何となく知ってはいるものの、実はよくわかっていない家電の機能はありませんか? この連載では家電ライター歴10年以上の筆者が実際に体験して「これはいい!」と思った、または興味を引かれた機能や構造を超簡単に説明。その機能や構造を搭載している製品も紹介するので、家電選びに役立つはずです。
今回は、オイルヒーターなどに使われている輻射熱について紹介します。
エアコン、電気ヒーター、オイルヒーターなどさまざまな暖房器具がありますが、人を温めたり部屋を暖めたりする方法が異なります。主な方法は「対流」「伝導」「輻射」の3つ。
空気自体を暖め、その空気を移動させることで熱を送る方法。エアコンやファンヒーターのようにファンなどの力を使って暖かい空気を送風する「強制対流」と、暖かい空気が自然に上昇する性質を利用した「自然対流」の2種類がありますが、一般的に対流タイプの暖房というと強制対流を利用したものを指します。
接触した物体を通じて熱を移動させる方法。人の身体に直接触れる床暖房やホットカーペット、カイロ、電気毛布などが熱伝導を利用した暖房器具です。
赤外線を介して伝わるエネルギー「輻射熱(放射熱)」のこと。空気を暖めるのではなく、「(赤外線が)物体に当たったときに熱を発生させる」性質が特徴です。
例としてわかりやすいのは、宇宙にある「太陽」。太陽と地球は1億5000万kmも離れているうえ、宇宙空間に空気はありません。このことから、暖められた空気が移動して熱が届くのではないことが理解できるでしょう。では、なぜ太陽の光で身体がポカポカと温かくなるのかというと、太陽から届けられる赤外線という目に見えない電磁波が人(物体)に当たり、物体の分子を震わせて熱を起こすのです。
真夏でもトンネルや木陰に入ると涼しく感じるのは、太陽の輻射熱(赤外線)がさえぎられ、身体に当たる量が減るため
ただし、輻射熱(赤外線)は「熱を持つ物」すべてから放射されています。体温がある人間や動物も然り。太陽のような高温のものだけが放射するわけではありません。
サーモグラフィーカメラは物体が放射している輻射熱(赤外線)を撮影しています。つまり、サーモ画像で色付いている部分は輻射熱を出しているということ
そのため、「対流」や「伝導」を使った暖房器具からも輻射熱(赤外線)は出ています。エアコンは「対流」、ホットカーペットは「伝導」、オイルヒーターは「輻射」と分類されるのは、メインで使われている暖め方に基づいていると考えればわかりやすいでしょう。
輻射熱(赤外線)をメインで使った暖房器具には、オイルヒーターやパネルヒーター、カーボンヒーターなどいろいろあります。それらがどのように暖めるのかを見てきましょう。なお、さまざまな種類があるので、今回は「輻射式暖房」と称します。
輻射式暖房には、部屋全体を暖めるものと、限られたエリアのみを暖める「スポット暖房」があります。スポット暖房は輻射熱を前方に放出する構造にすることで、暖める範囲を限定的にしたもの。カーボンヒーターやハロゲンヒーター、パネルヒーターなどが該当します。
スポット暖房はヒーターの前にいる人を暖めることを目的としているので、後方は暖まりにくく、複数人を同時に温めるのは不向き
いっぽう、部屋全体を暖めるタイプは全方位に輻射熱を放出します。オイルヒーターやオイルレスヒーター(ノンオイルヒーターなど呼び方はさまざま)が代表的。
デロンギのオイルヒーターやオイルを使わない「マルチダイナミックヒーター」で部屋を暖めた状況をサーモグラフィーカメラで撮影したもの。前方だけでなく、左右や後方も暖まっていることがわかります
そして、ヒーターから出た輻射熱が人だけでなく、壁や天井、床に伝わるのがポイント。ヒーターからの輻射熱で壁や天井、床を暖め、そこから出た輻射熱「二次的輻射熱」も人に届きます。
太陽からの輻射熱が地表を暖め、地表から二次的輻射熱が出ることで冬場の気温が低いときでもポカポカとした暖かさを感じられます。輻射式暖房も同じように二次的輻射を利用することで部屋全体をムラなく暖めます
壁や天井、床が暖まるまでに時間はかかりますが、じんわりと包み込むような暖かさが得られるのが輻射式暖房の魅力。また、真夏に太陽からの輻射熱で暖められたアスファルトから輻射熱が出ることで気温以上に体感温度が高くなるのと同様に、壁や天井、床からの二次輻射の効果で設定温度よりも温かく感じるほか、暖房を切った後も暖かさが持続します。
また、部屋全体に輻射熱を放出するとともに、発熱したヒーター周囲の空気も同時に暖められます。暖かい空気は上昇するため、暖気は天井に上昇。そこから部屋全体にゆっくり対流します 。これが、「自然対流」。ファンを使って送風する「強制対流」とは異なり、自然に対流するので風による不快感はありません。
部屋全体が暖まり、設定温度よりも温かく感じやすいなどのほかにも、輻射式暖房は「風」が出ないことによるメリットがあります。なかでも、空気や肌が乾燥しにくいのが大きなメリット。冬は空気が乾燥しがちですが、エアコンなどの強制対流タイプ暖房は風を発生させることで喉や肌の乾燥をさらに加速させます。喉が乾燥すると不快なイガイガ感や咳のほか、感染症にかかりやすくなるなど複数の問題が発生しがちですし、肌の乾燥は美容の大敵。乾燥により肌のバリア機能が低下すると、かゆみや赤みの原因になることもあります。
デロンギのオイルヒーターやオイルレスヒーターを使った場合のデータ。温風が出る暖房器具と比べ、水分量の損失が少ないことから部屋が乾燥しにくいことがわかります(左のグラフ)。また、肌の水分量にも大きな差が!(右のグラフ)
このほか、ホコリや花粉などが舞い上がりにくく、運転音が静かなのもいいところです。
デロンギのオイルヒーターやオイルレスヒーターと、電気ファンヒーターを使った際に部屋に浮遊するハウスダストを比較したもの
取材協力:デロンギ