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【「ドント・ウォーリー・ダーリン」評論】前作と全く違う世界観の構築で可能性を広げたワイルド監督の野心作

2022年11月12日 07:00

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「ドント・ウォーリー・ダーリン」
「ドント・ウォーリー・ダーリン」
(C)2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

やはりオリビア・ワイルドは強靭なチャレンジ精神に満ちた人だ。長編監督デビュー作「ブックスマート」(2019)で青春コメディに破天荒な新風を吹かせたかと思えば、続く本作において挑むのは、まさかのサイコ・サスペンス。作品のスケールは増し、語り口には緻密さが求められ、その上、ひとつの街=世界観を構築するための透徹したビジョンや哲学、芸術性も欠かせない。失敗を恐れず、かくも難易度の高いステップアップの道を選んだ彼女の勇気に感服する。

肝心の舞台となるのは、砂漠の真ん中に建つ“ビクトリー”という名の街。50年代のファッションや建築、生活様式に彩られ、一見すると全てが調和したユートピアのようだ。夫たちは毎朝、色とりどりの車で職場へと向かい、妻たちは夫を献身的に支え、日中は家事やご近所付き合いに余念がない。しかし専業主婦のアリスは、ふとしたことがきっかけで全てに疑いを持ち始める……。

この世界は何かおかしい――主人公がそう気付く作品はこれまでにも無数に作られてきた。本作との関連性でいえば、まず街のダークな秘密が明かされる映画「ステップフォード・ワイフ」(1975)を想起しない訳にはいかないし、一人の支配者が君臨する管理社会という面ではジョージ・オーウェルの「1984年」などとも通じるところがありそうだ(ちなみにワイルドは17年に舞台版「1984年」に出演しブロードウェーデビューを飾っている)。

だが、本作は決してそれらの枠だけにとどまらない。何よりもフローレンス・ピューがエンジン部分を担うことで、この物語は一気に親近感と力強さを増した。夫への偽りなき愛情と、一方で湧き起こる真実への欲求。彼女がいずれの感情をもひとつの体で齟齬なく成立させているのは特筆すべきことである。話題のキャスティングとなった夫役ハリー・スタイルズも爽やかさと不穏さを併せ持ち、観客に安易な先読みをする隙を与えない。

調和していると信じ切った構造に亀裂を生じさせ、恐れることなく世界を突き崩しにかかるワイルド監督の描写力。助演をこなし、なおかつ波乱づくめだったと言われる撮影過程を通じて、彼女は自らの作り手としての器をより確かなものにした。この経験は今後の作品でも大いに生きるはずだ。

(牛津厚信)

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