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競輪界に激震…今年4月から試行実施される「KEIRIN ADVANCE」とは。国際ルール導入によるメリットも

「知れば知るほど面白い」といわれている競輪。その真骨頂は、選手同士の人間ドラマが絡み合うライン同士の壮絶な戦いにある。いわゆる「ライン戦」だ。ラインとは男子競輪特有のチーム戦術で、選手同士が前後に位置取りをし、援護し合って動く。そして、最終周回のゴールに向かう直線で、この団体戦は個人戦に変わる。
競輪

写真はイメージ(以下同)

 各選手が自分の脚質(先行、まくり、追い込みなど)を最大限に活かし、1着を目指す。先行型の選手は風を受ける負担を背負い、追い込み型の選手はその後ろにつく形でチャンスを待つ。それぞれの強みを活かすためにも、ラインという選手たちの連係は欠かせない。

今年4月から試行実施される「KEIRIN ADVANCE」とは

 この「ライン戦」が競輪からなくなっていくのではないか……。いま、この話題が競輪ファンの間でささやかれている。  発端は、2024年8月30日、競輪関連事業を運営する公益財団法人JKAが発表した「2025年度の競輪開催における新規施策」にさかのぼる。掲げる新規施策は3つの柱で構成されている。 ①男子選手による先頭固定競走(インターナショナル)レースの試行実施 ②3日制2節G3の試行実施 ③競輪ルーキーシリーズおよび競輪ルーキーシリーズプラスの見直し  ここで注目したいのは、先頭固定競走(インターナショナル)ルール、すなわち国際ルールで男子選手のレースを実施する試みだ。  先頭固定競走(インターナショナル)ルールは先頭員への差し込み禁止や、身体的な接触の強い動作(押圧・押し上げ、押し合いなど)の厳格な規制といった、五輪などの国際競技に準拠したルールとなっている。ルール上の制限が厳しいため、あからさまなライン戦は成立しない。  この男子選手による先頭固定競走(インターナショナル)レースには「KEIRIN ADVANCE(ケイリン アドバンス)」という愛称が名付けられている。新たなKEIRINとして「前進」していく意味が込められているという。つまり旧来の競輪から“KEIRIN”に向かう試みだ。  まず、4月19日~21日の伊東温泉競輪場から開催される予定。S級とA級選手が対象で、すべてミッドナイトで行われる。

KEIRIN ADVANCEを開催する理由

JKAはKEIRIN ADVANCEを試行実施する理由として、新規顧客の獲得のため、未経験者や初心者の方に対してわかりやすいレースを提供するためと説明している。  同じ先頭固定競走(インターナショナル)ルールのガールズケイリンを思い浮かべると、確かに初心者にわかりやすい。ラインという概念を理解する必要がなく、ラインに基づく予想をしなくて済む。  ライン戦で見られる「援護」「位置取り」「ブロック」といった要素がなくなる(または大幅に制限される)と、選手一人ひとりが純粋にスピードやタイミングを競うかたちになる。駆け引きの幅が狭まる分、実力や脚力の差も表面化しやすくなる。  このルールでの車券を購入するのであれば、初心者でも以下のコツを押さえておくことで、すぐにレースを楽しめるかもしれない。 ・競走得点の高い選手を重視する  実力差が比較的明確に表れる場合、競走得点の高い選手が安定して好成績を収める可能性が高い。 ・選手の実力が同程度なら内枠の選手を狙う  内側のスタート位置は他の選手に比べて、展開を有利に進められる可能性が高い。 ・差しやマークを得意とする選手を2着候補にする  2着候補には、ゴール直前で他の選手を抜く「差し」や、先頭を走る選手の後ろにつき、風の抵抗を避けながら有利なタイミングで勝負する「マーク」を得意とする選手を選ぶ。

さまざまなファンの声

 こうしたライン戦がない男子競輪の開催に、SNSでは、競輪ファンのさまざまな意見が見られる。  たとえば、「落車が減れば、選手の体が守られる」「初心者は競争得点順に選手を見るだけなので、車券を購入しやすくなるのでは?」といった賛成意見がある一方で展開予想に不安を抱く声や、「若い選手主体のレースになっていくと思う」と将来を占う声など、多様な反応がある。  今回の施策は「試行」であり、本格的に導入されるものではない。しかし、もし本格的に導入された場合、さまざまなメリットとデメリットが生じるだろう。  メリットは、初心者が感じる敷居は格段に下がること。ライン戦とは異なる、スピードと駆け引きを重視したレース展開による新たな魅力も生まれるはずだ。  また、海外で活躍する一流の自転車トラックレース選手の参入が容易になり、日韓対抗戦・競輪のような国際親善の機会が増える可能性もある。日本発祥の競輪はKEIRINとして、世界にますます開かれてゆくだろう。海外からの競輪ファンも増えるかもしれない。  一方で、ラインがなくなると、「マークの名手」「差し脚の巧みさ」で知られる佐藤慎太郎選手のような番手で活躍するタイプは、持ち味を発揮しづらくなる。また、ラインによる援護がなくなることで若い選手が有利となり、63歳まで現役を続けた名選手・佐古雅俊さんのような長い競輪人生は難しくなるかもしれない。  これらの変化は、「競輪道」という競輪独特の倫理観の転換期を迎えていることを示している。
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変わりゆく「競輪道」の未来は
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編集者・ライター。法政大学文学部哲学科卒業後、歴史、金融、教育、競輪など幅広い分野の専門メディアに関わり、大手競輪メディアではニュースやコラムを執筆。現在は、アルコールやギャンブル依存症の回復支援団体で広報も担当。FP2級と宅建士の資格を保有。趣味は油絵とコーヒー。
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