*既に実現しているラノベ作品があるかも
電子書籍は印刷本の劣化版だが、印刷本にはない
- 「製本コストを抑えられる為値段が安くなる」
- 「購入したらすぐ手元に届く早さ」
- 「電子情報のため部屋を圧迫しない」
などの魅力がある媒体だというのが個人的な認識だった。
しかし佐々木俊尚氏のweb文芸・百年後の本によれば「印刷本とは全く異なる媒体」らしい。劣化版でも類似品でもなく、そもそも違う存在とのこと。
今はまだ黎明期の演劇と映画が分化していなかったのと同じく既存の印刷本のページをめくり読み進める体感の域を電子書籍は一歩も出ていないが、しかしこの先電子書籍は独自のUX(=主観的かつ総体的な感覚)を獲得し別々の道を進んでいくだろうとされている。
電子書籍のUIは、タブレットや電子書籍リーダーといった機器、液晶や電子ペーパーといった素材、そして最近ではタッチスクリーンを指で直接操作するという動作などによって構成されている。しかし現在のところ電子本のUXは、ページをめくり読み進めるという印刷本の模倣の域を一歩も出ていない。
つまり電子本はいまだ、独自のUXを実現していないということであり、映画でいえばしょせんはメリエスの時期ぐらいにしか達していないということだ。
私なんかは「電子書籍≒印刷本」の構図でとらえていたが、もしかしたらこの先電子書籍は電子書籍、印刷本は印刷本の独自の物語体感の違いが生まれ、その差異によってどちらの媒体でライトノベル(=コンテンツ)を読むか悩むシーンが生まれてくるのかもしれない。
UXの獲得まではいかなくとも、UIの変化によっても物語体験は変わっていくと踏んでいるのでそのシーンは案外早くやってくるかもしれない。
しかし現在はまだまだ電子書籍は印刷本とたもとを分かっておらず、物語体験が購入の決め手になるのではなく、「電子情報の利点」によって選ばれているの実情かなと思う。
そして今回、では、この先電子書籍ラノベが歩んでいく道のりがあれば、新しい形へと遷移してくのであればどんな姿が想像できるのか?を考えてみたくなった。
1、音楽があるライトノベル
印刷ラノベは文字が主体であり、そこに寄り添うようにイラストが挿入されている。もちろん音楽はない。
だが電子書籍ならば「BGM」「BGV」「効果音」の類を付加させることができ音の力をかりることで物語体験をより濃密にできるかもしれない。
『さよならピアノソナタ』ではベートベン、ワーグナーからL'Arc〜en〜Cieといった多様なアーティストの楽曲が引用され登場人物達の心模様、シーンを彩っていく。
ただその曲をじっさいに聞いたことがない者は、文章から伝わるイメージを媒介にして音を想像するしかないがやはりそれには限界がある。
そこでもし実際の音楽が「その場面」で流れるようになれば面白いそうだ。さすがに『L'Arc~en~Ciel』とかは難しいかもしれないが、著作権が切れているClassic曲ならば障害は小さいように思う。
今までは分からない曲があれば、読了後か、読書中に、ネットで検索して当該曲を(著作切れし可能なものであれば)聴いて作中のイメージを深めようとしていた人も多かったと思うが、
"読んでいる最中に曲が流れ" れば探す手間も省けるし、なにより中断せずより作中世界により没入できる。BGMが流れるラノベ、欲しくはないだろうか? 私は体験してみたい。
さらにBGMに加え、効果音やBGV(バックグラウンドボイス)も加えることでより音楽面を厚く出来る。
例えば、『刀語』『キノの旅』『ダンまち』のように戦闘シーンがあるラノベだったら拳がいりみだれる肉弾戦、剣と剣がかち合う剣戟、発砲音、魔法音といった効果音を断続的に流すことも可能だろう。
イメージが難しいならば『Fate/stay night』(原作)のランサーとアーチャー戦のときに、バックで流れていた「キンキン!!!カン!キンっザザッ!キュンキュン!!!」のあの効果音を思い出してもらえればいい。
また学園系のラノベであれば、学生達が休み時間歓談する際に生じる「ザワザワとした音」や放課後野球部やサッカー部の「掛け声・大声の音」も流せばシーンの雰囲気を強くできる。
イメージが難しければ『大図書館の羊飼い』(原作)の授業中、学園を歩くシーンで流れた「生徒たちのザワザワとした音」を思い出してくれればいい。
あの効果音の面白いところは。耳では「歓談時のザワザワとした音」とは認識できるのだけれど、具体的にどんな会話をなされているか?どんな話なのか? といった詳細な情報は全く分からない音であることだ。あれはいい効果音である。
たまに作品によって「何を話しているのか聞き取れるザワザワ音」があるが、あれは逆にテキストを読むさい集中力を乱す障害になるので私は好きじゃなかったりする。
さらにもしそのラノベに声優の配役がすでに決まっている場合、その「声」もまたバックグラウンドで流せる。いわゆるBGVというやつだ。
文章を読みすすめながら、バックグラウンドで流れるキャラクター達のかけあいボイス。
表示されているテキストとは別にキャラが「今日はいい天気だね」「そうかな」「そうだよ」「雨だよ」「うん雨だ」「ね、凛堂さん、一人暮らしなんでしょ? どこに住んでるの?」 「土管の中」「快適なの」 「そんなことない」―――こんなふうにシーンに合わせてBGVがはいるのは楽しそうである。
イメージが難しければ『Sugar+Spice!』でとつぜんハモやミャンマー達が"後ろ"で言い合ったり笑い合ったりしながら、下部テキストとは別に「声のみ」で話題が進行するのを思い出して欲しい。
今まで語ってきたのはアニメーションのように精密な時間指定に合わせて挿入する音楽というよりは、「ページ毎」に設定し流れる音楽を想定している。
流石にまだ今の技術じゃ「どこの行までを既読にしたか」を電子書籍は(ハード・ソフト面ともに)判断できないのでこれが限界だとは思う。
2、読者をラノベに介入させる(選択肢)
電子書籍ラノベに「選択肢」「文字打ち」を加えたらどうだろう?
例えば、ある作品で主人公の決断がおおきくその後の物語を変える場面があるとする。
- 「改変された世界でヒロインとアダムとイヴのように暮らす」
- 「改変される前に戻りヒロインと一緒に今までの日常を送る」
このとき「選択肢」が現れてその未来の結末を読者が選ぶことができるとしたらどうだろうか。
当然だが、印刷ラノベにはこんなのはない。物語はどこまでも一直線に進み、読者がその流れに関わることは出来なくただ与えられたものを読みつづけるだけにすぎない。*1
しかし選択肢の登場により、直線に過ぎなかった物語構造がパラレルに変化することが可能だ。この事により読者が物語を「選ぶ」という行為が物語世界に深く関わっている体感は増強される。
他にもミステリー系ラノベならば
↓
「で、犯人は誰だと思う?」と問いかけるヒロイン
↓
文字入力画面がすっと現れる
↓
読者は犯人だと思う名前をタブレット(&スマホ)に打ち込む。
↓
入力した名前、答えの正否によって、のちに展開する物語・テキストが変化したり、登場人物たちのセリフがすこし変わったりするギミックがあったらワクワクする。
『戯言使いシリーズ』ならば、いーくんが「で、僕は今回の事件どう思っているだろうか?」となぜか自分に問いかける「読者に情報を入力させる」というメタ構造もまた楽しそうな気配はする。
3、縦スクロール用のラノベ
電子書籍は「印刷本形式を念頭に作られた本を無理やりコンバートしたモノ」と言ってよく、その"無理やり"変換された齟齬が「見開き表示はできなく1ページづつ表示させて読む」「ページめくり時指をスライドさせなければならない」「行間が印刷本と比べるとなんだか変」などに現れている。
私はこれが電子書籍を読む時ストレスになっているんだが、他の方はどうだろうか。
iPad向けの電子書籍アプリ「iBooks3」では、ページを送るのに「ページめくり」だけでなく「縦スクロール」も追加されたらしくその体感は素晴らしいと絶賛する声もあがっているそうだ。
このiBooks3の縦スクロールは、アメリカのネットメディアからはたいへん好評に迎えられている。テッククランチではたいへんな絶賛だ。「縦スクロールがこれまた素晴らしい。ページのある本? なんという物理的な世界。いつまで死んだパラダイムにしがみついているの? 未来へ行こう!」
またマッシャブルのクリス・テイラーはこう興奮して書いている。
「あっという間にこの読み方にはまってしまった。自然でスムーズだ。キンドルはすぐさまこの縦スクロールを取り入れないとiBooksに負けてしまうことになるかも」
これはアプリのほうで電子書籍の読み方を調整するものだが―――そうではなく最初から電子書籍に合う「縦スクロール」を前提とされたラノベを作ってはどうだろう?
そういえば漫画アプリcomicoにて連載されている『ReLIFE』は縦スクロールを前提とした「スマホで読むマンガ」として作られていることもあり、かなり読みやすい作品になっていると思う。縦読みで表現される「間」も含めてなかなかいい感じだ。
「見開き(2ページ)表示を目全体で捉えながら読む印刷本漫画の間」と「1ページ表示しながら読む漫画の間」はやはりどこか違うのだろう。
余談だが縦スクロール用に作られた『ReLIFE』は、漫画版にもなっている。(私はこの漫画読んだことないんですけど、せっかくの縦スク用だった原作を印刷本形式にしてしまうと今度はこっちのほうで齟齬が生まれるのではないかという気もするんですけどどうなんじゃろ)
印刷本ラノベならばその「間」は行と行の間、1ページ全体にたった一行のセリフをぽんと置く空白要素などを指すと思うが、電子書籍ラノベならば縦スクロールにおいての「間」を意識して作られてもいいのではないかと思う。やはり電子書籍で読むなら電子書籍用に作られた方が読みやすいと思いますし。
4、一度きりの読書体験を電子書籍ラノベで再現する(一回性)
現実と物語の違いはなんだろうか?
いろいろ意見はあるがそのひとつに「現実はやりなおせない」という点を挙げたいと思う。現実世界では失った一秒を再び見ることはできないし、過去には戻れない。
けれど物語ならば、何度でも過去と未来を行き来することができる。ヒロインが死んでしまったら、そこから行を遡り、もう一度読みなおして生きていきた頃のヒロインと再会する事ができる。もちろん現実ではそうはいかない。
これは極端な意見だが、つまりラノベって「もう一度読める作品」だよねと言いたいのだ。
しかしここで「もう一度読みなおすのが困難」、あるいは「一度きりしか読めない」ラノベが登場したら面白そうではないか?
例えば
1)ある作品を最終ページまで読んだら、今まで読んできた文章が砕け、壊れていくアニメーションが流れる。すべてが終ったあと、最終ページだと思っていた場所に新しいテキストが鎮座しているというギミック。
2)最終ページまで読んだあと、「一度きりしか読めないテキスト」が表示される。それを読んだらもう最後2度と読むことはできない。ただし当該作品をいちど削除し再ダウンロードし最終ページまで読み進めるか、もしくは再び購入しないとそのテキストを読むことは出来ないという感じ。
3)
神「世界は改変されたよやったねたえちゃん」
主人公「本当にな」
神「お疲れ様でした」
主人公「お前も」
そうして物語は残りページ59%のところで閉幕した。つまり最終ページではなく道半ばで物語が唐突に終わり、その後のページは全て空白となっていた。
フシギに思った読者は「主人公が世界改変することを望んだ」64ページに戻ると……"ガチャン"と音が流れ、読了したはずのページが「読んでいないページ」へと書き換わるギミック。それはつまるところ「世界改変された後の物語」が展開されていたというわけだ。
当該作品を再ダウンロードするか再購入しないと、改変前テキストはもう読めない。
などなど。
Q、こんなの"ラノベ"じゃないと言うだろうか?
お気づきの方もいると思うが、私が提案してきた「新しい電子書籍ラノベの形」は要するにヴィジュアルノベルの手法を取り込んだものだ。
映画が小説の手法(=クロスカッティングなど)を取り込むことで演劇と別の道を進んだように、「音楽」「選択肢」「√概念」「一回性」というヴィジュアルノベルの手法をライトノベルに取り込むことで新しい文化へと発展していくのではないかと考える。
さらに上述した要素を踏まえ洗練されていき、この過程で、電子書籍ラノベにしか生まれ得ない新しい地平・要素を開拓するかもしれない。そんな期待もある。
また上述した要素を要らないと感じる人のために、ON/OFFできる「設定画面」を設けることで印刷ラノベと電子書籍の「違い」による既存ユーザーのストレスも緩和させることが可能だろう。
さて、ここまで読んできてこう思う人も多いかもしれない。
『こんなのはラノベじゃない』と。
確かに既存のライトノベルではないし、もう全く別のコンテンツなのは間違いない。だがそれでいいのではないかと私は思う。
電子書籍ラノベが実際にこういう道筋を歩むのかは分からないが、例え歩んだとしても「印刷本ラノベ」と「電子書籍ラノベ」はたもとを分かつだけでありそれぞれ別の文化として発展していくだけだと思うからだ。
電子書籍ラノベが独自の形式を育んでいっても、印刷本ラノベが消滅するわけじゃない。
おわり
さて微力ながら自分なりに考えてみましたが、ではあなたは今後電子書籍のラノベはどういう形になっていくと思いますか?
あるいはどんなふうに進化していって欲しいと思いますか?
<この流れでオススメするヴィジュアルノベル>
*1:とはいえ、「選択肢」が導入されても物語がリニア(直線)なのは変わらないが