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JP2003166032A - 高強度ばね鋼 - Google Patents

高強度ばね鋼

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JP2003166032A
JP2003166032A JP2001364875A JP2001364875A JP2003166032A JP 2003166032 A JP2003166032 A JP 2003166032A JP 2001364875 A JP2001364875 A JP 2001364875A JP 2001364875 A JP2001364875 A JP 2001364875A JP 2003166032 A JP2003166032 A JP 2003166032A
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carbides
strength
cementite
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JP2001364875A
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Masayuki Hashimura
雅之 橋村
Takanari Miyaki
隆成 宮木
Hiroshi Hagiwara
博 萩原
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Nippon Steel Corp
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Nippon Steel Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 工業的に製造可能かつ焼入れ焼戻し後にばね
向けの強度とコイリング性を付与できるばね鋼を提供す
る。 【解決手段】 質量%で、C:0.75〜1.2%、S
i:0.9〜3.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:
0.015%以下、S:0.015%以下、Cr:0.
5〜1.5%、N:0.001〜0.015%、およ
び、W:0.05〜1.0%を含み、残部鉄および不可
避的不純物を含むことを特徴とする高強度ばね鋼。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱処理後に高強度
かつ高靭性を有し、自動車および一般機械向けばねに供
する鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車の軽量化、高性能化に伴い、ばね
も高強度化され、熱処理後に引張強度1600MPaを
超えるような高強度鋼がばねに供されている。近年では
引張強度1900MPaを超える鋼も使用されている。
【0003】鋼を用いたコイルばねの製造方法では、鋼
をオーステナイト域まで加熱してコイリングし、その
後、焼入れ焼戻しを行う熱間コイリングとあらかじめ鋼
に焼入れ焼戻しを施した高強度鋼線を冷間にてコイリン
グする冷間コイリングがある。いずれの場合にも焼入れ
焼戻しによってばねの基本強度を決定づける。従って、
ばね鋼に対しては焼入れ焼戻し後の特性を考えた成分設
計が重要である。従来から弁ばねは冷間コイリングによ
って製造されており、懸架ばねでも、近年は冷間コイリ
ングによって製造される場合が多くなってきた。従っ
て、ばねの高強度化には焼入れ焼戻し後の強度だけでな
く、冷間コイリング特性を考慮することが重要になりつ
つある。
【0004】高強度化には基本的にはCを多く添加させ
るとともに、合金元素を添加して、焼入れ性や焼戻し軟
化抵抗を向上させることが行われている。具体的にはそ
の手法として特開昭57−32353号公報ではV、N
b、Mo等の元素を添加することで焼入れ性を向上させ
るとともに、焼戻しで析出する微細炭化物を生成させ、
それによって転位の動きを制限し、耐へたり特性を向上
させるとしている。
【0005】また、ばねをさらに高強度化するには、窒
化による表面硬化が有効である。通常、窒化はばねのコ
イリング後に施されるが、窒化は400〜600℃まで
加熱して処理するため、ばね表層は硬化するものの、内
部は軟化するため、内部に十分な軟化抵抗がなければ、
疲労特性、へたり特性等のばね性能を逆に低下させるこ
とになる。従って、焼戻し軟化抵抗を付与できる合金を
添加することが一般的である。
【0006】このように鋼の高強度化には、Cおよびそ
の他合金元素の増量が一般的であるが、それに伴って、
コイリング特性の低下などの弊害を生じるため、その添
加量は限定されている。
【0007】例えば、C量は鋼強度に最も大きく影響す
る元素であるが、ばね鋼の場合には実質0.7%程度が
上限である。例えば、特開2000−17388号公報
に見られるように高C域まで網羅した特許も出願されて
いるが、実施例では0.74%が最大添加量であり、さ
らにCo、Cu、Ni、B、Tiのいずれか1種以上を
添加することを主張している。しかし、添加量0.75
%を超えるようなCを多量に添加した鋼では、不要な合
金添加は製造工程や製品性能の点で数々のトラブルを生
じ、実用に適さない場合が多い。例えば、Bを添加する
と鋼中にBNを生成し、ばねのような過酷な疲労強度を
要求される場合には要求を達成できない。
【0008】鋼製造工程では、転炉−鋳造−ビレット圧
延−線材圧延のように何度も加熱されると同時に、何度
も室温まで冷却される。このような場合、添加したC
r、V、Nb、Moなどの炭化物生成元素は、鋼を硬化
させると同時に粗大な炭化物として鋼中に残留しやす
い。特に引張強度1900MPaを超えるような高強度
を指向する場合には、これら合金元素の添加量が多くな
るために残留する炭化物も多い。これまで特開平11−
6033号公報などでは、Cr、V、Nb、Mo等の炭
化物(以後これらを合金系炭化物と記す)に注目して、
それらの大きさを規定した発明がなされている。しか
し、実際に鋼の強度を支配するのは、これらの微細炭化
物ではなく、鉄の炭化物、すなわちセメンタイトを主成
分とする炭化物(以後セメンタイト系炭化物と記す)の
挙動であり、このセメンタイトを制御できることが、ば
ね鋼にとって重要である。
【0009】合金系炭化物の粒径に関しては、例えば特
開平10−251804号公報のようにNb、V系の炭
化物の平均粒径に注目した発明がなされているが、この
先行技術では、圧延中の冷却水によって異常組織が生じ
ることを懸念する記述があり(段落番号0015)、実
質的には乾式圧延を推奨している。このことは工業的に
は非定常作業であり、通常の圧延と明らかに異なること
が推定され、たとえ平均粒径を制御しても周辺マトリッ
クス組織に不均一を生じると圧延トラブルを生じること
を示唆している。従って、V、Nb系炭化物などの合金
系炭化物の平均粒径の制御だけでは工業的に不十分であ
ることを示している。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、工業的に製
造可能かつ焼入れ焼戻し後にばね向けの強度とコイリン
グ性を付与でき、さらに窒化によっても更なる高強度を
得ることのできるばね鋼を提供することを課題としてい
る。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは従来のばね
鋼では注目されていなかった鋼中炭化物、特にセメンタ
イト系炭化物の大きさを微細化することで焼入れ焼戻し
後に高強度とコイリング性を両立させたばね鋼を開発す
るに至った。すなわち本発明は次に示すばね鋼を要旨と
する。
【0012】(1) 質量%で、C:0.75〜1.2
%、Si:0.9〜3.0%、Mn:0.1〜2.0
%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、C
r:0.5〜1.5%、N:0.001〜0.015
%、およびW:0.05〜1.0%を含み、残部鉄およ
び不可避的不純物を含むことを特徴とする高強度ばね
鋼。
【0013】(2) さらに、質量%で、Ti:0.0
05〜0.01%、Mo:0.05〜1.0%、V:
0.05〜0.7%、Nb:0.01〜0.04%の1
種または2種以上を含むことを特徴とする上記(1)記
載の高強度ばね鋼。
【0014】(3) さらに、質量%で、Mg:0.0
002〜0.01%を含むことを特徴とする上記(1)
または(2)記載の高強度ばね鋼。
【0015】(4) 上記(1)〜(3)のいずれかに
規定された化学成分で、熱間圧延後のミクロ組織におい
て、円相当径0.2〜3μmのセメンタイト系球状炭化
物存在密度が0.5個/μm2以下、円相当径3μm超
のセメンタイト系球状炭化物の存在密度が0.005個
/μm2以下であることを特徴とする高強度ばね鋼。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明者は、適正な化学成分を規
定することにより高強度を得るとともに、熱処理によっ
て鋼中炭化物形状を制御して、ばねを製造する際に十分
なコイリング特性が確保されるばね鋼を発明するに至っ
た。
【0017】その詳細を以下に示す。
【0018】Cは鋼材の基本強度に大きな影響を及ぼす
元素であり、十分な強度を得るために0.75〜1.2
%とした。C量が0.75%未満では十分な強度を得ら
れず、他の合金元素をさらに多量に投入せざるを得ず、
1.2%超では過共析で、粗大セメンタイトを多量に析
出するため、靭性を著しく低下させる。特に0.80%
を超える添加が好ましい。また1.2%を超える多量な
C添加により析出する初析セメンタイトは靭性の低下が
大きい。この靭性の低下は同時にコイリング特性を低下
させる。
【0019】Siはばねの強度、硬度と耐へたり性を確
保するために必要な元素であり、少ない場合、必要な強
度、耐へたり性が不足するため、0.9%を下限とし
た。またSiは粒界の炭化物系析出物を球状化、微細化
する効果があり、積極的に添加することで粒界析出物の
粒界占有面積率を小さくする効果がある。しかし多量に
添加しすぎると、材料を硬化させるだけでなく、脆化す
る。そこで焼入れ焼戻し後の脆化を防ぐために3.0%
を上限とした。
【0020】Mnは、焼入れ性を向上させるとともにマ
トリックスを硬化させる。また、鋼中に存在するSをM
nSとして固定し、Sを無害化することができる。ま
た、本発明で特に注目している炭化物の挙動に対して炭
化物を作らずに強度を確保できる元素である。そこでM
nSとしてSを固定するために0.1%を下限とする。
強度を確保するためにはMnは0.5%以上が好まし
い。またMnによる脆化を防止するために上限を2.0
%とした。
【0021】Crは、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を
向上させるために有効な元素であり、窒化処理してばね
表面を硬化させばね疲労強度を向上させる場合、Cr量
が多い方が短時間の窒化処理で硬化層が深くなり、最高
硬度も高くなりやすい。従って窒化を前提とする場合に
は、Crを添加することが好ましい。窒化で十分な表層
硬化層を得るとともに、内部に焼戻し軟化抵抗を付与す
るためにCr添加量の下限を0.5%とした。しかし、
添加量が多いとコスト増を招くだけでなく、焼入れ焼戻
し後に見られるセメンタイトを粗大化させる。結果とし
て、線材は脆化するために、コイリング時に折損を生じ
やすくするので注意を要する。特に圧延後に析出してい
るセメンタイト中にCrは固溶するので、セメンタイト
を安定化させ、焼入れ加熱時に未溶解になりやすい。こ
の点はオイルテンパー線や高周波加熱処理材などには大
きな影響を与える。そこで、ばね製造時の焼入れ加熱時
にセメンタイトの固溶が困難となる1.5%を超えると
セメンタイトを安定化させるので1.5%以下とした。
本発明のようにばね鋼として従来よりもC量が多い場合
にはセメンタイトの安定化、すなわち未溶解のセメンタ
イトを作りやすくするCrを低減することが好ましい。
【0022】Wは焼入れ性を向上させるとともに、鋼中
で炭化物を生成し、強度を高める働きがある。その一方
でベイナイト等の過冷組織が生じにくいため、圧延、伸
線等のばね製造に及ぼす弊害の少ない元素でもある。ま
た、圧延、熱処理等の熱履歴を経た場合のセメンタイト
や他の合金系炭化物の粗大化を抑制できるので重要であ
る。その添加量が0.05%未満では効果は見られず、
1.0%超では粗大な炭化物を生じ、かえって延性など
の機械的性質を損なう恐れがあるのでWの添加量を0.
05〜1.0%とした。
【0023】NはV、Nbなど窒化物を生成する元素を
添加すると容易に窒化物を生成する。それらは炭窒化物
の生成を容易にする。これら炭窒化物は、焼入れ時のオ
ーステナイト粒成長を抑制するピン止め粒子となるため
オーステナイト粒径の微細化に有効である。このような
目的から0.001%以上のNを添加する。一方、過剰
なNは窒化物および窒化物を核として生成した炭窒化物
および炭化物の粗大化を招くので、その上限を0.01
5%とした。
【0024】Pは鋼を硬化させるが、さらに偏析を生
じ、材料を脆化させる。特に、オーステナイト粒界に偏
析したPは、衝撃値の低下や水素の侵入により遅れ破壊
などを引き起こす。そのため少ない方が良い。そこで脆
化傾向が顕著となる0.015%以下と制限した。
【0025】SもPと同様に鋼中に存在すると鋼を脆化
させる。Mnによって極力その影響を小さくするが、M
nSも介在物の形態をとるため、破壊特性は低下する。
特に高強度鋼では、微量のMnSから破壊を生じること
もあり、Sも極力少なくすることが望ましい。その悪影
響が顕著となる0.015%を上限とした。
【0026】Ti、Mo、VおよびNbは鋼中で窒化
物、炭化物、炭窒化物として析出する。従って、これら
の元素を1種または2種以上を添加すれば、これら析出
物を生成し、焼戻し軟化抵抗を得ることができ、高温で
の焼戻しや、工程で入れられるひずみ取り焼鈍や窒化な
どの熱処理を経ても軟化せず、高強度を発揮させること
ができる。このことは窒化後のばね内部硬度の低下を抑
制したり、ホットセッチングやひずみ取り焼鈍を容易に
するため、最終的なばねの疲労特性を向上させることと
なる。しかしTi、Mo、VおよびNbは添加量が多す
ぎると、それらの析出物が大きくなりすぎ、鋼中炭素と
結びついて粗大炭化物を生成する。このことは鋼線の高
強度化に寄与すべきC量を減少させ、添加したC量相当
の強度が得られなくなる。さらに粗大炭化物が応力集中
源となるためコイリング中の変形で折損しやすくなる。
【0027】Tiについては、窒化物の析出温度は高
く、溶鋼中で既に析出している。また、その結合力は強
いので、鋼中のNを固定する場合にも用いる。ただし酸
化物も同時に生成するため、添加しすぎるとTi系酸化
物が介在物としてばね性能を低下させる場合もある。そ
こで、添加量はオーステナイト粒径が微細化できる最低
限の必要添加量0.005%を下限とし、析出物寸法が
破壊特性に悪影響を及ぼさない最大量0.01%を上限
とした。
【0028】Moは、0.05〜1.0%を添加するこ
とで焼入れ性を向上させるとともに、焼戻し軟化抵抗を
与えることができる。すなわち、強度を制御する際の焼
戻し温度を高温化させることができる。この点は粒界炭
化物の粒界占有面積率を低下させるのに有利である。す
なわち、フィルム状に析出する粒界炭化物を高温で焼戻
すことで球状化させ、粒界面積率を低減することに効果
がある。また、Moは鋼中ではセメンタイトとは別にM
o系炭化物を生成する。特にV等に比べその析出温度が
低いので、炭化物の粗大化を抑制する効果がある。その
添加量は0.05%未満では効果が認められず、1.0
%超では効果が飽和する。
【0029】また、Vについては窒化物、炭化物、炭窒
化物の生成によるオーステナイト粒径の粗大化抑制のほ
かに、焼戻し温度での鋼線の硬化や、窒化時の表層の硬
化に利用することもできる。その添加量は、0.05%
未満では添加した効果がほとんど認められず、0.7%
超では粗大な未固溶介在物を生成し、靭性を低下させ
る。
【0030】Nbも同様に窒化物、炭化物、炭窒化物の
生成によるオーステナイト粒径の粗大化抑制のほかに、
焼戻し温度での鋼線の硬化や、窒化時の表層の硬化に利
用することもできる。NbはV、Mo等よりも高温でも
微細炭化物を生成するため、その添加量が微量であって
も、熱処理鋼線製造時のオーステナイト粒径微細化にも
効果が大きく非常に有効な元素である。0.01%未満
では効果がほとんど認められず、0.04%を超えると
粗大な未固溶介在物を生成し、靭性を低下させる。
【0031】Mgは酸化物生成元素であり、溶鋼中では
酸化物を生成する。その温度域はMnSの生成温度より
も高く、MnS生成時には既に溶鋼中に存在している。
従ってMnSの析出核として用いることができ、これに
よりMnSの分布を制御できることを見出した。すなわ
ちMg系酸化物は従来鋼に多く見られるSi、Al系酸
化物より微細に溶鋼中に分散するため、Mg系酸化物を
核としたMnSは鋼中に微細に分散することとなる。従
って、同じS含有量であってもMgの有無によってMn
S分布が異なり、それらを添加する方がMnS粒径はよ
り微細になる。その効果は微量でも十分得られ、Mgが
0.0002%以上であればMnSは微細化する。しか
し0.01%を超えると溶鋼中に残留しにくいため、工
業的には0.01%が上限と考えられる。そこでMg添
加量を0.0002〜0.01%とした。このMgはM
nS分布等の効果により、耐食性、遅れ破壊の向上およ
び圧延割れ防止などに効果があり、極力添加する方が望
ましい。
【0032】Al、Ca、Remに関しては特に成分と
しては規定しないが、これらは脱酸元素であり、ばね中
で酸化物が粗大化しないレベルで添加しても良い。Al
に関してはばね用鋼では0.001〜0.05%程度の
添加が通常である。
【0033】本発明で対象とする、従来よりも高強度を
指向したばね鋼に関して製造上の問題点について述べ
る。ばねは、焼入れ焼戻しによって高強度化するが、従
来の成分系では焼戻し温度を低くせざるを得ず、一般に
脆化して実用に耐え得ない。また、冷間コイリングによ
る製造では焼入れ焼戻し後にコイリングするため、コイ
リング時に折損する。そのためC量を若干増加させたり
合金元素を添加することが一般に行われる。しかしC
r、V等の合金元素を増加させると偏析を生じ、濃化部
分では局部的に融点を下がるため、割れを生じやすい。
これが圧延時の疵の一因であると考えられる。
【0034】さらに、本発明で注目すべき炭化物に関し
て説明する。鋼の性能を考える場合、鋼中の炭化物の形
態が重要になってくる。ここでいう鋼中炭化物とは鋼中
に熱処理後に鋼中に認められるセメンタイトおよびそれ
に合金元素の固溶した炭化物、(以後、両者を総じてセ
メンタイトと記す)およびNb、V、Ti等の合金元素
の炭化物および炭窒化物(以後これらを合金系炭化物と
記す)のことである。これら炭化物は鋼線を鏡面研磨
し、エッチングすることで観察することができる。
【0035】図1に典型的な観察例を示す。これによる
と、鋼中にはパーライト状あるいは板状析出した炭化物
と球状炭化物の2種が認められる。ばね鋼は鋳造後、ビ
レット形状への圧延後、一旦室温まで冷却後、受注に応
じて線材サイズへ圧延される。さらに、ばね鋼の製造で
は焼入れ焼戻しを行うが、パーライト状または板状のセ
メンタイトは容易に固溶するが、球状化して安定化した
炭化物は次工程での焼入れ焼戻し工程で容易に固溶しな
いため、添加したC量相当の強度を確保できなかった
り、コイリング時の延性を低下させることになる。また
線材圧延時にも圧延疵の原因となる。
【0036】この残留した炭化物は、焼入れ焼戻しによ
る強度と靭性には全く寄与しないため、鋼中Cを固定し
て単に添加Cを浪費しているだけでなく、応力集中源に
もなるため、鋼線の機械的性質を低下させる要因とな
る。この球状炭化物は冷却後の再加熱(線材圧延、ばね
製作時の焼入れなど)の加熱時に固溶しなかったため、
球形に炭化物が成長したものである。従って、極力線材
圧延直後にも少ない方が好ましい。特にオイルテンパー
処理など圧延後の熱処理で、この球状炭化物はさらに成
長して粗大化する。このような観点から円相当径3μm
以下と通常では問題にならないとされていた炭化物であ
っても問題となる可能性が大きい。本発明では、これま
で注目されていなかったFeとCを主成分とするセメン
タイトも例外でなく、これが粗大化するとばね製造時ま
で影響を及ぼすだけでなく、圧延時にも疵の原因となる
ことを見出した。
【0037】このセメンタイト系炭化物は、セメンタイ
トにCr、Mo等の合金元素が固溶したものも含み、一
般にこれらが固溶したセメンタイトは安定化して、固溶
し難くなる。検出上の特徴としては、エッチングによっ
て現出した炭化物をEDXで分析した場合、Fe、Cを
主成分として検出するとともに、固溶している合金元素
も検出される場合もある。以後、このようなFeとCを
主成分とする炭化物をセメンタイト系炭化物、また、形
状が球状の場合を特にセメンタイト系球状炭化物と記
す。
【0038】図2(a)、(b)にSEMに取り付けた
EDXによる炭化物の解析例を示す。この結果は、透過
電子顕微鏡でのレプリカ法でも同様の解析結果が得られ
る。従来の発明は、高強度を得るために添加したV、N
b等の合金元素系の炭化物だけに注目しており、その一
例が図2(a)で炭化物中にFeピークが非常に小さい
ことが特徴である。しかし、本発明では従来の合金元素
系炭化物だけでなく、図2(b)に示すように、円相当
径3μm以下のFe3Cと、それに合金元素がわずかに
固溶したセメンタイト系球状炭化物の析出に注目した。
本発明のように、従来鋼線以上の高強度と加工性の両立
を達成する場合には、3μm以下のセメンタイト系球状
炭化物が多いと、加工性が大きく損なわれるので、0.
2μm〜3μmのセメンタイト系球状炭化物存在密度が
0.5個/μm2以下とする必要がある。これらの鋼中
炭化物は、鏡面研磨したサンプルにピクラールなどのエ
ッチングを施すことで観察可能であるが、その寸法など
の詳細な観察評価には、走査型電子顕微鏡により300
0倍以上の高倍率で観察する必要があり、ここで対象と
するセメンタイト系球状炭化物は、円相当径0.2〜3
μmである。通常、鋼中炭化物は鋼の強度、焼戻し軟化
抵抗を確保する上で不可欠ではあるが、その有効な粒径
は0.1μm以下で、逆に1μmを超えると、むしろ強
度やオーステナイト粒径微細化への貢献はなく、単に変
形特性を劣化させるだけである。しかし、従来技術では
この重要性がそれほど認識されず、V、Nbなどの合金
系炭化物にのみ注目し、円相当径3μm以下の炭化物、
特にセメンタイト系球状炭化物は無害と考えられ、本発
明で主に対象としている0.1〜5μm程度のセメンタ
イト系球状炭化物に関しては検討された例は見当たらな
い。
【0039】本発明では、セメンタイト系球状炭化物寸
法(円相当径)が3μm以下の場合には寸法だけでな
く、数も大きな要因になることから、その両者を考慮し
て本発明範囲を規定した。すなわち、円相当径が0.2
〜3μmと小さくとも、その数が非常に多く、検鏡面に
おける存在密度が0.5個/μm2を超えるとコイリン
グ特性の劣化が顕著になる。
【0040】さらに、セメンタイト系球状炭化物の寸法
(円相当径)が3μmを超えると、寸法の影響がより大
きくなるため、検鏡面における存在密度が0.005個
/μm2を超えるとコイリング特性の劣化が顕著にな
る。
【0041】これらは圧延直後に残留していても、後の
伸線−ばね製造工程における各種熱処理にも容易に溶解
されないため、線材圧延直後にも残留しない方が良い。
従って、圧延後のミクロ組織において円相当径0.2〜
3μmのセメンタイト系球状炭化物存在密度が0.5個
/μm2以下、円相当径3μm超のセメンタイト系球状
炭化物の存在密度が0.005個/μm2以下とした。
【0042】線材の圧延には、連続鋳造→ビレット圧延
→線材圧延あるいは連続鋳造→線材圧延の工程をとり、
各工程間ではA1変態点よりも低温になるため、連続鋳
造後に既に炭化物が析出している。従って、線材圧延後
に残留しているセメンタイト系球状炭化物を減少させる
ためには、ビレット圧延のための加熱および線材圧延の
ための加熱を粗大炭化物が固溶するのに十分高温かつ長
時間にする必要がある。
【0043】
【実施例】表1および表2に本発明の実施例と比較例を
示す。表1は鋼の化学成分を示し、表2に鋼の性質を示
している。本発明の実施例1は、250t転炉によって
精錬したものを連続鋳造によってビレットを作成した。
また、その他の実施例は2t−真空溶解炉で溶製後、圧
延によってビレットを作成した。その際、本発明例では
1200℃以上の高温に一定時間保定した。その後、い
ずれの場合もビレットからφ8mmに圧延し、伸線によ
ってφ4mmとした。一方、比較例は通常の圧延条件で
圧延され伸線に供した。
【0044】本発明は、圧延疵と圧延後の焼入れ焼戻し
後の特性において、従来技術とは異なる優れた特性を有
するため、その評価は圧延直後と焼入れ焼戻し後の特性
によって行った。圧延直後の疵は、目視によって圧延疵
の有無を観察した。
【0045】伸線によってφ4mmまで伸線した後、輻
射炉内を通過させ即座にオイル中に焼入れることで焼入
れ、さらに溶融Pb中を通過させて焼戻しするいわゆる
オイルテンパー処理を行い、焼入れ焼戻しした。
【0046】オイルテンパー処理では、伸線材を連続的
に加熱炉を通過させ、鋼内部温度が十分に加熱されるよ
う、加熱炉通過時間を設定した。この加熱が不十分であ
ると焼入れ不足を生じ、十分な強度を達成することがで
きない。本実施例では加熱温度950℃、加熱時間15
0sec、焼入れ温度50℃(オイル槽)とした。さら
に、焼戻し温度400〜550℃、焼戻し時間1min
で焼戻し、強度を調整した。焼入れおよび焼戻し時の加
熱温度、およびその結果得られた大気雰囲気での引張強
度は表2中に明記したとおりで、引張強度を2150〜
2250MPa程度に調整した。
【0047】実施例には、本発明で重要と考えられるセ
メンタイトを含む鋼中の球状炭化物についても併記して
おいた。炭化物の寸法および数の評価は、熱間圧延線材
および熱処理ままの鋼線の長手方向断面に鏡面まで研磨
し、さらにピクリン酸によってわずかにエッチングして
炭化物を浮き出させた。光学顕微鏡レベルでは炭化物の
寸法測定は困難なため、鋼線の1/2R部を走査型電子
顕微鏡で倍率:5000倍にて無作為に10視野の写真
を撮影した。さらに、その写真から球状になっている炭
化物(セメンタイト系球状炭化物)を走査型電子顕微鏡
に取り付けたX線マイクロアナライザーにてセメンタイ
ト系であることを確認しつつ、その寸法および数を画像
処理装置を用いて測定した。そのデータを用いて個々の
球状炭化物の円相当径と存在密度を算出した。全測定面
積は3088.8μm2である。引張特性はJIS Z
2201 9号試験片によりJIS Z 2241に
準拠して行い、その破断荷重から引張強度を算出した。
【0048】また、延性についてはノッチ曲げ試験によ
って評価した。ノッチ曲げ試験の概要を図3に示す。ま
た、以下のような手順で行った。図3(a)に示すよう
に、先端半径50μmのポンチによって鋼線の長手方向
に直角に最大深さ30μmの溝(ノッチ)を付け、その
溝部に最大引張応力が負荷させるように両端を支持し、
中央に荷重3を加えて変形させる3点曲げ変形を加え
た。ノッチ部から破断するまで曲げ変形を加え続け、破
断時の曲げ角度を測定した。測定角度は図3(b)に示
すとおりで、角度が大きいほどコイリング特性が良好で
ある。経験的にはφ4mmの鋼線においてノッチ曲げ角
度25°以下ではコイリングは困難である。
【0049】高強度ばねにおいてはばね成形後に窒化に
よって表面を硬化させ、耐久性を増すことが行われてい
る。そこで窒化特性を調査するために、引張強度215
0〜2250MPaに調整した鋼線に窒化処理を施し
た。その条件は窒化温度520℃、保持時間3hr、ガ
ス条件:N245%+NH350%+CO25%混合ガ
ス、ガス流量:1m3/hr(大気圧)でいわゆるガス
軟窒化処理を行った。
【0050】窒化後、鋼線の断面を鏡面研磨し、最表層
(表面から25μm)および内部(表面から0.5m
m)の硬度をマイクロビッカース(0.49N)で測定
した。窒化では表面は硬化するものの、窒化処理中の加
熱により内部は軟化する傾向にある。ばね鋼としては表
面が十分に硬化するとともに、内部の軟化を最低限に抑
制することが重要である。
【0051】本発明例では圧延後の球状炭化物の数、寸
法が小さく、圧延疵を防止するとともに、焼入れ焼戻し
後に高強度と良好なノッチ曲げ特性を示した。しかし比
較例はノッチ曲げ特性において劣り、コイリング性に関
して劣っていることを示唆した。また圧延疵も認めら
れ、圧延が困難であることが判明した。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】比較例29に示すように窒化に対する影響
を見ると、Crを低減させると窒化時に表層硬度が発明
例に比べて低く、さらに内部も焼戻し軟化抵抗の不足に
より発明例よりも軟化した。ばねにおけるこれらの硬度
不足は耐久性およびへたり特性の点で発明例に劣るた
め、発明例のようにばね性能の向上に結びつかない。
【発明の効果】本発明鋼は、鋼中セメンタイトを含む炭
化物の析出を制御可能な成分とすることで、高強度化可
能な成分系を有しているにもかかわらず工業的に製造可
能にした。また、熱処理加工後には高強度のばね製造を
可能にした。特に、冷間コイリングするばねにおいても
強度を1900MPa以上に高強度化するとともに、コ
イリング性を確保し高強度かつ破壊特性に優れたばねを
製造可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】焼入れ焼戻し組織を示す顕微鏡写真である。
【図2】球状炭化物分析例を示す図である。
【図3】ノッチ曲げ試験方法を示す図である。
【符号の説明】
1 球状炭化物 2 溝(ノッチ) 3 荷重 θ 測定角度
フロントページの続き (72)発明者 萩原 博 東京都千代田区大手町2−6−3 新日本 製鐵株式会社内

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、C:0.75〜1.2%、S
    i:0.9〜3.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:
    0.015%以下、S:0.015%以下、Cr:0.
    5〜1.5%、N:0.001〜0.015%、およ
    び、W:0.05〜1.0%を含み、残部鉄および不可
    避的不純物を含むことを特徴とする高強度ばね鋼。
  2. 【請求項2】 さらに、質量%で、Ti:0.005〜
    0.01%、Mo:0.05〜1.0%、V:0.05
    〜0.7%、Nb:0.01〜0.04%の1種または
    2種以上を含むことを特徴とする請求項1記載の高強度
    ばね鋼。
  3. 【請求項3】 さらに、質量%で、Mg:0.0002
    〜0.01%を含むことを特徴とする請求項1または2
    記載の高強度ばね鋼。
  4. 【請求項4】請求項1〜3のいずれかに規定された化学
    成分で、熱間圧延後のミクロ組織において、円相当径
    0.2〜3μmのセメンタイト系球状炭化物存在密度が
    0.5個/μm2以下、円相当径3μm超のセメンタイ
    ト系球状炭化物の存在密度が0.005個/μm2以下
    であることを特徴とする高強度ばね鋼。
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