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2023.05.07

「胃がん」や「大腸がん」を追い抜き、いま「日本人」のあいだで発生率が急上昇している「がんの種類」

「生まれ持った遺伝的な体質」は変えられる! 最新科学が示す「日本人が健康になる秘訣」とは?

親から受け継いだ遺伝子は生涯変わらないから、がん、糖尿病、認知症、高血圧、肥満など、さまざまな病気のリスクや体質は「遺伝的なものだし仕方ない」と思っていませんか。しかし、近年のゲノム生物学の進歩によって、生活習慣や環境で遺伝子の働きが変わり、「病気のなりやすさ」も変わることが明らかになってきています。日本人の遺伝子と体質の特徴を捉えていくと、どうすれば遺伝的なリスクを抑え健康に過ごせるかが見えてきます。

*本記事は『日本人の「遺伝子」からみた病気になりにくい体質のつくりかた』(講談社ブルーバックス』を抜粋・再編集したものです。

日本に多いがん、欧米に多いがん

がんは1981年以降、日本人の死因第1位です。国立がん研究センターがん対策情報センターが2017年のデータをもとに推計したところ、男性が一生のあいだにがんと診断される確率は約66%で、女性は約50%でした。「2人に1人が一生に一度はがんになる」という表現は、この数字を根拠にしています。

先に述べたように、日本でがんが増えたように見えるのは高齢化社会だからです。がんは高齢になるほど発生しやすい病気だからですね。

同センターがまとめたがん統計によると、2017年に日本であらたに診断されたがんは、男性の第1位が前立腺がん、第2位が胃がんで、次いで大腸がん、肺がん、肝臓がん、女性は乳がんが第1位、第2位が大腸がん、そして肺がん、胃がん、子宮がんの順でした。すべて高齢化の影響を受けないように年齢で調整したデータです。

わざわざデータを調整するのは、がんが加齢によって発生しやすくなる病気だからです。国と国はもちろん、同じ国でも時代が変われば集団の年齢構成が異なります。そのため、こういう場合は統計学にもとづいて定められた複雑な計算式を使い、調査対象者の年齢をそろえたうえで発生率や死亡率をくらべることになっています。

乳がんと前立腺がんは、元は欧米で多いがんでした。けれども昨今、日本でも発生率が急速に上昇し、それまで日本で多かった胃がんや、やはり近年増加した大腸がんの発生率を追い抜いたかっこうです。

では、米国はどうでしょう。米国保健福祉省、米国疾病予防管理センター(CDC)、米国国立がん研究所(NCI)の公式がん統計によれば、2017年にあらたに診断されたがんのなかで、もっとも多かったのが乳がんで、次いで前立腺がん、肺と気管支のがん、大腸がん、子宮がん、皮膚の悪性黒色腫の順でした。

おやっ、と思うのが、日本で上位を占める胃がんが見当たらず、代わりに日本では珍しい皮膚のがんが第6位に入っていることです。胃がんは米国の統計では10位までに入っておらず、日本人男性で第5位の肝臓がんも、やはり米国では10位以下です。

悪性黒色腫は皮膚がんの一種で、ほくろのように黒く、足の裏を含む全身の皮膚の他に、口や目の中にできることもあります。世界がん研究基金(WCRF)によると、10万人あたりの発生数はオーストラリアの33・6人を筆頭に、ニュージーランド、欧米諸国が高く、米国は約12・7人でした。

これに対して国立がん研究センターの「がんの統計2019」は、日本の発生率を10万人あたり0・5~0・6人としていますから、オーストラリアのわずか60分の1です。どちらも年齢で調整したデータです。

皮膚がんにはいくつかタイプがありますが、いずれも強い紫外線を浴びると発生率が上がります。そのためオーストラリアで皮膚がんが多いのは、地球を取り巻くオゾン層が温室効果ガスによって破壊され、紫外線が大量に降り注いでいるからと推測されています。また、英国では若い人を皮膚がんから守るため、大部分の地域で18歳未満の未成年は日焼けサロンを利用できません。違反したサロンには最大で約350万円もの罰金が科せられます。

けれども、同じ土地に住む人が同じように悪性黒色腫になるかというと、そうではないのです。たとえば米国がん統計の年齢調整ずみデータによると、同じ米国人でもアフリカ系とアジア大洋州系の発生率が日本の2倍程度にとどまるのに対して、欧州系の発生率は10万人あたり28・0人と、アフリカ系の28倍にのぼります。図1‒5のグラフに示しました。こうなると紫外線の照射量だけでは説明がつきません。

暮らす環境が同じで生活習慣も似通っているとなれば、生まれ持った体質の違いが、特定のがんの発生しやすさに影響していると考えられます。皮膚の細胞が単純にがん化しやすいのか、紫外線で遺伝子に傷がつきやすいのか、紫外線でついた傷を修復する力が弱いのかはわかりませんが、そのどこかに、親から受け継いだ遺伝子多型とエピジェネティクス変異が作る人種による体質の違い、図1‒4でいうと(1)が関係しているということです。

前立腺がんも同様で、アジア系の発生率を1とすると、欧州系はその約2倍、アフリカ系は3倍以上高いことが示されています。

本記事の抜粋元『日本人の「遺伝子」からみた病気になりにくい体質のつくりかた』(講談社ブルーバックス)では、日本人の遺伝子と体質の特徴を捉え、どうすれば遺伝的なリスクを抑え健康に過ごせるかを詳しく解説しています。ぜひ、お買い求めください。
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