大成功に終わった尼崎ボウル、アメフトの可能性を感じた最高の1日
アメフト・アサヒ飲料クラブチャレンジャーズによる『第7回尼崎ボウル』が6月12日に開催。名門・京都大学ギャングスターズとの招待試合をメインに多くの催しが行われた。
XリーグSUPER(1部)所属1年目の注目年、コロナ禍で3年ぶりとなったイベントは大盛況。快晴に恵まれたベイコム陸上競技場には入場無料も相まって2500人を越える多くのファンが集まった。
~エンタメ性を前面に押し出した最高に楽しい空間
2020年10月、チャレンジャーズは尼崎市と包括連携協定を締結、実質的本拠地となった。アメフトを通じた地域、社会貢献のためフィールド内外で様々な活動を開始。また将来的にアマ(尼崎)でのホーム試合開催意向もありチームの知名度を高める必要性も今まで以上に高まっていた。
従来をはるかに上回る規模での開催に向けプロジェクトリーダーとして奔走した川口陽生氏は語る。
「チャレンジャーズはアマの子供たちが憧れる存在になりたいです。選手はロールモデル(社会的規範)でいる意識を持つことが大事です。社会貢献活動の理念に賛同頂き、多くの企業様からご協力いただきました。当日はアメフトを知らない人でも足を運んで楽しめる空間を作りたいと思いました。入場無料、いわばアメフトを通じたアマのお祭りです」
川口氏は本業の合間を縫うようにアマの町を走り回った。アマの人々は想像以上に地元に対する愛情に溢れていた。行く先々で温かく向かい入れてくれビジョンに賛同してくれた。援助してくれる企業、個人はどんどん増え、大規模なイベント開催が可能となった。
~地元高校生とのコラボ、チーム応援歌『挑戦者よ』を初演奏
アマを本拠地化した際、チャレンジャーズと地域を象徴するチーム応援歌『挑戦者よ』を作った。チームを鼓舞するメロディにアマを象徴するワードを散りばめた。この曲で地元高校生とのコラボがしたい。尼崎双星高吹奏楽部が選手入場前のフィールドで演奏することとなった。
「普段と全く異なるスポーツのフィールドで演奏することは生徒達にとってすごく大きな経験になりました。これだけ多くのお客さんに見られて演奏することはないと思います。生徒が一丸になって一生懸命演奏してくれました。チャレンジャーズのことを初めて知った生徒もいると思いますが、これからはずっと応援します」(尼崎双星高教諭・浜田大地氏)
「当日は現地に行けなかったのですが演奏動画がリアルタイムで送られて来ました。自分が制作した楽曲が演奏されて最高の気分。当初からブラスバンド部を想定、行進しやすいテンポ、キーの高さを大事にしました。制作後、コロナ禍に入り生演奏できるまで2年近く時間がかかりました。やっとここまで来たか、という安堵感も強い」(日本語作詞・作曲・ジントシオ氏)
「本番2日前に行われた全体練習を見に行きました。本番ではないのに涙が出ました。色々なツテをたどりジンさんにお願いして名曲ができたのにコロナ禍で披露できなかった。ようやく機会に恵まれ高校生125名が我々のために必死でやってくれている。そして尼崎ボウルに向けて走り回った多忙な日々。全てが走馬灯のように思い出されました」(同川口氏)
~人気芸人「矢野・兵動」の矢野パイセン、レゲエ・アーティストTHUNDERが登場
その他にも、やりたかったことの中から実現可能なものを選択して組み込んだ。サイドライン沿いにスペースを作り試合中もインタビューを行った。聞き手には矢野パイセンを起用。選手、チアリーダーなどを巧みにイジる絶妙な話術でスタンドの視線を浴びた。そして地元出身のレゲエ・アーティストTHUNDERも快く出演を引き受けてくれた。アメフト会場ということを忘れさせるほどのパフォーマンスで会場中を盛り上げた。
「あんなんで良かったんかな?(笑)アメフト自体はあまり詳しくないので最初は手探りの部分もあった。でも、たくさんのお客さんが盛り上がっていて自然と言葉も出て来た。結構、選手やチアをイジったけど大丈夫やったんかな?(笑) スタンドには笑顔がたくさんあって大盛況。来年以降もやって欲しい。もちろんまた呼んでや(笑)」(矢野パイセン)
「普段なかなか関わりのない場所で歌わせてもらって楽しかったです。チャレンジャーズの戦を僕も心から応援しています。自分自身でも『アマバク』(尼崎爆音化計画)という音楽イベントを行なっていますが、この町の可能性を感じます。尼崎をもっと活気のある町にするために、お互いに相乗効果を生めたら嬉しいです。尼崎の未来を明るく楽しくしましょう!」(THUNDER)
「アメフトのプレー経験者は限られます。そうでない人のためには徹底的に楽しんでもらうしかない。だからエンタメが欠かせないと思います。リプレーなどが見れるビジョンは必須です。また選手入場などの演出を米国の様に派手にしたかった。そこに芸人やアーティストが絡むので、退屈するはずないと信じていました」(同川口氏)
~観客が選手のモチベーションを高め、承認欲求を満たす
2000人収容のメインスタンドはフルハウス状態、バックスタンドには京都大ファンも多数詰めかけた。サイドスタンドの木陰でも多くの人達が試合を楽しんだ。だがスタンド以上に気持ちが昂って楽しんだのはフィールド上の選手達だったかもしれない。
国内アメフトは決して人気競技とは言い難くXリーグ公式戦では空席が目立つことすら多い。普段はそういった環境しか知らない選手達にとっても夢のような空間だった。
「こんな素晴らしい雰囲気の中でプレーできて最高の気分。お客さんが決して多くないスタジアムで試合をしてきたから本当に驚いた。日本のアメフト人気は高くないと感じていたけどそんなことはない。ミシシッピ州立大時代は10万人近い大観衆の中でプレーした。スタンドの熱気や試合演出など当時を思い出すほどだ」(チャレンジャーズWRロバート・ジョンソン)
「選手が『ありがとう』と言ってくれる。試合後もLINEなどを通じて同様の連絡がひっきりなし。お客さんに見られてプレーすることにとても興奮したのだと思います。例えば、プロなら金銭のためにプレーするがクラブは違う。モチベーションや承認欲求のためにプレーする。多くの観客に見られてのプレーは最高だったはずです」(同川口氏)
~チャレンジャーズ、沖縄進出の可能性も
交流が生まれたチームを通じさらなる可能性を感じることもできた。正英ブレイザース(Xリーグwest3部所属)との交流戦に招待した琉球ガーディアンライオンズ(沖縄)。Xリーグwest参入を目指す30人ほどのクラブチームは地元密着を進めている。独自開催している『首里城ボウル』では、米軍チームとの対戦に1500人の観客を集めた実績を持つという。
「尼崎ボウル前に沖縄県庁で記者会見をした。『首里城ボウル』は米国仕様にこだわることでベース関係者や地元の人たちで大盛況だった。勉強になることも多く、将来的にチャレンジャーズ沖縄興行も考えていきたいと思いました。先方からは尼崎での地域貢献、行政との関わり質問されました。情報共有することでアメフト界のボトムアップにもつながるはず」(川口氏)
CS放送・GAORAで7月に録画放送が決定するなど、尼崎ボウルに対する関心は高い。しかし単発イベントで終わらせては意味がない。継続開催することでチーム、アメフトの人気向上につながるはずだ。
「また足を運ぼうと思ってくれたら嬉しいです。選手側には素晴らしい環境でプレーできたことがプラスになる。今年2500人なら来年は3000人を期待して普段からハードに練習するはずです。観客=地元と選手の相乗効果が生まれれば、もっと盛り上がるはず。改善点も多いですが来年はもっと面白くしたいです」(同川口氏)
入退場自由だったため入れ替わり多くのお客さんがスタンドを訪れていた。選手の身内だけでなく、家族連れや老夫婦の姿も見受けられた。
「アメラグ(関西におけるアメフトの呼称)っておもろいなぁ」
会場から尼崎駅へ向かう帰路で聞こえてきた。手には配布された応援用ハリセンが握り締められていた。
尼崎ボウルがアマの新しい『お祭り』になりそうな気配が感じられた。アメフトの大きな可能性が見えた梅雨の合間の1日だった。
(取材/文・山岡則夫、取材/写真協力・アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ)