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2018.10.17

人気「中国史マンガ」古典から新作まで、比較してみたら分かったこと

歴史を超える歴史作品の数々をみよ

昨今の日本で、中国のイメージは良くない。だが、中国嫌いを自認する人でも「いまの中国は嫌だけれど昔の中国は好き」といった意見を持つ人は案外多い。

日本人の間で、そんな「昔の中国」のイメージの原点は中国の古典だ。とはいえ、現代の人にとっては古典の『史記』や『三国志演義』それ自体というより、これらを題材にした歴史小説や歴史マンガの影響が大きいだろう。

本サイトの定期寄稿者で『八九六四 天安門事件は再び起きるか』『さいはての中国』などの著書があるルポライターの安田峰俊氏は、過去に大学院で中国史を専攻し、また無類の中国史マンガ好きでもある。今回は編集部がインタビューする形で、中国史マンガの魅力を語ってもらった。

 

こんなにある

――中国史を題材にした歴史マンガは数多くありますが、やはり基本は横山光輝作品でしょうか。

安田 そうですね。横山光輝先生の作品は基本ですよね。『三国志』はもちろん、『水滸伝』『項羽と劉邦』『史記』『殷周伝説』といろいろ。厳密には中国史ではないですが『チンギスハーン』や、建国前の中国共産党を描いた『長征』なんかも名作です。

吉川英治の小説を下敷きにした『三国志』をはじめ、横山先生の歴史モノは小説などの既存のストーリーをマンガ化するパターンが多いのが特徴です。通説的なイメージがきっちりマンガになっていて、読みやすくて面白い。あらゆる意味で「王道」です。

もうひとつのメジャー三国志マンガの『蒼天航路』(李學仁、王欣太)が面白いのも、まずは横山三国志が広く知られていたからですよ。劉備がダメ人間だったり諸葛亮が変態だったりする描写は、横山三国志の正義のキャラのイメージが前提にあるからこそ、ギャップが大きかったわけですし。

――いま『蒼天航路』が出てきましたが、横山作品以外で中国が題材の「歴史マンガ」のおすすめは?

安田 『蒼天航路』と、秦の始皇帝を描いていく『キングダム』(原泰久)は、絵の躍動感や大胆な人物解釈も含めて平成の中国史マンガの2大巨頭でしょう。

あと、酒見賢一先生の同名小説のマンガ版の『墨攻』(久保田千太郎、森秀樹)もいい。

この3作は青年誌で連載されていたからか、汗や血や泥のウェットな感じをちゃんと描いているのがポイントですよね。実際、現代でも中国の田舎はドロドロでベタベタしていますから、春秋戦国時代や三国時代の中国はもっとドロドロだったはずです。歴史マンガとしての説得力がそこから生まれている感じはあります。

最近の作品だと、たかぎ七彦先生の『アンゴルモア 元寇合戦記』と、川原正敏先生の『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』が元気ですよね。『龍帥の翼』は漢の功臣の張良が主人公で、時代的には『キングダム』の20~30年後です。こちらは後で詳しく語らせてください。

――春秋戦国時代や三国時代の話が多いですが、近現代史モノはどうでしょう?

安田 手塚治虫の『一輝まんだら』が好きです。題名の北一輝がしっかり描かれる前に連載が中断した作品ですが、義和団事件の描写や、章炳麟みたいな中国史マニアの人しか知らない革命家が存在感たっぷり出てくるのはポイントが高い。

あと、満洲国が舞台になっている安彦良和先生の『虹色のトロツキー』は外せないですよね。石原莞爾や李香蘭や川島芳子が出てきますが、時代考証がしっかりしているためか、架空の人物である主人公のウムボルトと絡んでいても、全然違和感がありません。

――史実をどこまで描いて、どこまでアレンジするかのバランスは難しそうです。

安田 歴史が題材のマンガは、実在の人物が出つつも奇想天外な設定やストーリーをメインとして展開していく「伝奇マンガ」と、アレンジはあっても話の背骨の部分では史実(もしくは歴史小説)の本筋をある程度までは押さえている「歴史マンガ」に分かれるかと思います。

厳密な区分は難しいですが、前者は例えば『西遊妖猿伝』(諸星大二郎)とか『天地を喰らう』(本宮ひろ志)とか『封神演義』(藤崎竜)とかでしょうか。後者に当たるのが横山先生の作品だったり、『蒼天航路』だったりすると思います。同じ本宮ひろ志先生でも「項羽と劉邦」を描いた『赤龍王』は「歴史マンガ」寄りかな。

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