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第四話 この世界の現実を再確認する

ゼノクロスの前にブレイドおわらせにゃ。

・・・・・・間に合うかね?

「…………なんかいろいろいるな」

 

 白に近い灰色の毛並みをした四足歩行の獣がうじゃうじゃいた。そのどれもが血走った目でこちらを見据えている。歓迎されている気配は皆無。

「『スノーウルフ』。寒冷地方に生息する狼型の魔獣だ。群を形成する習性を持っている。どうやら、この山に住み着くウルフの群の一つが麓にまで降りてきたようだ。本来は、もっと奥地に住み着いているのだがな」

 

 俺に説明するように口にしながら、レアルはゆっくりと背中の大剣を鞘から引き抜いた。野生の殺気に当てられて若干腰の引けている俺とは真逆に、深い落ち着きを払った様子。


「カンナ」

「絶対に傍を離れないから大丈夫です!」


 情けない台詞を全力で叫ぶ。情けないって? 下手にカッコつけて狼の晩ご飯になるよりマシだ!


「そうか。では…………くるぞっ」


 苦笑を漏らしたレアルが鋭い声を上げるのと、狼どもが襲ってくるのは同時だった。


「せいッ」


 短くも激しい気迫とともに大剣を大振りすると、正面から牙の生え揃った大口を開けて飛びかかってきた灰狼が、頭を縦に割られながら吹き飛ばされた。


「次ッ」


 横から襲ってくる狼は爪を振りかざすが、レアルはそれごと剣で叩き潰した。続けざまに突進してくる狼も同じ末路にたどり着く。


「だりゃぁぁぁっっっ」


 剣を振るう度に、狼達が肉塊へと変じていく。飛び散った鮮血に、純白に降り積もった雪が赤に染まっていった。



 飛び散る肉片やら血やらに、俺はぐっと吐き気と悲鳴をかみ殺した。


 相手が人を襲う魔獣であれ、そこにあるのは間違いなく生き物だ。それを何ら躊躇いもなく血祭りに上げていくレアルの表情に大きな感慨は無し。まっすぐに相手を見据え、正確に剣を叩き込んでく。


 どれほどにこの世界が俺にとってファンタジーだったとしても、この世界に生きる人々にとっては『これ」が現実だ。そして世に生を受けたモノは例外なく、他の生物を殺して生きていかなければいけない存在だ。その事に罪はない。俺だって死にたくはない。レアルだって同じはず。


 だからこそ、目の前にある外敵を葬る選択を選ぶのだ。


 俺は今、何の力も持たない荷物持ちだ。この危機的事態を乗り越えるためには彼女の力が必要。だから、いかにヘタレた台詞を吐こうとも、情けなく腰が引けていたとしても、この光景だけはしっかり目に焼き付けた。


 俺は未だ、彼女の問いに答えてはいなかった。


「これから先、どうするのか?」と。


 答えは目の前の惨劇だ。


 明確な返答ではない。ただ、一つの現実を再確認した。


 この異世界で、俺は生きていかなければならないのだ。



 魔獣の群は十分ほどで駆逐された。辺り一面に灰色の毛と積もった雪を血染めにした狼の死体。その死骸の中心地点にたつレアルは、じっとりと青眼で剣を構えている。傍らの俺はと言えば、もう襲ってくる相手もいないのに未だに心臓がドキドキしている。


 周囲に動く気配がなくなってから更に一分経過した頃、ようやくレアルはゆっくりと息を吐き構えを解いた。吊られて俺も、溜まりに溜まった肺の空気を盛大に吐き出した。


「とりあえず、粗方は片づいたか」


 剣を背中の鞘に戻すレアルは、僅かほどにも呼吸を乱していなかった。あれだけの奮闘を見せながらも、息を荒げるほどでもなかったのか。どれほどに鍛錬をすればその領域にたどり着けるのか。ただじっとレアルの陰で息を忍ばせていた俺の方が肩で息をしているのに。


 畏敬の念を抱く俺だったが、落ち着きを取り戻すとはっとした。


 自分たちの目的が山草の採取でも魔獣の討伐でもない。


 改めて、狼の死骸に目をやる。


「おいおいおいおい。ここって先に村娘さんがきてたはずじゃぁ」


 この狼達が、山草を取りに来た娘さんと遭遇していないとは限らないのだ。むしろ、その可能性の方が高い。


 もしかしたら…………。


「…………最悪の結果も、考えなければならないな」


 血の気の引く俺に、レアルは冷静に振る舞いつつも、強ばった声で言葉を返す。考えている先は同じだった。


 脳裏に血の海に沈む娘さんの末路を浮かべ、俺は凍り付きそうになった。が、歯をぐっと噛みしめながら地面にへばりつく足を強引に踏み込んだ。


「畜生がッ。おいレアル、とにかく探すぞ!」

「分かっているッ」


 俺たちは魔獣の死体が転がる付近一帯を手分けして探す。次々に目に付く狼の亡骸が、次の瞬間に人間のそれになるのではないか。拭えない恐怖を胸に抱きながら、それでも必死に目を凝らす。


「頼むから、無事でいてくれ」


 まだ名も知らぬ姿も見ない相手だが、心の底から彼女の無事を祈る。正直、神様とやらに祈りを捧げるのは趣味ではない。しかし、それで誰かが助かるのならば、神だろうが悪魔だろうが、いくらでも祈りを捧げる。


 不意に、凄まじい突風が俺を襲った。娘さんを探すことに集中していた俺は足下が疎かになり、風にあおられて大きくバランスを崩した。


 更に運の悪いことに、倒れまいと足を踏み出した先が、いつの間にか近づいていた下り傾斜だった。


「のわぁぁぁっっっ」

「っ、カンナっ」


 俺の悲鳴にレアルが鋭く反応するが、彼女が駆け寄るよりも早く、俺は下り傾斜を転げ落ちた。回転する視界の中、俺はパニックになり唯衝撃を和らげようと体を丸める程度しかできなかった。

 

 数秒の回転の後、躯が浮遊感に襲われた。まさか、崖の外に投げ飛ばされたのか。絶望に心を支配されるが、一瞬の後に下から強烈な衝撃を受けてしこうが真っ白になる。

 

 思考が正常に戻った頃、どうやら躯が停止しているのに気が付いた。ショックで思うように動かない体を延ばし、どうにか躯を仰向けにした。

 

 格好そのまま上の方を見れば、自分が投げ飛ばされた傾斜の端っこが見えた。幸いに、雪のクッションのお陰で五体が満足でいられる程度の高度しかなかったらしい。


「無事か、カンナッ」


 俺が投げ出された崖の両端は地続きの傾斜だった。急いでそこを滑り降りてくるレアルに、俺は倒れたまま手振りで無事を知らせる。ほっとしたレアルは安堵の息を吐きながら俺の手を掴み、立ち上がるのを手助けしてくれた。


「まったく、驚かせてくれるな。心臓が止まるかと思ったぞ」

「正直すまん。ちょいと注意散漫だったわ」


 服にへばりついた雪をはたき落としていると、自分が落ちた先に目がいく。上の山草が生えているあたりからは完全に死角になる形で、洞穴を見つけたのだ。


 俺の視線に釣られたレアルも、洞穴の存在に気が付く。 


 そして、人間のモノに間違いない鞄を見つけたのだ。


 大急ぎでその中身を開くと、この直上に生えている山草の束。間違いなく、俺たちが探している娘さんの所有物だ。


「おそらく、ウルフ達から逃げるときに落としたものだろう」

「ってことはッ」

「まだ希望的観測にすぎない。が、少なからず望みは出てきた」


 俺とレアルは互いに強く頷きあい、洞窟の中に足を踏み入れた。

主人公は現時点で戦闘手段がないので見学です。

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