地球温暖化によって生態系や人間社会にさまざまな影響が生じ始めているなか、気候変動の先に待ち受ける危機的な未来に対して、企業は組織として何を選択し、どのように行動すべきか。IPCCの最新の報告書の内容を踏まえながら、東京大学教授の江守正多氏が解説する。
人間の影響による温暖化には疑う余地がない
人間活動によりCO2やメタンなどの温室効果ガスが大気中に増え、赤外線が宇宙に放出されにくくなって地表付近の温度が上昇しています。これが地球温暖化です。このメカニズムは科学的に明らかになっています。
しかし、最近の気温上昇が本当に人間活動による温暖化だといえるのか。IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)は最新の報告書で、「人間の影響による温暖化には疑う余地がない」との結論を出しました。自然要因だけでは現在のような気候変動は起きないことが、コンピューターによるシミュレーションで明らかになったのです(下図)。
また、何も対策をしないと、2100年までに世界平均気温は、産業革命前を基準に5℃上昇するというシミュレーション結果があります(下図)。場所によって上昇度合いは異なり、特に北極海や北半球の高緯度帯では雪や氷が減ることで温度上昇が増幅されます。陸上の氷の減少と海水の熱膨張により地球規模の海面上昇が進みます。海面上昇は数百年から数千年にわたって続くとされており、最悪の場合、2300年頃には7~15m上昇する可能性も排除できません。
こうした気候変動によって、洪水、水不足、森林火災などの影響が出始めていますが、ここで私たちが注視しなければならないのは、「原因に責任のない人たちが、深刻な被害を受ける」という事実です。
温室効果ガスの排出量が少ない開発途上国ほど、気候変動の影響をより大きく受ける傾向があります。また、将来世代の人ほど深刻な被害を受けます。温室効果ガス排出に大きく関わってきた先進国の企業組織は、このような「不公平・不正義な構造」に向き合い、気候変動への対策を講じていく責務があるといえるでしょう。