IT部門に課せられる新たな使命
東証による異例の要請を一つの契機として、非財務情報の重要性が格段に向上し、それにともないIT部門には「効率的な情報収集」に留まらない新たな使命が生まれている。正確性やガバナンスの担保を重視した「データインテグリティの担保」や、非財務要素の企業価値向上への寄与可視化を見据えた「データ活用の高度化」である。
企業内の各組織から、それぞれの目的に応じて上述対応への期待は寄せられているものの、いざ何らかの対応を取ろうとする場合、さらなる課題がIT部門を悩ませることになる。
1つ目は「非財務情報の多様性」だ。対象となる情報の領域や種類の多さだけでもハードルが高い。加えて、自社の社内情報だけで完結しない点もこの多様性をさらに複雑にさせている。サプライチェーン全体を視野に取引先の情報や、製品・サービス提供以降の顧客情報が必要となる場合も多い。
2つ目は、「要件根拠を特定することの難しさ」である。非財務情報を取り巻く潮流を鑑みれば明白ではあるが、管理改革を実現する際に参照すべき法制度やイニシアチブ要請が一意ではなく、これもまた多種多様なのだ。結果として、対象情報の種類、収集範囲・頻度だけでなく、データの加工や算出のロジック、アウトプットとしてのレポート要件など一連で拠り所がない状態に陥ってしまう。
3つ目は、「成果(投資対効果)の見えづらさ」だ。IT部門が突破口となり非財務情報の管理改革を進めるとなれば、投資対効果の設定が重要となる。非財務情報管理においては、その成果の設定が難しい。
このような壁を打破しながら、着実に歩みを進める日本企業も存在している。それら先進企業の共通項を踏まえた成功ポイントは次の3点にあると考える。
まず1つ目は、「新たなESG経営の実現」を目的に掲げ、目指す姿を明確にすること。経営管理の高度化、KPIやマテリアリティ再定義、SCM強化、ガバナンス強化など、新たな経営管理で何を実現するかを定め、それに向けて非財務情報管理を含むデジタル戦略を中期的な時間軸で設定し進めることが重要だ。
2つ目は、企業価値を生む価値創造プロセスを想定し、必要情報を見極めること。どのようなデータが企業における次の競争力の源泉となるのかを考慮しながら、収集管理すべき情報を取捨選択すべきである。
3つ目は、経営層のコミットメントを得ることだ。やはり経営層こそが本領域への強い関心と危機意識を持ち、必要部門への働きかけや指揮を執ることが欠かせない。
新たなESG経営を実現すべくIT部門が担うべき非財務情報管理基盤の構築は、その特性から様々な壁が存在するものの、今後日本企業が企業価値を高め強く継続的な企業体となるには避けては通れない。より具体的かつ自社事業を後押しする形での非財務情報管理基盤の構築が急がれるなか、一つの参考として、アビームコンサルティングが発表した「日本企業の企業価値を高めるESG指標トップ30(2024年度)」の分析結果がある。