青春の散華 第十八話
※♂✕♂展開注意
題名「青春の散華」 第十八話 作:ピニャ・コラータ
「大変だったな、ミャロ」
騎士院実習過程の激しい稽古を終え、水浴び場で水を浴びていたミャロに、ユーリが問いかけた。
あれほどの激しい稽古のあとだというのに、ユーリは息を切らしておらず、ろくに汗もかいていない。
したがって、彼は水を浴びる必要もなかった。
ミャロの艶かしい躰には、今まさに浴びた水が滴り、張りのある肌に水滴が浮いている。
「タオルを忘れてたぜ」
ユーリはミャロにタオルを手渡した。
「あまり……見ないでください」
ミャロは恥ずかしげに露わとなった躰を隠したが、ユーリは視線を外そうとはしなかった。
「ふん」
ミャロの懇願を一蹴するように、それだけ言っただけであった。
「恥ずかしいのに、やめてはくれないんですね」
ミャロはわずかに頬を染めると、ユーリに背を向け、濡れた躰を拭っていった。
***
その頃……。
ドッラは未だに道場で居残り稽古をしていた。
他のものより固く太い稽古用の槍は、大人が使うものとすでに遜色がない。
激しく、そして強く、同輩の若き騎士たちと槍を交えていた。
だが、ドッラに及ぶ者はいなかった。
同級生は次々とドッラに打ちのめされてゆき、場合によっては上級生でさえドッラに打ちふせられた。
もはや立ち上がる者のいない道場で、ドッラは思う。
(やはり、あいつに勝るものはない……)
武の極みに近づくにつれ、ドッラはその思いを強くした。
(あいつは、特別だ……。おれの全てをぶつけてもなお、あいつはおれの上をゆく。そんな男は、他にはいない……)
ユーリは、既に稽古から引き上げてしまっている。
皆がこぞって居残り稽古をしているとき、ユーリはそれに付き合うことはなかった。
それでも、ユーリの腕前は他に及ぶものはいないのだ。
ユーリの技量の伸びは俗人の及ぶところではなく、手に持つ槍は神が宿ったように好く動いた。
鬼才を誇るドッラでさえ及ばぬほどに。
ドッラは、近頃は、同室で暮らしているユーリが横になるより先に、床に入ることにしていた。
そうしないと、眠れないのだ。
隣で無防備にユーリが眠っているという事実に、頭が冴えてしまう。
最近では、下の用のために夜中に起き、そのとき隣のベッドでユーリが寝ていると、夜が明けるまでじっと顔を見ていることが日常だった。
床に入っても寝付けないのである。
ユーリが隣で眠っているという事実を意識してしまうと、もうだめだった。
(いつか、いつか勝ってやる。あいつをおれのものにしてやる)
ドッラは、己の胸の内に巣食う鬱屈とした愛憎を自覚してはいなかった。
***
「くそっ、また負けた」
ユーリは、余暇の時間はミャロと斗棋をしている。
ドッラも斗棋の達者であったが、この二人には及ばない。
だが、ドッラは元より斗棋の得手・不得手に意味など見出していなかったから、それでも構わなかった。
「もう一局です」
ドッラは、酒を愉しみながらも、二人の会話を自然と意識してしまっていた。
パチ、パチ、パチ……と、駒が盤を打つ音さえ聞こえてくるようだった。
「どうしたんすか? ドッラさん」
手下の男がドッラに声をかけると、ドッラはハッとしたように我に返った。
「街に繰り出して女を引っ掛けましょうよ」
軽薄な男だった。
ドッラは女など必要としていなかった。
将来に添い遂げる一人だけいればいいと思っていたし、一人のほかに必要があるとも思っていなかった。
「いや、おれはいい」
「相変わらず硬派だなぁ~、ドッラさんは」
時計を見ると、もう夜も更けようとしていた。
そろそろ、眠らねばならない。
そうしないと、ユーリが先に床についてしまい、眠れなくなる。
その時に、ドッラは気がついた。今日は金曜日であった。
ユーリはちかごろ、金曜の夜はいつも寮を留守にする。
そのとき偶然か必然か、ドッラの耳に二人の会話が入ってきた。
「今日は金曜日ですね」
「……そうだったな」
「今日も、デデロロくんもボーンさんも、実家に帰っていて居ないんですよ」
「そうか」
デデロロとボーンはミャロのルームメイトであった。
ドッラは、その会話に少し違和感を感じつつも、自室へ引き上げた。
***
ミャロの部屋には月明かりが差していた。
「これなら明かりはいらないな」
ユーリの微かに熱を帯びた声が部屋に響く。
「……はい」
ユーリは、ミャロをベッドに押し倒した。
「ちょ、ちょっと待って下さい、脱ぎますから」
「待てない」
ユーリは止まらなかった。
「あっ」
ミャロの嬌声が部屋に響いた。
ユーリはミャロの体を愛撫しながら、服を脱がせてゆく。
「やっ、やめてください……あっ」
ミャロの体は敏感に反応し、喘ぎ声を押し殺すことで精一杯のようであった。
バタンッ、とけたたましくドアが開き、二人の香りで満たされた空間を破った。
「なにをしている」
ドッラであった。
「出て行け、ドッラ」
「おまえはあああ!!!」
ドッラは猛った牛のように二人に突っ込んでいった。
シーツで躰を隠そうとするミャロを平手で殴ると、ミャロは気絶してしまった。
「なにをする!!!」
ユーリはミャロを抱きとめた。
「おれはっ、おれはっ!!!」
ドッラは自分でも、自分がなにをしようとしているか、わからなかった。
自分の鬱屈した愛欲を自覚をしていなかったために、自らの心底から沸き起こる、くろぐろとした血の色をした欲望を、どう処理したらいいか、自分でも解らなかったのだ。
だが、混乱はしていても、ドッラは止まらなかった。
心底からは愛と憎しみの感情がドプドプと湧き上がり、ドッラの心の器を満たしていっていた。
「おいっ、なにをするっ、やめろっ」
ドッラは夢中になってユーリを組み伏せると、その服を、