同キャラ対戦の闇
初代ストリートファイター2では同キャラ対戦ができない仕様になっていた。当たり前であろう、同じ人間同士が戦えるわけがない。しかし、その当然もゲームのシステム的には不都合があるわけで、アッパーバージョンのストリートファイター2ダッシュ以降は2人のプレイヤーが同一のキャラクターを選ぶことが可能となった。
そうすると困るのはストーリー的な整合性であり、といってもこんなドイツのうら寂しい村でしか見られない怪現象ライクなものに格闘物語的な整合性と言われても困るので、勝利したキャラクターの台詞で、「アイツは偽者だった」とか「そっくりさんだった」とかいう説明を加えることで、なんとか体面を保っていたわけだ。
しかし、よく考えたらこれはちょっと怖いことだ。2人のプレイヤーが対戦している時点では、どちらか片方が本物でどちらか片方が偽者であるという事実は存在しない。強いて言うならば2人ともが本物であり、この対戦はいわば本物同士の2つの物語の衝突である。ところが、体力ゲージの最後の1ドットが削られた時、1人は本物となり片方は偽者となる。この瞬間、今まで存在しなかった事実が生まれる。本物には本物として生きてきた過去が生まれ、偽者には何らかの理由で本物を模倣して生きてきたという過去が。
もちろん、これは勝者のメッセージが真実であると仮定してのことである。勝利を収めた偽者が、ずうずうしくも本物を偽者呼ばわりしているのかもしれない。しかしこれはこれで恐ろしい。その偽者がエンディングまで到達すれば、本物が背負うべきだった物語は全て偽者のものになってしまう。かつて本物だったブランカは永遠に母親と出会えないし、かつて本物だったケンやガイルは妻や子まで奪われてしまうだろう。
いや、ここは勝った方の台詞が正しかったということにしたい。そうでなければ、あまりにも残酷すぎる……いや、待てよ?リュウ同士の同キャラ対戦で勝利することによって生まれた本物リュウが、更に乱入してきた別のリュウに負けたとする。するとどうなるんだ?二度目の対戦が終了した瞬間、本物リュウは本物ではなくなってしまう。なんと歴史が書き換わってしまった!こうなるとわけがわからん。本物ってなんだ?本物が知りたい。
拳と拳が作り出す熱い男たちのストーリーも、こと同キャラ対戦に関してだけはオカルト的な恐怖物語となる。俺は、スト4の筐体に映るケンが「ハンサムが二人いるんじゃお客さんがどっちを応援するか迷うな!」などと呑気な勝ち台詞を吐いているのを見ながら、幾人もの『かつてケンだった男』のことを考える。そうしているうちにモニタに表示された赤い胴着がじわじわと滲み出し、俺はそこから拡がる混沌の渦にゆっくりと飲まれていくのであった。