「出版流通をAIとRFIDタグで最適化、講談社・集英社・小学館・丸紅が年内にも新会社設立」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #472(2021年5月9日~15日)

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 2021年5月9日~15日は「出版流通をAIとRFIDタグで最適化、講談社・集英社・小学館・丸紅が年内にも新会社設立」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

政治

アップル対Epic裁判、判事が「アプリ外購入へのリンクを許可」という和解案を示唆〈Engadget 日本版(2021年5月14日)〉

 通称「フォートナイトの乱」と呼ばれている(?)Epic Gamesの対アップル闘争。ゲームの話ですが、iOSアプリ全般に関わってくることなのでピックアップ。iOSアプリの審査では、Apple ID決済を迂回することに繫がるようなアプリ外へのリンクが厳格に禁止されています。手数料で30%持っていかれたら、自社コンテンツならともかく、出版社からコンテンツを預かって販売するのは収益的にとても厳しいものになってしまいます。このため、アマゾン「Kindle」など多くの電子書店アプリは、iOS版ではただのビューアになっているのが現状です。

 で、Epic Gamesが反トラスト法(独占禁止法)違反でアップルを訴えたわけですが、判事から「アプリ外購入へのリンクを許可」してはどうか? という和解案が示唆されたというニュース。判事からユーザーの選択肢を増やすのがなぜ悪いのか? と問われたアップル側の証人は、手数料徴収の妨げになると答えたそうです。そりゃそうなんだけど、それが「独占」だと訴えられていたんじゃなかったっけ……? 素直か。

 ところで、昨年9月には「Google、Playストアでの課金体制をApp Storeのように厳格化?」というニュースがありました(↓)。Epic Gamesによる「フォートナイトの乱」が起きた直後なのに? と疑問だったんですが、そういえば続報がありませんね。こっちはどうなったんだろう?

社会

著作者・著作権者、出版社各位 【注意】フィッシングサイトのお問い合わせが多くなっております(通報先あり)〈一般社団法人日本書籍出版協会(2021年5月7日)〉

 書協からの注意喚起。「著者がPDFを無料でダウンロードできるサイトをみつけた」「編集者が無料でダウンロードできるサイトを発見した」といった問い合わせが増えているけど、調べてみたらそのほとんどがフィッシングサイト(詐欺サイト)だったとのこと。見つけた場合は「無用にアクセスしない」「絶対に個人情報を入力しない」よう呼びかけられています。要注意。

 以前はGoogleアラートで、こういう詐欺サイトがときどき引っかかってました。私が最初に気付いたのは、5年ほど前。「日本独立作家同盟」で出版した本がアラートで検知されたのですが、サイトにまったく心当たりがありません。「FREE DOWNLOAD」などと書いてあり、恐らく海賊版だろうと判断。実際どんな仕組みかを試しかけ、「いや、これフィッシングだよな?」と手が止まったのを覚えています。その後、Googleのクローラーに機械学習が導入され、詐欺サイトと判断されたらインデックスしなくなったようですが、まだイタチごっこが続いているのでしょうか。

「文学フリマ」緊急事態宣言下での開催を決断 政府の制限内で実施〈KAI-YOU.net(2021年5月9日)〉

 東京の緊急事態宣言が期間延長。ただ、イベントの開催制限が「人数上限5000人かつ収容率50%」に緩和されたため、文学フリマは開催されることに。大型連休中に比べたら、人の流れはある程度抑止できるという判断でしょう。そもそも、同人誌即売会は飲食したり大声を出したりするようなイベントではないので、それほどリスクは高くないとは思いますが。

 それでも、感染力が従来より高いという変異株の影響がまだ未知数なところもあり、大勢の人が集まることがわかっている場所へ行くのは、個人的にはまだ避けたいところではあります。うつされるのが嫌というより、自分が気付かぬうちにスプレッダーになってしまう可能性を避けたい。マスクは盾というより、鞘だと思うのです。

銀の鈴社とエスペラントシステム、GIGAスクール構想に最適な読書支援サービス『読書館』発表〈ICT教育ニュース(2021年5月12日)〉

 約1万5千点が読み放題で、同時アクセス制御も行わない予定とのこと。……のは良いのですが、プレスリリースに「最適な」という最上級表現を使ってしまっている点には、ちょっと苦言を呈したい。景品表示法違反として消費者庁から措置命令が出る可能性がある表現です(↓)。ICT教育ニュースの記事でも、文言そのまま採用しちゃってるし。アカン。

岐阜県大垣市、大垣市教育委員会および株式会社アルファポリスが図書館サービスの充実(電子書籍の充実)に向けた連携協定を締結〈株式会社アルファポリスのプレスリリース(2021年5月12日)〉

 アルファポリスの絵本投稿サイト「絵本ひろば」との連携。「絵本ひろば」は閲覧だけなら会員登録不要で、誰でも無料で閲覧できるサイトです。大垣市電子図書館を確認してみたところ、トップページの目立つ場所で紹介され、リンク先はこの「絵本ひろば」という形になっています。こういう連携の仕方もあるのですね。また、TRC-DLがこういう外部サイトとの連携にも対応しているのも初めて知りました。面白い。

「学校図書館」デジタル化阻む紙信仰と3つの壁〈東洋経済education×ICT(2021年5月14日)〉

 専修大学・植村八潮教授へのインタビュー。GIGAスクール構想により1人1台の体制が整ったいま、学校図書館はどのように対応していけば良いのか? という論旨です。「図書館従事者の多くが、紙の本が大好きでICTに腰が引けている」という植村氏の見解に対し、学校司書の方から「あんまりだ」という反発の声も散見されました。実際のところはどうなのか。

 昨年、司書教諭の有山裕美子氏から寄稿いただいた「学校図書館の存在意義とデジタルトランスフォーメーション」でも、生徒向けに作ったリンク集が同業の仲間から「学校図書館の自殺行為」と言われた、という話がありました(↓)。恐らく、学校によってかなり考え方や環境・体制も異なるのではないかと思われます。

経済

「MANGA Plus by SHUEISHA」が挑む、 世界同時ヒットの青写真:ジャンプのグローバリゼーション〈DIGIDAY[日本版](2021年5月10日)〉

韓国ウェブ漫画、世界覇権争い〈日本経済新聞(2021年5月11日)〉

日本、デジタルで出遅れ〈日本経済新聞(2021年5月11日)〉

 タイミング的に面白かったのでまとめてピックアップ。集英社「MANGA Plus」が世界展開へのプラットフォームになっているという話と、韓国ウェブトゥーンに比べ日本の出版社はデジタルで出遅れているという話。後者は「漫画誌や単行本という紙主体の作品作りが中心で、デジタルでの事業展開に消極的だった」とまで言い切っちゃってるのですが、ここ数年の激変をどこまで捉えているのでしょうかね?

メディアドゥと光和コンピューター、 電子書籍売上印税管理システム「PUBNAVI」を共同開発/本格サービスインは2021年11月を予定〈株式会社メディアドゥ(2021年5月11日)〉

 ちょうど「電子書籍の売り上げが未だに蔑ろにされている問題」(↓)がバズった直後にこのリリース。開発そのものは1年前からやってますし、ベータ版テストの拡大というリリースなので、タイミング的には偶然でしょう。たぶん。

 たくさんの電子書店・アプリへ卸した結果、その実績を把握するのに時間がかかってしまうこと。また、額が大きかろうと小さかろうと、売り続ける限り半永久的に売上や印税の管理をやり続けなければならないこと。そういった問題が、これで軽減されると良いのですが。

 なお、前述のTogetterまとめの続編で、いまでは電子書籍の売上も当然考慮されており、「紙で買ってください!」は打ち切りボーダーラインの作家によるシステムハックの可能性があるといった声も出始めています(↓)。かなり以前とは風向きが変わった感。

「絵本を中国全土に広めたい」北京蒲蒲蘭文化発展有限公司の挑戦 ―― 中国出版業界訪問記〈HON.jp News Blog(2021年5月11日)〉

 北京大学・馬場公彦さんが、ポプラ社の中国現地法人・北京蒲蒲蘭(ププラン)を取材・レポートしてくれました。日本独資100%の文化関連法人として、唯一の存在というのがすごい。

 ところでアイキャッチの集合写真、向かって左奥にLEDリング照明が置いてあるのに気付いてしまった。こういう照明って、ライブ配信で使うんですよね。やってるのかな?

講談社など3社、書籍流通に参入 出版生き残りへDX〈日本経済新聞(2021年5月13日)〉

講談社・集英社・小学館の出版社3社 丸紅と新会社を年内設立、出版流通を「AI」「電子タグ」で最適化〈文化通信デジタル(2021年5月14日)〉

 業界関係者が騒然としていたニュース。日経の初報では、講談社・小学館・集英社が取次会社を新設し、既存の取次を飛ばして書店との直接取引拡大を図る ―― というような書き方になっていました。修正履歴を残さず、しれっと書き替えているのが大変もにょる。トーハン・日販には大手出版社も出資してますし、利益相反になるような真似はさすがに難しいと思うのです。

 結局、文化通信の取材に対し講談社は「出版取次を代替する事業などは想定していない」と回答しており、どうやら日経の“飛ばし”だった模様。新会社ではRFID(電子タグ)の活用事業が基盤になるようです。在庫管理や棚卸の効率化、万引き防止などが想定されています。

 出版業界とRFIDと言えば、以前JPOが「ICタグ研究委員会」「出版RFIDコード管理研究委員会」などで導入を検討、実験をして報告書も出ている(↓)のですが、そのまま立ち消えになってしまった過去があります。今回、その成果は活かされるんでしょうか? RFIDの単価も当時に比べたらだいぶ安くなったので、ハードルも下がっているとは思いますが。

新聞の作り方、段取り9割 デジタルで追いつかない理由〈朝日新聞デジタル(2021年5月14日)〉

 インプレス → ハフポスト → バズフォードと渡り歩き、この春から「朝日新聞デジタル」の責任者になった伊藤大地氏による、中から見た朝日新聞の現状と課題について。戸別配達の流通網によって読者の元へ届けられるシステムができあがっていたから、PDCAの「プランが9割」という仕事ぶりになっていた、というのは興味深い。これ出版業界にも同じことが言えますよね。

HON.jp News Casting

 5月10日のゲストはイラストレーターの村田善子さんでした。番組前半のアーカイブはこちら。

 なお、当番組は編成の見直しを図るため、しばらくお休みいたします。次の予定はまだ決まっていませんが、6月にはやりたいと考えています。お楽しみに。

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CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 830 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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