「3.11」が状況を一変させた
富士山は日本一の高さを誇る美しい山だが、いつ噴火してもおかしくない活火山であることは、意外と知られていない。
いまから約300年前の江戸時代に、富士山は大噴火した。それ以来、地下に大量のマグマを溜め続けたまま、不気味な沈黙を保っている。
私が専門とする地球科学には、「過去は未来を解く鍵」という言葉がある。過去に起きた自然現象を調べることで、未来の事象を予測するという意味だ。
それに従ってタイムスリップすると、この1707(宝永4)年のいわゆる「宝永の大噴火」は、記録に残っている富士山噴火ではマグマの噴出量が第二位という巨大さだった。噴火は断続的に半月ほど続き、火山灰は横浜や江戸、さらには房総半島にまで降り積もって、大きな被害をもたらした。
この過去の事実をもとに、同じことがこれから起きたらどうなるかを予測するため、私は2007年に『富士山噴火 ハザードマップで読み解く「Xデー」』をブルーバックスから上梓した。幸い6刷と版を重ね、テレビ各局はこの本を参考にして富士山に関するアカデミック・バラエティー番組を次々に制作し、私も解説をつとめた。
ところが、2011年に起きた東日本大震災、いわゆる「3・11」は、富士山をめぐる状況を一変させてしまった。巨大地震から4日後、富士山の直下で地震が発生したとき、火山学者は全員、肝を冷やした。マグマだまりの直上に「ひび割れ」を起こした可能性があるからだ。
幸い噴火はまだ起きていないが、富士山はすでに「噴火スタンバイ」の状態にあると私は考えている。
「令和の大噴火」は巨大地震とともに
富士山だけではない。東日本大震災以後の日本列島は、地震と噴火が繰り返される「大地変動の時代」に突入した。いまや未来を解く鍵は、過去の地震や噴火の例の中に探すしかないのである。
2030年代の発生が確実な南海トラフ巨大地震に関しても、過去に重い事例がある。
1707年、南海トラフでマグニチュード8.6という日本最大級の「宝永地震」が発生した。
そのわずか49日後、富士山が大噴火した。これが前述した「宝永の大噴火」である。
現代にあてはめれば、やがて起こるマグニチュード9クラスの南海トラフ巨大地震のあとに富士山が大噴火するということだ。
仮にいま、宝永クラスの「令和の大噴火」が起きると、ハイテク社会が受ける打撃は江戸時代とは比較にならない。