第一次選考委員を務めさせて頂いたTAAF2017短編コンペティションの作品についての紹介の続きです。スロット1からスロット3まであります。
●スロット3
「プレストン」英題「Preston」Gabriel Amar, Louis Doucerain, Joseph Heu, William Marcere,Térence Tieu, Morgane Vaast フランス、4分。
「さあ、ショーを始めよう!」。指揮者の男と、リングで戦うボクサーたち。異なる二つの世界が交錯する時。リアルで鮮烈な表現。
「壁の間に囚われて」英題「Between Walls」Sara Jespersen Holm デンマーク、8分。
少女ミルと、創作の狭間に陥った詩人の父親。彼らの周囲に増殖するカラスの意味するものとは?学生時の作品で、作者は後にアードマンでキャラクターアニメーターのインターンを務めた経歴がある。
「Baozha!」英題「Baozha!」Jasper Liu シンガポール、6分。
若い守護天使Baozha(バオジャ)は不用心なおばあちゃんを周囲の危険から守ろうと奮闘する。シンガポールの「作画アニメ」は一見の価値あり。学生作品。
「きつねとクジラ」英題「Fox and the Whale」Robin Joseph カナダ、12分。
不思議なクジラを探しに出かけたキツネの、探求と発見の旅。形而上学的な思索を感じさせ、「霧につつまれたハリネズミ」を彷彿させもする作品。作者はピクサー、ドリームワークス等の経験を持ち、本作は初の短編監督作品である。
「高い処に置かれたまま」英題「Perched」Liam Harris イギリス、10分。
気難しやの老人ハミッシュ・フィントは山の頂上に不安定なバランスで乗っている潜水艦の中で一人暮らしているが、その平衡は歓迎されざる客であるカモメの来訪によって揺るがされる。学生時の作品。
「アリアンの運命の糸」英題「Ariadne’s Thread」Claude Luyet • スイス、12分。
バルコニーで日々洗濯物を干すアリアン(Ariadne=アリアドネとも)。20世紀と彼女の歴史はバルコニーに刻まれている。定点観測的な視点で描き出す女性の一生。作者は1970年にシュヴィツゲベル、ダニエル・スーターと共にスタジオGDSを設立した。
「計画から出た地獄」英題「One Hell of a Plan 」Alain Gagnol, Jean-Loup Felicioli フランス、5分。
泥棒たちは首尾よく戦利品を手にするが状況は一転、最悪の夜が訪れる。傑作長編アニメーション映画「パリ猫ディノの夜」のスタッフ最新作。おなじみの愉快なキャラクターたちの再登場が嬉しく、勿論、映画を見ていない方も素直に楽しい一作。オチまでお見逃しなく。
「ユイと蛇」英題「Yul and the Snake」Gabriel Harel フランス、13分。
13歳の少年ユイと兄ディノ、狂暴なマスチーフ犬を連れた兄貴分のマイク。暴力と屈辱。昨夏の広島国際アニメーションフェスティバルでは「ユルと蛇」の題で上映された。作者の少年時代の体験を元に発想され、キャラクターの動きはスタッフたちが実際に演じたものを参考に作画しているという。
「オレンジ色の木」英題「The Orangish Tree」Amir Houshang Moein イラン、6分。
オレンジの木に住む少女は彼女の街を救うために旅を始める。イランからの応募は珍しく、その抒情的な画面、幼い少女の愛らしいモノローグと共に記憶される。
「杏茸を少々」英題「A fistful of girolles」Julien Grande ベルギー、7分。
キノコ採りに出かけた父親が過ごす壮大な一日。緻密な日常生活の描写が高畑勲作品を思わせる。杏茸はアンズの香りがするキノコ。
「クモの巣」英題「"Spider web "“The Gossamer”」Natalia Chernysheva ロシア、4分。
おばあさんと小さなクモ。Gossamerは小さいクモの巣の意。単純に楽しいのだが「敵意から友情と相互救済に変わる関係についての話」という公式シノプシスを考慮すると、それだけではない深みもまた覚える。本作は文化庁の海外クリエイター招聘事業で来日した作者によって作られた作品である。
「あたしだけをみて」英題「Look at Me Only」、見里朝希(みさと ともき)、日本、7分。
目の前の恋人の魅力を忘れて手の中のモルモットを玩ぶことに夢中な男性。ある日、理想的な美女が現われ、心惹かれていくが。モルモットの意味するものが、この作品の現在性をより浮かび上がらせる。羊毛フェルトを素材に使ったストップモーションで、男性一人称の視点で撮られている。作者は藝大の男子学生。
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