スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、スマートフォンメーカーとして急成長するレノボを取り上げる。円安をものともしない格安の製品群に加えて、中国資本ながらNTTドコモへの製品供給も行っているなど、米中対立の政治状況をうまく立ち回っている。
レノボは、モトローラとFCNTという2種類のブランドを使い急成長を続けている。コスパのよいスマートフォンを供給するメーカーとして要注目の存在となってきた
2024年末に電気通信事業法のガイドライン改定がなされたことで、携帯4社が再びスマートフォンを大幅値引きする手法が再び封じられてしまった。そのいっぽうで円安は長期化の一途をたどっていることから、スマートフォン自体の価格が下がる見込みもきわめて薄い。
それゆえ2025年のスマートフォン市場は、2024年以上にいっそう冷え込み販売数が落ち込むことが予想される。だが、2024年の国内市場動向を振り返ると、2025年に大きな存在感を発揮する可能性が高いメーカーも出てきている。そのひとつが中国のレノボ・グループだ。
レノボ・グループといえばパソコンの世界的大手メーカーであり、国内でも「ThinkPad」「Yoga」「Legion」など複数シリーズのパソコンを提供していることで知られる。ただいっぽうで、国内でレノボ・グループのブランドを冠したスマートフォンが販売されているわけではなく、スマートフォンメーカーのイメージを持つ人は多くはないだろう。
だが、レノボ・グループはここ最近、国内のスマートフォン市場攻略に向け積極的な攻めの姿勢を見せ、存在感を急速に高めている。実際、IDC Japanが発表した2024年第3四半期の国内携帯電話・スマートフォン市場シェアを見ると、レノボ・グループが前年同期比で533.4%と劇的な成長を見せていることがわかる。
調査会社のIDC Japanが2024年12月5日に公表した、2024年第3四半期国内スマートフォン市場出荷台数・ベンダー別シェア。4位のレノボ・グループが、赤いアンダーラインをで示したところで500%超の急成長を見せていることがわかる
なぜ自社ブランドのスマートフォンを出していないのに、日本でレノボ・グループがそこまで急成長を遂げているのかというと、そこには2つの傘下企業が大きく影響している。1つは米国の老舗携帯電話メーカー、モトローラ・モビリティだ。
かつて折りたたみ携帯電話の「RAZR」シリーズなどで知られたモトローラ・モビリティは、2014年にレノボ・グループの傘下となっており、日本でも長きにわたって継続的に携帯電話やスマートフォンを提供してきた。ただ同社がレノボ・グループの傘下となって以降は、販売数が少ない家電量販店などのオープン市場向けに特化していたため大きな存在感を発揮できていなかった。
だが、2020年以降、同社はその方針を大きく転換して日本市場開拓を本格化。販売数が多い携帯電話会社向けの販路開拓を積極化するようになり、2021年に折りたたみスマートフォンの「motorola razr 5G」をソフトバンクに提供。それ以降、ソフトバンク向けの端末供給を拡大させている。
とりわけ2024年は、ローエンドの「moto g64y 5G」をワイモバイルブランドから販売しただけでなく、ミドルクラスの「motorola edge 50s pro」や折りたたみスマートフォンの最新モデル「motorola razr 50s」をソフトバンクブランドから販売。さらに折りたたみスマートフォンの最上位モデル「motorola razr 50 ultra」も、オンラインショップ限定ながらソフトバンクから販売し、フルラインアップ展開を実現しているのだ。
モトローラ・モビリティは2024年、従来供給できていなかったミドルクラスの「motorola edge 50s pro」を提供。ローエンドからハイエンドまでのフルラインアップをソフトバンクに供給したことになる
そこでモトローラ・モビリティは、新たな販路としてNTTドコモ向けの販路開拓を進めており、2024年12月19日にはNTTドコモから「motorola razr 50d M-51E」の販売にこぎつけている。こちらはソフトバンク向けの「motorola razr 50s」と同様、オープン市場向けに販売されている折りたたみスマートフォン「motorola razr 50」の兄弟モデルなのだが、本体や箱にサステナブルな素材を採用するなど、環境への配慮に重点を置いている点が特徴となっている。
モトローラ・モビリティは2024年、サステナビリティに注力した折りたたみスマートフォン「motorola razr 50d M-51E」を供給し、販路をNTTドコモにも拡大している。なお、NTTドコモのモトローラ製端末は18年ぶり
そしてもう1社、国内ではモトローラ・モビリティより大きな影響を与えているのがFCNTである。富士通からスピンアウトした老舗の国内スマートフォンメーカーだった旧FCNTは、円安などの影響が直撃して2023に経営破綻。その後レノボ・グループが事業を承継し、2024年にはレノボ・グループ傘下企業として復活を果たしている。
そのFCNTは国内市場で大きく2つの強みを持っている。ひとつは富士通時代から培ってきた「arrows」「らくらく」といったブランドを保有していることだ。なかでもarrowsブランドは、高いところから落としても壊れない、ハンドソープでも洗えるなど堅牢かつ安心して利用できるイメージが定着しており、折りたたみスマートフォンなどの先進性が目立つモトローラ・モビリティとはまったく異なるユーザー層にアピールできるのが強みだ。
FCNTの「arrows」シリーズは堅牢かつ安心して利用できることに注力しており、最新の「arrows We2」シリーズはいずれもハンドソープで洗うことなどが可能だ
そしてもうひとつの「らくらく」ブランドも、国内で長く定着し、シニアから非常に高い支持を得ている同社の主力シリーズとなっている。そうしたことから新生FCNTでは、新機種としてNTTドコモ向けの「らくらくスマートフォン F-53E」に加え、新たにソフトバンクのワイモバイルブランド向けとなる「らくらくスマートフォン a」、そしてオープン市場向けの「らくらくスマートフォン Lite」と3つのモデルを用意、販路拡大を推し進めている。
シニア向けの「らくらく」シリーズは新生FCNTで強化が図られており、NTTドコモ向けの「らくらくスマートフォン F-53E」に加え、新たにワイモバイル向けの「らくらくスマートフォン a」も提供されている
もうひとつ、FCNTの強みとなるのは携帯電話会社との太いパイプを持っていることだ。同社は実質的に国内専業のメーカーとなっていただけあって、長年に渡りNTTドコモを中心とした携帯電話会社向けの販路を獲得しており、そうした点でもモトローラ・モビリティとは異なる特徴を持ち合わせていることがわかる。
そして中国外の企業を傘下に収めて市場開拓を進めるという手法は、ある意味で非常にレノボ・グループらしいものでもある。実際パソコンにおいても、レノボ・グループは米IBMのパソコン事業を買収してThinkPadなどのブランドを継承したほか、日本電気(NEC)や富士通のパソコン事業を買収して傘下に収め、日本ではそれらブランドや傘下企業を通じてシェアを拡大してきた経緯がある。
その手法はスマートフォンでも生かされている。たとえば、携帯大手の一角を占めるNTTドコモは、日本電信電話(NTT)の完全子会社となって以降、政治的影響もあってか中国メーカーからの端末調達を避けており、2025年1月現在もNTTドコモは、他社が販売しているオッポやシャオミなどの中国メーカー製スマートフォンを販売していない。
だが、NTTドコモは2024年、モトローラ・モビリティやFCNTからの端末供給を受けている。両社は中国企業の傘下ではあるものの、企業自体は米国、そして日本にあることから製品を採用するにいたったと見られており、傘下企業を通じて政治的影響を回避し、柔軟に販路開拓を進められる点は、今後日本市場におけるレノボ・グループの大きな強みとなる可能性が高い。
NTTドコモは中国企業であるレノボ・グループの傘下となって以降もFCNTとのパートナーシップを継続しており、モトローラ・モビリティからの端末調達も実施している
さらに付け加えるならば、レノボ・グループ傘下の2社はともに国内でローエンドのスマートフォンの販売にも力を入れている点で共通している。ローエンドの端末は低価格で販売数を大きく伸ばしやすいので、メーカーのシェア拡大につながりやすい。だがいっぽうで、非常に利益が出しづらいことから、円安が長期化している現在では提供するメーカー自体が減少傾向にある。
だが2社はレノボ・グループのスケールメリットを生かし、2024年にローエンドスマートフォンの新機種を相次いで投入、ローエンドモデルの投入には前向きな姿勢を見せている。それに加えて携帯大手向けの販路を着実に開拓していることを考えると、今後2社の合算によってレノボ・グループの国内シェアが大きく高まる可能性が高いと見ることができる訳だ。
モトローラ・モビリティは2024年にも、ワイモバイル向けの「moto g64y 5G」などローエンドモデルを積極投入。FCNTの「arrows We2」と合わせてレノボ・グループのシェア拡大に大きく貢献したと見られている
それだけに2025年、国内市場でレノボ・グループ、ひいては傘下2社の動きは大いに注目されることになるだろうし、それら2社に競合がどう対抗するのかも関心を呼ぶところだろう。市場の冷え込みで盛り上がりが期待できない2025年のスマートフォン市場だが、メーカー同士の熱い戦いには期待したいところだ。