世界第2位の経済大国であり、日本にとって最大の貿易相手国である隣人・中国について知ることは、これからの日本の活路を考える上で欠かせない。三国志好きの新聞記者が、ゆかりの史跡・名勝、緊張走る国境地帯や新疆ウイグル自治区などを歩く。渾身のルポルタージュから見えてきた現代中国の深部とは——
※本稿は『三国志を歩く 中国を知る』(坂本信博著、西日本新聞社)より一部抜粋・再編集したものです。
>>前編「『ウイグル不妊強制か』のスクープ誕生秘話!記者に取材の糸口を与えてくれた意外な人物とは【前編】」から読む
不妊手術は18倍以上に急増していた
入力したデータを解析して、驚いた。不妊処置の件数が、明らかに不自然な増加を続けていたからだ。
2014~2018年に、新疆の不妊手術件数が18.8倍に増え、計10万人もの住民が手術を受けていた。中絶件数は延べ43万件を超え、IUDを装着した女性は2017年時点で312万人に上る。この時期に、中国当局によるウイグル族らへの抑圧政策が強まったという指摘と符合する。そしてその結果、新疆の出生率が明らかに急減していることが浮かび上がってきた。
【新疆ウイグル自治区での不妊手術】
2014年 3214件
2016年 6823件
2017年 20367件
2018年 60440件
【新疆ウイグル自治区でのIUD装着手術件数】
2016年 246778件
2018年 328475件
入力したデータが間違っているのではないか…。何度も確認した。間違っていない。さらに、新疆以外の他の省や自治区と比較しても、中国全体の傾向と逆行していることが分かった。
少子高齢化が進む中国では、1979年から続いた産児制限「一人っ子政策」が2015年で終了。都市部で2人、農村部は3人までの出産が認められるようになり、中国全体では2016年以降、不妊手術やIUD装着手術が急減していた。しかし、新疆では逆に不妊手術が中国国内でも突出して増えていたのだ。
入手・分析した統計年鑑に、漢族やウイグル族など民族別の統計データは公開されていなかった。ただ、新疆の統計年鑑には地域別統計が収録されていた。2018年時点で不妊手術を受けた人の99%、IUD装着者の63%が、ウイグル族が住民の8~9割を占めるホータン、カシュガル、アクスの3地域に集中していた。
不妊処置急増の一方で、新疆の出生率(人口千人当たりの出生数)は激減していた。21世紀に入って15~16前後で推移しており、2017年に15.88だったのが、2018年には10.69に急減し、中国の全国平均(10.94)を初めて下回った。
さらに2021年には6.16(同年の全国平均は7.52)に下落。記録が公表されている1978年以降で最低となり、4年間で3分の1近くに減ってしまったのだ。出生率の激減は、明らかに不妊処置の急増に伴うものだろう。