2013年の時点で、エクササイズや歩数を追跡したいと思った人は、おそらくFitbitやJawbone、Nikeのリストバンドを手首に装着していただろう。それから10年以上が経過した今、ウェアラブルテクノロジーの世界は大きく様変わりしている。
「Apple Watch」が登場するずっと前から私たちの手首を飾っていた、シンプルで画面のないフィットネスバンドは見かけなくなった。フィットネストラッキング業界を支配していた初期のメーカーの多くは、スマートウォッチに焦点を移したり、スマートウォッチを手掛ける大手企業に買収されたりした。ウェアラブルデバイス市場から完全に撤退した企業もある。今日存在するフィットネスバンドはスマートウォッチの特徴をおおむね取り入れており、カラフルな画面に着信通知や通話、アラートを表示できるようになっている。
しかし、シンプルなフィットネストラッカーが復活しようとしていると言ったら、皆さんはどう思うだろうか。
2024年、画面のないスタイリッシュなヘルストラッキングデバイスが注目を集めているが、その形は大きく異なっている。スマートリングだ。サムスンは、1月の製品発表イベント「Unpacked」と先週開催された「Mobile World Congress」(MWC)で「Galaxy Ring」を披露し、メディアをにぎわせた。Galaxy Ringはアクティビティや健康状態、睡眠を監視する新しいデバイスで、2024年中に発売される予定だ。これは、心拍数の追跡から、小型の電話機や自動車のデジタルキーの役割まで、あらゆることができる今日のスマートウォッチと違って、主に独立したヘルストラッカーとして機能するデバイスというアイデアに価値があることを示す新たな兆候でもある。
サムスンは決してスマートリングを発売した最初の企業ではない。この分野を切り開いたのは、初期に参入したOuraのような企業だ。しかし、中国のテクノロジーメーカーである栄耀(HONOR)もスマートリングの開発に取り組んでいる、とCNBCは報じている。Bloombergによると、Appleもスマートリングのアイデアを試しているとのことから、宝飾品の姿をしたこうした小型フィットネスモニターに対して、これまで以上に大きな注目が集まっている。
基本的なレベルでは、フィットネスバンドとスマートリングは同じ目的を果たす。「Ouraリング」「Evie Ring」「Ultrahuman Ring AIR」などのデバイスは、ユーザーのアクティビティや睡眠、全体的な健康状態に関する指標を提供することを目的としている。
筆者がこの数週間装着しているOuraリングには、「コンディションスコア」という機能があり、ハードなエクササイズに耐えられるだけの休息を取れているのか、それとも、無理しないほうがいいのかが分かるようになっている。Evie Ringは、女性の健康を念頭に置いて作られており、生理周期の記録に加えて、睡眠や歩数、血中酸素濃度、心拍数を検出することができる。Ultrahuman Ring AIRは身体の信号と睡眠を測定し、健康に関するヒントと情報を教えてくれる。
Galaxy Ringについて現在判明している情報を基に考えると、サムスンも同様のアプローチを採用するようだ。Galaxy Ringは、サムスンの新機能「My Vitality Score」をサポートする。My Vitality Scoreは、Ouraのコンディションスコアと同様、複数の指標を結びつけ、睡眠や活動といった要素に基づき、ユーザーの現在の体調について総合的な情報を示してくれる機能だ。
それでは、このようなリングとフィットネスバンドには、どのような共通点があるのだろうか。まず、どの製品も、スマートフォンで受信した通知やメッセージを転送するといった「スマート」機能はあまり重視していない。スマートリングはまた、10年前の控えめなフィットネスバンドのように、どのような装いにもスマートウォッチよりも自然に溶け込む。平均的な結婚指輪に比べると、少し大きくてゴツゴツしているかもしれないが、基本的には普通の装飾品のような見た目だ。
こう聞くと、「Jawbone UP」や「MISFIT SHINE」といった初期のフィットネスストラップによく似ている。今日のスマートリングと同様、こうした過去のフィットネスバンドも、ディスプレイがない控えめな見た目で、主にフィットネスと睡眠の追跡を目的としていた。
米CNETの元シニアライターBrian Bennett氏は、2012年に執筆したJawbone UPのレビュー記事の中で、「Jawbone UPは、24時間365日装着できるデザインで、ユーザーの健康状態を細かく視覚化し、もっと身体を動かすよう促すことを目的としている」とつづっている。この説明は、Ouraリングにも容易に当てはまる。
2013年にMISFIT SHINEをテストした米CNETのScott Stein記者は、「たまたまユーザーの動きを追跡する機能も備えた装飾品」と評している。この表現もOuraのようなスマートリングに当てはめることが可能だが、今日のスマートリングは歩数だけでなく、それ以外にもさまざまなデータを追跡できる。
スマートリングとフィットネスバンドのターゲットユーザーには明らかに重複している部分もあるが、両者には、重要な違いがいくつかある。1つは、最新のスマートリングは、体温や血中酸素濃度など、過去の低価格のフィットネスバンドには存在しなかったさまざまな指標を測定できる、という点だ。
そしてそれは、両者のユースケースにいくつかの違いがあることを意味する。スマートリングもフィットネスバンドもエクササイズの測定はできる。だが、市場調査会社Forresterでバイスプレジデント兼アナリストを務めるThomas Husson氏によると、スマートリングは健康指標を受動的に監視することを重視する傾向があるのに対し、フィットネスバンドはエクササイズの記録の方に重点を置いているという。
スマートリングに関して、Husson氏は「スマートリングのユーザーは、おそらくデジタルの自分自身にもう少し興味がある人なのだろう。自分の心拍数や睡眠パターンに注意していて、そうした数値について毎日安心感を得なければ気が済まないという人たちだ」と語った。
上記で紹介した例とは異なり、多くのフィットネスバンド、特に最近のモデルにはディスプレイも付いている。「Fitbit Flex」でさえ、非常に小さなディスプレイが付いており目標への進捗状況を確認することができたが、今の「Fitbit Charge 6」に付いている明るくてカラフルなタッチスクリーンとは大違いだ。また、フィットネスバンドは一般にスマートウォッチの低価格の代替品とみなされているのに対し、スマートリングはスマートウォッチとほぼ同じ価格帯であり、一部のスマートウォッチよりも高価な製品もある。例えば、Ouraリングは299ドル(約4万4700円)から、Evie Ringは269ドル(約4万400円)からとなっているのに対し、「Apple Watch SE」は249ドル(日本では税込3万4800円)で購入できる。しかも、Ouraリングの価格に、月額6ドル(日本では税込999円)のサブスクリプションサービスの料金は含まれていない。第3世代Ouraリングのほとんどの機能を利用するには、このサブスクリプションサービスが必要だ。
ディスプレイのないフィットネスバンドは希少な製品となっているが、完全に姿を消したわけではない。フィットネスコーチングバンドの「WHOOP」もその1つだ。こちらは回復と疲労の測定に特化した製品で、24カ月で399ドル(約6万円)、または1年間で239ドル(約3万5900円)という高額なサブスクリプション料金が必要だ。
しかし、今日のスマートリング市場が10年前のフィットネスバンド市場によく似ていることを忘れてはならない。Nikeを別にすれば、2010年代初頭のフィットネスバンド市場をけん引していたのは主にJawboneやMISFIT、Fitbitといった小規模でニッチなブランドだったが、最終的には、Microsoftやサムスンなどの大手ブランドも独自のリストバンドを発売するに至っている。
現在、スマートリングに関して最もよく話題に上るのは、OuraやMovano Health(Evie Ringの開発元)、Ultrahuman、Circularだ。サムスンは今回、家電業界の有名企業として初めてスマートリング市場に正式参入した。
フィットネスバンドは10年前にウェアラブルデバイスがブームとなるのに一役買ったかもしれないが、その後はスマートウォッチの陰に隠れてしまっている。市場調査会社のCanalysによると、より低価格の腕時計やスマートウォッチの人気が高まる中で、シンプルなフィットネスバンドがウェアラブルバンドの出荷台数に占める割合は、2027年までに、わずか12%まで減少する見通しだという。
International Data Corporation(IDC)のリサーチディレクターRamon Llamas氏によると、IDCのデータもフィットネスバンドの売り上げが減少していることを示唆しているという。米国におけるフィットネスバンドの出荷台数は、2015年には1400万台あったと推定されているが、現在その数は約200万~250万台にまで落ち込んでいるそうだ。
手首に装着するガジェットとしてスマートウォッチが人気を得たのには、単純な理由がある。皆、単純に、デバイスに多くの機能を求めているのだ。そして、この10年間のテクノロジーの進化に伴って、スマートウォッチはまさにそうしたニーズに対応できるようになった。
「Apple Watchや(Googleの)『Wear OS』を搭載する多くのスマートウォッチ、その他いろいろなスマートウォッチが成功したことからも分かるように、人はそうしたデバイスを使って、音楽再生の操作、通知の受信、スマートホームへのアクセスといったことをしたがっている。そして、それらはにわかに、単なるスマートウォッチではなくデジタルアシスタントのような存在になった」とLlamas氏は話している。
そうなると、明らかにスマートウォッチが優勢な既存の市場で、果たしてスマートリングに見込みがあるのかという疑問が湧いてくる。健康とウェルネスに対する関心の高まりが、スマートリングに有利に働くかもしれない。2010年代の前半には、歩数や健康指標を追跡するという考え方はまだ新しく、ほとんどの人になじみがなかった。
だが2024年の今、ユーザーは健康志向の製品に対する出費に積極的だ。McKinsey & Companyのレポートでも、米国のウェルネス市場は4800億ドル(約72兆円)規模であり、年間5~10%の成長率と推定されている。同レポートによると、クラブのメンバー加入、レッスン、ウェアラブルデバイスを含むフィットネスへの支出が、ウェルネス分野での上位の支出カテゴリーになっているという。
いずれにしても確実なのは、スマートリングが勢いづいているということだ。そして、フィットネストラッカーの市場に、スマートリングが躍進する大きな余地が残されているのは間違いない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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