アスロックとは |
アスロック(ASROC)とは、アメリカ海軍や海上自衛隊などの西側諸国で使用される、艦載対潜兵器。
初期の型では対潜ロケットだが、現在使われている物は誘導機能がついたので対潜ミサイルに分類される。
開発は米国だが、日本と韓国においても自国式のものが開発され、同じく「アスロック」と呼ばれる。
概要
第二次世界大戦後、潜水艦の技術的進歩はめざましく、攻撃力、水中高速性、運動性に優れた潜水艦が次々と出現し、爆雷等の既存の対潜兵器ではとても対抗できなくなってきた。そこで米海軍では、できるだけ遠距離で潜水艦を探知できる水中捜索装置の開発をすすめるとともに、補足した潜水艦をより遠くから攻撃できる対潜兵器の開発も進めた。そうして生まれたのがASROCである。[1]
簡単に言えば、「魚雷をロケットで素早く長距離搬送するシステム」である。
ランチャーから発射されるとロケットで加速し目標海域まで飛翔、空中で燃焼を終えたロケットを切り離し、魚雷はパラシュートを開いて着水、着水後は魚雷自らが持つソナーで目標を探し出して追尾・攻撃する。
「対潜ロケット」「対潜ミサイル」など名前だけだと誤解されがちだが、ロケットが燃焼するのは空中のみ。
あくまで「魚雷をロケットを使って目標海域まで素早く運ぶ」ものであり水中では普通の魚雷と変わらない。実際、弾頭に使う魚雷は水上艦の発射機から直接撃つ短魚雷と全く同じ物である。
なお、以降の表記の内、スペックは資料媒体によって数値が異なるため、参考にする際は注意されたし。
RUR-5 ASROC
一番最初に造られた初期のアスロック。「アスロックランチャー」と呼ばれる8連装発射機から発射する。弾頭には米国製「Mk44魚雷」「Mk46魚雷」の他、日本では国産の「73式魚雷」を使用。また、米海軍では1キロトン級の核爆雷も用意していた。
対潜ミサイルという位置付けだが、飛翔中は無誘導で文字通り「対潜ロケット」である。但し積んでいる短魚雷は誘導式なのでトータルで見たなら誘導兵器、「ミサイル」と見なせる。
全長は約5.2m、重量は約0.5トン。有効射程は9kmほど。
RUM-139 VL-ASROC
イージス艦などの新型艦が使用する「Mk41 垂直発射システム」(Mk41 VLS)に対応したアスロック。垂直発射式なのでランチャーを目標へ向けることが構造上不可能なため、本体に誘導装置が取り付けられ、発射された後は目標海域に向かって自分で進路を変えて飛翔するようになったので、ようやく「対潜ロケット」から「対潜ミサイル」へとジョブチェンジを果たした。全長は約5.1m、重量は約0.8トン。射程は約17kmに及ぶ。
漫画「ジパング」でアスロック米倉が発射したのはコイツ。
07式垂直発射魚雷投射ロケット(07VLA)
太平洋戦争でのトラウマのためか、潜水艦狩りに狂気に近い執念を燃やす海上自衛隊の願いを叶えるべく、防衛省技術研究本部が開発した国産の新型アスロック。「超音速アスロック」とも呼ばれていた。
従来使われていたアスロックより「より遠くへ」「より速く」「より強力な魚雷を」デリバリーするために開発され、射程は30km以上と倍近く延長、飛行速度は超音速(詳細な速度は不明)にまで向上している。飛行速度と射程の向上により、より遠くの潜水艦を見失う前に素早く攻撃することができるようになった。弾頭には国産の「97式魚雷」またはその改良型「12式魚雷」を搭載する。発射機はお馴染みMk41 VLS。国産の新型魚雷は従来より性能向上した分大型化しており、07VLAの開発理由の一つにもなった。
開発段階では超音速飛行からのパラシュートによる減速について問題が発生し、その解決に手間取ったので予定より完成が遅れたものの、あきづき型護衛艦の2番艦「てるづき」から搭載が開始されている。
全長約6.5m、重量約1.3トンと、なんとトマホーク巡航ミサイル(全長約6.3m、重量約1.5トン)並みに大型化している。ここまで来るとMk41 VLSの搭載限界に挑むレベルであり、海自の本気が伺いしれる。その性能への追求は「まるで海自の精神が形となったようだ!!」な仕様といえよう。
ちなみに海自的には「もっと射程が欲しかったな」という声もあるとかないとか。何処を目指すんだ海自。
K-ASROC(「赤鮫」日本語読みで「ホンサンオ」)
韓国の国防科学研究所が開発したアスロック。弾頭には韓国国産魚雷である「K745 LW」(青鮫)を使用する。発射機は新開発の韓国型VLSを使用し、Mk41 VLSでの発射はできない。
搭載魚雷は国産短魚雷K745青鮫で、この魚雷は韓国が輸入していたMk46を発展させる形で開発したため主要諸元も近い。ブースターは2段式。中間誘導は慣性誘導に加えGPSも併用、飛翔経路修正は水力偏向ノズルとサイドスラスター併用しているなど、日本のVLAに比べ独自性がより強い。有効射程は30kmと従来のVL-ASROCを凌駕し、日本の07VLAにも匹敵する立派な性能ではあるのだが、戦力化後に行われた試験発射で魚雷が着水後起動しないというトラブルが発生したため調査されたところ、開発中に十分な試験発射を行っていないことが発覚した。
なお、韓国では「世界で2番目に実用化された垂直発射アスロック」と開発元が発表したが、実際は日本の07VLAの制式化の方が2年ほど先である。07VLAの事を、米国VLAのただの日本ライセンス生産品制式名と勘違いしたか、故意に無視した喧伝かは不明。
他の同種の兵器(一部)
アスロックでは無いものの、同じような構造・目的を持った兵器が開発されている。
- SS-N-29(ロシア)
- ミラス(イタリア)
- マラフォン(フランス・退役済み)
- アイカラ(オーストラリア・退役済み)
- SUBLOC(サブロック)…潜水艦の魚雷発射管から発射する核爆雷。射程は約50km。目標の潜水艦の位置を探知すると、そのおおよその位置に向けて発射する。発射されたミサイルは海面に上昇しロケット・モーターに点火して飛翔、目標近くで核爆雷を切り離し、パラシュートで落下、核爆雷は設定深度で爆発する。1980年代末にMk48ADCAP魚雷(通常弾頭)に交代した。[2]
ちなみに現在、ヨーロッパでは対潜戦闘は艦載ヘリコプターを主とする考え方が主流である上、冷戦終結でソ連(ロシア)潜水艦の活動が低調になっていることもあり、アスロック及び同種の対潜兵器は装備されず対潜ヘリコプターなどの航空機に全部任せる傾向にある。
関連動画
関連項目
脚注
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