ログミーBusinessリニューアル記念として、二部構成で開催されたイベント「これからの時代の組織マネジメント:ジョブ型雇用とZ世代のマネージャー登用」。第一部ではジョブ型雇用の理想と現実についてのセッションが行われ、パナソニック コネクト株式会社 執行役員 ヴァイス・プレジデント CHROの新家伸浩氏、自由民主党 衆議院議員の小林史明氏、青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科教授の須田敏子氏の3名が登壇。本記事では、パナソニック コネクトが実践したジョブ型導入のステップについて解説します。
日本企業の生産性が低い理由
藤井創氏(以下、藤井):今度は企業という立場からジョブ型に対して、実際の現場の感じや意見も含めて、新家さんからおうかがいできればと思います。
新家伸浩氏(以下、新家):はい。今小林さんからお話があったことは、国から見たらそうなんですけど。僕がこれから話そうとしているのは少し企業目線なので、やはり(都市部のホワイトワーカーと)同じような課題があるなと思っています。
我々の会社もジョブ型でさっきの20社という部分に入っているんですけれども。「なんでジョブ型に変えたんですか?」といったら、やはり日本企業は生産性が低い。
これはなんでかというと、我々はもともとメーカーだったんですけども、やはり「改善、改善」で。同業他社もたくさん日本にあって、ちょっとした改善で勝負が決まるような世界の中で生きていたからなんです。「誰が改善するんですか?」といったら、みんなで提案活動したりして改善していく。
「じゃあ、誰がリーダーなんですか?」というと、その中で一番人間力がある人とか。なんかちょっとわけのわからない、コンピテンシーというのかどうかもわからないようなことで決まっていくんです。
「お給料にすごく差をつけるか」といわれたら、つけない。そしたら、みんながんばらなくなりますよね。結果的に、この「改善、改善」が実は生産性を落としていたんじゃないかという、私の仮説が1つあります。
退職金という「後払い賃金」がもたらした影響
新家:もう1つ、流動性がすごく低くなっています。今VUCAの時代とか言葉では言うんですけども、実際企業の戦略としては、どんどん事業ポートフォリオ変革をしなければならないということです。
人の流動性が担保できなければ、どんなに事業ポートフォリオを作成して外から調達してきても、「じゃあ誰かが別のところに行くんですか?」といったら、そうなっていないのが今の実態ですね。
過去には人材を囲い込むことが戦略だった時代もあるわけですね。囲い込みの中で、会社に対してロイヤリティを要求する。どうやってロイヤリティを要求するかっていうと、後払い賃金というものです。年功序列で、後になったほうが給料が高くて、最後は退職金をもらえるまで我慢して働こうよっていうことです。
そうすると、「もうこの企業でいいや」ってなりますし、職場もどんどん人を囲いこんで、結果的に人材流動性がなくなってくる。すると結局は事業戦略をいくら組んでも、大事な人のリソースがアロケーションできない。外部からの調達ができない。
そんなことになっているので、やはりここを打破しなきゃいけないのが1つの動機になっているかなと思います。
ジョブ型を導入したパナソニック コネクトの年間スケジュール
新家:ちょっといきなり飛んで、また後で細かい内容は言いますけれども、導入する時にチェンジマネジメントがすごく大事だなと思っています。
当社ではやはりいろいろ変えていかないといけないっていうことで、このジョブ型を2023年度に入れたんですけど。HRも職場の責任者もそうですし、ここにはあまり書いていませんけど、本人もいろんな研修をやったり、アナウンスをしたりとか。
これを緻密に年間で組みながらですね、職場に対して今、働きかけをしていっているということです。導入する時は、やはり「やるぞ」と決めたらここをやらなければたぶん定着しないだろうなと思っています。
藤井:ありがとうございます。この年間スケジュールはものすごく細かいですね。
新家:同じようなことも書いてあるんですが。
藤井:(笑)。意外とこういうのを見せてくれる企業もなかなか少ないかなと思われるので。すごく参考になるかなと思って聞いておりました。ありがとうございます。
3階層の企業改革への取り組み
藤井:そうしたら次のテーマに続けていければなと思うんですが。「組織変革の最前線」というところで、実際、組織変革はどういうふうに行われているのか。さっきの新家さんの話にもちょっとつながるかもしれないんですけど、このあたりを今回は新家さんからお願いできますか。
新家:はい。先ほど会社の都合で「これはやらなきゃいけない」という話をしていたんですけど、「じゃあ、実際個人がこれについて来られますか?」という話も考えないといけないと思っています。
我々の会社ができたのは2022年なんですけど、パナソニックの社内分社というかたちでうちの会社がありまして。ずっと「企業改革をやるぞ」ということで、企業改革を2017年から、7年間くらい取り組み始めております。
ビジネス改革や事業立地改革というのは、事業を研ぎ澄ませて、勝てるところで事業を行うっていうことで、いわゆる企業の事業戦略ということになります。
1階層目に「風土改革」があります。我々の会社ではカルチャー&マインド改革と呼んでいますけど、これを2017年から地道に取り組んできました。
なぜかというと、先ほど変革とか戦略と言いましたけど、戦略をやるにもマインドがついてこなかったら何も変わらないということで、マインドを変えることに注力してきました。
何を変えなきゃいけないのかっていうところで、もともとこのヒエラルキーで仕事をしていました。メーカーで良いものをより安く大量に作ることがミッションだったので、命令に従えということでこういうマネジメントをしていた。
縦割りで重たいカルチャーから、フラットで俊敏なカルチャーへ
新家:我々は今BtoBソリューションの事業を行っているんですが、偉い人もいわゆる一般の方も、一人ひとりがお客さまのところに行かなければいけないということで、この三角形の図のようにやっています。
我々の会社は松下幸之助さんという方が作りました。我々の会社も実はベンチャーだったので、創業の当初は「自由闊達にやろうよ」とか、「下意上達」なんていう言葉を使いながら、一人ひとりが自律的にやることが大事なんだと言っていました。
要は、カルチャー&マインド改革って、やはり一人ひとりの自律性を促すことが大事じゃないかなって思います。ということで、人事の方針を掲げなければいけないっていうことなんですけども。我々企業の目的って、やはり持続的に企業価値を上げ続けて成長して、それによって世の中に貢献していかなければいけない。
人事もここに集中しようということで、社員のことを「CONNECTer」と呼んで、一人ひとりが「thriving」と、意義ある仕事をして成長して活き活きしている状態を目指そうということで取り組んでいます。こうやって「一人ひとりが自律して活き活き働くことが大事だ」というメッセージを出しています。
実際、さっきのジョブ型雇用ということでいうと、こういったいわゆる事業戦略や要員計画によってポジションができて、そこに人がアサインされていくんですけど。一人ひとりがキャリアオーナーシップを持ってラーニングカルチャーをしっかり浸透させて、学びながら成長していくことを今、社員の方に求めています。
ここには表せていないんですけど、組織責任者の方がこれを支えていく。今まで人事権はあたかも人事が持っているように、いろいろ調整していたんですけど。これを職場の方に渡して、職場の長が悩みながら人事を行っている状態です。
経営層に問題意識を持ってもらうには
小林史明氏(以下、小林):ぜひ聞いてみたいことがあるんですけど、いいですか? どうやって経営層にこの問題意識を伝えて、この変革を行ったんでしょうか。私も人事の採用をやっていたんですが、人事の戦略を経営戦略に持ち上げるのは、けっこう大変じゃないですか。
新家:2023年の4月からこの変更を行ったんですけど、実は2021年の10月くらいから、毎月1回ある経営会議で小出しにこの考え方を擦り込んでいきました。大きな転換なので、いきなりこれを伝えると拒否反応が出てしまう。やはり一人ひとりの理解もなかなか追いつかないと思うので、少しずつ擦り込んでいきました。
昔、我々は昇格試験があったんですけど、「昇格試験をやめよう」というのが第一歩でした。そこから「じゃあ、次の月はまた違うテーマで」と言って、いつの間にか(経営層の意識が変わっていきました)。これがチェンジマネジメントと言うのかどうかわかりませんけど、やはり計画性を持って進めることが必要かなと思います。
「昇格試験」があるのは日本だけ
藤井:ありがとうございます。須田さんはどうですか?
須田敏子氏(以下、須田):確かに、昇格試験って日本だけですよね。(世界では)ジョブにアサインされたらそれが昇格ということなので、日本にいると当たり前だけど、世界に出たら「それ何?」となると思います。
こういったかたちで、パナソニック コネクトさんは全体的にエコシステムということでやっていらっしゃるわけですが、ジョブ型が入ると人的要件がすごく明確なので、キャリアルートが自分で作れるわけですね。すごく自律的な人材開発、人的資本開発ができるんです。
「10年後にこのポジションに就いていたいから、じゃあ、今これをやろう」とか、それで話し合いができるというわけです。なので、「今年はこの仕事をしよう。だからこの目標設定をしよう」ということで、上司と話し合いができる。
しかも人的要件とキャリアルートが上司と共有化されていますから、非常に納得性が高いわけですね。というわけで、評価や報酬の納得性はかなり上がるんじゃないかなと思います。自ら自律的にこちらの方向に行こうと思って決めているわけなので、キャリアオーナーシップは浸透するし、やらされているわけじゃないので、「これ、やりたいからやります」となる。
「市場に連動した給与の設定」で人材の流動性も高まる
須田:あと、報酬や等級なんかもジョブディスクリプションに連動しています。やはり見合った報酬をもらわないとやる気にならないので。しかも市場と賃金を連動したかたちでやっていらっしゃるわけですね。マーケットペイも、コロナの間で特に大企業を中心に急速に広がっていますから、これで外部公平性もばっちり上がるということですね。
と同時に、人的要件の内容を知っている、パフォーマンスを知っているのはやはり現場ですから、ライン管理者ががんばるということです。なので人事部門としては、全体的な戦略を考えるなど役割を変えてやっていくといいんじゃないかなと思います。
藤井:ありがとうございます。これに対してどうですか?
新家:「市場に連動して(給与を決める)というのがすごく大事だなと思っています。「このジョブディスクリプションを書いてみたけど、これでいいだろうか?」と、だんだん外を見るようになるんですね。
しかも、隣の職場で同じような仕事をしている人がいた時に、そこの長の人たちが「ちょっと集まって調整しようか」みたいになる。なので、ジョブディスクリプションがだんだん世の中(の市場)とピタッと合ってくる感じになります。
その定められたジョブディスクリプションを見ると、外部の人も入りやすくなるし、仕事がわかりやすくなるので、マーケットに準じた報酬になると思います。
さっき「人材流動性が少ない」と言ったんですけど、中に入ってくる流動性とか、逆に外に出ていく流動性も(高くなります)。人は出ていくんですけど、これはある意味トレードオフみたいなところがありますので、そういった人材流動性はどんどん増してくる予感がしています。実際、まだそんなに流動性が高いわけじゃないんですけど、そんな感じになっています。