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第三十二話 ケモフサ さん が なかま に なった

サブタイトルを迷いに迷って以前使ったネタをもう一回ぶっ込む。使ってみたら意外としっくりきました。

「◯◯しちゃいけないとは誰も言っていない」系も今後使っていきたいと思っていたりします。

 改めてクロエに話を聞いてみたが、彼女から手に入れられる情報はコレで限度のようだ。操られていた間の記憶は朧気ながらあったらしいが、操っていた本人に関しての記憶は入念に消されていた。黒幕に関しての話はコレで区切りだろう。


「で、クロエ。おまえさん、これからどうするつもりだ?」

「どう、とは?」

「そこで首を傾げるなよ。おまえさんはもう自由だ。黒幕相手に復讐の道を選ぶなり、故郷に帰るなり、流れのぶらり旅に出るなり、いろいろあるだろうよ」

「…………一番に復讐が出るのが凄いわね」

「不毛とか抜かすなよ? 俺はぶっちゃ復讐推奨派だ。受けた借りは特上盛りで返す主義だからな」


 あの腹黒姫は絶対に許さない。絶対にボコる。


 クロエは僅かに顔を伏せると、非常に言いにくそうに語り出す。


「拙者、とある理由があって故郷に帰るつもりは毛頭無いでござる。あ、別に犯罪等を犯した、というのではないので悪しからず。復讐にしても、相手に関しての記憶が完全に無い以上、それに執着しても不毛でござるよ。判明した時はその限りでは無いでござろうが、今すぐにどうこうと動くつもりはないでござる」

「じゃあぶらり旅?」

「一人旅も悪くはないのでござるが、悲しいことに今の拙者は無一文でござる。どうやら黒幕やらに全て奪われたようで。これといって貴重な物を所持していなかったのが幸いでござったが」


 操り人形の使い捨て暗殺者にワザワザ資金を持たせるのもおかしいか。


「なので、今この場から放り出されたら、拙者は数日と経たずに野垂れ死に確定でござる」


 …………流れが読めてきたな。


 レアルに視線を向けると、彼女は肩を竦めた。あちらもクロエの言わんとするところに予想がついたか。


「えっと・・・・厚顔無恥ことこの上ないのは重々承知ではござるが、拙者を皆様方の旅に同道させていただく事はできないでござろうか?」

「旅人の金稼ぎといえば冒険者ギルドがあるだろ」

「冒険者ギルドにはもう既に登録済みでござる。それなりの経験があると自負はしてござるが、残念なことにギルドカードも奪われてしまったようで」


 ギルドカードとは、冒険者ギルドにおける身分証だ。その人物の実力やこなしてきた依頼を記録保存してくれる。


「…………ギルドカードの発行、再発行は本部か大きな支部に行かないと出来ないのよ。カードは不正が出来ないように特殊な素材で出来ていて、専用の装置を使わないと作れない。この街にもギルドの支部はあるけど、依頼の受注と精算に限られてるわ」

「…………そういう訳でござる。聞けば皆様方はディアガルの都に向かっているとか。帝都にある冒険者ギルドならばカードの再発行は可能でござる。せめてそこまで旅にご一緒させて貰うわけには行かないでござろうか。勿論、その間に消費する旅費に関しては、ギルドでの依頼をこなし必ず利子付きで返済するでござる」

「…………だってよ、どうするファイマ?」


 この一行のリーダー格はランドだが、最終的な決定権はファイマに委ねられている。彼女に指示を仰ぐのは自然だ。


「参考までに聞くけど、クロエさんのランクは?」

「Cの上辺りでござるな。後もう少し依頼をこなせばBへの昇格試験を受けられる所だったでござるよ。まぁ、半年近く依頼を受けていなかったので、Cの下辺りにまで落ち込んではござろうが」


 後になって詳しく聞かされたが、ギルドの登録者は実力と実績によってランク分けされており、その如何によって受注出来る依頼の難易度も異なってくる。ランクは最下位のEからD、C、B、A、Sの五段階。ここいら辺も、俺が今までに手に触れてきたRPGに近しい設定だ。非常に受け入れやすい。


 クロエの言うCランクは丁度中間の段階。冒険者として一人前の名乗りを許されるランクだとか。彼女の口振りからすれば、その一人前からさらに一歩進んだランクBーー『有能な』冒険者にもう少しで手が届く所だったのだろう。


 付け加えると、ランクAは『超一流』の冒険者。さらにその先の最上位ランクSの冒険者は『英雄』と呼ばれるくらいの実力を持っているとか。


 日常的に新たな登録者と引退する者が絶えないので正確な人数は不明だが、ギルドに登録する全冒険者は数千人にも及ぶ。そんな中でAランクの者は百人弱しかおらず、Sに至っては僅かに七人ほどだから、それだけで実力の程は想像できる。


「冒険者としての来歴は?」

「故郷のギルドに登録したのが十五の時でござるから…………四年ぐらいでござるな」

「え? お前さん今何歳?」

「十九歳でござるが」


 また年上かッ!? 知り合う女全員って俺より年上(しかも巨乳)ばっかりじゃねぇか。約一名に関しては九百歳ぐらい離れてるし。や、年上好きとしては嬉しいシチュエーションだが、クロエは仕草や雰囲気的にどうしても年上に見えない。同い年か年下に思っていた。


「カンナ、話の腰を折らないで」

「あ、すまん。続けてくれ」


 ファイマに咎められて俺は口をつぐんだ。


「もう。ーーーーそっか、四年でBの昇格試験を受けられるぐらいね。ギルドからの試験の見通しは?」

「慢心をせずに挑めば合格は問題ない、との言葉は頂いていたでござるよ。なので、正直惜しいことをしたと悔やんでいるでござる」

「でしょうね。でも、十五の時に登録して、今の年齢でBランクに上がれるお墨付きが付くならそれはそれで立派じゃないの。並の冒険者だったら、Cランクで五年や六年を過ごす人なんてザラよ?」


 コレも後で聞いたが、上のランクに昇格する為の試験を受けるには、数ある任務を手当たり次第にこなせばいい、という訳ではない。ギルドが用意した特定の依頼や、緊急性や重度の高い依頼を完遂し、実績を積まないといけない。ギルドの用意する依頼の場合は、試験官代わりの上位ランク冒険者が同道して受注した冒険者の実力監修に当たる。緊急性、重要度の高い任務はそれの成功時点で十分な実力があると判断され、この時点でようやく昇格試験を受ける資格が得られる。だいたいの冒険者はこの実績を得る段階でつまずく。


「確かに、通常の冒険者の中であれば拙者は優秀な部類にはいるでござろうが、黒狼の中では未熟も良いところ。同時期にギルドに登録した黒狼の者は、その大半が現段階でBランクに昇格しているし、中にはAに上り詰めた天才までいるでござるしな」


 乾いた声で小さく笑うクロエ。この黒髪さん、実力云々の話になると途端に卑屈になる傾向があるな。優秀な奴らに周囲を埋められた境遇の劣等感には俺も覚えがあるが、あれはなかなかにキツい。


「自己申告ではあったけど、クロエさんの実力は確かなようね。だったら、経費(借金とも呼べるけど)の返済能力は問題なさそうだし。そうだ、何だったらあなたも私の護衛として雇われる? お給料払うわよ?」

「い、いえいえいえッ、滅相もない! 同道する身であり、皆様方の護衛を引き受けるのはむしろこちらから願ったりでござる。ですが、そこまでの好待遇は身に余るでござる。これ以上、ファイマ氏からの好意に甘えるのは他ならぬ拙者自身が許せぬでござるよ!」

「そっか。本人がそこまで言うのならば無理強いは出来ないわね。わかったわ、詳しい話はランドが戻ってきてからにするけど、あなたがディアガルの都まで旅に同道するのは許可するわ」

「お、恩に着るでござるよファイマ氏!」

「こちらとしても、ディアガルまで目前とはいえ護衛の戦力が万全になるのは嬉しいわ」



 話が纏まったようで、クロエが旅の一員に加わるのが決定したようだ。


 ーーーー思えばこの瞬間が、これから何かと長く深く付き合う事になる、俺と三人の女性との邂逅だった。



「ところで、俺が目が覚めたとき、何でベッドの下に隠れてたんだ?」

「いきなり意識が戻ったので、びっくりしたからでござる」


 この黒髪さんは、ちょいとだけヘタレが混じっているかもしれない。



 さて、臨時的な護衛参入の話し合いが終わり、程無く外に出ていた三人が宿に戻ってきた。


 戻ってきた三人は、意識を取り戻した俺にそれぞれ労いの声を掛けてくれた。驚くのはあのピュアな堅物アガットも労ってくれました。あの謎の襲撃者の強襲の元、生き残れたのは俺のお陰だと。ただ、一時も俺と視線を合わせず、あらぬ方向を向いたままだったのはご愛嬌。素直に認めたくないプライドと、助けられた恩がせめぎ合った結果だ。や、俺は海より高く空より深い心の持ち主なので許すけど。


 新しい馬車の調達は問題なく完了し、業者の者に荷物の運び込み等の準備は任せているので、明日の朝には終わっているそうだ。キスカの怪我の状態も完治し無事に戦線復帰を果たした。そんなわけで明日は出発である。俺からしてみれば目覚めて早々だが、他の面子にとってはこの街で滞在二日目だ。買い出し等も既に終えているし、この街にとどまっている理由もない。


 クロエの件に関してはランドは特に反対もせずに了承した。俺が気を失っている間にも彼女とランドは会話を交わしており、クロエが無害とは判断していた。アガットとキスカに関してはランドの指示に全面的に従っていた。本当に、ランドの言葉に聞き分け良いなアガット。


 そんなこんなで諸々の話は終わって、今の頃合いは真夜中。明日の出発に控え、夕食が終わると早々に皆寝床に伏した。


 一方で俺はと言えば。


「ぁぁぁぁああああああ。癒されるゥゥ…………」


 数日ぶりの入浴中である。


 俺たちが現在泊まっている宿は、この街の中にあってなかなかランクの高い部類に入る。ベッドも柔らかいし出てくる料理もうまかったが、何よりも大浴場があるのが最高だった。


 広さは十人ぐらい同時に湯船に入っても余るぐらいに広い。科学技術のないこの世界でこれだけの量のお湯を沸かすとなるとコストがすさまじくなりそうだが、そこは魔術的な手法で解決だ。水を生み出す魔術具と、生み出した水を温める魔術具を併用したお風呂であり、魔力さえ充填すればいつでも風呂が入れるのだ。ただし、風呂の掃除と魔術具に魔力を充填する時間が必要になるので、風呂に入れるのは夕方から翌日の早朝までだ。逆に、その間であるなら好きなときに風呂に入れる。


 この風呂沸かし魔術具は、そこそこに値は張るが貴族の間では一般的に普及しているとか。ただし、このサイズの大浴場となるとなかなかお目に掛かれない。ファイマがこの宿を選んだ最大の理由はこの風呂にあったとか。そりゃ女の子だからな。


 俺以外の面子は、もっと早い時間に風呂に入っている。あ、最初に言っておくがちゃんと男湯女湯しっかりと分かれてるからな? 時間が交互で男女入れ替わるわけではないのに俺がこの時間帯を選んだのは、一人でのんびりと湯船に浸かっていたかったからだ。


「…………この一ヶ月、いろいろあったからなぁ」


 ユルフィリアの王城に召喚されたところから始まって、レアルとの出会いに霊山での邂逅。ファイマを助けた縁から彼女の護衛を引き受け、数日前には謎の炎使いとの激闘。最後のは激闘という割には数分で終わった気がするが、命懸けだったのは変わりない。五体に不備はなく後遺症も今のところ感じられない。代償が髪と目の変色だったが、見た目の変化以外に被害はほとんどない。


 確認したところ、全身の毛という毛が変色していた。勿論、下のアレも見事に真っ白。現実世界に戻ったらすこぶる目立ちそうな容姿になってしまった。


「…………そもそも、あっちでは何日経ってんのかね」


 異世界転移を題材にした空想物語は現実世界でも様々だったが、その中には異世界と元の世界で流れる時間の速度が異なったりするのもあった。こちらの世界で一ヶ月の時間が流れても、元の世界ではたったの一日、と言った具合だ。これならまだマシだが、逆だったらリアル浦島太郎になってしまう。


「や、今の段階で気にしても仕方がねぇか」


 どう転ぶにせよ、ディアガルの帝都にたどり着くまではどうしようもない。そこに現実世界に戻る手掛かりがあるとは限らないが、深く考えるのならばそこに着いてからでもいいだろうさ。


 難しいことを考えるのはここまでだ。久しぶりの一人っきりの時間。誰かといるのは苦痛ではないが、何も考えずに無心でいられる時間も必要だ。気の済むまで風呂を楽しもうではないか。


 ーーーーいつかおっぱいの大きいお姉さんと混浴してぇなぁ…………。


 真面目な思考の最中に唐突に下ネタが浮かんでくるこの癖はどうにもならんな。本心でもあるし、諦めよう。


 そんな純度の高いお馬鹿な事を考えていると、脱衣所の方にガサゴソと誰か入ってくる音がした。他人のことは言えないが、こんな深夜に珍しいな。夜中遅くにまで娯楽が溢れている現実世界と違い、幻想世界の夜は静寂だからだ。


 別に湯船の独占欲も無いし、誰が入ってきても俺としては問題ない。俺は俺で気の済むままに風呂に入っていよう。


 俺が風呂の縁に頭を乗せ、水と一体化するが如しの自然体で脱力していると、新たな入浴者が浴場に入ってきた。


 ーーーーちょっとまて、この気配には覚えがあるぞ?


 反射的に、俺は新たな入浴者の方に顔を向けた。


 姿を現したのは、クロエだった。


 勿論衣服は着ていない。健康的な肢体に布の一枚だけを巻き付け、その豊満すぎる胸を腕で隠しながら、浴場に現れたのだ。


 胴体の部分の殆どは布と腕で隠されてはいるのだが、そこから伸びる手と足が眩しすぎる。余分な贅肉はなく、かといって筋肉質でもない。程良く肉の付いた健康美の体現だ。


 悲しいかな、女性の肉体に潤沢な賛美を贈れるほどに俺の女性経験は少ない(や、無いけど)。それでも『綺麗な体』というのはこう言うのを指すのだろうとは確信できた。


「あ、あまり見つめないでほしいでござるよ…………」

「…………………………………………………………………………」


 羞恥に顔を紅に染めるクロエが恥ずかしそうに身を捩ると、それに併せて柔らかそうな乳房が腕に潰され変形する。また、頭上にある普段は尖っている犬耳も、主の意志に従ってペタリと折れている。その様子は、美しさと可愛らしさの両立を演出している。


 俺はじっくりたっぷり一分経過してから、口を開いた。 


「…………や、ここ男湯」


 人間とは、本気で驚くと逆に冷静になるらしい。本日起こった己の変化を遙かに凌駕する驚きが全身を襲っている。


「し、知っているでござる」

「…………痴女か?」

「違うでござるよ!」

「だったら何でここにいるよ」

「か、カンナ氏の背中をお流しに来たでござるよ!」

 

メインヒロインを差し置いて新人ヒロインとのお風呂タイム。

あえて言いますが、ご飯でもR元服ゲームでもナカノムラは美味しい物は最後に頂く派です。

次回、黒髪ケモフサさんとにゃんにゃんするかも。

・・・・・・や、犬系だし「わんわん」か?




前回投稿した際のアクセス数が二千人近くあって(いい意味で)軽くビビりました。ユニーク数も四千を超え、ブクマもじわりじわりと増えて来て感謝感激であります。


感想文も評価も随時募集中であります!

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