コミックバンチがWeb雑誌にリニューアル!新編集長×マンガ家・井上淳哉が“継承と革新”のための企画会議

月刊コミックバンチ(新潮社)が、Web雑誌・コミックバンチKaiとしてリニューアルされ、4月26日に誕生した。もともと2001年に週刊コミックバンチとして創刊、2011年に月刊コミック@バンチとして月刊化、2018年に月刊コミックバンチとして新装刊され、時代とともに変化してきたコミックバンチ。月刊コミックバンチとコミックバンチKaiの両編集長は、コミックバンチKaiへのリニューアル発表の際に「今後はWEBの時代に適応していかなければ生き残れない」「SNS時代に合わせた王道ストーリー漫画、骨太漫画制作にチャレンジしていきます」と説明していた。

リニューアルの経緯、そしてコミックバンチKaiは今後どのような雑誌を目指すのかを掘り下げるべく、くらげバンチで「極主夫道」を立ち上げ、このたび同誌の編集長に就任した西川有正氏と、週刊時代からコミックバンチで「BTOOOM!」や「怪獣自衛隊」を発表し、編集者らに“影の編集長”と呼ばれているマンガ家・井上淳哉の対談をセッティング。「正直Web雑誌としてのリニューアルには不安しかない」と言う井上は、編集長が求める“新しさ”とはなんなのかを遠慮なしに尋ねていく。今後コミックバンチKaiをどうしていくのか、企画会議と言えるほどまでに具体的なアイデアが繰り広げられたこの対談を最後まで見届けてほしい。

取材・文 / 小林聖撮影 / 武田真和

個性や色が見えるマンガサイトにしたい

──コミックバンチKai創刊おめでとうございます。バンチレーベルにはくらげバンチというWebマンガサイトもあります。今回新たにWeb媒体を作る狙いはどんなところにあるんでしょう?

西川有正 新しいWeb媒体を立ち上げる構想は数年前からあったんです。私はくらげバンチでは副編集長を務めていたんですが、くらげは立ち上げから10年経って、安定期に入ったと感じていました。だからこそ、何か新しい動き、今までとは違うマンガサイトを作りたいと思っていたんです。当初は雑誌のコミックバンチとは別の話だったんですが、ちょうど雑誌のほうもリニューアルを考えるタイミングでもあったので、新サイトの構想と一緒にしようという話になりました。コミックバンチとして新しいサイトを作っていこう、と。

西川有正編集長

西川有正編集長

井上淳哉 その「新しい」というのがなんなのか、今日はぜひいろいろ聞きたいです。やっぱり今までやってきた紙の雑誌からWebに移行するということで、マンガ家としては不安もあるんですよね。紙からWebって今も規模縮小というイメージが根強いし、みんながアクセスできる反面、広大なネットの海に沈んでしまうんじゃないかという怖さもあった。新編集長はどんなサイトにしていこうと思っているんですか?

西川 くらげバンチを運営する中で、ネットで話題になりやすい、バズりやすい作品の作り方はだんだんわかってきました。だから、単にバズるだけでなくその先、もっといろんなことができるんじゃないかと思ったんです。

井上 というと?

西川 Web上でも雑誌のような媒体を作れないかと考えています。従来のWebマンガサイトは基本的には拡大方針ですよね。作品が増えた方がPVも増える。作品数が増えるので、自然とサイトのトップページも作品が並んでいくデザインになっていく。くらげバンチもそうですし、それはそれで1つの答えだと思います。ただ、そうすると究極的には電子書店さんとかマンガアプリみたいな形になる。どうしても媒体の色は薄くなっていきます。そうでなく、Web上でも媒体の色や個性が出るサイトにしたいと思っているんです。デザイン的にも単純に連載作が並ぶのでなく、雑誌に巻頭カラーやセンターカラーがあるように、強弱をつけたり。

井上 なるほど。

西川 作品によって見せ方を変えることもできる。雑誌だと雑誌の刊行ペース、月刊なら月刊という形に全作品が合わせることになります。でも、Webなら作品ごとに更新ペースを変えられるし、途中で隔週や週1更新にしましょうなんてこともできる。Webではスピード感は重要な要素ですから。YouTubeやソシャゲといったライバルは、毎日更新があったり何か新しいこと、アクセスさせる要素がある。コミックバンチの連載作でも、掲載ペースが月1から上がることでもっと読者に響く可能性があると思っています。

井上 じゃあ、コミックバンチで描いていた作家さんは実際に更新ペースを上げていくんですか?

西川 いきなりペースを上げるというのは大変という方もいますし、相談しながらですね。でも、バンチKaiからスタートする作品に関してはできるだけ隔週以上を目指していきたいですね。

多言語同時連載やフルカラーをやってもいい

──井上先生の「怪獣自衛隊」は一気に週1更新になりますよね。

「怪獣自衛隊」1巻

「怪獣自衛隊」1巻

井上 僕からお願いしたんです。雑誌は書店によく行く人や定期購読をしている人が読んでくれているイメージだった。月に1回というのが習慣化している。だけど、Webだと1カ月ごとにアラートしてくれるような仕組みはなかなかないので、月1更新だと忘れられてしまうんじゃないかという怖さがあった。それで、バンチKaiでは週刊ペースでの更新にしてもらったんです。

西川 スピード感を出したいというのは考えていたことなので、ありがたいです。本来ならこちらからお願いすることなんですが、先生から言っていただいて。

──先生はコミックバンチの週刊時代も経験していますが、途中から週刊への切り替えというのは大変なんじゃないですか?

井上 制作作業自体で言えば、僕の場合週刊と言いつつ、1週間ずつのスケジュールでなく1カ月単位で4回分描くという形を取ったので、実はそれほど大きく変えてはいません。月刊50ページくらいだったのが80ページくらいになるというだけで。

──それが大変なのでは(笑)。

井上 まあ大変ですが、そこはなんとかなります(笑)。ただ、単純に1話を4分割するのとは違うので、どこで区切って次回への興味を持ってもらうかというのは考えないといけない。月刊とはネームの切り方が変わってきます。今までの感覚でやってはいけない世界だなとは感じています。

──リズムやテンポが変わりますよね。逆にWeb連載になることでやってみたいことはありますか?

井上 ダメもとで言いますが、海外版同時連載とかもWebならできるかな、と。僕は今フルデジタルで描いているので、吹き出しを消したり形を変えたりすることもすぐできる。だから、英語用に吹き出しを横長にして出すこともできるんですよね。

西川 確かに他社さんで多言語同時連載をやっている作品もありますし、面白いですね。実際、くらげバンチも海外の読者が一定程度いらっしゃるので、ニーズはあると思います。

井上 それは海外に住んでいる日本人とか日本語ユーザーですか?

西川 そこまではわかりませんが、海外からのアクセスがそれくらいあるという感じです。基本的にはマンガの人気や市場に比例していて、一番多いのは北米。次にヨーロッパ、アジア圏がそれに追いつこうとしている感じです。

井上 海外に合わせて全ページカラーで描いてもいいですし。

西川 海外は市場もどんどん大きくなっていますから、意識はしています。同時翻訳やカラー作品もゆくゆくは考えてみてもいいですね。

井上 ただ、カラーにする場合は塗り方は少し考えないといけないです。カラーになると(読者の)目が流れていかないから、テンポが崩れる。特に僕の絵柄は塗ったら重すぎて脳がゆっくり処理してしまうんです。

「怪獣自衛隊」第1話より。

「怪獣自衛隊」第1話より。

──確かに、カラーになるとイラストとして見てしまうというか、1コマずつ目が止まってしまいますね。いわゆるWebtoonなんかは淡白な塗りが多いから読みやすいですが、井上先生の絵だとバンドデシネ(フランスのマンガ)のような感覚になりそう。

井上 そうなっちゃいますよね。だから、話もゆっくり進む物語にするとか、描き方も意識しないとダメだと思います。白黒マンガのノウハウは通用しない。

ひとつの作品から別の作品にも広がるサイト作り

井上 僕としては毎週なら毎週、人が集まる場所にしてほしいです。そのための方法はマンガだけじゃないと思います。例えば、僕が「極主夫道」を論じるとか、ほかの作品にパスを出すような企画があってもいいんじゃないですか? 「怪獣自衛隊」しか読んでない人に、ほかの作品に興味を持ってもらえる。

──面白いですね。確かに雑誌は1つの作品目当てに買った人でも、自然にほかの作品を読んでもらいやすいですが、Webはそういう広がりがなかなかないです。

西川 そこはまさにくらげバンチをやっていて感じていた課題です。ある作品が人気になって読者を集めても、その読者がほかの作品に広がっていかない。そういう意味で、サイトのトータルアクセス数にあまり意味がないような気もしています。媒体としてのアクセス数でなく、各作品のアクセス数の合計でしかなくなってしまうので。だから、1つの作品からどうほかの作品に読者を広げていくかというのが大きな課題です。媒体としての色を出すというのも、その課題を克服するための1つの方法。でも、これはゆるやかなアプローチなので、井上先生がおっしゃったような直接的に働きかけるアプローチも考えたいですね。

井上 雑誌はパラパラとめくっていてすごい見開きを見つけて、「なんだこれ!」って読み始めることもありますよね。そういう感じで、なんかすごいコマを「今週の1枚」とかって掲載してもいいかもしれない。

左から西川有正編集長、井上淳哉。

左から西川有正編集長、井上淳哉。

──もう企画会議ですね(笑)。ものすごく具体的なアイデアが出てくる。

井上 バンチのことは放っておけないんです(笑)。だから、どんどん具体的にしたい。