「私」の生まれ故郷の島では、十八歳になると連れて行かれる場所があった。遠くの海で起きた地震で始まる物語は、どことなく不吉な空気が漂います。「私」の息子が生まれるまでの三分間。産婦人科のロビーで思い出す、かつて故郷で見たもの。何度読んでも、上手く言葉にできない、しかし強烈な印象を残す物語です。
カップラーメンを作っているのと同じ時間。私たちが無為に過ごしてしまうこの時間の中でこの世界のどこかで生命の営みが完結する。生命の儚さをここみ見た気がして感銘を受けました。
カップラーメンが出来る時間、巨人の活動時間。それらに共通するのは、ほんの短い「三分間」。そんな僅かな時間の中で、主人公が経験したのは神秘的で不気味で奇妙で、そして儚げにも感じてしまう出来事。ほんの少し「常識」から足を踏み外したような時間を共に味わう事が出来るだろう、不思議な短編です。きっとあの生物は、人間の物差しでは計り知れない世界で生き続けているのかもしれないですね……。
我が子の誕生、遠くの地震に揺り起こされ、蘇るあの島での一夜。ごく短い小説ですが、幽玄な世界に引き込まれる力がありました。
寿命とはそもそもなんだろうか。そんな問いが胸に去来する良作ショートショート。 三分間というごくごく短い時間で生命のサイクルを繰り返す不思議ないきもの。たった三分間の生の中にも、子孫を残すために生殖を選ぶもの、生殖をあきらめ、世界を亡羊と俯瞰するものがいる。不可思議ないきものの不可思議な世界、彼らはいったい、なにをみているのだろうか。 作品のテーマが持つ「ふしぎ」さを、柔らかで暖かさのある軽妙な文体で描写した今作、ふしぎな魅力のつまった作品です。
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