例8〜10および比較例9〜11に関する溶接を行った。これらの各実施例および比較例に関する溶接部の耐食性および継手強度の調査結果を表4に示す。なお、ここでの耐食性は、上記した手段、すなわちJISG0577に準拠した孔食電位測定により評価した。試験溶液には、20重量%NaCl溶液 (Ar脱気) を使用し、溶液温度は70〜80℃とした。また、継手強度についても上記した手段、すなわちJIS1号試験片を作製して引張り強度を測定することにより評価した。さらに、希釈率を変化させるにあたっては、開先角度を0〜70゜とし、ルートギャップを0〜4mmの範囲で変化させた。
【0042】
【表4】
【0043】
表4から明らかなように、希釈率Dが本発明の範囲内にある実施例8〜10については、耐食性および継手引張り試験の双方について優れた特性が確認された。これに対し、希釈率Dが小さい比較例9は、母材と溶接材料との混合が十分に行われないために、融合不良等の溶接欠陥が発生し易く、十分な接合強度を得ることができない。また、希釈率Dが大きい比較例10,11は、本発明の溶接材料を使用する効果が少なくなり、耐食性が低下する。
【0044】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼を溶接するための溶接材料は、溶接部の耐食性がSUS836Lを代表とする高耐食性オーステナイト系ステンレス鋼の母材と同等以上であり、従来のNi基合金溶接材料に比べて安価であり、かつ溶接部健全性および組織安定性に優れた溶接材料である。したがって、本発明の溶接材料は、塩化物を高濃度に含む使用環境、例えば各種化学プラントや海洋構造物等へ適用することができる点で有望である。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、溶接前の両母材を示す側面図であり、(b)は、溶接後の両母材と溶接金属との関係を示す図である。
【符号の説明】
1,2…母材、1a,2a…母材溶融部断面積、3…溶接金属、3a…溶接金属断面積。
Claims (3)
- 重量%で、C:0.05%以下、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.05〜0.8%、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Ni:30.0〜45.0%、Cr:20.0〜28.0%、Mo:5.5〜10.5%、N:0.18〜0.30%、Al:0.1%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼を溶接するための溶接材料。
- 重量%で、前記残部成分の一部にかわり、Nb:0.50%以下、Cu:0.01〜1.5%、B:0.0001〜0.0050%のうち、いずれか1種以上をさらに含有してなる請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼を溶接するための溶接材料。
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