幕間その五 オーバーライド
喉の痛みから始まった頭痛に悩まされ丸一日寝込みました。みなさん、風邪には気を付けましょう。特に『おや?』と体調の変化に気がついたら気のせいにせずに早めに対処しましょう。
恒例の『一方そのころ』なお話です。
八部がしばらく進んだ後、この話は七部の最後に持ってくる予定です。
勇者等一行はフィリアスからの要請に従い、ディアガル帝国を目指していた。通常なら確実に一ヶ月を越える道程だったが、フィリアスの持つ魔術具のお陰で、通常なら迂回しなければならないセラファイド山を越えることが出来、大幅な時間短縮に繋がった。
さらに、山を越えた後の街でも優先的に足の速い馬と馬車を購入できたのもあり、一般人とは比べものにならない速度でディアガルへの旅路を消化していった。
付け足すのならば、勇者パーティーの戦闘力も侮れない。彼らの能力は旅の途中で襲いかかる魔獣をモノともしなかったのだ。
だが、そんな彼らであっても困難と呼べる自体に遭遇することとなった。
美咲は頭の片隅でふと思った。
ーーーー自分が極端な爬虫類嫌いでなくて良かった、と。
でなければ、体長十メートルを超える巨大蜥蜴を前に恐慌状態に陥っていただろう。さらに言えばその蜥蜴は燃えるような赤い体皮であり、今まさに彼女を一口で飲み込めそうなほどに大きな大口を開くと、喉の奥から火炎を吐き出したのだった。
ゴウッ!!っと空気を焦がす音とともに、美咲の頬を熱気が炙る。炎の魔術を操る彼女にして耐性の上がった状態でさえ『熱い』と感じるほどの熱量だ。仲間の内、自分以外の誰かが直撃すればただではすまさない。
「でやぁッ!」
蜥蜴の火炎放射を回避した美咲は直ぐに脚甲を起爆し加速した蹴撃をその頬に叩き込み、すかさず爆発を乗せて威力をあげる。ゴブリンならば一撃で戦闘不能どころか原型を留め無いほどに粉砕する威力を持っている。だが、巨体に見合う耐久力を持っていたようで大蜥蜴を倒すには至らない。それでも蜥蜴を弾き飛ばす程度の重みはあった。
美咲はそこで追撃はせずにあえて交代し、それと入れ替えに『超強化』の光を纏う有月が走る。大幅に増加された身体能力を発揮する彼はまさに『閃光』の如く。そして振るわれた剣の一閃が蜥蜴の鼻先を切り裂いた。
だが、その傷は巨体にとってはかすり傷に等しく、それでいて痛みに怒った大蜥蜴は体躯に見合わぬ素早い動きで横回転すると、遠心力を乗せた尻尾の打撃を有月に食らわせた。有月は咄嗟に剣を構えて防御の姿勢を構える。ダメージこそ剣のガードと纏っていた鎧、そして『超強化』によって底上げされた防御力によって皆無だったが、衝撃の全ては殺しきれずに吹き飛ばされてしまう。
大蜥蜴は地面に着地し体勢を立て直しきっていない有月に向けて大口を開いた。喉の奥からは紅蓮の熱がせり上がってきていた。
「そうは問屋が出版社停止ですね」
冷静につぶやく彩菜は、言葉とは裏腹に高い魔力を動かしながら長銃の引き金を絞った。術式が込められた弾丸は大蜥蜴に命中すると爆裂し火炎放射が中断する。有月への追撃は阻止できたものの、大蜥蜴は今度は彩菜の方に顔を向けて火炎を放った。
「彩菜ッ」
「おっふぅ…………」
火炎が放たれる寸前、美咲は親友の首根っこを捕まえると爆裂推進を使ってその場を一気に離脱。わずかに遅れて、二人がそれまでいた場所を紅蓮の炎が走った。彩菜の中では美咲がフォローに入ってくれるのは織り込み済みであったため焦りは無い。だとしても、離れた位置からでも感じる熱量に、冷静な表情を保ちつつ熱以外が原因の汗が頬を伝わった。
彩菜を抱えた美咲はそのまま爆裂を繰り返して素早く移動し、大蜥蜴から離れた有月と合流した。
「…………予想を遥かに超える頑丈さですね」
新たな弾丸を装填しながら彩菜が言った。先に放った弾丸は、直径一メートルの岩石を一撃で粉砕する威力を秘めていたのだが、赤色の蜥蜴はわずかに怯む程度だった。
「防御力に限って言えば、この世界に来てから一番高いかもしれないわ」
美咲にしても、装具越しながら打撃した瞬間に返ってきた感触は非常に硬質。ダメージを与えられた印象はなかった。巨体相応の生命力を持っているとは予想していたが、想定を超える防御力だ。
「ったく、私たちも運が無いわよね。なんで私たちが渓谷に入った途端に、こんな大物魔獣と遭遇するのかしらね」
「あるいは、遭遇したのが私たちで良かったのかもしれませんね。下手な行商人や冒険者が遭遇したら、成す術もなく焼き殺されていたでしょうから」
それは外見に限った特徴で識別するのならば『ブレイズリザード』と呼べる個体だった。本来なら火山地帯に生息する蜥蜴型の魔獣だ。生態的にこのような場所に出現するのは通常ならばあり得ない話だ。
ここが『ブレイズリザード渓谷』と呼ばれる場所でなければ、の話である。
「フィーから豆知識として百年前に出現した大物魔獣ってことで話には聞いてたけど、まさかそんなプチ伝説みたいなやつと鉢合わせるなんて」
「百年前の個体は時の英雄によってすでに討伐されてしまっていますから、間違いなく別の個体なのでしょうけど」
彩菜は、余所で食物連鎖の頂点に立ったブレイズリザードの異常個体が、食料を求めて生まれた土地を離れたのだと推測していた。が、ここで学説的な見解を説いても意味は無い。
「で、どう彩菜。何か有効な手札とかあるかしら?」
「ブレイズリザードの動き自体はそれほどに脅威ではありません。美咲さんも有月さんも十分に対処できています。油断しなければ簡単にやられはしないでしょうが…………、やはり問題なのはあの高い防御力ですね」
美咲の爆裂を伴った打撃は、瞬間的な火力ならば勇者パーティーの中でも随一を誇る。有月にしても習得している光属性魔術は攻撃よりもむしろサポート関係の術式が多く、『超強化』を発動した状態での斬撃が彼の持つ最大攻撃力だ。そして彩菜の錬金銃は遠距離から安定した火力を放てる代わりに、他の二人を超えるような大威力は持ち得ていない。そのどれもが有効打に至らない現状はこう着状態に陥っていた。
そして、美咲と彩菜の懸念は何も攻撃力不足だけではなかった。
「くそっ、どうすればいいんだ…………」
悔しげに唸る有月を横目に、二人は彼に届かない小声で囁き合った。
(…………どうやらまだヘタレの顔は出していないようね)
(ですが、これ以上長引けば時間の問題でしょう。有月君の悪い癖が出る前になんとか状況を打開したいところですが)
(こういう時こそカンナがいて欲しいわよね。あいつなら泣こうが喚こうが有月の能力を十全に発揮させられるから)
通常時は才能故の高い能力で大概のことは問題無くこなしてしまう有月だったが、彼の内包する重大な欠点を知る二人にして、それが爆発することは現状では絶対に避けなければならない要素だった。有月の親友である少年がいるのならば上手い具合に舵取りをしてくれるのだが、その役割を『彼』に任せきっていたことを彼女らはこの時ばかりは悔いた。
(いざという時は美咲さんがど突いて発破を掛けるしかないでしょう)
(それしかないわね)
己に関わる割と物騒な相談がすぐそばでされているとは露も知らず、有月は再びブレイズリザードへと切り込もうと一歩を踏み出す。
「今度は僕が先行だ。二人とも、カバーを頼むよ」
「オーケー。じゃあ、有月に私が続くから、彩菜はとにかく大威力の一発を狙って頂戴」
「りょーかいです」
各々が得物を構え、一斉に動き出そうとする。
「お待ちください、みなさん」
動き出す寸前の三人に待ったをかけたのは、あろうことかずっと後方の馬車で護衛である近衛騎士達と待機していたはずのフィリアスだった。
「フィー!? ここは危険だ! 下がっててくれ!」
か弱い姫君の登場に有月は驚いたが、すぐに鋭い声で叫んだ。しかし、必死の形相を向けられるフィリアスは毅然とした態度で前方のブレイズリザードを見据えていた。
「まさか、百年前の『勇者』が討伐した魔獣と同種の存在が、今代の『勇者』の前に現れるとは。これも何かの運命なのかもしれませんね」
いつになく真剣な眼差しに、勇者三人はタダならぬ気配を感じた。
「…………どうやら、『時』が来たようです。勇者様方はこの世界に来た当初よりもはるかに強い力を得られました」
「フィー、何を言っているの?」
美咲の問いかけには直接答えず、だが代わりにフィリアスは両手を胸の前にかざすと魔力を集中させ始めた。一瞬にして収束していく莫大な魔力に彩菜は息を飲んだ。
「な、なんなのですかこの魔力の気配と術式はッ。支援? 攻性? いえ、これはもっと異質の…………!?」
「そして、セラファイド山での一件よりもさらに鍛錬を重ねたあなた方ならば、私が『これ』を温存していく理由は無いでしょう」
ユルフィリアに使える宮廷魔術師ーー王家直下の国内最高峰の魔術師をも超える才を秘めるフィリアス。国内史上で屈指の才能を持つ彼女は、天才的な頭脳を持つ彩菜の目からしても複雑にして緻密、加えて壮大な魔術式を次々に組み上げていく。術式の開始からわずか一分も経たないうちに、フィリアスを中心とした半径五メートル近くにも及ぶ巨大な魔術式の空間が誕生した。そのあまりの魔力量に、本来ならば隙ととらえて火炎で蹂躙するだろうブレイズリザードは、怯えるように喉を鳴らしていた。
「勇者様方を異世界より召喚する魔術式。それと並び、ユルフィリア王家に伝わる秘術。これより、勇者様方にはもう一つ、先の段階へと足を踏み入れていただきます」
術式の構築に集中していたフィリアスは、閉じていた目をゆっくりと開く。そして、呟くように、祈るように、歌うように、その術式を発動した。
「『オーバーライド』」
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「うん…………随分と力が馴染む。全力とまでは行かずとも、しょっぱなから一割程度は力が発揮できそうだ」
「それは何よりです。他のお二人も、調子は如何でしょうか?」
「あっはっは!? 見てよ、この体! グラマーすぎない? そして『あんた』はちょっとちんちくりんすぎない!?」
「…………確かにこれまでとは比べ物にならないほどに貧弱な体ですね。ですが、魔力の素養は『彼』に劣るとはいえ破格です。加えて、己の身体的な弱さをカバーするための武器を独自に開発する発想は素晴らしいですね。召喚されてどの程度ですか?」
「一ヶ月と少し、ですね」
「本当に素晴らしい。その短期間でこれほどまでに完成度の高い魔術具を開発しますか。改良の余地はまだまだありますが、逆を言えば将来性が楽しみな武器です」
「あんたの『胸』に将来性はなさそうだけど?」
「どうやら殺されたいようですね。お望み通り殺してあげましょう。早速死んでください」
「じょーとーじゃないのよ! こっちはずっとちっぱいちっぱいって馬鹿にされてきたんだから! こっちこそお望み通り木っ端微塵に爆殺してやるから覚悟しなさいよ!」
「まーまー、二人とも。そう殺気立たないでよ。僕らがこうしていられるのは短い時間だけなんだから。喧嘩して時間を浪費するのは良くない。それよりも、さっさと用事を済ませて楽しい会話の時間を増やしたほうが有意義だよ?」
「…………まぁ、あんたがそう言うなら仕方ないわね。引いてあげるわよ」
「ちッ、このビッチが、調子に乗りやがって」
「んだとこのアマがっ!!」
「やるんですか? やるんだったらお望み通りその膨らんだ胸をぶち抜いてスッカスカにしてやりますよ」
「二人とも!!」
「「うう…………ごめんなさい」」
「…………そろそろよろしいでしょうか?」
「ん? ああ、ごめんごめん。なにぶん百年ぶりくらいの再会だからね。妙にテンションが上がっちゃってね。それで、とりあえず俺らの相手はあのトカゲちゃんかな?」
「なにさ。前に相手をしてやった爬虫類じゃないの」
「馬鹿なんですか? 目の前のアレと以前のアレは明らかに別の個体ですよ? どうやら間違って育ってしまった胸に、脳に必要な栄養が注がれてしまったようですね。若くして物忘れが激しいとか悲しすぎますね」
「(イラッ)歳はあんたと倒して変わらないでしょうが。…………とにかく、あれをぶっ殺せばいいわけね?」
「お願いします」
「いいわ。さらっと片付けちゃいましょう」
「おっと、獲物を独り占めは勘弁しないな。ここは昔のように、三人仲良く行こうよ」
「私としては、一人はどこかに放っておいて『あなた』と仲良くしたいところですが」
「はぁ? それはこっちのセリフよ。けど、『こいつ』が三人がいいって言うならそれに従うだけよ」
「ははは、相変わらずだね二人とも。じゃあ、行こうか」
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有月、美咲、彩菜は全身を襲う凄まじい虚脱感にその場に膝をついた。彩菜に至ってはうつ伏せに倒れるほどだ。
「はぁ…………、はぁ…………。な、なんだったんだ今のは」
「ちょ、ちょっと疲労が半端ないんですけど…………彩菜?」
「………………………………」
「あ、ダメだこの子。意識が飛んでる」
美咲は疲れた体に鞭を打って彩菜の側まで寄る。呼吸も安定しており目立った外傷がないことに少なからず安堵した。
有月はそんな二人の様子を見て微笑むと、視線を別方向へ向けた。美咲も彼につられてそちらに顔を向けると二人とも言葉を失った。
そこに広がるのは、『凄まじい』と一言で説明できるような生易しい光景ではなかった。
大地と渓谷の断面には深々と刻まれた一文字の跡。深さを計測すれば二メートルや三メートルにも匹敵する斬撃の痕跡。また別のところでは、直径数メートル近くはあろうほどの巨大なクレータの数々。そしてまた別の地点では地面が融解してガラス状になっており、今尚もまだ高熱を宿している。
そしてそれら破壊の跡の中心視点には、かつては『ブレイズリザード』と呼ばれる魔獣(その中でもさらに全長十メートルを超える異常個体)の死骸。残るのは地面に染み込んだ血糊と赤い鱗の表皮を保ったわずかな肉片。何も知らない者がこの場に新たに現れても、この死骸を百年前に出現した大物魔術と同種の個体とは判別できないだろう。
「これを…………僕たちが?」
剣を傍らの地面に放置したまま、有月は己の手を見つめた。果たして、手が小刻みに震えているのは本当に疲労によるものなのだろうか。
この『惨状』を生み出したのは、間違いなく己達だ。だがどうしても、有月にはその事を断言できる自信がなかった。
地面を踏みしめる音が耳に入り込む。そちらを見れば、フィリアスがゆったりとした足取りでこちらに近づいてきていた。
魔獣の『残滓』を中心に広がる破壊の爪痕を目に、呆然としている有月と美咲。だが、フィリアスはまさしく聖女と呼べる慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
「やはり、あなた方は神に選ばれし勇者様です。私の目に狂いはありませんでした」
「ふぃ、フィー? さっきの魔術は一体何だったんだい? まるで、自分の体が自分の物じゃなくなったような感覚だったんだけれど」
「あれは『オーバーライド』と呼ばれる王家に伝わる秘術です。勇者様に秘められた真なる力を解放し、その能力を飛躍的に高める魔術です」
「有月の使う『超強化』とは違うの?」
「『超強化』は対象者の身体能力をそのまま高めるのに対して、『オーバーライド』は対象者の潜在能力を一時的に解放するのです。先ほどまで有月さん達が振るっていた力は、あなた達が手に入れるだろう才能の極致です」
「…………つ…………まり、成長の…………前借り、と…………いう事…………でしょうか?」
いつのまにか美咲の腕の中で意識を取り戻していた彩菜が、息も絶え絶えながらも己の予想を口にした。
「さすがは彩菜さんですね。まさしくその通りです」
「なる…………ほど。でしたら…………この、極度の…………疲労も…………納得です」
「彩菜。私たちも大体理解できたから。もうしゃべんないでいいよ」
「ありがとう…………ございます。あとは…………お任せしますので」
そう言って、彩菜は再び目を閉じ意識を手放した。
「成長の前借りか…………。下地が出来上がっていない体で発揮するには負担が大きすぎるってことか」
「切り札にはなり得るだろうけど、博打に近い術式ね、これ」
彩菜のように気を失うには至っていないが、それでも有月と美咲の消耗は凄まじい。このまま継続的な戦闘は不可能だった。
「ですが、この術式を繰り返し使用すれば、皆様の成長力は飛躍的に高まるはずです」
「…………もしかして、『オーバーライド』って魔術は、戦闘用じゃなくて、むしろ成長のための術式なの?」
「だとすれば、もし機会があれば今後も時を見て使ったほうがいいのかもしれないね。今回みたいにフィーが『オーバーライド』を構築するための時間を得られるとは限らない。あの術式に頼らずとも僕らの戦力アップは望むべきだ」
「そうね。…………あんまり気は進まないけれど」
有月の前向きな言葉に、美咲は肯定しつつもその語尾は濁っていた。
元の世界では空手部に所属していただけあり、体に負担を与える肉体トレーニングは慣れ親しんだ行為だ。『オーバーライド』が成長の果てを身に宿す術式ならば、その結果に返ってくる体の負担は決して間違いでは無いはず。幾度となく使えばやがては体が慣れていく。言い換えれば成長後の力に耐えうる肉体が出来上がっていくのだから。もちろん、過度の使用は肉体を酷使し逆にダメージを残す結果となるが、休息を十分にとり体力の回復を待った後なら、短期間での濃密なトレーニングと同じ結果を得られる。
有月の言う通り、戦力の底上げが必要なのは間違いない。これから勇者達が向かう先ーーディアガル帝国に待ち受けているのは、己達が手も足も出なかった『魔神』だ。正直、現段階での力でも相手にするのは不安が残る。今後の成長のため、あるいは緊急時の切り札として、フィリアスの『オーバーライド』は心強い武器たり得た。
ただそれでも、美咲の中から『不安』は払拭されなかった。
『オーバーライド』をフィリアスが発動した直後からその効果が消滅するまでの間に感じた謎の感覚。
間違いなく己の体を動かしていた記憶はある。だというのに、頭の片隅でそれを警戒する『何か』が残っている。
(カンナ…………。ちょっとだけ怖いよ)
元の世界で己の事を心配しているだろう友人に対して、美咲は心の中で小さく弱音を吐いた。それだけで、彼女の心は僅かばかりに救われた。
その後、疲労困憊で動けない勇者達を馬車に乗せた一行は渓谷の中を進む途中、巨大な『氷柱』を目の当たりにする。
それはまさしく『氷の魔神』が残した爪痕に他ならない、とフィリアスは深刻な様子で呟いていた。
彼らは、目指す先に待ち受ける『宿敵』との再戦を予感するのであった。
ちょっと物語の『核心』に触れる内容になったと思います。
幕間その五の感想に関しては、ネタバレ分が多くなりそうなのであまり返信はできないかもしれません。なのでそのつもりでお願いします。