最新の知見をもとに、生命知能と人工知能の違い、生命知能を支える意識の働きを解説、生命知能を成長させる脳の使い方、育て方のヒントを提示する“希望の書”『生命知能と人工知能』から注目の章をピックアップ。
人工知能化する人間
春先、インターネットを眺めていると、新入社員への対応方法を論じた記事が目に留まりました。その記事には、いわゆる「デジタル・ネイティブ世代」が苦手とする3つのことが挙げられていました。
2)「想定外」が苦手
3)「電話」が苦手
このような特徴を理解しなければ、新入社員と良好な人間関係を築いたり、彼らを適切に教育したりすることは難しいというわけです。大学で教育や研究に携わる筆者も、たくさんのデジタル・ネイティブ世代を相手にしています。私の日常的な感覚からも、なるほど、とても的を射た観察だなぁと思います。
その一方で、これらの3つの特徴には共通点があることにも気付きました。これらはすべて、人工知能が苦手とすることなのです。
最近の私たちは、生活の至るところで人工知能の恩恵を受けています。たとえば、インターネットの検索技術。知りたいことやわからないことがあると、私たちはまずネットで調べます。私たちが「検索」ボタンを押すと、スマホやパソコンは、答えになりそうなものを自動的に探してきて、私たちに提示してくれます。検索のクオリティは、ビジネスとしての生命線です。
現在のところ、それを決めるのは、あらかじめ与えられた検索アルゴリズムです。しかし将来的には、スマホが自ら自分の弱点を考えて、それを克服するために、ユーザーや開発者に質問を投げかけるようになるかもしれません。
たとえば、写真を送ると花の名前を教えてくれる人工知能があったとしましょう。ところが、この人工知能は、梅の花と桃の花をうまく識別できません。人間ならば、「いまいち、梅の花と桃の花の違いがわからないのですが、見分けるコツを教えてください」と質問するでしょう。また、自分の答えに自信がないときは、「これは梅ですか?」と質問して、自ら学習していくわけです。このように自分の知識を増やすために、適切に質問することは、今のところ、人工知能にはできません。これは、人間だからこそ為せる極めて難度の高い技術なのです。
人工知能は、最初から想定外を想定していません。あらかじめ想定されている質問や状況にだけ対処できるように作られています。想定外の質問に対して、人工知能は「わかりません」とさえ答えておけばいいのです。そうすればユーザーは質問を変えるか、「このAIは使えないなぁ」とあきらめてくれます。想定外や未知の状況に遭遇したときに、何とかするのは人間なのです。