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DJ/ライターのイーチンがシンガポールの音楽フェス「sessions.」やローカルカルチャーに触れて感じたこと

Text: Yiqing Yan

Photography: Jun Hirayama unless otherwise stated.

Edit: Jun Hirayama

2024.12.12

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2024年10月18日。東京は少し肌寒くなり秋がはじまろうとしているとき、NEUT編集部はライター/DJ/スタイリストとマルチに東京で活躍するイーチンと一緒に、30度を超えるシンガポールへ2日間のショートトリップへ出かけた(シンガポールは熱帯モンスーン気候なので、気温は通年平均30度近くある常夏の国)。

旅の目的は2つ。

1つ目は昨年NEUTでインタビューしたシンガポール発の女性が主役の音楽フェス「𝗧𝗵𝗲 𝗔𝗹𝗲𝘅 𝗕𝗹𝗮𝗸𝗲 𝗖𝗵𝗮𝗿𝗹𝗶𝗲 𝗦𝗲𝘀𝘀𝗶𝗼𝗻𝘀.」を運営する24OWLSが開催している別の音楽フェス「sessions.」の取材だ。「𝗧𝗵𝗲 𝗔𝗹𝗲𝘅 𝗕𝗹𝗮𝗸𝗲 𝗖𝗵𝗮𝗿𝗹𝗶𝗲 𝗦𝗲𝘀𝘀𝗶𝗼𝗻𝘀.」同様、Pasir Panjang元発電所という巨大な会場で開催された「sessions.」は、アイスランドからKiasmos、ローカルアーティストFauxe、Kin Leonn、Mervin Wongの3組が出演し、「𝗧𝗵𝗲 𝗔𝗹𝗲𝘅 𝗕𝗹𝗮𝗸𝗲 𝗖𝗵𝗮𝗿𝗹𝗶𝗲 𝗦𝗲𝘀𝘀𝗶𝗼𝗻𝘀.」のようなバンドやアコースティックな音楽というよりは、実験的な電子音楽が楽しめるナイトイベントだ。

2つ目の目的は建国して59年という短い年月で驚異的な経済成長を遂げているシンガポールで、まだ開発されていない昔ながらの建物に訪れたり、ローカルのカルチャーやコミュニティと触れ合うことだ。今回は昨年シンガポールに訪れたときから親交があるアジアから欧米までさまざまなZINEを取り扱っているストア「SHRUB」にイーチンと再訪した。

2日間のシンガポール体験記をイーチンに書き綴ってもらった。

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イーチン氏

1日目、音楽好きの大人とユースが混ざり合う音楽フェス「sessions.」を体験

今回シンガポールは3度目である私(イーチン)は南西部のエリアで集合住宅が多いクイーンズタウンというエリアにあるホテルに泊まった。初日の夕方にホテルの向かい側にあるストリートフードマーケット「Alexandra Village Food Centre」で、インドネシアの焼き魚にサンバルを付け合わせたプレートと、シンガポールの庶民的料理、牛乳を足して調理されるフィッシュスープで夜ご飯を済ませたあと、今回の目的でもあるPasir Panjang元発電所で行われている音楽フェス「sessions.」に向かった。

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元発電所でレイヴなどベルリンのベルグハインのようにヨーロッパではなじみのある文化だが、アジアではあまり聞いたことがなかった。シンガポールの独特な政治・経済的な立場と、イギリス植民地の過去と東南アジア文化の混ざり合い具合があるからこそ成立しているのではないかと思った。

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コロナ後、東京の行きつけの大きなクラブはいくつか閉店してしまったので、大きい会場で音を聴くこと自体が久しぶりだった。数年ぶりの大きなフロアから感じる高揚感と音の臨場感が素晴らしかった。約5,000人のキャパシティがある会場を半分に区切ってぜいたく使いしているなんて、いかにも音好きとカルチャー好きが作っているイベントらしい。発電所の一番奥には大きなフェスステージがあり、発電所の真ん中に客が地べたに座りながらアーティストを囲むアンビエントゾーン、右側にはタロット占いや、マガジンブースと音楽だけでなく、さまざまな体験も用意されていた。

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会場を見渡してみると、来場者の年齢層が東京でいつも遊んでいるクラブと違うように見えたので、喫煙所で出会った現地の女性の方にどんなきっかけでこのイベントに来ているのか聞いてみると「数年前に仕事のためインドからシンガポールに拠点を移してきて、音楽が好きなのでsessions.や24OWLSが開催している音楽イベントによく来ている」という。昼は企業のマーケティング部門で働きながら、夜は時間があれば音楽を楽しむ場所に足を運ぶそうで「仕事とプライベートを分けるタイプなの」と教えてくれた。

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その後、最初に話かけた人とは違うコミュニティにいそうな若者たちになんで「sessions.」に来たのか聞いてみると「シンガポールはカルチャーシーンが小さくて、今日は友達が出演するからみんなで来てみた」とのこと。彼らは昼間はカフェなどでバイトをしながら、クラブでパーティの主催をしたり、バンドをやっていたり、グラフィックデザインの仕事をしていたりと、東京の若者ともあまり変わらないライフスタイルを持つ若者たちだった。

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コーポレートな社会人とサブカルキッズが混ざり合う場所でもあった「sessions.」。音楽やカルチャーコンテンツがもたらす感覚的刺激以上に、普段出会うことのない人たちが一時的に居合わせることができるクリエイティブスペースとして、シンガポールのカルチャーシーンにとって大事な役割を果たしているイベントだと実感した。

音楽だけではなく、占いや本屋さんなどまるっとシンガポールのカルチャーを体験できるフェス

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Photography: 24OWLS

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Photography: 24OWLS

リードでも先述したがsessions.はシンガポール発のカルチャーを広める24OWLSが運営する音楽フェスの一つ。エクスペリメンタルに活動するローカルミュージシャンや国際的なゲストアーティストを迎えた本イベントは音楽だけではなく、フードやドリンク、占い、本屋さんなど24OWLSが提案するライフスタイルをも体験できる空間作りへの熱い想いと幅広いコンテンツにとても感動した。

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Mervin Wong / Photography: 24OWLS

今回のsessions.は、ハードウェアをメインとしたエクスペリメンタル好きにはたまらないライブアクトの宴と言っても過言ではない。ローカルアーティストのMervin Wongから始まり、初っ端からトランス状態に誘う、シンセサイザーやバイオリンを使い、壮大かつセンチメンタルな空気感でウェアハウスを暖めていく。

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Fauxe / Photography: 24OWLS

次に主に楽器を使い幅広い音楽活動をするローカルレジェンドFauxeは、心臓の鼓動を高揚させるようなシンプルかつ感受性のすば抜けたライブセットを披露。

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Kiasmos / Photography: 24OWLS

今回の目星にもなるアイルランドのデュオKiasmosはメインステージに立つと、フロアは取り憑かれたように、音と感情のバイブレーションと一体になり、イベントのピークを迎える。

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Kin Leonn / Photography: 24OWLS

クロージングアクトのKin Leonnはアンビエンスを操るかのように、何もないところからノイズを拾っていき、再びエモーションで埋め尽くされた空間を軽やかに広げてくれた。この後に何があるのだろうと客の好奇心をくすぐるセットでフェスの幕を下ろした。ライブパフォーマンスから、ブースの配置、チルアウトゾーン、その場で感じる居心地良さだけではなく、イベント後も何か心に残るようなフェスティバルだった。

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Photography: 24OWLS

ここで女性をメインに動く組織やイベントについても少し話したい。東京にもイベントシリーズのWAIFUや、クィアレイヴのSLICK、アナーキストスペースのNAMNAMなど、エンタメから始まり街の文化に貢献するグループが点在する。その裏に必ず、独立した考えを持つ、コミュニティに還元することをやりがいにする人々がいる。活動内容は特定なものに限るとはいえ、目の前で起きている何かを超えたところで生活に響かせるような成果をもたらしているのは確かだ。今回招待してくれた24OWLSチームの女性の方々も、何気ないやりとりにも自分らのカルチャーに対する愛と、先を見据えた目線にアンビシャスな心構えがとても伝わった。旅の2日目には24OWLSチームの彼女らとフードやカルチャースポットを回ることになった。

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Photography: 24OWLS

2日目、シンガポールのZINE、スケボー、グラフィティ、パンクバンドのシーンを知る

2日目は70年代初期にシンガポール政府の再開発によって建てられ、今となってはタイのコミュニティが栄えているゴールデンマイルコンプレックスというビル内にある元鍵屋の跡地をそのまま再利用しているストア「SHRUB」に訪れた。店主のFernは、シンガポールアートブックフェアを翌週に控え、新たなアートブックを制作中で忙しそうだったが、プリンターの横にいながら優しく接客してくれた。「シンガポールはあんまりエクサイティングなことが少ないけど、こうして友達とお店を運営していると、インドネシア、タイ、あるいはパリなどの海外のアーティストやクリエイターにもリーチできて、世界中のZINEコミュニティが持つお互いを支え合う精神性がやりがいだね」と自分のやってることに対してプライドを感じると共に、地に足を着いた言葉が心に響いた。

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「SHRUB」の店主Fern氏

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「SHRUB」ではシンガポールのローカルのカルチャー誌やZINEをはじめ、インドネシアのハードコアZINEからタイの現行のバイカーファッション誌まで東南アジアのグラスルーツカルチャーを網羅している。東南アジアの紙媒体だけでなく、欧米のコンテンポラリータトゥーアーティストのインタビュー集や写真集なども取り扱っている。誰が来ても面白いと思える紙媒体が取りそろえられているSHRUBは、“新しい場所に訪れるワクワクさ”と“友達と遊ぶ感覚の心地よさ”が共存しているところが魅力的だなと思った。また、タイムカプセルにしまわれたかのように鍵屋さんの跡もあちこちから垣間見え、お店の前は50年前に建てられた環境がそのまま取り残され、ジェントリフィケーションされ続ける中心街の喧騒から離れ、息抜きできるとともに、いまだにメインストリームへの反骨精神を感じられるパワースポットだった。

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その後は、SHRUBの前の廊下スペースで折りたたみのテーブルをプラスチックの椅子で囲んで、フィンガー・スケートボードをやりながら音楽やグラフィティの雑談をするスケーターの3人組と街へ出かけてみた。2時間くらい一緒に散歩したら、彼らが生きる今のシンガポールを少し見れた気がした。電子タバコが違法であったり、路上タバコでさえ厳しく取り締まられることで有名なシンガポールでも、スケートや、グラフィティ、パンクバンドシーン、サテが有名なストリートフード店、たまには喧嘩など、生きるためには不可欠なクリエイティブの源が生活の中に常にあることを彼らがみせてくれた。

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2日間のシンガポールトリップで感じたこと

2日間を通して、今まで存在すら知らなかったシンガポールのディープな一面に足を踏み入れることができた。元発電所という巨大でメジャーなプラットフォームを持つ人から、自らのコミュニティを営む、国土の面積が東京23区とさほど変わらない限られた国土でさまざまな場所でシンガポールの文化を作る人たちがいる。植民地主義やアジアの近隣国から移民の歴史を受け入れながら、生活の中に自分らのアイデンティティを見いだす、足掻きながらもポジティブなクリエイターたちに出会えたことに感謝し、これからはよりシンガポールのカルチャーシーンとつながって活動していけたらうれしいと願っている。

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