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住友化学・旭化成・三井化学…「石化再編」機運高まる化学産業、トップが語った24年の戦略

住友化学・旭化成・三井化学…「石化再編」機運高まる化学産業、トップが語った24年の戦略

※イメージ

2024年は日本の化学産業を次世代に“つなぐ”ための再編が加速しそうだ。カーボンニュートラル温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ)対応が迫られる中で、石油化学の再編に向けて各社の機運は高まっている。中国の影響など事業環境の変化を踏まえ、化学製品の高付加価値化での連携の重要性も増している。経済安全保障面で重要な、産業の川上を支える化学をいかに持続可能な産業とするのか。大手3社の社長に戦略を聞いた。(山岸渉)

天然物農薬の品ぞろえ強化/住友化学社長・岩田圭一氏

―24年の事業環境をどう見ますか。
 「半導体が回復してくるほか、自動車も半導体不足が一段落して生産が本格化する。一方、供給面の影響は注意が必要だ。中国の石化プラントの増設意欲は衰えていない。インドやアジアでも成長の原動力は石化だと言っている。需要は増えそうだが、供給は注視しないといけない」

住友化学社長 岩田圭一氏

―事業環境の変化や業績悪化などを受けて抜本的な構造改革に取り組む計画です。
 「新しい成長の道筋をどう見つけるかが『新生スペシャリティケミカル企業』への挑戦で、構造改革に着手する。(半導体材料などの)情報電子化学と、農薬など農業関連は成長を期待している。どこに新しく経営資源を投入していくかをしっかり議論することも構造改革だ」

―情報電子化学では半導体関連でプロセスケミカル(精密洗浄に用いる化学品)の米国新工場など積極投資しています。
 「(米国新工場は)順調に進んでおり、25年には戦力になってくれるだろう。フォトレジストも重要だ。大阪工場(大阪市此花区)で増強が完了するのに加え、韓国でも新しい増強に取り組んでいる。24年以降に再成長する市場には間違いなく、供給体制が間に合った」

―農薬など農業関連は。
 「(天然物農薬などの)バイオラショナル系が今後増える。米FBサイエンスを買収するなど品揃えを拡充し、トップランナーへと手を打っている。地域では欧州を開拓したい。欧州は環境に厳しく、競争によって切磋琢磨できる。一定規模でバイオラショナルを手がけている企業のM&A(合併・買収)を狙う」

―業績悪化の要因となった医薬品や石化の構造改革にはどう取り組みますか。
 「医薬品は北米を再編し、23年7月から新体制にして大幅なコスト削減につながった。販売の戦略が一元化されたが、拡販効果はもう少し様子を見ていきたい。石化関連では(サウジアラビア石化合弁の)ペトロ・ラービグがあり、(合弁相手の)サウジアラムコとの話し合いが第一だ。収益力のある会社にするには石油精製の高度化などが課題。サウジアラムコと認識を共有しており、腰を据えて取り組む」

―日本の石化も構造改革の方針を打ち出しました。
 「京葉臨海コンビナートでバイオエタノールからエチレン、プロピレンを作ることを核に共同運営できないかと考えている。誘導品は高付加価値化と効率化だ。内需を守るためにはコスト競争力が欠かせず、それには再編による生産などの高効率化が重要だ。共通認識で各々進んでいる。経済安全保障の一つとして成り立たせたい」

―シンガポールではどう取り組みますか。
 「環境負荷低減に舵を切るための拠点に位置付ける。日本で立ち上げた技術をシンガポールで社会実装した後、ライセンス提供を含めてアジア全体に展開したい。新しい(石化を手がける)エッセンシャルケミカルズの姿の一つだ」

CO2ケミストリー重要に/旭化成社長・工藤幸四郎氏

―24年度に中期経営計画の最終年度を迎えます。
 「22年度に社長に就任し、中計が始まった。22―23年度は厳しい年ではあったが、共通して言えるのは当社のどういう素材が、どのビジネスモデルが強いのかなどがクリアになってきた。それぞれ成長の時間軸が違うが、中計で掲げた次の成長をけん引する10事業(GG10)への重点投資はしっかりとしていく」

旭化成社長 工藤幸四郎氏

―マテリアル領域では石化関連事業の事業改革が課題となっています。方向性をどう見ていますか。
 「24年度にはできるだけクリアにして示すという計画は変わらない。考え方はそれなりにまとまりつつあるが、独自でできるものが全てではないし、強化しようとしているものもあれば、他社と連携していくものなどもある。方向性を出すためには関係先やパートナーとの合意を得る必要があり、24年度にしっかり方向性を出すために努力している」

―リチウムイオン電池(LiB)用湿式セパレーターの投資も積極化しています。
 「23年10月末に塗工膜に関する約400億円の投資を発表した。北米の新工場についても、それなりの覚悟がいるのでリスクもある。そのリスクをどうマネジメントするかがポイントだ。電池メーカーが相当米国に投資するし、電池は希少金属を含めさまざまな調達が必要で自動車メーカーも相当(調達網を)真剣に考えている。電池メーカーや自動車メーカーと極めて突っ込んだ話し合いをしている」

―二酸化炭素(CO2)の削減や活用など脱炭素対応も重要性が増しています。
 「水島コンビナートでの事業をベースにした誘導品を持っているなど、触媒技術に強みがある。国内だけでなく世界でも技術力は高い。触媒の技術を生かして進めるのが『CO2ケミストリー』だ。CO2を原料にしたポリカーボネートはライセンスを多く手がけている。バイオガスの取り組みもあるし、バイオエタノールを原料として基礎化学品の生産にも取り組む。マテリアル領域における新しいビジネスの一つとしてCO2ケミストリーがある」

「イオン交換膜ではリカーリング(継続課金)ビジネスに取り組む。イオン交換膜や設備の稼働状況を見ながら、いつ交換するべきなのかなどを感知し、トータルのコストをお客様にとって最適にできるサービスだ。素材をベースにしながらプラットフォーム化し、ビジネスモデルを作る。水素でも強みを考えながら周辺でどう収益を上げるかだ。マテリアル領域の成長の要の一つになってくる」

―石化コンビナートの連携も活発になってきました。
 「日本の石化事業が厳しい中で再編の気運が高まっている。ただ誘導品はそれぞれ顧客や強みなどで戦略が違う。川上と川下はしっかり分けて考えることが重要だ。(川上の)ナフサクラッカーはマクロ面で5―10年を見据えた動向を見る必要もある」

ライフ&ヘルス 挑戦的目標/三井化学社長・橋本修氏

―24年の事業環境をどう見ますか。
 「外部環境は23年の状況と大きくは変わらないだろう。石油化学は中国の設備過剰な状況で、汎用品を中心に需給が緩んでいる状況。ライフ&ヘルスケアは外部環境での影響はほとんどない。(半導体関連の)『ICT』は半導体市況が徐々に回復する。自動車も良くなる状況だ」

三井化学社長 橋本修氏

―石化事業は厳しい事業環境です。
 「まだまだ構造改革をして基盤強化しないといけない。合わせて将来のグリーン化も重要だ。1社でできることは限られているので国や自治体との連携にも取り組む。地域間の連携は進んでいくだろうし、誘導品の強化について各社の再編や連携は一気に動き始めるかもしれない」

「24、25年度を見据えてなるべく前倒しで事業再構築などに取り組む。ナフサクラッカーで言うとクラッカーの競争力強化は1社では出来ない。(構造改革の)第二幕として、誘導品でどれが勝ち残っていけるかを見極めることで、どれくらいの原料が必要かが見えてくる。それで上流の設計もできる。クラッカーの最適化やグリーン化などを中長期視点でのグランドデザインを考える。誘導品の強化と将来のコンビナートのあり方と同時に検討していく」

―ライフ&ヘルスケアなど成長領域はどう取り組みますか。
 「一番挑戦的な目標を立てているが、ライフ&ヘルスケアは着実に成長してきている。参入障壁が高いので競合が入ってきづらく安定性が高い。レンズモノマー、農薬、オーラルケアがコア3事業だ。例えば、オーラルケアでは、世界最大のヘルスケア市場である米国に対し、グループの独クルツァーだけでなく、さらにリソースを獲得する手段として提携やM&Aを考えている」

―当初30年度のコア営業利益目標で800億円と設定していたモビリティソリューション事業についてはどう取り組みますか。
 「30年度に900億円ほどまでいけるのではないか。電気自動車(EV)シフトや、軽量化が求められる中で非常に期待できる。自動車だけではなく、太陽光発電部材などでも需要がある。例えば、24年は高機能ポリプロピレン(PP)の営業運転も計画している。特徴あるPPであり、リサイクルなどで強みがある。何回も同じ用途で利用できるリサイクル性が高い。機能面でとがった特徴が出せる。また共和工業(新潟県三条市)やアーク(大阪市中央区)と一緒にデザインから部材まで提案できる。メガキャスト用金型などの開発も進めており、収益貢献は25年以降になるだろう」

―半導体関連では、官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)と組んで、新光電気工業の買収に参画します。
 「新光電気工業が新しいものを手がける時に我々の製品や技術が役に立てるのではないかと考えている。(半導体が)3次元化など変化していく中での新しい領域といった将来への期待で出資に手を挙げた」


【関連記事】 大手化学メーカー、構造改革の行方
日刊工業新聞 2024年1月1日

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