TVアニメ「夏目友人帳 漆」が、12月23日に最終回を迎えた。LaLa(白泉社)で連載中の緑川ゆきのマンガを原作とする「夏目友人帳」シリーズは、妖怪の姿が見える夏目貴志が、用心棒のニャンコ先生とともに妖たちと心を通わせる日々を描いた妖怪奇譚。「夏目友人帳 漆」はTVアニメ第7期にあたり、2017年に放送された第6期「夏目友人帳 陸」から約7年ぶりの放送となった。
コミックナタリーでは、作中に登場する妖怪たちの集まり・犬の会のメンバーのやり取りに、しっかりとしたアドリブが入っているという情報をキャッチ。犬の会に参加する一つ目の中級妖怪役の松山鷹志、牛顔の中級妖怪役の下崎紘史、ヒノエ役の岡村明美、河童役の知桐京子を招き、座談会を開いた。犬の会のメンバーだけが参加する取材はこれが初めてとのこと。「とても楽しみにしていた」と言ってくれたキャスト陣たちに、第7期の見どころや噂の“アドリブ会議”、アニメを観始めたばかりの人にオススメしたいエピソードなどについて語ってもらった。
取材・文 / 岸野恵加撮影 / 武田真和
第6期の放送から7年……「そんな感じしないですよね?」
──アニメ放送開始から16年。こうして犬の会のキャストが集まった座談会が実施されるのは初めてということで……本日はお集まりいただきありがとうございます!
一同 よろしくお願いします! 今日をとても楽しみにしていました。
──合間に劇場版はありましたが、TVシリーズの放送は第6期から7年ぶりとなりました。第7期の放送が決まったときはどんなお気持ちでしたか?
松山鷹志 ……だろうね!と。
岡村明美 うんうん、確かに。
松山 たとえ間が空いたとしてもアニメ「夏目友人帳」はなくならないんだろうな、と。自然とずっと、そんな感覚でした。人気も変わらず高い実感があって。僕らの年代の人にとっても「夏目」は特別な存在のようで、アニメはあまり観ないけど「夏目」だけは観るという人もけっこういるんですよね。
下崎紘史 僕の周りにも、家族で楽しんでいる人が本当に多いです。知り合いの男性で、お母さんが「夏目」を好きで、一緒にずっと観ているという人がいたり。家族ぐるみで愛されている作品だと感じますね。
岡村 正直、7年も空いていた感じがしないですよね?
知桐京子 はい! 間に劇場版やCDドラマもあったから、「そんなに経ってた?」と思いました。7期が決まったと聞いて、私は純粋に「やったー!」という気持ちと、あの柔らかくて優しい作品の新作を観れることがうれしいという、ファン目線での喜びもありました。犬の会のメンバーは毎話登場するわけじゃないので、出演しない話数は、オンエアで初めて観るのをとても楽しみにしているんです。
アドリブは手書きの台本から生まれる
──犬の会の登場シーンにはアドリブが多数盛り込まれていると、大森貴弘総監督をはじめとしたスタッフの皆さんや夏目貴志役の神谷浩史さん、ニャンコ先生役の井上和彦さんがよくお話ししていますよね。今日はそのアドリブがどのように生まれるのかを、ぜひお聞きしたかったんです。
松山 アドリブというのがもはや正しいのか……アドリブで進行しているのではなく、ちゃんと台本があってですね……(手書きのセリフが書かれた紙を取り出す)。
岡村 松山先生が、オリジナルの台本を用意してきてくれるんですよね!
松山 正式な台本をもらったら、「ここでこんなことをしゃべるだろうな」とイメージして、家でセリフを書いてくるんです。で、それをアフレコのときに犬の会のみんなに「今回はこれで行くよ!」と渡す。だいたい30秒くらいで、ファーストインプレッションで思いついた耳ざわりのいい言葉をパパッと考えて書いています。
──こちらは第7期5話「ちょびの宝物」のラストシーンですね。……「牛顔:だ、大豆ペプチド…」?
下崎 はははは(笑)。本来は牛顔の中級妖怪は、一つ目の中級妖怪のセリフを繰り返すことが多いんですけどね。
松山 だんだんそれが面白くないなと思い始めてきて。シモ(下崎)を呼び出して「いろいろしゃべろうぜ!」と考え始めたのがきっかけですね。牛顔のセリフは、だいたいジョイマンをイメージして作っています。単純に、僕がジョイマンを好きだから(笑)。
──(笑)。アドリブはいつ頃やり始めたんですか?
松山 ええと……第2期ぐらいからかな?
下崎 (松山の肩を叩きながら)いやいや松山さん……1期の最初からやってますよ! 僕は忘れもしない。中級妖怪が初登場した第1期3話「八ツ原の怪人」で、中級2人でグラウンドに「呪」って書いたシーン。あそこで「こんなことも書いちゃったりして。読めるかー?」みたいなことを即興で言ってたじゃないですか。
松山 ああ、そうだそうだ(笑)。呪なのに、牛顔が「い、わ、い」って言ってたやつ(笑)。
知桐 言ってましたね!(笑)
──最初にアドリブを入れ始めたときは、神谷さん、井上さんを含め、皆さん驚かれたのでは?
松山 驚いてましたね(笑)。出演が決まったとき、スタッフさんに「僕たちの役ってどれくらい登場するのかな?」と聞いたら、「うーんどうでしょう。2回くらいか、もしかしたら1回で終わるかも……」と言われたんですよ。「じゃあ爪痕を残さないといけない! 別の役でも入れてもらわないと生活に関わる」と思って。
下崎・岡村・知桐 あははは!
松山 で、しこたまアドリブを入れるようになったと。……最初からやってました、すみません!(笑)
下崎 僕は当時、声優として駆け出しだったんですよ。台本を変えるなんてそんな恐れ多いことできるわけがないのに、堂々と松山さんが打ち出してくるから、嫌だとも言えず(笑)。でも乗っかってやってみたら、すごく好評だったんですよね。スタッフさんがすごく笑ってくれて。
松山 大森総監督もスタッフさんも、アフレコでは嫌がらずにとりあえず全部やらせてくれるね。スタッフが笑ってくれるなら、その先にいる視聴者もたぶん笑ってくれるんじゃないかなという思いで、いろいろ考えてやっています。失敗することもありますけどね。大森総監督に「これはどこが面白いの?」と真顔で聞かれて、細かく説明したり(笑)。あと、和彦さんは「アフレコが長引くからいい加減にしろ!」と言いつつ、「なんで俺が(アドリブパートに)いないんだよ」とぼやいています(笑)。
岡村 本当は混ざりたいのかも(笑)。
「こっち(犬の会)には台本がありますから! そちらとは違うんで!」
──岡村さんと知桐さんは、アドリブの指導をどう受け止めているんですか?
岡村 うーん。ヒノエは犬の会の面々と一緒に過ごしてはいるけど、クールなので……(笑)。あんまりしゃべらず、ただ微笑んでいることが多くて。
松山 ヒノエと三篠は高貴で品のある感じだよね。そんな2人にも、時にはアドリブのセリフを強要するという(笑)。三篠役の黒田(崇矢)さんも、「(低音ボイスでモノマネしながら)これをやればいいのか?」と受け止めてくれます。
知桐 黒田さんにそっくり(笑)。私は松山さんに「ちょっと来い。いいか、ここのアドリブはこうだ!」とセリフを渡されたら、「わかりました!」と素直に取り組んでいます(笑)。河童って、初期はあまり妖怪たちとも夏目たちとも絡んでいなくて、後半になって少しずつ登場するようになったんですよね。実は大森総監督は、河童がお気に入りのキャラクターらしいんです。
下崎 ええ、そうなんだ!
知桐 「どこを見ているかわからない、ボケっとした顔がかわいい」とおっしゃっていました(笑)。その影響かはわからないけど、アニメでは少し登場シーンが増えていて。ありがたいですね。
──アドリブは、ボツになったテイクもけっこうあるんですか?
松山 いっぱいあると思いますよ。だいたいメインの会話の裏側でガヤガヤと話しているので、オンエアでは全然聞こえていないことも多いです(笑)。
──犬の会の音声が大きく聞こえるように調整したバージョンを、ぜひ音声特典で付けてほしいですね!
岡村 わあ、面白い! それ、いいですね。
──ちなみにこれまで披露してきたアドリブで、気に入っているものはなんですか?
松山 第2期の2話だったかな。「クッキーちょうだい!」って言ったやつ。あそこでたぶん、中級妖怪のイメージが確定したと思う。
下崎 ああー! そうですね。スタッフさんも気に入ってくださったのか、その後もいろんなところでそのフレーズを使ってくれてましたよね。
知桐 私が印象的なのは、宴会のシーンでみんなで歌う「♩どんちゃん どんちゃん どんちゃんちゃん」というフレーズ。あれもよく出てきますよね。
松山 もともと台本にはなくて、最初に宴会のシーンが出てきたときに「どんちゃん騒ぎ」って書いてあったから、「このリズムでいこう」とみんなに強要した(笑)。第1期3話で中級妖怪が初登場したときも、「これを普通にセリフで言っても面白くないな」と思った部分を、勝手にリズムを付けて歌にしたんだよね。
──確かに、原作で読んだときの印象とは少し違いました(笑)。
松山 緑川先生も最初は絶対「ん?」って思ったんじゃないかな。お会いすると「面白くて好きです」と言ってくださるけど、怒っていらっしゃったらどうしよう(笑)。
岡村 緑川先生はお心が広いから、きっと大丈夫! 私は犬の会じゃなくてニャンコ先生のアドリブなんですけど、第2期5話の「約束の樹」で、ヒノエがニャンコ先生に「ブサイク巨顔猫!」と言うところで、急に和彦さんが「お前、煙い、煙いぞ!」と言い出して。なんのことだろうと思ったら、ヒノエがキセルを持っているから、それを受けて「煙い」と言っていたんですね。掛け合っていて面白かったです。
松山 和彦さんは本当にアドリブが多いよね。一瞬にして思い浮かんでいる感じだし、本当にうまい。けっこう入りたがりで犬の会に絡んでくるんだけど、「こっち(犬の会)には台本がありますから! そちらとは違うんで!」とあしらっています(笑)。