Q. アジア東部の特産で、かつてヨーロッパの動物園との交換でつかわれていた生きものは何か?
A. 狸。
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ところで香川の県獣は鹿である。狸が候補にあがったのを、狸寝入り、狐狸妖怪ということから、イメージがわるいといって鹿にしたという。生息数からいえば猪でもよさそうだが、こちらも評判はかならずしもよくはない。
わたしは香川に来てから鹿を見たことがない。鳴き声も聞こえてこない。南のほうにいるのだろうか。猪はそのへんをウロついているし、狸は溜め糞を見かけることがあるし、たまに遭遇することもある。
いってみれば鹿も猪も害獣あつかいであるから、結局イメージはよくない気もする。それに、鹿といわれると、奈良と宮島の印象がつよい。屋島には四国の狸の総大将である太三郎ー『平成たぬき合戦ぽんぽこ』に出演経験ありーもいることだし、いっそ狸でよかったのではとおもってしまうが、こんなことをあとから書いても、なんの足しにもならない。
ところで、たぬきの肉はあまりうまくないとされているが、じっさいどうか知らない。イノシシについては、先日、たまたま捌いたばかりのウリボウの肉を調理して食べる機会があった。独特の香りがあり、味はすこし赤牛のようで、食感は牛スネのようでもあった。猪というのは要するにワイルドな豚なわけだけれど、じっさいに捌いて食べてみると、逆に豚肉の優秀さがきわ立つ。鴨を食べて鶏の優等生ぶりを再認識するようなものかとおもう。
巷では、雑食性のいきものの肉はあまりうまくなく、肉食よりは草食のほうがうまいとされている気味がある。魚の場合、フィッシュイーターでも肉はうまかったりするので、一概にはいえないものの、苔ばかり食べている鮎の味と香りは至高で、プランクトンばかり食べているアジやキビナゴの類は毎日食べてもあきない。
そうかんがえると、これだけうまい小魚を食べている青物も、やはりうまくてしかるべきであるような気もしてくる。カニを食べているタコはうまいし、甲殻類を好むマダイも美味である。肉食だろうがなんたろうが、あまり関係ないのかも。
つまるところ大切なのは鮮度である。なん度も書くが、この国の民には新鮮さに対して信仰にちかい感覚があり、生で食べられるレベルのものなら、なんでも尊いとおもいがちな節がある。わたしもそのクチである。
じっさいに釣って食べてみるとわかるとおり、釣りものの味というのは別格である。獲ったばかりの獣の肉も同様である。『サピエンス全史』によれば、狩猟採集は農耕にくらべてハッピーなので、そういうものを暮らしに適度にとりいれたほうが、ひょっとしたら行きやすくなるのかもわからない。
書いていうちに佐藤垢石の『たぬき汁』を再読したくなってきた。「あんたがたどこさ」でも、鉄砲で撃って、煮て、焼いて、食っているので、歴史に連なる意味でも、いちどは食してみたい。以上、連絡おわり。
P. S. 上記の手毬唄にでてくるのは仙波山の狸かとずっとおもっていたら、いましらべると船場山らしい。発祥には諸説あるようだ。
今度遭ったら捕獲するか。以上、連絡おわり。