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ストレスが引き金に……?男性にも起こる更年期障害

高尾美穂・産婦人科医/イーク表参道副院長
 
 

 「女性の問題」と捉えられてきた更年期障害ですが、最近は男性の更年期障害にも注目が集まるようになってきました。性ホルモンの分泌が落ち、さまざまな不調が起こる点は男女共通ですが、身体の内側で起きる変化は大きく異なるといいます。男女の更年期はどう違うのでしょうか。また、どのように向き合っていけばよいのでしょうか。産婦人科医の高尾美穂さんに聞きました。

こんなに違う、男女の更年期

 男性の更年期障害という言葉が、社会に広まってきました。背景には、女性の健康課題に対する取り組みが活発になってきたことがあると思います。

 女性には生理痛や月経前症候群(PMS)など、男性は経験しないさまざまな健康課題があります。企業の管理職にとってこうした課題は、今や知っていなければいけないテーマですが、「人ごと」と感じてしまう男性も少なくないかと思います。

 一方、更年期障害は、男性にも起こりうる課題であり、管理職ぐらいの年代の方が当事者になりやすい不調でもあります。「更年期障害は、男性にも女性にもある」というメッセージは、男性にもこうした問題を考えてもらえるようにと、意図的に広まった面もあるように感じています。

 ただ、女性の更年期と男性の更年期には、大きな違いがあります。

 女性の更年期は、閉経をはさんだ前後5年の計10年で、40~60歳ぐらいの間に誰もが迎えます。この時期に、女性ホルモンであるエストロゲンを分泌する卵巣の機能は次第に落ち、終了していきます。

 更年期には、エストロゲンが足りなくなることで起こる不調に加え、自律神経の乱れによる不調も起きます。脳の中心部にある視床下部という部分が、卵巣にエストロゲンを出すよう働きかけているのですが、更年期には視床下部が働きかけてもエストロゲンが安定して分泌されないため、混乱が生じます。視床下部は、ホルモンの分泌の調整とともに、自律神経もコントロールしているので、自律神経の働きにも乱れが生じるわけです。

 一方、男性の場合は、ストレスや生活習慣が更年期障害に大きく影響します。個人差が大きく、女性のように同じ年代に誰もが一斉に更年期を迎えるということはありません。加齢によって、精巣が分泌する男性ホルモン・テストステロンは減少していきますが、精巣の機能がゼロになることはないというのも、女性と大きく異なる点です。

 男性の場合、ストレスは更年期障害の大きな引き金になります。ストレスによって、視床下部の働きが落ち、自律神経が乱れ、テストステロン分泌のコントロールもうまくいかなくなるためです。極端な事例ですが、競技のために過度な減量に取り組んだ20代のアスリートで、テストステロンの値が落ちて、男性更年期障害のような症状が生じた、というケースもあります。

判断力の低下も

 男性更年期障害という言葉は広まりましたが、自身が不調のときに「更年期障害かもしれない」という考えが頭に浮かぶ男性は、まだ少数かと思います。

 女性の場合は更年期の目安として、生理の周期がばらつくという変化があります。男性の場合は、そういった目安になるようなわかりやすい体調面の変化がなく、不調が更年期障害によるかどうかはよりはっきりしません。

 働く世代の男性でも、「倦怠(けんたい)感がある」「イライラする」「夜よく眠れない」「疲れやすい」「性欲が落ちた」「朝勃起しない」――などの症状があれば、男性更年期障害を疑ってもよいと思います。

 テストステロンは、「判断力」や「認知機能」などの脳の働きにも関わっています。このため、特に物事を決める立場の人にとっては、テストステロンの不足は大きな問題です。また、テストステロンが減少すると、糖尿病や高血圧にもなりやすくなると言われています。人生に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 男性更年期障害の治療は、泌尿器科の領域になります。ただし、この分野の治療を得意とはしていない先生もいらっしゃるので、男性更年期障害の治療を標ぼうしているクリニックを受診するのがよいでしょう。診断は、血液中のテストステロンの値を測定して行います。平均的な値を大きく下回る場合には、テストステロンを補充するホルモン補充療法などの治療を行うことになります。

運動すればテストステロン…

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産婦人科医/イーク表参道副院長

たかお・みほ 産婦人科専門医。医学博士。女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。東京慈恵会医科大学大学院修了。同大学付属病院産婦人科助教をへて2013年より現職。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。ヨガ指導者。婦人科診療に携わる傍ら、「全ての女性により良い明日を」をモットーに、医療・ヨガ・スポーツの三つの面から女性の健康に関する専門的な知識を分かりやすく発信している。NHK「あさイチ」などテレビ番組への出演や雑誌、SNSでの情報発信のほか、20年からは音声配信アプリstand.fm(スタンドエフエム)の番組「高尾美穂からのリアルボイス」で毎日、リスナーから寄せられる体や心の悩み、人生相談に回答している。「娘と話す、からだ・こころ・性のこと」(朝日新聞出版)、「女性ホルモンにいいこと大全 オトナ女子をラクにする 心とからだの本」(扶桑社)、「大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111」(講談社)、「心が揺れがちな時代に『私は私』で生きるには」(日経BP)、「いちばん親切な更年期の教科書 閉経完全マニュアル」(世界文化社)など著書多数。