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知識、大事

 眠そうな店員さんと別れ、今度は2階に向かう。

 最初の部屋、ここだな。ドアはなく、2畳ほどの小さな部屋だった。部屋の片面に本棚があって、その向かいにぽつんと長椅子が置かれている。資料室ということだったが、本が10冊もない…。


 えーと、冒険者の手引き。

 ケンカをしちゃいけません、横取りしちゃいけません、期日は守りましょう。幼稚園児かな。まぁ後半の方にはためになることも書いてあった。解体の仕方、魔石のある場所、討伐証明部位、採取の仕方など。あと、ギルド証で受けられる利益。いざというときに戦闘に参加することを約束に、馬車代の割引。ギルド経営の宿屋の割引。などなど。


 こっちは、採取の仕方。…いや、さっき書いてあったよ? 見ると、前のより詳しく書いてあった。保存方法も書いてある。でも残念ながら、ばぁちゃんに教えてもらったこと以上のことは書いてなかった。


 これは、地図だな。このへんの地図だけど、案の定大雑把だ。地図は軍事情報だからね。そういえば戦争の話は聞いたことないけど、周りの国との関係はどうなんだろうな。

 周囲の街の位置と、森や山の位置を覚える。さっき読んだ採取情報に書かれていた地名も覚える。討伐依頼ついでに採取もできれば、一石二鳥だ。


 んで、これは、この国の歴史書。文字が少ない子供用だ。だって教会で文字覚えるときに読んだもん。だからこれは読まなくてオッケー。


 最後のこれは、貴族名鑑。

 覚えたほうがいいんだろうけど、関わりたくないから見んとこ。勝手に耳に入ってくる分でいいや。


 ふむ。総じて来てよかったとしておこう。どこのギルドにもあるのかな。初めましてのところは資料室を覗くことにしよう。




 もう昼ごはんの時間を過ぎていた。

 ギルドの外に出て、ちょっと腹を満たそう。その後、短時間でできそうな依頼をこなそう。せめて飯代だけでも稼がないと。


 その辺の屋台で串肉を買った。安定のイマイチ感だった。美味しそうなはちみつパンがあった。誘惑に負けて1個だけ買った。ゲロ甘だった…。


 ギルドに戻り、掲示板を眺める。ランクごとに分かれていないから、非常に見にくい。空いたスペースに次々貼っていってる感じなのかな。

 Fランクの文字を探し、内容を読んでいく。


 仕事の内容、報酬、期日、依頼人。時々細かく注釈が入っているものもあった。


「あれにしようかな」


 …手が届かぬ。

 ぷすっと笑い声とともに、後ろからにゅっと手が出てきた。振り仰ぐと知った顔だ。


「ハイターさん!」


「すぐに会ったな。ほらこれか?」


 俺が取りたかった依頼書を剥がして、俺に差し出してくれる。昼前に馬車のとこで別れたばかりの、ハイターだった。


「ありがとう。みんなは?」


 パーティーメンバーを探す俺に、彼は「ああ」とポリポリと頭を搔いた。


「今日はもう休みだからな、それぞれ別行動さ。俺は体を動かそうと思ってな」


 首を傾げると、ギルドの裏手に修練場があるのだと教えてくれた。空いていたら誰でも使えるのだとか。お前も混ざるか?と魅力的なお誘いを受けたが、断った。弓のためにも今は稼ぎたい。稼ぐために修練が必要とも言えるのだが。


 ハイターと別れ、カウンターに依頼書を出す。


「はい。手紙の配達ですねー。こちらの依頼は日を跨げませんので、今日中にお願いします。ではギルド証をこちらにかざしてくださーい」


 なにかの黒い板にドッグタグを近づけると、ぴっと音がした。ここだけなんか電子チックだ。


「少々お待ちくださーい。はい、こちらがお手紙ですー。これは届け先の地図。2通あるので、間違えないようにしてくださいね。受領のサインをこちらに書いてもらって、これを提出していただくことで完了ですよー。では、お気を付けて行ってらっしゃいませー」


 丁寧だけど、なんか独特のノリの人だな。


「ありがとうございます。行ってきます」


 依頼書と地図、手紙を2通受け取ってギルドを出る。


 まず1通目は門兵がいる詰め所。俺たちが入ってきた南門のところだ。もう1つは街の中ほどにある、商会。大通りにあるから、ついでに商店も見ていきたい。


 ちなみに冒険者ギルドの受付は基本一日中人がいる。ただし、依頼の受け付け・報告は8時までとなる。

 ちなみにちなみに、この世界は1日24時間で俺としてはすごく馴染みやすい。しかし時計はない。2時間おきに時告げ塔で鐘が鳴るので、それを目安に動く。じゃあ時告げ塔はどうやって時間を知るのか、それは神のみぞ知る…。魔法じゃね?で済むから怖い、異世界の神秘。


 まずは、詰め所に行こう。


 トコトコと通りを歩いていく。馬車と人が入り乱れているので、端っこを通る。これでよく事故が起きないなぁ。みんな慣れているのか、馬車の間をスッスと通る。

 あ、獣人が居た。

 ファンタジーらしく、様々な種族がいる。が、この国にはあまり居ないらしい。人間至上主義というわけではない。単純に居ないだけ。なんでかは知らない。

 俺はそれほどケモノスキーではないけど、モフモフはしたいと思っている。ただ、獣人の耳や尻尾を触るのは、多分アウトだろうから気を付けないと。


 そんなことを考えつつ、門まで戻ってきた。



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