シャープのハイエンドスマートフォン「AQUOS R9 pro」がNTTドコモおよびオープンマーケットを通じて順次販売が始まった。注目のカメラに加えて、その実力に迫った。
シャープ「AQUOS R9 pro SH-54E」(NTTドコモ版)、2024年12月5日発売、NTTドコモ直販サイトの税込価格は211,970円
シャープのスマートフォン「AQUOS」の最上位となる「AQUOS R pro」シリーズ。毎年、初夏に最新モデルが発売されていたが、2024年は半年ほど遅れた12月に「AQUOS R9 pro」が発売された。販路は、NTTドコモに加えて一般流通の2系統で、古くからシャープと関係の深いソフトバンクからは発売されない。なお、auでは、一般流通モデル「SH-M30」をau +1 collectionとして発売する。
そんな「AQUOS R9 pro」は、ボディを見れば一目瞭然、カメラ機能に注力した製品だ。背面には、円形で大きくカメラ部分がデザインされており、一眼カメラの レンズマウントを意識させる。また、側面にシャッターボタンを搭載しており、操作性もよりカメラらしくなった。
背面のカメラ部分の盛り上がりは高い。別売りのアダプターを装着すればカメラ用のレンズフィルターを装着できる
側面にシャッターボタンを搭載。なお、ボリュームボタンはカメラの焦点距離または明るさの調整に利用できる
USB Type-CポートはUSB 3.2規格に対応。DPオルターネートモードの映像出力も確認できた
スマートフォンとしてみると、3120×1440のQHD+表示に対応する約6.7インチの大型有機ELディスプレイを備え、サイズも約78(幅)×162(高さ)×9.3(厚さ)mm、重量約229gとなかなかの大型である。シャープ製ということでボディの機能性も高く、「おサイフケータイ」やIP6Xの防塵仕様、IPX5/8の防水仕様に対応。アルコールを含んだシートでボディを拭くこともできる。
ボディはアルコールを含んだシートで拭くこともできる
大画面かつ高解像度のディスプレイ。ただし、通常のアプリではフルHD+表示にとどめているようだ
ディスプレイは1コマごとに黒い画面を差し込む残像低減機能付きの240Hz駆動に対応。ピーク輝度は2000nitsと高く、HDR10やDolbyVisionに対応している。サウンド性能にもこだわりが感じられ、ボックス構造のスピーカーモジュールを採用し、さらにレシーバー側のスピーカーはフルメタル素材にするなど音質の強化が図られている。そのいっぽう、イヤホンジャックは非搭載になった。
本機最大のポイントであるカメラを見てみよう。メインカメラは広角カメラ(35mm換算の焦点距離13mm、以下同)、標準カメラ(焦点距離23mm)、望遠カメラ(焦点距離65mm)のトリプルカメラ。いずれも画素数は約5030万画素で統一されている。標準カメラは1/0.98インチの1インチ以上となる大型イメージセンサーがポイント。また、ホワイトバランスをより正確に計測する14chスペクトルセンサーを前モデル「AQUOS R8 pro」から継承している。
先に触れたようにシャッターボタンを搭載しており、長押しすればカメラの起動が、半押しでフォーカスロックが可能など操作性は高い。また、ボリュームボタンを使ったズーム操作も可能。基本的な操作ならボタンだけで完結できるようになっている。
ライカ監修のカメラを搭載。独特のバランスで各カメラやセンサー、LEDフラッシュを配置しており、デザイン上の個性となっている
以下に静止画の作例を掲載する。シャッターを押すだけのカメラ任せで撮影を行っている
ライオン像にピントを合わせて背景をぼかした。ポートレートモードを使わなくても比較的大きな背景ぼけが得られる
暗めの室内だが、明るく鮮明に写る。ホワイトバランスも正確で肉眼の印象に近い
逆光の日中の風景を撮影。HDRも自然で、暗部の潰れも抑えられている、逆光耐性も十分だ。石畳の解像感も良好
上と同じ構図を、広角カメラに切り替えて撮影。視野角が約122度なので、かなり広い範囲が構図に収まる
体育館の屋根を3倍のズームで撮影 。中望遠になるがズームらしい構図の撮影は可能だ
明暗差のある構図だが、暗部のノイズの少なさと、明るい屋内の解像感が両立されている。手ぶれ耐性も高い
上と同じ構図を広角カメラで撮影。広角カメラが苦手な構図周辺まで画質が保たれている
さらに望遠カメラに切り替えて撮影 。光学式手ブレ補正機構を備えており手ブレ耐性も高いようだ
カメラを重視した製品だけあり、画質のレベルは総じて高い。全般の傾向としてノイズを抑えつつ解像感も保たれており、ヌケがよくコントラストも高い写真が手軽に撮れる。オートフォーカスも構図の周辺部分まで正確で、顔AFや瞳AFまで利用できる。シャッターボタンの半押しや、ボリュームボタンを使ったズーム操作が可能、レスポンスもすぐれているなど操作性が全般的に一眼カメラや高級コンデジに近づけようとしているようだ。
いっぽうで、連写性能は高くない。ポートレートなど1枚1枚をじっくり撮ることを狙っているようだ。スポーツ写真や動きの激しい動物など連写性能が必要な場合や本格的なマクロ撮影を楽しみたいなら「Xperia 1 VI」のほうが適している。また、望遠撮影についてもサムスンの「Galaxy S24 Ultra」やシャオミ「Xiaomi 14 Ultra」のような100mm以上(約5倍) の光学ズーム撮影には対応しない。本機のようなカメラを重視したハイエンドスマートフォンの集団 になると、“どれがきれいか?”よりも “何をどう撮るか?”といった撮影スタイルで選んだほうが納得できる結果になるだろう。
使用されるSoCは「Snapdragon 8s Gen 3」。メモリーは12GB、ストレージは512GBで、microSDメモリーカードスロットは搭載されない。OSは、Android 14で最大3回のOSバージョンアップと、5年のセキュリティアップデートを予告している。
SoCの「Snapdragon 8s Gen 3」は、「Snapdragon 8 Gen 3」の廉価版にあたる。シャープがこのSoCを採用した理由として、カメラで重要な画像処理プロセッサー「ISP」の性能については上位版と同じ性能であることあげている。カメラスマホとしては申し分のないSoCだが、スマートフォンとして使った場合の性能がどれほどなのかは気になるところだ。
いくつかのベンチマークテストを試した。まず定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク」の結果は1479086だった。なお、「Snapdragon 8 Gen 3」を搭載するゲーミングスマホ「REDMAGIC 9 Pro」のスコアは2111462なので、3割ほど低いスコアとなった。
左が本機、右は「Snapdragon 8 Gen 3」を搭載する「REDMAGIC 9 Pro」のもの。サブスコアも含めて違いは大きく、特にグラフィック性能を示す「GPU」のスコアは「REDMAGIC 9 Pro」の約半分である
なお、グラフィック性能に特化したベンチマークアプリ「3DMark(Wild Life Extreme)」の結果は3202となっており、「Snapdragon 8 Gen 3」を備える「REDMAGIC 9 Pro」のスコア5437と比べると見劣りする。
「3DMark(Wild Life Extreme)」の結果。左が本機、右は「REDMAGIC 9 Pro」のもの。以外と大きな差となった
日常の操作では「AQUOS R9 Pro」は文句なくスムーズ。しかし、負荷の大きいゲームを試すと「Snapdragon 8 Gen 3」搭載機よりもフレームレートの低下が現れやすく、上記のベンチマークテストの結果を裏付けることになった。
本機は20万円クラスのハイエンドスマートフォンとしては、重量級3Dゲームの適性はそこまで高くない。ゲームもある程度したい場合、そこは把握しておきたい。
ハイエンドスマートフォン のトレンドのひとつに、生成AIの積極的な導入がある。本機も生成AI機能が導入されており、通話機能の周辺やカメラの画像の編集で使われている。
通話機能におけるAIは、音声通話を文字に起こしその内容を備忘録としてまとめることができる。また、カメラ機能においては、ホワイトバランスの調整や、動画撮影時の手ブレ補正にも使われている。撮影した映像に関しても、影を消したり、背景に写った通行人を認識して消去できる。このほかに、料理に映り込んだ影を消すこともできる。
映り込んだ人を消去したうえで、生成AIで背景を補完できる
音声通話の内容を要約してテキスト化する機能を備える
バッテリーの容量は5000mAh。連続通話時間は約3000分で、連続待ち受け時間は約600時間となっている。なお、前モデル「AQUOS R8 pro」の連続通話時間は約3550分、連続待ち受け時間は約680時間だったので、電池持ちは数値上低下している。実際にしばらく使ってみたが、1日に3〜4時間ほどのペースで使うと、24〜36時間でバッテリーがほぼゼロになる。
また、ハイエンドスマートフォンでありがちな、待機状態でもバッテリーの消費が多い傾向が見られる。利用ペースを問わず、1日に1回は充電したほうが無難そうだ。1泊の旅行でも充電器かモバイルバッテリーは用意したい。
なお、充電性能だが出力27Wのシャープ製充電器「SH-AC05」を使用した場合で約140分、出力45WのNTTドコモ製「ACアダプタ 08」なら約120分で充電が可能だ。近ごろの海外メーカー製スマートフォンだと1時間程度、高速なものなら20分くらいでフル充電が可能だが、本機は急速充電にそこまでこだわっていないようだ。なお、Qi規格のワイヤレス充電に対応している。
65Wの充電器を使用したところ。最大時でも30W前後で給電されており、出力30WのUSB PD充電器があれば十分そうだ。ディスプレイ中央の黄色い文字が給電中の出力を示している
高価なハイエンドスマートフォンを選ぶ場合、はっきりとした目的が必要になる。
目的のひとつはグラフィック性能が必須のゲーム用途。生成AI機能も近ごろハイエンドスマートフォンの目玉機能として注目されている。そして本機の重視するこだわり抜いたカメラの性能もハイエンドスマートフォンならではだろう。
しかしカメラ性能と言っても各社のレベルが向上し、画質の優劣は以前よりも付けにくい。本機は大型のイメージセンサーを使った光学的な余裕がもたらす低ノイズやコントラストといったいわゆる画質に加えて、ポートレート撮影に向いた中望遠カメラを備えている点、そして新たに搭載されたシャッターボタンによるカメラに近い操作性が魅力だ。ポートレートや風景、料理など日常をていねいに写すことを想定していると判断できる。
カメラと同じように、スマートフォンのカメラも“何をどのように撮影するか”という撮影スタイルで選ぶ時代が近づいているのかもしれない。