2024年もMrs. GREEN APPLEの年だった――そう言い切っても多くの人が納得してくれるだろう。それほど今年の彼らの活動は凄まじかった。重要なのは2024年〈も〉、という部分。おそらく1年後も〈2025年もMrs. GREEN APPLEの年だった〉と言い切ることになるだろう。
楽曲リリースにライブ活動と膨大なコンテンツを届けてくれたMrs. GREEN APPLEの2024年を、ライター/編集者の後藤寛子に総括してもらった。 *Mikiki編集部
タイアップ曲でも〈ミセスらしさ〉を更新していく
2024年、“ナハトムジーク”、“ライラック”、“Dear”、“コロンブス”、“アポロドロス”、“familie”、“ビターバカンス”と7曲もの配信シングルを発表したMrs. GREEN APPLE。音楽番組やバラエティ番組に多く出演し、親しみやすいキャラクター性で国民的アーティストとしての地位を確立するなか、創作の手を緩めないどころかエンジンフル回転で駆け抜けていくのが彼らの凄さだ。そうして生まれた楽曲と独創的な活動から、2024年のMrs. GREEN APPLEを振り返っていきたい。
何と言っても、まずは“ライラック”である。アニメ「忘却バッテリー」のオープニングテーマとして話題を集めたのち、2024年を代表するヒット曲となった。高校球児たちの青春をひと癖ある筆致で描くアニメにふさわしく、楽曲もミセスの癖の強さが随所に感じられる。
定番の夏ソング“青と夏”を彷彿させる痛快なポップさを持ちながら、ストレートなギターロックだった“青と夏”とは違い、イントロからポストロックやジェント的アプローチの緻密なギターリフが炸裂。マニアックな創意工夫をあくまでポップに仕上げる大森元貴(ボーカル/ギター)のセンスと、そのアイデアをカラフルに表現する若井滉斗(ギター)、藤澤涼架(キーボード)のスキルは、近年のMrs. GREEN APPLEにおいて欠かせない要素だ。
タイアップ繋がりでは、映画「サイレントラブ」主題歌の“ナハトムジーク”、映画「ディア・ファミリー」主題歌の“Dear”も外せない。
声を出すことをやめた青年と視力を失った女性ピアニストの純愛を描く「サイレントラブ」には、ピアノを軸に〈胸の痛み/喉を伝い/聲にならない〉と祈るように歌う壮大なバラード“ナハトムジーク”を。余命10年と宣告された娘のために奔走する医師の実話を描いた「ディア・ファミリー」には、オーケストラの力強いサウンドとともに〈左胸の鼓動が止まるまで/ちゃんとこの世界を愛したい〉と歌いあげる“Dear”を書き下ろした。
いずれも作品のテーマに寄り添いつつ、ラブソングや家族愛に留まらない人間讃歌に仕上がっているのは、軸に大森自身の想いがあるからだろう。映画を盛り上げると同時に、バンドとして表現したいものからブレない。だからこそ、タイアップ曲でも着実に〈Mrs. GREEN APPLEらしさ〉を更新していけるのだ。