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日本ファルコム株主総会2024|近藤季洋社長「『空の軌跡 the 1st』でニッチ化している軌跡シリーズをもう一度盛り上げたい」

 12月19日13時30分から行われた日本ファルコムの株主総会。

 英雄伝説の軌跡シリーズやイースシリーズで知られるRPG業界の老舗。株主総会直前の12月15日に創業者で実質的なオーナーでもある加藤正幸会長が逝去しました。

直近経営資料 2024年9月期決算短信 決算補足説明資料2023年9月期有価証券報告書
株主総会資料 定時株主総会招集通知
前回 日本ファルコム株主総会2023|近藤季洋社長「『イースⅩ』の売上割合はPS5が5割、スイッチが3割、PS4が2割。PSとスイッチで五分五分と想定していたが結果は違った。PSとスイッチは継続してタイトルを出していきたい」

 業績は増収減益ですが、純利益率は33.7%と非常に高め。来期は減収減益見込み

- 売上 営業利益 純利益 PER PBR 時価総額
日本ファルコム・22年9月期 25.3億円 14.6億円 10.2億円      
日本ファルコム・23年9月期 24.7億円 13.2億円 9.1億円 15.2倍 1.28倍 121億円
日本ファルコム・24年9月期 25.2億円 12.4億円 8.5億円 14.7倍 1.16倍 118億円
日本ファルコム・25年9月期予想 25.0億円 12.0億円 8.0億円      
任天堂・24年3月期 16718億円 5289億円 4906億円 35.9倍 4.25倍 120323億円
スクエニHD・24年3月期 3563億円 325億円 149億円 26.2倍 2.26倍 7513億円

※株価は株主総会の前営業日終値を使用。PERは予想、PBRは実績

 売上は、自社製タイトルの売上を示す製品部門と、多言語版やアプリなどでの他社へのIP貸し出しから売上を得たライセンス部門の2つに大きく分けられます(ライセンス部門にはダウンロード版やDLCの売上も含まれているそうです)。

 近年は、海外売上が伸びているからか、ライセンス部門の割合が上昇しています。

事業年度 製品部門売上 製品比率 ライセンス部門売上 ライセンス比率
2011 14.00億円 89.6% 1.62億円 10.3%
2012 9.91億円 77.9% 2.80億円 22.0%
2013 14.99億円 81.4% 3.41億円 18.5%
2014 18.95億円 74.5% 6.46億円 25.4%
2015 7.70億円 48.9% 8.04億円 51.0%
2016 8.17億円 55.8% 6.47億円 44.1%
2017 11.43億円 55.5% 9.13億円 44.4%
2018 11.23億円 47.6% 12.34億円 52.3%
2019 8.11億円 33.0% 16.42億円 66.9%
2020 10.41億円 41.7% 14.55億円 58.2%
2021 6.67億円 26.9% 18.10億円 73.0%
2022 6.40億円 25.2% 18.93億円 74.7%
2023 6.45億円 26.1% 18.28億円 73.9%
2024 6.46億円 25.6% 18.78億円 74.5%

 地域別の売上は次表の通り。

 単年度の売上は発売スケジュールによって大きく変動するので、長期的な動きを見ていただければ。近年は北米・欧州の伸びが顕著となっています。

事業年度 日本 アジア 北米・欧州
2014 20.3億円 3.4億円 1.5億円
2015 10.5億円 3.5億円 1.7億円
2016 11.8億円 0.3億円 2.3億円
2017 17.2億円 0.2億円 3.0億円
2018 20.3億円 1.4億円 1.7億円
2019 18.5億円 1.9億円 3.9億円
2020 20.2億円 1.0億円 3.7億円
2021 14.1億円 3.8億円 6.7億円
2022 14.9億円 2.1億円 8.2億円
2023 14.1億円 2.1億円 8.4億円
2024 14.8億円 0.3億円 10.0億円

ここ一年の主な動き

2018年7月24日 【ゲームの企画書】激動のゲーム業界を“変わらないこと”で生き抜いてきた日本ファルコムのスゴさとは?【業界初、加藤会長×近藤社長対談】(電ファミニコゲーマー)

2023年9月28日 PS4・PS5・Nintendo Switch『イースX -NORDICS-』発売

2024年3月8日 『東亰ザナドゥ』10周年に向けた新プロジェクト始動!

5月23日 PS4 PS5『イース・メモワール -フェルガナの誓い-』発売

8月28日 スマホゲーム『英雄伝説 ガガーブトリロジー』サービス開始

9月26日 PS5・PS4『英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-』発売

12月15日 加藤正幸会長が逝去

2025年 Nintendo Switch『英雄伝説 空の軌跡 the 1st(仮称)』発売

手元資金(ネットキャッシュ)の推移

 無借金経営で、手元資金も売上4年分近く抱えています。

- 2022年9月期 2023年9月期 2024年9月期
営業CF +12.3億円 +9.0億円 +8.4億円
投資CF -0.0億円 -0.0億円 -0.0億円
財務CF -2.0億円 -2.0億円 -2.0億円
- 2022年9月末 2023年9月末 2024年9月末
現預金 82.0億円 89.0億円 95.4億円
有利子負債 0億円 0億円 0億円
ネットキャッシュ 82.0億円 89.0億円 95.4億円

議案

(1)剰余金処分→期末配当を1株につき20円に

(2)取締役5名選任

前年株主総会 今回候補者
加藤正幸(創業者) -
近藤季洋 近藤季洋(代表取締役社長)
石川三恵子 石川三恵子(デザインユニットエグゼクティブマネージャー)
草野孝之 草野孝之(クリエイティブユニットクリエイティブディレクター)
中野貴司 中野貴司(コーポレートユニットエグゼクティブマネージャー)
【社外】谷逸平 【社外】谷逸平(工画堂スタジオ社長)

(3)監査役2名選任→村山富男さん(税理士)と中原嘉伸さん(元日本ファルコム)が再任

株主総会のTwitter実況

 株主総会の様子は僕のTwitter(@michsuzu)で「#日本ファルコム株主総会」のハッシュタグをつけてツイートしていたので、まとめておきます

Q(すずき) 亡くなられた加藤正幸会長はこれまでどういう役割を果たしてきたのか。その役割をこれからどのように引き継いでいくのかを聞きたい

近藤:業務としては販売、広報、音楽関係の事業を担当していたが、いなくなったことでどこかで引き継がないといけない。

 もともと石川三恵子の担当する部署で販売と広報、音楽を加藤と一緒にやっていた。今まで加藤がやってきたことを一人が引き継ぐのは難しいので、分担して事業に差しさわりのないように引き継いでいく

 

Q(すずき) 聞いていいことかは分からないが、経営の継続性という観点から。加藤正幸さんの保有株を相続する親族の方は日本ファルコムで働いていたりするなどして、事業にかかわりのある方なのか。昔、奥さんが経理として働いていたとは聞くが

近藤:加藤の保有していた株については、現在のところ申し上げることはできない。支配株主が決まったら、これまでと同じように事業を継続できるよう、日本ファルコムの制作能力の高さや優位性を、代表者に安定して保有してもらえるようご説明する所存です

Q 毎年指摘があると思うが、現預金比率の高さについて

近藤:現預金は開発や採用関係、人材育成に投資していきたい。「現預金が非常に潤沢である」という指摘をたびたびもらうが、ゲーム業界は変化の激しい市場。今年はスマートフォンゲーム市場が一気に縮小して、大手もタイトルを20~30%減らしている。2~3年前には想像もつかなかった状況。

 これから2~3年後はどうなっているかというところに備えて、きちんと挑戦できる余地を残していくことが必要。所属する開発者にとっても、開発がきっちり行える環境を求めて、中途で日本ファルコムに入社してくる社員もいる。

 今後2~3年厳しい状況が続くと思うが、しっかりと開発を行える環境が整っていることを内外に示すためにも、引き続きご理解いただきたい

 

Q グロース市場について東証から見直しがあるという話があるが、そこへの対応は

近藤:スタンダード市場やプライム市場への移行の検討は毎年行っている。スタンダードは銘柄が多いのでどうしても埋没してしまい、プライムは上場維持コストが非常に高くなる。プライムに上場したら、今の体制では維持できない。人材を入れて、社内の編成を整えないとプライム市場の維持はなかなか難しい。

 今は時期尚早だが、いずれは上の市場を目指すことを考えてはいる。グロース市場を引き続き継続するのだが、しっかり情報収集しながら今後のことを検討していきたい

 

Q ソフトの販売数や売上が昨年と変わらない一方、製品代と原材料費が倍になっている。特典付きのパッケージの割合が増えているということか。それなら、通常版はDL版だけにして、製品代と材料費の削減分で通常版価格を下げて、 パッケージ版は豪華収納箱を基本とし、各店舗特典を封入することで中古対策を強化という2重戦略はいかがか

近藤:原材料費だけでなく、人件費も上がっている。ゲーム業界全体で価格転嫁できておらず、ファルコムでもひとつの課題として懸念している。

 ここ1年でDL比率がゲーム業界全体で上がっている。ファルコムでもここ1年伸ばしていて、DLCは特に海外で伸ばしている。製品を企画する上で、DLCは企画の段階から入れておく必要があるかなと考えている。具体的に特典をどうするかについては、今後の参考にさせていただく

 

Q 新作の第1弾PVの楽曲は毎回映像との相乗効果が抜群。発売までのもう1つの楽しみとして、そのタイミングを狙って楽曲のフルサイズ版の全世界同時配信を検討いただけないでしょうか。必ず購入します

近藤:担当者に伝えて今後の参考にしていく

Q 軌跡シリーズはそろそろラストスパートに向かっているが、かなり伏線が残されているといちユーザーとして思う。残りのタイトルで伏線は回収されるのか。軌跡シリーズが終わると柱がひとつなくなるが、代わるようなタイトルは用意しているのか

近藤:残りの伏線は当然、開発者として回収する予定と言っている。たくさんの謎は残っているが、『界の軌跡』の完結編や次のシリーズではきちんと織り込んだものを計画している。

 本当に全部やれるか確信は持っていないが、僕らの力の及ぶ範囲で、20年間続けてきた自分たち自身も納得し、20年間関わってきてくれたユーザーにも納得いただけるよう力を尽くしたいと思っているので、ご期待いただければ。

 軌跡シリーズに代わるタイトルについては、現状では申し上げられることが残念ながらないが、当然終われば次のタイトルをやることになる。並行して未発表タイトルも開発が始まっているのである程度、進んだら、IRや広報を通じて発表していくので期待いただければ

Q 製品部門とライセンス部門があるが、自社開発パッケージのDLやDLC売上はライセンスに入っていると聞いた。今年のライセンスの18億円のうち、どれくらいがDLやDLCなのか。今後、自社開発部分は製品に記載するとか、3つに分けるとかにしてほしい

近藤:2024年9月期は製品部門が25.6%、ライセンス部門のライセンス部分が56.3%、デジタル部分(DLとDLC)が18.1%(筆者注:ここははっきり聞き取れていないので正確ではないかもしれません)。

 「項目として分かりにくいのでは」という意見は、取締役会でもよく挙がる。上場以来これでやってきてしまっていて、なかなかタイミングをつかめずにこうなっている。どこかのタイミングで見直して、現状に即したものにしたいが、現段階ではご理解いただきたい。

Q 決議事項における議決権の扱いについて。亡くなられた加藤正幸会長は、日本ファルコムHDによる間接保有含めて過半数を持っている。冒頭、議長から定足数に達していると報告があったが、加藤会長の議決権は採決においてどういう扱いになっているのか

近藤:会長個人が保有していた株については、今回は計上しない。間接的に保有している日本ファルコムHDの保有株については、取締役が3人いらっしゃって議決権を行使することが可能なので、日本ファルコムHDの議決権は計上している

Q 『空の軌跡 the 1st』がスイッチで出るということで、いちユーザーとして非常にうれしい。この後、SC、3rdと続くのか。発売されてから随分長く感じるが、今出すに至った理由は。リメイクは他シリーズでも今後予定しているか

近藤:SC、3rdについては現在のところ未定。1stが好評であれば当然、SC、3rdと続けたい。現状では具体的なところは未定。

 FCが久しぶりに発売されるのはなぜかということについては、日本ファルコムは社員64人と大きな会社ではないので、どうしても最新作の『界の軌跡』や『イース』、他にチャレンジするタイトルにリソースが割かれる。

 FCについては、軌跡シリーズを20年続けてきて、新規ユーザーが減ってきていると感じている。プラットフォームやタイトルの性格など、さまざまな要因もあるが、「手を付けたいがどこから始めたらいいのか」と質問されても分からなかったりする。

 久しぶりにやる人や、ずっとやってきたけど気持ちが離れてしまった人に向けてのメッセージでもある。最初のタイトルを持ってくることでニッチ化している軌跡シリーズをもう一度盛り上げたい。

 それから最近、RPG自体減ってきていて、日本のゲーム会社にいて、「RPGがニッチ化していくのでは」という懸念もある。そういうところに対して、「これだったらオススメできますよ」ということでファルコムからリリースしたいということでこのプランになった。

 他のタイトルも当然、毎回検討していく。具体的なタイトルは申し上げられないが、今後の検討課題としていく

 

Q 軌跡シリーズ20周年ということで、グッズ展開に力を入れた年だったと思うが、来年以降もグッズは強化していくのか

近藤:今年20周年ということで、ファルコムの通販サイトも全面リニューアルして、見やすく明るいページになったと思う。グッズ担当者と専門チームを立ち上げて、今年度から運営している。

 当然、20周年の今年だけでなく、今後も引き続きオリジナルグッズをすでに企画しており、準備でき次第、通販サイトで色んなものを展開していくので、ご期待いただきたい

 

Q 『界の軌跡』でいろんな進化を感じたが、テキストのクオリティが気になった。テキストの独特な特徴が「軌跡構文」とネット上で揶揄されたりもする。社内でどうとらえているのか。個性でなく、課題としてとらえているなら、どう解決しようとしているのか

近藤:ユーザーからいただいた意見は社内で当然受け止めて、議題に上がることはある。軌跡のテキストの癖は多くの人数でひとつのタイトルのテキストを書くので、どうしても口癖のようなものを使って表現することで統一性を出そうとするので、似たような言葉が連続で出てしまったりするのでは。

 開発と共有して、どのように対応するかは今後のシリーズをみていただければ。今後の参考にさせていただく

 

Q コンテンツを世界展開するに当たって表現規制の問題がある。ファルコムのコンテンツを支持してきたユーザーとぶつかるところもあると思うが、表現規制とどう向き合っていくのか

近藤:非常に悩ましい問題。ワールドワイドで売ることで、色んな世界各国のエリアからご要望という形で意見が届く。

 例えば、人種の問題であればもうちょっといろんな人種の人間を出すことはできないかとか、アジアのエリアによっては喫煙表現に厳しかったりして、考慮しないといけないとかある。

 都度、情報を集めながらどうするかを開発内部で、特にシナリオライターとゲームデザイナーを集めて定期的に話をしている。

 すべての要望にお応えすると、クリエイティブな表現の幅が狭まってしまう。クリティカルな部分で製品の売上に関わってしまうとか、文化的にどうしても受け入れられないような宗教上の表現とかには極力対応していきたいとは考えている。

 そこまでではないもの、例えば喫煙表現で年齢制限が変わってしまうとかは、表現として受け入れてほしいという考えでいる。

 一つ一つ挙げると枚挙にいとまがないが、やはり対応しないといけないので、全部認識して作品の質を落とさないように細かく情報を仕入れながら検討していくしかない

 

Q 『イースⅩ -Proud NORDICS-』は追加要素のあるタイトルということだが、どんな方針で発売となったのか。旧作が無印版(=不完全版)となると、今後の作品の初動で買い控えを生むのでは。『界の軌跡』でも完全版とかやるのではと不安

近藤:完全な新規ユーザーを狙ったタイトルということで進めている。新規ユーザー獲得に当たり、現行タイトルそのままだとちょっと弱いので。

 『イースⅩ -Proud NORDICS-』に関しては未公表の情報があって、実はそこに狙いがあるので、後日の発表を確認していただきたい

 

Q 近年、ライセンス売上が製品売上を上回っている。製品が減ると、いずれライセンスも減る。『界の軌跡』ではストーリー進行が遅いとか、重要な場面で急に終わるとか批判がある。今後の製品開発をどう考えているのか。このままだと新規ユーザーも引き込めない

近藤:ライセンスの比重が大きくなっているが、その源泉となるのは製品のクオリティ。

 ライセンスの販売はほぼ先方からのご提案で成り立っている。先方の取引先の会社にファルコムを好きな方がいて、ライセンスを提案していただくことで成り立つ商品。

 開発はファルコムの中で一番重要なセクションという認識。『界の軌跡』のシナリオは賛否両論のご意見をいただいているが、それについてはさらに検討して、今後どのようにアプローチするか考えていかないといけない。

 軌跡シリーズは20年続いているが、パッケージ商品ではあるものの、運営型タイトルと同じ問題が出ていると感じている。言ってしまうと、作り慣れてきてしまっていることに問題が生じている。

 そこについては今までは軌跡シリーズにリソースを一番割いてきたが、若手中心の新規タイトルを立ち上げたり、イースシリーズも軌跡シリーズと違うアプローチで、シナリオではなくゲームプレイ中心で進めている。

 社内の開発手法の多様化を図ることで、リスクをおさえている。他チームのやり方やお客さんの意見を踏まえながら見ていきたいと思っている。

 今回、『空の軌跡 the 1st』をやっていくことで、「あのころはこうだったね」というところが結構、開発で参考になったりしている。

 『界の軌跡』ほどのボリュームもないし、シナリオもシンプルだが心に響くようなところがあるとか、そういった見直しが社内に入っている。そういったところをきっかけに、今後の開発を進めていきたい

 

Q 新しいチャレンジとあるが、ファルコム得意のストーリー路線のチャレンジなのか、アクションや配信向けといった体験重視のチャレンジなのか。体験重視のチャレンジなら、『ロマンシア』など過去IPの名前も活用しつつ、小規模なチャレンジから始めてほしい

近藤:おっしゃったことが、今まさに社内で行われている状況。

 各新規IPの方針は各チームごとにあるが、シナリオを生かした作品もあるし、『ブランディッシュ』『ソーサリアン』のようなゲームプレイを重視した作品が出せていないという考え方もある。「じゃあ今の時代ではそれをどうしていくのか」というところが、まさに今、巻いている段階。もう少し具体的なところで報告させていただければ。

 過去のタイトルを生かした試みについても、やっぱり同じような議論はしないとなと思います。こちらも合わせてお待ちいただければ。

Q 『空の軌跡 the 1st』全世界同時発売に期待している。制作人として近藤さんは信頼しているが、経営陣としては過去の戦略とかに疑念がある。市場移行の話もあったが、上場コストなどを考えた時、本業に徹すること(MBO?)についてどう考えているか

近藤:今後の戦略については、ファルコムの制作能力の高さを認識しているので、製品の良さをたくさんのユーザーに理解していただいて、製品の質からリピーターになっていただく割合が高いので、リピーターを増やして株価に貢献していければと考えている。

 上場に関しては、この場においてはどうするのか今はっきりとは申し上げられないが、基本的には創業者の遺志を継いでしばらくはしっかりやる。ファルコムのコンテンツを広めていくことに関しては、上場は武器になるので、簡単に捨てていいのかとは思う。

 私の経営手腕というところでは歯がゆい気持ちにもなってしまって大変申しわけないところもあるが、もう少し長い目でご覧いただいて判断していただければ

 

Q 新作として軌跡とイースの2本を発表した。ただ、ここ数年は完全新作を発表していたが、ある意味焼き直しの2本は残念。軌跡がSC、3rdと続くと、完全新作が遅れる状況が続くのでは。完全新作がないのは今回限りで、来年以降はまた1年1作出すのか

近藤:今回、『空の軌跡 the 1st』をはさんだのは軌跡シリーズ全体のため。やはり軌跡シリーズが全体的にニッチ化しているので、1回テコ入れとして、シリーズの導入となるものをはさんで、もう一度力を借りて、軌跡シリーズを完結に向かわせるため。

 軌跡シリーズはなかなか途中から入りにくいタイトルなので、少しでも糸口となるものをはさまないといけない。それからPSPのころからのタイトルなので、潜在ユーザーがもっといる。シリーズ累計で800万本販売したので、そういった方たちを呼び戻すためにという意図もある。

 『空の軌跡 the 1st』をはさんだことで、確かに制作能力的には各タイトル落ちるが、ここ2年ほど外注を使うことで、グラフィックなどの効率を上げている。なるべく完全新作のペースを落とさないようにしつつ、間にこういったものを実現することで、売上を伸ばせないかと試みているところ

 

Q コロナも落ち着いてきたが、今テレワークは導入しているか。割合や出社率、生産性や満足度、デメリットなど教えてほしい。あとFM音源を使った音楽が好きだが、学生時代はお金がなくてサントラとか買えなかったので、復刻版を出していただくとうれしい

近藤:基本的に出社をお願いしている。コロナ中は当然、感染した方や状況的に出社が難しい人はテレワークだった。今は比率的にはそんなに高くなくて、基本的に何か事情がある場合はということで続けている。

 ただ、オリジナルゲームの開発現場においては、弊社は9割が開発の人間で、ひとつのことを専門にやっている人間より、いろんなことをやっている人間が多くて、テレワークになると途端にコミュニケーションコストが跳ね上がってしまうので、なるべく出社という方針を続けている。

 コロナ以降、世間の見方や社員の状況も分かってきて、両親の介護や子育てで難しいという方に関してはテレワークで勤務を続けている。割合的にはそんなに多くなくて、10人に満たない。

 デメリットは先ほど申し上げた通り、1人の人間が数多くを担当している会社なので、「あれどうなってるの」「これどうなってるの」となった時、その場にいないことがかさむと、特に重要なポジションにある人が該当すると制作の遅れが発生する。

 チャットなどテレワーク上のシステムも整えたが、やっぱり現場で同じ釜の飯を食うような現場感が制作では重要だと考えていた。今後も検討課題で、採用のモデルを探っていく

 

Q 人材育成や採用について。部署全体のリソース不足だったり、採用というより育成が課題だったりとか、今の課題について

近藤:シニアプレイヤーも単純な人数も両方足りていない。これは多分、どのゲーム会社もそうだと思う。

 ファルコムでは単純作業を淡々とする人もいるが、「一人でもチームでも動けるように」ということで、早い段階から色んなことを担当させて、幅広い局面に対応できるシニアプレイヤーを育成したい。

 人数については、グラフィックを大量に生産しないといけない時期は人手が必要だったりするが、外注を利用することでそういった面を克服しようとしているのが今のやり方。

 シニアプレイヤーは普通のプレイヤーとしても優秀なんですよ。ディレクションできる人間でも、グラフィックを一番高いクオリティで一番早いスピードで作れることが多いので。

 そういったシニアプレイヤーが自由に動けるような環境を模索している段階ではあるが、それと並行して人数を増やしていくことも重要。

 一方、専門職の方々を増やして、専門性が強いと、(仕事を)待ってしまう人間が増えてしまうので、その辺のバランスが重要で今後の課題かなと思っている

 

Q 株主還元について。現預金や利益剰余金を投資に備えて積み上げることは必要だが、株主目線としてはある程度、定量的な目標値を示してほしい。損失や投資に備えて何十億円必要で、余裕があるなら還元を増やしていくとか示してもらえるとありがたい

近藤:ROEなど、具体的な目標値は定めていない。非常に変化の大きい市場なので、そこに対していくら必要かは僕らも実はしっかりと読めないところもある。

 うちの場合は損失はあまりないが、チャレンジのためにいくらかかるか、2~3年後にどういう状況になっていていくら必要かはアップデートを繰り返さないといけないので、半年~1年単位でみていかないといけない。

 具体的な数値は申しわけないが策定していない

Q ファルコムではテキストなどで生成AIを利用していると聞く。著作権問題などで、クリエイターも迷っているというインタビューをみる。ゲームショウでは翻訳イベントに海外から批判的なコメントがついたのが気になった。AI利用についてどう考えているのか

近藤:昨今非常に話題で、センシティブな話題にもなっている。私たちとしても、ちょっと慎重に進めないといけないとは考えている。ただ、我々のような中小企業にとって、AIによる制作は開発効率を上げる大きな手段にもなると考えていて、社内で研究や業務を進めている。

 ユーザーが直接目に触れるようなところでは慎重になっているが、社内用のコンセプトアートや、 シナリオライターが新しいストーリーを考える時の情報収集や壁打ちでAIを使うと、10時間以上かかっていたものが数十分で済むようになっている。そうしたことから今後は切り離せないものになると考えている。

 一方、著作権の問題や、仕事を奪ってしまうんじゃないかというところとかもある。ワールドワイドで展開しているので、慎重に意見を情報収集しながら、うまくAIと付き合っていく方法を引き続き考えていかないといけない。

 コラボした翻訳については、お願いする会社によってもいろんな翻訳があって、直訳するところにAIは強いが、直訳を現地のテイストに合わせるところはまだまだ。

 答えとしてはっきり示せるものはないが、必要なものを認識しながら何がベストなのを考えていきながら進めていく。

Q 『界の軌跡』続編の予定について言えることがあれば

近藤:開発はすでに始まっている。現在、ストーリープロットの段階。社内リソースは『空の軌跡 the 1st』に振っているが、プロットが出来上がり次第、制作を進めていく。まだちょっとお待ちいただくことにはなるが

Q 『イースVIII -Lacrimosa of DANA- モバイル』の進捗は把握しているか

近藤:Linekongという会社で開発を進めているが、ライセンスの許諾から相当時間が経っている。

 私たちも「どうなっているのか」と確認しつつではあるが、先方からは「開発は進んでいるので、もう少しお待ちください」と回答いただいている。引き続き確認しつつ、リリースにたどり着けるよう努力したい

 

Q 会社の将来の規模感について。近年、売上25億円、純利益9億円、従業員数60数人といったあたりで推移しているが、例えば5年後の状況についてどう考えているか。大きく拡大していくようなイメージなのか

近藤:まずタイトル数を増やしたいと考えている。最新作は年1本で今回は『空の軌跡 the 1st』ということになるが、これを年1.5~2本定期的に出せるような体制にしたい。

 それには開発の人数が足りていない。人数を増やすには、その中間でマネジメントできる人間を育てないといけない。

 PSP向けに作っていたころは社員数が30人くらいで、今60数人になったところでも色んな問題が出てきて、やっぱり人の問題が出てきている。ゲームを作るだけではなく、人間関係やコミュニケーション面での解決に当たっていける人間を今、なるべく育成している。

 段階的にはなってしまうが、そういったところを足がかりにして、最終的に新作タイトルを年1本でなく2本出しつつ、その間に『イースⅩ -Proud NORDICS-』のようなものも出していけたらと考えている