JP2004026662A - 腹足類の誘引剤および誘引・殺虫剤 - Google Patents
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Abstract
【効果】本発明の誘引・殺虫剤を用いれば、従来の誘引・殺虫剤メタアルデヒドに比べて優れた誘引効果を持つことから、より効率的な防除をする事ができる。誘引成分が広範に長期間持続することから、環境中に放出する誘引成分量を低減することが出来る。さらに、殺虫成分の効率的な防除効果を得ることが出来る。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は陸棲および水棲の軟体動物腹足類の誘引剤および誘引して殺虫する誘引・殺虫剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ナメクジ、マイマイ等陸棲腹足類は、農作物、花卉、観葉植物、果樹など多くの植物を食害したり、銀色のこん跡を残すためこれらの作物の商品価値を大幅に低下させている。一方、水棲腹足類のスクミリンゴガイ(俗称ジャンボタニシ)は、水田内で生息している場合には、移植水稲および直播水稲の幼苗を好んで食すため、初期栽培期間において、甚大な被害を及ぼしている。
【0003】
これらの陸棲腹足類の防除方法としてはスプレー剤または誘引・殺虫剤を使用する方法が挙げられる。ただ、スプレー剤は、肉眼で発見できた腹足類を駆除できるに過ぎず、夜行性のナメクジ類・マイマイ類の防除には適していない。また、誘引・殺虫剤にはメタアルデヒドを約3〜6%含有するベイト剤が市販されている。このベイト剤は陸棲腹足類を誘い集めて殺虫する剤であるが、陸棲腹足類は湿度の高い場所に好んで生息するため、水分の多いところで使用すると、ベイト剤(粒剤)が崩壊しやすくなり、誘引・殺虫期間が短くなるという問題点がある。さらにメタアルデヒドは、一部の陸棲腹足類において不効害虫化の問題も挙げられており、新しい薬剤の開発が望まれている。
【0004】
さらに陸棲腹足類の誘引性を向上させるために、酵母や動物性食品の配合(特開平3−184901号)や、酵母で醗酵させた食餌の配合(特開平3−130203号)、酒かすの配合(特開平10−25207号)、糖類、バニリン、マルトール、低級アルコール(C2〜4)の配合(特開平11−130612号)が提案されている。
【0005】
水棲腹足類のスクミリンゴガイに対しては、水中で用いるため低魚毒性を求められることから有効な殺虫剤が少なく、石灰窒素、IBP剤、カルタップがスクミリンゴガイの食害を低減させる成分として利用されている。その中の石灰窒素は、分解物のシアナミドによる呼吸阻害での殺虫効果であり、IBP、カルタップは、有効成分の忌避効果による食害防止作用を利用している。これらはいずれも、田面水を汚染するという問題点がある。また、3,5−キシリル N−メチルカーバメート等(特開平3−2104号)が殺虫成分として提案されているが、水中で有効な誘引物質というものは極めて少ないので、誘引物質に関する提案はなされていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の腹足類誘引・殺虫剤であるメタアルデヒドは誘引効果が満足できるものではなかった。このため誘引効果を上げるために多量にメタアルデヒド剤を散布すると、環境中で必要以上に殺虫成分が放出され、他の生物への悪影響が生じるという別の問題も生じていた。
【0007】
従って、本発明の目的は、腹足類に対してより誘引力の高い誘引剤を提供すること、およびその誘引物質に腹足類に有効な殺虫成分を混合させた腹足類の誘引・殺虫剤を提供すること、特に開発が難しいとされていた水棲腹足類に対する誘引剤および誘引・殺虫剤を提供することにある。また、誘引力を高めることにより、誘引・殺虫剤の使用量を低減させ、環境中に放出する殺虫成分を低減させることを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは被害にあっている農作物、花卉、観葉植物、果樹や醗酵性食品に着目し、それら自身が有している揮発成分を中心にその誘引性について検討した。その結果、特定の総炭素数を有するアルデヒド、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコール等が腹足類に対して強い誘引力を有すること、さらにこれらの成分に殺虫成分を混合させれば、有効な誘引・殺虫剤が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は総炭素数5〜12の脂肪族アルデヒド、総炭素数5〜12の脂肪酸、総炭素数6〜11の脂肪酸エステル、総炭素数6〜11の脂肪族アルコール、フェニル酢酸およびパラアセトアルデヒドから選ばれる化合物の1種以上を含有する腹足類の誘引剤を提供するものである。また、本発明は前記した誘引性化合物に腹足類に有効な殺虫成分を混合させたことを特徴とする腹足類の誘引・殺虫剤を提供するものである。さらに本発明は総炭素数5〜12の脂肪族アルデヒド、総炭素数5〜12の脂肪酸、総炭素数6〜11の脂肪酸エステル、総炭素数6〜11の脂肪族アルコール、フェニル酢酸およびパラアセトアルデヒドから選ばれる化合物の1種以上を、誘引物質として使用することを特徴とする腹足類の誘引方法を提供するものである。本発明の腹足類の誘引・殺虫剤は本発明の腹足類の誘引剤が完成したことにより、実現したものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明でいう腹足類には陸棲のものと水棲のものが含まれ、ここで、陸棲の腹足類とは、コウラナメクジ、チャコウラナメクジ、ノハラナメクジ等のコウラナメクジ科、ナメクジ、ヤマナメクジ等のナメクジ科、ニワコウラナメクジ等のニワコウラナメクジ科等のナメクジ類、オカモノアライガイ等のオカモノアライガイ科、アフリカマイマイ等のアフリカマイマイ科、ウスカワマイマイ等のオナジマイマイ科などのマイマイ、カタツムリ類を指す。また、水棲の腹足類とはスクミリンゴガイ科等のリンゴガイ類を指す。
【0011】
本発明の腹足類の誘引剤の有効成分としては、総炭素数5〜12の脂肪族アルデヒド、総炭素数5〜12の脂肪酸、総炭素数6〜11の脂肪酸エステル、総炭素数6〜11の脂肪族アルコール、フェニル酢酸およびパラアセトアルデヒドから選ばれる化合物の1種または2種以上を含有している。ここで脂肪族アルデヒド、脂肪酸、脂肪酸エステル及び脂肪族アルコールの脂肪族鎖は、直鎖状、分岐状およびテルペン系のいずれであってもよい。
【0012】
脂肪族アルデヒドおよび脂肪酸では、総炭素数5〜12の化合物の腹足類誘引効果は、総炭素数がこの範囲よりも外側にある化合物の腹足類誘引効果に比べて顕著に優れている。また脂肪酸エステル及び脂肪族アルコールでは、総炭素数6〜11の化合物の腹足類誘引効果は、総炭素数がこの範囲よりも外側にある化合物の腹足類誘引効果に比べて顕著に優れている。
【0013】
本発明に使用される脂肪族アルデヒドとしてはn−ヘキサナール、n−ヘプタナール、トランス−2−ノネナール、n−オクタナール、n−ノナナール、2,6−ノナジエナール、n−デカナール、2,4−デカジエナール、n−ウンデカナール、2−メチルデカナール(メチルオクチルアセトアルデヒド)、10−ウンデセナール、2−メチルウンデカナール(メチルノニルアセトアルデヒド)、シトラール、シトロネラール等が挙げられる。脂肪酸としてはn−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、n−ノナン酸、n−デカン酸、ゲラン酸、シトロネリル酸等が挙げられる。脂肪酸エステルとしては酢酸イソアミル、酪酸エチル、酢酸ヘキシル、ヘキサン酸エチル、オクタン酸エチル等が挙げられる。脂肪族アルコールとしてはシス−3−ヘキセノール、1−オクテン−3−オール、シス−3−ノネノール、ネロール、ゲラニオール等が挙げられる。
【0014】
以上挙げた中で特に好ましい具体例は、n−ヘキサナール、n−オクタナール、n−ノナナール、n−デカナール、n−ウンデカナール、2−メチルデカナール、シトラール、シトロネラール、n−オクタン酸、n−ノナン酸、ゲラン酸、酢酸イソアミル、酪酸エチル、酢酸ヘキシル、ヘキサン酸エチル、1−オクテン−3−オール、シス−3−ノネノール、フェニル酢酸、パラアセトアルデヒドである。
【0015】
本発明の腹足類誘引剤中の誘引性化合物含有量は、0.005〜10重量%で望み通りの効果が得られるが、好ましくは0.01〜5重量%、さらに好ましくは0.05〜3.0重量%である。
【0016】
また前記した誘引性化合物に、腹足類に有効な殺虫成分を混合させれば、腹足類を誘い集めて殺す誘引・殺虫剤とすることができる。かかる殺虫成分としては、殺腹足類作用を有するものであれば限定されず、例えばメタアルデヒド、塩化トリフェノール錫、酢酸トリフェノール錫、石灰窒素、IBP、カルタップ、マクロテトロライド、2−シアヌル酸トリアリルエステル、チオジカルブ、3,5−キシリル N−メチルカーバメート等が挙げられ、特に好ましくはメタアルデヒド、3,5−キシリル N−メチルカーバメートが挙げられる。
【0017】
本発明誘引・殺虫剤中の誘引性化合物の含有量は、前記した誘引剤の場合と同様であり、0.005〜10重量%で望み通りの効果が得られるが、好ましくは0.01〜5重量%、さらに好ましくは0.05〜3.0重量%である。殺虫成分の含有量は種類によって異なるが、1〜10重量%、好ましくは3〜8重量%である。
【0018】
本発明の誘引・殺虫剤には、必要に応じて腹足類と同一環境に棲息するダンゴムシ、ヤスデなどの殺虫効果をもたせるため、1−ナフチル−N−メチルカーバメイト(NAC、カルバリル)、O,O−ジエチル−O−(2−イソプロピル−6−メチルピリミジン−4−イル)ホスホロチオエート(ダイアジノン)、O,S−ジメチル−N−アセチルホスホロアミドチオエート(アセフェート)などの殺虫成分を併用して配合する事ができる。
【0019】
本発明腹足類の誘引剤および誘引・殺虫剤には、溶剤、賦形剤、可食性成分等を含有させることができる。ここで溶剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類;フタル酸エステル等のエステル類;流動パラフィン、イソパラフィン等の炭化水素類などが挙げられる。また、賦形剤としてはケイソウ土、シリカ、シリカゲル、珪酸カルシウム、クレー、デキストリン、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、小麦粉等の粉体を用いることができる。また、可食性成分としてはポテト、フスマ、米糠、小麦粉などの穀粉、砂糖、ブドウ糖、水飴等の糖質、サナギ粉、オキアミ、魚粉、牛や豚肉粉などの動物性粉末、酵母などを用いることができる。
【0020】
また、必要に応じて防腐剤としてホウ酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸、ソルビン酸とその塩、パラオキシ安息香酸エステル類などを配合する事ができる。
【0021】
本発明腹足類の誘引剤および誘引・殺虫剤の剤形としては、長期間作用させることができる点で固形製剤が好ましく、ペレット状、粉末状、ビーズ状、円盤状等の形態とすることができる。
【0022】
本発明の誘引剤及び誘引・殺虫剤は畑、水田、用水路、畝、果樹園、庭、植木鉢、家屋周辺の腹足類が棲息している場所に直接ばらまいたり、入り口となる穴を設けた円錐状、円柱状、直方体等の種々形状のトラップ容器内に設置して使用する事もできる。
【0023】
【実施例】
実施例1
誘引性化合物についての誘引性の評価を以下の方法で行なった。
[評価方法](T字ガラス管法)
直径7mmの試験管を組みあわせ、導入部5cm、分岐後各13cmよりなるT字管を作成し、導入部に100mL容三角フラスコを接続する。T字管の分岐先端部の両方に直径7mmのキャベツ片3枚を入れ、片方端に0.01mg〜0.0001mgの試験化合物を含浸した1.5cmろ紙を置き、湿らせた脱脂綿で両端をフタをした。試験化合物濃度は、濃度によって誘引効果に違いが見られる場合があったので、0.01mg、0.001mg、0.0001mgの各段階で適宜選択し、最も良い結果が得られたものの誘引率(%)を[式1]によって求めた。
【0024】
【数1】
【0025】
3角フラスコ部に体長2〜3cmのチャコウラナメクジ2〜3匹を入れ、のべ9〜10匹となるように試験を同時に行なった。
評価は、12時間後(夜から朝)に行なった。その時点でナメクジは、三角フラスコ内、試験化合物含浸のろ紙のある先端部、ろ紙のない先端部、分岐部のいずれかの場所におり、試験化合物含浸のろ紙のある先端部にいたナメクジ数ののべ数をカウントした。比較例としてメタアルデヒド6%剤として市販誘引・殺虫剤ナメトックス(タケダ園芸製)を0.03g使用した。また比較例として、エタノール、バニリンについても実施した。
【0026】
その結果、表1に示すように、炭素数が本発明の範囲内にあるアルデヒド、脂肪酸、エステル、アルコール、フェニル酢酸及びパラアセトアルデヒドは、市販の誘引・殺虫剤であるメタアルデヒドに比べて、低濃度で顕著な誘引効果を示した。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例2〜3
以下に示す誘引・殺虫剤を調製し、市販誘引・殺虫剤であるメタアルデヒド6%剤との比較試験を行なった。
【0029】
[試験ベイト剤の調製法]グルテン20重量部(以下、単に部で示す)、コーンスターチ50部、クレー25.5部、試験誘引化合物0.5部、殺虫成分3,5−キシリル N−メチルカーバメート(XMC)4部を混合し造粒機にて約1cmのペレット状に成形し試験誘引・殺虫剤とした。また、メタアルデヒド剤6%はNAC剤(タケダ園芸製)を使用した。
【0030】
実施例2(チャコウラナメクジ)
イネ育苗箱(60cm×30cm)を2つ重ねにして試験容器とし、試験容器内両端に5cmシャーレを伏せて試験剤設置場所とした。片側に試験誘引・殺虫剤1g、反対側にメタアルデヒド剤6%剤1gを設置し、中央にチャコウナメクジ10匹を放置し、誘引性の比較試験を行なった。評価は3時間後に行なった。
【0031】
A:9割以上が試験誘引・殺虫剤に集合。
B:5割以上が試験誘引・殺虫剤に集合。
C:メタアルデヒド剤に5割以上集合。
【0032】
その結果、表2に示すように本発明の誘引・殺虫剤は市販の誘引・殺虫剤であるメタアルデヒド剤に比べて誘引効果が顕著に優れていた。
【0033】
【表2】
【0034】
実施例3(ウスカワマイマイ)
イネ育苗箱を2つ重ねにして試験容器とし、試験容器内両端に5cmシャーレを伏せて試験剤設置場所とした。試験誘引・殺虫剤は誘引化合物0.05部とした以外は同配合とした。片側に試験誘引・殺虫剤1g、反対側にメタアルデヒド剤6%剤1gを設置し、中央にウスカワマイマイ10匹を放置し、誘引性の比較試験を行なった。評価は3時間後に行なった。
【0035】
A:9割以上が試験誘引・殺虫剤に集合。
B:5割以上が試験誘引・殺虫剤に集合。
C:メタアルデヒド剤に5割以上集合。
【0036】
その結果、表3に示すように本発明の誘引・殺虫剤は市販の誘引・殺虫剤であるメタアルデヒド剤に比べて誘引効果が顕著に優れていた。
【0037】
【表3】
【0038】
実施例4(スクミリンゴガイ)
1.4mのPP樹脂製の誘引評価装置を作成し、一方より水を滴下させ、滴下側に試験誘引・殺虫剤1gをネットに入れてセットする。逆側よりスクミリンゴガイ(殻径2cm以上)を10頭放置し、誘引化合物0.5部配合の誘引・殺虫剤への接近状況を1日後に調べた。評価基準は以下の通り。
【0039】
◎:60%以上試験誘引・殺虫剤に誘引。
○:30%以上試験誘引・殺虫剤に誘引。
×:誘引性認められず。
【0040】
その結果、表4に示すように本発明の誘引・殺虫剤はスクミリンゴ貝に対して優れた誘引効果を示した。
【0041】
【表4】
【0042】
なお、実施例2〜4において、誘引された腹足類はすべて死亡していた。
【0043】
【発明の効果】
本発明の誘引・殺虫剤を用いれば、従来の誘引・殺虫剤メタアルデヒドに比べて優れた誘引効果を持つことから、より効果的な防除をする事ができる。誘引効果が高いので、環境中に放出する殺虫成分を低減させることができる。また本発明によって、水棲腹足類に対する誘引剤および誘引・殺虫剤の提供も可能になった。
Claims (3)
- 総炭素数5〜12の脂肪族アルデヒド、総炭素数5〜12の脂肪酸、総炭素数6〜11の脂肪酸エステル、総炭素数6〜11の脂肪族アルコール、フェニル酢酸およびパラアセトアルデヒドから選ばれる化合物の1種以上を含有する腹足類の誘引剤。
- 総炭素数5〜12の脂肪族アルデヒド、総炭素数5〜12の脂肪酸、総炭素数6〜11の脂肪酸エステル、総炭素数6〜11の脂肪族アルコール、フェニル酢酸およびパラアセトアルデヒドから選ばれる化合物の1種以上を含有し、腹足類に有効な殺虫成分を混合させたことを特徴とする腹足類の誘引・殺虫剤。
- 総炭素数5〜12の脂肪族アルデヒド、総炭素数5〜12の脂肪酸、総炭素数6〜11の脂肪酸エステル、総炭素数6〜11の脂肪族アルコール、フェニル酢酸およびパラアセトアルデヒドから選ばれる化合物の1種以上を、誘引物質として使用することを特徴とする腹足類の誘引方法。
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