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演出家の死。
過日、ちょっとだけ知っている年輩の演出家が亡くなったと聞いた。
70代で、突然のことだったらしいが、とにかく一杯仕事を抱えていることで有名だった。そして、仕事ぶりの評判はここ十数年決して良くなかった。実は、彼の人の「尻ぬぐい」的な仕事を制作に頼まれて請けたことも何度かある。演出のチェックをスルーするか溜め込むかして、周りが動いてなんとかする、というようなことだったし、他の人からも聞いている。同じ話数の演出と作画監督を兼任するようなことも以前はしていて、最近も原画の仕事もしていたが、その評価もかなり辛いものだったように思う。大体、どんな力量のある人にも「やらかし」というのはあるのだが、それが常であるかのように言われてしまうのは珍しい。
「いい加減な演出家」と言うとまず名前が挙がってしまうような人だったのだが、恐らくもともとはかなり器用でエネルギッシュな人で、量をこなすことができていたのだと思う。実際、上の年代のアニメーターや演出家にははもっと若い頃に見たり共働した仕事に良い記憶を持っている人がそれなりにいて、評価も全然違う。そりゃ、40年以上のキャリアのある人なのだ。
それが年齢を重ねて、思うように動けなくなっても、経済的なことや端的には「生きる」ために無理をしてでも仕事を請けて「こなして」いたのだろう。フリーの立場だと仕事がなくなることは避けたい、オファーは受けられるだけ受ける、というのは当然でもある。
僕自身が、仕事はほとんど何でも請けているし、他人から見たらあほじゃねえかと思うだろうくらいには仕事を抱えている。飲酒でヘロヘロだったころより仕事の確度は上がっているし、これだけの量とスピードで何とか出来るのはそうそういない、という自負もある。でも客観的な評価というのは仕事持ってます自慢とは関係なく、それぞれが良い仕事であったかどうかで決まるものだ。
一方で老いや衰えは誰にも訪れる。どんな立派なキャリアの人にも。そして、老いたからと言って、生きることを止めるということはできない。無様に見えても、いい加減だと言われようが、仕事しないわけにはいかないのだ。
どんな歳の重ね方をしようか?そういうことを考える。
年明けに。
年が明けても1月4日からずっと働いております。
アップしなきゃいけないものが多すぎてへとへとになりつつ自転車を漕いでスタジオを回っておりますよ。新年一発目の作品の納品が終わりました。本来去年の末に放送だったはずなのだが、何ゆえか?来週放送じゃと。
昨年放送された演出担当作品は20本。10月シーズンはそのうち11本。とうの昔に作業が終わっていたものも放映間際まであがいていたものもありますが、結構な怒涛でした。絵コンテは2本だけ切ったが、そっちは今年の放映分。もっとコンテもやりたいが、今の過密状況じゃ無理か。
仕事捗る。
水曜日にスタジオで仕事を始めるかというところで、唐突に「素材を引き揚げる」という無意味なムーブをやらかしてくれたあほなデスクのおかげで、その分の仕事の時間が空いてしまい、来週に回すはずだった急ぎでない仕事をこの2日ほどやってるが、捗る捗る。デスクさまさまじゃのう。やはりああいう演出を責めたてて仕事してるつもりになってるような不快な場所から解放されて結果的にはよかった。
「間に合わない」という思い込みで現場を破壊したのに「やってやった」とでも思ってんじゃねえかな。件の仕事は僕が入る前にもう一人演出が介在してたそうで、その人が前のローテーション話数からカットをため込んでてチェックが進まない状態で降りたんだか降ろされたんだかでこっちに声がかかったらしいが、そこで思うように動いてほしいんだったら前から付き合いのある演出に声かけないとだめだよねえ。こっちにはこっちのやり方があるんでな。
そしてわざわざ開口一番に「引き揚げる」などというケンカにしようと思ってるんだろうかというような態度。こちらが納得しなくてよいと考えているとしか感じられない。本当のところはそこまで考えがなく、単に「はっきりした態度をとらなければ」と考えたのだと思うが、こちらにとっては「わけのわからん言いがかりをつけられた」でしかないよ?
怒っている。
三鷹南口の某スタジオに着いて、さてカットのチェックを始めるべえかというタイミングで、机に制作デスクがやってきた。
彼は唐突に「もう間に合わないので、今あるものを引き揚げます」と深刻というか、こちらに対して敵意を持ったようにも思える顔で告げた。
「間に合わないって何に?」
「カッティング(編集)にです」
「引き上げてどうするの?」
「監督にチェックしてもらいます」
カッティングまでには2週ほどある。間に合わないという判断がどこから出てくるのか。
「カッティングにどういう状態で持ってくつもりなんですか?」
「監督チェック(演出チェック後に監督チェックがある作品である)をすませた状態です」
「それを先に言うべきじゃないですか?今まで言われてませんが」
「もう間に合わないじゃないですか。一日平均×カットしか出てない…」
はあ。毎日作業してるわけじゃないから平均値なんてあてにはならんのだが。そして、いよいよこれから毎日に近い作業をしようという時に。大体、演出のチェックを均等なスピードでできるのがスタンダードと思ってる?のが、絶望的な経験不足あるいは思考の足りなさで、それを基準に仕事を評価しようというのが思い上がりもいいところだ。
そして彼は残りの未チェックのカット数を言い出したのだが、先週だったか担当の制作が言ってたのと数が合わない。というか数が正しいのか知らんが、そこまで深刻な事態だと思っているのなら、もっと前にいろいろ言ってくるべきだし、こちらに残数の報告を頻繁にして危機感をあおってプレッシャーをかけることをしなくてはならないはずだ。それが制作の仕事だ。自分らだけ平均値を出して深刻ぶってる場合じゃない。
そして僕に言わせれば、そこまで深刻な事態にはなっていない。と思ったのだが、彼はまた別のことを言い出した。
監督が、演出チェックの内容が監督と合わない、と言っているという。
「合わないとは?」
「監督の思うようになってない」
「監督の思うようになってないとは?」
「コンテ通りになっていない」
…全くコンテと同じになんかなる訳ないし、思うとおりになってるかどうかを見るために監督チェックしてると思うのだが。監督が「引き揚げろ、こっちで見る」と言ったのかどうか知らない(デスクはその点何も言わなかった)がまあ制作が監督の言葉を借りて演出を信用できないとゆうてるわけだ。こちらで見るところ、デスク氏が一人でシリアスになってしまっているだけにしか見えなかったが。
とにかく引き揚げる、と言うので「それなら降りる。ケチのついた話だから金も要らない」と言い残してスタジオを出た。こっちから降りるとは言ったものの、素材を手元から奪うというのはもう僕の演出チェックは要らない、ということなので、向こうからは降ろした、ということかもしれない。
まるっきりちゃんと働きかけせずに放りっぱなしにした末に演出に相談も全然せずに唐突に極端な方策を出してきたわけで、はっきり言うと怒ってます。「金は要らない」というのはその表現です。だってこんな酷い扱いを受けることって滅多にないですよ。制作が勝手に計画したラインから外れたから作業途中でご破算にするとかさあ。で、演出を悪者にしようとしてるし。間に合わないも糞もまだ未上がりのカット残ってんだよ?チェック以前の話じゃねえか。状況の把握も告知もせず(できず)必要な方策も取らず(取れず)、慌てて演出の仕事ぶりを一方的に責めて、工程をジャンプさせる。(素材の引き揚げなんて、いついつまでにできなかったら引き揚げますよ、と告げて様子を見るのが通常でしょう。そういう交渉ごとを彼は一切してないし、進行とは今週中に出すことを「目標にする」という話になっていたのだから、気が早すぎるというかこれまでの文脈を無視してるのだ)本人は厳しい姿勢で仕事をしてるつもりかもしれないが、かっこつけてるだけで、制作の仕事としちゃ最悪だ。このタイミングで素材を引き揚げるというのは現場が混乱するだけで意味はない。抱えている仕事の手が空いてきたから、今週で目途を付けるのだ、とこちらが取り掛かった瞬間に、絶妙のタイミングでそれを説明する間もなくおかしなことをされてしまった。スケジュールを崩したのはてめえの方なんだよ。もっとも、その後の混乱を引き受ける監督がそうしたいならそれは監督の意向に沿うのも結構だが、つまり制作が機能してないということになる。こういうはっきり「素人」と呼んでいいような「プロ」フェッショナル気取りの輩が人を糞演出呼ばわりしてるのだろう。
ここの仕事は初めてだった。この会社からはもう仕事は来ないだろうし、それでいい。あの手の制作にかかわりたくない。だから金も要らない。信用してくれる相手は他にいっぱいいるし、20年以上仕事をしてきたことで、僕は今でも自分の仕事のレベルを上げていると自負してます。
秋が始まって。
10月シーズンが始まってしまった。
今期12本担当作品が放映予定です!でもって、実はそのうちまだ7本作業中でありますよ。とっくに終わってるという目算だったのだが。だって去年から作っててまだ終わってないのがあるですよ、何本も。別にサボってた訳じゃないが。
そんでもって来年以降の放映予定作品も6本。付け加えて来週あたりあと2本新しいのが入ってきます。さすがにこれ以上増やせない?ぞ?
今日、(10月9日)来年にリリースされるだろう某作品2話のアフレコに行ってまいりました。監督と雑談していると、実は3話の絵コンテがまだ上がっていない、どころか絵コンテ担当者と制作の連絡がつかなくなり、行方不明状態で再発注する、ということにまでなっているのだとか。うわー。本来なら来週アフレコしてたんでしょうが、カッティング(編集)のスケジュールも飛んでしまってる(4話以降の制作が先行する)ということでしょう。単にバックレただけならいい(よくない)が、担当者氏が部屋で孤独死なんてことになってたら、とちょっと笑えない話に。全然不思議じゃないからな、業界的にも昨今の社会情勢的にも。自分も家で死んだらしばらく見つけてもらえないんじゃねーか、と怯えてます。大丈夫!あと30年以上生きる予定だから!とカラ元気を出す。
戸惑う。
この前放映された演出担当の某作品、特に問題なく納品まで終わり、視聴者の反応も割と好評だったようなのだが、何故か演出とは別に演出補佐がクレジットされている。カッティング(編集)はコンテ撮で、監督がやったあとという状態からこちらに依頼が来てスタートだったし、スケジュールの関係上、制作の判断でラフ原画のチェック後、原画チェックはスルーというタイトなものだったけど、その工程で演出のチェックを誰かに分担してもらったという覚えがない。全カット自分でみているはずで、リテイクを手伝ってもらったということもない。あるとすれば…、こちらがかかわっていない最初のコンテ撮素材の作成(タイムシート作り)かなあ?そういう仕事のかかわり方なら僕も小遣い稼ぎによくやってるが、クレジットに出されたことはない。ちょっともやっとしてます。