本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、日本テラデータ 代表取締役社長の大澤毅氏と、アドビ 代表取締役社長の中井陽子氏の「明言」を紹介する。
「データ基盤として競合他社との一番の違いはハイブリッド環境で利用できることだ」
(日本テラデータ 代表取締役社長の大澤毅氏)
日本テラデータ 代表取締役社長の大澤毅氏
米Teradataの日本法人である日本テラデータの代表取締役社長に10月20日に就任した大澤氏は、同社が先頃開いた事業戦略説明会の質疑応答で、同社のソリューションについて競合他社との一番の違いを聞いた筆者の質問に対して上記のように答えた。同社では以前から強調している差別化ポイントだが、新社長としてあらためて語気強く答えたのが印象的だったので、明言として取り上げた。
会見での事業戦略を中心とした話については関連記事をご覧いただくとして、大澤氏の社長としてのメディアへのお披露目の場でもあったので、ここでは同氏の発言に注目したい。
まず、大澤氏は自身のプロフィールについて、「千葉県出身。新卒で現在のNECプラットフォームに入社し、その後、大手システムインテグレーター、外資系ITベンダーでマネジメントや新規事業の立ち上げに携わり、IT業界で25年以上のキャリアを持つ。直近では、Clouderaの社長執行役員を務め、年間経常収益(ARR)を2倍以上に伸ばすとともに、働きがいのある職場づくりに注力した」と紹介した。
また、仕事においていつも大切にしていることとして、「自分たちがやっていることが会社にとって重要なものか、またその役割で学べるものがあるか」「自分たちがやることがお客さまにとって正しいものか」「自分たちがレガシーを築くことができるか」といった3つを挙げた。
自らのリーダーシップスタイルについては、「トップダウンで仕事を進めるのではなく、仲間たちと一緒に事業を創り出す」とのことで、「まずは自分自身が走り出す。その後、ファーストフォロワーになってくれる人を見つけることで、組織としての価値を生み出していける」と説明を加えた。
日本テラデータの社長に就いた理由としては、「AIの活用が活発化する中で、AIを生かすデータが企業競争力の源泉になる」「日本テラデータのお客さまやパートナーには日本を代表する企業が多く、一緒に日本全体の変革を進めていきたい」「日本テラデータは外資系企業だが、前身が(日本で上場会社だった)日本NCRという歴史的な経緯もあって日本独自でさまざまな取り組みができる」といった点を挙げた。
Teradataはデータウェアハウス分野の老舗ベンダーだが、今では「ハイブリッドクラウド・データ分析プラットフォーム」を前面に押し出している。大澤氏はそうしたTeradataの強みについて、図1に示すように10点を挙げた。
(図1)Teradataの強み(出典:日本テラデータの会見資料)
これを踏まえた上で、筆者は会見の質疑応答で「この分野はクラウドベースの新興勢力が勢いづいているようだが、Teradataとして今後、新規顧客を獲得していく上でそうした競合他社とどう差別化を図っていくのか。その最大のアピールポイントは何か」と聞いた。
すると、大澤氏は次のように答えた。
「データ基盤として競合他社との一番の違いは、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境で利用できることだ。多くの企業は重要なデータをオンプレミスで自ら管理していることから、クラウドだけではそうしたデータを活用できない。また、AIの活用もクラウドだけでなく、オンプレミスで動かせるほうが効果的だ。なぜならば、AIには大量のデータを読み込ませなければならないが、そうした作業はオンプレミスで行ったほうがコストを抑えることができるからだ。AIにデータをどんどん読み込ませて賢くするためには、オンプレミスを効果的に利用するのが得策だ」
冒頭の発言は、このコメントから抜粋したものである。筆者もAI活用はクラウドが前提になると思っていたので、大澤氏の話に異なる見方を知った。
会見には、大澤氏の前任で、日本テラデータの社長を7年務めた高橋倫二氏も姿を見せ、「AIを活用する新しい時代に突入するタイミングで、新しい社長にバトンタッチし、新しい日本テラデータを創っていってもらいたい」と、後継社長にエールを送った。高橋氏から引き継いだ大澤氏の経営手腕に注目していきたい。
前社長の高橋倫二氏(左)と大澤氏