JP2003041322A - 磁気特性及び被膜特性に優れる方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
磁気特性及び被膜特性に優れる方向性電磁鋼板の製造方法Info
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Abstract
(57)【要約】
【課題】 コイルの全幅及び全長にわたって、磁気特性
が良好で、かつ欠陥のない均一で密着性の優れたフォル
ステライト質絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板を提供す
る。 【解決手段】 方向性電磁鋼板の製造過程における脱炭
焼鈍工程において、均熱過程における雰囲気酸化度(P
[H2O]/P[H2])を0.70未満とし、かつ昇温過程における
P[H2O]/P[H2]を均熱過程のP[H2O]/P[H2]よりも低い
値とし、さらに脱炭焼鈍雰囲気中の水素濃度を 20vol%
以上とする。
が良好で、かつ欠陥のない均一で密着性の優れたフォル
ステライト質絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板を提供す
る。 【解決手段】 方向性電磁鋼板の製造過程における脱炭
焼鈍工程において、均熱過程における雰囲気酸化度(P
[H2O]/P[H2])を0.70未満とし、かつ昇温過程における
P[H2O]/P[H2]を均熱過程のP[H2O]/P[H2]よりも低い
値とし、さらに脱炭焼鈍雰囲気中の水素濃度を 20vol%
以上とする。
Description
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、磁気特性及び被膜特
性に優れる方向性電磁鋼板の製造方法に関し、特に脱炭
焼鈍工程に工夫を加えることによって、磁気特性及びフ
ォルステライト質絶縁被膜特性の有利な改善を図ろうと
するものである。 【0002】 【従来の技術】方向性電磁鋼板は、軟磁性材料として、
主に変圧器あるいは回転機器等の鉄心材料として使用さ
れるもので、特性的には、磁束密度が高く、かつ鉄損及
び磁気歪が小さいことが要求される。近年、エネルギー
事情の悪化や生活環境への騒音防止の観点から、磁気特
性に優れた方向性電磁鋼板に対するニーズが高まってい
る。 【0003】磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を得るに
は、ゴス方位すなわち{110}<001>方位に高度
に集積した2次再結晶組織を得ることが必要である。そ
してかかる方向性電磁鋼板の一般的な製造方法では、ゴ
ス方位に高度に集積した2次再結晶組織を得るために必
要なインヒビターを含む方向性電磁鋼スラブを、加熱し
て熱間圧延を行ったのち、必要に応じて均一化焼鈍を行
い、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によ
って最終板厚とし、ついで脱炭焼鈍を行ったのち、鋼板
にMgO 等を主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、コ
イル状に巻き取り、高温の仕上焼鈍が行われる。 【0004】上記したような複雑な製造工程を経る方向
性電磁鋼板の製造方法において、製品品質に大きな影響
を及ぼす重要なポイントはいくつかあるが、その中の一
つに脱炭焼鈍工程が挙げられる。 【0005】通常、脱炭焼鈍は、H2濃度と露点との調整
により雰囲気酸化度を制御した湿水素雰囲気ガス中にお
いて、 700〜900 ℃の温度範囲で一定時間の均熱処理を
行うことにより実施される。この時、鋼板の内部から表
面に拡散してきたCが、鋼板表面において H2Oと反応し
てCOガスとなり、鋼板からCが除去される。この時の反
応は次式(1) のとおりである。 C+H2O → CO + H2 ---(1) 上記の反応式に従って脱炭反応が起こると同時に、方向
性電磁鋼板に含有されるSiが H2Oにより酸化されて、主
としてSiO2及び Fe2SiO4からなるサブスケールが形成さ
れる。この時の反応は次式(2), (3)のとおりである。 Si + 2H2O → SiO2 + 2H2 ---(2) Si + 2Fe+ 4H2O → Fe2SiO4+ 4H2 ---(3) これらの反応の中でも、式(3) の反応はきわめて低い露
点から進行するため、通常の工業用ガスを使用する場合
にはサブスケールの生成が避けられない。 【0006】このように、方向性電磁鋼板の脱炭焼鈍に
おいて不可避的に生成するサブスケールを巧妙に利用し
たのが、製品の鋼板表面に被成させるフォルステライト
質絶縁被膜である。すなわち、このフォルステライト質
絶縁被膜は、一般に以下のような過程によって形成され
る。まず、所望の最終板厚に冷間圧延した方向性電磁鋼
板の最終冷延板に、先に述べたとおりの脱炭焼鈍を行
う。すなわち、湿水素中にて 700〜900 ℃程度の温度範
囲で連続焼鈍を行って、冷間圧延後の組織を最終仕上焼
鈍において適正な2次再結晶が起るように1次再結晶さ
せると共に、製品の磁気特性の時効劣化を防止するた
め、鋼中に0.01〜0.10mass%程度含まれるCを 0.003ma
ss%以下まで脱炭する。さらに、これと同時に、鋼中の
Siの酸化によって、Si02を主成分とするサブスケールを
鋼板表層に生成させる。このサブスケールがフォルステ
ライト質絶縁被膜の原材料の一つとなる。その後、MgO
を主成分とする焼鈍分離剤を鋼板上に塗布し、コイル状
に巻き取ってから、還元あるいは非酸化性雰囲気中にお
いて1000〜1200℃程度の高温で仕上焼鈍を行うことによ
り、次式(4) で示される固相反応によってフォルステラ
イト質絶縁被膜を形成させる。 2MgO + SiO2 → Mg2SiO4 ---(4) 【0007】このフォルステライト質絶縁被膜は、1μ
m 程度の微細結晶が緻密に集積したセラミックス被膜で
あり、上述したように、脱炭焼鈍において鋼板表層に生
成させたSi02を主成分とするサブスケールを一方の原料
物質として、その鋼板上に生成するものであるから、こ
の酸化物の種類、量、分布等は、フォルステライトの核
生成や粒成長挙動に影響を及ぼし、またフォルステライ
ト結晶粒の粒界や粒そのものの強度にも影響を及ぼし、
従って仕上焼鈍後の被膜品質に多大な影響を及ぼす。 【0008】また、他方の原料物質である MgOを主体と
する焼鈍分離剤は、水に懸濁させたスラリーとして鋼板
に塗布されるため、乾燥させた後も物理的に吸着したH2
0 を保有する他、一部が水和して Mg(OH)2に変化してい
るため、仕上焼鈍工程において 800℃程度までは少量な
がら H20を放出し続ける。この H20により仕上焼鈍中に
鋼板表面は酸化される。この酸化もフォルステライト質
絶縁被膜の生成挙動に影響を及ぼすと共に、インヒビタ
ーの酸化や分解につながることから、この酸化が多いと
磁気特性が劣化する原因となる。このように、MgO が放
出する H20による酸化の受け易さも、脱炭焼鈍で生成し
たサブスケールの物性に大きく影響される。 【0009】以上述べたように、方向性電磁鋼板の脱炭
焼鈍において生成するサブスケールの品質を適正に制御
することは、フォルステライト質絶縁被膜の品質の劣化
及び磁気特性の劣化を防止するという観点から、極めて
重要な技術課題である。方向性電磁鋼板の脱炭焼鈍に関
しては、例えば特公昭57−1575号公報に開示されている
ような、雰囲気の酸化度を脱炭の前半では0.15以上と
し、後半では0.75以下でかつ前半よりも低くする方法、
あるいは特開平6−336616号公報に開示されているよう
な、均熱過程における水素分圧に対する水蒸気分圧の比
を0.70未満とし、かつ昇温過程における水素分圧に対す
る水蒸気分圧の比を均熱過程よりも低い値に設定する方
法などが知られている。 【0010】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の
方法では、一定の効果は認められるものの、必ずしも十
分なものではなく、ストリップの幅方向あるいは長手方
向で磁気特性やフォルステライト質絶縁被膜の密着性、
厚み、均一性が劣化する場合が有り、優れた品質を有す
る製品を安定して生産し、歩留りを一層向上させるため
には、いまだ改善の余地を残していた。この発明は、上
記の問題を有利に解決するもので、コイルの全幅及び全
長にわたって、磁気特性が良好で、かつ欠陥のない均一
で密着性の優れたフォルステライト質絶縁被膜を有する
方向性電磁鋼板を安定して得ることができる新規な製造
方法を提案することを目的とする。 【0011】 【課題を解決するための手段】さて、発明者らは、脱炭
焼鈍工程の雰囲気ガス成分の変動がサブスケールの物性
に及ばす影響について綿密な調査を行った。その結果、
雰囲気酸化度の指標として用いられる水素分圧に対する
水蒸気分圧の比(P[H2O]/P[H2])が同一でも、水素濃
度と露点は経時的に変動していること、またこのガス組
成の変動に伴って脱炭焼鈍時のサブスケール生成挙動が
変化すること、そして水素濃度をある一定濃度以上とし
た場合に、特に特開平6−336616号公報に開示されてい
る方法の効果が十分に達成されることを解明し、この発
明を完成するに至った。 【0012】すなわち、この発明は、方向性電磁鋼板用
スラブを、熱間圧延したのち、熱延板焼鈍を施しまたは
省略して、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧
延を施し、ついで脱炭焼鈍を施し、さらにMgO を主体と
する焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上焼鈍を施す一
連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記脱炭焼鈍の際、均熱過程における雰囲気酸化度(P
[H2O]/P[H2])を0.70未満とし、かつ昇温過程における
P[H2O]/P[H2]を上記均熱過程のP[H2O]/P[H 2]よりも
低い値とし、さらに雰囲気ガス中の水素濃度を 20vol%
以上とすることを特徴とする、磁気特性及び被膜特性に
優れる方向性電磁鋼板の製造方法である。 【0013】 【発明の実施の形態】以下、この発明を由来するに至っ
た実験及びその結果について述べる。なお、成分に関す
る「%」表示は特に断らない限り質量%(mass%)を意
味するものとする。C:0.041 %,Si:3.29%,Mn:0.
072 %,Se:0.021 %及びSb:0.026 %を含有し、残部
はFe及び不可避的不純物の組成になる方向性電磁鋼板用
素材を、熱間圧延したのち、900 ℃で熱延板焼鈍を行
い、ついで 980℃,2分間の中間焼鈍を挟む2回の冷間
圧延によって板厚:0.23mmの最終冷延板とした。つい
で、これらの冷延板を脱脂して表面を清浄化したのち、
湿水素中にて 820℃に2分間保持する脱炭焼鈍を施し
た。この時、昇温過程と均熱過程の雰囲気酸化度(P[H
2O]/P[H2])及び雰囲気ガス中水素濃度を、表1に示す
値に制御した。その後、鋼中のC量と酸素目付量を化学
分析によって求めた。また、60℃の5%HCl 中で60秒の
酸洗による脱炭焼鈍後試料の溶解量(以下、酸洗減量と
称する)を求めた。得られた結果を表1に併記する。 【0014】なお、酸素目付量は、サブスケールの量的
指標として重要であり、これが不足するとフォルステラ
イト質絶縁被膜の密着性及び外観均一性が劣化し、また
磁気も併せて劣化する。また、酸洗減量は、サブスケー
ルの質的指標として重要であり、この値が大きい場合に
は、表面の化学的活性度が高いため、仕上焼鈍中に MgO
の放出水による酸化を受け易く、フォルステライト質絶
縁被膜の品質や磁気特性の劣化を生じる。 【0015】 【表1】【0016】表1のNo.1〜4は、脱炭焼鈍時の均熱過程
における雰囲気酸化度(P[H2O]/P[H2])を0.70未満と
し、かつ昇温過程のP[H2O]/P[H2]を均熱過程のP[H
2O]/P[H2]よりも低くし、さらに雰囲気ガス中に水素を
20vol%以上含有させた場合であるが、この場合には、
脱炭焼鈍後のC含有量は十分に低く、酸素目付量も確保
されており、酸洗減量も低い値を示している。これに対
し、No.5〜6は、上記の場合に比べて雰囲気ガス中の水
素濃度を低くした場合であるが、この場合には、酸素目
付量は確保されているものの、酸洗減量が増大してお
り、またC含有量も若干高めとなっている。No.7〜12
は、脱炭焼鈍時における昇温過程のP[H2O]/P[H2]と均
熱過程のP[H 2O]/P[H2]とを等しくした場合であるが、
この場合は、C含有量が高めで、酸素目付量が不十分で
あり、酸洗減量も高めとなっている。No.13 〜18は、均
熱過程でのP[H2O]/P[H2]が0.70を超えた場合である
が、この場合には、酸洗減量が著しく増大している。 【0017】上述したとおり、良好な物性を有するサブ
スケールを得るには、脱炭焼鈍時の雰囲気を適切に制御
する必要があることが判明した。そこで、この発明で
は、脱炭焼鈍の際、均熱過程における雰囲気酸化度(P
[H 2O]/P[H2])を0.70未満とし、かつ昇温過程における
P[H2O]/P[H2]を均熱過程のそれよりも低くし、さらに
雰囲気ガス中の水素濃度を 20vol%以上とすることにし
たのである。 【0018】このように、脱炭焼鈍工程において、昇温
過程の雰囲気酸化度を均熱過程のそれよりも低くするこ
とによってサブスケール物性が良好になるメカニズム
は、昇温過程での酸化を均熱過程よりも緩やかに進行さ
せることで酸化初期に生成する酸化物の形態や分布が変
化する結果、その後の均熱過程における酸素の鋼中への
拡散に影響を及ぼすためと考えられる。 【0019】なお、均熱過程のP[H2O]/P[H2]が0.70以
上になると、サブスケールの物性が劣化するのは、図1
に示す電磁鋼板の表面に生成する酸化物から考えて、Fe
O が生成したことによるものと考えられる。FeO は酸素
の内部拡散ではなく、Feの外部拡散によって生成する外
部酸化層であるため、このような酸化物が鋼板表面に形
成されると、被膜の形成過程に重大な悪影響を及ぼすと
考えられる。 【0020】また、同一のP[H2O]/P[H2]であっても雰
囲気ガス中の水素濃度が低い場合、すなわち水蒸気分圧
と水素分圧が共に低い場合にサブスケールの物性が劣化
するのは、前掲式(2), (3)で示される酸化反応の反応速
度に及ぼす要因として水蒸気分圧で表される H20量の影
響が大きく、H20 量が少ない場合には、H20 が鋼板表面
に吸着する過程が遅滞する結果、サブスケールの生成が
局所的となって疎な構造になるものと考えられる。従っ
て、脱炭焼鈍雰囲気中における水素濃度は 20vol%以上
とする必要がある。より好ましくは 30vol%以上、さら
好ましくは 40vol%以上である。 【0021】なお、 以上の実験は、インヒビターとして
MnSeとSbを含有する鋼種で示したが、この発明は、これ
だけに限るものではなく、AlN−MnSe系、AlN−MnS
系、MnS系等、他のインヒビターを含有する方向性電磁
鋼板のいずれに対しても適用できるのは言うまでもな
い。 【0022】次に、この発明における方向性電磁鋼用素
材の好適成分組成について説明する。この素材組成は、
特に限定されることはなく、方向性電磁鋼板用として従
来から公知のものであれば、いずれの組成も有利に適合
するが、好適組成を掲げると次のとおりである。Cは、
熱間圧延時のα−γ変態を利用して結晶組織の改善を行
うために有効であるが、多すぎると脱炭が困難となるた
め、0.02〜0.10%程度とするのが好適である。Siは、少
なすぎると鋼板の電気抵抗が小さくなって渦電流損が増
大するために鉄損が劣化し、一方多すぎると冷間圧延が
困難となって破断等によるスクラップの増大につながる
ので、 2.5〜4.5 %程度とするのが好適である。Mnは、
インヒビター成分として必要であるが、過剰になるとイ
ンヒビターの粒子径が粗大化して粒成長抑制力が低下す
るため、0.03〜0.30%程度の範囲が好適である。SeやS
は、インヒビター成分として必要であるが、過剰になる
と仕上焼鈍時の純化が困難となり、また熱間圧延での粒
界割れに起因する表面欠陥が増大するので、合計で0.01
〜0.05%程度とするのが好適である。Al及びNは、AlN
インヒビターを形成するために必要である。しかしなが
ら、Alが少なすぎると磁束密度が低下し、多すぎると2
次再結晶の発現が安定しなくなるため、酸可溶性Alとし
て0.01〜0.05%程度を必要とする。一方、Nが少なすぎ
ると磁束密度が低下し、多すぎるとスラブ加熱中のふく
れに起因する表面欠陥が増大するため、 0.004〜0.012
%程度とするのが好適である。また、粒界偏析型インヒ
ビターとして、SbやSn等の添加が有効であるが、これら
は添加量が少なすぎると磁気特性の改善効果が小さく、
一方多すぎると脆化やフオルステライト質絶縁被膜への
悪影響が生じるので、0.01〜0.03%程度とするのが好適
である。さらに、フォルステライト質絶縁被膜への悪影
響を低減するためには、0.03〜0.20%のCuを添加した上
で、この発明に従う脱炭焼鈍を行うことが有効である。
また、熱間圧延時の表面脆化に起因する表面欠陥を防止
するために、0.10%以上のMoを添加することも有効であ
る。さらに、熱間圧延時のα−γ変態を利用して結晶組
織の改善を行うためには、0.05〜0.3 %のNiを添加する
ことも有効である。 【0023】次に、この発明の好適製造条件について説
明する。従来より用いられている製鋼法で上記の好適成
分組成に調整した溶鋼を、連続鋳造法あるいは造塊法で
鋳造し、必要に応じて分塊工程を挟んでスラブとし、つ
いで1250〜1450℃の温度範囲でスラブ加熱を行ったの
ち、熱間圧延を施す。ついで、必要に応じて熱延板焼鈍
を行ったのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷
間圧延により最終板厚の冷延板に仕上げる。 【0024】ついで、脱炭焼鈍を行うが、この発明で
は、この脱炭焼鈍における雰囲気を適切に制御すること
が重要である。すなわち、均熱過程における雰囲気酸化
度(P[H2O]/P[H2])を0.70未満にすると共に、昇温過
程におけるP[H2O]/P[H2]を均熱過程のそれよりも低い
値とし、さらには雰囲気ガス中の水素濃度を 20vol%以
上とすることが重要である。ここに、均熱過程における
P[H2O]/P[H2]を0.70未満としたのは、この値が0.70以
上になると、FeO の生成に起因してサブスケールの物性
が劣化するからであり、また昇温過程におけるP[H2O]/
P[H2]を均熱過程のそれよりも低い値としたのは、昇温
過程のP[H2O]/P[H2]が均熱過程のP[H2O]/P[H2]以上
の値になると酸化初期に形成される酸化物の形態や分布
が変化し、その後の均熱過程における酸化を妨げるから
である。 【0025】さらに、脱炭焼鈍雰囲気中の水素濃度を 2
0vol%以上としたのは、この水素濃度が 20vol%を下回
ると、それに伴い H20量も少なくなるため、 H20が鋼板
表面に吸着する反応過程が遅れるためである。 【0026】また、脱炭焼鈍板のサブスケール量につい
ては、鋼板の酸素目付量(片面当たり)で 0.5〜1.0 g/
m2程度とするのが好ましい。というのは、0.5 g/m2未満
では、フォルステライトの原料となるサブスケールが不
足するために良好な被膜が形成しにくく、一方 1.0 g/m
2 超えるとフォルステライト質絶縁被膜が過剰に生成し
厚くなるため、占積率の低下をきたすからである。 【0027】上記のような脱炭焼鈍を施した鋼板表面
に、マグネシアを主成分とする焼鈍分離剤をスラリー状
にして塗布した後、乾燥する。焼鈍分離剤の塗布量は鋼
板片面当たり4〜10g/m2の範囲で塗布するのが好まし
い。というのは、塗布量が4g/m2より少ないとフォルス
テライトの生成が不十分となり、一方10g/m2を超えると
フォルステライト質絶縁被膜が過剰に生成し厚くなるた
めに占積率の低下をきたすからである。 【0028】さらに、被膜特性および磁気特性の一層の
均一性向上を目的として、焼鈍分離剤中にTiO2, SnO2,
Fe2O3, CaOのような酸化物、 MgSO4やSnSO4 のような硫
化物あるいはSrSO4, Sr(OH)2・8H2OようなSr化合物のう
ちから選んだ1種または2種以上をそれぞれ単独または
複合して添加してもよい。 【0029】ついで、二次再結晶焼鈍および純化焼鈍
(最終仕上焼鈍)を施したのち、りん酸塩系の絶縁コー
ティング好ましくは張力を有する絶縁コーティングを施
して製品とする。二次再結晶焼鈍は、焼鈍中 750〜900
℃のある温度で20〜70時間の保定焼鈍を行ってから昇温
する方法、あるいは保定を行わずに焼鈍する方法のいず
れでも良い。また、最終冷延後あるいは最終仕上焼鈍後
または絶縁コーティング後に既知の磁区細分化処理を行
うこともでき、より一層の鉄損の低減に有効である。 【0030】 【実施例】C:0.072 %,Si:3.31%,Mn:0.069 %,
Se:0.019 %,sol.Al:0.024 %,N:0.08%及びSb:
0.040 %を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組
成になる方向性電磁鋼板用スラブを、板厚:2.7 mmに熱
間圧延したのち、1000℃での熱延板焼鈍後、1115℃での
中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延によって板厚:0.27mmの
最終冷延板とした。ついで、これらの冷延板を、アルカ
リ脱脂して表面を清浄化したのち、湿水素雰囲気中にて
840℃で 120秒の脱炭焼鈍を行った。この時、昇温過程
と均熱過程の雰囲気酸化度及び雰囲気ガス中の水素濃度
を、表2に示す値に制御した。ついで、5%のTiO2を含
有するMgO 焼鈍分離剤を、スラリーとして塗布、乾燥し
たのち、H2雰囲気中にて1200℃, 10時間の仕上焼鈍を行
った。その後、リン酸マグネシウムとコロイダルシリカ
を主成分とする絶縁コーティングを施した。 【0031】かくして得られた製品板の、磁界:800 A/
m における磁束密度B8 及び 1.7T,50Hzにおける鉄損
W17/50 、被膜の曲げ密着性及び被膜外観について調査
した。また、脱炭焼鈍後の鋼板のC含有量、酸素目付量
および酸洗減量についても分析を行った。なお、被膜の
曲げ密着性は、試験片を丸棒に巻き付け、その際5mm間
隔で丸棒の半径を変化させた時、被膜の剥離が生じない
最小曲げ半径で評価した。得られた結果を表2に併記す
る。 【0032】 【表2】 【0033】同表から明らかなように、水素濃度が低い
No.7, 8では、酸洗減量が高く、磁気特性及び被膜特性
とも劣っている。また、昇温過程のP[H2O]/P[H2]が均
熱過程のP[H2O]/P[H2]より高かったNo.9, 10は、脱炭
と酸素目付量が不十分であり、磁気特性及び被膜特性と
も劣っている。さらに、均熱過程のP[H2O]/P[H2]が0.
70を超えた No.11, 12は、酸洗減量が著しく高く、やは
り磁気特性、被膜特性に劣っている。これに対し、この
発明の要件を満足する条件で脱炭焼鈍を行ったNo.1〜6
はいずれも、脱炭、酸素目付量および酸洗減量とも良好
な値であり、製品の磁気特性及び被膜特性は共に優れて
いた。 【0034】 【発明の効果】かくして、この発明によれば、被膜特性
に優れかつ磁気特性も良好な方向性電磁鋼板を安定して
製造することができる。
性に優れる方向性電磁鋼板の製造方法に関し、特に脱炭
焼鈍工程に工夫を加えることによって、磁気特性及びフ
ォルステライト質絶縁被膜特性の有利な改善を図ろうと
するものである。 【0002】 【従来の技術】方向性電磁鋼板は、軟磁性材料として、
主に変圧器あるいは回転機器等の鉄心材料として使用さ
れるもので、特性的には、磁束密度が高く、かつ鉄損及
び磁気歪が小さいことが要求される。近年、エネルギー
事情の悪化や生活環境への騒音防止の観点から、磁気特
性に優れた方向性電磁鋼板に対するニーズが高まってい
る。 【0003】磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を得るに
は、ゴス方位すなわち{110}<001>方位に高度
に集積した2次再結晶組織を得ることが必要である。そ
してかかる方向性電磁鋼板の一般的な製造方法では、ゴ
ス方位に高度に集積した2次再結晶組織を得るために必
要なインヒビターを含む方向性電磁鋼スラブを、加熱し
て熱間圧延を行ったのち、必要に応じて均一化焼鈍を行
い、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によ
って最終板厚とし、ついで脱炭焼鈍を行ったのち、鋼板
にMgO 等を主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、コ
イル状に巻き取り、高温の仕上焼鈍が行われる。 【0004】上記したような複雑な製造工程を経る方向
性電磁鋼板の製造方法において、製品品質に大きな影響
を及ぼす重要なポイントはいくつかあるが、その中の一
つに脱炭焼鈍工程が挙げられる。 【0005】通常、脱炭焼鈍は、H2濃度と露点との調整
により雰囲気酸化度を制御した湿水素雰囲気ガス中にお
いて、 700〜900 ℃の温度範囲で一定時間の均熱処理を
行うことにより実施される。この時、鋼板の内部から表
面に拡散してきたCが、鋼板表面において H2Oと反応し
てCOガスとなり、鋼板からCが除去される。この時の反
応は次式(1) のとおりである。 C+H2O → CO + H2 ---(1) 上記の反応式に従って脱炭反応が起こると同時に、方向
性電磁鋼板に含有されるSiが H2Oにより酸化されて、主
としてSiO2及び Fe2SiO4からなるサブスケールが形成さ
れる。この時の反応は次式(2), (3)のとおりである。 Si + 2H2O → SiO2 + 2H2 ---(2) Si + 2Fe+ 4H2O → Fe2SiO4+ 4H2 ---(3) これらの反応の中でも、式(3) の反応はきわめて低い露
点から進行するため、通常の工業用ガスを使用する場合
にはサブスケールの生成が避けられない。 【0006】このように、方向性電磁鋼板の脱炭焼鈍に
おいて不可避的に生成するサブスケールを巧妙に利用し
たのが、製品の鋼板表面に被成させるフォルステライト
質絶縁被膜である。すなわち、このフォルステライト質
絶縁被膜は、一般に以下のような過程によって形成され
る。まず、所望の最終板厚に冷間圧延した方向性電磁鋼
板の最終冷延板に、先に述べたとおりの脱炭焼鈍を行
う。すなわち、湿水素中にて 700〜900 ℃程度の温度範
囲で連続焼鈍を行って、冷間圧延後の組織を最終仕上焼
鈍において適正な2次再結晶が起るように1次再結晶さ
せると共に、製品の磁気特性の時効劣化を防止するた
め、鋼中に0.01〜0.10mass%程度含まれるCを 0.003ma
ss%以下まで脱炭する。さらに、これと同時に、鋼中の
Siの酸化によって、Si02を主成分とするサブスケールを
鋼板表層に生成させる。このサブスケールがフォルステ
ライト質絶縁被膜の原材料の一つとなる。その後、MgO
を主成分とする焼鈍分離剤を鋼板上に塗布し、コイル状
に巻き取ってから、還元あるいは非酸化性雰囲気中にお
いて1000〜1200℃程度の高温で仕上焼鈍を行うことによ
り、次式(4) で示される固相反応によってフォルステラ
イト質絶縁被膜を形成させる。 2MgO + SiO2 → Mg2SiO4 ---(4) 【0007】このフォルステライト質絶縁被膜は、1μ
m 程度の微細結晶が緻密に集積したセラミックス被膜で
あり、上述したように、脱炭焼鈍において鋼板表層に生
成させたSi02を主成分とするサブスケールを一方の原料
物質として、その鋼板上に生成するものであるから、こ
の酸化物の種類、量、分布等は、フォルステライトの核
生成や粒成長挙動に影響を及ぼし、またフォルステライ
ト結晶粒の粒界や粒そのものの強度にも影響を及ぼし、
従って仕上焼鈍後の被膜品質に多大な影響を及ぼす。 【0008】また、他方の原料物質である MgOを主体と
する焼鈍分離剤は、水に懸濁させたスラリーとして鋼板
に塗布されるため、乾燥させた後も物理的に吸着したH2
0 を保有する他、一部が水和して Mg(OH)2に変化してい
るため、仕上焼鈍工程において 800℃程度までは少量な
がら H20を放出し続ける。この H20により仕上焼鈍中に
鋼板表面は酸化される。この酸化もフォルステライト質
絶縁被膜の生成挙動に影響を及ぼすと共に、インヒビタ
ーの酸化や分解につながることから、この酸化が多いと
磁気特性が劣化する原因となる。このように、MgO が放
出する H20による酸化の受け易さも、脱炭焼鈍で生成し
たサブスケールの物性に大きく影響される。 【0009】以上述べたように、方向性電磁鋼板の脱炭
焼鈍において生成するサブスケールの品質を適正に制御
することは、フォルステライト質絶縁被膜の品質の劣化
及び磁気特性の劣化を防止するという観点から、極めて
重要な技術課題である。方向性電磁鋼板の脱炭焼鈍に関
しては、例えば特公昭57−1575号公報に開示されている
ような、雰囲気の酸化度を脱炭の前半では0.15以上と
し、後半では0.75以下でかつ前半よりも低くする方法、
あるいは特開平6−336616号公報に開示されているよう
な、均熱過程における水素分圧に対する水蒸気分圧の比
を0.70未満とし、かつ昇温過程における水素分圧に対す
る水蒸気分圧の比を均熱過程よりも低い値に設定する方
法などが知られている。 【0010】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の
方法では、一定の効果は認められるものの、必ずしも十
分なものではなく、ストリップの幅方向あるいは長手方
向で磁気特性やフォルステライト質絶縁被膜の密着性、
厚み、均一性が劣化する場合が有り、優れた品質を有す
る製品を安定して生産し、歩留りを一層向上させるため
には、いまだ改善の余地を残していた。この発明は、上
記の問題を有利に解決するもので、コイルの全幅及び全
長にわたって、磁気特性が良好で、かつ欠陥のない均一
で密着性の優れたフォルステライト質絶縁被膜を有する
方向性電磁鋼板を安定して得ることができる新規な製造
方法を提案することを目的とする。 【0011】 【課題を解決するための手段】さて、発明者らは、脱炭
焼鈍工程の雰囲気ガス成分の変動がサブスケールの物性
に及ばす影響について綿密な調査を行った。その結果、
雰囲気酸化度の指標として用いられる水素分圧に対する
水蒸気分圧の比(P[H2O]/P[H2])が同一でも、水素濃
度と露点は経時的に変動していること、またこのガス組
成の変動に伴って脱炭焼鈍時のサブスケール生成挙動が
変化すること、そして水素濃度をある一定濃度以上とし
た場合に、特に特開平6−336616号公報に開示されてい
る方法の効果が十分に達成されることを解明し、この発
明を完成するに至った。 【0012】すなわち、この発明は、方向性電磁鋼板用
スラブを、熱間圧延したのち、熱延板焼鈍を施しまたは
省略して、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧
延を施し、ついで脱炭焼鈍を施し、さらにMgO を主体と
する焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上焼鈍を施す一
連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記脱炭焼鈍の際、均熱過程における雰囲気酸化度(P
[H2O]/P[H2])を0.70未満とし、かつ昇温過程における
P[H2O]/P[H2]を上記均熱過程のP[H2O]/P[H 2]よりも
低い値とし、さらに雰囲気ガス中の水素濃度を 20vol%
以上とすることを特徴とする、磁気特性及び被膜特性に
優れる方向性電磁鋼板の製造方法である。 【0013】 【発明の実施の形態】以下、この発明を由来するに至っ
た実験及びその結果について述べる。なお、成分に関す
る「%」表示は特に断らない限り質量%(mass%)を意
味するものとする。C:0.041 %,Si:3.29%,Mn:0.
072 %,Se:0.021 %及びSb:0.026 %を含有し、残部
はFe及び不可避的不純物の組成になる方向性電磁鋼板用
素材を、熱間圧延したのち、900 ℃で熱延板焼鈍を行
い、ついで 980℃,2分間の中間焼鈍を挟む2回の冷間
圧延によって板厚:0.23mmの最終冷延板とした。つい
で、これらの冷延板を脱脂して表面を清浄化したのち、
湿水素中にて 820℃に2分間保持する脱炭焼鈍を施し
た。この時、昇温過程と均熱過程の雰囲気酸化度(P[H
2O]/P[H2])及び雰囲気ガス中水素濃度を、表1に示す
値に制御した。その後、鋼中のC量と酸素目付量を化学
分析によって求めた。また、60℃の5%HCl 中で60秒の
酸洗による脱炭焼鈍後試料の溶解量(以下、酸洗減量と
称する)を求めた。得られた結果を表1に併記する。 【0014】なお、酸素目付量は、サブスケールの量的
指標として重要であり、これが不足するとフォルステラ
イト質絶縁被膜の密着性及び外観均一性が劣化し、また
磁気も併せて劣化する。また、酸洗減量は、サブスケー
ルの質的指標として重要であり、この値が大きい場合に
は、表面の化学的活性度が高いため、仕上焼鈍中に MgO
の放出水による酸化を受け易く、フォルステライト質絶
縁被膜の品質や磁気特性の劣化を生じる。 【0015】 【表1】【0016】表1のNo.1〜4は、脱炭焼鈍時の均熱過程
における雰囲気酸化度(P[H2O]/P[H2])を0.70未満と
し、かつ昇温過程のP[H2O]/P[H2]を均熱過程のP[H
2O]/P[H2]よりも低くし、さらに雰囲気ガス中に水素を
20vol%以上含有させた場合であるが、この場合には、
脱炭焼鈍後のC含有量は十分に低く、酸素目付量も確保
されており、酸洗減量も低い値を示している。これに対
し、No.5〜6は、上記の場合に比べて雰囲気ガス中の水
素濃度を低くした場合であるが、この場合には、酸素目
付量は確保されているものの、酸洗減量が増大してお
り、またC含有量も若干高めとなっている。No.7〜12
は、脱炭焼鈍時における昇温過程のP[H2O]/P[H2]と均
熱過程のP[H 2O]/P[H2]とを等しくした場合であるが、
この場合は、C含有量が高めで、酸素目付量が不十分で
あり、酸洗減量も高めとなっている。No.13 〜18は、均
熱過程でのP[H2O]/P[H2]が0.70を超えた場合である
が、この場合には、酸洗減量が著しく増大している。 【0017】上述したとおり、良好な物性を有するサブ
スケールを得るには、脱炭焼鈍時の雰囲気を適切に制御
する必要があることが判明した。そこで、この発明で
は、脱炭焼鈍の際、均熱過程における雰囲気酸化度(P
[H 2O]/P[H2])を0.70未満とし、かつ昇温過程における
P[H2O]/P[H2]を均熱過程のそれよりも低くし、さらに
雰囲気ガス中の水素濃度を 20vol%以上とすることにし
たのである。 【0018】このように、脱炭焼鈍工程において、昇温
過程の雰囲気酸化度を均熱過程のそれよりも低くするこ
とによってサブスケール物性が良好になるメカニズム
は、昇温過程での酸化を均熱過程よりも緩やかに進行さ
せることで酸化初期に生成する酸化物の形態や分布が変
化する結果、その後の均熱過程における酸素の鋼中への
拡散に影響を及ぼすためと考えられる。 【0019】なお、均熱過程のP[H2O]/P[H2]が0.70以
上になると、サブスケールの物性が劣化するのは、図1
に示す電磁鋼板の表面に生成する酸化物から考えて、Fe
O が生成したことによるものと考えられる。FeO は酸素
の内部拡散ではなく、Feの外部拡散によって生成する外
部酸化層であるため、このような酸化物が鋼板表面に形
成されると、被膜の形成過程に重大な悪影響を及ぼすと
考えられる。 【0020】また、同一のP[H2O]/P[H2]であっても雰
囲気ガス中の水素濃度が低い場合、すなわち水蒸気分圧
と水素分圧が共に低い場合にサブスケールの物性が劣化
するのは、前掲式(2), (3)で示される酸化反応の反応速
度に及ぼす要因として水蒸気分圧で表される H20量の影
響が大きく、H20 量が少ない場合には、H20 が鋼板表面
に吸着する過程が遅滞する結果、サブスケールの生成が
局所的となって疎な構造になるものと考えられる。従っ
て、脱炭焼鈍雰囲気中における水素濃度は 20vol%以上
とする必要がある。より好ましくは 30vol%以上、さら
好ましくは 40vol%以上である。 【0021】なお、 以上の実験は、インヒビターとして
MnSeとSbを含有する鋼種で示したが、この発明は、これ
だけに限るものではなく、AlN−MnSe系、AlN−MnS
系、MnS系等、他のインヒビターを含有する方向性電磁
鋼板のいずれに対しても適用できるのは言うまでもな
い。 【0022】次に、この発明における方向性電磁鋼用素
材の好適成分組成について説明する。この素材組成は、
特に限定されることはなく、方向性電磁鋼板用として従
来から公知のものであれば、いずれの組成も有利に適合
するが、好適組成を掲げると次のとおりである。Cは、
熱間圧延時のα−γ変態を利用して結晶組織の改善を行
うために有効であるが、多すぎると脱炭が困難となるた
め、0.02〜0.10%程度とするのが好適である。Siは、少
なすぎると鋼板の電気抵抗が小さくなって渦電流損が増
大するために鉄損が劣化し、一方多すぎると冷間圧延が
困難となって破断等によるスクラップの増大につながる
ので、 2.5〜4.5 %程度とするのが好適である。Mnは、
インヒビター成分として必要であるが、過剰になるとイ
ンヒビターの粒子径が粗大化して粒成長抑制力が低下す
るため、0.03〜0.30%程度の範囲が好適である。SeやS
は、インヒビター成分として必要であるが、過剰になる
と仕上焼鈍時の純化が困難となり、また熱間圧延での粒
界割れに起因する表面欠陥が増大するので、合計で0.01
〜0.05%程度とするのが好適である。Al及びNは、AlN
インヒビターを形成するために必要である。しかしなが
ら、Alが少なすぎると磁束密度が低下し、多すぎると2
次再結晶の発現が安定しなくなるため、酸可溶性Alとし
て0.01〜0.05%程度を必要とする。一方、Nが少なすぎ
ると磁束密度が低下し、多すぎるとスラブ加熱中のふく
れに起因する表面欠陥が増大するため、 0.004〜0.012
%程度とするのが好適である。また、粒界偏析型インヒ
ビターとして、SbやSn等の添加が有効であるが、これら
は添加量が少なすぎると磁気特性の改善効果が小さく、
一方多すぎると脆化やフオルステライト質絶縁被膜への
悪影響が生じるので、0.01〜0.03%程度とするのが好適
である。さらに、フォルステライト質絶縁被膜への悪影
響を低減するためには、0.03〜0.20%のCuを添加した上
で、この発明に従う脱炭焼鈍を行うことが有効である。
また、熱間圧延時の表面脆化に起因する表面欠陥を防止
するために、0.10%以上のMoを添加することも有効であ
る。さらに、熱間圧延時のα−γ変態を利用して結晶組
織の改善を行うためには、0.05〜0.3 %のNiを添加する
ことも有効である。 【0023】次に、この発明の好適製造条件について説
明する。従来より用いられている製鋼法で上記の好適成
分組成に調整した溶鋼を、連続鋳造法あるいは造塊法で
鋳造し、必要に応じて分塊工程を挟んでスラブとし、つ
いで1250〜1450℃の温度範囲でスラブ加熱を行ったの
ち、熱間圧延を施す。ついで、必要に応じて熱延板焼鈍
を行ったのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷
間圧延により最終板厚の冷延板に仕上げる。 【0024】ついで、脱炭焼鈍を行うが、この発明で
は、この脱炭焼鈍における雰囲気を適切に制御すること
が重要である。すなわち、均熱過程における雰囲気酸化
度(P[H2O]/P[H2])を0.70未満にすると共に、昇温過
程におけるP[H2O]/P[H2]を均熱過程のそれよりも低い
値とし、さらには雰囲気ガス中の水素濃度を 20vol%以
上とすることが重要である。ここに、均熱過程における
P[H2O]/P[H2]を0.70未満としたのは、この値が0.70以
上になると、FeO の生成に起因してサブスケールの物性
が劣化するからであり、また昇温過程におけるP[H2O]/
P[H2]を均熱過程のそれよりも低い値としたのは、昇温
過程のP[H2O]/P[H2]が均熱過程のP[H2O]/P[H2]以上
の値になると酸化初期に形成される酸化物の形態や分布
が変化し、その後の均熱過程における酸化を妨げるから
である。 【0025】さらに、脱炭焼鈍雰囲気中の水素濃度を 2
0vol%以上としたのは、この水素濃度が 20vol%を下回
ると、それに伴い H20量も少なくなるため、 H20が鋼板
表面に吸着する反応過程が遅れるためである。 【0026】また、脱炭焼鈍板のサブスケール量につい
ては、鋼板の酸素目付量(片面当たり)で 0.5〜1.0 g/
m2程度とするのが好ましい。というのは、0.5 g/m2未満
では、フォルステライトの原料となるサブスケールが不
足するために良好な被膜が形成しにくく、一方 1.0 g/m
2 超えるとフォルステライト質絶縁被膜が過剰に生成し
厚くなるため、占積率の低下をきたすからである。 【0027】上記のような脱炭焼鈍を施した鋼板表面
に、マグネシアを主成分とする焼鈍分離剤をスラリー状
にして塗布した後、乾燥する。焼鈍分離剤の塗布量は鋼
板片面当たり4〜10g/m2の範囲で塗布するのが好まし
い。というのは、塗布量が4g/m2より少ないとフォルス
テライトの生成が不十分となり、一方10g/m2を超えると
フォルステライト質絶縁被膜が過剰に生成し厚くなるた
めに占積率の低下をきたすからである。 【0028】さらに、被膜特性および磁気特性の一層の
均一性向上を目的として、焼鈍分離剤中にTiO2, SnO2,
Fe2O3, CaOのような酸化物、 MgSO4やSnSO4 のような硫
化物あるいはSrSO4, Sr(OH)2・8H2OようなSr化合物のう
ちから選んだ1種または2種以上をそれぞれ単独または
複合して添加してもよい。 【0029】ついで、二次再結晶焼鈍および純化焼鈍
(最終仕上焼鈍)を施したのち、りん酸塩系の絶縁コー
ティング好ましくは張力を有する絶縁コーティングを施
して製品とする。二次再結晶焼鈍は、焼鈍中 750〜900
℃のある温度で20〜70時間の保定焼鈍を行ってから昇温
する方法、あるいは保定を行わずに焼鈍する方法のいず
れでも良い。また、最終冷延後あるいは最終仕上焼鈍後
または絶縁コーティング後に既知の磁区細分化処理を行
うこともでき、より一層の鉄損の低減に有効である。 【0030】 【実施例】C:0.072 %,Si:3.31%,Mn:0.069 %,
Se:0.019 %,sol.Al:0.024 %,N:0.08%及びSb:
0.040 %を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組
成になる方向性電磁鋼板用スラブを、板厚:2.7 mmに熱
間圧延したのち、1000℃での熱延板焼鈍後、1115℃での
中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延によって板厚:0.27mmの
最終冷延板とした。ついで、これらの冷延板を、アルカ
リ脱脂して表面を清浄化したのち、湿水素雰囲気中にて
840℃で 120秒の脱炭焼鈍を行った。この時、昇温過程
と均熱過程の雰囲気酸化度及び雰囲気ガス中の水素濃度
を、表2に示す値に制御した。ついで、5%のTiO2を含
有するMgO 焼鈍分離剤を、スラリーとして塗布、乾燥し
たのち、H2雰囲気中にて1200℃, 10時間の仕上焼鈍を行
った。その後、リン酸マグネシウムとコロイダルシリカ
を主成分とする絶縁コーティングを施した。 【0031】かくして得られた製品板の、磁界:800 A/
m における磁束密度B8 及び 1.7T,50Hzにおける鉄損
W17/50 、被膜の曲げ密着性及び被膜外観について調査
した。また、脱炭焼鈍後の鋼板のC含有量、酸素目付量
および酸洗減量についても分析を行った。なお、被膜の
曲げ密着性は、試験片を丸棒に巻き付け、その際5mm間
隔で丸棒の半径を変化させた時、被膜の剥離が生じない
最小曲げ半径で評価した。得られた結果を表2に併記す
る。 【0032】 【表2】 【0033】同表から明らかなように、水素濃度が低い
No.7, 8では、酸洗減量が高く、磁気特性及び被膜特性
とも劣っている。また、昇温過程のP[H2O]/P[H2]が均
熱過程のP[H2O]/P[H2]より高かったNo.9, 10は、脱炭
と酸素目付量が不十分であり、磁気特性及び被膜特性と
も劣っている。さらに、均熱過程のP[H2O]/P[H2]が0.
70を超えた No.11, 12は、酸洗減量が著しく高く、やは
り磁気特性、被膜特性に劣っている。これに対し、この
発明の要件を満足する条件で脱炭焼鈍を行ったNo.1〜6
はいずれも、脱炭、酸素目付量および酸洗減量とも良好
な値であり、製品の磁気特性及び被膜特性は共に優れて
いた。 【0034】 【発明の効果】かくして、この発明によれば、被膜特性
に優れかつ磁気特性も良好な方向性電磁鋼板を安定して
製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 3%電磁鋼の湿水素中における生成酸化物の
平衡状態図である。
平衡状態図である。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考)
C22C 38/60 C22C 38/60
(72)発明者 平嶋 浩一
岡山県倉敷市水島川崎通1丁目(番地な
し) 川崎製鉄株式会社水島製鉄所内
(72)発明者 藤山 寿郎
岡山県倉敷市水島川崎通1丁目(番地な
し) 川崎製鉄株式会社水島製鉄所内
Fターム(参考) 4K033 AA02 FA00 FA12 HA03 JA01
JA04 LA00 MA03
Claims (1)
- 【特許請求の範囲】 【請求項1】 方向性電磁鋼板用スラブを、熱間圧延し
たのち、熱延板焼鈍を施しまたは省略して、1回または
中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで脱炭
焼鈍を施し、さらにMgO を主体とする焼鈍分離剤を塗布
してから、最終仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向
性電磁鋼板の製造方法において、 上記脱炭焼鈍の際、均熱過程における雰囲気酸化度(P
[H2O]/P[H2])を0.70未満とし、かつ昇温過程における
P[H2O]/P[H2]を上記均熱過程のP[H2O]/P[H 2]よりも
低い値とし、さらに雰囲気ガス中の水素濃度を 20vol%
以上とすることを特徴とする、磁気特性及び被膜特性に
優れる方向性電磁鋼板の製造方法。
Priority Applications (1)
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---|---|---|---|
JP2001234938A JP2003041322A (ja) | 2001-08-02 | 2001-08-02 | 磁気特性及び被膜特性に優れる方向性電磁鋼板の製造方法 |
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Publications (1)
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ID=19066463
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Country Status (1)
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JP (1) | JP2003041322A (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2014201806A (ja) * | 2013-04-08 | 2014-10-27 | 新日鐵住金株式会社 | 方向性電磁鋼板及びその製造方法 |
TWI496892B (zh) * | 2012-10-16 | 2015-08-21 | Jfe Steel Corp | 無方向性電磁鋼板製造用的熱延鋼板及其製造方法 |
-
2001
- 2001-08-02 JP JP2001234938A patent/JP2003041322A/ja active Pending
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