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新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ヒトが制御できなくなる新技術

 2023年発表の本書は、テクノロジーを起点に未来の在り方を提唱するフューチャリスト小川和也氏の警鐘。人工知能(AI)とゲノム編集技術が急成長していて、人類社会に危機が訪れているとの内容だ。筆者は人類滅亡を、

 

・人間による主体的な世界の統治が出来なくなる

・人間が個体数を劇的に減らし、種の保存が出来なくなる

・人類に変わる「ポストヒューマン」が誕生し、彼らが統治役を取って代わる

 

 ことだとして、その直接原因を、地球環境・生態系の激変、制御できない技術の暴走ではないかと危惧している。

 

 AIのシンギュラリティについては、何冊か紹介しているが、それらの主張と大きな違いはない。ゲノム編集については、これまで紹介した書はないが、やはり「なんでも作れてしまう」ために、ヒト自身やその食物などを変容させるリスクが増大していると述べている。最悪の場合、この2つの技術によって人類は滅亡するというのが筆者の主張。

 

        

 

 では滅亡しないために、人類はどうすればいいのか。先端科学技術を平和や善のためだけに使うのは、非常に難しいことだ。科学技術だけではなく、社会科学の視点も入れた、倫理的・法的・社会課題解決のアプローチが必要である。強制力という意味で、法律による縛りが求められるが、法律の制定には時間がかかる。

 

 本当に必要なのか弊害の原因と結果についてエビデンスを集めているうちに、技術が想定を超える成長を遂げて規制が後追い、もしくは手遅れになりかねない。そこで「予防原則」を取り入れた議論が必要になる。

 

 法律の前に倫理を確立すれば、リスクは軽減できる。ただその全体的、地球規模のコンセンサスを得る倫理感の確立もまた難しい。ただ筆者は「人工知能とゲノム編集の安全利用」2点に絞った議論なら収斂させられるのではないかという。

 

・単一の万能AIでなく、限定条件でのAI利用を促進するリスクベースの人工知能制御

・ヒトは自然物であるとする考えから逸脱しない世界規模のゲノム編集ガバナンス

 

 をすべきというのが結論でした。しかし、少なくともAIに関しては、そのような制御が可能な状況にはありません。最悪の場合でも、人類滅亡を回避するには・・・もう少し知恵が必要なようです。

 

ブラッドベリ初期の短編集

 本書は、ファンタジーの大家レイ・ブラッドベリ初期の短編集。「火星年代記」や「10月はたそがれの国」など有名な諸作はあるが、いつごろブレイクしたかについては定説がない。1940年代後半にパルプ雑誌に作品を発表し始めて、50年代には高級誌にも掲載されるようになった。本書はその時期の短編を22編集めて、1953年に出版されたもの。

 

 時間と空間を操る(というより常識を超えた設定をする)のが得意な作者の本質は、初期の作品から十二分に発揮されている。巻頭作「霧笛」は、沿岸の灯台守2人に古代の海獣が襲い掛かる。しかし決してパニックものではなく、地球が刻んだ長い年月が背景にある。ベテラン灯台守が若手に言う。「1億年前からいるヤツからは、我々人類が夢(幻)なのだ」と。

 

        

 

 「雷のような音」は、タイムマシンもの。ジュラ紀まで時間をさかのぼり、ティラノサウルスを撃とうとする男だが、厳密なルールに悩まされる。ルール違反で何か(例:ネズミ1匹殺す)をすれば歴史が変わってしまうかの知れないというのだ。男は些細なルール違反をしてしまい、現代に戻ってみると・・・。

 

 「黒白対抗戦」は、黒人・白人の野球チームの対戦記。本編が高級誌に掲載されたのが、転機になったと解説にある。雨宿りで無人発電所に泊まった夫婦の体験譚「発電所」は、O・ヘンリー賞を受賞している。

 

 時期が時期だけに、核戦争への恐怖も伝わってくる。表題作「太陽の黄金の林檎」は、より強力な核兵器を求めて太陽に近づく宇宙船の話。正直、読後感も「頭の中に霧がかかったようで」ぼんやりしてる。作者の表現したかった危機感を含めて、各話に付属幻想的なイラスト(作ジョゼフ・ムニャーニ)が語り掛けるものは、はっきりとはしない。それが幻想文学のゆえだし、作者がF作家としてカテゴライズされない理由でもある。

 

 うーん、難しいけれど時間を措くとまた読みたくなる。そんな文学ですかね。

厄介な敵ガブリエル

 このDVDは、派手なアクションが売り物の「Hawaii-5O」のシーズン6。前シーズンで脱獄に成功した、チンの亡くなった妻の弟ガブリエルが存在感を増す。シーズン1からずっとマクギャレット少佐を苦しめてきた敵ウォー・ファットが記念の第100話で死んだが、その代わりに5Oチームの天敵役になった印象だ。

 

 彼はかつてやはり警官だったチンの父親を殺しており、義弟といっても複雑な関係にある。チンだけでなくその従姉妹のコノ、さらにコノの夫のアダム・ノシムリに襲い掛かり、ついにはアダムを(正当防衛気味ながら)殺人の罪で刑務所送りにする。もともと暗黒街の顔役だったのだが、いつのまにか大きな犯罪組織を作り上げ、指名手配されているのにハワイを離れず悪事を重ねていく。

 

        

 

 ガブリエルは、上海からの船便で4つのコンテナに満載した武器を密輸。中国系の犯罪組織の要員を皆殺しにしてすかざず(多分本土に)転売する。ボクシングのタイトルマッチを観戦している3人の暗黒街のボスを暗殺しようとして、マクギャレットたちに阻まれながらも日本ヤクザのボスだけは仕留める。つい前話まで協定を結んでいた相手なのに・・・である。まさになんでもありの悪役ぶりだ。前シーズンから、大きなカネの動くところならどこにでも現れる。「決着の時」で死んだかと思われたのだが、しつこくチンたちに絡んでくる。

 

 マクギャレット少佐は前シーズンに恋人キャサリンに出ていかれてしまい、ダニーは亡くなった弟マットの隠し金で追及を受ける。比較的平穏な家庭環境なのは、元SWATのグローヴァー隊長ぐらい。

 

 アクションはますます派手になり、事件も大型化するのだが、ホームドラマ色が一段と強くなった。もはやミステリーの領域なのは、陰謀論者ジェリーが出てくる時くらい。それだって、UFOとかDeep Stateのような話ばかりですがね。

変革のための戦略と事例

 2023年発表の本書は、淑徳大学教授雨宮寛二氏(経営学)のDX戦略論と実戦例集。DXを単なるIT導入と勘違いしている企業が多く、本当の意味の構造改革に着手していない。経営学の視点からのDX論として、興味深く読んだ。

 

 DXのキーはデータだが、企業がデータを集めるのはいいとして、特に整理されていない「データレイク」を目的によって整理統合した「データウェアハウス」に昇華することが重要だとある。その上で、4つの戦略が示されている。

 

1)エクスペリメント戦略

 企業体験を最適化するため、ニーズの発掘やプロセスの単純化をすること。事例としてダイムラーがローカル5Gを使って製造現場革新したことが挙げられている。

 

2)データドリブン戦略

 データ解析による新しい知見により、データ主導で意思決定を行うこと。事例として、クボタがエッジAI(化した農機具)を使って農業改革をしたことが挙げられている。

 

        

 

3)ヒューマンスキル戦略

 社員のスキルや能力の最適化や向上を図るため、社員をエンゲージメントすること。事例として、リスキリングやその結果として異動への反映をしているAT&Tが挙げられている。

 

4)アジャイル戦略

 事業環境の変化に合わせた組織の最適化を行うため、アジャイルな開発手法を導入すること。事例として、医薬品業界や建設業界のPOC(実証実験)が挙げられている。

 

 以下事例として、

 

・テスラ

 完全受注生産を支えるデジタルツイン(*1)と部品内製化率7割。自動運転化のためのスキームも開発

ウォルマート

 製造・流通・販売をデジタルで一体化した、インテリジェント・リテール。自前の衛星で、通信が不十分な地域までカバー

・アリババ

 流通・通販・決済などを支配し、データドリブンな最適化を実現。ヘルスケア分野にも同様の考え方で進出

・ネットフリックス

 オンラインDVDレンタル」、ストリーミング配信を通じ、視聴者情報からAIを使って独自コンテンツ製作にいたる3段階DX

 

 結論としてDXに必要なことが4点明示されている。

 

・あるべき姿の明確化

・企業文化の変革

・セキュリティの確保

・パートナーシップの拡大

 

 僕自身も関わっている話が多く、納得できる解説でした。

 

*1:全てシミュレーションで完結

3本の電話が作った不可能犯罪

 1934年発表の本書は、以前デビュー作「完全殺人事件」を紹介したクリストファー・ブッシュのアリバイ崩しもの。今回も複数の容疑者のアリバイを丹念に検討し、真相に迫る探偵役はルドヴィク・トラヴァース。

 

 事件は、シイバロという、ロンドンから遠くない田舎町で起きた。家族も友人もなく、何人かの使用人だけを相手に暮らしていた初老の男リューインが殺された。シイバロ署に使用人を名乗る男が電話してきて「主人が死んでいる」と告げた。時刻は19:13。

 

 ところがその使用人はロンドンから19:10にシイバロ駅に着く列車で戻ってきて、駅から1マイルある被害者邸に着いたのは警察より後だという。被害者を名乗る男は、19:05に周旋屋の男、19:10に医師に電話している。普通に考えれば、使用人を名乗った男が犯人で、刺殺されたのは19:10から警察が現地に着く19:20ころだと思われた。

 

        

 

 シイバロ署の所長は、たまたま夕食を共にしていたロンドン警視庁のワートン警視をともない現場を調べた。ワートン警視も現地警察に協力して聞き込みにあたり、容疑者を4人に絞った。

 

・ロンドンから戻ったという使用人

・19:00まで被害者と一緒にいたという使用人の甥

・被害者が電話で呼び出した医師

・近所に住む探偵小説家

 

 しかし、全員が複数の目撃者の証言に裏付けられた、100%のアリバイを持っていた。仮に被害者の医師への電話が声色であって、実際に刺殺されたのが19:10以前だったとしても、4人のアリバイは堅固なままだ。事件の検死審問の様子は新聞に詳述され、興味を持ったトラヴァースが現地にやって来るのだが、彼をもってしても犯行証明は出来そうもなかった。

 

 作者の作品中でも名高い「完全・・・」よりは、僕にとっては好きな作品。学生時代には絶版になっていて、今回初めて読めました。嬉しかったです。