お買い物♪
女神様はAランク冒険者だった。そりゃ、ザコモブはビビるよね。
「あの、ありがとうございました」
立ち上がり、ペコリと頭を下げる俺。の頭をぐりんぐりん撫ぜる女神様。首もげそうなんでやめてくださると嬉しいです。
「まぁ気にすんなよ。あんなのばっかりじゃないからね、冒険者は」
そうだそうだと、周囲が同意する。もちろん分かっていますとも。気の良いパーティーにはもう会ってるからね。
「ほら、これ」
何かを手渡される。銀貨が2枚あった。あの男が去り際にぶちまけていったやつか。っていうかこれ、貰っていいのかな。銀貨5枚とか嘘なんだけど。元値ゼロなんだけど。
戸惑う俺に、「貰っときな」と彼女は笑った。
「武器の1つもないと、それこそ舐められるからね」
「はい。ありがとうございます」
確かに解体用のナイフしかない。しばらくは街中の依頼を受けるつもりだけど、やっぱり心許ないしな。
女神様は爽やかに笑って、別の受付嬢の元へと歩いていった。1人ってことは、ソロなのかな。何気にでかい剣背負ってるけど。
ギルド内はもう、さっきのことなどなかったかのように落ち着いている。日常茶飯事なんだろうな。
「では、改めて説明させていただきますね」
受付嬢も、何事もなかったかのように説明を始めた。ちなみに誰かが踏み台を持ってきてくれたので、背伸びをせずに済む。
渡された紙に、名前と年齢を書き込む。代筆はいりませんよ、ちゃんと書けます。スキル欄があるけど、書いても書かなくてもいいらしい。一応、弓と書いておく。以上。いや、ハードル低いな冒険者。
書いて渡した紙を見ながら、なにか操作している受付嬢。
「はい。ではこれに血を1滴垂らしてくださいね」
「うはぁ」
へんな声出た。ここに来ていきなり異世界っぽいのが来たな。渡されたのは、銅色のドッグタグだった。『レイト 7才 Fランク』と彫り込まれている。それに血を垂らせという。別に針を渡されるわけではないので、適当に指の皮を歯でプチっとする。プクリと出てきた血を、ぺちょっとな。
ふわわん
ほのかにドッグタグが光った。
「これで登録完了です。依頼を受けるとき、報告時に提示していただきます。今回は無料ですが、再発行はお金が掛かりますので失くさないようにしてくださいね」
チェーンを付けてくれているので、そのまま首に掛ける。人によってはブレスレットなどに加工するらしい。俺はこれでいいけど、チェーンだけ丈夫なのにしようかな。まぁお金に余裕ができたらだな。
続いてギルドのシステムとか、注意事項を聞く。概ねラノベ知識にあるもので通用しそうだ。
ただFランクは更新期間が短いから注意だ。10日ギルドに音沙汰が無いと、失効してしまうんだとか。登録だけして依頼を受けない人が多かったから、出来た決まりなんだって。移動に時間かかるこの世界じゃ、10日なんてあっという間だから気を付けないと。こりゃランク上がるまで、この街にいたほうがいいな。
「そうそう。あそこの階段を降りると、ギルドの購買がありますよ。物はしっかりしているので慣れないうちは利用してみてくださいね。あと、2階の最初の部屋は資料室です。閲覧自由なので、一度目を通しておくといいですよ」
「これで終わりです」と言ったあと、お姉さんは親切にもそう教えてくれた。そう言われれば見に行かねばなるまいて。
「ありがとう」と自分的に満面の笑みでお礼を言い、まずは購買から見てみよう。
地下は思ったより狭かった。階段を降りた左右に部屋があるだけのようだ。左側はドアが閉まっている。右は…乱雑に物が置かれた倉庫のように見えるが。
「いらっしゃい」
ドアのそばに1人の男が座っていた。眠そうなこの男が店番らしい。
「こんにちは。入って見ていいんですか?」
「うん? 欲しい物があれば言ってくれれば取ってくるよ」
なるほど。自由に手にとって探すというわけではないんだね。
「じゃあ、えっと、とりあえず弓が欲しいです。俺でも引けるサイズで、あまり高くないものを」
ポッキリいった弓を見せながら、そうお願いしてみる。
「あ、あと、一応革鎧も。今はお金ないけど、いくらぐらい貯めないといけないのか、知りたいので」
「ふんふん」
店員さんはしげしげと弓と俺を見たあと、器用にひょいひょいと物の隙間を歩いていった。もうちょっと、棚に並べるとかしないのかな。なんで全部床に直置きなんだろう。
ぼんやりそんなことを考えていたら、いくつかのものを拾って、またひょいひょいと帰ってきた。
「弓はこれかこれ。サイズが小さいのはあんまりないからな。赤いのは銀貨3枚。白いのは金貨1枚だ」
「うぇぇ。ね、値段の差はなんですか?」
「赤いのは普通の弓だ。白いのは付与がしてある。命中と強度が上がっているよ。射程距離も長い。ちなみに火魔法を付与してある矢なんかもあるよ」
高く付くけどね、と苦笑する。
付与かぁ。そういう魔法もあるのか。でも正直、その性能でそこまで値段が上がるのかと思ってしまう。連射できるとか、矢がいらないとか、そんなのもあるんだろうか。
ところで、『鑑定』のスキルがないのに、何が付与してあるとか分かるんだろうか。
「ああ。それはこれ、仕様書があるからね」
ペランと紙を見せてくれた。そこには付与されているもの、製作者、使用されている材料なんかが明記してあった。工房なんかで作られたものは、仕様書付きで売られるらしい。またそれ付きで売ると、売価も跳ね上がるのだとか。だからちゃんと取っておくように言われた。仕様書がないものは、売り手を信用するしかない。目が肥えるまでは、ちゃんとした工房で買うようにだって。
たしかになぁ。それだって偽ろうと思えばできそうだ。1回しか発動しないとかだったら、確かめようがないもんね。くわばらくわばら。普通の武器にしとこう。
「革鎧は、サイズが合いそうなのはこれしかないね。銀貨7枚と銅貨50だ。付与はないけど、汚れに強いよ」
見せてくれたのは、至って普通の革鎧だった。ただ、腹のあたりの革が緑色だ。カエルっぽい。聞けばそのまんまカエルの魔物の皮だそうだ。
「なるほど。ありがとうございます。えっと…」
弓だけでも買うべきだろうか。さっき武器なしは心もとないって思ったけど、それ以前に財布が心もとなかった。迷う俺に、
「まぁ急いで買うこともないさ。今見せたのは売れ筋じゃないからね。他を見てから考えてもいいよ」
「すいません。じゃあ、一旦保留ということで。しばらく街の中で稼いでから来ます」
「うんうん。いいことだよ。若い子はとりあえず剣を持って、外に出ようとするからね」
買わない俺に怒ることもなく、「気が向いたらまたおいで」と言ってくれた店員さん。取ってきたそれらを、そのへんにホイホイと置いて椅子に座った。いや、元の場所に返さないのかよ。この部屋のもの全部覚えてるのかな…。