JP2004024069A - オルガノイドシート、その用途及び製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】細胞凝集体からなるシート状で、シートの厚み方向に細胞が2層以上積層し、細胞組織が本来有する機能を有することを特徴とするオルガノイドシート。
オルガノイドシートの製造方法は、細胞は通過させないが、液性成分は透過させるシート状支持材料を微小間隔で並列配置し、シート状支持材料間の微小間隙に細胞を注入し、遠心力あるいは静水圧などの力学的手法により加圧する工程を含むことを特徴とする。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、人工臓器、移植材料などに用いることができるシート状の細胞組織体(オルガノイド)に関するものである。
より詳細には、本発明は、ハイブリッド型の人工臓器(バイオ人工臓器)や再生医療技術において用いることができるシート状のオルガノイドに関するものである。
本発明は、また、該オルガノイドシートの用途、及び製造方法にも関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、機能不全あるいは欠損に陥った臓器や組織の治療方法として、培養細胞と生体適合性材料を組み合わせるハイブリッド型人工臓器(バイオ人工臓器ともいう)や再生医療技術の開発が注目されている。
【0003】
例えば、現在わが国における肝臓病患者は60万人以上といわれており、年間約5万人の患者が肝臓病のために死亡している。このうち約千人が急性肝不全、残りが肝がんを含めた慢性肝不全による死亡である。肝不全などの肝臓病の根本的な治療法は肝移植であるが、臓器提供者(ドナー)不足が大きな問題であり、人工肝臓の開発が求められている。
しかし、500種類以上もの複雑多岐な肝機能を人工的手段のみで代替することは困難であり、人工肝臓として、最近では肝細胞そのものを利用するバイオ人工肝臓が注目されている。
【0004】
バイオ人工肝臓としては、現在、図1に示されるような体外設置型の治療システムが主流である。図1に示すとおり、人工肝臓は、肝不全患者から血液を引き出し循環させる生体側回路と、人工肝臓モジュール側で血漿を循環させ、代謝・解毒を行う人工肝臓モジュール側回路を、血漿分離器を介して物質交換させることにより治療を行うものである。
【0005】
このような人工臓器モジュールには、分散した細胞を用いるのでは不充分である。すなわち、従来より細胞培養に用いられてきた単層培養法では、細胞の機能の消失や低下が避けられず、生体組織に類似する組織体を構築して用いることが重要である。
【0006】
このような観点から最近細胞の球状凝集体(スフェロイド)や、円柱状組織体(シリンドロイド)のような器官様組織体(オルガノイド)培養法が新しく確立され、培養下での細胞の高機能発現とその長期機能維持が実現できるようになりつつある。
【0007】
例えば、本発明者らは、スフェロイドの培養方法として、ポリウレタンフォーム(PUF)のようなポリマー基材内にスフェロイドを形成する方法を開発した(特開平10−29951号公報、H.Ijima等 “Tissue Engineering” 第4巻、第2号、213−226頁(1998))。PUFは主骨格と薄い膜梁構造を有する多孔質であり、PUF孔間がある程度連通していることから、良好な物質交換環境下で高密度培養が達成できる。PUF孔内で肝細胞を培養すると約200個程度の肝細胞が次第に集合し、粒径100μm程度のスフェロイドを自発的に多数形成する。既に本発明者らは、この培養法を利用したスフェロイドによるヒト臨床スケールの短期適用型(10日程度)バイオ人工肝臓の開発に成功した。
【0008】
さらに本発明者らは、よりコンパクトで長期適用型の人工肝臓を追求していたところ、遠心力によって肝細胞を中空糸に高密度に充填できることを見出し、モジュール当たり2.4×107cells/cm3の細胞密度を有する人工モジュールを得た(「平成12年度(第31回)繊維学会夏期セミナー講演要旨集」115〜118頁参照)。
また、人工肝臓のベッドサイドでの操作性の向上、慢性的なドナー不足の解消を考えると、さらにコンパクトで長期機能維持が可能な人工肝臓が必要であり、そのために、本発明者らは、より高密度の肝細胞オルガノイド(細胞組織体)を開発して特許出願した(特願2001−48201号)。
【0009】
しかしながら、これらの従来のオルガノイドは、球状(スフェロイド)や中空糸内の円柱状組織(シリンドロイド)に限られるものであった。
本発明者らは、さらに研究開発を進めた結果、これらの球状や円柱状のオルガノイドのみでなく、シート状のオルガノイドが得られれば、平膜型や積層型の人工臓器への適用範囲が広がることに思い至った。このようなシート状に形成されたオルガノイドの報告は、従来なされていない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、シート状のオルガノイド(細胞組織体)を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、人工臓器用モジュールに適用できるシート状のオルガノイドを開発することに成功した。
すなわち、本発明者らは、細胞同士の接触頻度を高めることにより細胞組織体が形成されることに着目し、細胞に遠心力又は静水圧のような力学的手法で加圧力を作用させることにより、シート状で細胞組織が本来有する機能を有している高密度に充填されたオルガノイドを得ることができた。
その結果、思いがけず、本発明のオルガノイドシートによって、先に出願した中空糸内の円柱状組織(シリンドロイド)(特願2001−48201号)より、さらに向上した細胞機能を有することを見出した。
【0012】
また、本発明のシート状オルガノイドによって、例えば、心筋パッチ、人工皮膚、肝移植などのような移植材料をも提供することができた。
【0013】
さらに、本発明者らは、肝細胞組織が有する機能のためには、シートにおける肝細胞は少なくとも2層必要であることを見出した。
さらにまた、本発明者らは、シート状肝細胞オルガノイドの厚さが150μmを超えるとき、肝細胞オルガノイドシートの中心部分の細胞が壊死するので、好ましくないことも見出した。
また、本発明は、このようなオルガノイドシートを、遠心力や静水圧を作用させることによって得ることを特徴とする製造方法にも関するものである。
【0014】
より詳細には、本発明は、
(1)細胞凝集体からなるシート状で、シートの厚み方向に細胞が2層以上積層し、細胞組織が本来有する機能を有することを特徴とするオルガノイドシート、
(2)細胞が動物組織由来細胞である上記(1)記載のオルガノイドシート、
(3)細胞がヒト臓器由来細胞である上記(2)記載のオルガノイドシート、
(4)細胞が肝細胞である上記(2)または(3)に記載のオルガノイドシート、
(5)細胞が心筋細胞である上記(2)または(3)に記載のオルガノイドシート、
(6)厚みが150μm以下である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のオルガノイドシート、
(7)さらに、シートの少なくとも一方の面に1層以上の支持層を備えていることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載のオルガノイドシート、
(8)支持層がオルガノイドシートの細胞は通過させないが、液性成分は透過させる多孔質層を含むことを特徴とする上記(7)に記載のオルガノイドシート、
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載される人工臓器用オルガノイドシート、
(10)入口及び出口を有する容器の内部に、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のオルガノイドシートを少なくとも1枚封入し、且つ被処理液の通路を設けてなるバイオ人工臓器、
(11)容器内のオルガノイドシートと被処理液の通路とが、細胞は通過しないが液性成分を透過させる多孔質体の隔壁によって完全に隔てられていることを特徴とする上記(10)に記載のバイオ人工臓器、
(12)被処理液が血液、血漿、あるいは培養培地である上記(10)または(11)に記載のバイオ人工臓器、
(13)オルガノイドシートの細胞が肝細胞である上記(10)〜(12)のいずれかに記載のバイオ人工臓器、
(14)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のオルガノイドシートを有してなることを特徴とする移植材料、
(15)オルガノイドシートの少なくとも一方の面に、生分解性ポリマーからなる支持層を備えていることを特徴とする上記(14)に記載の移植材料、
(16)生分解性ポリマーがポリ酸からなる合成ポリマーである上記(15)に記載の移植材料、
(17)生分解性ポリマーが生体高分子である上記(15)に記載の移植材料、
(18)細胞は通過させないが、液性成分は透過させるシート状支持材料を微小間隔で並列配置し、シート状支持材料間の微小間隙に細胞を注入し、遠心力あるいは静水圧などの力学的手法により加圧する工程を含むことを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載のオルガノイドシートの製造方法、及び
(19)加圧工程の後、支持材料を取り外す工程をさらに含むことを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載のオルガノイドシートの製造方法、に関するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明において、オルガノイドとは、細胞が集積した細胞組織体であって、細胞組織が本来有する機能を有する臓器(オルガン)に近似するものをいう。 例えば、本発明で得られた肝細胞が集積した組織体は、肝臓組織が本来有するアンモニア除去効果やアルブミン分泌効果などの肝機能を有するので細胞オルガノイドといえるものである。
【0016】
本発明において用いられる細胞には、肝細胞、心筋細胞、腎臓細胞、皮膚細胞、表皮角化細胞、繊維芽細胞、血管内皮細胞、血管壁細胞、神経細胞、軟骨細胞、あるいはそれらの組み合わせなどがあるが、本発明では、特に肝細胞及び心筋細胞が好ましく用いられる。
肝臓は、ヒトの臓器のうちでも最大のものであり、蛋白質や糖質をはじめとする生体に必要な物質の合成、貯蔵、あるいはアンモニアや薬物などの代謝解毒、外分泌器官として胆汁酸などを放出し脂肪の消化やビタミンの吸収に関与するなど複雑多岐にわたる機能を有している。本発明の肝細胞オルガノイドシートは、アンモニアの分解代謝や、アルブミン合成などの肝臓組織が本来有している機能を有している。
【0017】
本発明の細胞源は、通常、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ブタ、ヒヒ、ヒト等に由来する正常細胞であるが、これらに限られるものではない。また、樹立された株化細胞も対象となる。
例えば、正常肝細胞の場合、肝臓をコラゲナーゼ溶液などの酵素液で処理する一般的な酵素消化法を用いることによって単離肝細胞を得ることができる。
心筋細胞の場合、心臓をトリプシンやコラーゲンなどの酵素液で処理する一般的な酵素消化法を用いることによって単離心筋細胞を得ることができる。
【0018】
本発明の細胞オルガノイドの厚みは細胞2層分以上である。2層分の厚みを有していれば、オルガノイドとしての機能を発揮できる。
例えば、肝細胞であれば、細胞の大きさは、20μm程度であるから、2層分は、40μm程度の厚さに相当する。厚みが150μmを超えると、中心部分の細胞への酸素の供給ができなくなり、細胞が壊死する可能性があるので好ましくない。
したがって、本発明においてオルガノイドの厚みは細胞2層以上必要であり、150μm以下が好ましい。
ここで、厚みとは、オルガノイドシートの表層から表層までの厚みをいうが、オルガノイドシートの長さ及び幅は、任意に設定できる。
【0019】
本発明のオルガノイドシートにおいて、細胞密度は、1×107cells/cm3以上、より好ましくは5×107cells/cm3以上、さらに好ましくは9×107cells/cm3以上である。
オルガノイドの細胞密度が高いと空隙が少なくなるので、酸素の供給のために厚みをあまり大きくすることができず、一方細胞密度が本発明の範囲であっても比較的小さいときには厚みが大きい方が良い。したがって、本発明のオルガノイドにおいて、細胞密度と厚みとは逆の相関関係を有するのがより好ましい。
【0020】
本発明のオルガノイドでは、その表面を除いて、各細胞が相互に三次元的に接触していることが重要である。生体中で細胞は、隣接する細胞同士がさまざまな細胞間結合を介して情報交換をし、機能発現をしていることが分かっている。本発明では、細胞に遠心力や静水圧のような物理的力を作用させることで高密度に充填し、細胞同士の接触頻度を飛躍的に向上させることにより細胞密度の高い組織体を形成させることができた。
【0021】
本発明のオルガノイドシートでは、シートの少なくとも一方の面に支持層を備えていることが好ましいが、用途によっては、支持層がない方が好ましい。
支持層は、オルガノイドシートを製造・培養する際の担体になるし、オルガノイドシートを人工臓器に適用する際、そのまま被処理液と細胞とを隔てる隔壁としても利用できる。
さらにまた、オルガノイドシートを移植材料として用いるときには、支持層に生分解性ポリマーを用いることによって、移植後に支持層を消失することができる。
【0022】
該支持層は、人工臓器に適用するとき、細胞は通過させないが液性成分は透過させる多孔質層を含むことが好ましい。
多孔質層の材質は、セルロース系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリスルホン系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリアミド系など、選択分離膜として一般的に利用できる素材であればいずれでも良い。
多孔質層は、細胞を通過させない程度に小さい孔径を有していれば良く、なおかつ物質透過性を損なわない程度に大きい孔径、および厚さを有していれば良い。例えば、孔径としては0.001〜15μm程度であり、厚さとしては10〜200μm程度が望ましいが、これに限定されるものではない。
多孔質層の形状は、上記の透過性が得られるものであればいずれでも良く、平膜、発泡体、織布、不織布等があげられる。
これらの多孔質層は、オルガノイドシートと支持層との間に挟まれる、複数の支持層に挟まれる、支持層の表面を覆う、或いはオルガノイドシートを覆う等、細胞と被処理液とを分ける隔壁として機能すれば、いずれの使用態様をとることができる。
【0023】
移植材料に適用するとき、支持層は、生分解性ポリマーからなることが好ましい。生分解性ポリマーは、合成ポリマーと生体高分子とに大別されるが、移植部位や目的、用途に応じて適宜選択することができる。
生分解性ポリマーとしての合成ポリマーとは、モノマーの重縮合や重付加等の操作によって得られる生分解性の高分子物質のすべてを言い、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリシアノアクリレート系ポリマーなどが挙げられる。なかでもポリ酸が好ましく、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、或いはグリコール酸−乳酸共重合体が特に好ましい。これらのポリ酸は、生体内という緩和な条件下でも加水分解を受けやすく、分解によって一時的に生成する乳酸やグリコール酸はきわめて毒性が低いうえ、生体内で二酸化炭素と水とに分解されるからである。
また、生分解性ポリマーとしての生体高分子とは、生体に存在することが知られている高分子物質のすべてを言い、多糖類、蛋白質、核酸の他、糖蛋白などこれらの複合物をも含む。なかでも、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン、テネイシン、ヒアルロン酸、フィブリン、プロテオグリカン等、細胞外マトリックスと言われる物質が、主に細胞骨格形成や細胞間接着に寄与する点で好ましく使用できる。支持層を任意の形状に加工しやすい点で、フィブリンがもっとも好ましい。
生分解性ポリマーからなる支持層の形状は、オルガノイドシートを支えることができればいずれの形状であってもよく、例えば、フィルム、メッシュ、織布、不織布、粒子等があげられる。
【0024】
本発明のオルガノイドシートを製造するには、分散している細胞に遠心力、静水圧のような物理的力を作用させて高密度に充填し培養することが必要である。具体的には、本発明のオルガノイドシートの製造方法は、細胞は通過させないが、液性成分は透過させるシート状支持材料を微小間隔で並列配置し、シート状支持材料間の微小間隙に肝細胞を注入し、遠心力あるいは静水圧などの力学的手法により加圧する工程を含むことを特徴とする。
【0025】
例えば、物質透過性の良好な平膜や不織布などを100μm程度の微小間隙で規則的に配置したスカッフォルド(培養担体構造)を構築し、このスカッフォルド内に力学的手法(遠心力、静水圧などの加圧力)を利用して細胞を充填・高密度化することによって、全ての細胞が生存・機能発現できるオルガノイドシートを製造できる。
形成したオルガノイドシートは、スカッフォルドに固定した状態、あるいはスカッフォルドから取り外した状態で培養あるいは治療に用いることができる。
図2には、このオルガノイドシートの製造方法を概念図で示した。
【0026】
本発明の製造方法で用いる平膜や不織布は、前記の支持層で説明したとおりである。
【0027】
細胞は、細胞懸濁液にしてスカッフォルドに注入するのが細胞に損傷を与えないために好ましい。細胞懸濁液の濃度は細胞に損傷を与えず高密度化するために2×107cells/ml以下が好ましく、0.1〜1×107cells/mlがより好ましい。高密度に充填するためには、膜孔から培養液のみを除去しながら注入を行うことが好ましい。
【0028】
細胞を注入したスカッフォルドに、5〜1500Gの遠心力を30〜600秒程度作用させて細胞の高密度化をはかる。1500Gを超えると細胞は損傷を受けるかあるいは死滅してしまう。細胞をできるだけ死滅させないために遠心力は、60G×90秒程度の負荷が適当である。
静水圧を負荷する場合には、細胞を注入したスカッフォルドに5〜25kPaの静水圧を4〜120時間負荷する。10kPaの一定静水圧を24時間負荷する程度が最も好ましい。
【0029】
培養液としては、ウイリアムE培地(WE)やダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)などの基礎培地にホルモンや無機塩を添加した無血清培地、あるいはWEやDMEMなどの基礎培地に血清を添加した血清添加培地が使用される。
【0030】
以下に肝細胞による実施例を示して、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下の実施例及び対照例において、肝細胞は次のようにして調製した。
[肝細胞の調製法]
初代ラット肝細胞を調製するために0.5mg/mlのコラゲナーゼ(和光純薬社)溶液150mlを用意した。7週齢の雄ウイスター系ラット(体重250g)の門脈(肝臓に入る血管)にカニューレを導入し、脱血液を30ml/minで5分間流した後、37℃に加温したコラゲナーゼ溶液を15ml/minで10分間流した。コラゲナーゼによって処理された肝臓を培養液に入れ、メスとピペットを使って肝細胞を分散させた。得られた肝細胞懸濁液を3回洗浄し、肝細胞以外の細胞を取り除いた(95%以上の純度)。肝細胞懸濁液の最終密度は1.0×105cells/mlのものを作製し、培養実験に使用した。
【0031】
以下の実施例及び対照例において、機能活性をはかるためのアンモニア除去速度及びアルブミン分泌速度は次のようにして測定した。
[アンモニア除去速度]
培養培地に1mMの濃度になるようにアンモニアを添加し、アンモニア濃度の経時的な減少量を測定し、アンモニア除去速度(μmol/106cells/hr)を計算した。
【0032】
[アルブミン分泌速度]
培養培地中に分泌されたアルブミンを酵素標識免疫測定法により定量し、アルブミン分泌速度(μg/106cells/day)に換算した。
【0033】
〔実施例〕
本実施例では図2の概念図に準じたオルガノイドシート作製容器を作製したが、本発明はこれに限定されるものではない。培養培地排出用の小孔(1)を有するポリカーボネート製ハウジング(2)の内部に、2枚のポリカーボネート製多孔メンブラン(3)(厚み10μm、開口率23%、孔径1.2μm、ミリポア製)を100μmの間隔で配置させた容器を作製した。この時、ハウジング上部は開口させて細胞播種口とした。また、2枚のポリカーボネート製多孔メンブラン間においてオルガノイドシートが形成される空間は、縦1.5cm、横2.5cm、厚み100μmとした。
【0034】
コラゲナーゼ消化法により上記〔肝細胞調製法〕に調製した1.0×107cells/mlの初代ラット肝細胞懸濁液(4)0.5mlを容器の細胞播種口に注入した。次にこの容器に遠心(60×G、90秒)を負荷することによって、ハウジングの培養培地排出孔から培養培地を排泄しつつ多孔メンブラン間の細胞を高密度化させ、オルガノイドシート形成を誘導した。
【0035】
遠心終了後、ハウジング部分を取り外し、多孔メンブラン間で形成された肝細胞オルガノイドシートを直径100mmの培養ディッシュ(旭テクノグラス製)で培養した。培養培地は、Dulbecco’s modified eagle medium(ギブコ製)13.5g/Lに60mg/Lプロリン、50ng/mL EGF(フナコシ製)、10mg/Lインシュリン(シグマ製)、7.5mg/Lヒドロコルチゾン(和光純薬製)、0.1μM硫酸銅・5水和物(和光純薬製)、3μg/Lセレン酸(和光純薬製)、50pM硫酸亜鉛・7水和物(和光純薬製)、50μg/Lリノール酸(シグマ製)、58.8mg/Lペニシリン(明治製菓製)、100mg/Lストレプトマイシン(明治製菓製)、1.05g/L炭酸水素ナトリウム(和光純薬製)、1.19g/L HEPES(同人堂製)を添加した無血清培地18mLを用いた。培養は5%炭酸ガス、95%大気の雰囲気下で旋回培養(45rpm)を行った。
肝細胞の機能評価として、培養培地に1mMの濃度となるようにアンモニアを添加し、アンモニア濃度の経時的な減少量を測定することでその活性を評価した。また、培養培地中に分泌されたアルブミンを定量することでその活性を評価した。さらに、培養されたオルガノイドシートの割断面をヘマトキシリン・エオジン染色法によって染色し、顕微鏡を用いて観察した。
【0036】
対照として、中空糸/肝細胞オルガノイドを培養し、同様の評価を行うことでそれぞれの機能比較を行った。この対照例の中空糸/肝細胞オルガノイドは、長さ3cmの中空糸6本から構成される中空糸バンドル内において、約1.2×106個の肝細胞から円柱状のオルガノイドが形成されたものである。
【0037】
形成された肝細胞オルガノイドシートの割断面形態を図3に示す。図3は、培養4日目の割断面顕微鏡写真である。肝細胞同士が三次元的に密に接触したオルガノイドシートを形成していることが示されている。図3において、Aは、厚みが110μmの場合を、Bは、厚みが約150μmの場合である。Aにおいて、5がオルガノイドシートの割断面を示し、6は多孔メンブランを示している。Bにおいて、7は、細胞の壊死層を示している。オルガノイドの厚みが細胞5層分(約110μm)の場合(A)ではすべての細胞が生存しているが、約150μmの厚み(B)になると中心部の肝細胞は核が脱落した壊死細胞になっていることが分かる。さらに、形成された肝細胞オルガノイドシートの初期細胞充填密度は約1.2×108cells/cm3であり、細胞が高密度化されたオルガノイド状態であることが示された。
オルガノイドシートの機能評価の結果として、図4に初期固定化細胞数あたりのアンモニア除去速度の経時変化、図5にアルブミン分泌速度の経時変化を示す。図4及び図5から本発明の肝細胞オルガノイドシートは、少なくとも培養1ヶ月の経過後にもなおアンモニア除去活性及びアルブミン分泌活性の機能を維持していることが示された。またこれらの活性は、対照例である中空糸/肝細胞オルガノイド以上の機能を有することが示された。
【0038】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によって、細胞組織本来の機能を有しているオルガノイドシートが得られた。本発明の細胞オルガノイドシートは、そのまま人工臓器、移植材料として適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の肝細胞オルガノイドが適用される人工肝臓の概念図を示す。
【図2】本発明の肝細胞オルガノイドシートの製造方法を示す概念図である。
【図3】本発明の肝細胞オルガノイドシートの割断面写真である。
【図4】本発明の肝細胞オルガノイドシートによるアンモニア除去速度の経時変化を中空糸/肝細胞オルガノイドと対比して示した図である。
【図5】本発明の肝細胞オルガノイドシートによるアルブミン分泌除去速度の経時変化を中空糸/肝細胞オルガノイドと対比して示した図である。
【符号の説明】
1:小孔
2:ハウジング
3:膜
4:細胞懸濁液
5:オルガノイドシートの割断面
6:多孔メンブラン
7:壊死層
Claims (19)
- 細胞凝集体からなるシート状で、シートの厚み方向に細胞が2層以上積層し、細胞組織が本来有する機能を有することを特徴とするオルガノイドシート。
- 細胞が動物組織由来細胞である請求項1記載のオルガノイドシート。
- 細胞がヒト臓器由来細胞である請求項2記載のオルガノイドシート。
- 細胞が肝細胞である請求項2または3に記載のオルガノイドシート。
- 細胞が心筋細胞である請求項2または3に記載のオルガノイドシート。
- 厚みが150μm以下である請求項1〜5のいずれかに記載のオルガノイドシート。
- さらに、シートの少なくとも一方の面に1層以上の支持層を備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のオルガノイドシート。
- 支持層がオルガノイドシートの細胞は通過させないが、液性成分は透過させる多孔質層を含むことを特徴とする請求項7に記載のオルガノイドシート。
- 請求項1〜8のいずれかに記載される人工臓器用オルガノイドシート。
- 入口及び出口を有する容器の内部に、請求項1〜8のいずれかに記載のオルガノイドシートを少なくとも1枚封入し、且つ被処理液の通路を設けてなるバイオ人工臓器。
- 容器内のオルガノイドシートと被処理液の通路とが、細胞は通過しないが液性成分を透過させる多孔質体の隔壁によって完全に隔てられていることを特徴とする請求項10に記載のバイオ人工臓器。
- 被処理液が血液、血漿、あるいは培養培地である請求項10または11に記載のバイオ人工臓器。
- オルガノイドシートの細胞が肝細胞である請求項10〜12のいずれかに記載のバイオ人工臓器。
- 請求項1〜8のいずれかに記載のオルガノイドシートを有してなることを特徴とする移植材料。
- オルガノイドシートの少なくとも一方の面に、生分解性ポリマーからなる支持層を備えていることを特徴とする請求項14に記載の移植材料。
- 生分解性ポリマーがポリ酸からなる合成ポリマーである請求項15に記載の移植材料。
- 生分解性ポリマーが生体高分子である請求項15に記載の移植材料。
- 細胞は通過させないが、液性成分は透過させるシート状支持材料を微小間隔で並列配置し、シート状支持材料間の微小間隙に細胞を注入し、遠心力あるいは静水圧などの力学的手法により加圧する工程を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のオルガノイドシートの製造方法。
- 加圧工程の後、支持材料を取り外す工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のオルガノイドシートの製造方法。
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